私に命令しないで
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「おい!」
……この男は、呼べば女なら誰もが自分に寄ってくると思っているのか。
しかも、おいって何よ。
私は絶対に許さないんだから。
「テメェ、無視してんじゃねぇ!」
この煩い男……ユースタス・キャプテン・キッドは私の男だった。
そう……だったのだ。
三時間前までは。
「ウミ!!」
名前を呼ばれ、やれやれ……と、冷めた眼でキッドを見れば、彼の逆鱗に触れたのだろう。
額に青筋が浮かんだ。
「オレにそんな眼するなんざ、いい度胸じゃねぇか!!」
……この男は三時間前まで、自分が何をしていたのか忘れたのか?
もうボケが始まったか?
そういえば、あの時キラーはやたらと私を外に出させたくなさそうだったし……船に留まらせようとしてたのは、アレを見せない為。
だとしたら、キラーは承知の事だったのだと思うと、また苛々する。
思い出したくないのに、思い出してしまう……三時間前の街での事。
「ウミ、何処へ行く?」
声の聞こえた方へと顔を向ければ、キラーがいた。
「いつも通り、情報収集に行くだけよ」
そう……私は今まで、そうやって生きてきた。
情報屋紛いな事をして、生計を立ててきた。
もう癖に近い。
それに海賊船に乗った後も、情報は武器になるし、今までと変わりはない。
船に乗ってからも情報は集めてた。
いつもと同じなのに……今回に限ってキラーが何処へ行くのか聞いてきた事に疑問を感じた。
「いつもの事なのに……今更聞く事?」
「あぁ……今回は他の奴に行かせた。だから、お前は船でゆっくりすると良い」
「……どんな気まぐれ?」
「いつもお前に任せきりだったからな。たまには、休息も必要だろう」
「いつもの事だから、苦にはならないわよ?」
……何だろう。
キラーが微妙に変だ。
確かに、いつも優しいよ!?
気遣いも変わらない。
だけど雰囲気に違和感がある……。
そもそも、情報収集は私の仕事でもある。
なのに、休息!?
「部屋に紅茶でも持っていってやる。今回ぐらいは、ゆっくり休め」
有無を言わさぬ威圧感がある……。
街に何かあるのだろうか?
海賊専門の情報屋なんてやってるから、海軍からは狙われやすいけど、この街に海軍なんていたかな?
小さい島だし、海軍基地なんてない。
「ウミ、此処は賞金稼ぎが多く出るらしい。小さい島だからこそ、狙いやすい。あまり、動き回るのは得策ではない」
(いつも情報収集の時は隠密行動してるんですけど……それ以外の時、暴れる事は否定しないが)
「ログの溜まる期間も分かってるし、有益な情報もそこまで入らないだろう」
「だから、今回は情報収集はいらないと?」
「あぁ」
ウミは納得出来なくとも、此処までキラーに言われてしまえば、大人しく引き下がるしかないと判断し、部屋へと足を向けた。
納得出来る訳がない。
この街には何かある。
気になって仕方ないウミはこっそりと船を抜け出すのだった。
(……何よ。普通の街じゃない。これと言って変わった様子はないし……。キラーの言う通り、あまり良い情報は望めないかしら)
キラーの気遣いを疑った事に、良心が痛んだ。
……私がいなくなった事に、気付かれる前に船に戻ろう。
来た道を戻ろうとした時、視界の端に見慣れた色が見えた。
(今のはキッド……裏道の方に酒場なんてあったっけ?)
いつも隣にある赤。
見間違える筈がない。
そして、この時のウミは気が付いてしまった。
キッドが一人でいる事に。
ウミはキッドに気付かれないように、後を追った。
私は何をしてるのだろうか。
彼の後をこっそりと……。
だけど、彼の足が向いてる方向を考えれば……気になってしまう。
その場所は盛り場のある方……。
確かに、最近は体調も優れなかったし、拒んじゃったよ。
だからと言って、キッドが裏切るような真似なんて……。
そう考えてるうちに、キッドの傍へと近づく煌びやかな女がいた。
ボン、キュッ、ボン!
はい!勝てません!
私はお世辞にもスタイルが良いとは言えません!
じゃじゃ馬どころか、猛獣と言われる程の私だ。
天と地、月と石ころ……自分で言って落ち込む程に違い過ぎる。
思わず項垂れてしまった。
キッドは何で私を船に乗せたか……そこそこ戦闘が出来て、情報収集に長けてる。
何より、初めて会った時なんて、猛獣を手懐けるのも悪かねぇ……なんて言って、ほぼ強制に船に乗せたし。
『気の強ぇ女は嫌いじゃねぇ。オレの女になっとけ』
暇潰しなのか……その言葉から始まった私達の関係。
初めからキッドは本気で私が好きだった訳じゃない。
好きとか、それを匂わす言葉もなかった。
私も最初は本気じゃなかったけど……ハマってしまった。
赤い悪魔に魅入られた。
フッと思考を戻し、キッドの方を見れば、女はキッドの腕に絡み付き、身体を擦り付ける。
(私とは正反対の女)
キッドと女は更に裏道へと入っていき、人気のない場所へと向かうのだった。
ウミはこれ以上、覗き見るのは自分の心が追いつかなだろうし、何よりキッドを信じたい気持ちもあり、その場を離れ船へと足を向けようとした時……。
「は……ぁん……」
女の声が聞こえてしまった。
振り返りたくない。
きっと違う人達だ……。
確かめるように振り返った。
……これなら、まだ宿から出て来たところを目撃した方がマシだったかも。
現行犯。
情事を見る事になってしまうなんて。
宿から出て来た場合の方が無理矢理にでも、こじ付けでどうとでもなる。
情報を得る為に、二人で話しが出来るからとか……。
その場から逃げる事しか出来なかった。
いつから、こんなに弱い女になったのだろう。
ただひたすらに、船へと向かって走った。
誰にも知られる事もなく船へと戻り、部屋へと戻った……が、部屋にはキラーがいた。
そういえば、紅茶を持って行くとか言ってたな……なんて、ぼんやりと考えてれば、キラーから溜め息が聞こえた。
「今回は休んでろと言ったと思うが?」
キラーの声からは、心情を察する事が出来なかった。
「……紅茶、持って来てくれたの?ありがとう」
机の上に置かれてるのを見て、そう呟けば更に溜め息が聞こえた。
「街でキッドを……見たのか?」
直球で聞いてきた。
いや……私の微かな表情の変化を見て、確信してるんだろう。
喰えない男だ。
「キッドから命令されてた?私を船から出すなって……」
「……」
無言。
肯定って事か。
「キッドが私に飽きたって事は、もう私達は終わった。そういう事でしょ。なら、もう私には関係のない事」
キラーはウミの言葉を聞いて、口を開こうとすれば、それを遮るようにウミが先に口を開いた。
「今日はもう船から出ない。少し休むから部屋から出てってくれる?」
そう言ってベッドに横たわる。
話は終わりだと言わんばかりにブランケットを頭から被る。
それを見たキラーは、時間を置いてから、また話せば良い……そう思い、部屋から出ようとすれば、紅茶ありがとうと力のない声が耳に入る。
それを聞いて、そのまま部屋を後にした。
キラーが去った後、ウミは静かに頬に一滴の水を流した。
今だけは……直ぐにいつもの強い私に戻る。
猛獣と言われてた、前の自分に。
どれぐらいの時間が経ったのか。
気持ちが少し落ち着いてくれば、今度は沸々と怒りが込み上げてきた。
あの自分勝手に振り回されて……。
もう勝手にすれば良い!
私も、前の私みたいに勝手にする!!
そして、戻ってきたキッドはキラーから聞いたのだろう。
デカイ足音を響かせながら、部屋へと来るのだった。
「おい!」
もう怒り過ぎて、言葉も出ないや。
うん!
三時間前までの私は、確実に乙女だったかもしれない。
アレからたった三時間しか経ってないのに、人というのはちょっとしたきっかけで変われるものだ。
今、眼の前にいる男を冷めた眼で見る自分がいるんだから。
「オレにそんな眼するなんざ、いい度胸じゃねぇか!!」
そんな眼も何も、初めて会った時とそう変わらない眼だと思うんだけどねぇ。
変わらず無言でキッドを見てれば、更に眉間に皺を寄せる。
「テメェは船に待機だと言っただろ!!」
「私は聞いてないし」
「キラーに伝えさせただろ!」
「……私はキッドのクルーになったつもりはないのよ?」
私は射抜くようにキッドを見て言った。
「私に命令しないで!」
ほんの少し、眼を見開くキッド。
それに気が付きながらもウミは口を開く。
「一度だって、私はクルーになると言った覚えはないし、キッドも船に乗れとは言ったけど、クルーになれとは言わなかった。無理矢理乗せられただけ」
「……そうかよ。だったら勝手に出てけ!!」
「そうするわ」
キッドは荒々しく部屋から出て行った。
それを見送ったウミは直ぐに荷物をまとめる。
結局、キッドにとって私はどうでも良い存在。
今回の事で良く解った。
これもまた良いきっかけだったのかもしれない。
一方的な思いは辛いだけ。
全てをふっ切るように部屋を後にし、甲板へ出れば状況が解ってるのか解ってないのか……キラーやクルー達がちらほらといた。
「……ウミ」
「不本意だけど世話になった」
話しかけてくれたキラー、何とも言えない表情をしたクルー達にそう言い残し、直ぐに船を降りた。
振り返る事もなく、街へと足を速めた。
(……とりあえず、宿は見つけないと)
街へと着いたウミは宿を探そうと歩いていれば、突然の立ち眩みでその場に座り込んだ。
(宿の前に医者かな?全然、体調が戻らない……。まいったな)
「どうしたの?大丈夫?」
そのまま座り込んでいれば、男の声がした。
少しだけ、顔を上げて視線を向ければ、男が慌て出した。
「顔が真っ青!い、医者!!」
慌てた男の表情を最後に、限界を迎えたウミは意識を手放した。
微かな意識の中で木々のざわつきが聞こえる。
気持ち良い音……そう思うと、次第に意識がハッキリしてくる。
「大丈夫?」
……先程の男がいる。
「……此処は?」
「病院。覚えてる?君、顔真っ青で座り込んでると思ったら、そのまま気を失ったんだよ」
「此処まで……運んでくれたの?」
「あぁ」
「そう、ありがとう」
「俺はこの病院で先生の助手してるカイトってんだ。」
「ウミよ。迷惑かけたわね」
そう言って起き上がろうとすればカイトに止められた。
「まだ顔色も悪いし、もう少し休んでいきな。助手とはいえ、俺が連れてきた患者だ。大丈夫だと判断出来るまではベッドから出るなよ」
「……大袈裟な」
「大袈裟ではないわ。鈍感娘が」
突然、ドアを開けて入ってきたのは七十代ぐらいの男の人だった。
「先生!」
「先生……医者?」
「あぁ、先生がウミを診察したんだ」
「そうですか。ありがとうございます」
お礼を言うウミを見た医者は、微笑を浮かべた。
「それで先生?診察結果は?」
カイトが問えば医者は、満面の笑みを浮かべた。
「……お前さんは自分で気が付いておらんかったのか?」
「……何がです?」
突然の言葉と笑みに、どう反応して良いのか解らなかった。
そして医者の言葉に、完全に思考が停止した。
「おめでただ!!」
「おめでた……って事はお腹に子供が!?ウミ、おめでとう!!」
カイトのお祝いの言葉すら耳には入らなかった。
先程、キッドと別れた挙句、船まで下りた。
あんな事がなければ、直ぐにキッドに言って喜んでたと思うと……涙が溢れてきた。
ふっ切れようと思ってたのに……私にとって、とんでもない宝を残すなんて。
そもそも、あんな事がある前でも、キッドは喜んでくれてたのだろうか?
それは解らないけど、嬉しさと複雑な思いのまま、ただただ……涙が止まらなかった。
何故こうなった!?
いや……あの二人が素直になってれば、こんなに拗れる事はなかったのでは……?
キラーはウミが出て行って直ぐに、キッドの元へと行ったが……もう手が付けられない程に荒れていた。
いつからか、二人は苛々しては喧嘩をして、口を利かなくなって……今回島に着くなり、キッドは女を買いに行くと言い出し、ウミには船で待機させろとか……。
あの時、最後までウミと話していれば、何かが変わったのか?
いや、過ぎてしまった事は仕方ない。
思考をストップさせるかのようにワイヤーが話しかけてきた。
「キッドの頭はウミを追いかけねぇのか?」
「……意地になってるんだろう」
「オレ達が追いかける訳にもいかないしな。…………散歩に行ってくるか」
ワイヤーは、ヒートや他クルー数名と共に、散歩へと出かけていった。
この船にはお節介が多いのかもしれないと、仮面の下で笑みを零すのだった。
一方ウミは、ようやく体調も落ち着き、医者からの許可も下りて、宿探しをしていた。
カイトと共に。
「一緒に宿を探してくれるのは有り難いけど……そこまで危なっかしいかな?」
「あぁ!それに先生に言われてんだ。この鈍感娘を宿まで送れってな」
(鈍感娘……否定出来ない)
「しかも今まで、海賊船に乗ってたんだろ?何かのきっかけで騒動が起きれば、自分が妊婦だという事を忘れて戦いかねないとも言ってたしな」
(……それも否定出来ない)
「とにかく、明日も先生の健診を受けに来いよ。まだログは溜まらないだろからさ。この島にいる間は先生が見てくれるよ」
「……うん」
医者のジっちゃんやカイトには、船を降りた事はまだ言ってない。
キッドの事も……。
あんなに自分の事のように喜んでくれた二人には話しづらかった。
とにかく長期滞在を考えて、お金を節約して、何処か働き口も探さないと……。
私はこの子を産むんだから。
キッドには言えないから、隠し子になっちゃうけど……キッドには目指すべき場所もあるし。
キッドからの贈り物だ。
最初で最後の……。
そう決意した時、銃声が響き渡った。
「キッド海賊団だ!!」
賞金稼ぎと衝突したのかもしれない。
ウミは反射的に戦闘へと身を投じようとして、後ろから羽交い絞めにされて止められた。
「今言ったばかりだろ!!」
カイトの怒鳴り声に、身を竦ませた。
「母親になるって決めたんだろ!?」
言葉が出なかった。
そうだ……私はこの子を守り、育てようと決めたばかり。
それに船を降りた私には、戦いに飛び込む理由もない。
ウミが身体の力を抜くと、カイトは拘束を解いた。
「とにかく、此処から離れるぞ」
頷くウミを見て、手を引きその場から離れようとした時だった。
「情報屋のウミだ!!」
「キッド海賊団の仲間がいやがった!!」
「くそ!!挟み撃ちにするつもりだったか!!」
賞金稼ぎ達がウミに気が付いた事で、その場にいたワイヤーやヒート達もウミの存在に気が付いた。
「ウミ!!」
「戻って来い!」
戦闘を行いながら、ウミへと呼びかける。
思わず立ち止まって、みんなの方へと視線を向ければカイトに手を引かれた。
「話なら後でも出来るだろ!今は子供を優先に考えろ!!」
カイトの言葉にハッとし、直ぐに前を向いて避難しようとしたが、それ以上は進めなかった。
お腹に衝撃……。
痛いというよりは熱い。
身体に力が入らないや……。
倒れ込んだ私が最後に見たのは、カイトやみんなが何かを叫んでる姿だった。
……今日一日で私は何回、気を失ったんだろう。
ぼやける視界の中で、ジっちゃん医者の病院だと解った。
此処で眼が覚めるのも二回目。
まだ意識がぼんやりとする中で、微かに声が聞こえる。
視線を向けても、カーテンで遮られて状況が解らなかった。
「この小僧共が!!」
突然の怒鳴り声に、流石のウミも少しだけ意識が覚醒した。
(今のは、ジっちゃん医者……何事?)
ウミは耳を澄ませた。
「お前さんはそれでも、あの娘の男か!?体調にも気付いてやらんで!!」
「んだと、ジジイ!!」
「一番近くにいるお前さんが気付かんで、誰が気付いてやれる!!これは船医にも言えるぞ!!何の為の船医じゃ!!それにカイト!何の為にお前に送らせたんだ!!こうならない為だろうが!!」
「すすす、すいません!!」
医者の剣幕にキッド達はたじろぎ、カイトは顔を真っ青にしていた。
「ジイさん、ウミの体調がどうとか言ってるが、そんなに酷いのか?」
「体調が悪い時に、怪我しちまうなんて……大丈夫なんだろうな?」
キラーとヒートは問いかけた。
「一歩間違えば、二人とも危なかった。でも助かって良かったわい」
「オレ達はウミの事を聞きたいんであって、この男の事は聞いてない」
「誰がカイトの事だと言った」
「……どういう事だ?」
キラーは医者の言葉に困惑してきていた。
「あの娘は「ジっちゃん医者!!」
「っ娘!起きたか」
「ウミ!!」
カーテンを開ければ、蹲るウミがいた。
「そんな傷で叫べば、痛むのは当たり前だ」
ウミは医者の言葉を無視し、小声で呟いた。
「お願い……言わないで……誰にも……」
眼に涙を浮かべる。
その瞬間、ハッと思い出し、弾かれたように医者を凝視する。
「無事……だよね?」
痛みも忘れウミは医者へと掴みかかった。
「ねぇ!!大丈夫なんだよね!?何か言ってよ!!」
興奮するウミをキラーが諫める。
「ウミ!何の事を言ってるのかは分からないが、とにかく落ち着け!傷に障る!」
「無事だよね!?」
「さっき言わなかったか?聞いてたんだろ?」
「って事は……」
「大丈夫じゃよ」
その言葉を聞いたウミは脱力し、安堵の涙を流した。
良かったと何度も呟きながら、ただただ泣いていた。
訳の分からないキッド達は困惑するばかりである。
暫くし、落ち着いたウミは眠ってしまっていた。
それを見て、キッドは医者を睨んだ。
「洗いざらい全部話してもらおうじゃねぇか、ジジイ。どういう事だ?」
医者は溜め息を吐いた。
「さっきの聞こえとったんだろう。本人が言いたくないとさ」
「関係ねぇ、話せ」
「それは何の為にだ?」
突然の問いに言葉を失ったキッド。
それを見た医者は口を開いた。
「直ぐに答えられないような奴には話さんよ」
「……」
「キッド……」
キラーに諭されるように名前を呼ばれれば、静かに呼吸し徐に口を開いた。
「あいつは……ウミはオレの女だ!大事奴の事ぐれぇ知っておきてぇ」
キッドは医者を見据える。
「頼む……」
……あのまま泣き疲れて寝ちゃったのか。
ゆっくり深呼吸して、横を向けばキッドと眼が合った。
「起きたかよ」
「キッド……」
お互い、一瞬気まずそうにするも、眼を逸らす事はなかった。
この状況をどうしようかとウミが考えていれば、キッドがボソリと何かを言ったが聞き取れず、もう一度聞き返せば、眼を逸らしながら口を開いた。
「悪かった……」
キッドの言葉に息を呑んだ。
「言いたい事だとか、聞きたい事だとか、互いにあるかもしれねぇ。だけど今はこれだけ言わせろ」
キッドは眼を合わせ言った。
「オレにはお前が必要だ」
真っ直ぐな言葉に、涙が溢れた。
「ガキの事も聞いた。だから二人で船に戻って来い」
ウミは溢れる涙を我慢せず、泣いた。
キッドはそんなウミの頭を何も言わず、撫でていた。
そんな中、ウミの耳元で囁くように零したキッドの言葉に、聞いた本人だけでなく、言った本人ですら顔を真っ赤にしていた。
やっと好きの言葉をくれたね、キッド。
それだけで私は嬉しくて仕方ない。
ログも溜まり、ウミの怪我もある程度治ったので、出航となった。
「お世話になりました」
「また、この島へ来た時は、顔見せに来てよ。三人でさ!」
「カイト……本当にありがとう」
「キッド、ウミ。そろそろ時間だぞ」
「あぁ」
キラーが呼びに来れば、二人は医者とカイトに向き直った。
「それじゃあね。元海賊のジっちゃん」
「気付いておったのか」
「これでも情報屋ですからね!」
ウミは言い逃げるかのように、その場を離れて行くのだった。
「……ジジイ、海賊だったのか」
「どうりで、オレ達を前にしても平然としてた訳だ」
「昔の事だ。それより早く行け。じゃじゃ馬が何をしでかすか分からんぞ」
「……違いない」
キッドとキラーはウミの後を追うのだった。
「ところで、二人は何で喧嘩をしていたんだ?」
船へと戻る最中、キラーは疑問を問いかけた。
「……それ、今聞いちゃうの?」
「周りにあれだけ迷惑かけたんだ。聞く権利はあるだろう」
キラーの突然の問いに、ウミが不機嫌そうに話し出した。
「私が体調が悪いのに、ヤろうって迫ってきて……それで喧嘩して口も利かなくなって、キッドが浮気!今思えば、体調が悪かったのも妊婦だからなのに……酷いよねぇ」
「……子供か、キッド」
「うるせぇ!!」
船へと戻り、後はキッド達が乗るだけの時、ウミは足を止めた。
「どうした?」
「ねぇキッド?私はこの船にクルーとしてじゃなく、キッドの女として乗って良いのよね?」
「……あぁ」
「そう」
ウミは船へと乗り込み、キッドの方へと振り返った。
「改めて、宜しくね。パパ!」
パパと言われたキッドは顔を真っ赤にして慌てた。
周りのクルー達も身体を震わせ、笑いを堪えている。
「っさっさと出航しろ!!」
キッドが怒鳴れば、全員持ち場へと逃げて行った。
「テメェもさっさと部屋に戻ってろ!!」
「キッド?言った筈よ」
「あぁ!?」
「私はクルーじゃないの」
不敵な笑みを浮かべたウミは言い放った。
「私に命令しないで……ね!」
あとがき
はじめまして、こんにちは。
この度はご訪問して下さり、ありがとうございます。
このサイトでの記念すべき一作目となりました。
まだまだ初心者なのでグダグダな内容ですが、ご愛嬌でお願いします(汗)
これからも精進し、皆様に楽しんで頂けるようなものを書けたらと思ってます。
此処まで読んで頂き感謝です。
皆様にとって、素敵な夢に出会える事を祈ってます!
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