飛べない翼
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今、私の眼の前に見えている現実は何だろう……。
「っマリア!!」
私を呼ぶあの人の声も……今は拒絶しかない。
私はたまらず、その場を走り去る事しか出来なかった。
後ろから、私の愛した人……マルコの声が聞こえても、立ち止まる事はなかった。
マルコは、私を追い掛けてくる事はない。
追い掛けられないだろう。
あの状態ならば……。
「……少しでも長く離れてると……駄目なんだね……」
静まり返った通路。
それもそうだ……。
今は、誰もが寝ている時間帯なのだから……。
「諜報の任務が少し早く終わったのに……」
浮かんでくる涙を耐え、マリアは船長室へと向かった。
私とマルコは、私が乗船した時からの付き合いだ。
乗るのと同時に、私は直ぐにマルコに一目惚れして……迷わず告白した。
最初こそ、マルコは私に関心はなく……玉砕した。
でも、諦めずに何度も告白した結果……折れたように告白を受け入れてくれたんだ。
だけど……やっぱり、どう足掻いても私を見てくれる事はなかったんだと思い知った。
マルコとデートをした事がない。
島に着いても、一緒に出歩く事もない。
私がしつこいから、マルコも渋々折れてくれただけに過ぎない。
「……だからと言って、流石に情事の場面を見るのはキツイなぁ」
最早、笑うしかない。
最初から、実る事のない恋だったんだ。
……これ以上、しつこくする訳にはいかない。
「引き際だね……」
船長室の前に立ったマリアは、寝ている船長を起こすのは忍びなく思いながらも、ドアをノックするのだった。
「マリアです」
「あぁ……入れ」
起きていたのだろうか……直ぐに返事が返ってきたので、マリアはドアノブに手を置き、部屋の中へと入るのだった。
「……予定より早かったな」
「ん……随分とお間抜けな海賊だったんで……情報が簡単に手に入ったの」
「グラララ……そうか」
手にした情報を、ゆっくりと正確に話し出すマリア。
全てを聞き終えた船長……ニューゲートは、少しだけ眼を細めながら口を開いた。
「マルコに顔を見せに行かないで良いのか?」
「……寝てると思うし……」
「いつものお前なら、マルコの顔を見てから報告に来るだろ」
「……あまりしつこいと……迷惑かなって……」
「んな訳ねぇだろ」
「……私の片想いよ」
「……付き合ってるんじゃねぇのか?」
「…………渋々、私の告白を受け入れてくれただけで……好きになってくれてる訳じゃないもの……」
もう引き際よ……と、無理して笑ったマリアを見て、ニューゲートは少しだけ顔を歪ませた。
そんなニューゲートに苦笑いを浮かべつつも、マリアは口を開いた。
「これからは、諜報に専念しようと思う」
「……お前が決めた事なら、何も言わねぇが……」
「今まで、私の我が儘で船にいさせてくれて、ありがとう……親父」
「……直ぐに行くつもりか?」
「その方が良いと思って……」
そう言いながら、ドアノブに手を掛けた。
「これからは、得た情報は手紙で送るから」
「……此処には戻って来ない気か?」
「船に乗ってなくても、私は……白ひげ海賊団のクルー……だよね?」
「当り前の事を聞くな」
「……ありがとう」
笑顔を浮かべたマリアは、そのまま船長室を後にするのだった。
残されたニューゲートは、去ったマリアの後ろ姿を見て、溜め息を吐き出すのだった。
元々、諜報で船を離れる事が多い私には、荷物が殆どない。
だから、そのままの状態で直ぐにモビーから離れた。
私はトリトリの実を食べたカラス人間。
船は必要ないし、そんな長くは飛べないけど……何とか島まで飛ぶ事は出来る。
だから、直ぐにカラスの姿になっては飛び立った。
これで良い……。
私は、裏で動くのが得意な奴だし……表に立つマルコには似合わない女だった。
それだけの事なんだ……。
漆黒の空に溶け込むように、マリアは羽ばたくのだった。
(……モビーを離れてから半年……)
諜報の任務をしてると、あっという間に時が過ぎるな……なんて思いながら、モビーへと送る手紙を書いていた。
(この手紙を書いたら、次の島に向かわなくちゃ)
出来る限り、余計な事は考えずに報告書を書いた。
諜報をしてる時は、余計な考えは浮かんでこない。
別の事に思考を取られてしまうと、命取りになるからだ。
だからこそ、悲しむ暇もなかったし、落ち込んでいる暇もなかった。
その分、任務に没頭し過ぎて……倒れかけた事もあるが……。
(そういえば、この島には親父の首を狙おうとしてる海賊がいるんだっけ……)
大した海賊団でもないけど、とりあえず伝えておくかと、その旨を書いて、手懐けたカラスの足に手紙を括り付けた。
「白ひげ海賊団までお願いね」
マリアの言葉を聞いたカラスは、羽を広げて空へと舞い上がった。
それを見届けた後、マリアは歩き始めた。
「お、カラスだ!」
見張り台にいたクルーが声を上げれば、甲板にいたクルー達は空を見上げた。
「随分と多く情報が入って来るな」
甲板に降り立ったカラスを見て、サッチが近寄った。
「ご苦労だったな」
そう言って、足に着いてる手紙を取った。
それを、そのままニューゲートの元に持って行った。
「マリアの奴……かなり危ないところまで潜入してそうだな。こんな頻繁に情報を届けてくれるなんて……」
「……あぁ」
手紙を受け取ったニューゲートは、直ぐに文字を読み始めた。
「……オレの首を狙ってる海賊団か……」
「何処の海賊団で?」
「本題は別の情報で、こっちは気にする程でもないと書いてあるな」
「そんな細かい事まで……わざわざ書かなくても良いのにな」
「……あいつなりに、この船を守ろうとしてくれてるんだろ」
「頼もしいな」
「そうだな」
ニューゲートは酒を煽るように飲んだ。
「たまには、顔を見せに来いよ……バカ娘が……」
そんな微かな呟きを聞いたサッチは、未だに甲板にいるカラスに眼を向けた。
「……一度、こっちに合流させるよう、手紙を書くか?」
「…………気が向いたら来い……そう書いとけ」
「了解」
サッチは、返信の手紙を書く為、自室に向かおうとしたところで、何故かマルコに呼び止められた。
「……何だ?」
「返信の手紙は、オレが書くよい」
「お前が……?」
「……悪いか?」
「恋文なら、個人的に書いとけ」
「違ぇよい!!」
「長い間、恋人に会えてないからって、八つ当たりすんなよ」
「違ぇって言ってんだろうがよい!!」
とにかく、オレが書く!と、サッチが持っていた手紙を奪うように取り上げれば、マルコは自室へと歩いていくのだった。
……あの日から、マリアは船から姿を消した。
あいつが諜報でいないと……そう思っては、ナースに手を出そうとした。
酒も入ってたし……何より、あいつが付き纏うようになってからは、女とご無沙汰だった。
だけど、久し振りに女が抱ける……そう思った時、タイミングが悪い事にあいつが帰ってきた。
射れる直前だっただけに、かなり不完全燃焼だったが……流石に、あの後に続きをしようとは思えなくなっちまった。
萎えた……。
元々、あいつに気がなかったし……あいつも分かってた事だ。
だから、これ幸いと別れを告げようとして、朝にあいつの部屋を見たが……いなかった。
その後、親父から本格的に諜報の任務に当たる事になったと聞いて……自然消滅で良いかと、少しの解放感と……何故か心に空いた空洞が気になったが……特に気にする事はなかった。
だけど、ある時……偶然にも聞いてしまった。
“少し前にいた女の子……可愛かったよなぁ”
“旅のモンだと言ってたが……ありゃあ、以前は何処かの船に乗ってたな”
たまたま立ち寄った島の酒場で、船乗り達の会話が耳に入った。
その時は、さり気なく聞いてただけだったが……その後に聞こえてきた言葉に、耳を疑ってしまった。
“マリアちゃん……だっけか?”
“焦らすんだよなぁ”
“何?お前、相手してもらったのか?”
“焦らすだけ焦らして、断られたよ”
“お前の顔が好みじゃなかったんだろ!”
船乗り達の笑い声が、遠く聞こえるようだった。
(情報を掴む為に、身体を使ってるのか?)
何故かムッとしたマルコだったが、何でそんな感情が出てきたのか……分からなかった。
何故か少し前を思い出しては、返信の文を書いてたペンを止めてしまった。
(……自分から突き離しておいて……何で、今更あいつの事ばかり……)
オレは……気楽な関係でいられる女が好みだ。
あいつは……そんなオレの好みとは掛け離れている。
溜め息を吐き出したマルコは、書き掛けの手紙を握り潰しては、ゴミ箱へと投げた。
そして、椅子を倒してしまう勢いで立ち上がれば、乱暴にドアを開けて部屋を後にした。
次の島へと辿り着いたマリアは、早速酒場へと足を運んだ。
(……今、この島には海賊はいないようね)
辿り着いた時、海賊船はなかった。
今、情報が聞けるとしたら、船乗りや島の住民だけだなと思いながら、カウンターへと座った。
「いらっしゃい」
「軽く食べられるものを頂戴。後はワインを……」
「はいよ」
「……この島は活気溢れる所ね」
「この島は初めてかい?」
「えぇ、旅をしてるのよ」
「女の一人旅?」
「そうよ」
ニッコリと笑ったマリアは、ジッと店の主人を見た。
「探してる人がいてね」
「へぇ……誰だい?」
「ふふ……」
微笑を浮かべるだけで、何も言わないマリアを見て、主人はニヤリと笑った。
「君の良い人かい?」
その問いかけにも、笑顔を向けるだけで何も答えなかった。
そんな遣り取りを聞いていた、近くの船乗りが声を掛けてきた。
「もしかして、君を置いて海に飛び出した奴でも追ってるのか?」
「さぁ?」
「酒奢るから、話しを聞かせてくれよ!」
適当な話題でも、酔っ払いは少しでも興味が湧くと、自ら寄って来る。
いつも通りだとばかりに、意味深長に笑って口を開いた。
「女の話しを盗み聞きするような人に話しを?」
「……っははは!手強いな!」
「ふふ……」
「なら、お互いの親睦を深めるのは?」
「どうしようかしら?」
「寂しくはないのか?」
「……寂しいわね」
わざと、誘うようにジッと眼を見れば、船乗りの男はマリアの横に座った。
それを、他の席で見ていた男の仲間達が騒ぎ始めた。
「おいおい……あいつ如きが、美人の姉ちゃんを捕まえやがった!!」
「これだったら、オレが話しかければ良かったぜ!!」
そんな中、隣に座ってきた男は、満足気に笑みを浮かべた。
「場所……移動しねぇか?」
「注文しちゃったわ」
「負け犬どもが食うだろ」
「仲間に、そんな事を言っちゃうの?」
「仲間だからな」
「仲良いのね」
「主人!このお嬢さんが注文したやつは、こいつらに出してやってくれ!支払いも、こいつらな」
そう言いながらマリアの肩を抱き、店を出るのだった。
「久し振りに、良い女が隣にいるな」
「あら、褒めても何も出ないわよ」
「最高の夜は味わえるだろ」
「お上手ね」
マリアは慣れてるように、男の腰に手を回した。
「……人のいない所が良いわ」
「お望み通りに」
男は、自分が泊まっているであろう宿へと足を向けた。
(……まずは、この島の事を聞きださないと……)
いつもの調子で、事を進めるマリア。
「あなたは、この島へは何度も来てるの?」
「あぁ!定期的に来る商船の船乗りだからな」
「あら、海の男ね」
「惚れたか?」
「あの人がいなければ、完全に惚れてたわね」
「上手いよなぁ」
「この辺で、何か変わった事とかあった?」
「あぁ?」
「私の探してる人が、万が一でも何かに巻き込まれてたら嫌だなぁと思って……」
「愛されてるよなぁ」
「そうかしら?」
クスクス笑いながらも、男は最近あった事や、この周辺の事を話し始めた。
何の疑いもなく、ペラペラと話してくれた男に、ただ笑みを浮かべるのだった。
(……年に一度、この辺の海流が荒くなる……か……)
確か、数日後には白ひげ海賊団がこの島に辿り着くなと考えていれば、この情報は教えとくべきだなと思いながら、更に何か情報を持ってないか男に聞くのだった。
「マルコ、返信の手紙は書けたのか?」
「オレが直接行くよい」
「……は?」
ニューゲートの元にやってきたマルコは、そう言い放つのだった。
その場にいたサッチは、ただ眼を点にさせる事しか出来なかった。
そんな中、ニューゲートは表情を変えず、徐に口を開いた。
「……珍しい事を言うもんだな」
「あいつの事だ。次の島にいるだろうしな……手紙より、直接の方が良いと思ってよい」
「いないかもしれないぞ」
「カラスの後を着いていけば、分かるだろ」
「…………」
ニューゲートは何か思うところがあるのか、スッと眼を細めた。
「……あいつを振り回してやるな」
突然のニューゲートの言葉に、マルコは少しだけ眼を見開いた。
「……あいつは、此処を出る時に言ってたぞ」
自分の片想いだ……とな。
そう言えば、マルコはバツが悪いのか、黙り込んでしまった。
「……何の為に行こうとしてる?」
「…………」
「特に理由がないなら、手紙で良いだろ」
「それは……」
親父の言う通りだよい。
オレは、何の為に自ら行こうとしてるのか……。
マルコがグルグルと考えている中、サッチは顔を歪めては言った。
「あいつに気がないのに、お前が告白を受けたのがいけないんじゃないか?」
何かに気が付いてるような言い方に、マルコは驚いたようにサッチを見た。
「……知ってたのかよい」
「この船にいる奴らで、知らない奴はいないだろ」
マリアがマルコを好きなのは、眼に見て分かる程……。
だけど、マルコはまるで気がない。
それでもめげずにマルコにアタックしていたマリア。
それを面倒に思ったマルコが、渋々告白を受け入れた事。
「……本当に気がないなら、ちゃんとフッてやれば良かったんだ」
「そうしてたよい」
「中途半端な言い方だったんじゃないのか?」
仲間だから……。
家族だから……。
そういう事もあって、半端な優しさを滲ませた言い方をしてたんじゃないのか?
サッチの言葉に、マルコは図星だとばかりに頭を掻くのだった。
「……だけど、本当は気になってるんじゃないのか?」
「……気になる事を、よその島で聞いたから……真実を確かめに行くだけだよい」
「気になる事?」
「……あれが本当なら、白ひげ海賊団の恥晒しだからだ」
「…………何……言ってんだ?」
「あいつ、身体を使って情報を手に入れてるかもしれないと言ってんだよい」
その言葉を聞いた瞬間、サッチは間髪入れずにマルコの頬に拳を打ち込んだ。
「テメェ……それを本気で言ってるのか?……あいつが、そんな事する訳ねぇだろうが!!」
「だが、前の島でそれを聞いた!」
「あいつが、其処まで落ちる訳ないだろ!!」
「それを確認する為に、行くって言ってんだよい!!」
二人が言い合うのを見ていたニューゲートが、溜め息を零した。
「……あいつは、其処までする奴じゃねぇ」
「親父……?」
「前に聞いた事がある」
情報をどうやって集めているのか……。
その言葉に、マルコは不可解そうに眉を顰めた。
「確かに、状況に合わせて色仕掛けはしてるらしいが、一線を越えるやり方はしてねぇと言っていた」
「……立て前で言ってるだけかもしれないよい」
「本当に危なくなったら、睡眠薬を使って相手を眠らせるとも言ってたぞ」
「っ……!」
「…………お前……何で其処まであいつを悪者にしたいんだ?」
その言葉に、返す言葉が見付からないマルコは、ただただ視線を床へと巡らせるしかなかった。
何処かで疑っていたのか?
あいつの、この船での役割は諜報。
だからこそ、身体を使って集めているんじゃないかって……。
考えてみれば、あいつは親父の顔に泥を塗るような事をする筈がない。
告白された時、何故か思ったんだ。
何を企んでる?……なんて……。
そんな訳ねぇのに……。
何故、疑っていた?
あいつから告白される以前、一度だけあいつの情報収集してるところを見た事があったから?
誰にでも愛想を振りまいてると思ったから?
自分の仕事をしてる……自分のやるべき事をしてるだけなのに……何処かで嫉妬していたのだろうか?
だから、ガキみたいに反発して……
そう思えば、オレは……
ずっと前から、あいつの事が好き……だったのだろうか?
「この男から聞ける情報は、これだけかしらね……」
スラスラと紙に書き込みながら呟いたマリアは、男の方へと視線を向けた。
其処には、気持ち良さそうに寝ている男の姿。
マリアはクスリと笑った。
「……夢の中で、気持ち良くなってちょうだい……」
男に使ったであろう薬の入ったケースをポケットに仕舞い、情報の書かれた紙を持って部屋を後にした。
「……早めにこの島を出ないと、天候が荒れて出れなくなるわね」
そうすれば、必然的にみんなと合流する事になってしまう。
……マルコとも……。
下手に接触して、私が白ひげ海賊団の者だと知られれば……情報が掴め辛くなる。
私の存在意義がなくなってしまう。
忘れなくちゃと思いながらも、まだ引き摺ってる私は重い。
吹っ切れる為にも、会わずに此処から離れなくちゃ。
素早く外へと出たマリアは、人気のない方へと歩を進めた。
一方で、またもカラスによって情報が届いた事で、親父やサッチも眼を細めた。
「……返信する前に、次の情報が入ってきちまったな……」
「マルコ……もたもたしてるから……」
溜め息を吐きたくなった二人だったが、仕方なしとばかりにサッチが口を開いた。
「今回はオレが書くわ……」
「そうしろ」
その場にマルコがいないので、そのままサッチが返信を書くためにその場を後にした。
出ていったサッチを見送った後、親父は手にしていた酒を豪快に飲んだ。
「……色恋沙汰には口出したくねぇんだがな……」
親父の言葉はやけに部屋に響くのだった。
報告の手紙を出した後、マリアは直ぐに旅支度する為にお店へと立ち寄った。
(とりあえず、数日分の食料だけで良いか)
簡単に食べられる物だけを買ったマリアは、すぐさま鞄へと詰め込んだ。
(あの男にもし会ったら後が面倒だし、起きる前にさっさと島から出なくちゃ)
海辺の人気のない所へとやってきたマリアはカラスへと姿を変えようとしたが、人の気配に動きを止めた。
気配を探るも、こちらには気が付いてない様子だったので、さりげなく耳を澄ませてみた。
「……~……っ……」
(上手く聞き取れないわね)
気付かれないようにカラスへと姿を変えて木へと飛び移り、耳を澄ませた。
「確かなのか?」
「間違いねぇ!あの白ひげ海賊団がこの島に向かってる!」
白ひげの名が出た事で、マリアは更に警戒した。
「あいつを討ち取れば、オレ達は……」
「だが、あいつらは数も多ければ手練ばかりだ」
「何を弱気になってんだ!」
「だがよぅ……」
そんなやり取りを聞いたマリアは、自分だけでもこいつらぐらい何とか出来るかと思い、戦闘体勢に入った。
「よし、返事はこんなもんで良いか!」
サッチは早速甲板にいるカラスへと向かうと、そこにはクルー達が群がっていた。
「どうかしたのか?」
サッチが声を掛ければ、誰もがカラスを見てはニヤニヤしていた。
不可解に思っていれば、クルーの一人が声を発した。
「こうしてみると、カラスも可愛いもんだよなぁ」
「海上生活が長いせいか?」
誰もが口々に言い始めれば、自然とマリアの話題になる。
こればかりは仕方ないだろうとサッチは特に気にする事もなく、カラスに近付いては足に手紙を結び始めた。
「やっぱ諜報やってるだけあって、黒が似合うんだよな」
「一度戦ってるところを見たが、しなやかで漆黒を纏う服も妖艶で……」
「あぁ、分かる!」
「でも、マリアはマルコ隊長ばかり眼で追ってるんだよなぁ」
「あんな眼差しを向けられてみてぇ」
何処か寂しげで、すげぇ色っぽいんだよなぁ……なんて言おうもんなら、誰もが頷いた。
そうしてる間にも、手紙を結んだサッチはカラスに囁いた。
「マリアに届けてくれ」
その言葉に反応し、空へと飛び立ったカラスを見て、サッチは更に呟いた。
たまには顔見せるように伝えてくれよ。
「あっけない」
マリアの実力でも十分に対処出来る相手だった。
こいつらの仲間に見つかる前に、この場を離れようとカラスへと変わり、羽ばたいた……その瞬間、辺りに銃声が響き渡り、それと同時に腕に痛みを感じた。
撃たれたと分かった時にはバランスを崩し、地面に落ちる……その瞬間に人に戻り、上手く着地した。
直ぐに身を潜めて、辺りを窺った。
(……辺りに気配を感じない)
狙撃手……その言葉が浮かんだ。
下手に飛んでしまえば、また狙撃されてしまう。
甘く見て油断したと思うも、直ぐに気持ちを切り替えた。
(何とか気付かれずに、此処から離れなくちゃ)
マリアは上手く木々に身を隠すように、その場からゆっくり離れた。
その頃、遠くから狙撃した者は口の端を上げては笑った。
「能力者……暫くは楽しめそうだ」
数日後には嵐も来る。
あの怪我では嵐前に島から出る事は出来ない。
「良い的が出来た」
何とか狙撃されそうにない岩場へとやってきたマリアは、自分の腕を見ては顔を歪ませた。
(どうしよう……これじゃあ治るまでは飛べない)
嵐も来る。
白ひげ海賊団も来る。
このままでは、どちらも避けられない。
街に逃げ込んでも、何処に潜んでいるか分からない狙撃手もいる。
下手に医者に行く事も出来ない。
応急手当をする為の道具もない。
(詰んだな……)
このままにすれば破傷風にもなるし……完全に使い物にならないだろう。
銃弾によって、骨が砕かれている。
腕とはいえ、致命傷になる一発が撃てるなんて凄い腕だなぁなんて思いつつ、マリアは怪我してない方の手を額に当てた。
「天罰が下ったのかな……」
マルコに迷惑かけた……その報い。
そう考えた瞬間に笑みが零れ……頬に滴が流れた。
笑うしかない。
泣くしかない。
(まいったなぁ……)
マリアは意を決して、街へと向かっていった。