こころ
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私の恋は、いつも浮気されるという結末で終わりを告げる。
最初の恋は初めてばかりで、どうして良いのか分からないまま、相手につまらないと言われ……浮気された挙げ句にフラれた。
二度目の恋では、良い感じになった人に勇気を出して告白すれば、オレもだと言う言葉と甘い言葉を貰った……が、周りから可愛いなど甘え上手な女など、そんな風に言われてる女と浮気された。
三度目では、情事の場面に出くわした挙げ句、浮気相手といた方が楽しいとまで言われてしまった。
流石に、四度目の恋をしようとは思わなかった。
私に恋は似合わない。
浮気されてしまうぐらいなら、最初から恋なんてしない。
荒れに荒れて、行き着いたのが白ひげ海賊団。
元々、喧嘩は強かったみたいで、誰にも負けた事はなかった。
この時点で、今までの男達は私を女として見る事はなかったのだろう。
だから、この頃自暴自棄になっていた私には、暴れられるなら……と海賊団に入った。
そうしてるうちに、そこそこには才能があったみたいで、見聞色の覇気を覚えた。
すると、相手の動きがより分かるようになれば、自然と戦闘力も上がった。
気が付けば、一番隊隊長の補佐になっていた。
そうなってくると、一番接触する機会が多いマルコ隊長に惹かれていた。
あれほど、もう恋なんて……そう思っていたのに、変なところで気持ちなんて脆いものなんだと分かってしまった。
だけど気が付いてしまえば、私の性格上告白する訳で……。
何と!
私の気持ちを受け入れてもらえた。
マルコ隊長は、それまで島に付けば娼婦と朝までコースが殆どだったのに、行かなくなった。
とても誠実な人なんだと安心した。
だけど、私に触れる事はなかった。
関係も隊長と補佐のままと言って良い程……。
周りの規律を乱すわけにはいかないと、私達の仲は内緒と言うのも分かる。
隊長として、クルー達へ示しをつける為。
だからこそ、私に触れてくる事はないのだと理解はしてるけど……これって付き合ってるとは言えない。
これって、私の我が儘なのかな?
少しだけでも……たった一瞬でも……恋人扱いしてほしいと思う私は、贅沢なのだろうか?
そんな風に考えながら過ごすある日。
親父に呼ばれ、ちょいと傘下の海賊団のところに行く事になった。
「これを渡せば良いんだね」
「あぁ、今はそこまで忙しくないから、補佐がいなくても大丈夫だとマルコも言ってたしな」
「……ふ~ん、分かった」
「グラララ!何だ?湿気た面しやがって!最近暴れてないからか?」
「……いや」
恋で悩んでる……とは、流石の親父にも言えない。
「まぁ、この手紙を渡しがてら暴れてくるよ」
このモヤモヤを発散させる為に。
「……何を考えてるのか分からねぇが、適度にな」
「大丈夫。この海賊団を汚すようなマネはしない」
「そんな心配はしてねぇ」
「そう。とにかく、もう行くわ」
親父に背を向けた私は、親父が心配そうに見てるなんて気が付いてなかった。
「……何に悩んでんだか、あのバカ娘は」
「マルコ隊長、親父の使いで暫く船を空けますね」
「あぁ、聞いてるよい。気を付けてな」
書類から眼を離さず返答してくるマルコに、苦笑いしかでなかった。
でも、それも仕方ない事……。
そのままマルコの部屋を後にした私は、甲板へとやってきた。
「ココロ!!」
名前を呼ばれた私は振り返り、ニッと口の端を上げて笑った。
「サッチ隊長!どうしたの?お見送りでもしてくれるの?」
「おう!マルコの代わりにな」
「あ~……忙しいからね」
「オレじゃ不満なのか?」
「いえいえ、まさか!隊長様にお見送りして頂けるなんて光栄ですわ」
「言ってくれるねぇ!マルコの恋人となれば、それだけの女じゃないとなぁ」
「…………へ?」
何て言うのか……聞きなれない言葉が出来てましたよ?
そんな風に唖然としていれば、サッチはおかしそうに笑い声を上げた。
「内緒にしてるのは知ってるさ!」
「え、え?えー!?」
驚くココロに、サッチは耳元で内緒話しをするように言った。
「ちょうど、告白してるところ聞いちゃったんだよね!」
「っっうそぉ!!」
「マルコは変に真面目だから、隊長として……なんて言って、恋人らしい事も出来ないと思うが、オレは応援してるぜ!」
「し、知られていたなんて……」
「誰にも言ってないから安心しろ」
「で……すね。サッチ隊長が言い触らしてたら、とっくにみんな知ってますもんね」
あのお喋りなサッチ隊長が……。
「……オレだって、人の気持ちを汲む事ぐらいあんだよ」
「……人の心を読まんで下さい」
「分かり易いんだよ」
「…………とりあえず、行ってきます」
「マルコの浮気なら心配しなくて良いぞ!可愛い妹の為に見張っておくから!」
「よ……よろしくお願いします」
少しだけ引き攣った顔で笑いながら、用意していた小型ボートに乗り、モビーディック号から離れて行った。
「……言われ慣れないと、恥ずかしいものだな……」
サッチの言葉に、どう反応して良いのか迷ったが、それでも妹だとか、恋を応援すると言ってくれた人は初めてだから……嬉しくて仕方ない。
「……サッチ隊長には、コッソリお土産でも買ってこよう」
いつもは親父のお酒と、内緒でマルコへのお土産だったが……サッチ隊長の気遣いに感謝として、一度ぐらいは……。
そう思いながら、傘下の海賊団へと向かって行った。
数日が経ち、近くの島まで来てた傘下の海賊団と会い、頼まれていた手紙を渡して任務完了。
ココロは、この島で一泊してから船へと帰還する事にした。
「よし!今日中にはお土産を買わなくちゃ!」
まずは親父への酒を……と思い、近くの酒場へと足を踏み入れた。
店内には商品が豊富にあり、どれが良いだろうと見て回った。
「……これ、サウスブルーのお酒……こっちはノース……色々あるなぁ」
迷っていれば、店の者に話し掛けられた。
色々と聞いてるうちに、一つのお酒が気に入って、それをお土産にした。
他にも珍しい酒と勧められたのがいくつかあったので、それをマルコとサッチへの土産として買った。
「……結局、全員のお土産がお酒になっちゃったけど……みんなお酒好きだし、良いか!」
渡すのが楽しみだと、ウキウキしながら宿に帰って行った。
翌日になり、荷物を纏めたココロは船を停泊させた場所へと来ていた。
「よし、忘れ物なし!」
準備が出来れば、直ぐに船を出してモビーに向かうのだった。
行きや帰りの海で、小型ボートでの不安はあったが、運が良かったのか天候が悪くなる事もなく、穏やかに航路を進めていた。
その甲斐あってか、予定より早くにモビーに着いたが、着いたのは真夜中だった。
流石のココロも、こんな夜中に親父に報告するのも悪いと思い、明日の朝一で報告しようと、まずは食堂に足を向けた。
「はぁ……喉渇いた」
食堂に付いて、コップに水を注ぎ口に含めば、渇いてた喉が潤った。
「ふぅ……」
「おっ!帰ってたのか?」
「え……サッチ隊長?」
振り返れば、いつの間にいたのかサッチの姿があった。
「どうしたんです?こんな時間に……」
「何って、朝の仕込みだ」
「こんな時間から!?」
「今日は、親父から宴の準備をしてくれって言われてね」
「宴?何か良い事でも?」
「さぁ?それは分からないが、オレ達は宴が出来ればそれで良いんだよ!」
「はは!じゃあ、私も手伝いましょうか?」
「帰って来たばかりなんだ。休んどけよ」
「大丈夫ですよ?」
「朝早く起きて、親父に報告もあるんだろ?少しぐらい寝とけ!」
「……では、お言葉に甘えましょうかね」
クスクス笑ったココロは、思い出したように荷物を漁り、サッチにお土産を差し出した。
「これ……内緒のお土産です」
「内緒の?」
「いつもは親父にしか買って来てないんですね。それと、内緒でマルコ隊長のを……」
「おっ、今回はその内緒の土産に、オレのも買ってきてくれた訳か!」
「その……使いに行く時に言ってくれた事……嬉しかったから」
「へ?何を?」
「恋を応援するって……。今まで、そう言う事を言ってもらった事がなくて……」
そもそも、男運もなかったしと渇いた笑いを零せば、サッチはココロの頭を撫でた。
「あぁ……前に、お前の恋愛話しを聞いた事はあったけど……うん!どんまい!!」
「……微妙な慰めを感謝します……」
「ははは!まぁ気にするな!それに、マルコは半端な真似はしねぇよ」
その証拠に、娼婦買ってないだろ?と、ウインク付きで言われたココロは慌てた。
「も、もしかして、他の人達も気が付いて……」
「相手がココロだとは気が付いてないだろうけど、女が出来たんだろうなとは勘付いてるだろ」
「……そうなんですか」
「女遊びをしなくなったなら、誰だって女がいると思うだろ」
「ですよねぇ……」
「この時間じゃ、マルコも寝てるだろうし、土産は明日渡すんだろ?」
「そのつもりです」
じゃあ、その前にゆっくり休んどけと背中を押されたココロは、サッチにありがとうと言葉を残し、食堂を後にした。
まだ暗く、静かな廊下を歩いて部屋に戻る最中、何処かで人の声が聞こえたココロだったが、誰かが起きてるんだろうと思うだけで特に気にしなかったが、何となしに声の方へと顔を向けたのがいけなかった。
「マルコ、隊長……彼女は……良いんで、すか?」
「彼女?」
「みんな……言って、ますよ。彼女が出来たんじゃ……ないのかって……。最近、娼婦を買ってない、て……」
「……さぁね」
倉庫のドアが微かに開いており、其処から聞こえて来たのはマルコの声とナースの声。
そして…………情事の時に出る水音や肌のぶつかる音。
声を我慢してても、微かに漏れるナースの甘い声。
あぁ……やっぱり、私の恋って言うのは……いつもこうなんだな……。
マルコ隊長にまで浮気されるとは思わなかった。
何も言えないココロは、静かに自分の部屋へと足を向けた。
せっかく、サッチ隊長が気を利かせてくれたのに……眼が冴えて寝れなかった。
「親父、手紙は確かに渡してきた。それから、内緒のお土産」
一睡もしないまま親父に報告にきたココロは、訝しげに見る親父に首を傾げた。
「……ひでぇ顔してやがる」
「そう?」
「サッチから聞いたが、夜中には帰って来てたんだろ?」
「あぁ……お風呂入ったりとかしてて、結局寝なかったんだよね」
一瞬だけ、あの時の事が頭を霞めたけど、それを振り払うように笑顔を張り付けて答えた。
それでも、何故か見透かすように見て来る親父に、まるで誤魔化すように口を開いた。
「そういえば、私もサッチ隊長から聞きましたよ!宴だって!何か良い事でもあったんですか?」
「……お前が、この船に乗って一年経ったろ」
「……そうですね」
それと宴……何の関係があるのだろうと思っていれば、親父は盛大に笑い声を上げた。
「今日の宴は、お前の為の宴だぞ!」
「…………私!?何で!?」
「娘の祝いだ!!」
「隊長達の事ならともかく、何で私如きにっ!」
「自分を卑下するような事は言うんじゃねぇ!!」
ココロの言葉に、少しだけ大声を上げて怒る親父を見て、ココロは思わず黙ってしまった。
「お前、船に乗ってから今日まで、殆ど休みなしで働きっぱなしだろ!今日ぐらいは楽しめ!!」
「でも、それはみんなも同じで……」
「何言ってやがる!自ら率先して甲板掃除。野郎共の洗濯。部屋の掃除。サッチからも聞いてるが、厨房の手伝いもしてんだろ?航海士からもよく手伝っている事を聞いてる。船大工も船医も……。それに加えてマルコの補佐。一部の野郎共から、あいつは寝てんのかと心配する声も聞く程だぞ」
「私が好きで……」
この一年、ずっと動きっぱなしのココロを労わってやって何がいけねぇ!
そんな親父の言葉に、眼に涙を浮かべたココロは、震える唇を動かした。
「わ、私は……喧嘩っぱやい女だし、みんなに追い付くには、これぐらいしないとと思って……」
「この船に乗ってる奴は、みんな知ってる」
お前が船に乗った時、荒れてた事も知ってる。
人一倍頑張ってる事も知ってる。
航海術や大工仕事の勉強して、簡単でも応急処置が出来るだけの勉強もして……。
そうやって、苦手な勉強も頑張ってた事も十分知ってる。
「親父……」
優しい眼差しを向ける親父に、ココロは思わず抱き付いて泣いた。
みんなの気持ちが嬉しくて……。
人は嬉しくても泣けるんだと知った。
でも、今涙が溢れる理由はそれだけではない事も、自分で気が付いてる。
その一年目の日に……マルコが浮気した。
その事実に、渦巻く今の感情が何なのか……分からない。
もしかしたら、自分が気が付いてないうちに、別れを切り出されていたのかもしれない。
だとしたら、浮気とは違う。
あまり、恋人らしい事もしてないし、自然消滅というモノなのかもしれない……。
そうなのだとしたら…………やはり、その事に気付けなかった私には、恋愛は向かない。
恋愛するべきではない。
一生、海賊として生きるのも悪くはないだろう。
この親父の背中を見て、戦場に立って、そうやって生きて行くのが……私にはお似合いなのかもしれない。
忘れよう。
きっと、マルコ隊長は別れた気でいるだろうし。
そもそも、恋愛を始めてもいなかったのだから、そう思うのはお門違い。
今まで通り、隊長と補佐。
それだけなんだ。
バイバイ……。
私の最後の恋心……。
「っそうと分かれば、私も厨房の手伝いに……」
「お前は、人の話しを聞いてたのか?」
「私の為の宴でしょ?聞いてたよ」
「何で、主役のお前が手伝いに行くんだ」
「それが、私なんだもの!」
親父から離れたココロは部屋のドアを開けて、もう一度親父の方へと振り向いた。
「私、この海賊団に入れて良かった。ありがとう……親父」
今のココロに出来る最高の笑顔を浮かべて言えば、親父は何とも言えない顔をして、部屋を出ていくココロを見てるしかなかった。
「……下手くそな笑顔を向けんじゃねぇよ」
何処か無理してる事が分かったように言う親父は、軽く溜め息を吐いた。
「…………船に乗った時のような、荒んだ眼に戻らなきゃ良いが……」
『鼻ったれが!このオレに盾付くなんざ、良い度胸してんじゃねぇか!』
『……私の邪魔をしたあんたが悪い』
『そんなに暴れたきゃ、オレの娘になれ!オレの名を背負って、暴れたいだけ暴れてみろ!』
『断る』
『そんな眼をして……何がしたいんだ?』
『何も』
『気に喰わねぇな』
『あんたには、どうでも良い事でしょ』
『アホンダラが!』
『うわっ!人を掴み上げるな!!』
『船に乗れ』
『離せ!下ろせ!!このデカ人間!!!!』
「……自暴自棄になんじゃねぇぞ」
出会った頃の事を思い出していた親父は、ポツリと呟くように言っては、ココロの土産の酒を煽るように飲んだ。
「サッチ隊長!私にも何か手伝わせて下さい!」
厨房に入りながらエプロンを纏えば、サッチは慌てて近付いてきた。
「お前、使いから帰って来たばかりなんだ!まだ寝てろよ!」
「親父への報告も終わったし……」
「眼が赤い……寝てないだろ」
「お風呂とかに入ってたら、寝そびれただけだよ」
「なら、尚更だ!宴が始まるまで寝てろ!」
「あれ?この宴、私の為の宴だって聞いたよ?それを聞いた後じゃ、何が何でも手伝いたいな!駄目?」
「親父に聞いたのか?」
「へへ!実は、サッチ隊長も知ってた事でしょ?さっきは上手く騙されちゃった!」
ニッと笑いながら言うココロに、サッチは溜め息を吐いた。
「お前、頑張り過ぎだ。そのうちぶっ倒れるぞ!」
「そこまで軟弱じゃありません!」
「……マルコに土産は渡したのか?」
小声で聞いてくるサッチは、とにかく理由を付けては手伝いをさせない気だなと分かったココロは、苦笑いを零した。
「渡してませんね」
「なら、先に渡してこい」
「渡す必要がなくなりました」
「は?どういう意味だ?」
「私が気が付かなかっただけで、マルコ隊長の中では別れた事になってるんですよ」
「はぁ!?」
「サッチ隊長も言ってたでしょ?マルコ隊長は半端な真似はしないって」
「……どういう意味だ?」
「そういう意味ですよ」
私の恋は、終わりを告げたんです。
そう言って、ココロはコック達の方へと足を向けては、宴の準備を手伝うのだった。
残されたサッチが、ココロの言葉の意味を理解しようとしてる間に……。
別れた?
そういう意味?
終わりを告げた恋?
半端な真似はしない?
ココロの恋の終わりはいつも……。
サッチは立ち尽くして考えていれば、一人のコックに話し掛けられた。
「サッチ隊長!そこで何してるんですか?」
「あ、あぁ!悪い!」
コックが出来上がった料理を甲板へと運び始めたのを見て、サッチもその準備の方へと回った。
(……あのマルコが、ハッキリとしない?)
サッチは宴の準備を進めながら、マルコの不可解な行動に首を傾げていた。
あの真面目なマルコが、曖昧な別れ方をするのだろうか?
いくら恋愛には鈍いココロでも分かるように、マルコもハッキリと言う筈。
それに、半端な真似はしないと、あの時に言ったのは……今までの話しの流れ上、浮気の事を言ってる訳……だよな?
だとしたら、マルコは誰かとそういう事をしていた。
しかも、それをココロの口から出たと言う事はだ……それを目撃してしまったと考えて良い。
「……どうなってんだ?」
「何がだよい」
独り言に返事が返って来た事に、流石のサッチも驚いた。
それほどまでに思考に耽っていたのだと、自分で驚いた。
しかも声を掛けてきたのが、考え事をしていた人物そのものなのだから、更に驚きが隠せなかった。
「……マルコ。お前、まだ終わってない書類があって、部屋に籠ってたんじゃ……」
「さっき終わって、受理したところだ」
「そっか」
「……これ、何かあるのか?」
「あぁ、親父から宴の準備をしろってな」
「宴?何か祝い事かよい」
「おう!祝い……だな!」
「誰かの誕生日……って訳じゃないよな。新入りがいる訳でもないし……オレが知らない間に、何かあったのか?」
「…………今日、何の日か忘れたのか?」
「……何かの記念日かよい?」
海賊団にとっての記念日と聞いて、マルコは思い出そうとしているのか、真剣に考え込んでしまった。
それを見たサッチは、少しだけ眼を細めてマルコを見た。
「……本当に分かってないのか?」
「…………宴をする程、海賊団にとって大事な日をオレが忘れるなんて……」
驚愕とばかりに、本気で落ち込み始めたマルコに、サッチは溜め息を吐きながら答えた。
「今日は、ココロが海賊団に入って一年目の記念日だろ」
サッチの言葉を聞いたマルコは、眉間に皺を寄せた。
「……たかがクルーの一年目の祝いに、宴するのかよい」
「…………本気で言ってんのか?」
「あいつは、ただの補佐だろ。親父や隊長格の連中ならともかく、何であいつを特別扱いしてんだ?」
「……あいつ、ウチに入ってから休みなしで動いてんだぞ」
「それは、誰もが同じだろ」
何言ってんだと言いそうな程の表情を向けるマルコに、サッチは唖然とした。
「……お前、あいつが普段どんな仕事してるのか知ってて言ってんのか?」
「仕事?そんなもん、オレの補佐だけだろ」
「…………甲板掃除」
「下っ端がやってんだろ?何言ってんだ?」
「各部屋の掃除や洗濯」
「それも、下っ端がやってんだろ?」
「航海士の手伝いやコックの手伝い。船医の手伝い……挙句、船大工の手伝い……」
「それぞれの担当がやってんだろ。さっきから何を言ってんだよい」
何も分かってないマルコに、サッチは奥歯を噛み締めた。
一番分かってやらないといけない人物が、一番分かってない事に、憤りを感じたのだった。
あれだけ、一人一人のクルーをちゃんと見ている筈のマルコが、何でココロだけを見ていないような口ぶりなんだと不思議に思いながらも、拳を握り締めた。
「……最後に聞くが、お前にとってココロは何なんだ?」
「一番隊の補佐」
マルコの返答を聞いたサッチは、マルコの頬を目掛けて拳を打ち込んだ。
それをモロに受けたマルコは、壁まで吹っ飛んだ。
「っ何すんだよい!!」
「それは、こっちのセリフだ!!テメェが、そこまで半端野郎だとは気が付かなかったよ!!」
「さっきから、何言ってんだよい!!」
「もうテメェにココロは任せらんねぇ!親父に言って、ココロはオレの隊の補佐に配属させる!!」
「はぁ!?」
「っ見損なったぞ、マルコ!!」
言うだけ言って、サッチは船内へと入って行った。
それを遠巻きに見てたクルー達は、騒然とするしかなかった。
「サッチ」
船内へと入り、親父の元に向かう途中のサッチに声を掛けた人物は、神妙な顔をしていた。
「……イゾウか。何だよ」
「穏やかじゃないねぇ。何があった?」
「マルコがバカだってだけの話しさ」
「…………マルコとナースの話しか?」
「ナース?」
「お前にぶん殴られた後、マルコに近寄ったナースがいたが……そういう話じゃないのか?」
「…………ナースだったのかよ」
イゾウの話しで、ココロが目撃した相手がナースだと分かれば、サッチは舌打ちしたくなった。
「……前から、マルコに女の噂はあったが、それがあのナースってだけの話しだろ?何でそこまで怒る事なんだ?」
「っっ違う!ナースじゃねぇよ!!」
「……何か、食い違いがあるみたいだな」
お前がそこまで怒るって事は、誰かの為に怒ってるって事ぐらいは分かる。
聞かせてみろ……。
壁に背を付けたイゾウが聞く体勢に入った事で、深く溜め息を吐いたサッチはポツリと話し始めた。
ココロがマルコに告白して、恋人同士になった事。
その告白をした時に、隊長としてクルー達へ示しを付けなければいけないから秘密にしてくれとマルコに言われていた事。
それらを全部、偶然目撃したサッチは、陰ながら見守っていた事。
見守っている中で、一度も恋人らしい事や雰囲気だったところを見た事がない事。
昨日から今日に掛けての……ココロから聞いたマルコの行動の推測。
先程、マルコを殴った理由。
そして、ココロの今までの恋愛経験の事。
全部を話したサッチ。
それらを聞いたイゾウは、何とも言えない顔をして俯いた。
「…………マルコのフォローは出来ねぇな」
「……これじゃあ、ココロがあんまりにもっ!」
「確かに昨日の夜、マルコがあのナースとしけ込んでたのは知ってたが……オレはてっきり、あのナースが噂の女だと思ってたよ」
「オレは、この耳でハッキリと聞いたんだ!マルコがココロの告白を受けた事を!それなのに……あんな半端野郎だったなんて!」
「……だから、ココロの配属の事で、早速親父に話しを付けに行くのかい?」
「そうだ!」
「それじゃあ、オレも付き合うかねぇ」
「イゾウ?」
「オレだって、ココロが頑張ってたのは知ってる。大事な妹だと思ってるさ。だからこそ、オレも兄貴として何かしてやりたいと思うさ」
壁から背を離したイゾウはスタスタと先に向かうのを、サッチが慌てて追いかけて行くのだった。