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始まりは最悪のものでした。

『初めまして、ルイーザ・エラミーノと申します。以後、お見知り置きを。エドガー・ワルデン』

彼女の最初の印象は、あまりにも普通過ぎる人だということ。それだけだった。差し出された手を、僕はただ見つめている。

『あら、握手はお嫌い?それは失礼』
「……いや、少し驚いただけだ。僕の方こそ、失礼」
『構わないわ。同じサバイバーとして、仲良くしましょうね』

柔らかな笑顔と、美しいブロンドヘアー。そして、珍しい緑色の瞳。見た目の印象も悪くない。距離感の詰め方が悪いわけでもない。寧ろ好感を持てる。持てるはずだ。なのに、何故だろうか。彼女を好きにはなれない。僕の直感がそう告げている。

『私もここではまだ新人のようなものなの。後輩ができたようで嬉しいわ。そういえば、あなたは画家だと聞いたのだけど…合ってるかしら?』
「確かに、僕は画家だ。それが何か?」
『いいえ。私の家族にも絵を嗜んでいた人がいてね』
「君の家族も画家だったのか?」
『嗜んでいただけよ。本職は違う。ただの趣味。私も、その人と一緒に絵を描いたりもしたわね』

荘園を案内されている間、僕と彼女はくだらない話を続けた。面白いほど彼女との会話は途切れない。それだけ彼女は様々な話題を持っているということ。

『それで、ここがあなたの部屋。きっと気に入ると思うわ』
「案内はありがとう。ところで、さっきから他のサバイバーを見ないんだけど?」
『大半はゲーム中ね。私はあなたの案内を頼まれていたから今日はゲームに参加しなかったの。残りは歓迎会の準備に追われてるわね』
「歓迎会?」
『えぇ。仲間が増えたらパーティーするでしょう?』

確かにそうかもしれない。だが、僕にそんなものは必要ない。そんな無駄な労力を使うなんて、とまで思えてくる。断ろうかと考えている間、ルイーザは僕の顔をじっと見つめてきた。

「……何か?」
『人間は無駄が好きなのよ。最初だけ参加して、早々に切り上げればいいわ』

僕の考えは、初対面の彼女に見透かされていた。ここで、何故僕は彼女を好きになれないのかが分かった。

「君の趣味は、人間観察か何かなのかい?」
『どうして?』
「僕が歓迎会を拒否しようとしたことに気づいただろう?」
『ふふ、乗り気じゃないなぁと思っただけ。それだけよ。それじゃぁ、準備が終わったら迎えに来るわ。少なくとも、繋がりは作っておいた方がいいわ。ゲームで役に立つから』

僕の返事を聞かず、ルイーザはどこかへ姿を消した。僕は案内された部屋の扉に寄りかかり、ため息を吐いた。

「……ルイーザ・エラミーノ」

僕は彼女を好きにはなれない。彼女の笑顔が、あまりにも作り物すぎて不気味だった。でもその不気味さが、僕のインスピレーションをわずかに刺激していた。
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