#明け星学園活動日誌
12月24日、そして25日は、特定の誰かと過ごさないようにしている。俺の役目は、女の子たちを幸せにするために生きること。もし24日と25日にたった1人の子と過ごしてしまったら、それは贔屓になってしまう。それは他の子たちを悲しませることになってしまう。だから、俺は誰とも約束をしなかった。
……と言っても、家にいるわけにはいかない。どうして家にいるのだと母さんに怒られそうだし。だから俺はコートを着て短いマフラーを巻き、外に出ていた。それだけで冷たい風が顔を叩く。うう、寒いなぁ。
特に目的地などなかった。適当に歩いて、赤と緑がふんだんに散りばめられた街を眺める。でも、1人で見てもあんまり楽しくないな、というのが正直な感想だった。
だから見知った顔を見つけた時、俺はとても嬉しくなったのだ。
「糸凌、何してんの?」
「……閃? ……見りゃ分かるだろ。バイトだよ」
とあるコンビニの前、仏頂面のサンタが、ホールケーキを販売していた。
そしてそのサンタの正体は、俺の親友である墓前糸凌であり。いつもセーラー服でテンション高く振舞っているその面影は全くない。長い髪は後ろで無造作に縛り、赤い服を身に纏って、「クリスマスケーキ、あります!」という看板を死んだ顔で持っている。背後にある机の上に並べられた箱たちを見るに、売れていないわけではないみたいだけど。
「こんな日に?」
「……悪かったな。お前と違って俺は、一緒にクリスマスを過ごすような相手がいねぇんだわ」
「へぇ、俺と一緒だね!」
俺が笑うと、糸凌は訝し気な表情を浮かべる。そしてようやく俺が女の子を連れていないことに気づいたのか、なんで1人? と尋ねてきた。俺は、答えない。
「暇だし、俺も売るの手伝うよ~。2人の方が早く終わるっしょ!」
「え、いや、それは助かるけど……」
その後、糸凌の様子を見に来た店長さんに「バイト代いらないんで手伝ってもいいですか?」と聞くと、快く了承を貰えた。糸凌と同じサンタの服も貸してもらい、俺も糸凌の隣でケーキを売りさばいた。
ケーキは順調に売れ、あと30分で捌けられるかなぁ、と思っていると……そこに、見慣れたお客さんが来た。
「……何しているんですか、貴方たち……」
「あ、風紀委員長。……それに、聖先輩も!」
俺が声を掛けると、風紀委員長……瀬尾風澄先輩と、聖偲歌先輩がそこには立っていた。2人とも厚着で、手を繋いでいる。仲睦まじい様子だ。
「こいつがバイトで~、俺はその手伝いです!」
「そうなんですか……それは、お疲れ様です」
「先輩たちはデート?」
「……一緒にお出かけです。そんなことより、ケーキを1つ、もらえますか?」
聖先輩は勢い良く頷いているが、風紀委員長は俺の言葉をさらりと躱した。つれないな~、と思いつつ、1000円です~、と接客をした。糸凌が風紀委員長の手から1000円ちょうどを受け取り、ケーキと交換する。それを受け取った聖先輩はよほど嬉しかったのか、その場で小さくぴょんぴょんと飛んでいた。
「それでは、失礼します。風邪をひかないよう、気を付けて」
「……!」
風紀委員長がなんとも固い挨拶をし、聖先輩はこちらに向けて大きく手を振った。その拍子にケーキの箱が腕から落ちそうになり、風紀委員長が慌てたように支えていた。
その光景を見て、思わず俺たちは吹き出す。そして顔を見合わせ、笑い合った。
俺の予想通り、その後は30分もかからず全てのケーキが捌けた。まさかこんなに早く売れるとは、と店長さんは驚いており、こいつのお陰っすよ、と糸凌が俺を指差しながら言った。いやぁ、それほどでも。
お給料は払えないけど、これあげる、と、なんとホールケーキを貰ってしまった。さっき売っていたやつより、もう少し高いやつである。2人で食べな、と店長さんは気さくに笑った。
この後お前んち行って良い? 俺まだ帰れないからさ。と言うと、別にいいよ。と糸凌は頷いた。特に理由を聞いて来ないところが、優しいな~、なんて思う。……家のことは話していない。でもたぶん、なんとなく気づいていて、その上で何も聞いて来ないんじゃないかな、と予想している。……俺はいつもその厚意に甘えてばかりだ。
着替えも終え、さて帰るか、となったところで。
「……あれ、2人とも、まだいたんですか?」
糸凌がふと、誰かに声を掛ける。俺がその方向を見ると……そこにはなんと、風紀委員長と聖先輩の姿が。
コンビニの自販機の前でココア缶を飲んでいた。それで暖を取っていたらしい。
「……貴方たちを待っていたんです。偲歌が、どうしてもと言ったので」
風紀委員長が鼻の頭を赤くしながらそう言う。そして腕にぶら下げていたビニール袋を差し出して。
俺が受け取ると……その中には、湯気をあげる肉まんが2つ、入っていた。十中八九、ここのコンビニで買ったやつなのだろう。
顔を上げると、聖先輩がニコッと笑って。
「2人とも、バイト、おつかれさまっ!」
そう、労りの言葉を掛けてくれた。
俺たちは顔を見合わせ……思わず、笑みがこぼれた。肉まんも温かいけれど、その心づかいが一番……温かくて、嬉しい。
「……先輩たち、俺たち、これからクリパ……的なことするんですけど、先輩たちも来ません?」
そしてなんと、糸凌がどこか遠慮気味に2人を誘う。あのコミュ障な糸凌が!? 横で驚いていると、聖先輩が一気に瞳を輝かせた。それから糸凌にぐいっと顔を近づけ、ブンブンと何度も頷く。余程誘われたのが嬉しかったようだ。
「も、もう、偲歌……。……はあ、今日の夜は暇ですし……いいですよ。どこでやるんですか?」
「俺の家……は、駄目だな。学校でやりますか。たぶん同じこと考えている人、集まってるでしょ」
「使用許可も取らず、無断で!? そんな生徒たちがいるなんて、言語道断!! ……ですが、まあ、今日くらい……多少目をつぶってあげましょう」
相変わらずの風紀委員長ムーブに、思わず俺たちは笑ってしまう。何笑ってるの!! と怒られ、俺たちは顔を隠した。
それじゃあ、行こうよ! と言わんばかりに、聖先輩が風紀委員長の腕を引っ張っている。はいはい、と言い、2人は学校の方角へ歩き出した。俺と糸凌も、その後ろに続く。
「……ありがとう、糸凌」
「……え? なんだよ急に」
俺がふとお礼を言うと、糸凌が戸惑ったように聞き返してくる。俺はそちらを見て……にっ、と笑った。
「今年のクリスマスは、退屈しなそうだからさ!」
糸凌はそんな俺の顔を、じっと見つめていたが……ふ、と小さく吹き出す。そして視線を前に戻すと。
「……どうせ暇だろうし。来年も付き合ってやるよ」
そう、どこか気恥ずかしさのようなものを拭えていないような声色で、そう言ってくれた。
俺は思わず、にーっ、と笑って。
「……ありがとう糸凌!! やっぱお前は最高の親友だなっ!!!!」
「だっ!? ちょ、抱き着くな鬱陶しい!!!!!!!!!! 歩きづらい!!!!!!!!!!」
糸凌が大声で抗議しているが、俺は聞こえないフリをする。前を見ると、風紀委員長と聖先輩がこちらを見て……風紀委員長は呆れたように、聖先輩はニコニコと笑っていた。俺はそんな2人に、笑い返す。
俺たちの騒がしいクリスマスは、まだまだこれから……ってね!!
【終】
……と言っても、家にいるわけにはいかない。どうして家にいるのだと母さんに怒られそうだし。だから俺はコートを着て短いマフラーを巻き、外に出ていた。それだけで冷たい風が顔を叩く。うう、寒いなぁ。
特に目的地などなかった。適当に歩いて、赤と緑がふんだんに散りばめられた街を眺める。でも、1人で見てもあんまり楽しくないな、というのが正直な感想だった。
だから見知った顔を見つけた時、俺はとても嬉しくなったのだ。
「糸凌、何してんの?」
「……閃? ……見りゃ分かるだろ。バイトだよ」
とあるコンビニの前、仏頂面のサンタが、ホールケーキを販売していた。
そしてそのサンタの正体は、俺の親友である墓前糸凌であり。いつもセーラー服でテンション高く振舞っているその面影は全くない。長い髪は後ろで無造作に縛り、赤い服を身に纏って、「クリスマスケーキ、あります!」という看板を死んだ顔で持っている。背後にある机の上に並べられた箱たちを見るに、売れていないわけではないみたいだけど。
「こんな日に?」
「……悪かったな。お前と違って俺は、一緒にクリスマスを過ごすような相手がいねぇんだわ」
「へぇ、俺と一緒だね!」
俺が笑うと、糸凌は訝し気な表情を浮かべる。そしてようやく俺が女の子を連れていないことに気づいたのか、なんで1人? と尋ねてきた。俺は、答えない。
「暇だし、俺も売るの手伝うよ~。2人の方が早く終わるっしょ!」
「え、いや、それは助かるけど……」
その後、糸凌の様子を見に来た店長さんに「バイト代いらないんで手伝ってもいいですか?」と聞くと、快く了承を貰えた。糸凌と同じサンタの服も貸してもらい、俺も糸凌の隣でケーキを売りさばいた。
ケーキは順調に売れ、あと30分で捌けられるかなぁ、と思っていると……そこに、見慣れたお客さんが来た。
「……何しているんですか、貴方たち……」
「あ、風紀委員長。……それに、聖先輩も!」
俺が声を掛けると、風紀委員長……瀬尾風澄先輩と、聖偲歌先輩がそこには立っていた。2人とも厚着で、手を繋いでいる。仲睦まじい様子だ。
「こいつがバイトで~、俺はその手伝いです!」
「そうなんですか……それは、お疲れ様です」
「先輩たちはデート?」
「……一緒にお出かけです。そんなことより、ケーキを1つ、もらえますか?」
聖先輩は勢い良く頷いているが、風紀委員長は俺の言葉をさらりと躱した。つれないな~、と思いつつ、1000円です~、と接客をした。糸凌が風紀委員長の手から1000円ちょうどを受け取り、ケーキと交換する。それを受け取った聖先輩はよほど嬉しかったのか、その場で小さくぴょんぴょんと飛んでいた。
「それでは、失礼します。風邪をひかないよう、気を付けて」
「……!」
風紀委員長がなんとも固い挨拶をし、聖先輩はこちらに向けて大きく手を振った。その拍子にケーキの箱が腕から落ちそうになり、風紀委員長が慌てたように支えていた。
その光景を見て、思わず俺たちは吹き出す。そして顔を見合わせ、笑い合った。
俺の予想通り、その後は30分もかからず全てのケーキが捌けた。まさかこんなに早く売れるとは、と店長さんは驚いており、こいつのお陰っすよ、と糸凌が俺を指差しながら言った。いやぁ、それほどでも。
お給料は払えないけど、これあげる、と、なんとホールケーキを貰ってしまった。さっき売っていたやつより、もう少し高いやつである。2人で食べな、と店長さんは気さくに笑った。
この後お前んち行って良い? 俺まだ帰れないからさ。と言うと、別にいいよ。と糸凌は頷いた。特に理由を聞いて来ないところが、優しいな~、なんて思う。……家のことは話していない。でもたぶん、なんとなく気づいていて、その上で何も聞いて来ないんじゃないかな、と予想している。……俺はいつもその厚意に甘えてばかりだ。
着替えも終え、さて帰るか、となったところで。
「……あれ、2人とも、まだいたんですか?」
糸凌がふと、誰かに声を掛ける。俺がその方向を見ると……そこにはなんと、風紀委員長と聖先輩の姿が。
コンビニの自販機の前でココア缶を飲んでいた。それで暖を取っていたらしい。
「……貴方たちを待っていたんです。偲歌が、どうしてもと言ったので」
風紀委員長が鼻の頭を赤くしながらそう言う。そして腕にぶら下げていたビニール袋を差し出して。
俺が受け取ると……その中には、湯気をあげる肉まんが2つ、入っていた。十中八九、ここのコンビニで買ったやつなのだろう。
顔を上げると、聖先輩がニコッと笑って。
「2人とも、バイト、おつかれさまっ!」
そう、労りの言葉を掛けてくれた。
俺たちは顔を見合わせ……思わず、笑みがこぼれた。肉まんも温かいけれど、その心づかいが一番……温かくて、嬉しい。
「……先輩たち、俺たち、これからクリパ……的なことするんですけど、先輩たちも来ません?」
そしてなんと、糸凌がどこか遠慮気味に2人を誘う。あのコミュ障な糸凌が!? 横で驚いていると、聖先輩が一気に瞳を輝かせた。それから糸凌にぐいっと顔を近づけ、ブンブンと何度も頷く。余程誘われたのが嬉しかったようだ。
「も、もう、偲歌……。……はあ、今日の夜は暇ですし……いいですよ。どこでやるんですか?」
「俺の家……は、駄目だな。学校でやりますか。たぶん同じこと考えている人、集まってるでしょ」
「使用許可も取らず、無断で!? そんな生徒たちがいるなんて、言語道断!! ……ですが、まあ、今日くらい……多少目をつぶってあげましょう」
相変わらずの風紀委員長ムーブに、思わず俺たちは笑ってしまう。何笑ってるの!! と怒られ、俺たちは顔を隠した。
それじゃあ、行こうよ! と言わんばかりに、聖先輩が風紀委員長の腕を引っ張っている。はいはい、と言い、2人は学校の方角へ歩き出した。俺と糸凌も、その後ろに続く。
「……ありがとう、糸凌」
「……え? なんだよ急に」
俺がふとお礼を言うと、糸凌が戸惑ったように聞き返してくる。俺はそちらを見て……にっ、と笑った。
「今年のクリスマスは、退屈しなそうだからさ!」
糸凌はそんな俺の顔を、じっと見つめていたが……ふ、と小さく吹き出す。そして視線を前に戻すと。
「……どうせ暇だろうし。来年も付き合ってやるよ」
そう、どこか気恥ずかしさのようなものを拭えていないような声色で、そう言ってくれた。
俺は思わず、にーっ、と笑って。
「……ありがとう糸凌!! やっぱお前は最高の親友だなっ!!!!」
「だっ!? ちょ、抱き着くな鬱陶しい!!!!!!!!!! 歩きづらい!!!!!!!!!!」
糸凌が大声で抗議しているが、俺は聞こえないフリをする。前を見ると、風紀委員長と聖先輩がこちらを見て……風紀委員長は呆れたように、聖先輩はニコニコと笑っていた。俺はそんな2人に、笑い返す。
俺たちの騒がしいクリスマスは、まだまだこれから……ってね!!
【終】