#明け星学園活動日誌

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「オカルト部!!!!」
「あんた毎回冒頭それで行くつもりなのか????」
 世界で唯一の異能力者のみが通える高校、明け星学園。その片隅にひっそりと存在する別館。そこにひっそりと存在するオカルト部部室……その扉を、我らが生徒会長──小鳥遊言葉が軽々と破壊してしまった。俺──墓前糸凌が涙目になるまでのこの流れ、何回やるんだ。
 だが俺のツッコミも虚しく、彼女はオカルト部の入り口で仁王立ちをし、こちらを睨みつけている。
「なんでもいいけどさぁ」
「いや、死活問題なんだよ。ちゃんと修繕費出してくれよ頼むから」
「それは置いておいて」
「そりゃあんたにとっちゃどうでもいいだろうけどさ!!」
「分かったから話進めさせろや!!!!」
 すっかり平行線になってしまった俺たちは、それぞれの言い分を叫んで肩で息をする。……とりあえず会長は俺に用事があることが窺えたので、中にどうぞ、と促した。


「お茶とかないわけ」
「来客がある方が珍しいんで、俺の好物しか置いてません」
 ちなみにコーラである。コーラ、美味しいよな。
 会長は渋い顔でコーラを飲み、コップを机の上に置いてから告げた。
「ツチノコが流行っててね」
「この時代に?」
「この時代に、です」
 何を言うのかと思えば、ツチノコと来た。そして恐らく会長直々に来たということは、この明け星学園の生徒が絡んでいて、それで学校全体として問題になっている……ということだろう。それでツチノコはUMA……未確認生物に分類される生物(?)。つまりオカルト。だから俺に声を掛けてきた。そういうことだろう。
「毎度思うが、異能力が蔓延ったこの世の中で、そういう非科学じみたものが存在すると思ってんのか? 皆は」
「毎度思うけど、それお前が言うことなん?」
「追うだけなら楽しいだろ」
 それに実際にいないわけじゃないし……とか言うと、この怖がりが騒ぐので、口を閉じるのを選ぶ。
 でも俺が見れるのは精々幽霊の類。UMAは専門外だ。……ツチノコなんて、生成系の異能力を持つやつがなんかそれっぽいの作ったら、「ツチノコだ~」になるだろ。
「で、何に困ってるんですか」
「懸賞金がねぇ、掛けられちゃったみたいで」
「どいつもこいつも暇なのか」
「さぁ? ……とにかく皆、ツチノコを捕まえて大金を稼ごう!! って躍起になっててさぁ」
 一番の問題は、と彼女はそこで声をひそめ。
「……目撃の証言が、この明け星学園なのよ……」
「マジで最悪だな」
「マジで最悪でしょ!? お陰で部外者もわんさか立ち入って……いや、立ち入ること自体は別に禁止してないからいいんだけど、量がエグくて!!!! 授業妨害レベルになってんの!!!!」
「は~~~~どいつもこいつも金に踊らされてるな~~~~」
「ほんとにさぁ……困っちゃうよね……」
 呆れ顔をする俺の目の前で、会長は項垂れている。生徒会長としての気苦労を思うと、本当に気の毒だ。そこにだけは同情する。
「つーわけでさ……まず、ツチノコって本当にいると思う?」
「ヘンペルのカラスやれってことですか?」
「だよねぇ。……だったら、噂の収束を手伝ってほしいんだ」
「……手伝うだけならいいですけど。その捜索がこっちにまで伸びてきたら俺の生活危ういし……。そう言うってことは、何か策はあるんでしょうね?」
「うん。噂を流したやつの特定、目的には見当がついたし。……問題はそれに踊らされた人をどう回収するかだったんだけど……まあどうにかなりそうだからさ。手伝ってよ」
「……そこまで出来てんなら、本当に俺いります?」
「なぁに言ってんだか。オカルト関連の事件なんだから、めいっぱい関われよ、オカルト部」


 まず最初に、噂を流した者の特定、その目的のことだが。
「捕まえたわ」
「うわ……流石、明け星学園最強の異能力者……」
 会長は男3人を異能力で縛り、引きずってこちらまで来た。来てほしくないので後ずさりする。
「うわってなんだよ」
「改めて敵に回したくないって思っただけです」
「よく分かってんじゃん。……で、こいつらはツチノコの混乱に乗じて高く飛ばせそうな異能力者を捕まえようって魂胆。実際、金を懸けた結果、授業が妨害されるほど人が来たからねー。……まあ僕がやんなくても、皆自力でどうにかしたとは思うけど」
 そりゃそうだ。だってここは異能力者しかいない高校かつ、この学校では戦闘が推奨されている。……つまりそういう身の危険的なトラブルに全員慣れっこなのだ。戦闘系の異能力者は前衛に回り、サポート系は後衛に回り、戦闘では役に立たない──俺みたいな──異能力者は勝手に隠れる。そういう連携がちゃんと取れる。……少なくとも、そんじょそこらの男3人には負けないだろう。つーかこの学校、定期的にそういうやつら来るからな。本当に物騒で退屈しない高校だ。
 にしても会長は、学校の顔となり学校全体を守るのがその役割。生徒たちの手を汚すことなく、1人でカタを付けた……ということだろう。
「ってわけでこっちは解決。後は他の人たちどうにかしようぜ」
「はいはい……で、どうすんだよ」
「かくかくしかじか」
「あー……はいはい、分かった」


 というわけで説明をされた俺は、茂みに隠れてその時を待った。……すると視界の片隅で動くものがあり……。
「……お前は……」


「ツチノコがいたぞーーーーっ!!」
 よく通る声が響く。あれは会長の声なのだが、意図的に結構低くしてるな……ギリギリ男性だと言っても通じるくらいだ。
 人間拡声器かいちょうのよく通る声に、誰もが振り返る。そして声の方に駆け出していった。
「3000万は俺のモンだ!!」
「いいや、私の!!」
「ツチノコで億万長者になるんだ!!」
「絶対に逃がさない!!」
 欲深い人間の方がよっぽどホラーだわ、と思いながら……俺は持っていたものを茂みからひょい、と投げる。人々はそれを見て飛び掛かった。
「ツチノコ確保ぉーーーー!!!! ……ぉお?」
「何……これ、おもちゃじゃない!!」
 1人がそれを手に取って、感触を確かめたりする。それはヘビを模したゴム製のおもちゃ。中に空洞があるので(付属の食べ物を丸のみさせよう! という魂胆のおもちゃなので。いやどんなおもちゃだよ)、空気をめいっぱい入れて腹の部分が膨らみ……その姿は、まるでツチノコだ。
 そしてそれは、そいつの手の中でぴょこんっ、と跳ねる。おもちゃは手の中から降りると、するするとどこかへ行ってしまった。
「動いたぞ!!」
「いやでも、確かにあれはおもちゃだった」
「どうして勝手に動いたんだ?」
 ざわめきが広がる中、俺はその集団にしれっと紛れ、声をあげてみる。
「そういやここ、明け星学園じゃん? ……異能力者が異能使って、あたかもツチノコがいるように見せかけただけじゃね?」
 俺のその声を皮切りに、ざわめきが広がっていく。
「そうか、異能力者の中には、そういうことが出来るやつもいるもんな」
「じゃあツチノコ見たってやつは勘違い……ってこと?」
「あー、白けた。帰ろうぜ」
 一気に場の熱が落ち、その場にいた誰もが回れ右をして帰っていく。あっという間にその場は、誰もいなくなってしまった。
「お疲れ様」
 俺は声の方を見上げる。そこには木があり、その枝の上に会長が座っていた。……手の中には、先程のヘビのおもちゃがある。
 あれの裏に会長が書いた文字を貼り付け、会長が異能で操作。おもちゃごと動くから、遠隔操作できたってわけだ。
 ……まあ、そんなことより。
「……あれで良かったのか? 異能力者の印象が悪くなるようなオチの付け方だったが」
「いーよ。あんな分かりやすく金に目がくらんだやつらに好かれてもねぇ」
「まあそれは分からなくもないですけど」
 そう簡単に切り捨ててしまってもいいものか、と俺は少しだけモヤモヤしてしまう。
 だけどそんな俺のことなど露知らず、会長は木からひらりと飛び降りた。
「僕、さっきの3人衆をタイトクに渡さないといけないから、もう行くね。お疲れさまー」
「……お疲れ様です」
 まだ会長の仕事は残っているらしい。本当に大変だな……と思いながら、俺は茂みの方に戻った。
「……終わったぞ」
 そうして小さく声を掛ける。そこで静かに隠れていた……ツチノコは、顔を上げた。どうやら俺の言葉を分かっているらしい。
「この学校は、まあ……元気なやつらが多いからさ。ここにいると、お前の身が危ないと思う。……だからここから立ち去った方がいい。さっきも見ただろ。お前のこと狙う奴が大勢いたの」
「……」
「だから、な。気づかれないうちに、ここから逃げとけ。誰にも言わないから」
 俺がそう言うと、ツチノコは迷っていたようだが……やがてその首を垂れると、その体を十分に駆使し、どこかに行ってしまった。
 ……いやー、ツチノコって本当にいたんだな。都市伝説の類かと思ってたけど。つーか誰かが適当に流したはずの噂が、まさか本当になっちまうとは……呼べば来るってものなのだろうか。
 まあ何にせよ……この事実は、俺だけが知っていればいい。事を荒立てることは、俺の望みではないのだから。
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