#ゆめみゆ異世界旅行記

「夢!!!! 助けて!!!!」
「おっと、雑な導入だな。どうした」
 自室で読書をしていたところ、突然部屋(※2階)の窓が開く。そして飛び込んできたのは幼馴染である小波実幸だった。
「バレンタインのチョコを作ろうと思ったんだけど、なんかどうやってもアップルパイしか出来上がらないの!!!! 助けて!!!!」
「流石虚空からアップルパイを出す特殊能力があるやつは言うことが違うな。なんでチョコ使っててアップルパイが出来上がるんだよ」
「分かんないけど、もったいないから食べていいよ……」
 そう言って口に詰め込まれるアップルパイ。チョコの味がする。チョココーティングされているということか? ちゃんとバレンタイン仕様なのかよ。
「別にこれでも良くないか? 一応申し訳なさ程度にチョコ要素あるし」
「それじゃ駄目でしょー!? だってせっかくのバレンタインなんだから、チョコメインのお菓子作りたいじゃん!!」
 実幸はそう言って首を横に振る。まあ、その気持ちは分かる。年に1回の貴重なイベントだもんな。
 渡す相手は分かっている。実幸が片思いをしている近所のお兄さんだ。まああの人なら何渡したって喜ぶだろうけど……。実幸がチョコを渡したいと思っているなら、俺は協力しないとな。
「分かった。手伝うよ」
「ほんと!? 夢、大好きっ」
「抱き着くな!!!! おまっ、エプロンにチョコこびりついてたのちゃんと見てたからな!?」

 というわけで俺もエプロンを持って、実幸の家まで。キッチンには作りかけのお菓子が沢山あって、なんか自力でちゃんと出来てるような気がするが。
「夢、これとか、あとオーブンで焼けば終わりなんだけど」
「おう」
 実幸は指を差したそれをオーブンに入れ、スイッチを押す。しばらく待って、蓋を開けると。
「なんっっっっでアップルパイになるんだよ!?!?!?!?!?」
「ずっとこうなのーーーーっ!!!! なんかアップルパイになっちゃうのーーーー!!!! だから助けて」
「切実なSOSで結構だが、俺にもどうすればいいか分からないぞこれ」
 ちなみにここまで読んでくださっているそこの貴方。理論とか考えないでください。そういうものだと思ってください。
「うーん、仕上げだけ俺がやるとか?」
「よしっ、任せた!!」
「おうよ」
 サムズアップを向けられ、同じようにサムズアップを作りその手に軽く当てる。
 というわけで同じくオーブンで焼いて終わりのそれを俺がオーブンを操作して焼いたわけだが。
「アップルパイじゃん!!!!!!!!!!」
「アップルパイじゃねぇか!!!!!!!!!!」
 なんでだよ!!!! という俺の悲鳴がキッチンを支配する。いやマジでなんでだよ。何がどうしたらチョコがアップルパイになるんだよ!!!! しかもちゃんと全部申し訳なさ程度のチョコ要素(※チョココーティング)があるんだよ!!!!
「うぅ、私はバレンタインをしちゃいけないの……!? どうして……私だって、好きな人にこの想いを届けたいだけなのに……!!!!」
「実幸……」
 実幸は床に手を付き、項垂れる。いつもポジティブ精神で溢れている実幸も、流石にこの状況に参っているらしい。きっと俺に助けを求める前も、何度も何度も何度もこの状況になったんだろうし。
 こんな素敵なイベントの日に、大切な人が落ち込んでいる。そんなの……俺は嫌だ。実幸は本当に、とても可愛い女の子だ。その明るい笑顔はたちまち周りも元気にしてしまう。その光に、俺は何度も救われてきたから。
 だから、俺が……!!
「実幸、アップルパイになっちゃうのは仕上げの段階なんだよな? 途中にはそういうことはないんだよな?」
「え? う、うん……」
「なら、これならどうだ? ──仕上げの間、絶対に目を離さないものを作る!!」
「つ、つまり……!?」
「例えばこれは、オーブンの蓋が閉まるせいで『中身がどうなっているか分からない』状態になっている。だから中でアップルパイに勝手に変化してしまう!!」
「おお!!」
 もう一度言うが、そこの理屈は深く考えないでくれ!!
「やるぞーーーー!!!!」
「おーーーーっ!!!!」

 というわけで2人で1からチョコを作り始める。ちなみに途中でレンジとか冷蔵庫とかを使う場面はあったが、「これ仕上げじゃないから」と心の中で唱えていたらちゃんと目標通りのものが返ってきた。いやなんだよ目を離すとアップルパイになるって。どういう状況だよ。……考えたら負けだ。
 出来上がったそれにチョコパウダーを振りかけ、チョコペンでデコレーションをして……チョコレートトリュフの完成だった。
「やったーーーー!!!! 出来たーーーーっ!!!!」
「良かったな、実幸」
「夢のお陰だよ!!!! 本当にありがとう……!!!!」
「俺は案を出しただけだよ。……ほら、どれを誰に渡すのか決めて、ラッピングしようぜ」
「うんっ!!」
 そう、バレンタインは作るのがゴールじゃない。渡して想いを伝えることが目的なのだから。
 包装紙とかもこだわって選び、包装するのを横で見守る。一生懸命な実幸の横顔を見ていると、本当に楽しそうで……俺は思わず微笑んでしまう。笑顔が戻って、良かった。
 そんなことを考えていると、ラッピングは全て終わったらしい。チョコたちを前に満足げに息を吐く実幸に、俺はお疲れと声を掛けようとして。
「はいっ!!」
「……?」
 振り返った実幸に、ラッピングしたもののうちの1つを差し出される。思わず首を傾げると、実幸は相変わらずの天真爛漫な笑みを浮かべて。
「いつもありがとう、大好き!!」
 真っ直ぐな愛の言葉。なんだかそう、改めて伝えられると……照れくさいものがある。思わず少しだけ視線を逸らし、しかしすぐに戻すと、俺はその手からチョコを受け取った。
「……ありがとう。これからもよろしくな」
「うんっ!!」
「……そういや俺味見とかしてないし、せっかくだから今食べちゃってもいいか?」
「もちろんいいよ!! 私と夢で作った、自信作なんだから!!」
 それを作った俺の前で言うか、と思いながら俺は包まれたばかりのそれを開く。中からは甘い香りが漂い、俺は手を伸ばして──。
「…………………………」
「…………………………」
 中にあったのはチョコトリュフ、ではなく──アップルパイ。
 思わず青ざめる。まさか、包装したことで目を離したから……。
「な……なんでこうなっちゃうのーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?!?」
 実幸の悲鳴がキッチンに大きく響く。本当に、心の底から、ご尤もだった。


 そんなバレンタインですが、結局実幸の魔法でどうにかなりました。

【終(終われ)】
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