このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

あなたの隣にいたかっただけ

「おい、起きろ」
『……ん、寝る』
「寝るな」

強制的に布団を剥がされ、肌寒さに薄っすらと目を開ける。いつの間に窓を開けたのか、視界の端でカーテンがゆらゆらと揺れる。布団を剥がされた肌寒さを上書きする緩やかな風と、慣れた葉巻の匂い。

『……スモーカー、何時…?』
「6:30」

簡単な返答と共に、スモーカーは慣れた手つきで部屋にあるカップにコーヒーを注ぐ。欠伸を漏らしながら彼の様子を眺めていた。

「その様子じゃ、今日の予定なんざ頭に入ってねぇだろ」
『逆に入ってると思ってるなら医者に行きな』
「医者はてめぇだ」
『そうだね。ちなみにあんたが一昨日負った傷についてはあと2日安静レベルなんだけど』
「そうか」

絶対に聞いてないな。私はスモーカーから受け取ったコーヒーを冷ましながら、ぼんやりと今日の予定を思い出す。今日の予定は何があったか。

『……覚えてないわ、やっぱり』
「本が足りねぇって大騒ぎしたバカは誰だ」
『あぁ、なるほど。私だ』
「てめぇの答えが予想通りでそのバカの為にわざわざ休暇を取った俺も大概だと感じたよ」
『ははっ、そう怒るな。折角の休暇なら、本屋に時間かけてる場合じゃないね』

そう言いながら腕を伸ばせば、呆れたようなため息が聞こえた。かと思えば、引いたままの椅子に腰を下ろし、私に向けて一言二言告げる。

「さっさと支度しろ。てめぇに合わせてると疲れる」
『疲れるねぇ……そう言いながら3年近く"恋人"やってるんだけど?』
「なんでてめぇなんだとつくづく思うな」
『それが惚れた弱みさ。お互いの』

右半分の髪を掻き上げながらせせら笑う。軍医兼研究者の私は、2年前に実験による大事故で左半分の髪を失い、大火傷まで負った。左半分は毛根が死んだのか、1cmないくらいの短さで髪は伸びなくなった。まァ、幸いにも右は生きてる。それなりに自分に似合う髪型を模索し、今の形に落ち着いた。そこまでやらかし、女らしさを捨てて尚、スモーカーの位置は私の恋人から外れない。

『私が海賊にでもならない限り、嫌いになれなくなってるんでしょ?』
「減らず口を叩いてる暇があんならさっさと着替えろ。てめぇが行きたがってた島は結構距離あんだぞ」
『行先が私の行きたかった場所って時点で惚れるわ、うん』
「アホ。とっくに惚れてんだろ」
『ふはっ、正解なのが腹立つ』

その辺のハンガーにかけてあった服を手に取り、前開きタイプのパーカーのジッパーを下げる。さて、島で何をしようか
1/2ページ
スキ