好きだよい
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デッキブラシを手に、甲板を掃除するのが楽しみで仕方ない。
何でかって?
だって……甲板に出れば、あの人の姿を一度は見る事が出来るから。
「おーい、スウ。掃除がゆっくりになってるぞ!」
「余所見してんなよ!」
一緒に掃除してる兄弟から言われ、ハッとしたスウは直ぐに掃除に意識を戻した。
すると、兄弟達からはニヤニヤとされ言われた。
「そんなにマルコ隊長が気になるのか?」
「べ、別に、そんなんじゃ……」
「顔が恋する乙女だぞ!」
笑われながら言われたスウは、バツが悪そうに口を尖らせながらデッキブラシを動かす。
この白ひげ海賊団に入ったのは、ほんの少し前。
それまでは普通に生活してたのだが、島に海賊が攻めて来て、その時丁度停泊してた白ひげ海賊団に救われた。
島は白ひげの縄張りとなり守られた。
そんな時、ひょんな事から私自身の特技を知られてしまい、息子にならないかと声を掛けられた。
……その時、丁度色々とあって男物の服を着てたのが原因なのだろうが、男と間違われ勧誘された。
最初は、海賊としてやっていける自信がなかったから断っていたのだが、気が付けば二番隊隊長の火拳のエースによって拉致られ、そのまま出航されてしまった。
帰るに帰れない状況になり、仕方ないと諦めた。
ついでだからと、誤解を解く為に女だと訂正すれば……全員に笑われた。
そんな冗談、面白くないぞ……と。
どう見ても小柄な男にしか見えないようだった。
流石の私もカチンと頭にきたので、上半身の服を脱いで胸の膨らみを見せてやった。
ちゃんとタンクトップを着ていたが……。
この時の行動でその場にいたクルーどころか、隊長や白ひげの船長までも眼を見開いて驚かれてしまった。
しかも、女だと分かった途端に全員が平謝り。
これ以降、ちゃんと女として扱うようになった。
そして、クルーとも隊長達とも……もちろん親父さんとも打ち解けてきた。
そうしてるうちに……気が付けば、面倒見の良いマルコ隊長に惹かれていた。
「……今思うと、そんなに女に見えなかったのか……私は……」
当時を思い出しては少し凹んだ。
そんな中、スウの呟きを聞いたクルーが訝しげな眼で見てきた。
「女に見えなかったかだって?」
そんな返答が来た事で、直ぐに何でもないと答えようとすればクルー達は一斉に笑い始めた。
「確かに、お前は女には見えないな!」
「髪の毛も短いし、女独特の艶めかしさもないし!」
「それを言ったら色気がない……だろ!」
「ガサツだしな!」
酷い言われようだ。
今までも島の人達にも似たような事を言われてきたから、今更傷付くとか落ち込むなんて事はないけど……流石に恋というものを知ったら気になってしまう。
笑うクルー達を見て、スウはポツリと言った。
「……髪の毛を伸ばせば、少しは女に見えるかな?」
スウの呟きは、クルー達の笑い声で掻き消された。
そんな時、同じ隊に所属する兄弟がやってきた。
「明日には島に着くってよ!」
これを聞いた者達は、やったぁ!と騒いだ。
喜ぶ理由が女だと言う事は直ぐに分かったスウ。
(マルコ隊長も……だよね)
勝手に片思いして、勝手に嫉妬。
そんな自分が嫌で、今考えた事を振り払うかのように首を少し振って掃除に集中した。
船は予定通り、次の日に島へと到着した。
島に着くと、各自の隊長達から指示を貰う。
スウが所属するのは拉致した本人……エース隊長の二番隊。
「今日は二番隊は自由にして良いぞ!」
エースの言葉を聞き、殆どのクルー達は船を下りて街へと向かった。
それを見てたスウは軽く溜め息を吐き、与えられた自室に戻った。
一応女だから……と自室を貰えたが……一応って何だ?
思い出すだけで溜め息が出る。
スウは自室に戻り、読み掛けの本を手にした時フッと昨日考えた事を思い出した。
「…………髪の毛は今すぐには無理だけど服なら……」
持ってる服は全部動き易さ重視。
いかにも船乗り的な格好。
そんな自分の着てる服を見て決意した。
服を買いに行こう!
スウは手にした本を机の上に戻し、財布を持って船を下りた。
「お兄さん、うちの店に寄っていかない?」
「其処のお兄さん!どう?」
「あら……中々、可愛い坊やね」
……何故、誰しもが私を見て男だと言うのだろうか。
そういう商売をしてる女の人達から声を掛けられるスウは全て無視し、先の方にある服屋を目指した。
「……少し派手だし値も張るけど、こういう服を着れば誰でも一目で女だと分かるわよね」
店の前に立ったスウ。
そこは夜の商売で女達が着るような服屋だった。
意を決して、店へと足を踏み入れた。
いらっしゃいませと、上品な挨拶と共に店に入れば、店員らしき人物が近寄ってきた。
「いらっしゃいませ。本日はプレゼントか何かをお探しで?」
……これ、完璧男と思ってるな。
こういう店ならプレゼントを買いに男も来るだろうから、店員は慣れたように声を掛けてきたようだが……スウが少し困ったような雰囲気を出せば、店員は口を開いた。
「こういったお店は初めてですか?」
「まぁ……そうですね」
少し曖昧に答えれば、店員は更に聞いて来た。
「どういった女性に贈るのですか?」
…………どう足掻いても女には見えないのか。
少し落ち込みながら、自分が着るのを選びに来たと言えば、店員は笑顔のまま固まった。
……女装趣味な男と思われても嫌なので、直ぐに私は女ですと言えば、店員は慌てて謝ってきた。
「女性でしたか!申し訳ありません!てっきり男の人かと……」
「…………いえ、慣れてますので……」
スウは苦笑いしか出なかった。
そして、辺りにある服を見回して、やはり自分には縁のない服だろうと思い、やっぱり結構ですと店を出ようとすれば、店員は慌てて引き止めた。
「不快な思いをさせてしまった事はお詫びします!」
「いえ、そうではなくて……」
慌てて違うのだと言おうとすれば、店員は笑顔で言った。
「協力させて下さい!」
突然の言葉にスウは首を傾げた。
「此処へ来たと言う事は、誰かに綺麗な自分を見てもらいたいという事でしょう?」
「……何で……」
何で分かったんだ!?というような顔でもしていたのだろう。
店員は、恋する女の眼ですからと答えた。
……それなら、最初から女だと分かるのでは……と思ったが、敢えて言わなかった。
「先程のお詫びに、髪の毛や化粧はこちらでやらせて頂きます!」
「……其処までの予算は……」
「お詫びと言いましたよ?もちろん、無料でやらせて頂きます!」
無料という言葉に、思わず魅かれてしまった。
それが分かった店員は、早速とばかりにスウの服を選び始めた。
「お客様の髪型はショートなので、こちらの服など合うかと思いますよ!」
そう言って見せてきた服は、深い紫のドレスだった。
裾にはスリットがあり、おそらく足は丸出しになるだろう。
背中も殆ど出るような感じで、胸元もかなり広い。
……セクシー過ぎる。
スウが凝視するようにドレスを見ていれば、店員は他のドレスを見て、こっちもお似合いかもしれませんと、今度は青のドレスを持ってきた。
これを見た瞬間、スウはマルコ隊長の色だ……と思い、眼を輝かせた。
不死鳥の姿になった時のマルコと同じ色。
一瞬でそのドレスに惹かれたスウ。
これには店員も直ぐにドレスが気になったと分かり、このドレスにしましょう!と、試着室へと案内された。
店員に促されるまま試着室に入り、先程の青のドレスを身に纏った。
初めてと言って良い程、女物の服を着たスウは気恥ずかしさもあったが、満更でもなかった。
鏡に映る自分は、まるで魔法のように別人のように思えた。
服だけでも、こんなに違うものなんだと感動していれば、外から店員の声がした。
「お客様!いかがでしょう?」
「あ、はい!」
スウは試着室のカーテンを開けた。
「あの……どうでしょう?」
思わず聞いてしまったスウに、店員は驚いたように眼を見開いた。
そんな様子にスウは、やはり似合わな過ぎて絶句してしまったのだろうと思い、直ぐに着替えようとカーテンに手を伸ばした瞬間、店員はポツリと言った。
「……先程のお客様……ですよね?」
「え……?」
「船乗りの格好をなさってた……」
「そ、そうですよ?」
聞かれる意味が分からないまま返事をすれば、店員は眼を輝かせた。
「服だけで、印象が違いますね」
「……そうですか?」
「勿体ない!何でシンプルな服を着てるんですか!」
ん?と思った時には店員に手を引かれて、別部屋へと連れて行かれてしまった。
「マルコ、どうよ?」
女を侍らせながら言うサッチ。
そんな言葉の真意が分からないマルコは、ジッとサッチを見た。
「何がだ?」
「とぼけちゃって!スウだよ!」
「あいつが何だってんだ?」
「あれだけ熱い視線を向けられてて、知らないとは言わせねぇよ!」
「……気が付いてないとは言う気はねぇよい」
マルコは横にいる女に酌をしてもらうと、一気に飲み干した。
「それに、そうだからと言って、本人から何か言われた訳じゃない」
「そうは言っても、あれだけ好きと言ってるような視線を受けたら気になるだろ?」
「……気になるって言うよりは、妹としか見えないから……困るよい」
「……そうか?」
そんな話しをしていれば、エースが酒場へとやってきた。
「さっき良い女が歩いてたぜ!」
この言葉に反応したのはサッチだった。
「良い女!?」
「まだ近くを歩いてると思うぜ?」
「どんな女だ?」
「ショートで青のドレス着てた」
エースは近くにあった酒を飲んだ。
「マルコ!見に行ってみないか?」
「お前だけで行けよい」
「お前なぁ……そんなんだと男として枯れていくぞ」
「うるせぇよい!」
「んじゃ、枯れた男は此処で酒でも飲んでな!」
サッチはどうしても気になるのか、酒場を後にするのだった。
それを見送ったマルコは特に気にする事はなく、そのまま酒に口を付けるのだった。
「エースの言ってた女はどっこぉかなぁ~♪」
機嫌良く周りを見回しながら探せば、海岸の方へと向かう青のドレスの女を見付けた。
「ショートの髪に青のドレス……あの子だな!」
サッチは追い掛けて声を掛けた。
「其処のお嬢さん!」
声に気が付いた女がサッチの方を振り返れば、女は驚いたように眼を見開いた。
サッチは何に驚いたのか分からなかったが、笑顔を浮かべて言った。
「オレと一緒に酒でもどう?」
「……あの……」
「良いでしょ!?」
困惑してる女を見て、何に戸惑ってるのか分からなかったが、そのまま手を引いて歩き始めた。
……どうして、こんな事になっているのだろうか?
流石に、初めてする格好に気恥ずかしさを感じて、何処か船の近くで着替えようと移動していれば、サッチ隊長に声を掛けられてしまった。
しかも、私だと分かってない。
……其処まで、別人に見えるのだろうか?
「ところで、君の名前は?」
何処に向かっているのか……歩きながらサッチが聞いてきた。
「名前……ですか?」
「ん?聞いちゃ不味かった?」
「いえ……その……」
何となくスウなんだと名乗る事が出来なかった。
「私は……アオイ……です」
「アオイちゃんか!可愛い名前だな!」
何、嘘の名前を名乗ってるんだ、私は!!!
「オレはサッチ!よろしくな!」
「よ、よろしく」
それにしても街へと来たみんなは、こうやって女を口説いてるのか……そう思うと、知らない一面を見た気がして、何となく嬉しいような複雑なような……。
「サッチた……さん、私達は何処に向かってるのでしょうか?」
「さっきまでオレが飲んでた酒場」
って事は、そこに他の隊長達も……。
そう思ったスウは内心で焦っていた。
もし自分だと知られてしまえば、笑われるのが眼に見えてる。
どうしようかと思う時間もなく、既に店の眼の前まで来ていた。
「どうしたんだ?」
何となく不安気な雰囲気だったスウに、サッチが声を掛けた。
「その……やはり今日は止めておきます」
「えぇ~、良いじゃん!オレ達は明日には出航しちゃうんだよ!今日だけしか一緒に飲めないんだ!」
そう言ってスウの腰に手を回し、店へと促されてしまった。
「おーい!エースの言ってた良い女って、この子だろ!?」
サッチの声に、隊長達は一斉にこちらを見てきた。
「おー!!その子だ!よくサッチが掴まえる事が出来たな!」
「エース!!オレみたい美男子が声をかけりゃあ、誰だって振り向くさ!!」
「どうせ、事の真相は無理矢理だろ?」
「てめぇ!!」
サッチとエースが騒ぎ始めれば、マルコは徐にスウを見てきた。
「悪かったな。うちのが無理矢理引っ張ってきたみたいで」
「いえ……」
……やっぱり誰も気が付いてない。
流石にショックが隠しきれないスウは、俯いてしまった。
それを横目で気が付いたサッチは、マルコを睨んだ。
「お前の悪人面が怖くて、俯いちまったじゃねぇか!」
「海賊なんだ。悪人面なのは仕方ねぇだろうよい」
「アオイちゃん、こいつの事は気にしなくて大丈夫だからな!」
「え、えぇ……」
どうしよう。
まともに話しどころか、返事も出来ない。
緊張するぅ……。
「そっちにいても、あいつらの言い合いに巻き込まれるぞ。こっちに座ると良いよい」
突然マルコから声を掛けられ、どうするか迷ったが、話すチャンスかもしれないと思ったスウは、マルコの隣に座った。
「お邪魔します」
「あんた、この島のもんか?」
「いえ……船乗りです」
「船乗り?じゃあ、憂さ晴らしに着飾ってる訳か」
「こういう格好は、島に着いた時でないと出来ないので……」
初めてする格好ですとは言えなかった。
「船乗りって事は、商船か?」
「……ですかね?」
「違うのかよい?」
「いえ、そうです!」
どうしよう……嘘付いちゃった。
どんどん言い出せなくなる……。
スウの罪悪感など分かる訳もなく、マルコ達は始終笑っては酒を飲んでいた。
「そろそろ、船に戻るか!」
既に真夜中の時間帯である事に気が付いたマルコが言えば、誰もが帰り支度を始めた。
「アオイちゃんは確か船乗りだって言ってたよな?船まで送るぜ!」
サッチの申し出に、スウは遠慮した。
むしろ、一人で帰らせてほしいオーラを醸し出した。
「一人でも大丈夫ですので!これ、私の分のお酒代です」
「いいって!オレが連れてきたんだ!オレが出すに決まってるだろ!」
「ですが……」
隊長に出させる訳にはいかないと、鞄からお金を取り出そうとすれば、その手を掴まれた。
「男に恥をかかせない!女は大人しく奢られなさい!」
「……えっと……ありがとうございます」
「そうそう!それで良い!」
満足そうに笑うサッチに、スウはハッとした。
「あの……本当にありがとうございました。これで失礼します!」
そう言って店を飛び出したスウに、サッチは唖然とした。
「もしかして商船には規則でもあって、門限があるとか?」
慌ててたスウに不思議そうにしながらも、一同は船へと足を進めるのだった。
危なかった!!
船まで送ってもらったら、私がスウだってバレちゃう!
とにかく、何処かで着替えないと!!
その前に化粧とかも落とさないと!
スウは慌てて、宿を探すのだった。
「はぁ……勿体ない。あれだけ可愛い子、滅多にお目に掛かれない……」
「サッチに送られるの拒否してたんだ!諦めろ!」
「エース……言いたい放題だな」
サッチがエースを小突いている中、周りの隊長達はニヤニヤしていた。
「何だ?船へと勧誘する気だったか?」
「ビスタ……冗談でも言うなよい。サッチが本気にしちまうだろうが……」
エースとじゃれあう中でも、しっかりと聞いてたサッチはマルコの方を向いた。
「……その手があったーーー!!」
その言葉に誰もが立ち止まった。
「サッチ?」
「アオイちゃんは船乗りだって言ってたし、無知と言う訳じゃないだろ!オレ連れてくる!!」
「ふざけるなよい!!」
「親父には、帰ってから許可を取りに行くからよ!!」
言いながら、既に足は探し人の方へと向いていた。
アオイちゃん連れて直ぐに戻るー!などと言いながら、街へと引き返して行くのだった。
残された一同は溜め息しか出なかった。
「流石に、お風呂だけって言うのは無理かぁ」
スウはいくつもの宿へと行き、その度にお風呂だけというのは……と、断られてしまっていた。
「このままじゃ帰れない……」
でも、殆どのクルーは朝帰りが多い。
今日ぐらいは、私も朝帰りしても問題ないよね?なんて考え、次に向かう宿では部屋を取ろうと足を進めた時、路地裏の方から何やら気になる言葉が聞こえてきた。
スウは声が聞こえた方へと視線だけ向ければ、いかにも海賊な輩がいた。
「白ひげ海賊団が今この島にいるらしいぞ」
「隊長達は酒場だと聞いた。今なら奇襲すれば潰せるんじゃねぇか?」
「……寝込みを襲うとか?酒が入ってりゃあ、直ぐには起きてこないだろ」
これを聞いたスウは、急いで隊長達に知らせないと……と、すっかり自分の今の状態を忘れて、来た道を戻れば、ちょうど良くサッチの姿を見付けた。
下手に声を出せば、あの連中に気付かれると思ったスウは、夜の女みたくサッチの腕にしがみ付いた。
「サッチ隊長」
「うお!アオイちゃん?」
「そのまま歩いて下さい。気付かれます」
ただ事じゃない雰囲気を感じ取ったサッチは、スウの肩を抱いて歩き出した。
「誰かに追われてるのか?」
「違います。先程、気になる事を聞いたので」
スウは先程の海賊達の事を話せば、サッチはスウの方を見て驚いた顔をした。
「……それを言う為にわざわざ?」
「簡単にやられるとは思ってません。ですが、被害は最小限の方が良いかと思いまして……」
「下手に首を突っ込まない方が良いよ!海賊じゃないんだから」
「海賊です」
「は?」
突然の言葉にサッチはスウを見た。
「このままじゃ宿には行けないので、もう諦めます。このまま一緒に帰りましょう」
「か、帰るって?」
「まだ気が付きませんか?私はスウですよ」
「なぁんだ!スウだったのか!」
「はい」
「へー………………」
「…………」
「…………ええええぇぇぇぇ!!!???」
夜の街に木霊するサッチの叫びに、スウは慌てた。
「隊長、静かにお願いします!」
「いやいやいや!!」
「何ですか?」
「……本当にスウなのか!?」
「……今日のこの格好はたまたまです。二度はないので……驚かせてしまい、すいません」
「髪の毛にウェーブかけて、化粧もして、ドレスも……女にしか見えない……」
「やはり、私にはいつもの格好がお似合いです」
「そんな事言わないで、またそういう格好すれば良いじゃん!オレが買ってやるよ!」
「……サッチ隊長、今はそういう話しをしてる場合ではありません。直ぐに船に戻りましょう」
「……真面目だね」
サッチの腕を引っ張って、船へと戻るスウ。
とにかく報告が済んだら、戦闘前には着替えたいな……と思うスウだった。
「サッチ!!てめぇ、本当に連れてきてんじゃねぇよい!!」
「マルコ、落ち着け!事情があるんだ!!」
船へと戻れば、真っ先にマルコに怒鳴られるのだった。
「マルコ隊長。お叱りは後程受けます。ですが、まずは私の話しを聞いて下さい」
スウが言えば、マルコはサッチを見た。
「乗る気になってるじゃねぇか……どうする気だ?」
「だから、違うって!!」
「何が違うんだよい!?」
「この子はスウだぞ!!」
「…………は?」
流石のマルコもサッチの言葉に一瞬唖然としたが、直ぐに口を開いた。
「見え見えの嘘なんか吐いてんじゃねぇよい!!」
「マルコ隊長!!」
このままでは話しが出来ないと思い、無礼を承知でマルコが言葉を発する前に先程の事を話し始めた。
すると、マルコは眼を見開いてはスウを見た。
「…………本当にスウかよい?」
「そうです!」
スウは髪の毛のウェーブを解くように、グチャグチャと掻き乱し、いつものようにバンダナをした。
「紛れもなく、私です!」
「……確かに面影はあるが……」
「とにかく、何かあってからでは遅いんですよ!直ぐに対策を!!」
「あ、あぁ……」
マルコは呆然としながらも、直ぐに親父に報告するべく、その場を後にした。
「サッチ隊長、私もこのままでは戦闘が出来ないので着替えてきますね!その後、直ぐに戦闘準備に入ります」
言うだけ言って、直ぐにその場を後にするのだった。
残されたサッチは、スウの姿が見えなくなった時、ポツリと言葉を零した。
「あの強気なところは、紛れもなくスウだな……」
直ぐに風呂場に駆け込んだスウは化粧を落とし、いつもの格好に着替えては甲板へと走った。
すると、既に事情が分かったクルー達は甲板に集まっていた。
スウは近くに同じ隊のクルーを見つけ、どうする事になったのか聞いた。
「あぁ、相手を油断させる為に、敢えて普段通りにしてろってさ」
「油断?」
「攻め込んで来たところを隠れてる隊員が攻撃」
「つまり、伏兵って事ですね」
「それまでは、それぞれ気を抜かずに自由にしてろってさ」
「そう」
自由と言っても、やはり気が立ってるのか、殆どのクルーが甲板へと出て来ているのだった。
これでは相手も奇襲出来ないだろうと思っていれば、かなり単純な海賊団だったのだろう。
こちらの気が緩んでると勘違いし、船に向かって突撃してきた。
そして、海側からは船から砲弾が飛んでくるのだった。
「挟み撃ちって訳ね」
スウは見晴らしの良い見張り台へと上った。
そして、自分の愛用の武器を取り出した。
この海賊団に勧誘された原因ともなった特技……弓矢を構えた。
弦を引き、砲弾が飛んでくる船の方へと向けた。
ゆっくり呼吸し、狙いを定めては矢を放った。
すると、砲弾を打ってた者を仕留め、直ぐに次の矢を取り出した。
「見事だな!」
スウの腕前を見ていたサッチは関心したように言えば、これまたエースが口の端を上げた。
「接近戦には弱いけど、遠距離戦には強いよな!」
砲弾を打ってたのが狙撃手だったのか、砲弾が止まった。
「エース!一気に船を落とせよい!」
不死鳥の姿になったマルコが上空を飛びながら叫べば、エースは直ぐに敵船の方を見ては「火拳!!」と技を繰り出していた。
それを見張り台から見てたスウは、流石隊長と関心しては、直ぐに陸にいる敵に矢を向けた。
攻め込んで来た海賊達は成り立ての海賊団だったらしく、直ぐに終戦を迎えた。
「ったく、この白ひげ海賊団を狙うとは……バカな野郎共だ」
サッチが不敵に笑いながら言えば、周りにいたクルー達も敵達をバカにしたように笑うのだった。
見張り台にいるスウも、周りに敵がいない事を確認し、甲板へと下りようとすれば、木の陰から微かに敵の姿を見付けた。
仕留め損ねた奴がいたんだと、直ぐに弓矢を構えた。
そんな時、空から声を掛けられたスウは、その声が直ぐにマルコだと分かった。
「マルコ隊長?」
「わざと仕留めなかったんだよい」
「え?」
「どうにも、此処には船長がいなかったみたいでな」
その言葉だけで直ぐに分かった。
あいつの逃げた先には船長がいる。
徹底的に海賊団を潰そうと、船長のいる場所まで案内させる気なんだと分かった。
「後始末は、オレ達の仕事だよい」
マルコの話しを聞いたスウは弓矢を下ろし、相手を追跡するように飛んで行ってしまったマルコを見てるのだった。
「……綺麗」
思わず、見えなくなるまで見てたスウが言葉を零せば、ちょうど見張り台へと上ってきたサッチに聞かれてしまった。
「恋する乙女だね」
「サ、サッチ隊長!?」
「中々下りて来ないから、何かあったのかと心配になってね」
「ああぁ!スイマセン!!」
慌てて謝るスウをよそに、サッチはニヤニヤと意味あり気に見てくるのだった。
「そんなにマルコが気になる?」
「え!!??」
「いや、バレバレだからね?」
どうして自分の気持ちが知られてるのかと慌てるが、サッチはニヤけ顔のまま、更に言った。
「あのアオイちゃんの姿はマルコの為?」
確信してるとばかりな言い方に、スウは何も言えなくなっては顔を真っ赤にさせた。
「そうしてると女の子なんだよねぇ」
「いや……その……」
やたらと女扱いしてくるサッチに、スウは不思議に思った。
それなりに女扱いはしていたが、此処まで極端な女扱いはなかったような気がしていた。
そんな考えが顔に出ていたのか、サッチは満面の笑みを浮かべた。
「あれだけの美女に変身されたら、今まで通りに接するのは無理でしょ!」
「はい?」
「気が付かなかったオレがバカだった!!」
「……サッチ隊長?」
「男勝りな姿に惑わされ、本来の姿が分からなかったとは……」
つらつらと言葉を発するサッチに、スウは口を挿む隙がなかった。
「こんなに良い女を口説かなかったなんて……しかも、ちゃんとした女扱いもせず……一生の不覚!!!」
ヒートアップしてくるサッチに、どんな言葉を言ったら良いのか分からなくなってくれば、サッチはスウを見た。
「それなのに、何でマルコなんだ!?」
「……いきなり何の話しですか?」
「オレを好きになりなよ!大事にするよ!」
「…………え?」
「今までの分も大事にする!」
「えっと……」
これって、所謂告白?
スウは恋愛経験がない為、何処まで本気なのかと戸惑ってしまった。
相手がサッチと言う事は、もしかしたら冗談で和ませてくれてるだけだろうとも思うし……本気では……ないよね?なんて考えていれば、そこに呆れたような声が頭上から聞こえてきた。
「お前は何を言ってるんだよい」
「マルコ隊長!?あれ?敵は……」
「殲滅したよい」
マルコは見張り台に下りては能力を解いた。
「マルコ!オレの一世一代の告白を邪魔するな!」
「お前の一世一代は年がら年中だろ」
「オレはいつだって本気だ!」
「色ボケ」
「何だと!?」
二人はじゃれあい程度に小突き合えば、突然サッチがスウを見てきた。
「で?」
「はい、何でしょう?」
「何でしょう?……じゃなくて、返事は?」
「へ……返事!?」
「お断りだとよい」
「マルコには聞いてないだろ!!」
「今まで、ちゃんと女として見てなかったくせに……」
「そうだが、本来の魅力が分かってしまえば、口説かずにはいられないだろうが!」
サッチの顔を見ても、からかわれてるようにしか思えなくて、どう答えるべきか悩んでいれば、サッチは追い打ちをかけた。
「スウの好きな人は誰?聞いたら諦める」
それを聞いた瞬間、スウは心の中で絶叫した。
知ってるくせに、何でそういう事を!!
しかも、此処にはその本人がいるのに!!なんて、既にパニックになっているスウを見て、マルコは溜め息を吐き、サッチを拳骨で殴った。
「からかうのも其処までにしとけ」
「いってぇ……」
「スウ、サッチの事は気にしなくて良い。戦闘も終わったし、部屋でゆっくりすると良いよい」
「は、はい!」
マルコの言葉に助けられたと思ったスウは、これ以上サッチから何か言われる前にと、直ぐに見張り台から下りて船内へと駆けて行くのだった。
それを見てたサッチは、マルコを見ては意外そうにしていた。
「人の恋路を邪魔するなんて珍しい……」
「てめぇは本気じゃないだろ」
「……本気だって言ったら?」
「………………好きにしろよい」
そう言ってマルコは見張り台から飛び降り、甲板へと着地すれば、そのまま船内へと姿を消した。
「今の間は迷いがあるな……」
何やら意味あり気に笑うサッチは、機嫌良く見張り台から下りれば、食堂へと向かうのだった。
「サッチ……オレ達を呼び出して、何をする気だ?」
食堂に集まったメンツを見て、エースが聞いたのだった。
隊長達……そして、何故かマルコと一番話すであろうナース長までいた。
「私まで呼び出して……これからカルテの確認もしなくちゃいけないのに……」
「何か気になる事があるなら、何でマルコも呼ばないんだ?」
ハルタが聞けば、サッチは口の端を上げた。
「そのマルコの事での話し合いだからだ」
「はぁ?」
「ズバリ!!マルコの恋を応援しよう会議だ!!」
この言葉に、その場にいた者達は黙った。
「……恋?誰かに惚れたのか?」
ビスタが聞けば、サッチはよくぞ聞いてくれたと、ウキウキに話し始めるのだった。
実は、あの時酒場で見た女がスウである事。
その時のマルコの様子。
そして、先程の見張り台での話しをすれば、一同は何となく納得し、成程ねぇ……なんて思った瞬間、食堂に隊長達の叫びが木霊した。
「ちょちょっ……えぇ!?あの女がスウ!?」
「エース……少しは落ち着け」
「そういうビスタも顔が引き攣ってるよ」
「……ハルタ、お前もな」
そう言ったイゾウも、驚きが隠せない顔をしていた。
「とにかくだ!そんなスウの本来の姿を見て、マルコは気になり始めたと思うんだ!!だからこそ、スウにとってチャンスだと思う訳よ!!」
力説したサッチに、ビスタはフム……と頷いた。
「つまり、妹の恋を応援したいと?」
「そういう事だ!」
「サッチ……そう言ってるわりには、楽しんでるように見えるけど?」
「ハルタ、分かってねぇな……あのマルコが、一人の女が気になってるんだぞ!?」
「……確かに、今まではそういうマルコを見た事はないけど……」
「これぞ、ギャップ萌え!!」
「美人だと分かった瞬間に掌返すの早いでしょ」
ハルタの言葉に、ビスタも頷いた。
「それって、スウに失礼だろ」
「美人の悩み、このオレが解決してみせる」
回りの声をスルーするサッチ。
それにしても、スウの気持ちはバレバレだなと思うビスタ。
「……で?それで、私まで何で……」
「ナース長には、やってもらいたい事があるんだなぁ!」
サッチの提案は、きっとくだらない事なんだろうと思う一同は聞きたくないなぁと思うのだった。