#明け星学園活動日誌

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「オカルト部!!」
「うわっ、びっくりした」
 突如蹴破られる扉。この前直したばかりなのにまた粉砕されてしまった……。この扉だってタダではないのに。
 オカルト部は俺しかいない部活だ。だからこそ回される部費は全然ない。まあお金を使うような活動はあまりしていないから、基本的には貯めるだけなんだけど……こう、何度も扉を壊されると、その金が一気に消えるんだよ!!
 打ちひしがれる俺の前の前で仁王立ちするのは、この明け星学園を牛耳る生徒会長・小鳥遊言葉。文句の1つでも言ってやろうと口を開いたが、その前に彼女が……何やら焦った様子で、こちらに1人の人間を差し出した。
「マジごめん、この子のことよろしく!!」
「は!? ……いや、ちょ、待てよ!! 説明をしろ!!!!」
 突然のことに戸惑い聞き返す俺に、彼女は耳を貸さない。何やら焦った様子で走り去ってしまった。
 なんなんだよ、と眉をひそめる。……彼女は何かと理不尽だが、一応こちらに対する敬意は感じる言動しかしない。でも今は、それをするほどの余裕もなかった……?
 ……まあ、今はいいか。俺は彼女に連れて来られた人物の方を見た。
「……えっと、お前は……」
「あっ、俺は、根津ねづ正太しょうたですっ!!」
「そうか……俺は、」
「知っています。墓前はかまえ糸凌しりょう先輩ですよね。お噂はかねがね聞いております……!!」
 そう言うと、俺をキラキラとした瞳で見上げる根津。俺のことを「先輩」と言ったということは、こいつは1年生なのだろう。……そうキラキラとした目で見られては、悪い気はしない。
 ふ……まあ当然だな、俺ほどの美人となれば……!!
「墓前先輩……お願いします!! 俺に、UFOの呼び方を教えてください!!!!」
「…………………………は?」


 よく話を聞くと、彼の言う「お噂」というのは、俺がオカルト部として活動している……と、そういう話のことらしい。なんだ、俺が美人って話じゃなかったのか……。
「……で? 一応話だけなら聞いてやるよ。どうした?」
「話って……」
「なんでUFOを呼びたいかって、その理由だ。……生半可な気持ちでオカルトに踏み入ると、痛い目を見るかもしれないからな」
 普通に特に何もなく終わる可能性もあるけど、と付け足して。だけど、君子危うきに近寄らず……という言葉もあるくらいだ。基本的には何もしなければ何も起こらないのだから、じゃあ初めから何もしない方がいいだろ、という結論になる。
 俺が黙っていると、根津は俯いて机を見つめている。……そんなに話しづらいことなのか。
「……地球外生命体に会って」
「……会って?」
「聞きたいことが、あるんです」
 そう言って根津は顔を上げる。その視線は……いやに真剣なもので。
 ああ、これは俺が頷かなきゃテコでも動きそうにないな。と俺は悟ってしまう。……面倒だが、仕方がない。
「……分かった。じゃあ、教えてやるよ。と言っても俺はそこら辺がメインジャンルじゃないから、かじった程度の知識しかないけど」
「……!! ありがとうございますっ!!」
 俺がそう言うと、根津は表情も輝かせる。嬉しくて仕方がない、という様子で……。
 まあこの場合、不必要に首を突っ込んでしまったのは俺なのかもしれない。そうは思ったが、一度頷いたからには最後までやり切ろう。俺はそう決めた。


「幽体離脱して宇宙人に直接会いに行くって方法があるな」
「ゆ、幽体離脱って、どうやってやるんですか……!?」
「あー、言っといてあれだが、やめとけ。運が良くないと自分の体に戻れないぞ。次次」

「UFOのエンジン音を口ずさむ」
「UFOにエンジン音とかあるんですか……?」
「さあ。でも、これで99%呼べるとか言い切った人がいるらしいな」
「えっ!? じゃあやってみましょうよ!!」
「そうだな。『ゆんゆん』と『きゅんきゅん』と『ふぁんふぁん』と『じゅんじゅん』、どれがいい?」
「なんか可愛いですね……」

「普通にUFOを呼ぶ呪文を唱える」
「最初からそれをやったら良かったのでは!?」
「いや、それ以外も一応興味あったから一応やってみようと思って」
「幽体離脱はやらせてくれなかったくせに……」
「あれは危険がデカいからな。……それより、『ベントラ、ベントラ、スペースピープル』……自分の所在地」
「明け星学園の屋上……って言えばいいんですかね。というか、なんで屋上なんですか?」
「屋上だったら着陸できるだろ」


 その他にも、派手な色の服を着るとか、なんか魔法陣みたいなものを描いてみて……と色々したが、UFOが来ることはなかった。
 どうせ来ないだろうと思っていると来るものも来ないと思っているので一応真面目にやったけれど、来なかったな。あまりにも来ないから次第にふざけてるみたいな内容になっていくわけだし、最後の方は「本当にこれで来るのか?」と疑っていたような気もするけれど……。
 でも印象的だったのは……根津がずっと、どんな方法だろうと、真剣にやってることだったかな。正直、途中からふざけるなと怒られる気がしていたので的外れっつーかなんというか。
 ……どんな方法だろうと、地球外生命体を呼べる確率が少しでもあるのなら。それに縋りたい。そういうことか。
「……根津。今日はこのくらいにしておこう」
「え……で、でも……」
「もう夜も遅い。親御さんも心配するぞ」
「……」
 俺がそう言うと、根津は表情を暗くして俯く。……その表情にツッコミを入れるより早く、彼は顔を上げた。
「そ、そうですよね。……今日はありがとうございました。また、来ます」
 そして根津は踵を返し、勢い良く屋上から飛び出していく。俺はその背を追うようなことはしなかった。
 さて、後片付けしなきゃな。と俺が息を吐くと同時……屋上に入って来る影が1つ。それは困ったように眉をひそめた会長だった。
「……説明してもらえます? お陰で半日潰れたんで」
「それは……申し訳ないと思ってる。ちゃんと説明するよ」
 俺はデッキブラシを彼女に向かって放り投げる。彼女はそれを片手で器用にキャッチすると、魔法陣を描いた床にそれを当て、ゴシゴシとそれを擦り始める。俺も雑巾を使って、同じく魔法陣を拭き取り始めた。
「……簡潔に言うと、根津くんのお父さんがちょっとね」
「お父さん?」
「そ。……根津くんのお父さん、異能力者が嫌~って感じの考えを持ってるのよ」
「……ああ……」
「それでさ、あるじゃん。『異能力は地球外生命体が人間に与えた産物だ』みたいな話」
「あー……あるな」
「で、根津くんのお父さんはそれを信じてる。異能力者は全員地球外生命体に脳みそを弄られていて、明け星学園はそれに協力しているキチガイ校だ~……って、そういう感じ」
「……あんた、その人の対応したのか?」
「……僕はしてない。理事長に任せた。僕がしたのは……根津くんを君のところに避難させたことだけ。名目上、別館は封鎖された場所、使われないところだから、根津くんのお父さんがもし校舎に侵入しても、見つからないと考えたの」
「……はー、めんどくさいことになったな……」
「ほんとだよぉ」
 デッキブラシの上に顎を乗せ、彼女は深々とため息を吐く。その顔には疲労が滲んでいた。恐らく、彼の父が明け星学園に害を及ばさないよう、ほぼ一日中気を張っていたのだろう。俺が根津に付き合っていたのと同じように。
 ……まあ、納得がいった。彼女のあの時の行動の理由も、根津があのように言ったことも……。
「……根津がさ、UFO呼びたいっつったんだよ」
「は?」
「で、俺はそれに付き合ってたわけだけど」
「うわ……」
「……宇宙人と話したいって言ってた。たぶん、宇宙人から『異能力は宇宙人のせいじゃない』っていう言質を取るのか、もしくは本当に宇宙人のせいなら、異能力を失くしてもらうよう頼みたいんだろうな」
「……なるほどね」
 それで父から見てもらえるのだと思っているのかもしれない。脳みそを弄られたのだなんて言っているのなら、どんな視線を向けられているかなんて想像に難くない。
 なんとなく2人で止まり、黙ってしまう。頭上では星が爛々と輝いていて、UFOは来そうになかった。


「転校することになったんです」
「……そうか」
 それから数日して、根津が俺のところにやって来た。悲しそうな表情で告げられたその言葉に、俺はそう返すしかない。
 会長から聞いた話だと、父親が明け星学園を嫌悪していたみたいだからな……そんな学校に、息子を置いておきたくないってところか。まあ、憶測だから分からないけど。
「寂しくなるな。せっかくオカルト部の後任が出来たと思ったのに」
「ご、ごめんなさい」
「いいんだよ。気にするな」
 別に俺、俺が卒業してからもオカルト部が続いてほしいな……とは思ってないし……。言い方があれだが、俺が今楽しむための部活なのだから。
「違う学校に行っても、元気でやれよ」
「はい。……墓前先輩から教えてもらったUFOの召喚、これからも続けます!!」
「……おう、頑張れ……」
 なんか、ずっとUFO呼ぼうとしてる変な奴だと思われて友達出来なそうだな……。けどまあ、友達がいるから絶対幸せってわけでもないし、こいつが決めることだから、俺が口出しをする必要は無いか。
 それより……こいつの父親が考えを改めるか、こいつが本当にUFOを呼ぶまで、根津にはこの状況がずっと続くのか。……それは、苦しそうだな。
 俺はそれに付いて行ってやれない。そんな無責任なことはできない。……俺に出来ることは。
「何かあったら、連絡しろよ。俺はお前の頼れる先輩だからな」
 俺はそう言って、笑う。その言葉に根津は、驚いたように顔を上げて……そして、微笑んだ。
「……はい、ありがとうございます」
 彼はそうお礼を言って頭を下げると、オカルト部の部室から出て行く。俺はやはりその背中を追うことはなく、小さくため息を吐くだけだった。
 異能力のルーツも俺たちは知らないし、UFOも地球外生命体も本当にいるのか、俺は知らない。だからそこら辺はロマンなのだと考えている。いるかいないのか分からない。だから見つかるまでの時間を楽しむことが出来る。……まあ、半分あんまり興味がない、ともいえる。別に分からないところで困らないし。
 でも、こうして迷惑を被ってるやつがいるのなら……早く真相が解明されるといいんだけど。俺は窓の外、太陽が地上を照らすのを見つめながら、そう思うのだった。
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