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主人公




……何で、この状況で和んでるんだ?



オレ……少し前まで甲板で昼寝してたよな?




それなのに、女の膝で寛いでるオレは……頭が追い付いてないだけで、相当パニくってんだろうな……。





「……どうしたの?そんな遠い眼なんかして……」




(……これ……どうすれば良いんだ?)




男は悩むしかなかった。



事の始まりは、さっきも言ったように甲板で昼寝してるところからだった。


ウトウトと気持ち良く眠っていたら、突然奇妙な音がして眼が覚めた時には、眼の前にいる女の腕に抱かれていた。
親父のように、少し大きい人間だなぁと思ったのだが……どうも様子が変だった。

「わんちゃん、道路で寝たら危ないよ。車に轢かれちゃうところだったんだから……」

くるま?
聞いた事のない言葉だった。

「首輪してないね……ノラなのかな?」

……首輪?
そもそも、この女はオレの事をわんちゃんとかって言ったか?
不思議に思ったオレは、自分の手を見てみれば……いつも見慣れている筈の肌ではなく、黒い毛を纏った……犬のような手をしていた。

『何だこれ!?』

声に出したつもりだったが、何故か犬の鳴き声だった。





…………いぬ?

……イヌ……。

犬…………。




とりあえず今分かった事は、オレが犬だって事だ。
そして、周りの風景を見ても……まったく見た事のない物ばかりだった。






(……此処は何処だ?)






オレは、白ひげ海賊団の二番隊隊長
ポートガス・D・エース

世間では火拳のエースと呼ばれているが……








本日、ワンコのエースになりました。



しかも、子犬ときたもんだ……。





勘だけど、暫くこのままで生活する事になりそうだ。




『……お前、名前……って、犬の言葉じゃ分からねぇか……』



前途多難……。





オレはどうやら“くるま”とかいう奴に轢かれそうになったところを、この女に助けられたようだった。
その後、首輪をしてないという事で、女の中ではノラだと思ったようで、そのままオレの世話をする事に決めたらしい。
オレとしてはラッキーだったかもしれない。
こんな訳の分からない所で……訳が分からないまま犬の姿で……。
とにかく、最初のコミュニケーションで一緒に散歩だと言っては、近くの川沿いを本当に散歩程度に歩き、その後日陰のベンチで休憩中。

(……何で、この状況で和んでるんだ?)

そして、冒頭に戻る……。

「そうだ!せっかく我が家の家族になったんだから、名前付けないとね!」
『オレはエース!……って、言葉が通じないんだったな』
「あはは!元気の良い吠えっぷりだね!」
(……やっぱり通じてないか)

エースは少しの落ち込みを見せるが、この場合仕方ないと諦めモードになった。
そんな中、女がジッとオレを見たかと思えば、ポツリと言った。

「……エース」
『え?』
「ん、よし!!君の名前はエースだ!!」
『通じた!?』
「おっ!気に入ってくれた?」

キャンキャン吠えてるようにしか見えないだろうが、女は満足気に笑っていた。
気に入るというよりは、驚きの声を上げたつもりだったのに……と思うエースだった。

「私、一人暮らしだから……家族が出来て良かった!」
『……一人?』
「それにしても運命だわ!気紛れに散歩に出てみるものね!子犬との出会いがあるなんて……エースに会えたのは、何かの縁ね」

確かに、今のオレは子犬と言える程に……女の両手に収まる程の大きさだった。

「これから宜しくね」
『おう!』

通じてないと分かっているが、それでも返事を返したエースの元気の良い鳴き声に、女も満面の笑みを浮かべた。

「帰りに首輪やリード買わないとね。後はドッグフードとか……」
『ドッグフード!?流石に無理!!』
「わっ、いきなりどうしたの!?」
『首輪は……今のオレは犬だから仕方ねぇと思うけど……。だけど、ドッグフードは無理だ!!肉が良い!!!!』
「エース!?」
『今だけは言葉が通じてほしい!!』

暴れるエースを何とか宥めながら必要な物を買った女だが、それでもドッグフードだけは何とか阻止したエースは疲れ切っていた。

「……何で、其処までドッグフードを嫌がるのかしら?」
(今は犬とはいえ、中身は人間のオレだ……)

そんな中、早速買って直ぐにエースの首にオレンジの首輪が付けられた。
これはどうやら、エースが自分で決めた首輪のようであった。

(この首輪……持ってる帽子の色と同じなんだよな!)

少しだけ機嫌の良くなったエースに、その雰囲気が伝わったのか、女はニッコリと笑った。

「気に入ったみたいで良かった」
『おう!』

リードも買ったが、エースが自分の声が分かってるかのように、ウロウロと動き回らない事を知った女は、敢えてリードはしなかったようだ。

(それにしても、こんなところをみんなに見られたら、ゼッテェに笑われるな)

犬の姿である自分を、何だかんだで受け入れてしまったエースは、これからの事を考えた。

(いつまでも、こうしてる訳にもいかない。だけど、此処が何処なのか……それを先に知る事が優先だな)

そんな風に思った時だった。







ヒナタ!」




こちらに向かって声を掛ける一人の男がいた。





自分を拾った女はヒナタと言うのか……なんて考えていれば、男はヒナタの眼の前までやってきていた。

「家にいないから、何処に行ったのかと心配した……」
「…………」
「そんなに、オレと話すのは嫌か?」
「…………」
「まいったなぁ……」

言葉を発しないヒナタに、男は苦笑いしながら頭を掻いた。
そして、エースはヒナタの方を見れば、露骨に顰めっ面をしていた。
先程までの表情とは一変し、まるで別人のような雰囲気だった。

(……何だぁ?嫌いな奴なのか?)

エースがそう思った時、ヒナタはエースの方を見てきた。

「帰ろう、エース」

そう言いながらエースを抱き上げたヒナタは、男の方を見る事なく歩き始めた。
そんなヒナタの肩を咄嗟に掴んだ男は声を張り上げた。

「いい加減にしてくれないか?あまり手間取らせないでくれ」

明るい口調で笑みを顔に張り付けているが、声は冷たかった。

「君のお父さんが悪いんだよ?恨むのなら無能な父親を恨むんだな」
「…………」
「君は金と引き換えに、オレに差し出された……言わば商品と同じなんだ。デカイ人形を買ったようなもの。その人形がオレに逆らうのか?」
「……その父や母を自殺に追い込んだ殺人鬼が……」
「人聞きの悪い……」
「事実でしょ。その保険金で借金は払った。もう私に構う理由なんてないでしょ」
「……まだ分かってないのか」

男の言葉に、ヒナタは眉間に皺を寄せた。












「一度オレのモノになったんだ。借金を払ったからと言って、オレから解放されると思っているのか?」












この言葉に、奥歯を噛み締めたヒナタ

「……あなた何様のつもりなの?私を奴隷にでもするつもりなの?頭がおかしい……」
「オレは許される。それだけの権力を持っているからな」
「…………警察を金で動かしているのかしら?」
「ククク……世の中金だ。金で動かない奴はいない」
「あなたみたいな人間がいるから、この国がおかしくなってくるのよ」
「こんな狂犬を手懐けるのも面白い」

大人しく二人の会話を聞いていたエースは、ヒナタの背後に忍び寄る気配を感じ、声を張り上げた。

ヒナタ、後ろだ!!』

もちろん、エースの言っている事など分からないヒナタは、突然吠え出したエースに驚くだけだった。
背後まで忍び寄ってきた人物がヒナタに手を伸ばすのが見えたエースは、咄嗟にヒナタの腕からすり抜けて肩までよじ登り、背後にいた人物に飛び掛かった。
この行動により、漸く背後に人がいた事を知ったヒナタは、驚きの表情のままエースの名を叫んだ。

「っこの犬っころが!!」

背後にいた男がエースを振り払おうとするが、すばしっこく動くエースを捉える事が出来なかった。

(犬になっても、身体能力は変わらないのか。むしろ、ゾオン系の能力者になった気分だな)

どうやら、エースが持つメラメラの実の能力は使えないようだが、犬ならではの脚力や聴力、嗅覚は優れているようだった。

(行けるっ!!楽勝だぜ!!)

楽々と男を倒したエースは、ヒナタの方へと顔を向けた時だった。
お腹に強い衝撃がエースを襲い、そのまま勢い良く転がった。




「クソ犬が……。人間に危害を加えるなんて……殺処分で決まりだな」

どうやら、ヒナタに絡んでた男に蹴っ飛ばされたようだった。
それを直ぐに理解したエースは、ヒナタの前に躍り出て、男に向かって唸り声を上げた。

『っくそ!久し振りに打撃を喰らったな……』

ロギア系の能力を手に入れてから、まともに打撃を受けたエースは不敵に笑った。

「エース!!」
ヒナタ……お前の犬か?随分な育て方をしてるようだな」
「エースに手を出さないで!私の大事な家族なのよ!!」
「犬が家族……?笑わせるな!!」
「あんたのせいで両親を失った私に、ようやく出来た家族よ!!」
「何度も言わせるな!!さっさと来いよ!!」

ヒナタの手首を掴んだ男に、エースは直ぐに攻撃体勢に入った時だった。

「男が女の子を襲ってるぞ!!」
「誰か!警察を呼んで!!」
「このご時世だ!武器を所持してるかもしれないぞ!気を付けろ!」
「何で、この世の中は物騒なのよ!」

周りからの声に、男は舌打ちをした。
一度騒ぎが起きてしまえば辺りは騒然となり、逃げ惑う人やヒナタを助けようと隙を窺っている勇敢な者もいた。
この状況に分が悪いと判断した男は、ヒナタにだけ聞こえるように言葉を残し、その場を去っていった。

「…………何で……」

ヒナタが恐怖で顔を歪ませた時、助けようとしてくれた人達が声を掛けてきた。

「大丈夫か?怪我は?」
「あ……た、助けて頂き、ありがとうございます……」
「こんな世の中だ。変な奴が多くて物騒だしな。だからこそ、助け合いってもんだろ!」
「……ありがとうございます」
「……怖かったろ。そんなに顔を青褪めさせて……」
「大丈夫です。この子も守ってくれたので……」

そう言って、しゃがみ込んだヒナタはエースの頭を撫でた。

「家族が守ってくれたので!」
「ご主人様を守ったのか!大した犬だ!!」
「自慢の家族です!エースも助けてくれてありがとう!」
『おう!いつでも助けるぜ!!』

言葉は通じなくとも、今回は雰囲気で分かったようで、ヒナタの顔に笑顔が戻ってきた。

「あの……本当にありがとうございます。何かお礼を……」
「何もしてないからな……礼はいらない。礼なら、あんたの犬にしてやんな。一番の功労者だ」
「っはい!」

エースを抱き上げれば、ヒナタは笑みを浮かべた。

「今日は、お礼にエースの食べたいモノを用意するね!」
『ホントか!?なら肉が良い!!』
「このまま、ドッグフードが売ってる所に寄っていこう」
『だぁーーーー!!オレは人間が食う肉が良いんだ!!』
「そんなにはしゃいで……嬉しいの?」
『ちーがーうー!!』

エースの叫びは、遠吠えとなって木霊した。









「此処なら、エースのご飯が売ってるお店もあるよ!」

あの後、助けてくれた人達にお礼を言って別れたヒナタは、言葉通りドッグフードが売っているお店がある商店街へと赴き、お店へと向かっていたところで、エースがあるお店の前で立ち止まった。

「……エース?」
『この匂い……肉か!?』

エースが立ち止まったお店は……






焼き鳥屋の前だった。




ジッと焼き鳥を見るエースに、苦笑いを溢したヒナタ

「流石に、焼き鳥は駄目でしょ」
『オレはこれが食ってみたい!!…………って、これ焼き鳥って……鳥なのか!?』

何となく……そう、何となくだった。
エースは仲間の一人が脳裏に浮かんだ。

『……マルコが焼かれてる……』

瞬間、一気に食べたい意欲がなくなったエースは項垂れた。

『流石にマルコは食えねぇ……』

本人がいたら怒られそうな発言だが、生憎と此処にはその本人がいない為、言いたい放題なエースだった。
急に項垂れたエースに、ヒナタは首を傾げた。

「……どうしたの?さっきまでの元気がないよ?」
『……別の肉にする』
「焼き鳥は諦めたのかな?」

会話が噛み合わないが、それでもエースは諦めなかった。
もしかしたら、他の肉が売ってる店があるかもしれないと……。
何としても、ドッグフードだけは阻止しなくては、と意気込んだ。

『……それにしても、この世界は妙なモンが多いな』

辺りをキョロキョロするエースに、ヒナタはクスリと笑った。

「人の多い所は落ち着かないのかな?」
『珍しいモノが多いからな!面白いぞ!!』

噛み合わない会話にも慣れてきたエースは特に気にする事もなく、自分が食べられそうな肉を探しながら、見た事もない風景を眺めていた。

「……ホント、エースって不思議な犬ね。私の言葉を理解してるだけでなくて、とっても強い」
『ん?そりゃあ鍛えてるしな!』
「…………もし、私の言葉を本当に理解してるなら、さっきの出来事も理解してるよね?」
『まぁな。詳しい事情は分からねぇけど、あいつの事は嫌いなんだって事は分かるぞ』
「……私と一緒にいると危ない……。あいつは必ず、またやってくる……。去り際に言われたわ……。今回は引いてやる……次こそは覚悟しとけよ……って……」

私といるとエースが危ない。
だから、私から離れるなら今のうちだよ……。
そう言ったヒナタの声は震えていた。
エースは先程の出来事を思い出し、ジッとヒナタを見た。
両親の死はあいつのせいだと言った。
オレを家族だと言って、震えながらも庇おうとした。
会ってから、まだ数時間しか経ってないのに、自分といると危ないから離れろと言う。
……一人は寂しい筈なのに……。
漸く得た家族を手放そうとしてる。


何故か、そんなヒナタをほっとけなく思った。


せめて、元いた場所に戻るその時までは、守ってやろうと……そう思った。

『……お前も寂しいんだな』
「エース……。他の人に拾ってもらった方が幸せになれるよ。離れるなら今しかない」
『オレは海賊だぞ!あいつ如き、どうって事ないから心配するな!オレはお前に世話になるって決めたしな!』
「……私の腕から降りないって事は、傍にいてくれるって思っても良いのかな?」
『おう!!』

ヒナタの耳には、エースが吠えたようにしか聞こえないが、それでも自分の言葉に返事をしてくれたような気がしたのだった。

「……もし、理解した上で私といてくれるんだとしたら…………ありがとう」
『気にすんな!オレも世話になるんだ!よろしく頼むな!』
「……どうしてだろう。吠えてるようにしか聞こえないのに……慰められてる気がするのは……。だとしたら、エースは優しい……」
『…………おう』

エースは思った。
もし人のままだったら、顔が赤くなってるだろうな……と。

「……今日は家族になれた記念だね!美味しいモノを買いに行こう!」
『…………犬のご飯以外で頼む。それだけが、今の切なる願いだ……』
「そういえば、さっき焼き鳥に反応してたって事は、お肉が良かったりするのかな?」
『……オレの願いが通じた!?そうだ!!オレは肉が良い!!』
「……眼が輝いてるような気がするけど……そういう事?」

必死に頷くエースに、ポカンとした顔のヒナタはゆっくりと口を開いた。

「……そうやって頷いたりしてくれる方が、意思の疎通が出来そうね……」

この言葉に、エースも今気がついたらしく、身体を硬直させた。

『そっか……。何でそんな簡単な事に気が付かなかったんだ……オレ……。言葉で伝えようとばかり考えてたけど、やり方次第では何とかなるんだよな……』
「……もしかして、エースも今気が付いた?」

この言葉に、エースは頷いた。

「…………通じた?」
『……通じてると思ったから、話し掛けてたんじゃないのか?』
「……何となく、失礼な事を言われてるような……」
『……こういう時だけ、勘が鋭いな。名前もそうだし……変なところでエスパーか?』




「此処が私の家だよ」

夕飯の材料を買い、家に戻ってきたヒナタはエースに笑いかけた。

「親がいなくなってから自分で稼いでいたし……借金を返したりとかで……。最近越してきたばかりなんだ!」

ヒナタの住んでる所は、あぱーとと言うらしい。

「少しは自分の為にお金が使えるようになったから、アパートに移り住んだんだ」
『……それまでは違う場所に住んでたのか?』
「此処は動物を飼っても良い所だから、心配しなくて良いよ!」
『…………エスパーを発揮してくれ……』
「さっ!早く行こう!私達の家に!」
『…………おう』

ヒナタの部屋は二階のようで、階段を上った直ぐのドアの前に立ち、鍵をあけてドアを開いた。

「今日から、此処がエースの家だよ!」

ヒナタはエースを抱き上げて家の中に入った。

「エースは汚れを落としてからね」

入口で履き物を脱ぐヒナタの行動に、ワノ国の風習に似てるのかもしれないと思ったエースは、自分の手や足の裏を見た。

『確かに、このまま上がれば床が汚れるな』
「ご飯前にお風呂に入ろうね。シャワーだけど良いよね」
『良いぞ!いつもシャワーだけだしな!…………って、お前も一緒に入るのか!?オレは一人で大丈夫だ!むしろ、一人で入らせてくれ!!』
「食材だけ先に冷蔵庫に入れちゃうから、此処で待っててね」

そう言って、エースをお風呂場に下ろし、台所へと行ってしまった。

『……女としての自覚を持て……』

自身が犬である事を忘れてる発言に、全く気が付いていないエースだった。
暫くして戻ってきたヒナタは、早速脱衣場で服を脱ぎ始めた。

「少し早いけど、私も一緒に入るから待ってね!」
『だぁーーーー!!男の前で堂々と脱ぐな!!』
「慌てない!直ぐに汚れを落としてあげるから!」
『ちーがーうー!!』

エースの叫びも虚しく、ヒナタにエースの気持ちは伝わらなかった。
結局、生まれたままの姿で風呂場に入ってきたヒナタを見ないように眼を閉じたエース。
だが、犬の姿でも感触は分かるので、ヒナタの柔肌を直に感じる事となったエースは、眼を閉じてる事でさえも拷問のように感じた。

『…………誰か助けてくれ……親父~!この場合の対処の仕方を教えてくれ~!!』

一番に信頼を寄せる人物に助けを求めるが、意味はなかった。

『何でオレは犬なんだぁ!!夢なら覚めてくれぇ!!女と風呂なんて入った事ねぇのに!!』

遠吠えが木霊する中、キレイに洗われたエースは精神的ダメージが大きかった。

『……サッチに知られたら、絶対に変態扱いされる……』

そんな中、感じた柔らかい感触を思い出したエースは首を振った。

『こ、これは不可抗力だ!!胸が大きいなぁとは確かに少し思ったけど……いや、見てないぞ!感触が……じゃなくて!!だぁーー!!今だけはルフィの純粋な性格が羨ましい!!』

一人騒ぐエースは、ヒナタが既に洗い終わっている事に気が付いていなかった。




「では、家族になれたお祝いに……いただきます!」
『その場合、酒で乾杯だろ……』

エースのツッコミを知らず、ご飯を食べ始めたヒナタ
そして、エースの前には……何故か鶏肉があった。
ドッグフードを阻止したとはいえ、複雑な心境だった。

『…………マルコ、スマン!オレは生きる為にお前を食う!!』

既に、鳥イコールマルコという仲間を連想させているエースだった。

『うめぇ!!食べた事のない味だな!!』
「……美味しそうに食べるわね。気に入ったの?」
『おぉ!!うめぇぞ!!』
「凄い食欲ね……」
ヒナタも沢山食え!全然食ってねぇじゃねぇか!』
「こうして、一人じゃないご飯は久し振りね!やっぱり、エースとの出会いは運命だったのね」
『おかわりがほしい!!』
「エースはお肉好き……やっぱりちゃんと犬のご飯買わないと、健康に良くないわよね」
ヒナタ!!おかわり!!』

噛み合わない会話をしながら、少し早い夕飯が終わった。

「さて、明日に備えて寝ましょうか」
『もう寝るのか!?』
「エースも一緒に寝よう。明日はお墓参りに行かなくちゃだし……」
『墓……?父親と母親のか?』
「……実はね、明日でちょうど一年なの……。両親が死んでからね……」
『……よし!世話になってるんだ!オレも行くぞ!!』
「ん?どうしたの?エース」

尻尾を振って近寄ってくるエースに、ヒナタは不思議そうにした。

「エース?」
『オレも行くぞ!』
「……もしかして、一緒に行くって言ってるの?」

この問いに、通じた!!と喜びながら頷いたエース。
これには、ヒナタも嬉しそうに笑った。

「そうだね!両親に、新しい家族を紹介したいし……一緒に行ってくれる?」
『もちろんだ!!』
「頷いた……って事は、一緒に行ってくれるんだ?ありがとう!」
『そうと決まれば、いつもより早いけど寝るか!!』
「少しだけ遠い所にあるから、早めに起きて出掛けよう」
『おう!!』

返事をしたエースは眼の前にあるベッドに乗ると、ヒナタはクスクス笑った。

「エースはまるで人みたいね」
『……人みたいじゃなくて、人なんだけどな……』

苦笑いしながら布団に潜り込もうとしたエースだったが、直ぐにハッとした。

『……オレ、何処で寝れば良いんだ?』

気が付いた時にはヒナタも布団の中に入っており、ヒナタはニッコリと笑って言った。

「おやすみ、エース」
『…………おやすみ』

犬のエースが布団にいても、特に気にしてないのか、そのまま眼を瞑って寝る態勢に入ったヒナタだった。

(……オレが考え過ぎなのか?いや……ヒナタはオレが人じゃなくて犬だと思っているからこそ、この行動なんだよな……)

自分で言って項垂れたエースは、自身の手を見て軽く溜め息を吐いた。
どうしてこうなったのか……。
色んな建物や、人が着ている物……見る物が珍しい物ばかりで……。
色々考えてみたけど、やっぱり思わずにはいられない……。




オレは、別の世界へと来てしまったのではないか……と。




似た風習があるのは時折感じるが……どう考えても、オレのいた所では有り得ない物ばかりだ。
“くるま”とかいう動く鉄。
海列車みたいなもの。
街中で見かけた奴は“けいたいでんわ”というやつで話してたり……あれは電伝虫のような通信が出来るものだと理解はしたが……難しい物で溢れてる。
あのグランドラインでも、別の世界に飛ばされるなんて怪奇現象は聞いた事がない。
まったくもって謎だ。
しかも、ゾオン系の悪魔の実を食べた訳でもないのに……気が付いたら犬って何だ?
しかも……子犬サイズ。

(……とりあえず、ヒナタは悪い奴ではないし……一先ずは今を考えるしかないな。訳が分からない以上、帰る方法も見付けられないだろうしな……)

突然此処に来たのだから、突然戻れるかもしれない。
そう思った時、エースは心に現れたモヤモヤを気にしない事にした。


ヒナタを一人にしてしまうんじゃないか……。


浮かんだ言葉を掻き消す様に、エースは眠りに着いた。



「おーい!エース!!いつまで此処で寝てるんだよ!」
「ん……」
「エース!!いい加減に起きろ!!」
「え……サッチ?」
「寝ぼけてんのか?」

サッチの顔を寝ぼけたままジッと見ていた瞬間、エースは勢い良く起き上がり、辺りを見回した。

「……ヒナタの部屋じゃない……」
「は?ヒナタ……?誰だ?」
「…………戻ってきた?」

自分の周りにいる見慣れた仲間達を見て、エースは笑みを浮かべるが、それでも脳裏に焼き付いてるかのように、ヒナタの悲しそうな顔が浮かんだ。

「……また、あいつに襲われたり……」
「エース?」
「……それとも、ただの夢?」
「お~い?戻って来~い!」
「サッチ!!オレ、夢見てたのか!?」
「……見てたのかって、オレに聞かれても……それは本人であるお前にしか分からないだろ」
「……せめて、あいつをぶっ倒してから戻ってくれば、こんな悩まないで済んだのか!?」
「…………エースが壊れた。寝過ぎが原因か?」

どうなってんだ……。
夢だったのか、現実にあった出来事なのか……よく分からないエースは頭をガシガシと掻いていれば、何処からか頭をペシッと叩かれた。

「いつまでも寝てんな。今日の夜の見張りはエースの隊だろうがよい」
「……マルコ……」
「……何だよい」
「…………お前を食って悪い!!」
「は?」
「鳥であるお前は美味かった!だが、あれは生きる為に仕方なくだな……」
「………………お前、どんな夢を見てたんだよい」

その瞬間、体中に衝撃が走ったエースは、ぐぇっ!なんて声を出して転んだ。
ロギアのオレに衝撃が?なんて思いながら、咄嗟に閉じた眼をゆっくりと開ければ、其処は甲板ではなかった。

『……あれ?ヒナタの部屋?』

辺りを見回せば、まだ寝てるヒナタを見付けた。
そして、エースは寝ぼけていたのか、ベッドから落ちていた。

(さっきの衝撃は、ベッドから落ちた時の衝撃だったのか……。だとすれば、戻れたと思ってたのは…………ただの夢か……)

自分の手を見て、まだ子犬の手足である事が分かれば、溜め息を吐きたくなった。

(……此処にいた事は夢じゃなかったんだな)

エースは起き上がり、窓辺にやってきては外の風景を見た。

『……まだ日が昇ったばかりか……』

昇ったばかりの太陽や青い空……同じに見えて、違うモノに見えるエースは、仲間達の顔を思い浮かべた。

『オレがいなくなった事に、気が付いてくれてっかな?』

騒がしい連中の声が幻聴となって聞こえてくるようだった。
親父の、特徴ある笑い声……。
モビーディック号という船の居心地の良さ……。
全て鮮明に思い出すエースは、クゥン……と寂しげな声を出していた事に気が付かないでいた。
そんな微かな鳴き声に眼を覚ましたヒナタは、そんなエースの後ろ姿を見て悟った。

(……何処かに家族がいるのかな?)

窓辺から外を見ているエースの後ろ姿は、寂しそうで……誰かに会いたそうで……。

(…………やっぱり、誰かに飼われてるのかな?一度、犬の捜索願いが出されてないか、聞いてみた方が良いかな?)

心配そうにエースを見ていれば、不意にエースが振り返ってはヒナタの方を見てきた。
少し驚いたが、急に振り返ったエースにヒナタは笑みを浮かべた。
一方で、起きてるとは思わなかったエースは、柔らかく笑うヒナタを見て、思わず固まってしまうのだった。
そんな事とは知らずに、ヒナタはエースに声を掛けた。

「おはよう、エース」
『…………おう』
「寝る時も思ったけど、こうやって寝る前と起きた時……誰かがいるっていうのは良いね!」

“おはよう”も“おやすみ”も、数年振りに言ったと笑いながら言うヒナタに、エースは思った。
先程の事は夢で良かったと。
戻る時は、ヒナタが笑って過ごせると分かった時に戻ろうと……それまでは意地でも戻らないと決意したエースは、まだベッドに横になっているヒナタの真横まで来た。

『おはよう、ヒナタ!何か食わせてくれ!早くに起きたら腹減った!』

元気に言うエースに、雰囲気で何となく分かったのか……。
ヒナタはクスリと笑って、起き上がるのだった。



「散歩がてら、歩いて行こう」

朝ご飯を済ませ、出掛ける準備の出来た二人は、早速昨夜言ってたお墓参りへと出かけた。

「今日も良い天気だね」
『そうだな!ポカポカ陽気で……眠くなる』
「エース、疲れたら言ってね。抱っこしてあげるよ」
『ガキじゃねぇんだ!抱っこはよせ!』

キャンキャン吠えるエースに、笑みを零さずにはいられないヒナタ

「可愛いなぁ、エースは!」
『……そうかよ』

照れるエースだったが、突如こっちに向けられる気配を感じ、振り返った。
すると、陰からこちらを見てる人物を二人程発見した。

(……何だ?ヒナタを狙ってるのか?)

昨日の奴の仲間かもしれないと思ったエースは、ヒナタの近くまで寄って歩き始めた。

ヒナタはまだ気が付いてねぇな)

下手に気付かせて、怖がらせる事はしない方が良いだろうし、相手に悟らせる訳にもいかないと思ったエースは、そのまま警戒しながらヒナタの両親が眠るお墓まで歩くのだった。
墓地に行くまでの間、花屋で花を買ったりなどして寄り道をしたが、結局墓地に到着しても接触してくる気配がない事に不思議に思うエースは、横目で二人組の男を見た。

(……隙を窺ってるのか?)
「エース?途中から大人しくなっちゃったけど、疲れちゃった?」
『この程度で疲れる訳ないだろ!大丈夫だ!』
「……鳴き声は元気そうね……大丈夫だって言ってるの?」

頷くエースに、ヒナタはニッコリ笑った。

「なら良いけど……」

少し歩いていれば、一つのお墓の前で立ち止まったヒナタ

「エース。此処が、私のお父さんとお母さんが眠ってるお墓なんだ」

エースを抱き上げたヒナタは、お墓に向かって話し掛けた。

「お父さん、お母さん……昨日家族になったエースだよ。もう一人じゃない……エースがいるから寂しくないよ」
『…………』
「……だから、安心して見守ってね」

エースを下ろしたヒナタは、お花を供え始めた。
それを見てたエースは、お墓の方を見てポツリと言った。

『いつまで此処にいられるのか分からねぇ。でも、オレがいる間だけでもヒナタが笑顔で過ごせるように……出来るだけの事はする。くるまって奴に殺されそうになった事を考えると、ヒナタは命の恩人だ……ちゃんと恩は返す!一方的だけど、約束する!此処にいる間は、ヒナタは守る!!』

ジッとお墓を見ながら言ったエースの耳に、不意に聞こえた気がした。





“ありがとう”と……。





風の音が、たまたまそう聞こえただけかもしれない。
だけど、それがヒナタの両親からの返事なんだと思ったエースは、満足そうにしてヒナタを見た……瞬間だった。

ヒナタ!!あぶねぇ!!!!』

ヒナタの背後から、鉄パイプを振りかざす男の姿があった。




あとがき

エース連載を読んで下さり、ありがとうございます。
今回の連載は逆トリにしてみました。
そのうち、ヒナタがエース達の世界へとトリップする予定になっております。
初のトリップのお話なので、上手く書けるか分かりませんが、最後までお付き合いして下さると嬉しいです。
ちなみに、この世界に原作はなく、ワンピースを知らない……と言う感じに書かせて頂いてます。
それと、今後も様々な動物を出す予定でいますが、動物達のご飯について……あくまでも物語なので、実際にはちゃんとしたご飯を食べさせてあげて下さい。
食べ物によって、動物は中毒を起こす食べ物があります。
気を付けてあげて下さいね!
作品の中で、あれ?と思う場面もあるかと思われますが、物語……として読んで下さればと思います。
一応動物の事を調べながら書いてますが、間違っていた事があってもご愛敬でお願いします。

そして更に裏話。

実は、この作品は一度書くのを諦めたモノです。
『お知らせ&呟き』を読んで下さった方なら存じているかもしれませんが、書こうと思って止めた作品が、これの事でした。
でも、書きたい意欲が湧いてしまい、書いてしまいました。
……だからって、連載を増やすなんて……(汗)
どれか一つ、連載が終わるまではノロノロ更新になる確率が高いです。
なので、気長にお付き合いして下さると嬉しいです。
マルコ夢同様、今まで温めていた作品とは別なので、以前から考えていたエース夢は、この連載が終わった後にと考えています。
完結まで長い道のりだと思いますが、楽しんで頂ければと思います。

皆様に、素敵な夢が訪れますように☆
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