こころ
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親父と対面するサッチとイゾウは、これまでの事を話し、ココロを四番隊に配属させたい旨を伝えた。
「……ココロがマルコに告白した後から、逐一サッチから話しは聞いてたが……」
「親父には話してたのか」
「おう!親父も何だかんだでココロの事は気に掛けてたみたいだったしな」
サッチが周りに言わなかったのは、親父に言ってた事で発散させていたのかとも思ったイゾウだった。
「……親父もさ……ココロが前みたいな眼に戻るのが嫌なんだろ?」
「……ッグラララ!!サッチ、お前には分かっちまうか!」
「女には似合わない眼だろ」
「それを言うなら、何もココロだけじゃなくて、お前達もなんだぞ。オレは自分の子供達に、あんな眼をして生きていってほしくはねぇな」
「……だけど、今のココロは危うい……」
マルコは何を考えているんだか……親父もよく分からないとばかりに、溜め息混じりに言うのだった。
「……ココロはサッチの補佐に回せ。暫く様子を見ろ」
「あぁ!おりがとうよ、親父!!」
「今日の宴で、とことん楽しませてやれ」
「おう!オレ様特製のディナーを用意するぜ!」
サッチは腕まくりをして笑った。
用件は済んだと、サッチとイゾウが親父の元を離れ甲板へとやってくれば、ココロが宴の準備に走り回っている姿が見えた。
「……あぁやって、船を駆けずり回ってるのに……マルコが気が付かない訳がないだろ」
イゾウが不思議そうに言うも、サッチは複雑そうにするしかなかった。
そんな二人の雰囲気に不思議に思ったのか、ハルタとエースが声を掛けてきた。
「どうしたんだよ、お前ら」
「ココロの事を複雑そうに見ちゃって……。ココロに恋でもしちゃったの?」
ハルタがニヤニヤとサッチとイゾウを見る中、イゾウが裾から煙管を取り出した。
「いや……最近、マルコの様子がおかしいなとサッチと話してただけさ」
「それって、噂になってる女の事?それって、さっき判明したよね!サッチに殴られたマルコに、最初に駆け寄ったナースでしょ?」
でも、その噂ってデマで、あのナースと付き合い始めたのは最近でしょ?
ハルタの口から紡がれた言葉に、サッチとイゾウは顔を見合わせた。
「……その話し……詳しく聞かせてくれ」
「どうしたの?イゾウが興味持つなんて珍しいね」
「ちょいと訳ありなんさ」
そう言いながら煙管を吹かすイゾウの眼は冷たかった。
これには何かあると分かったハルタとエースが、冷や汗を掻きながら知ってる事を話し始めた。
「いや……噂が出始めた辺りでさ……マルコ、女を買わなくなったじゃん?それってみんな女が出来たと勘違いしただけで、本当はただ忙しかっただけなんだよね」
「……いつもの事だろ?」
「まぁね。でも、噂時期から今日まで、島には二つ三つ程しか立ち寄ってないから」
ハルタの言葉に、エースが補足するように言った。
「ちょうど一つ目の島の時は、溜め込んでた書類に追われてたろ?二つ目の時は見張り。三つ目の時は、親父の薬の件で動き回ってた」
書類を溜め込んだのはオレとハルタのせいだと、こっ酷く怒られたよなぁ……と、あの時の事を思い出しながら言ったエースの顔はぐったりしていたが、それを聞いてたサッチとイゾウはそれどころではなかった。
「ちょっと待て!!普段、マルコは余程の事がなけりゃあ、書類は溜め込まないよな!?」
「ど、どうしたんだよ、サッチ」
「良いから!!その時の事を話せ!!」
サッチの気迫に、エースは眼を丸くしながら答えた。
「……書類の受理が遅れたのは、オレとハルタがマルコにしこたま酒を飲ませて……酔わせたから……」
「…………は?」
「ほら、マルコの酔ったところって見た事がないだろ?だから、ハルタと話して……」
「……あいつは酔っても、顔や態度には出ないぞ」
「みたいだな。ちっとも面白くなかった」
「……もしかして……」
話しを聞いたサッチは何やら思い当たる事があったようで、顔を歪ませた。
「……なぁ、イゾウ」
「あぁ……オレも何となく分かった気がする」
「…………もしかしてだけど、その酔った時がちょうど重なって……」
「……酔って覚えてないとかってオチかもな」
「……でも、ココロは今まで内緒の土産をマルコに渡してたんだぞ?何となくでも、マルコなら気が付いても……」
「部下からの土産程度にしか考えてないんだろ」
「……あり得る」
この事実をココロが知ったら……。
その考えに至った二人はココロを不憫に思いながらも、同じ事を思った。
((マジで恋愛運がないだろ))
今までの恋愛では浮気されたという結末だが、これは浮気どころか、恋愛にすら発展していなかった。
「……いや。だとしてもだ、酒に呑まれたマルコが悪い!!」
「サッチ……既に、誰が悪いとかの域は超えてるだろ」
「…………タイミングが悪かったにしろ、ココロなりに真剣だったんだぞ!!」
「そいつはオレも分かってるさ」
とにかく、真実を知ったなら親父に報告して、ココロの耳に入らないようにしてやるしかないだろ。
深く煙を吐き出しながら言うイゾウは、頭を抱えたくなった。
「親父への報告はオレが行くから、サッチはマルコに謝っておけ」
「…………」
「何で殴られたのか……詮索されても困る」
「…………おう」
二人の会話に、ハルタとエースは顔を見合わせた。
「……何でマルコの話しなのに、ココロが出て来るの?」
「此処での会話は他言するな。むしろ忘れろ」
「どういう意味だよ!?」
「……親父に怒鳴られたいか?」
親父に怒鳴り付けられる前に、オレがハチの巣にしてやるぞ、と視線で人が殺せそうな程のイゾウの威圧感に、ハルタとエースは無言で何度も首を縦に振った。
それを見て満足したイゾウは、足早に親父の元に向かうのだった。
サッチも、これ以上ややこしい事になる前に、マルコの元に行こうと、その場を離れた。
残された二人は、呆然と顔を青くして立ち竦んでいた。
一部始終を陰で見ていた人物がいた事に、誰も気が付く事はなかった。
「……親父……どうするよ?」
先程の話しをそのまま伝えたイゾウは、親父の返答を待った。
すると、親父も意外だったのか、何とも言えない顔をした。
「……マルコの奴、酒で覚えてねぇとは……」
「こればかりは、運がないとしか言えないけどねぇ」
「……ココロには言うんじゃねぇぞ」
「分かってる。サッチにも釘は刺しておいた」
持っていた酒を煽るように飲む親父を見て、イゾウは苦笑いを零した。
「親父は楽しみにしてたのかい?」
「あぁ?」
「あの二人……それなりにお似合いだと思うさ。恋人でも夫婦でも……。そのうち、孫が出来るかもって楽しみにしてたかい?」
「グラララ!かもしれねぇな!」
「……気付かないうちに、期待してたってか」
そんな時、船長室のドアからノック音が聞こえ、親父が返事をすれば一人のナースが入って来た。
「船長、検診の時間ですよ」
「おう」
親父の近くに寄って来たナースは、カルテを見ながら話し掛けてきた。
「そういえば、お聞きになられましたか?」
「何がだ?」
「ふふ、リナとマルコ隊長の事ですよ」
あの二人、先日付き合う事にしたんですって!
ナースの口から紡がれた言葉に、親父もイゾウも祝福したい気持ちもあるが、複雑さもあって、苦笑いしか出なかった。
そんな二人にナースは首を傾げながらも、明るい話題をと思っているのか、話しを続けた。
「ッリナとマルコ隊長の間に、早く子供が出来ると良いですね!船長も、早く孫に会いたいでしょう!」
「……子供?」
「えぇ、リナから聞いたんですよ!二人共、将来を考えての付き合いなんだとか……」
楽しみですね!と、何も知らないナースからの言葉は、二人には頭を抱えくなった。
サッチがマルコを見付けた時、何故かクルー達に囲まれているマルコに、何かあったのかと本題を後回しにして話し掛けた。
「この騒ぎは何だ?」
「……サッチかよい」
「あはは!さっきの事を謝ろうと思って来たんだけど……」
「……どうせ、お前の勘違いか何かだろ。ったく……」
「そうそう!水に流そうぜ!その代わり、今日のメシは豪勢なのを作るからさ!」
「調子の良い事を……」
笑って誤魔化したサッチは、気になる事を聞いた。
「……で?何でマルコはみんなに囲まれてるんだ?」
サッチの言葉に、クルー達は興奮したように言い始めた。
「なんと!!マルコ隊長は、ついにリナを落としたらしいですぜ!!」
「あのナース、オレ達の憧れだったもんな」
「将来を考えた仲なんでしょ?二人の子供も、そう遠くない話しになるんでしょうね!」
「うちの海賊団にとって、初の夫婦誕生になるか!!」
「…………おい」
クルー達の言葉を聞いて、低い声を出したのは……マルコだった。
これには、サッチも驚いてマルコを見た。
そこで、何でお前が怒りを抑えてるような声を出すんだと不思議に思い、成り行きを見守るのだった。
「誰と誰が夫婦だって?」
低い声で問い掛けるマルコに、クルー達はそれまでの騒がしさとは一変し、辺りに静けさが舞い降りた。
「……えっと……マルコ隊長は、リナと結婚を前提としたお付き合いなのでは?」
一人のクルーが青褪めながら言えば、マルコから盛大な舌打ちが聞こえた。
「あいつ……何考えてやがる」
「……おい、マルコ。ナースに遊びで手を出したのか?」
「あぁ?……仕方ねぇだろ。ここ最近、欲を吐き出してなかったからな」
「……じゃあ、クルー達が言ってんのは……」
「あいつの狂言だろ。オレはあいつと恋人になった覚えはねぇ」
あいつも、一夜限りの関係だと割り切ってた筈なんだがよい……などと、困り顔で言ったマルコに、サッチは顔を引き攣らせた。
「やっぱ、割り切る事の出来る娼婦の方が、気が楽だな」
「……お前に謝った、オレがバカだった」
「はぁ?」
「…………宴の準備に戻る」
「……何だ、あいつ……」
サッチの様子がおかしいとマルコは不可解そうにしながらも、クルー達への誤解を解くのに必死になっていた。
その場を去ったサッチは、マルコに敢えて何も言わなかったのは、ココロの為。
これ以上、マルコに踊らされない為にも……。
万が一にもクルーに知られて、肩身狭い思いをしない為にも……。
「……一度、親父のところに行くか」
イゾウとの話しがどうなったのか気になるしなと、自然と早くなる足を船長室へと向けていた。
分かってた。
私はただ一人で舞い上がって、一人で踊ってただけなんだ。
人から言わせればピエロだ。
最初から恋愛なんてしてなかったんだ。
サッチ隊長達の話を聞いて、其処で初めて知るなんて……。
そもそも、あの時酔っていたマルコ隊長にも気付けなかった自分がいけない。
恥ずかしくて、みんなと顔を合わせられない。
もう……海賊団にも居られない。
「サッチ隊長、宴の準備が終わりましたよ」
サッチが絶妙なタイミングで船長室に行った事で、何処となく親父とイゾウにナイスと言わんばかりの視線を向けられ、そして検診で来ていたナースが立ち去った後、互いに合った事を話し合い……またも、複雑そうな顔を合わせたのは……少し前の話し。
親父も、暫くココロはサッチの補佐と言う事でと話しは終わり、イゾウはその旨をマルコに言いに行き、サッチはすぐさま準備に加わったのだった。
コック達が忙しなく動いてくれていたお陰か、サッチが加わって直ぐに準備を終えたのだった。
「よし!各隊に報告して、甲板に集まるように言ってくれ!」
「分かりました!」
「では、オレは親父に言いに行ってきます!」
コック達が厨房から姿を消せば、サッチも動き始めた。
「オレは、ココロを呼びに行くか」
「…………あれ?」
船内を歩き回るサッチは、少しだけ焦りを見せていた。
「………………ココロがいない?」
ココロがいそうな所は全部見て回った。
よく手伝いで行く場所も見た。
関わり合いのあるクルー達にも聞いて回った。
だけど、この数時間程、誰も姿を見てないと返された。
「…………ココロ----!!何処だぁーー!!」
「……サッチ?」
「あ、イゾウ!!良いところに!!ココロがいねぇ!!」
「……また、何処かの手伝いでもしてんじゃねぇのか?」
「ずっと厨房の手伝いをしてたんだぞ!だけど、もしかしたらと思って、オレも全部見て回って聞いてみたけど……誰も見掛けてねぇって……」
「…………もう甲板にいるとかは?」
「何度も確認した!!」
「何を騒いでいるんだ?」
サッチが慌てたように声を上げていれば、其処に現れたのはビスタだった。
「ビスタ!ココロを見てねぇか!?」
「ココロ?少し前に甲板で見かけたのが最後だが……」
「っ少し前っていつだ!!詳しく思い出せ!!!!」
サッチの慌てぶりを見たビスタが、ただ事ではないと分かったのか、徐に口を開いた。
「……二時間前ぐらいか?」
「二時間前ってぇと……」
イゾウはハッとして、らしからぬ声を上げた。
「サッチ!二時間前といえば、ちょうどハルタ達と話してた頃じゃないか!?」
「っっあ!!」
「あいつ……もしかしたら、あの話しを聞いてたのかもしれねぇな」
「だとしたら、ココロは……」
二人は顔を見合わせた瞬間、弾かれたように走り出した。
「親父のところにいるかな!?」
「ショックが大き過ぎて、黙って出て行く可能性もあるだろ!」
「とにかく、ココロが見つからない事には、宴どころの話じゃねぇよ!!」
二人の緊迫した雰囲気に、誰もが何事だと静まり返るしかなかった。
「頼む!船にいてくれよ、ココロ!!」
事情を知るサッチ、イゾウ、親父の願いも虚しく、ココロが見つかる事はなかった。
今でも思う。
あの海賊団で過ごした日々は、確かに鮮明に色付いた思い出。
結局、弱い自分を晒す事も出来ず、逃げ出した自分。
あれから一年は過ぎた。
あの思い出は、楽しいままで残しておきたい。
私のバカな行動で、みんなに迷惑をかけて……。
今でも思い出すと、顔から火が出そうな程恥ずかしい。
みんなに見付かりたくない私は、目立たないように過ごしてきた。
前の私なら、暴れるだけ暴れて……派手に行動していたのにと、苦笑いしか出なかった。
今までの思い出を思い返しながら旅をしていたココロは、ある一つの島へと辿り着いた。
「……お祭り」
辿り着いた島では丁度お祭り時期だったようで、島の者達は眼元だけを隠せる仮面を付け、祭りを楽しんでいるようだった。
近くにいた人に話し掛けて、詳しく聞いてみれば、仮面を付ける事で、誰でも参加して楽しめるようにと始まった風習らしかった。
ただし、顔を隠して祭りに参加してる間は、それが海軍の者でも海賊でも暴れてはいけない。
それだけは暗黙の了解のようで、誰もが分かっているのか、一度も騒ぎが起きた事はなかったそうだ。
それを聞いたココロは近くの店に入り、祭り用の仮面や衣装を購入し、そのお店で着替えさせてもらった。
「……確かに、これなら余程仲の良い人じゃないと分からないし、楽しめそう!」
元より、こんな事をしなくても、私を見付けてくれる人なんていない。
誰も気が付かない。
着替え終えたココロは、お店の者に聞いたお勧めの場所へと足を向けた。
辿り着いた場所は一面の花畑で、ちょっとした言い伝えがあるらしい。
“自分でも気が付かない、心の奥に潜んだ望みを叶えてくれる”
それを聞いて、自分の中にある望みは何なのだろうと……ちょっとした興味本位で赴いた。
そんな言い伝えを聞けば、変に女心を擽られるのはご愛嬌だ。
「……ねぇ、私の望みって何かな?」
誰に……ではなく、ただの独り言。
もしかしたら、一面に咲く花達に問い掛けてるのかもしれない。
何となしに呟いたココロの声に答えたのは、吹き抜ける風だった。
フワリと感じる風に一瞬だけ眼を閉じ、再び眼を開ければ、其処にはココロと同じように祭り用の仮面に衣装……そして、フード付きのマントを羽織った一人の人が立っていた。
仮面やフードで顔は分かり辛い。
眼の前に現れた人は、花達が見せてる幻なんだろうと思った。
ココロは苦笑いしか出なかった。
「……成程。これが私の望みなんだね」
眼を閉じて、全てを受け入れるように俯いてしまえば、サク……サク……と、ココロに近付く足音が聞こえた。
「ようやく見付けたよい。オレのココロ」
聞きなれた……懐かしい声に、これも幻聴なのだと思うと涙が溢れた。
「……残酷ね」
「何がだ?」
「…………これが、私の望みだとでも言うの?」
「……オレの望みかもしれないよい」
「…………有り得ない」
「どうして、そう思うんだ?」
「……考えなくても分かる。あの人は私に振り向く事はない」
「……振り向くよい」
「幻に言われても……」
ココロの眼から零れた涙は、地面に吸い込まれていった。
「……気紛れに、祭りに参加しなければ良かったわね」
良い思い出になり掛けていたのに……風に掻き消されてしまいそうな程に、小さな声で言ったココロの声は、眼の前にいる人物の耳には、ちゃんと聞こえてた。
「あいつらが困ってるぞ」
「私の代わりは、いくらでもいるわ」
「甲板掃除……細かいところまでやる奴がいなくて困る」
「それだけでしょ」
「洗濯が増えたって、全員が困ってる」
「それでも、出来ない事はない」
「コック達が、料理するのに活力が湧かないと嘆いているよい」
「サッチ隊長がいるから問題ない事ですね」
「航海士達が、いつも出るコーヒーが出なくなったって意気消沈」
「それも、誰でも出来る事」
「船大工達も、花がないと騒いでる」
「眼の保養なら、ナースの皆さんがいらっしゃいます」
「親父が娘の心配し過ぎて、酒が増えたよい」
「娘なら、他にもいらっしゃるかと……」
これ以上、幻でも話していたくないと思い、その場を去ろうとすれば、後ろから抱き締められたココロは前へ進む事が出来なくなった。
「…………お前を想ってる男は、ずっとお前を探してた」
「…………私、こんな言葉を望んではなかったんだけどなぁ」
「……お節介どもから話しを聞かされた時、初めて後悔した」
「……恥晒しなだけね……」
「仕事が滞ってんだよい」
「……あの人が?それはないわね」
「……オレも人間だ」
「それでも、あの人は仕事を余程の事がない限り、溜め込む事はないわね」
「余程の事があったんだよい」
「……親父に何かあったのかしら?」
「…………お前がいなくなった」
「……幻なのにっ……!」
抱き締められている手を振り払おうにも、幻の方が力はあるようで、振り解けなかった。
「逃がすかよい」
「もう幻に惑わされたくないのよ」
「……毎回使いに行く度に買ってきてくれる土産が楽しみだった」
「……そう」
「……あの時、あのナースを相手にしたのは……」
「聞きたくない!!」
強引に手を振り払ったココロは、無我夢中で走った。
「っ何なのよ、此処は!」
「ココロ!!」
「私の名前を呼ぶな!!」
「オレは、お前が好きだ!」
「黙れ!!」
「オレの傍から離れるなよい!!」
「もう聞きたくない!!何も聞きたくはないのよ!!!!」
そう言うのと同時に掴まれた手を引っ張られ、花畑に倒れ込んだココロが見たのは、舞い上がる花弁と、今でも愛おしいと想う人の顔だった。
「ッッマルコ、たいちょ……」
フードと仮面を外したマルコは、ココロの両手を抑え付け組み敷くような体制で、ジッとココロを見据えた。
「此処の言い伝えは知ってるが、其処までオレを幻扱いしなくてもいいだろ」
「……ほんも、の?」
「本当は、薄ら覚えてた。お前が好きだと言ってくれた事は……。だけど、酒のせいで夢現で……夢だと思ってたんだよい」
「……っ……」
「泣かせて悪い」
零れ落ちる涙をマルコは舐めとるようにしては、ココロの唇を塞いだ。
「っ夢じゃ……ねぇよな」
「何で……」
「もう、何も言うんじゃねぇ」
「…………やっぱり、夢なのかしら」
「夢になんかしたくねぇ」
貪るように口付ける二人に、まるで祝福してるように風が吹いたと思えば花弁が舞い、二人を包み込んだ。
「……あの時の使いで買ってきてくれた土産……酒なんだってな」
お前の部屋はまだ残ってる。
酒も置いていったなら、まだあるだろ。
その酒……二人で飲もう。
だから、家に戻って来い。
マルコの言葉に、ココロはマルコをジッと見て言った。
「もう一度キスしてくれたら、考えてあげます」
「そういう要望なら、いくらでも……」
二人がその後、いつまで花畑にいたのかは……綺麗に咲き誇っている花達だけが知っているのだった。
あとがき
勢いだけで書いてしまったマルコ短編ですが、自分の中ではかなり満足した内容となりました。
恋とは難しいものです。
思った以上に、熱が入って書き上げたのですが、いかがだったでしょうか?
微妙に、マルコが酷い男ちっくになったような気がしましたが、最後は少しだけ甘い言葉でカバーしました(笑)
甘い感じの内容にしようとか、ちょっと切ない感じの内容にしようとか……色々と考えながら出来たのが、この作品でした。
突発的に思い付いた短編にお付き合いして下さった方々、ありがとうございます。
また、突発的に短編を書き上げる事もありましょうが、読んで下さると幸いです。
皆様に、素敵な夢が訪れますように☆