#明け星学園活動日誌
きよしこの夜の流れる街。きらびやかな街頭に僕は微笑みながら僕──小鳥遊 言葉 は一人、その間を縫うように歩いていた。
というのも、今日は聖なる夜、クリスマス! 街行く人、皆楽しそうで……家族連れやカップルが多い中、あいにく僕はボッチだけど、僕まで楽しくなってくる!
ほら、例えばあそこの男女二人! 何かの後を付けてるみたい……。
……いや違うよ、全然楽しそうじゃないよ。というか何だあのカップル……。そう思って僕が近づくと。
「……あれ、心音 ちゃんに、帆紫 くん!」
「えっ……」
「あっ、会長!?」
「ちょっ、帆紫っ! しーっ!」
「んぐぅっ」
その怪しいカップル、まさかの持木 兄妹だった。僕が声をかけると、二人とも驚いたように声を上げる。帆紫くんは、心音ちゃんに手で口を塞がれて、閉口した。まるで、静かにしていなきゃいけないみたい……。
「どうしたの? デート……って感じじゃ、ないよね?」
「デッ……そんなんじゃありませんっ!!」
「しっ、心音静かに! ……会長、あれを見てください」
僕の出した「デート」という単語に、過剰に反応する心音ちゃんを宥めてから、帆紫くんが何かを指差す。そこには……。
「……とーこちゃんだ」
「はい、伊勢美 です」
僕の言葉に、帆紫くんが頷いた。帆紫くんの指差す先、そこには、明け星学園の転校生……いや、もう転校生と言うには時間が経ちすぎてるか……とにかく、伊勢美 灯子 ちゃんがいた。とある雑貨屋の店頭にある商品を、やけに真面目な顔で見つめている。
……この状況から察するに……。
「……君たちはデートをしていたところ、とーこちゃんを発見。こんなイベントの日、確実に人混みだろうに、わざわざ外を出歩き、かつ誰かのプレゼントを選んでいるような、彼女の性格から考えて珍しい彼女の様子に興味を隠せず、思わず観察してたと……そういうことだね?」
「だからデートじゃありませんっ!!!!」
「心音っ。……流石の観察眼です、会長」
帆紫くんは否定してないんだから、もうデートでいいじゃん……と思いつつも、あってたなら良かったよ、と僕は笑う。心音ちゃんは、顔を真っ赤にして膨れていた。可愛いなぁ、なんて言うと、帆紫くんに怒られちゃうか。
というわけで僕も、「灯子ちゃんを観察し隊」に参加することにした。いいんですか、生徒会長がそんな。と言われたけど、面白そうだからヨシ!!
灯子ちゃんは、物を手に取っては眺め、戻し、別の物を手に取っては眺め、戻し……それを繰り返して、やがて次の店に行く。そんな行動を繰り返していた。よっぽど気に入るものがないのだろう。その額には機嫌の悪そうな八の字の眉が……って、あの表情はデフォルトか。
怒られそうなことを考えていると、彼女はお酒屋さんに入った。そして日本酒の瓶を取ると、マジマジとラベルを眺める。……灯子ちゃん、未成年はお酒買えないし、飲めないんだよ!
思わず心配になっていると、彼女はそれを置き、すぐに店を出て行った。良かった……。
次に訪れたのは、ジュエリーショップ……あの店、ゼロの数を数えるほど気が遠くなるんだけど……大丈夫なの?
案の定、灯子ちゃんはすぐに店から出てきた。心なしか、顔がいつもよりげっそりしていた。
その次はメンズの洋服店。その次はスイーツ店。ゲームセンター。百均。……とにかく片っ端から入ってる。そんな感想を抱いた。途中、何かを買ったりしているみたいで、初めより若干、荷物が増えていた。
……まあ何となく、誰に向けて何を買っているか。僕は察せたけど。
「あー、伊勢美、何してんだ? あいつは……」
まだ状況を察せていないみたいな帆紫くんと、その隣で同じく察せていないような心音ちゃん。僕は思わず小さく笑う。すると二人の視線がこちらを向いた。
「どうしたんですか? 会長」
「いや……ううん」
心音ちゃんに問われ、僕は首を横に振る。
いや、ほんとに何でもないんだ。ただ、仲良いなぁ、って思っただけ。
……僕はこの恐怖症がある限り、絶対にそんな風には、なれないから。
そんなことを考えつつ、僕は顔を上げ……あ、と、声を上げた。その声に二人は、僕の視線の先を追う。そこには。
「……皆さん、何してるんですか……こんなところで」
「とーこちゃんこそ」
僕たちが後を付けていたはずの、灯子ちゃんが立っていた。その腕には、紙袋だったりエコバッグだったりがあり、中には何かが入っているようである。どうやら彼女の買い物は終わったらしい。
「休みの日まで私のストーカーとは……生徒会長は暇なんですか?」
「いや、これは本当にたまたま。たまたま君を見かけただけ!」
「付けるなら一緒ですよ……」
はあ、と灯子ちゃんはため息を吐く。どうやら、主犯は僕、持木兄妹はそれに付き合わされただけだと思ってるらしい。まあいいんだけどね。そう思われても仕方ないこと、普段からしてるし。
……やめるつもりはないけどねっ!
「それでこの二人が、君がどんな買い物してるか〜っていうの気になってたからさ! 教えてあげなよ!」
「えっ、別に面白い買い物じゃないですけど……」
「大丈夫だよ、君がクリスマスに出歩いてるだけで十分面白かった」
何ですかそれ……と、訝しげな表情を浮かべる灯子ちゃんは、一度ため息を吐いた後、その袋の中身を見せてくれた。僕、帆紫くん、心音ちゃんの三人で、その中を注視し……。
「……靴下に……」
「これは……ブランケット?」
中に入っていたのは、お洒落な防寒グッズだった。見ているだけで暖かくなってくる。……二人が尚の事首を傾げていると、灯子ちゃんが小さく呟いた。
「……クリスマスプレゼントです。両親への」
その言葉に、二人が弾かれたように顔を上げる。灯子ちゃんは無表情のまま、続けた。
「……しばらく会っていませんし、いつも迷惑ばかり掛けているので……日頃のお礼です。まあ……大して喜ばないと思いますが」
余計なことまで言って、変な空気にさせてしまうのは、やはり灯子ちゃんらしいというか。だから僕は、袋を持つ灯子ちゃんの手を握り、ニコッ! と笑った。
「そんなことないよ! 役に立つものだし、きっと喜ぶって!」
「……本当にポジティブですね、貴方は」
「それほどでもぉ」
「……嫌味のつもりだったんですが」
「知ってる」
君はそういう子だもんね。でもって、すっごく優しい子。……そう、僕はちゃんと、知ってるよ。
嫌な顔をされそうだから、決して言わないことを思っていると、そうだ、と灯子ちゃんがふと呟く。すると灯子ちゃんは、今度はエコバッグの中を漁り始めた。そして。
「……どうぞ」
「……え?」
僕に何かを差し出す。驚きつつ受け取ると、それは小さな可愛い箱だった。
開けていい? と目線で訴えると、小さく頷く灯子ちゃん。
だから開けると、その中には──星が入っていた。
あ、星っていうのは比喩ね。実際入っていたのは……金平糖とか、飴とか、小さくて、可愛いお菓子。キラキラしてて、とっても綺麗。……。
「何これ」
「……クリスマスプレゼントですが」
「君が!? 僕に!?」
「……よっぽどプレゼントが気に入らなかったようですね」
「まさか!! 超!! 超嬉しいから!! 奪い取ろうとしないでこれはもう僕のものです」
しばらく小競り合いをした後、灯子ちゃんが僕から目をそらす。慣れないことをしてしまって、照れている……そんな感じかな?
更に続けて、心音ちゃんにはクマのぬいぐるみ、帆紫くんには文房具をあげている灯子ちゃんを見ながら……僕はきゅうっと、自分の胸が音を立てるのが分かった。
「…………とーこちゃんっ! ありがとー!」
「わっ」
灯子ちゃんが軽く悲鳴を上げる。何故なら僕が勢いよく飛びついて、抱きついたからだった。そして頬を寄せるが、灯子ちゃんが僕の体を押し戻そうとしている。まあ、僕に適うわけないけどね!
「ほんとにありがと! 最高のクリスマスだよっ!」
「……大袈裟ですね……」
「大袈裟じゃないもーん!」
灯子ちゃんは抵抗を諦めたようである。ただ黙って、ため息を吐いた。
そんな灯子ちゃんに頬を寄せながら、僕は微笑む。ほんとにね、僕は嬉しいんだよ。初対面、あんなに人のことなんてどうでもいい、なんて思ってそうだった──いや、実際思っていたのだろう──そんな君が、人にプレゼントを渡すなんて。
ちょっとは僕が、何かいい干渉が出来たのかな、なんて。……烏滸がましいけどね。
「じゃあこのまま四人でどっか食べに行こ! クリスマスパーティー!」
「え……面倒くさいで」
「そんなこと言わないっ! 奢るから! はい、れんこーーーーうっ!」
「……もう勝手にしてください」
僕は灯子ちゃんを引き摺り、心音ちゃんと帆紫くんは、苦笑いを浮かべながら僕たちに続く。
僕たちの楽しいクリスマスは、まだまだ終わらないんだからっ!
【終】
というのも、今日は聖なる夜、クリスマス! 街行く人、皆楽しそうで……家族連れやカップルが多い中、あいにく僕はボッチだけど、僕まで楽しくなってくる!
ほら、例えばあそこの男女二人! 何かの後を付けてるみたい……。
……いや違うよ、全然楽しそうじゃないよ。というか何だあのカップル……。そう思って僕が近づくと。
「……あれ、
「えっ……」
「あっ、会長!?」
「ちょっ、帆紫っ! しーっ!」
「んぐぅっ」
その怪しいカップル、まさかの
「どうしたの? デート……って感じじゃ、ないよね?」
「デッ……そんなんじゃありませんっ!!」
「しっ、心音静かに! ……会長、あれを見てください」
僕の出した「デート」という単語に、過剰に反応する心音ちゃんを宥めてから、帆紫くんが何かを指差す。そこには……。
「……とーこちゃんだ」
「はい、
僕の言葉に、帆紫くんが頷いた。帆紫くんの指差す先、そこには、明け星学園の転校生……いや、もう転校生と言うには時間が経ちすぎてるか……とにかく、
……この状況から察するに……。
「……君たちはデートをしていたところ、とーこちゃんを発見。こんなイベントの日、確実に人混みだろうに、わざわざ外を出歩き、かつ誰かのプレゼントを選んでいるような、彼女の性格から考えて珍しい彼女の様子に興味を隠せず、思わず観察してたと……そういうことだね?」
「だからデートじゃありませんっ!!!!」
「心音っ。……流石の観察眼です、会長」
帆紫くんは否定してないんだから、もうデートでいいじゃん……と思いつつも、あってたなら良かったよ、と僕は笑う。心音ちゃんは、顔を真っ赤にして膨れていた。可愛いなぁ、なんて言うと、帆紫くんに怒られちゃうか。
というわけで僕も、「灯子ちゃんを観察し隊」に参加することにした。いいんですか、生徒会長がそんな。と言われたけど、面白そうだからヨシ!!
灯子ちゃんは、物を手に取っては眺め、戻し、別の物を手に取っては眺め、戻し……それを繰り返して、やがて次の店に行く。そんな行動を繰り返していた。よっぽど気に入るものがないのだろう。その額には機嫌の悪そうな八の字の眉が……って、あの表情はデフォルトか。
怒られそうなことを考えていると、彼女はお酒屋さんに入った。そして日本酒の瓶を取ると、マジマジとラベルを眺める。……灯子ちゃん、未成年はお酒買えないし、飲めないんだよ!
思わず心配になっていると、彼女はそれを置き、すぐに店を出て行った。良かった……。
次に訪れたのは、ジュエリーショップ……あの店、ゼロの数を数えるほど気が遠くなるんだけど……大丈夫なの?
案の定、灯子ちゃんはすぐに店から出てきた。心なしか、顔がいつもよりげっそりしていた。
その次はメンズの洋服店。その次はスイーツ店。ゲームセンター。百均。……とにかく片っ端から入ってる。そんな感想を抱いた。途中、何かを買ったりしているみたいで、初めより若干、荷物が増えていた。
……まあ何となく、誰に向けて何を買っているか。僕は察せたけど。
「あー、伊勢美、何してんだ? あいつは……」
まだ状況を察せていないみたいな帆紫くんと、その隣で同じく察せていないような心音ちゃん。僕は思わず小さく笑う。すると二人の視線がこちらを向いた。
「どうしたんですか? 会長」
「いや……ううん」
心音ちゃんに問われ、僕は首を横に振る。
いや、ほんとに何でもないんだ。ただ、仲良いなぁ、って思っただけ。
……僕はこの恐怖症がある限り、絶対にそんな風には、なれないから。
そんなことを考えつつ、僕は顔を上げ……あ、と、声を上げた。その声に二人は、僕の視線の先を追う。そこには。
「……皆さん、何してるんですか……こんなところで」
「とーこちゃんこそ」
僕たちが後を付けていたはずの、灯子ちゃんが立っていた。その腕には、紙袋だったりエコバッグだったりがあり、中には何かが入っているようである。どうやら彼女の買い物は終わったらしい。
「休みの日まで私のストーカーとは……生徒会長は暇なんですか?」
「いや、これは本当にたまたま。たまたま君を見かけただけ!」
「付けるなら一緒ですよ……」
はあ、と灯子ちゃんはため息を吐く。どうやら、主犯は僕、持木兄妹はそれに付き合わされただけだと思ってるらしい。まあいいんだけどね。そう思われても仕方ないこと、普段からしてるし。
……やめるつもりはないけどねっ!
「それでこの二人が、君がどんな買い物してるか〜っていうの気になってたからさ! 教えてあげなよ!」
「えっ、別に面白い買い物じゃないですけど……」
「大丈夫だよ、君がクリスマスに出歩いてるだけで十分面白かった」
何ですかそれ……と、訝しげな表情を浮かべる灯子ちゃんは、一度ため息を吐いた後、その袋の中身を見せてくれた。僕、帆紫くん、心音ちゃんの三人で、その中を注視し……。
「……靴下に……」
「これは……ブランケット?」
中に入っていたのは、お洒落な防寒グッズだった。見ているだけで暖かくなってくる。……二人が尚の事首を傾げていると、灯子ちゃんが小さく呟いた。
「……クリスマスプレゼントです。両親への」
その言葉に、二人が弾かれたように顔を上げる。灯子ちゃんは無表情のまま、続けた。
「……しばらく会っていませんし、いつも迷惑ばかり掛けているので……日頃のお礼です。まあ……大して喜ばないと思いますが」
余計なことまで言って、変な空気にさせてしまうのは、やはり灯子ちゃんらしいというか。だから僕は、袋を持つ灯子ちゃんの手を握り、ニコッ! と笑った。
「そんなことないよ! 役に立つものだし、きっと喜ぶって!」
「……本当にポジティブですね、貴方は」
「それほどでもぉ」
「……嫌味のつもりだったんですが」
「知ってる」
君はそういう子だもんね。でもって、すっごく優しい子。……そう、僕はちゃんと、知ってるよ。
嫌な顔をされそうだから、決して言わないことを思っていると、そうだ、と灯子ちゃんがふと呟く。すると灯子ちゃんは、今度はエコバッグの中を漁り始めた。そして。
「……どうぞ」
「……え?」
僕に何かを差し出す。驚きつつ受け取ると、それは小さな可愛い箱だった。
開けていい? と目線で訴えると、小さく頷く灯子ちゃん。
だから開けると、その中には──星が入っていた。
あ、星っていうのは比喩ね。実際入っていたのは……金平糖とか、飴とか、小さくて、可愛いお菓子。キラキラしてて、とっても綺麗。……。
「何これ」
「……クリスマスプレゼントですが」
「君が!? 僕に!?」
「……よっぽどプレゼントが気に入らなかったようですね」
「まさか!! 超!! 超嬉しいから!! 奪い取ろうとしないでこれはもう僕のものです」
しばらく小競り合いをした後、灯子ちゃんが僕から目をそらす。慣れないことをしてしまって、照れている……そんな感じかな?
更に続けて、心音ちゃんにはクマのぬいぐるみ、帆紫くんには文房具をあげている灯子ちゃんを見ながら……僕はきゅうっと、自分の胸が音を立てるのが分かった。
「…………とーこちゃんっ! ありがとー!」
「わっ」
灯子ちゃんが軽く悲鳴を上げる。何故なら僕が勢いよく飛びついて、抱きついたからだった。そして頬を寄せるが、灯子ちゃんが僕の体を押し戻そうとしている。まあ、僕に適うわけないけどね!
「ほんとにありがと! 最高のクリスマスだよっ!」
「……大袈裟ですね……」
「大袈裟じゃないもーん!」
灯子ちゃんは抵抗を諦めたようである。ただ黙って、ため息を吐いた。
そんな灯子ちゃんに頬を寄せながら、僕は微笑む。ほんとにね、僕は嬉しいんだよ。初対面、あんなに人のことなんてどうでもいい、なんて思ってそうだった──いや、実際思っていたのだろう──そんな君が、人にプレゼントを渡すなんて。
ちょっとは僕が、何かいい干渉が出来たのかな、なんて。……烏滸がましいけどね。
「じゃあこのまま四人でどっか食べに行こ! クリスマスパーティー!」
「え……面倒くさいで」
「そんなこと言わないっ! 奢るから! はい、れんこーーーーうっ!」
「……もう勝手にしてください」
僕は灯子ちゃんを引き摺り、心音ちゃんと帆紫くんは、苦笑いを浮かべながら僕たちに続く。
僕たちの楽しいクリスマスは、まだまだ終わらないんだからっ!
【終】
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