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『お前は何をやっても駄目だな』
お父さん……
『出来そこない』
お母さん……
『仕事ばかりで、家の事は全然やってくれないのね』
やってるじゃない
仕事に行く前と帰ってきた後
出来るだけの事はしてるじゃない
『ちょっと!埃が溜まってるわよ』
仕事が休みの時はやってるじゃない
それに、お母さんが家にいるんだから、やってくれても良いじゃない
『言う事も聞かないで……』
ちゃんと言う事を聞いてて、そう言うの?
『お前には自分の意志はないのか?』
あれだけ言う事を聞けと言ってて……
『家の事も出来ないなんて……』
仕事するなって言うの!?
じゃあ辞めてやるわよ
そうすれば、家の事が出来るもの
『お前の料理は食感が悪い。もっとちゃんとしたのは作れないのか』
此処はレストランじゃないんだけど……
『早く酒を作れ!!』
今やってるの見て分からない?
『くそが!!』
自分の勝手で、こっちに八つ当たりしないでよ
『役立たず!!』
自分の物差しで、私を評価するの?
役立たずと言って、暴力ばかり……
『結婚したい?子供がいる?駄目だ』
……駄目な理由なんて…………聞かなくても分かる
何だかんだと言いながら、いなくなると使える道具がいなくなるからでしょ……
『あの男の子供を産んでも、あんたと子供が不幸になるだけよ』
……言う事を聞かなければ、殴るんでしょ
今回も…………
私に宿った子供は、本当に不幸
産まれる事さえ出来ない
『お兄ちゃんが結婚ですって!初孫よ!』
……反対しないんだ
『早く男見付けて、結婚しなさいよ』
何それ…………
『仕事もしないで……私の育て方がいけなかったのかしら』
私は一人しかいない
仕事で朝から晩までいなければ、家事をやらないと怒って……
いったい、私をどうしたい訳?
『さっさとしねぇか!』
私はあなた達の奴隷じゃない!!
私の人生を狂わせて……
あなた達にとって私という娘は何なの?
苛立ちを、全て私にぶつけて
溜まった鬱憤を、私を殴る事で解消して
じゃあ、私の存在って何?
道具として扱う為だけに私を産んだの?
それなら、産んでほしくなかった
そうすれば、お腹の子もこんな事にはならなかった
産まれてきたかった筈なのに……
ごめんなさい…………
「……っ……さん……」
「ん……」
「ミラさん」
「ん~……」
「ミラさん、起きな!次の島に着くぞ」
誰かの声で起こされた。
「どうしたんだ?何か魘されてたぞ」
「船員さん……」
「嫌な夢でも見たのか?」
「……そうね。昔の……嫌な夢を見たわ」
「そうか。まぁ、人には一度や二度、嫌な出来事もあったろうしな」
「……そうね」
伸びをしたミラは立ち上がり、甲板へと出た。
「それにしても、ミラさんはどうして商船に?」
「ちょっと、放浪の旅をしたくなってね」
「当てのない旅か。それも良いな!!」
船員が笑いながら仕事に戻れば、ミラは辺りを見回した。
放浪の旅……ね。
私はただ、あの家から抜け出したかっただけ……。
物心が付く前から暴力を受けて、罵声を浴び続けて……気が付けば、恐怖が身体に染み付いていた。
だから、人とのコミュニケーションも苦手となった。
男は嫌い。
人間が苦手……。
結婚を考えてた時は、まだピークには達してなかったから、まだ男を好きになれてた。
今は……誰も信じられない。
この年齢では……笑えない話だ。
「ミラさん」
「……船長さん」
「我々の船はあの島へ着いた後、また逆戻りだ。先へ進むなら別の商船を紹介するが?」
「ありがとうございます。お願いしても良いですか?」
「もちろん!ミラさんにはお世話になったからね」
「それを言うなら、私の方が……」
「いやいや、海賊に襲撃された時は助かったよ!荷物が取られないで済んだのも、ミラさんのお陰だ」
「乗せて頂いてるんです。協力出来たのが何よりです」
船長は豪快に笑えば、ミラに話しかけた。
「ミラさんは船に乗る時に、当てのない旅だと言ってたが……どうだろう?ミラさんさえ良ければ、この船で働かないか?」
「……私、女ですよ?」
「知ってるさ!知った上で言ってるんだぞ!?それに、ミラさんに頼もうとしてるのは、船の用心棒さ」
「用心棒……ですか?」
「あぁ!海賊との戦闘は見事なものだった!こういった商船は狙われやすくてね……用心棒を乗せてはいるが、グランドラインにいる海賊は実力のある者ばかりだろ。だから、ぜひ用心棒として、ミラさんを勧誘したいんだが?」
船長の言葉に、ミラは苦笑いを浮かべた。
「ごめんなさい。そのお話は魅力的だし、そうしたいのですが……」
「……訳ありかい?」
曖昧に笑ったミラに、船長は何かを感じとった。
「ははは!まぁ、駄目元で言ってみただけだ!悪かったな」
「すいません。……船長さん、此処まで乗せて頂き、ありがとうございます」
頭を下げれば、船長も軽く頭を下げた。
「どういった理由での旅かは知らないけど、身体には気を付けてな」
「はい。船長さんや船員さん達も」
そんな時、船員から呼ばれた船長は、その場を去った。
魅力的な話し……。
だけど、此処に留まる事は出来ない。
万が一にでも見つかったら……あの家には戻りたくない。
身を隠し、生きていける場所を見付けないと……。
絶対に見つからない場所へと……。
そんな時、船長が戻ってきた。
「ミラさん、すまねぇ!今、他の商船に連絡をしてみたら、今出航したばかりだと言われちまった。他の商船も当たってみたが、暫くはあの島への積み荷はないから、立ち寄る事がないと……」
「大丈夫ですよ。そこまでして頂けるとは……逆に申し訳ないです」
「いやいや……」
申し訳なさそうにする船長に、ミラはクスリと笑った。
「そこまでお気になさらず。どうにでもなりますから!!」
此処まで一人旅を続けて来たんです!船を見付ける事ぐらい、自分で出来ますよ!なんて言えば、逞しい!と返されてしまった。
「本当に悪かったね」
港に到着ーー!!なんて言う、船員の声が響いた。
商船の人達と別れを告げたミラは、一先ず酒場へと足を進めるのだった。
酒場は、船乗りの溜まり場。
情報収集には酒場は定番だ。
「そこの女!」
突然、声をかけられたミラは、隠し持ってた銃に手を掛けながら振り返った。
「……何か?」
「お、気の強そうな顔してるね!」
「……用件は?」
「クールだね!ちょうど、そこの酒場には大した女がいなくてよ……酌してくれねぇか?」
「お断りする」
ミラはそう言って、歩き出そうとすれば、男が腕を掴んできた。
「そんなお堅い事言わなくても良いだろ」
「……っ……」
「あぁ?何だ?」
「……な……」
「何だって?」
「私に……触るな!!」
持っていた銃を男に向けて、引き金を引いた。
至近距離で打たれた男は即死だった。
「私に……触れるなっ!!」
顔色を悪くしたミラが叫べば、男の仲間が集まってきた。
「このアマが!!やってくれたな!!」
武器を手に向かってくる男達に、ミラは素早い動きで背後に周り、男達の心臓を打ち抜いた。
「……大した事のない海賊ね」
意識を何処かに飛ばしたような、生気のない顔をしたミラが呟けば、近くで老婆の叫びが聞こえた。
そちらの方へと顔を向ければ、海賊から小さな子供を助けるように抱き締める老婆がいた。
「どうか、お許しください……孫はまだ幼いのです……」
「ぶつかって来たのは、ガキの方だろ!!ジュースが服に付いてベタベタだぜ……どう落とし前を付けてくれんだ!?」
「ひぃ!お許しを……」
「大人げない。これだから海賊は……ってバカにされんのよ。まぁ、言われて当然ね、これじゃあ……」
海賊達は、声の聞こえた方へと顔を向ければ、そこにはミラが立っていた。
「さっきまで暴れてた野郎が、今度は正義気取りか?」
「見苦しいから」
「んだと……」
「見苦しいのよ。自分より弱い立場の相手にしか、強気に出れない訳?」
「この女……!!」
カッとなった海賊三人は、それぞれサーベルを持ち、ミラへと向けてきた。
「さっきの野郎とやり合ってたのは見てたからな。所詮、お前はスピードだけだろ」
「つまり、前を見て歩いてなかったのは、あんたの方じゃない。そこの子供は悪くないって事になるわね」
直ぐに状況が分かったミラが言えば、図星だったのだろう。
海賊達は顔を真っ赤にして、サーベルを振り回してきた。
「ただ振り回すだけか」
ミラは、直ぐに銃を抜くと男達を一瞬で打ち抜いた。
「あっけないわね……」
溜め息を吐きながら銃を仕舞えば、老婆は泣きながら礼を言ってきた。
「そこのお嬢さん、助けて頂きありがとうございます」
「お姉ちゃん……ありがと」
「…………怪我は?」
「掠り傷程度なんで……あのお礼をしたいので、うちにいらっしゃいませんか?」
「其処までの事はしてない」
「たった一人の孫を助けて頂いたんです。何としてもお礼をしなくては……」
「……お気持ちだけで」
「遠慮なさらずに」
「お姉ちゃん!おばあちゃんのお茶は美味しいよ!」
「決まりね」
何処か強引な老婆と子供に手を引かれ、呆然としながら付いて行くしかなかった。
「ミラさんと言うのね」
結局案内され、辿り着いたのは老婆の家だった。
「お若いのに、放浪の旅とは……」
「若いと言っても、二十七ですよ」
「十分、若いわ」
「はぁ……」
ミラは老婆が用意してくれた紅茶に、口を付けた。
「……美味しい」
「でしょ?おばあちゃんの入れるお茶は美味しいんだ!」
「本当に……」
ミラは、更に紅茶を飲むのだった。
「おばあさん、此処は骨董屋ですか?」
「えぇ。じいさんが始めた店でね。本当は息子夫婦が継ぐ筈だったんだけどねぇ……」
「お父さんとお母さん……珍しい品があるのを他の島で見付けて、買いに行ったんだ」
「その帰りの船が嵐でね……」
だから、祖母と孫の二人暮らしなんだと知ったミラ。
「だから私にとっては、この孫だけしかいないんです……本当に助けて頂いて感謝してます」
「十分、お礼は言って頂きました。頭を上げて下さい」
ミラが笑顔で言えば、老婆はハッとした。
「そうだ!店に、良い品があるんだ!ちょっと待ってて下さいな」
「へ?」
老婆は急ぎ足で、その場を去った。
「……品って……今度はお客の立場になっちゃったかな?」
苦笑いをすれば、子供は笑って言った。
「多分、おばあちゃんの事だから、お姉ちゃんにプレゼントするんだよ」
「プレゼント?」
「助けてくれたお礼だよ!」
「え……そこまでしてくれなくても……」
そんな時、老婆が何かを持って戻ってきた。
「ミラさん、これを受け取ってくれ」
「でも……私、そこまで大した事はしてないですし……」
「気持ちだ。受け取ってくれないかね?」
そう言われてしまえば、流石に断るのも失礼かと思い、有難く受け取る事にした。
お礼を言って受け取れば、綺麗な装飾の付いた手鏡だった。
「鏡……」
「この鏡に伝わる言い伝えでは、この鏡に持ち手として選ばれた者は、幸運が訪れるんだそうだ」
「幸運?」
「ある者は名声。ある者は子宝。ある者は運命の人を……ミラさんにも、幸運がやってくると良いねぇ」
「ありがとうございます……」
ミラは鏡を見ては、不思議そうにするのだった。
「実は言うとね……その鏡はもう一つあるらしくて……」
「もしかしたら、お姉ちゃんの運命の人が持ってるかもね!」
「……運命……」
そんな時だった。
微かに鏡がぼやけたかと思えば、自分ではない……別の誰かが鏡に映った。
一瞬驚いて、眼をパチパチと瞬きをした時には、自分の姿が映っていた。
「……今のは……」
驚いて口にすれば、老婆はクスクス笑った。
「骨董品もバカに出来ないだろ?きっと、今のはミラさんに幸運を運んでくれる人が映ったんだろうね」
「鏡に映った人も、鏡を持ってるって事だよ」
「きっと、お互いがそれぞれ幸運を導く道標なんだろうね」
「鏡に選ばれて良かったね!これからは、どんどん幸運続きな毎日だよ!」
キラキラと笑顔を振り撒く二人に、ミラは思わず顔を引き攣らせて笑うのだった。
「えっと……ありがとうございます」
その後、ミラが二人と別れたのは、既に日が沈んだ後だった。
とにかく、今日は宿でゆっくりしようと、少し疲れた足取りで宿を見付けに歩くのだった。
「ドレーク船長!!向こうのお宝は全部回収しました!」
船長と呼ばれた男は、赤旗と呼ばれるX・ドレークだ。
元海軍将校であり、海賊へと身を落とした。
ドレークはクルーを見ては頷いた。
「そうか。ならば、後は船を沈めておけ」
「分かりました」
その場を去ったクルーを見送った後、フッと敵船から奪った宝の山を見て、何故か引き付けられるように鏡を見付けた。
それを手に取っては、首を傾げた。
「……向こうの船に、女なんかいたか?」
手鏡ともなれば、そう考えるが自然。
どうにもお宝には見えないと思っていれば、一人のクルーが手鏡を持ってるドレークに気が付いて話しかけた。
「その鏡が気になりますか?」
「……向こうの船に、女なんかいたか?」
「それも、一応はお宝なんですよ!」
「ほぉ?」
「何でも、幸せを運んでくれる鏡とか……」
「流石は元鑑定士。詳しいな」
「いわく有り気な物は結構耳にしますけど、それは本物みたいですよ」
その鏡は二つ存在し、鏡に持ち手として認められれば、幸せが舞い込む。
ちなみに、もう一方にも持ち手がいれば、お互いに幸せを導く存在になるとか……又は、運命の相手か……。
そう言ったクルーに、ドレークが苦笑いを浮かべながら鏡を見れば、突然鏡が歪み始めた。
そして、そこに映ってた筈の自分ではなく、別の人物が浮かび上がってきた。
驚きで、少し眼を見開いたドレークだったが、気が付けばただの鏡に戻っていた。
「……今のは……」
「一瞬、鏡がぼやけましたね」
「本当に本物だったのか……」
「船長は、鏡に持ち手として選ばれたんですね。そのまま持ってると良いですよ!幸せがやってきますよ」
「…………」
「まだ疑ってますか?」
「……いや、お前が言うのだから信じよう」
「はい!それじゃあ、オレは後始末の手伝いに行ってきます!」
そう言って、去ったクルーを見てから、また鏡に眼を落したドレークは、困ったような笑みを浮かべては、鏡を持ったまま船内へと入って行くのだった。
「う~!!気持ち良い!」
宿を見付けたミラは、部屋に付いてるお風呂を堪能していた。
「……今日は、情報収集出来なかったなぁ……」
明日、また酒場に行ってみるかと考えて、フッと鏡の事を思い出した。
「……あの鏡……どうしよう……」
せっかく好意でくれた物だけど、何となく不気味に感じていた。
あの時、ぼやけて浮かび上がったのは誰だったのか……。
幽霊だったら……嫌だな。
でも、捨てる訳にもいかないし……。
暫くは様子を見るかと考え、鏡の事は頭から切り離し、湯に浸かるのだった。
暫くし、お風呂から出たミラはタオルを身体に巻き付け、部屋に用意されてた水を飲んだ。
「はぁ……お酒でも頼もうかな……」
そう呟いた時だった。
何処からか、微かに声が聞こえた気がしたが、外だろうと思い、また水に口を付けた時だった。
『ドレーク船長!宝は宝物庫に入れておきました』
『あぁ、後はゆっくりしてくれ』
『はい!!』
どういう訳だろうか?
この部屋の何処からか聞こえてきてる……。
辺りを警戒するように見回すが、もちろん自分しかいない。
不審に思い、机の上に置いた銃を手にして、辺りを見回せば、今度は背後から聞こえた。
『船長!明日には島に着きますよ!』
…………後ろから?
ミラの後ろにあるのは壁だけ。
では、この声は何処から……。
そう考えた時、ハッとした。
「もしかして……この鏡?」
ミラは恐る恐る机にある鏡を手にすれば、またも声が聞こえた。
『詳細は分かった。明日に備えて今日は休め』
『はい。では失礼します』
鏡から、ドアを閉める音が聞こえた。
さっきから聞こえてくる名前……ドレークとは……。
ミラは聞き覚えのある名前に、冷や汗を掻いた。
もしかして、最近話題のルーキーの一人……あの赤旗のドレーク?
ミラは震える手で鏡を覗き込んだ。
すると、鏡の向こうの人物と何故か眼が合った。
「…………」
『…………』
驚きからか、二人は黙ってしまった。
沈黙が流れる中、最初に言葉を発したのはドレークだった。
『……本物に間違いないらしいな』
「……何が?」
思わず反応して言えば、ドレークは眼を見開いた。
『会話も出来るのか?』
「……どうしよう……私、かなり疲れてるんだわ……」
『……お前は誰だ?』
そう言ったドレークに、ミラは何故かムッとした。
「人に聞く前に、自分から名乗れば!?」
『……それもそうだ。オレはX・ドレーク』
ちゃんと名乗った事に、思わず驚いて自分も名乗った。
「……ミラ」
名前を聞いたドレークが、何やら考え込めば、ミラと眼を合わせてきた。
『一般人か?』
「そうよ。あなたは海賊よね?」
『知ってるのか?』
「当り前。あなたは有名だもの」
『そうか』
「……あなた、この鏡が何なのか知ってるの?」
『あぁ、クルーから聞いた』
「……信じたの?」
『クルーを信じられないで、船長は務まらないだろ。それに、実際こうやって体験してる訳だしな』
「私が、あなたに幸運を運ぶと思う?」
『そればかりは分からんな』
シレッと言うドレークに、呆れそうになったミラ。
『それよりも、早く何か着た方が良いんじゃないか?』
「へ?」
『風呂上がりだろ』
その言葉に、タオルを巻いただけの自分の身体を見た。
ミラは特に慌てる事なく、瞬きをしては呟いた。
「すっかり忘れてた」
『……普通、こういう場合は慌てるもんじゃないか?』
「それを言うなら、もっと早くに指摘するべきじゃない?変態さん」
『…………何で変態になるんだ?』
「知ってて、今まで黙ってた訳でしょ?」
『言うタイミングが今しかなかったろ』
そんな時、ミラの部屋のドアが、派手な音を立てて壊された。
「な、何!?」
入ってきた男を見て、ミラは直ぐに銃を手にした。
「女……よくも、オレの部下をやってくれたな」
「部下?」
「三人やったろ!!」
「三人……」
その数で思い出した。
おばあさんと、その孫を助けた時の……。
「あれは、あなた達が悪いんでしょ!!一般人を脅すような事をしたんだから!」
「理由なんざ、どうでも良い……」
「はぁ!?」
「殺しの理由が出来た……それだけで良い」
「最悪!」
「殺せば殺す程、オレの名が上がる!!」
そう言って、不敵に笑った男がサーベルを持って切り付けてきた。
ミラはそれを避けて、直ぐに銃の標準を合わせ、引き金を引こうとすれば、ドレークの声が聞こえた。
『この女に手を出してみろ!許さんぞ!!』
「誰だ!?何処にいる!?」
突然聞こえた声に、男は辺りを見回しては姿を探した。
『オレはX・ドレーク。名ぐらい聞いた事があるだろ?』
「ドレーク……?」
男はミラを見て、口の端を上げた。
「てめぇ、ドレークの女だったか……」
「ちょっと待って!それはごか……」
『オレの女だ』
「ちょっと!!私の言葉を遮るな!!」
『黙っとけ、ミラ』
初めて名前を呼ばれた事に、ミラは思わず、何も言えなくなってしまった。
「ドレーク……出て来い!女の代わりに、オレと勝負しろ!」
『なら、場所を指定する』
「今、此処で勝負!!お前を倒せば、一気にオレの名は上がる!!」
『……どうでも良いが、彼女には手を出すな』
「そんなに大事か?」
『……装飾で有名な島を知ってるな?其処に来い』
「次の島か……良いだろう。女、命拾いしたな」
男はそう言い残すと、笑ったままその場を去った。
「……冗談じゃないわよ……」
グチャグチャになった部屋を見て、ミラは頭を抱えた。
「修理費を払える程、私お金持ってないのに……」
『……もっと気にするべき事があるだろ』
ドレークの呟きの後、宿屋の女将がやってきた。
そして、部屋の惨状を見て絶句していた。
「ちょっとお客さん!いざこざを宿に持ち込まないでくれないか!?」
「……すいません」
「悪いけど、これ以上面倒な事に巻き込まれるのはご免だ。出て行ってくれ!」
「……分かりました」
仕方ないと、ミラは洗面所へと行き、着替えた後、荷物を纏めて部屋を出ようとすれば、昼間のおばあさんがやってきた。
「ミラさん!!」
「おばあさん……」
「騒ぎを聞き付けてきてねぇ」
「お騒がせして、すいません」
「何言ってるんだい!元はと言えば、私達を助ける為だったのに……恨みを買う事になって……本当に申し訳ない」
おばあさんが頭を下げれば、女将はハッとした。
「もしかして、昼間ばあちゃんを助けたのは、この子なのかい!?」
「そうさね。……ミラさん、寝る場所がないなら、ウチに泊まって行きなさい」
「……ですが……」
「宿を出て、何処に行こうと言うんだい?こんな寒い夜に野宿したら、風邪ひいちまうよ」
そんな二人の会話を聞いてた女将は、気まずそうに言った。
「ばあちゃんの恩人だとは知らず、ごめんなさいねぇ」
「いえ!こちらこそ、ドアを壊してしまって……」
「あんたが壊した訳じゃないだろう。女将、このドアの修理代はウチで出そう!」
おばあさんが言えば、ミラは慌てて言葉を発した。
「おばあさん!私が働いてでも、ちゃんと払います!」
「良いんだ!全て、私らを助けた事で起こった事だ!これぐらいの事はさせてくれ」
「……おばあさん」
「それに、どっちにしても、この部屋では寝れないだろう?ウチにいらっしゃい」
「……一日だけ、お世話になります」
「女将も……迷惑かけたねぇ」
「ばあちゃん……」
ミラはおばあさんに手を引かれて、宿を後にするのだった。
「この部屋を使ってくれ」
二度目のおばあさんの家。
そこで、案内された部屋はどうやら、孫の両親の部屋のようだった。
「良いんですか?この部屋を使っても……」
「恩人に貸すなら、息子夫婦も喜ぶ筈さ!」
「ありがとうございます」
「お姉ちゃん!このベッド使って!」
部屋にあるベッドを指して言う孫に、ミラは良いの?と聞けば、嬉しそうに頷いた。
「お父さんもお母さんも、使ってって言うだろうから!」
「……有難く、使わせてもらうね」
「うん!!」
「それじゃあ、ごゆっくり」
おばあさんは、孫の手を引いて部屋を去った。
一人になったミラは、鏡を荷物の中から出せば、話し掛けた。
「…………どういうつもり?」
『……何だ、まだ繋がっていたのか』
「何で、私を助けるような真似を?」
『……何かの縁だと思っただけだ』
「縁……?」
『オレを幸せに導くんだろ?』
「………………導くように見えるの?」
『さっきも言ったが、それは知らん』
ドレークという人物がよく分からないミラは、鏡に映るドレークを訝しげに見るのだった。
「……変な人…………だけど、お礼だけは言っとくわ。……ありがとう」
『……不器用な女だ』
「何それ……」
クスリと柔らかく笑うドレークに、ミラは不貞腐れたような顔をした。
『……それにしても、さっきの男は隣の島だと言ってたが……結構近くにいたんだな』
「……そういえば、隣の島は装飾で有名な島だったわね……明日には着くんだっけ?」
『聞いてたのか?』
「聞こえたの!」
『……お前も、明日にはこっちに向かうのか?』
「丁度良く、商船があればね」
『商船?』
「私は自分の船を持ってないから。商船に用心棒として働く代わりに、乗せてもらってるのよ」
『……随分と危なっかしい事をしてるな』
「余計なお世話よ」
ミラの言葉に、ドレークは溜め息を吐いた。
『何故、そこまでして先へと進む』
「言う必要はないと思うけど?」
『確かに。だが、このグランドラインは女一人では荷が重いと思うが?』
「だから、余計なお世話!!」
『……意地を張っても仕方ないだろ』
冷静に物事を言うドレークに、ミラはドレークを睨んだ。
「私はね、男が大っ嫌いなの!女より力があるからって、暴力でねじ伏せて……道具としてしか見てない!!男だけじゃなく、女もそうよ!!自分の意見を押し付けて……誰もっっ!!あぁもう!!何で、あんたにこんな事言わなくちゃいけないのよ!!」
最悪だ!!
今日あんな夢を見てから、良い事なんてないだろうと思ってたけど、本当に最悪な日だわ!!
そんな風に言えば、ドレークはジッとミラを見た。
『……成程。訳ありの旅と言う訳か』
「っっもう、あなたとなんて話したくない!!二度と話さない!!」
そう言って、鏡を布で巻き付けて、鞄に突っ込んだ。
「明日、おばあさんに返品してやる!!」
苛立ちながら、ベッドへと横になったミラは、直ぐに寝息を立てた。
「……本当に、不器用な女だ」
鏡が真っ暗になった事で、ドレークも鏡を机の上に置いた。
「過去にでも、酷い目にあったのか?」
知り合ったばかりのミラに、ドレークは何故だか気になるのだった。
恋愛感情と言う訳ではない。
ただ、あの女の何も信じてない眼が、どうにも気になるのだった。
どうすれば、あんな眼が出来るのだろう。
腐り果てた海賊でも、もう少し輝きのある眼をしてるだろう。
あの女の眼には、この世界がどう映っているのか……。
感情も表情も……全て作られたモノのように感じた。
あの感情を剥き出しで怒ってたのも……本当のミラには見えなかった。
「いつか、自分自身を滅ぼすぞ……」
ドレークは今まで書いてた航海日誌を閉じ、眠りに付くのだった。
「おばあさん……おはようございます」
「あら、ミラさん。おはよう、よく寝れたかい?」
「はい。それで……この鏡なんですけど……」
「さっそく、ご利益があったかい?」
むしろ最悪です!……とは言えない。
ミラは苦笑いで、鏡をおばあさんに差し出した。
そして、ミラが言葉を発しようとした時、孫の声が響いた。
「おはよう!!おばあちゃん、お姉ちゃん!!」
「あぁ、おはよう」
言葉を紡ぐタイミングを逃したミラは、おはようと言うしかなかった。
「ミラさん、ご飯食べて行くでしょ?」
「いえ、そこまでお世話になる訳には……。それに、港へも行きたいので」
「商船かい?」
「えぇ。港に船が着てたら、次の島まで乗せてもらえるか交渉したいので」
「そうかい。確かに、一隻だけ朝方に船が来たみたいだったね。でも、直ぐに出航と言う訳じゃないんだ。朝ご飯ぐらい食べていきなさい」
またも、有無を言わさぬうちに、食事の用意がされていくのだった。
唖然としながらも、お言葉に甘える事にしたミラだった。
「そういえば、言い忘れてた事があったんだ」
ご飯を食べてる最中、おばあさんが口を開いた。
「その鏡だけどね……本当かは知らないけど、人の骨から作られてると言われてるんだ」
「……骨……ですか?」
「昔、ある男女が結婚を反対され、引き離されたらしく、その後二人は一緒に身を投げて、あの世で一緒になろうとしたって話だ。その後は身内の者達がその二人の骨を使って鏡を作ったとされている」
「……そういう鏡なら、普通は幸運じゃなくて、不幸が訪れるのでは……」
「あくまでも言い伝えだからね。でもね、その男女は自分達のように、不幸になってほしくないと願っていたのかもしれないね」
「…………そうですか」
人は、他人より自分なのでは……そう思ったミラだったが、おばあさんの顔を見てたら、何も言えなくなった。
…………鏡を返すタイミングを失ってしまった。
結局鏡を返せないまま、おばあさん達と別れたミラは、港へと来ていた。
鏡の事は、今度また考えれば良いやと思い始めていた。
「とにかく、今は乗せてくれる船を探さないと」
ミラは周りを見渡せば、一隻の商船を見付けた。
交渉してみようと足を進めようとした瞬間、どういう訳か、意識が薄れていくのだった。
『赤旗ぁ!!何処かで聞いてるんだろ!!女は預かった!!返してほしければ、お前の方からオレのところに来い!!分かったな!!』
ドレークは、丁度良く航海士と話し合ってた時に、鏡を通じて声が聞こえてきたのだった。
これには、鏡の事を知らないクルーは、驚いたように鏡を見るのだった。
「……船長……今のは……?」
「……この声は、昨日の男か……厄介な事を……」
呆れたように溜め息を吐いたドレーク。
「昨日、女が襲われてたんで助けたんだが……逆効果だったか?」
「昨日?」
昨日は船の上だったよな?と不思議そうにするクルーに、苦笑いで返したドレークは、鏡に向かって言葉を放った。
「彼女には手を出すなと言ってあった筈だが?」
『赤旗か……てめぇ、まだ姿を見せない気か!?』
「だから、そちらから来いと言っただろう」
『舐めてんのか、あぁ!?』
「とにかく、隣の島まで来い。そうすれば相手をしてやると言ってるだろ」
『女がどうなっても良いってか?』
「…………人質のつもりか?」
流石のドレークもミラに悪い事をしたと思うのか、眼を閉じては何かを考え、口を開いた。
「ならば、後一日待て。そちらに行く」
『はぁ!?今、姿を現せ!!』
「……今は装飾の島にいる」
『…………はあぁ!!??』
「首を洗って待ってろ」
そう言って、鏡を置いたドレークは航海士の方を見た。
「予定は変更だ。今すぐ一つ前の島に戻る」
「えぇ!?船長、本気ですか!?」
「オレが中途半端に口出しした結果、彼女に迷惑をかけた」
「…………どうやって……」
「誰かに、エターナルポースを見付けてくるよう、言ってくれ」
「……本当に行くんですか?」
「あぁ」
「分かりました」
航海士は、船長室を後にした。
不思議な出会いをした二人の物語は、これから始まる。
果たして鏡が導いたのは、幸運を運ぶ相手なのか……。
それとも……。
あとがき
あとがきまで読んで下さり、ありがとうございます。
長編第三段です。
結構前から温めてた作品なので、ようやく書けたとホッとしてます。
少し強がりなヒロインですが、お付き合いして下さると嬉しいです。
今回のヒロインは、結構ブラックな感じになるかと思います。
何せ、人を信じる事の出来ないお人なので。
明るい内容には程遠い感じになりそうです。
それでも、ほのぼのと書けたら良いなぁ。
純愛を目指して、頑張りたいと思います(笑)
皆様に、素敵な夢が訪れますように☆
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