キラー
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『転属』
海軍に入ってすぐ出た辞令。配属された島はとってもとっても平和で…私はなんて運がいいんだろうと神様に感謝した。一緒に配属された隊長やその他の仲間達はとても不服そうだったけど。中には配属後程なくして、何人か辞める人もいた。そんな平和な島に、ある情報が本部から舞い降りた。『最近巷を騒がせているキッド海賊団が近くの海域を通った。周辺の島々は警戒を強めよ。』…と。
「はぁああああぁあ~…。会いたくないよぅ会いたくないよぅ。隊長ぉ私内勤にして下さい!」
「駄目だ。全員で街中を警備しろ。書類なんざ後回しだ!」
「見て下さいよこの手配書!!めっちゃ凶悪そうな顔してんじゃないですかぁ!!勝ち目ないです!!無理ですよ!!」
「捕まえたら一気に昇格間違いねぇ!!こんな島に追いやられて燻る日々はもう終いだ!やっと巡ってきた好機を逃すかよ!!四の五の言わずに見回ってこいや!!」
背中を思いっきり蹴飛ばされた!理不尽!横暴上司!こんな事なら私も転属希望出せば良かった。え?キッドを見つけたらすぐにでんでん虫で知らせろ?無理!知らせる前に殺されるよ!そんなの嫌だ!まだこちとら若いんだぞ!死にたくない!…という訳で。
「おじちゃあん!!Aセットランチ一つ~。」
「あいよ!」
ちょっとお昼に早いけどご飯にしよう。これは決してサボっている訳ではないのです。お腹が空いてしまっては全力で戦えないからです。そうなのです。
ご飯がくるまで暇だから手元の手配書を眺めてみるけれども…Oh…何度見ても怖そうな人だ。三日間位夢に出てきそう。ずっと追いかけられて、最終的には惨殺されて目が覚める、そんな悪夢を見そう。海賊を名乗るだけある恐ろしい形相だ。もう一枚の人は…ひぇっこっちも怖い!武器怖い!何この首刈り取る為にありますよって武器は!!出会ってコンマ一秒足らずに即首飛ぶよ!
「お客様すいません!」
「ひゃい!!!?」
「店内混雑してきていますので、相席してもよろしいですか?」
「あ、あぁ~相席ですか。いいですよ!」
「ありがとうございます!お客様、此方の席へどうぞ!ご注文はお決まりですか?」
「あぁ…Bセットランチを頼む。」
かしこまりました~少々お待ち下さい!の台詞と共に目の前の席に人が座る。先程の注文時に発した声から相席相手が男性か。そう思って顔をあげてみればその男性と目があってしまった。あわ、ちょっと気まずい!向こうは向こうで少し驚いた雰囲気だし申し訳ない!
「ど、ども…。」
「…海兵?」
「ははははい!!いかにも私、下っぱ海兵であります!あ!コレは決してサボっている訳ではないのです!お昼休憩です!」
敬礼しながら思わず弁明してしまったが、向こうは咎める気は無かったらしい。笑いをめっちゃ堪えてるのか肩が震えてる…は、恥ずかしい!
「すまない…。」
「いえ!お気になさらず!!早とちりした私が悪いんです!オニーサン良く見たらカッコいいですね!見惚れちゃう。」
その花柄のシャツに細身の長い足。前髪が長くて顔は良く見えないけれど、向日葵みたいな綺麗な金髪が風に靡いてて素敵です!…あれ、男の人に向日葵みたいは失礼かな?でも暖かい雰囲気とか、太陽にキラキラと輝いているところとか。凄くそっくりだしなぁ…。
「…そんなに似ているか?」
「はい!外ハネしてる髪の毛の具合とかがさっき見かけた向日葵にそりゃあ似ていまし…ってすいませんっ!全部声に出してました!? 」
「…ッフ…!!!ッッッ………、謝らなくて大丈夫だ。素直な感想ありがとう。」
結構失礼な事をしてしまったと慌てたが本人は気にしていないらしい。再び笑いをこらえながら暖かい言葉が返ってきた。
そこから他愛の無い世間話で場を盛り上げる(先程の醜態をなかった事にする為に、そりゃあもう全力で!)その途中、ナナシが頼んだAセットランチが来てしまったので会話が途切れてしまった。…先に食べる訳にはいかない、よね?いやぁでも良い匂い…揚げたてのエビフライが輝いて見え…って駄目だぞナナシ!
鳴りそうになるお腹をぐっとおさえながらナナシが迷っていると、また笑いを堪えたのかくぐもった声色で先に食べてくれ、とのお優しい御言葉を頂いた。わぁいやった!お言葉に甘えて先にいただきます!うん!美味い!サクサクのエビフライに甘辛なタルタルソースが絶妙~!
暫くすると相手方の料理が運ばれ、お互いに食べながらまた雑談の開始。どこから来た、最近の海峡の状況、近所の事件、最近あった嬉しい事や悪い事…。
「特に上司が酷いんです!!私を犠牲にしてのしあがる気なんですから!!私がキッドに殺されてる隙に捕まえようだなんてさいってーです…!」
「…キッドってあのキッド海賊団の?」
「そうなんです!何でも最近目撃情報が上がってまして。オニーサンも気をつけて下さいね。あの顔で睨まれたらおしまいですよ!」
「ン…ッッッ!!!!睨まれるだけで死ぬのか…!?」
「そーです!それだけ凶悪面の最恐海賊船長なんです!!」
オニーサン再び笑いを堪えてますけど私、そんなに変な事言いました?
「あ!もうこんな時間!?そろそろ任務を再開せねば流石にまずい!それではオニーサン、良き旅を!先程話した美味しい洋食屋さんは二ブロック先の花屋のお隣ですから!!」
手を振り駆け出し、少し振り返れば同じように手を振って答えてくれた。優しい良いオニーサンでした。あんな方が私の上司だったら良かったのに。本当。あの屑上司。キッドに殺されればいいのに。え、可哀想?私を犠牲にしようと考える人には慈悲なんてないのですよー!!
見回りを終えて早数時間。同僚は武器を片手に臨戦態勢。理由はこの路地付近でキッドを目撃したと民間人から情報が入ったからだ。皆手柄は我に!といった感じで雰囲気がギラギラしている。私はさくっとサボって先程ワゴン販売にて購入したココアを飲んでいる。うん、甘味最高。
勿論見付かると煩いから、路地からちょっと入った先の物陰の、更に木箱の影に隠れて飲んでいる。うん。甘い。ココア最高。
皆もなんでそう好戦的なんでしょーね。悪い奴は確かに滅べばいいと思うけどね。わざわざ火種を作る事もあるまいて。平和にいこうよ全くもってココア美味~。うん。いやぁちょうど良い甘さ。ココアこそ至高の飲み物。
ココアを一口飲む度に褒め称える。ニコニコしながら幸せを噛みしめていたら急に日が陰った。
「よォ。阿保毛の女海兵。」
呼ばれて見上げたまま固まる。地獄の業火を思わせる、赤く逆立つ髪。つり上がった目は眼光鋭くナナシを睨み付け、赤黒い大きめのコートが鍛え上げられた体躯を更に大きく見せている。おや?おかしいな。何処かでみた事あるぞ?……………嘘でしょまさかなんでこんな所にココア持つ手が震えて溢しそういやいやそんな事より目の前の人はあの手配書の海賊の!!!!!!!?
「いたぞぉ!!キッドだ!撃てえ!!!!!!!!」
ナナシの思考が纏まるよりも早く鳴り響く銃声。突如目の前に現れた鉄の看板が銃撃を守ってくれ、ほっと息を吐こうとすれば地面から身体が離れた。ガチャガチャと金属が擦れ合う音を足元で響かせながら、ナナシがキッドに襟を掴まれ宙ずりになる。抵抗しようと手を動かせば持っていたココアを奪われた。あー!?わ、私のココア!!!!
「…っ!これ、美味いな!」
「でしょ!今日初めて買ったんですけどココア粉と牛乳の配合が抜群で聞けば牛乳がここらのではなくてわざわざ隣の隣の島からわざわざ仕入れてるそうでっ…じゃなくて!離して下さいっ…!」
「今離せば痛ェぞ?」
そう言われて周りを見てみれば視線が屋根より高い。キッドの足元に足場を作るように金属が次々と集まり、まるで生き物のように進んでいたからだ。
「ナナシー!」
「あ!隊長ぉ!!助けて下さい~!」
その足場の根元に集まる仲間や隊長。ナナシの叫びを聞くやいなや銃を構えて発砲の指示をした。嘘でしょ!?
「ははっ!アイツらお前もろとも撃ってくんのな。こりゃあ見捨てられたなァ!」
この状況に愉快そうに笑うキッド。一方ナナシは怒りのあまり聞こえていなかった。
…出世出世ばっかの葛上司だと思ってたけど、まさかここまでとは…!
「ふっっざけんなぁ!!出世の為なら他人の命も踏み台にするならその逆になる覚悟は出来てるんですかぁ!!あぁ!?」
懐に携帯していた銃を抜き発砲する。まずは武器を持つ手。その次は足。この状況で的確に狙うナナシを見てキッドはやるじゃねェか。と感心した。
「うぎぃあ……!ナナシ…!裏切るきか!?」
「先に見限ったのはアンタでしょーが!!被害者ぶるんじゃねー!!」
「キッド!!お前、派手にヤりすぎだ馬鹿野郎!!」
隊長の肩口に一発撃ったタイミングで何処からか、怒号が飛ぶ。視線を送ればそこには、全身に返り血を浴びて屋根の上に立つ男が一人。…あの仮面にドット柄のシャツ。"殺戮武人"!?ひぃ!!良く見たらその他仲間も下で交戦中!?
「ちょうどいい所に来たなァキラー!!」
「へ!?ちょ、うわぁああああああああ!!!?」
空中へとぶん投げられた。突然過ぎて受け身が取れない。てかとれてもこの高さはアウトでしょーが!!
「あの阿保…!」
キラーが軽く舌打ちをしてからナナシ目掛けて屋根を伝い、引っ張り掴んで身体をキャッチする。その際バキバキと屋根の瓦が何枚か砕けた。助かった…!ありがとうわぁああ血だらけじゃんやっぱり助かってないや怖いよおおおおおおおおお!何とか逃げなきゃ…あ!拳銃さっきので落とした!?こ、腰も抜けて力が…!!
「そろそろ出航するから静かにしろって言ったはずだぞ!?」
「別に良いだろ!?お陰でお宝も見つけたんだからよォ!」
そう言って掲げるのは先程飲んだ、ココアを売っていたワゴン車。ワゴン車の主人はどうにか逃げ出せたらしい。無人のワゴン車が天高く金属の塊に掲げられていた。…おっちゃんゴメン!!私がこの海賊にココアを奪われ飲ませてしまったばかりに…!
そこから先はもう阿鼻叫喚だった。金属に呑み込まれる街。私に構わず剣を振るったり発砲をする同僚達。それを斬り捨てる殺戮武人。私を抱えながらも的確に倒すその強さたるや。…いやいやいやいや!感心してる場合じゃないよ!?拐われたんだよ!!ここで待ってろって物置みたいな部屋に入れられて、巷で話題だったミルクティーとドーナッツ手渡されて、ご丁寧に部屋の鍵をかけられて!…暇だしやる事も無いから食べたよ!すんごく美味しかった!チョコレート練り込まれた生地に合うほんのり甘いシュガーパウダーが振り掛けられ、シンプルながらも絶品でしたよ!
「はっ!!もしやこれが最後の晩餐…!?」
「晩餐はテイクアウトしたロールキャベツにペペロンチーノ。パンにシーザーサラダとチキンだが。」
「わぁぁぁぁあぁぁあ出たぁ!!!!」
いつの間にか入ってきていたらしい。背後から突如声をかけられて飛び退いた。逆光で良く見えないが、あのシルエットは先程私を拐った"殺戮武人"のキラーだ。日の光に目が慣れればその見立てに間違いはなく、あの仮面は間違いなくその人だ。
「お前がオススメしていた洋食屋の人気料理だぞ。」
「オススメ!?一体なんの話だ!!」
「?あぁ…これだとわからないか。ほら、これに見覚え無いか?」
そう言って差し出されたのは一枚のシャツ。少し返り血を浴びて一部色が変わっていたが、どこかで見たことがある、花柄のオシャレなシャツ。
「貴方、まさか…!?」
驚愕に腕が震える。受け取ったシャツを地面に投げ捨てて、ナナシはキラーに飛び掛かった。
「オニーサンに一体何をした!?」
「ん!?いや、違っおれが…。」
「まさか殺したの!?最っっっ低!!この人でなし!!あんたなんか…!!あんたなんか大っっっ嫌いだ!!!!」
「な!!!!!?」
目に見えない、太い槍が心臓付近に刺さり固まるキラーと、そのキラーに涙目で馬乗りになり罵倒し続けるナナシの騒ぎを聞き付けて、船員達が何事かと集まってくるのはその三分後の事である。
「せっかく拐って来たのに何嫌われてんだキラー。」
「き、嫌われ…!いや、おれはまだ何もしてないぞキッド!」
「いやいや、あんな血にまみれたシャツだけ最初に見せりゃあそりゃ勘違いもされますってー。」
ドアの向こうではここから出せ!と叫ぶナナシの声と、壊さんばかりの勢いで叩きまくる音が響き渡る。ドアの前ではやや意気消沈気味のキラーと、その様子を見てニヤニヤ笑うキッド。呆れ顔のその他クルー達で溢れていた。
「てかお頭、宝ってあの女の事だったんスか?」
「そいつはキラーにとっての、な。面白そうだからついでに拐ってきた。」
「可哀想に。」
「不敏なねーちゃんだな。」
「キッド!そもそも放っておけと言っただろうが!」
「あァん?面白い女がいたって嬉しそーに相棒が話してんだぞ。じゃあ見てみたくなるだろ。」
「だからって誘拐する必用は無いだろうが!海兵だぞ!?」
「狙撃上手だったよなァ。」
「な、元上司に怨みを込めて的確に撃ってたよな。」
「確かに面白かったわ。」
「だろ?」
「だろ?じゃない!!どうするんだ拐って!」
「まずはカフェの続きでもすりゃーいだろ?『もっと話がしてみたかった』って言ってたし。」
「うわーお頭、相棒の久々の恋バナに茶々入れて楽しんでらー…。」
「完全に面白がってんなぁ。」
「でもキラーさん、あんなに楽しそーに話してるのはじめて見たッス。」
「だな。」
「お頭の悪口が飛び出た時はヒヤヒヤしたけどな…。」
「良くお店で暴れ出さなかったよな、偉いぞお頭。」
「うるせェ。」
「(ただねーちゃん拐った時ザツだったのはあの時の仕返し兼ねてるよな…。)」
「(だな…。)」
「そもそもだ…!見ただろさっきの!誤解を解くどころかナナシがオレだって気付いてねェのにどう話しろと…!?」
「あ。そんなら仮面取って本人だと言ってくればいいじゃね?」
「その手があったか!ナナシ!!とりあえず話を聞いてくれ!」
キラーは勢い良く仮面を取ると、ナナシ未だに叩かれ続けるドアを開けた。突然開かれたドアにナナシはその叩く勢いでキラーの胸へと飛び込む。飛び込まれた当のキラーはナナシを倒れる事無く受け止めると、どうにか誤解を解こうと口を開いた。刹那。
「ッ!!あぁあ!!オニーサン!生きてたんですね良かったあぁぁぁぁぁぁあ!」
「…!!」
瞳いっぱいに涙を浮かべながらそのまま抱き付かれてしまった為、キラーは再び固まる事となった。
((だ、抱き付かれた!?)いや、その!!まずは、離れて話を…!!)
(あの殺戮武人に殺されたかと…!よ、良かっ…!うぇ…!)
(ナナシ、ナナシ?な、泣かないでくれ…!!とりあえず落ち着いて…!)
(な、面白いだろ?)
(((うわぁあのキラーさんがたじたじだ…!こりゃ面白い…!)))
普段の姿からは想像できないキラーの一面を見て、満場一致でお頭に賛同したクルー達だった。
end
海軍に入ってすぐ出た辞令。配属された島はとってもとっても平和で…私はなんて運がいいんだろうと神様に感謝した。一緒に配属された隊長やその他の仲間達はとても不服そうだったけど。中には配属後程なくして、何人か辞める人もいた。そんな平和な島に、ある情報が本部から舞い降りた。『最近巷を騒がせているキッド海賊団が近くの海域を通った。周辺の島々は警戒を強めよ。』…と。
「はぁああああぁあ~…。会いたくないよぅ会いたくないよぅ。隊長ぉ私内勤にして下さい!」
「駄目だ。全員で街中を警備しろ。書類なんざ後回しだ!」
「見て下さいよこの手配書!!めっちゃ凶悪そうな顔してんじゃないですかぁ!!勝ち目ないです!!無理ですよ!!」
「捕まえたら一気に昇格間違いねぇ!!こんな島に追いやられて燻る日々はもう終いだ!やっと巡ってきた好機を逃すかよ!!四の五の言わずに見回ってこいや!!」
背中を思いっきり蹴飛ばされた!理不尽!横暴上司!こんな事なら私も転属希望出せば良かった。え?キッドを見つけたらすぐにでんでん虫で知らせろ?無理!知らせる前に殺されるよ!そんなの嫌だ!まだこちとら若いんだぞ!死にたくない!…という訳で。
「おじちゃあん!!Aセットランチ一つ~。」
「あいよ!」
ちょっとお昼に早いけどご飯にしよう。これは決してサボっている訳ではないのです。お腹が空いてしまっては全力で戦えないからです。そうなのです。
ご飯がくるまで暇だから手元の手配書を眺めてみるけれども…Oh…何度見ても怖そうな人だ。三日間位夢に出てきそう。ずっと追いかけられて、最終的には惨殺されて目が覚める、そんな悪夢を見そう。海賊を名乗るだけある恐ろしい形相だ。もう一枚の人は…ひぇっこっちも怖い!武器怖い!何この首刈り取る為にありますよって武器は!!出会ってコンマ一秒足らずに即首飛ぶよ!
「お客様すいません!」
「ひゃい!!!?」
「店内混雑してきていますので、相席してもよろしいですか?」
「あ、あぁ~相席ですか。いいですよ!」
「ありがとうございます!お客様、此方の席へどうぞ!ご注文はお決まりですか?」
「あぁ…Bセットランチを頼む。」
かしこまりました~少々お待ち下さい!の台詞と共に目の前の席に人が座る。先程の注文時に発した声から相席相手が男性か。そう思って顔をあげてみればその男性と目があってしまった。あわ、ちょっと気まずい!向こうは向こうで少し驚いた雰囲気だし申し訳ない!
「ど、ども…。」
「…海兵?」
「ははははい!!いかにも私、下っぱ海兵であります!あ!コレは決してサボっている訳ではないのです!お昼休憩です!」
敬礼しながら思わず弁明してしまったが、向こうは咎める気は無かったらしい。笑いをめっちゃ堪えてるのか肩が震えてる…は、恥ずかしい!
「すまない…。」
「いえ!お気になさらず!!早とちりした私が悪いんです!オニーサン良く見たらカッコいいですね!見惚れちゃう。」
その花柄のシャツに細身の長い足。前髪が長くて顔は良く見えないけれど、向日葵みたいな綺麗な金髪が風に靡いてて素敵です!…あれ、男の人に向日葵みたいは失礼かな?でも暖かい雰囲気とか、太陽にキラキラと輝いているところとか。凄くそっくりだしなぁ…。
「…そんなに似ているか?」
「はい!外ハネしてる髪の毛の具合とかがさっき見かけた向日葵にそりゃあ似ていまし…ってすいませんっ!全部声に出してました!? 」
「…ッフ…!!!ッッッ………、謝らなくて大丈夫だ。素直な感想ありがとう。」
結構失礼な事をしてしまったと慌てたが本人は気にしていないらしい。再び笑いをこらえながら暖かい言葉が返ってきた。
そこから他愛の無い世間話で場を盛り上げる(先程の醜態をなかった事にする為に、そりゃあもう全力で!)その途中、ナナシが頼んだAセットランチが来てしまったので会話が途切れてしまった。…先に食べる訳にはいかない、よね?いやぁでも良い匂い…揚げたてのエビフライが輝いて見え…って駄目だぞナナシ!
鳴りそうになるお腹をぐっとおさえながらナナシが迷っていると、また笑いを堪えたのかくぐもった声色で先に食べてくれ、とのお優しい御言葉を頂いた。わぁいやった!お言葉に甘えて先にいただきます!うん!美味い!サクサクのエビフライに甘辛なタルタルソースが絶妙~!
暫くすると相手方の料理が運ばれ、お互いに食べながらまた雑談の開始。どこから来た、最近の海峡の状況、近所の事件、最近あった嬉しい事や悪い事…。
「特に上司が酷いんです!!私を犠牲にしてのしあがる気なんですから!!私がキッドに殺されてる隙に捕まえようだなんてさいってーです…!」
「…キッドってあのキッド海賊団の?」
「そうなんです!何でも最近目撃情報が上がってまして。オニーサンも気をつけて下さいね。あの顔で睨まれたらおしまいですよ!」
「ン…ッッッ!!!!睨まれるだけで死ぬのか…!?」
「そーです!それだけ凶悪面の最恐海賊船長なんです!!」
オニーサン再び笑いを堪えてますけど私、そんなに変な事言いました?
「あ!もうこんな時間!?そろそろ任務を再開せねば流石にまずい!それではオニーサン、良き旅を!先程話した美味しい洋食屋さんは二ブロック先の花屋のお隣ですから!!」
手を振り駆け出し、少し振り返れば同じように手を振って答えてくれた。優しい良いオニーサンでした。あんな方が私の上司だったら良かったのに。本当。あの屑上司。キッドに殺されればいいのに。え、可哀想?私を犠牲にしようと考える人には慈悲なんてないのですよー!!
見回りを終えて早数時間。同僚は武器を片手に臨戦態勢。理由はこの路地付近でキッドを目撃したと民間人から情報が入ったからだ。皆手柄は我に!といった感じで雰囲気がギラギラしている。私はさくっとサボって先程ワゴン販売にて購入したココアを飲んでいる。うん、甘味最高。
勿論見付かると煩いから、路地からちょっと入った先の物陰の、更に木箱の影に隠れて飲んでいる。うん。甘い。ココア最高。
皆もなんでそう好戦的なんでしょーね。悪い奴は確かに滅べばいいと思うけどね。わざわざ火種を作る事もあるまいて。平和にいこうよ全くもってココア美味~。うん。いやぁちょうど良い甘さ。ココアこそ至高の飲み物。
ココアを一口飲む度に褒め称える。ニコニコしながら幸せを噛みしめていたら急に日が陰った。
「よォ。阿保毛の女海兵。」
呼ばれて見上げたまま固まる。地獄の業火を思わせる、赤く逆立つ髪。つり上がった目は眼光鋭くナナシを睨み付け、赤黒い大きめのコートが鍛え上げられた体躯を更に大きく見せている。おや?おかしいな。何処かでみた事あるぞ?……………嘘でしょまさかなんでこんな所にココア持つ手が震えて溢しそういやいやそんな事より目の前の人はあの手配書の海賊の!!!!!!!?
「いたぞぉ!!キッドだ!撃てえ!!!!!!!!」
ナナシの思考が纏まるよりも早く鳴り響く銃声。突如目の前に現れた鉄の看板が銃撃を守ってくれ、ほっと息を吐こうとすれば地面から身体が離れた。ガチャガチャと金属が擦れ合う音を足元で響かせながら、ナナシがキッドに襟を掴まれ宙ずりになる。抵抗しようと手を動かせば持っていたココアを奪われた。あー!?わ、私のココア!!!!
「…っ!これ、美味いな!」
「でしょ!今日初めて買ったんですけどココア粉と牛乳の配合が抜群で聞けば牛乳がここらのではなくてわざわざ隣の隣の島からわざわざ仕入れてるそうでっ…じゃなくて!離して下さいっ…!」
「今離せば痛ェぞ?」
そう言われて周りを見てみれば視線が屋根より高い。キッドの足元に足場を作るように金属が次々と集まり、まるで生き物のように進んでいたからだ。
「ナナシー!」
「あ!隊長ぉ!!助けて下さい~!」
その足場の根元に集まる仲間や隊長。ナナシの叫びを聞くやいなや銃を構えて発砲の指示をした。嘘でしょ!?
「ははっ!アイツらお前もろとも撃ってくんのな。こりゃあ見捨てられたなァ!」
この状況に愉快そうに笑うキッド。一方ナナシは怒りのあまり聞こえていなかった。
…出世出世ばっかの葛上司だと思ってたけど、まさかここまでとは…!
「ふっっざけんなぁ!!出世の為なら他人の命も踏み台にするならその逆になる覚悟は出来てるんですかぁ!!あぁ!?」
懐に携帯していた銃を抜き発砲する。まずは武器を持つ手。その次は足。この状況で的確に狙うナナシを見てキッドはやるじゃねェか。と感心した。
「うぎぃあ……!ナナシ…!裏切るきか!?」
「先に見限ったのはアンタでしょーが!!被害者ぶるんじゃねー!!」
「キッド!!お前、派手にヤりすぎだ馬鹿野郎!!」
隊長の肩口に一発撃ったタイミングで何処からか、怒号が飛ぶ。視線を送ればそこには、全身に返り血を浴びて屋根の上に立つ男が一人。…あの仮面にドット柄のシャツ。"殺戮武人"!?ひぃ!!良く見たらその他仲間も下で交戦中!?
「ちょうどいい所に来たなァキラー!!」
「へ!?ちょ、うわぁああああああああ!!!?」
空中へとぶん投げられた。突然過ぎて受け身が取れない。てかとれてもこの高さはアウトでしょーが!!
「あの阿保…!」
キラーが軽く舌打ちをしてからナナシ目掛けて屋根を伝い、引っ張り掴んで身体をキャッチする。その際バキバキと屋根の瓦が何枚か砕けた。助かった…!ありがとうわぁああ血だらけじゃんやっぱり助かってないや怖いよおおおおおおおおお!何とか逃げなきゃ…あ!拳銃さっきので落とした!?こ、腰も抜けて力が…!!
「そろそろ出航するから静かにしろって言ったはずだぞ!?」
「別に良いだろ!?お陰でお宝も見つけたんだからよォ!」
そう言って掲げるのは先程飲んだ、ココアを売っていたワゴン車。ワゴン車の主人はどうにか逃げ出せたらしい。無人のワゴン車が天高く金属の塊に掲げられていた。…おっちゃんゴメン!!私がこの海賊にココアを奪われ飲ませてしまったばかりに…!
そこから先はもう阿鼻叫喚だった。金属に呑み込まれる街。私に構わず剣を振るったり発砲をする同僚達。それを斬り捨てる殺戮武人。私を抱えながらも的確に倒すその強さたるや。…いやいやいやいや!感心してる場合じゃないよ!?拐われたんだよ!!ここで待ってろって物置みたいな部屋に入れられて、巷で話題だったミルクティーとドーナッツ手渡されて、ご丁寧に部屋の鍵をかけられて!…暇だしやる事も無いから食べたよ!すんごく美味しかった!チョコレート練り込まれた生地に合うほんのり甘いシュガーパウダーが振り掛けられ、シンプルながらも絶品でしたよ!
「はっ!!もしやこれが最後の晩餐…!?」
「晩餐はテイクアウトしたロールキャベツにペペロンチーノ。パンにシーザーサラダとチキンだが。」
「わぁぁぁぁあぁぁあ出たぁ!!!!」
いつの間にか入ってきていたらしい。背後から突如声をかけられて飛び退いた。逆光で良く見えないが、あのシルエットは先程私を拐った"殺戮武人"のキラーだ。日の光に目が慣れればその見立てに間違いはなく、あの仮面は間違いなくその人だ。
「お前がオススメしていた洋食屋の人気料理だぞ。」
「オススメ!?一体なんの話だ!!」
「?あぁ…これだとわからないか。ほら、これに見覚え無いか?」
そう言って差し出されたのは一枚のシャツ。少し返り血を浴びて一部色が変わっていたが、どこかで見たことがある、花柄のオシャレなシャツ。
「貴方、まさか…!?」
驚愕に腕が震える。受け取ったシャツを地面に投げ捨てて、ナナシはキラーに飛び掛かった。
「オニーサンに一体何をした!?」
「ん!?いや、違っおれが…。」
「まさか殺したの!?最っっっ低!!この人でなし!!あんたなんか…!!あんたなんか大っっっ嫌いだ!!!!」
「な!!!!!?」
目に見えない、太い槍が心臓付近に刺さり固まるキラーと、そのキラーに涙目で馬乗りになり罵倒し続けるナナシの騒ぎを聞き付けて、船員達が何事かと集まってくるのはその三分後の事である。
「せっかく拐って来たのに何嫌われてんだキラー。」
「き、嫌われ…!いや、おれはまだ何もしてないぞキッド!」
「いやいや、あんな血にまみれたシャツだけ最初に見せりゃあそりゃ勘違いもされますってー。」
ドアの向こうではここから出せ!と叫ぶナナシの声と、壊さんばかりの勢いで叩きまくる音が響き渡る。ドアの前ではやや意気消沈気味のキラーと、その様子を見てニヤニヤ笑うキッド。呆れ顔のその他クルー達で溢れていた。
「てかお頭、宝ってあの女の事だったんスか?」
「そいつはキラーにとっての、な。面白そうだからついでに拐ってきた。」
「可哀想に。」
「不敏なねーちゃんだな。」
「キッド!そもそも放っておけと言っただろうが!」
「あァん?面白い女がいたって嬉しそーに相棒が話してんだぞ。じゃあ見てみたくなるだろ。」
「だからって誘拐する必用は無いだろうが!海兵だぞ!?」
「狙撃上手だったよなァ。」
「な、元上司に怨みを込めて的確に撃ってたよな。」
「確かに面白かったわ。」
「だろ?」
「だろ?じゃない!!どうするんだ拐って!」
「まずはカフェの続きでもすりゃーいだろ?『もっと話がしてみたかった』って言ってたし。」
「うわーお頭、相棒の久々の恋バナに茶々入れて楽しんでらー…。」
「完全に面白がってんなぁ。」
「でもキラーさん、あんなに楽しそーに話してるのはじめて見たッス。」
「だな。」
「お頭の悪口が飛び出た時はヒヤヒヤしたけどな…。」
「良くお店で暴れ出さなかったよな、偉いぞお頭。」
「うるせェ。」
「(ただねーちゃん拐った時ザツだったのはあの時の仕返し兼ねてるよな…。)」
「(だな…。)」
「そもそもだ…!見ただろさっきの!誤解を解くどころかナナシがオレだって気付いてねェのにどう話しろと…!?」
「あ。そんなら仮面取って本人だと言ってくればいいじゃね?」
「その手があったか!ナナシ!!とりあえず話を聞いてくれ!」
キラーは勢い良く仮面を取ると、ナナシ未だに叩かれ続けるドアを開けた。突然開かれたドアにナナシはその叩く勢いでキラーの胸へと飛び込む。飛び込まれた当のキラーはナナシを倒れる事無く受け止めると、どうにか誤解を解こうと口を開いた。刹那。
「ッ!!あぁあ!!オニーサン!生きてたんですね良かったあぁぁぁぁぁぁあ!」
「…!!」
瞳いっぱいに涙を浮かべながらそのまま抱き付かれてしまった為、キラーは再び固まる事となった。
((だ、抱き付かれた!?)いや、その!!まずは、離れて話を…!!)
(あの殺戮武人に殺されたかと…!よ、良かっ…!うぇ…!)
(ナナシ、ナナシ?な、泣かないでくれ…!!とりあえず落ち着いて…!)
(な、面白いだろ?)
(((うわぁあのキラーさんがたじたじだ…!こりゃ面白い…!)))
普段の姿からは想像できないキラーの一面を見て、満場一致でお頭に賛同したクルー達だった。
end
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