#明け星学園活動日誌

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「ね、ねぇ……本当に行くの~……? 帰ろうよ……」
「いや、だから……怖いなら帰ればいいじゃないですか。別に俺、来いなんて一言も言ってませんから」
「うっ、だ、だけど……僕は明け星学園の生徒会長として、生徒の安全を守る義務が……!!」
「それなら文句言わないでせかせか歩いてもらってもいいですか」
「んなっ、ちょ、ちょっと待ってよ~~~~っ!!!!」
 うるさい、と俺は眉をひそめる。どうして俺が、苦手な生徒会長と共にこうして……夜の明け星学園を見て回ることになったのか……それは約5時間前にさかのぼる。

 ──────────

「オカルト部!!!!」
「うっわびっくりした。なんですか」
 いつも通り俺──墓前はかまえ糸凌しりょうが別館でくつろいでいると、扉が蹴破られる。ああ、直すの大変なのに……と思うが、今はそれどころではない。
 我らが生徒会長、小鳥遊たかなし言葉ことはが仁王立ちでこちらを睨みつけていた。
「相変わらずカビ臭いとこ住んでんねぇ。居心地悪くないの?」
「俺には最高の場所です」
「うわー……引くわー……」
「……別に貴方にどう思われようとどうでもいいんですけど、何か用ですか?」
 生徒会長は、俺のことを苦手としている。それは……俺が憑き物とか、そういうものが見えるから(まあこの人は信じていないようだけれど、そういうオカルト系が怖いから俺のことも怖がっているらしい。ちなみにこの人は怖いのが苦手なことも認めていない)。そんな生徒会長がわざわざこんな所に足を運んだということは……何か用事があるのだろう。
 そうそう、と会長は何度も頷くと……スマホを操作し、何かを見せてくる。その画面を覗き込むと、そこに表示されているのは掲示板だった。
「……『恐怖!! 夜の廊下を彷徨い歩く水晶髑髏クリスタル・スカル』……?」
「そう。それが、明け星学園に出るみたいなんだよね」
 画面をスクロールすると、確かに「明け★学園に残って勉強してたら、廊下で飛んでるの見た。マジだよこれ」などという書き込みを見つけた。★はたぶん伏せ字なんだと思うけど、伏せ字として弱くないか? つーか彷徨い「歩く」のか「飛ぶ」のかはっきりしてくれ。……いや、今ツッコむところはそこじゃないか。
「ほら、明け星学園って夜も使ってる人多いじゃん。昼間は働いてるとか、学校で勉強したいとか……お前みたいに学校に泊まってる人とかもいるし」
「そうだな」
「だから、困るんだよね。こういう噂があると……明け星学園を使うのが不安、って思う人もいるだろうからさ」
「ああ……なるほど」
 この人はいつも、生徒のことを第一に考えている人だ。時には自分のことを犠牲にしてでも、誰かのために動く。
「つまり俺に、この噂の解明をお願いしたいと?」
「そういうこと」
「……それはいいんですけど……こういうこと言っちゃあれですけど、異能力が蔓延ったこの世の中で本気で浮かび上がる髑髏がいるとでも思ってるんですか?」
「本当に元も子もねぇな。ていうかオカルト部だと思えねぇ発言だな」
「俺はオカルト少女が好きなだけなんで……」
「マジで特殊性癖だな」
「いや、オカルト少女と付き合いたいとか思ってませんから。俺がなりたいだけだから」
「それが特殊性癖だっつってんだよ!!!!」
 うるさい、と眉をひそめる。というかこう、異常者みたいな扱いをされるのは胸糞悪い。
「つーかそういうオーパーツ系ってどちらかと言うと歴史分野に近い概念だと思ってるんで、あんま興味惹かれないんだよな……」
「……???? おーぱーつ?」
「聞いたことないですか? その時代の文明や技術では製作が不可能と考えられる古代の出土品や工芸品のことです。例えば、そうですね。江戸時代の物からスマホが発掘されたら不自然でしょう? そういうものです」
 そう言って彼女の持っているスマホを指先で叩くと、なるほど、と彼女は頷く。……やっぱり彼女は理解力が高いから、こういう時説明が簡単で助かる。
「そこに書いてある水晶髑髏クリスタル・スカルもその1つ。……けど、結局それはパチモンって言われてるんで、やっぱ怖がるほどの物じゃないですよ。歩くとか飛ぶとかもうワケ分かんないし」
「こ、怖がってないし!!!!」
 俺がそう言うと、何故か彼女が大声で言い返してくる。いや、別に俺、この人に言ったわけじゃないんだけど……。
「そこまで言うなら一緒に行ってやるよ!!!! その解明調査!!!!」
「……俺そこまで言ったっけな!?!?」

 ──────────

 ……というわけで現在に戻る。
 俺たちは生徒会室で落ち合うと、もう日が落ちた明け星学園の中を歩くことになった。明け星学園は消灯時間が21時と決まっていて、それを過ぎると学校中の電気が落ちてしまう。それ以降も学校に残っている生徒は、自前のライトを持ってきたり異能力で光を出したり……とするのだが。
 やはりその光だけでは心もとない。明るいのは自分の周りだけで、先は見通せない。……確かに幽霊でも出そうだ。俺は自前の懐中電灯で先を照らしながらそう思った。
 ……そして会長は、俺の背中に引っ付いて蝉みたいにうるさく喚いている。
「ね、ねぇっ、そこで物音しなかった?」
「他の生徒が残ってるんじゃないですか」
「な、なんか怪しい光が!!」
「他の人が電気とか使ってるんじゃないですか」
「対応冷たくない!?」
「いつもこんなもんだろ!! ていうか本当にうるさいんですけど!!」
 調査どころではない。やはり無理やりにでも置いてくるべきだったか……。
「……ね、ねぇ、糸凌くん……」
「なんですか」
「あ、あれ……」
「はー……怖いと思ってるからなんでも怖く見えるんだろ……」
 彼女は青ざめ、何かを指差す。俺は呆れながら、その指を差した方向を見て……。
 目を見開く。

 何故ならそこには、青白い髑髏が浮いていたから。

「……おー、確かに先の景色が見えるから、水晶髑髏クリスタル・スカルだな」
「なんでそんな冷静なわけ!?」
「なんでって、あれがオカルト系のものじゃないからですよ」
「へ?」
 一応、そっち系には片足を突っ込んでいる人間だ。この世の物か、そうじゃない物かくらい、見れば分かる。
 あれは、この世の物だ。
 念のため知り合いから退魔道具とか借りてきたけど、いらなかったな。と思いながら、俺はそれに近づく。えぇ!? やめようよ!! と叫ぶ会長のことは無視して。
 俺はそれに近寄ると、普通にそれを手に取る。するとずっしりとした重みがあり、俺の腕にその重さがのしかかってくる。軽く触った感じ、ガラス素材だから、やはりこの世の物だ。
 まあこんなことだろうと思った、とため息を吐くと同時──その髑髏の形が、突如変わった。頭部が鋭く尖り、その先が俺に向けられ……。
「ッ、『Stardust』!!」
 刺さる、と思うと同時、会長がそう叫ぶ。飛んできた何かがガラスに勢い良くぶつかり、大きな音を立てて割れた。
「あっ……!!」
 そしてどこかから、そんな声が聞こえる。俺が振り返ると、そこには1人の生徒が立っていた。


「ご、ごめんなさい!! まさか、そんなことになってただなんて……!!」
 彼は自分のことを硝子しょうしとおると名乗った。彼に事情を話すと、その一連のことは自分のせいだと思ったらしい。俺たちに向け、勢い良く頭を下げた。
「僕、異能力の使い方が下手で……夜、いつもここで異能力を使う練習をしていたんです」
 どうやら彼は、物体を変形させるという異能力を持っているらしい。中でもガラス素材の物が一番変形させやすいから、それで練習しているのだと。
「髑髏って、すごく……1つ1つのパーツが細かいじゃないですか。写真を見ながら頑張って変形させてて……」
「それで、水晶髑髏クリスタル・スカルが出来たってわけか……」
 くりすたる、すかる? と彼は首を傾げる。やはりこれは、偶然の産物のようだ。
「あー、なんだ、怖がって損した……いや!! 違う!! 別に怖がってなんてないからっ!!」
「いやそれはどうでもいいんで」
「どうでもいいってなんだよ!?」
「噂の真相はこうでした。どうするんです? 会長」
「あ、ああ、えっと……硝子くん。これからは……えっと、もっと明るいところで練習しよっか……」
「そう……ですね。こうなってしまった以上、他の人を怖がらせるのも不本意なので……そうします」
「……だから僕は別に怖がってないってば!!!!」
「えっ、え!?」
「あ、気にしないでください。この人が自意識過剰なだけなんで」
 恥ずかしそうに叫ぶ会長に戸惑う硝子。俺がそう言うと、はぁ、と彼は小さく頷いた。
「あー馬鹿らし。僕帰るね。ばいばーい」
「あ、ちょ……まあいいか」
 途端に興味をなくしたらしい。会長は踵を返し、夜の校舎を1人で歩いていく。先程まで過剰に怖がっていた人とは思えない。
 ……ここからが本番なのにな・・・・・・・・・・・
「……硝子。もしかしてだけど、その髑髏って盗まれることが多かったんじゃないか?」
「! そうです、どうして分かったんですか……?」
「……勘。強いて言うなら、お前が俺に攻撃しようとしたから、かな」
 俺が盗んだ人だと勘違いしたんじゃないか? と言うと、その通りです、と彼は反省したように頷く。
 俺は彼の頭上の方をさり気なく見つめる。まあ、守護霊から聞いたから分かったことだ。
「そうなんですよ。気づいたらなくなっていることが多くて……いつも朝になると何事も無かったように帰って来るんですけどね。原因は、分からなくて」
「そうか、災難だったな」
「はい。……でもこれからは家で練習することにします。だから、盗まれることもないと思います」
 話を聞いてくれてありがとうございました。と彼は頭を下げる。彼はそのまま荷物を片付けると、帰って行ってしまった。
 ふぅ、と俺はため息を吐くと……ポケットの中に手を入れる。
「やっぱこれの出番、あったな」
 そう呟くと、借りてきた退魔道具──お札を背後に投げる。するとそれは空中を漂い──否、普通の人には漂っているように見えるだけで、実際には幽霊に張り付いてるんだけど──停止した。
 それは醜い声をあげて呻いて、俺の耳にだけその声が響く。うるさいな、と思いながら、ため息交じりに呟いた。
「……頭部だけ手にしたところで、あんたは蘇ったりしねぇぞ」
 まあ、ここまで悪霊化したやつに言葉なんて通じないだろうけど。
 火気もないのにお札は端から燃え始め、幽霊と一緒に焼き尽くす。……最後には炭も残らなかった。最後まで見届けてから、俺は苦笑いを浮かべる。
「……これ、俺の本職じゃないんだけどなぁ……」
 だけどこれで、ミッションコンプリート、ってことで。俺は別館に向けて歩き出すのだった。

 ……あとはあの、硝子ってやつ。
 あの髑髏、たぶんあの守護霊のやつをモデルに作ってる……というか、再現しようとしてるんだろうけど。
 まあ、それは俺が突っ込まなくてもいいことか。守護霊の反応を見るに、別に嫌がって無さそうだし、実害が出ないのなら、それでいい。
 悪霊が生きている人間に害をなそうとする……と、実害が出るより、全然マシなのだから。
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