心躍るアンラッキー

「頼む、この喧嘩俺にまかしちゃくれねーか」

そういって秀吉が頭を下げたのが今日の昼の事。その後ゼットンも米もマサも早退した。一方軍司は、6時限の授業に出るために昼休みから屋上のソファで回復すべく昼寝をしていた。







錆びた屋上のドアの開く音がしてふと軍司の意識が覚醒した。しかし眠気には勝てない。まぁいいか、と声が掛かるまで寝ることにする。

暫くして小さく名前を呼ばれた。なんだ、秀吉か。帰ったんじゃなかったのか?思考はしたが、声にはならなかった。その数秒後、唇に乾いたやわらかいものが触れた。反射的に目を開けると、覆いかぶさる秀吉と目が合った。すると秀吉が瞬時に体を離した。気まずそうに顔を逸らす。今のはなんだ?

「秀吉?」

声を掛けたが、秀吉は顔を逸らしたままだ。

「この喧嘩絶対勝ってみせる。・・・したら、お前に云う」

顔をあげたかと思えばそんなことを言った。

「…いうって、何を」

すると秀吉が軍司を真っ直ぐ見た。
その顔は酷く戸惑っているように見える。

「いつから起きてた」

これは正直に言っていいのだろうか。
無言でいると秀吉が軍司の後頭部に手を回し
そして口付けた。

軍司が秀吉を離そうと押すも、怪我している腕では力負けしてしまう。

「何しやがる!ふざけんな!」

唇を袖口で擦りながら秀吉に抗議する。目が合ってハッとした。これはふざけている目なんかではない…。

「お前をやった奴は俺が殺してやる」
「…答えになってねぇ」

互いの喧嘩に干渉するような間柄ではなかったはずだ。マサとは違う。
答えない秀吉に軍司が痺れを切らし、殴ってやろうと拳を握ったその時だった。

「お前に惚れてる」

突然の言葉に拳を緩めて秀吉を見た。

「だから、お前をやった奴らが許せねぇ」

理解が追いつかない。
冗談を言った訳ではないことは分かる。男同士だぞ?と、考えたあとで、男として惚れてる、自分が本城さんに憧れているような感じか?と一筋の光を見つけた。いやいやいや、それがこのキスに繋がるのか?

固まったままの軍司に秀吉が続ける。

「この喧嘩終わったらお前にもう一回言う」


「逃げんなよ」

軍司から顔を背け、屋上を出て行った。

逃げるって、なんだよ。

身体に掛かっていた負荷はなくなったが、軍司はしばらくその状態のまま動かずに、先程の秀吉のことを考えていた。





キィィ、と再び誰かが屋上のドアを開ける音がした。今度は慌てて体を起こす。

「軍司さん、いらっしゃいますか」

信頼する後輩の声にほっとした。おう、と平静を装って返事をすると丁寧に挨拶をして十希夫が姿を現した。

「落とせない授業って言ってたんで気になって来ました」
「あぁ、悪いな」

立ち上がろうとすると、体がふらついた。








・・・・・・・・・・・








天狗の森の決戦のあと午前中の授業をすべて寝て過ごし、昼時間になって顔役5人が屋上に集まった。

「秀吉。大丈夫か?」

キングジョーとのタイマンは半端ではなかった。立っているのも辛いだろうと米崎が気遣いの言葉を掛けた。

「テメェ等よりはマシだ」

秀吉らしい返事に全員が安心する。

「鈴蘭の圧勝だな」

マサが嬉しそうに笑った。秀吉とジョーのタイマンを止めた後、結局総力戦のようになった。屋上に居るメンバーももちろん参加した。全員怪我を負っていたものの、暴れることが出来て最近の鬱憤が発散できたのだった。

「カレーでも食いに行こうぜ」

マサの提案にゼットンはラーメンがいいと反論し騒ぎ出す。どっちでもいーよと米崎と軍司は笑い、一方秀吉は呆れた様子でベンチに腰掛け、溜息を吐いた。

「…食欲より性欲満たしてーけどな、」

溜息と同時に漏れた呟き。

「分かるぜ!喧嘩した後ってやりたくなるよな!」

秀吉の呟きを敏感に拾い、ゼットンとマサが下ネタで騒ぎ出す。冷静なのはコメ。

「年上の彼女んとこいけばいーじゃねーか」
「とっくに別れた」
「マジで?!」
「なんだなんだ、秀吉君もこっち側かよ!」

嬉しそうなゼットン。

「一緒にすんな。惚れてる奴はいる」

その言葉に全員の視線が秀吉に集まる。

「は?!誰だよ!お前んなの今まで言ったこと無かったじゃねーか!」
「どんな子だ?!俺様が手伝ってやる!」

再び騒ぎ始めたマサとゼットンの相手をそこそこに、秀吉が軍司の前に立った。

「ついて来い」

小声で言うと秀吉が屋上を出て行く。カレーは!ラーメンは!と尋ねるマサ達に決まったらメールしろと告げて。軍司は小さく息を飲んだ。コメにメールを頼んで屋上を出る。扉を開けると秀吉が階段の下で待っていた。校舎の中に入ってきた軍司を確認すると無言のまま再び歩き出した。






















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