#明け星学園活動日誌

design
「オカルト部!!!!」
「あんたマジでその入り方なんとかしてくれ……」
 いつも通りのことに、俺は頭を抱える。……俺が顔を上げて入り口の方に目をやると、そこには扉を開けたポーズのままこちらを睨みつけるように見つめる、会長の姿があった。
 俺は思わず深々とため息を吐く。面倒なことになる予感しかない……。
「……どうしたんだよ一体」
「ちょっとオカルト部に頼みたいことがあってね」
「嫌いな俺にわざわざ頼むんですか?」
「別に嫌いなわけじゃないよ。気に入らないだけ」
 そう言うと会長は後ろ手で扉を閉め、それから俺の正面に座る。
 俺はため息を吐き、飲み物を準備するのだった。


 というわけで一応話を聞いたところ……どうやら、体育倉庫に幽霊が出るという話があるらしい。
 なんでもその幽霊は、体育倉庫を訪れた人たちを脅かすのだとか。
「で、その幽霊っつーのが……自分と同じ顔をしていると?」
「そ。だから余計に怖がってる人が多いんだよねぇ」
「はぁ……」
 つまりドッペルゲンガーと……いや、いいんだけどさ。
「そんなん、自分の見た目を変えられる異能力者のせいじゃないすか? そんなドッペルゲンガーとか、存在しませんって」
「え」
「えってなんですか。いつも言ってるでしょう。俺はオカルトの存在を否定するためにこのオカルト部に所属してるって」
「あぁ……そ、そうだったね」
 俺の言うことに、会長は苦笑いを浮かべながらそう答える。まあそんな話はともかく。
「なんにせよ、証明は必要ですよね。じゃ、早速体育倉庫の方に向かいましょうか。善は急げと言いますし」
「うん、よろしく頼むよ」
 俺がそう促すと、会長はそう言って頭を下げる。俺は席から立ち上がると、会長が部室から出て行くのを見届けてから、続けて部室を出た。


「ここが体育倉庫だな」
「うん。鍵は開いてるから、中入って調べちゃってよ」
「……会長は入らないんですか?」
「そういうの、僕の仕事じゃないし」
「……あ、もしかして幽霊が怖いんですか?」
「そういうんじゃないし!!」
「え~、そんな大声で反論して、怪しいですよ? 本当は怖いんでしょう?」
「そんなくだらないこと言ってないで、早く調べろよ!!」
「あー、はいはい……」
 俺はそう言ってため息を吐いてから、足を前に踏み出そうとし……しないで、足をその場に戻した。

「で、お前は誰なんだ?」

 俺の言葉に、その場の空気が止まった。

 会長──否、会長に成りすましている誰かは、心底驚いたように目を見開く。しかしすぐに馬鹿にするように小さく笑った。
「……何? お前は誰だって……どういうこと?」
「そのままの意味だが? お前、会長の真似しようと思うならもうちょっと事前に調べてからやれよな」
 俺はにやりと笑ってから、そいつに指を突き付けて告げる。
「会長はな……俺と二人っきりの時は、俺のことを『りょうくん♡』って呼ぶんだよ!!!!」
「くそっ、お前らそういう関係かよ!!!!」
「いや、それは冗談だが」
「冗談かよ!!!!」
 人生で一回でいいから言ってみたかっただけだ。そんな怖すぎることあってたまるか。
 ともかく、俺の衝撃的な言葉に、そいつは思わずツッコミを入れてボロを出した。向こうもそれに気づいたのだろう。もはやその成りすましを保つことは無駄なこと。……彼女の姿は蜃気楼のように揺れると、1人の男子生徒の姿が現れた。
「じゃあ、どこで気づいたんだよ」
「どこっつーか、最初から」
「そんな早くかよ……」
「まず、会長の馬鹿力だったらオカルト部の扉を破壊する。なのにお前は丁寧に扉を開け閉めしていた。あと会長は俺のこと気に入らないとか言わないし、俺が『オカルトの存在を否定するためにオカルト部をやっている』と言ったことに疑問を示さなかった。更に、会長は絶対俺に背中を見せない。先に部室から出るなんて以ての外だな。極めつけは、俺が怖いんだろうと煽っても頑なに中に入ろうとしたことだな。あの人はなんか勝手に暴走して自分が怖がりじゃないと証明しようと躍起になるから」
 ……水晶髑髏クリスタル・スカルの時は、マジでそれで苦労したからな……。
 名前も知らない男子生徒は、悔しさからか歯軋りをしている。確かに見た目は完璧に模倣できようと、細かい動作が疎かだった。あまり会長に関わってないやつなら騙されていたかもしれないが、生憎俺は嫌と言うほど会長に関わっているからな。
 ……まあ、別にそんなに関わったことなくても分かったと思うけど。俺、守護霊見えるし。
 そう。こいつが部室に入って来た時から分かっていた。こいつには憑き物が憑いていない。姿を真似ているだけの別人だと。
「分かっていたなら、何で最初から言わないんだよ!!」
「そうやってすぐネタ晴らしして、部室で暴れられても困るからな。……それに、お前の目的がちゃんと分かってない以上、迂闊に動くのは危険だと思ったから」
「はっ、じゃあ俺が何をしたいのか分かるのか?」
「分からないが、会長の株を落としたいといったところじゃないか? 大方、会長の姿で俺のことを体育倉庫に閉じ込め、その後俺を救出。かつ俺に『会長に閉じ込められた』と証言させる。会長の不信感が煽れるだろうな。……ドッペルゲンガーについては、適当に生み出した話なんだろ。オカルト系統の話でもすれば俺がノコノコついてくるとでも思ってな」
「そこまで分かってるのか……まあいい、この先チャンスはいくらでもある。とりあえずは……口封じさせてもらうぞ!!」
 そう言うと男子生徒は、ポケットからナイフを取り出した。おお、異能力者学校で物を使うのか。いや、変身系の異能なら戦闘出来ないから当たり前か。俺も武器とか持っとくべきかなぁ……でも武器で戦うと処罰厳しくなるからなぁ……。この学校で推奨されているのはあくまで、『異能での戦闘』だから。
 迫りくるナイフを見ながら、俺がのんびり考えていると。

 突如上から降って来る影。誰かの足が、ナイフを踏み潰した。

「……避けるモーションくらいしろよ」
「会長のこと、信用してるんで」
「はぁ、よく言うよ」
 俺は笑う。目の前に降り立った影……本物の会長が、呆れたようにため息を吐いた。
 彼女の背後には、ハイテンションになっている腹黒守護神が。うん。間違いなく本物の腹黒会長だ。
「さて……君は浅代あさしろ兼新けんしんくんだね。僕の姿を騙って大事な後輩に手を出そうとしたこと……後悔してよね」
 拳を構える会長。青ざめる男子生徒。はい、あとはご想像通りの展開です。


 ばたんきゅー(柔らかい表現)となった男子生徒を見下し、ふん、と息を吐き出す会長。俺は彼女に駆け寄った。
「助かりました。すぐ来てくださってありがとうございます」
「どーってことないよ」
 会長はそう言って手をひらひらと振る。
 そう、俺は何もせずあの男子生徒と対峙したわけではない。……移動しながら、本物の会長に連絡を取っていたのだ。ピンチです、体育倉庫に来てください。としか送らなかったけど……ちゃんと来てもらえて良かった。
 でもこの人は、なんだかんだ言いながら俺のことを……この学園の生徒として大事に思ってくれているのは、知っているから。来てくれると信じていた。
 と思っていると、会長は踵を返してこの場を去ろうとする。残される俺と、倒れる男子生徒。
「えっ、ちょ、会長、こいつ連れて行かないのか!?」
「その役目は、僕じゃないから」
 じゃあね~、と言って、会長は左手を振って去って行ってしまう。守護霊の方にも視線を送ったが、彼女も小さく笑ってこちらを見つめるだけだった。
 なんなんだ? 俺がやれってことか? と戸惑っていると……。
「糸凌くんっ!!」
 背後から聞きなれた声が。俺は思わず固まり、恐る恐る振り返って……。
「ピンチって何!? 大丈夫!? ……これどういう状況!?」
 そこには右手にスマホを持ち、焦ったような表情で立つ会長が。その背後にはやはり腹黒守護神がいて。
 ……そういえばさっきの会長、異能使わないで、素手や足だけで対処してたし……会長は右利きのはずなのに、左手で手を振ってたな……。
 全てを悟った俺は、思わず額を抑えてから。
「……通りすがりの人が助けてくれたので、ピンチじゃなくなりました」
「は!? そんなのアリ!?」
「アリアリ。……あ、こいつ会長に成りすまして俺のこと体育倉庫に閉じ込めようとしたので、なんか、どうにか処罰してください」
「えぇ……いや、僕の仕事だし、いいんだけどさ……」
 なんか釈然としない、と言いながら会長は気絶する男子生徒を担ぎ上げる。
 俺は先程の会長が立ち去った方向をちらりと見てから……すぐに背を向ける。そして男子生徒を連行する会長の背中を追って、歩き出した。
18/19ページ
スキ