飛べない翼
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数日が経ち、白ひげ海賊団は島へと辿り着いた。
甲板から島へと視線を向けたサッチは、そのままマルコへと視線を移した。
(マリアはもうこの島にはいないだろうな)
マリアからの報告で、嵐に関する情報を得ていただけに、嵐前に辿り着けたのは助かったと思った。
だからこそ、嵐前にはマリアは此処を離れただろうと思うと、何とも言えなかった。
島に船が着いた事を遠くから確認したマリアは、安心したように笑みを浮かべた。
(……親父に手紙を出さなきゃ)
この白ひげ海賊団の為に動く事が出来なくなった事を。
自分の腕を見ては、唇を噛み締めた。
狙撃された腕は……
切断するしかなかった。
骨を砕き、神経やら何やらと、とにかく治療不可能までにされた。
生き残るには、腕を諦めるしかなかった。
こうなっては、空を飛ぶ事は二度と出来ない。
諜報をこなす事は出来なくなった。
今も、医者によって強制入院させられている。
あの日、狙撃手に殺される覚悟で街の医者へと駆け込んだが……特に狙撃される事もなく、今に至る。
「私の旅も此処まで……」
私の存在意義が……
本当になくなってしまった。
マリアの情報は嵐の事と、白ひげ海賊団を狙う輩がいる事。
大まかには、この二つが重要。
だが、それよりも親父やサッチには少し気掛かりがあった。
あれ以降、頻繁にあった報告が途切れている事。
「少し、この街で調べてみるか?」
サッチの言葉に、親父はマルコへと視線を向けた。
「マルコ、お前が調べろ」
「わかったよい」
普通に返事をしたが、長年一緒にいる仲間達には分かった。
何処となく元気がないであろう事を。
それも、マリア絡みである事も。
誰も何も言わないが、マリアがマルコに惚れて、何度も告白していた事は知っている。
それに対して、マルコもマリアがいなくなった事で気になりだしている事を。
「街の様子を見がてら、あいつの事も探ってくる」
それだけを告げると、マルコは船を降りて街へと向かうのだった。
そんなマルコを見送った後、一同は顔を見合わせた。
「やっぱり、マルコも心配してるのかもね」
「そりゃあ……あいつから、こんな長く連絡がないって初めてだしな」
隊長達が口々に言う中、親父は隊長達に向かって何やら言葉を発したのだった。
「……この報告が最後……」
この島に狙撃手がいる事。
詳しくは書かず、ただこれ以上は白ひげ海賊団の為に動く事が出来ないから、海賊団をやめる……それだけを書いた手紙を手にしては、窓へと視線を向けた。
「私の役目も終わりね」
眼を伏せて、色々と想いを巡らせた。
だが、いつまでもこうしてる訳にもいかない。
マリアは窓を開けては、近くにいたカラスを呼んだ。
(狙撃手がいる以上、このカラスも船まで辿り着けるか分からないけど……)
それでも、託すしかない。
カラスの足に手紙を結び、空へと放った。
街中を歩いているマルコの横をカラスが通り過ぎた。
これで、私は白ひげ海賊団の者ではなくなった。
ただの旅人だ。
先ずは怪我を治し、その後はこれまでの経験を生かしてひっそりと情報屋でもやれば良い。
(……これで良かったんだ)
これまでの事は忘れよう。
失った腕に手を添えて、静かに涙した。
「一体、あいつに何があったんだ……?」
先程届いた手紙を読んだ親父や隊長達は苦い顔をした。
「マリアの性格上、これ以上諜報が出来ないって事は……何かがあったんだろう」
「責任感強いしな」
「だが、その理由を何も書いてない」
「突然、船を降りるなんて……」
静まり返る部屋。
そんな中、親父がポツリと言った。
「マルコが何か情報を持ち帰ってくりゃあ……」
その日に戻ってきたマルコからは、特に問題ないと……何の情報も入らなかった。
嵐の前の静けさ……。
その言葉が当てはまるかのように、数日程滞在したが、特に何もなければ、マリアに関する情報も得る事がなかった。
そうしてるうちに、次第に辺りは雲行きが怪しくなってきた。
「そろそろ大きな嵐が来るわね……」
嵐の前に島から出る事が出来なかったマリアは、病室の窓から空を見上げた。
もう……あの空は飛べない。
漆黒の空は私の空だったのに……。
青い空は……。
浮かんだ考えを振り切るかのように眼を閉じては、再度外を見た。
(それにしても、あの狙撃手はなんだったの?)
あれから、まったく動きがない。
てっきりあの者達の仲間だと思ったけど……。
(考えても仕方ないのに……)
ただただ時間の経過も忘れ、外を見ているマリア。
次第に雨風が強くなり、気が付けば雨の勢いで完全に外の景色が見えなくなっていた。
「うわぁ……こりゃあ想像以上の嵐だな」
外を見ながら言うサッチは、溜め息を吐いた。
マリアの情報通り、この島に停泊して正解だったと思うも、もう一つの懸念……狙撃手には気を緩める事は出来ない。
そんな時、雨の音に紛れながらも、微かに何か音が聞こえた気がしたサッチは耳を澄ませるが、特に何もなさそうだったので、気のせいかとまた外へと視線を向けるのだった。
「今のは……」
マリアもまた、微かに何かが聞こえていた。
「もしかして……」
この嵐に乗じる気か……?
聞き間違いじゃなければ、今のは銃声……。
行かなくちゃ……。
無意識だった。
身体が勝手に動いてしまった。
気が付いた時には病室を出て、外を走っていた。
いざと言う時は、この命と引き換えにしても……。
覚悟を決めたマリアは、短刀を握り締めて、船までの道を走った。
「さて……白ひげ海賊団は何処まで楽しませてくれるやら」
男は崖の上からスコープを覗き込み、またも引き金を引いた。
パーン……。
「聞こえてる筈だぜ」
殆どが船内にいる。
だからこそ、わざと外して威嚇している。
「外に出てきた時が……最後だ」
またもスコープを覗き込んで狙いを定めていれば、突然スコープ内の視界が暗くなった。
「私の耳にはちゃんと聞こえてたわよ」
銃声……。
その言葉と共に、マリアは持っていた短刀を男に向けて斬り付けた。
周りを警戒してなかった男は、あっさりと引き金を引く為の指を切り落とされた。
「お前は……」
男はマリアの腕を見て、口の端を上げた。
「あの時の女か。やはり、白ひげのモンだったか」
「残念ながら、私は白ひげの者じゃない」
マリアは男の眼を狙って突いた……が、かろうじて避けられてしまったが、マリアは不敵な笑みを浮かべた。
「まぁ、どう転んでもあんたの負け」
「何だと……?」
男が不可解そうにした瞬間、背後から突然影が現れたかと思えば、男はそのまま意識をなくすのだった。
「……狙撃手って、こいつかよい」
男を倒したマルコは辺りを見回した。
「マリア……いるんだろ?」
マルコが男を蹴り倒す瞬間に、マリアは即座に隠れていた。
「あんな手紙一つで海賊団を抜けられると思ってるのかよい」
(……久しぶりのマルコの声……)
「いるのは分かってるんだよい」
(…………あぁ……まずいな……)
声を聞いただけで、吹っ切れた筈の想いが思い出されてしまった。
このまま此処にいるのはマズイ。
離れよう……。
マリアは気配を消したまま、その場を離れようとした時だった。
「分からねぇとでも思ったのか?」
何故かあっさりと見付かった事に、驚きが隠せないマリアは、目の前にいるマルコを見た。
「……どうして……」
「あの狙撃手は接近戦が弱すぎだ」
蹴りながらもお前の姿を捉えるのは難しい事じゃない。
そう言ったマルコがマリアに近付いた。
「……戻って来いよい」
「戻らないわ」
「あれを……気にしてんなら……」
「違うわ」
マリアはマルコの胸元を押した。
「私は……もう飛べない」
悲しそうに言ったマリアを見て、マルコは眼を見開いた。
「腕……」
「もう、戦う事も難しいわ」
今のも、絶対に誰かが気付くだろう確信があったから、男に立ち向かえた。
「もう……無理なのよ」
何も言えなくなったマルコだったが、それでもマリアに近付き言った。
「双翼……」
「え……?」
「片方の翼がなくなったなら、オレがもう一方の翼になってやるよい」
「……何を言って……」
「すまなかった」
「…………」
「お前の気持ちも考えず、最低な対応しちまった」
「……もう……気持ちの整理は付きました」
だから大丈夫です。
マリアの口から紡がれた言葉に、マルコは奥歯を噛み締めた。
「……好きだ」
「は?」
突然の言葉に、流石のマリアも直ぐに疑問を口にした。
「縛られるのは好まないのでは?」
「好まねぇよい」
「なら、今の言葉は?」
「好きだ」
「は!?」
「断られても、何度でも告白するよい」
「……どうしたんですか?」
「今更になって気が付いちまったよい」
今度はオレが何度も告白する。
お前に受け入れてもらうまで。
そう言って、マルコはマリアを抱き上げた。
「ち、ちょっと!」
「お前の意見は聞かねぇ」
海賊らしく、このままかっ拐うよい。
マルコの意外な行動に呆然とするマリアだったが、抵抗空しく船まで連れて来られてしまった。
「宝を持ってきたよい」
結局、降ろされたのは船長室に着いてからだった。
誰もがマリアの姿を見て、絶句していた。
「こいつが船を降りようとしてた理由はそれだよい」
淡々と言うマルコだったが、この状況に頭が回らないマリアは、こちらに視線を向けてくる隊長達に頬を引きつらせるしかなかった。
「腕がない!!」
「ないですね……」
単刀直入に言うのはサッチ。
「なくなったばかりだろ」
直ぐに医療室に行くよいなんて、またも抱き上げられたマリアは声を発した。
「報告は!?」
「聞いてたろ。今したよい」
「私を見付けた事だけでしょ!」
「あの狙撃手は単独で動いてた」
「それだけ?」
「この船にとっての最重要事項はお前だよい」
「え?」
「みんな探してた……」
とにかく、治ってないその腕をそのままには出来ない。
そう言っては、その場にいる一同に声を掛けて、マルコはマリアを連れて、その場を後にした。
残された一同は、顔を見合わせては一斉に笑った。
「マルコの奴、表には出さないが焦っていたな」
「またマリアに逃げられても困るからだろ!」
それぞれが笑う中、サッチは親父の方を見ては苦笑いを溢した。
「まぁ、一先ずはそっとしとくか?」
「グララララ!」
ちゃんとマリアと話をしたかったが、今暫くは待ってやるかとばかりに、親父は機嫌良さそうに酒を口にした。
「マルコ隊長!」
「こんな時に何だが、オレと付き合ってくれよい」
「さっきから、そればっか……」
「嵐が去ったら、空の散歩でもするかよい」
「だから、私は……」
「オレの翼がある」
お前が望んだ時、いつだって空を飛んでやる。
漆黒の空を飛んでやる。
「オレはお前以上にしつこいよい」
お前は、オレの告白を受け入れるしかないんだよい。
マリアは苦笑いして、諦めにも似た溜め息を吐いた。
忘れようとしてるのに、この男は……。
「お前はオレのもんだよい」
二人が寄り添う姿を見るのは、そう遠くないだろう。
あとがき
マルコ短編を読んで頂き、ありがとうございました。
詰め込んで書いたせいか、本当に纏まりがなく、読みづらくなってしまいました。
すいません。
勘を取り戻せてない感じですね。
久しぶりの短編なので自信がないのですが、それでも少しでも楽しんで下されば幸いです。
皆様に素敵な夢が訪れますように☆
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