#明け星学園活動日誌

「とーこちゃんっ! はい、これ!」
 突然名前を呼ばれ、振り返ったと思ったら、これだ。私──伊勢美いせみ灯子とうこの手の中には、チョコレート。どう見ても市販ではないため、どうやら手作りであるようだ。……ご丁寧に、「とうこちゃんへ」と書かれたメッセージカードも入っている。
「……バレンタインですか」
「そ! いっぱい手作りした!」
 そう叫ぶ彼女──小鳥遊たかなし言葉ことはは、ニカッと笑う。その背には……大量のチョコレートが入っているのだろう……大きな白い袋があった。クリスマスは確か二ヵ月ほど前に終わったはずなのだが、これはいかに。
 そこで私は気づく。……袋を持つ言葉ちゃんの手。そこには、手袋が付けられているということに。
 ……ここ、学園の中だし……そこまで寒くないと思うのだが。というか、その短パンの方が見ていて寒いのだが。
「……言葉ちゃん、手でも怪我しましたか?」
「ぴゃっ!?」
 ……なんか、謎の悲鳴が聞こえた。
「なっ、ななななっ……何で」
「……? 言葉ちゃんが手袋してるとか珍しいですし……この手作りのチョコ、相当苦戦した痕跡がありますからね。てっきりそうかと……」
「あう……」
 言葉ちゃんは何故だか震えている。……一体どうしたというのか。まさか、料理が出来ないことがバレたのが恥ずかしいわけでもあるまいし。
「~~~~ッ!!」
 かと思えば、言葉ちゃんはポケットに手を突っ込む。首を傾げる私を他所に、言葉ちゃんは……。
「……口止め料っ!!」
 そう言って私に、棒付き飴を押し付けた。
「じゃ、じゃあ僕っ、他の人にも配らなきゃだからっ、ま、またねーーーーーっ!!!!」
 そしてあっという間に走り去り、姿を消す言葉ちゃん。……まさか本当に、バレたのが恥ずかしかったのか……?
 そう思いつつ、私はチョコの袋を開けた。甘い香りが漏れ出てくる。その中から一粒摘み、食べて。
「……甘」
 でも、少し苦い。焦がしてるな、これ。
 そんなことを思いながら私は、思わず小さく笑うのだった。

【終】
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