#明け星学園活動日誌
──明け星学園。
この辺りで、その名前を知らない人はいない。それほど有名な、エリートの中のエリートの集まる高校。
そしてこの学園は、異能力者により建てられた、異能力者のために生まれた学園だ。
そんな学園に、私は明日、入学をすることになっていた。
入学というか、正確に言うと転入なのだが。
私は車に乗せられ、ぼんやりと外の景色を見ていた。初めての場所なので、当たり前だが、見慣れない。……これからはここら辺で過ごすことになるのだし、しばらくすれば、わざわざ意識して見ることもなくなる景色なのだろう。
「伊勢美 さん、ここが明け星学園です」
静かに停車し、運転手の人からそう告げられる。一度彼女の方に視線を向けてから、私は再び外を見た。
確かにそこには、立派な校舎が建てられている。綺麗な校舎だな、と感じた。……。
「……あの、今って、授業時間でしたよね……」
「ええ。そうですね」
「……生徒の姿が、多く見られるのですが……」
窓の外で繰り広げられている景色に、思わず疑問を零してしまう。
そこでは、生徒たちが駆けまわったり、木陰で話していたり、何か異能力を試しているような……そんな姿が見えたのだ。全員サボりなのだろうか。
「ああ、この学園は、大学に近いシステムですから」
「……」
「好きな時間に、好きな授業を受けることが出来るのですよ。自分でカリキュラムを組んで、その通りに行動します。……自由を重んじる学校ですから」
「……なるほど」
そういえば確か、そんな説明を受けた気がする。ここまでなんとなくというか、意識半ばのまま来て、最近ようやく気を取り直したところだったので、その前のことの記憶はあやふやだった。
……自由を重んじる学校、明け星学園……。
「一応誰でも入れるので、一度降りますか?」
「……いえ、いいです。どうせ明日にはまた来ますし」
「承知しました」
それより、新居の方が気になる。家具とかは全て手配してもらい、私の方でまとめた荷物も、そろそろ届いているはずだし。……少し前までは、私が一人暮らしをするなんて、思ってもみなかった。不安しかない。
運転手さんが、再び車を走らせる。横目で明け星学園を見て……思わず私は、目を見開いた。
見知った姿が、いたような気がしたから。
停めて、と言おうとして、すぐに飲み込んだ。それが別人だと分かったからだ。……分かってる。あの子が、ここにいるわけがない。
ダークブラウンの髪に、ピンク色のメッシュが踊っている。私が見間違えた誰かはその髪を揺らし、誰かと楽しそうに話していた。顔までは見えなかったけど。
視界から明け星学園が消えて、私は座席に深く体を沈めた。……今の一瞬で、疲れた。阿保らしい。馬鹿みたいだ。
ため息を吐いて、目を閉じる。眠るわけではない。ただ、現実と自分を少しだけ隔てるきっかけを作る。この心を落ち着かせるために。
明け星学園。
あそこは私の、目的を果たすための場となるのだろうか。
分からない。だが。
私は目を開き、自身の手に視線を落とした。そしてゆっくりと開き、閉じる。手が正常に動くか、確かめているようだった。
……大丈夫。今の私は、正常に動いているし、他の人の目にも、そう映っているはずだ。
不安しかない。でももう、やるしかないのだ。
私の物語はもう動き始めて、戻れないところまで、来てしまったのだから。
車は走り続ける。まだ物語の行く先の見えていない、不安定な私を乗せて。
……その次の日、私の行く先を決める少女と出会うということを、私はまだ知らない。
この辺りで、その名前を知らない人はいない。それほど有名な、エリートの中のエリートの集まる高校。
そしてこの学園は、異能力者により建てられた、異能力者のために生まれた学園だ。
そんな学園に、私は明日、入学をすることになっていた。
入学というか、正確に言うと転入なのだが。
私は車に乗せられ、ぼんやりと外の景色を見ていた。初めての場所なので、当たり前だが、見慣れない。……これからはここら辺で過ごすことになるのだし、しばらくすれば、わざわざ意識して見ることもなくなる景色なのだろう。
「
静かに停車し、運転手の人からそう告げられる。一度彼女の方に視線を向けてから、私は再び外を見た。
確かにそこには、立派な校舎が建てられている。綺麗な校舎だな、と感じた。……。
「……あの、今って、授業時間でしたよね……」
「ええ。そうですね」
「……生徒の姿が、多く見られるのですが……」
窓の外で繰り広げられている景色に、思わず疑問を零してしまう。
そこでは、生徒たちが駆けまわったり、木陰で話していたり、何か異能力を試しているような……そんな姿が見えたのだ。全員サボりなのだろうか。
「ああ、この学園は、大学に近いシステムですから」
「……」
「好きな時間に、好きな授業を受けることが出来るのですよ。自分でカリキュラムを組んで、その通りに行動します。……自由を重んじる学校ですから」
「……なるほど」
そういえば確か、そんな説明を受けた気がする。ここまでなんとなくというか、意識半ばのまま来て、最近ようやく気を取り直したところだったので、その前のことの記憶はあやふやだった。
……自由を重んじる学校、明け星学園……。
「一応誰でも入れるので、一度降りますか?」
「……いえ、いいです。どうせ明日にはまた来ますし」
「承知しました」
それより、新居の方が気になる。家具とかは全て手配してもらい、私の方でまとめた荷物も、そろそろ届いているはずだし。……少し前までは、私が一人暮らしをするなんて、思ってもみなかった。不安しかない。
運転手さんが、再び車を走らせる。横目で明け星学園を見て……思わず私は、目を見開いた。
見知った姿が、いたような気がしたから。
停めて、と言おうとして、すぐに飲み込んだ。それが別人だと分かったからだ。……分かってる。あの子が、ここにいるわけがない。
ダークブラウンの髪に、ピンク色のメッシュが踊っている。私が見間違えた誰かはその髪を揺らし、誰かと楽しそうに話していた。顔までは見えなかったけど。
視界から明け星学園が消えて、私は座席に深く体を沈めた。……今の一瞬で、疲れた。阿保らしい。馬鹿みたいだ。
ため息を吐いて、目を閉じる。眠るわけではない。ただ、現実と自分を少しだけ隔てるきっかけを作る。この心を落ち着かせるために。
明け星学園。
あそこは私の、目的を果たすための場となるのだろうか。
分からない。だが。
私は目を開き、自身の手に視線を落とした。そしてゆっくりと開き、閉じる。手が正常に動くか、確かめているようだった。
……大丈夫。今の私は、正常に動いているし、他の人の目にも、そう映っているはずだ。
不安しかない。でももう、やるしかないのだ。
私の物語はもう動き始めて、戻れないところまで、来てしまったのだから。
車は走り続ける。まだ物語の行く先の見えていない、不安定な私を乗せて。
……その次の日、私の行く先を決める少女と出会うということを、私はまだ知らない。