勘違い
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いつまで、この関係を続ければ良いのだろう?
「あっ、ぁ……は……」
サッチとの情事の最中、私はそう考えてしまった。
少なくとも、数日前まではサッチだけを見て……こういった行為もただただ嬉しいだけだった。
だけど……アレを聞いてしまった後では、この行為も苦痛なだけ。
最初はサッチからだった。
“オレ、お前が好きだ!!”
いきなり後ろから叫ぶように言われた私は、驚いたように振り返り、サッチを見た。
最初は私でなく、隣にいたナースに言ってるのだと思ったけど……ナースはクスリと笑って、あんたによ!なんて、背中を押されながら言われた。
私!?なんて驚きながらサッチを見れば、何となく表情が変わった気がした。
この時は突然の事だったし、気にする余裕はなかった。
あの時に気付けば良かったんだ。
驚いた私は、思わずそのまま頷いてしまい……サッチと恋人関係になった。
だけど……数日前に、たまたま知ってしまったんだ。
“サッチ隊長……本当は、あの時一緒にいたナースに告白したんだよなぁ”
“それにも気付かずに、頷くあいつもあいつだよな”
酒を飲みながら笑い合うクルー達に、ショウは頭が真っ白になった。
どうして、その時にサッチは言ってくれなかったのだろうか……。
違うなら違うで……ハッキリ言ってくれた方が良かった。
何で、そのままズルズルと私と付き合うの?
どうして、こんな事をするのだろうか……。
情事が終わると、サッチは服を着て、そのまま部屋を後にしてしまう。
特に声を掛けてくれる訳でもない。
同情で抱かれているんだと……理解した。
最初のうちは朝まで一緒にいてくれたし、コックは朝早いから慌ただしく部屋を後にするのも分かる。
でも最近では……朝まで一緒にいる事はないし、言葉も……ない。
まるで分からない。
間違いにも気付かない……鈍い女。
この船に乗るみんなが……影から言っている。
これも最近知った……。
……此処にいるのが辛い……。
日が昇り、鈍い身体を起き上がらせ、いつも通りに着替えて……食堂へと向かう。
ショウは、ここ最近憂鬱でしかなかった。
気分が沈んだ状態で歩いていれば、何処からか声が聞こえた。
「サッチ隊長って、分かり易いわよね」
「確かに!」
クスクス笑いながら言うナース達に、先程まで考えていた事が頭を過ぎった。
ナース達も知っている事……。
このままじゃ、どんどんこの船に居辛くなるだけ……。
近いうちに、サッチに言おう。
私が知っていると言う事を……。
本命のナースに、ちゃんと告白したら良いと思うよって……。
私が逃げたい、良い言い訳……。
周りから聞こえる声を無視し、食堂へと来れば、サッチは相変わらず忙しそうに動き回っていた。
ちゃんと告げた後は、こうしたサッチも……ジッと見る事が出来ない。
ただの仲間になるんだから……。
食事を受け取ろうとカウンターへと行けば、四番隊のクルーが話し掛けてきた。
「いつもより、少し遅いな」
「ちょっと寝坊して……」
「珍しいな」
そう言って、食事の乗ったトレーを渡してくれた。
お礼を言って受け取り、その最中横目でサッチを見るが……一切、こちらを見ようとはしなかった。
それに苦笑いし、気にしないようにしては席に付いた。
(……いつ言おう……)
フォークに刺した野菜を口に運び、食べようとした時、食堂に入ってきたクルーが叫んだ。
「今日の夕方には島に着くってよ!」
この言葉に、全員がそれぞれ喜んだ。
誰かはお酒。
誰かは女。
……サッチは?
思わず思った。
恋人関係になってからは酒場に顔を出すけど、女を買う事はなかった。
なら、今は?
最近素っ気ない状態だ。
(行く……かもしれないんだよね)
口の中に入れた野菜をゆっくりと噛んだ。
(……島に着いたら言おう)
出来れば、酒場に行く前に……。
その方が、サッチも気が楽になるだろう。
クルーと隊長。
私達の関係は、これが一番良いんだ。
間違いにも気付かない……鈍い女が恋人なんて……隊長には相応しくないのだから。
決意したショウは、それ以上食べるのも止めて席を立った。
トレーを持ってカウンターへと持って行った。
「何だぁ?珍しく残してるじゃねぇか」
「大丈夫か?殆ど食べてねぇ」
「ゴメン、あまり食欲がないみたい」
そう言って、トレーをカウンターに置き、食堂を後にした。
ショウの姿が見えなくなったところで、クルー達はサッチを見た。
「サッチ隊長、あいつと何かありましたか?」
「いや、何も」
普通に答えるサッチだが、何処となく視線がショウの残した食事にいっているのだった。
最後だ。
今日が最後。
それなりに、楽しい日々だった。
例え、間違いだったとしても……間違いなく楽しかった。
ありがとう、サッチ……。
朝食の慌ただしさも一段落し、昼食まで時間もあるだろう。
島に着くのは昼過ぎ。
それまでには話してしまおうと思ったショウは、サッチの部屋の前に来た。
「サッチ、私。入っても良い?」
「あぁ!」
返事が返ってきたので、ドアを開けて部屋の中に入った。
部屋に入れば、サッチは次の島での調達リストでも見ているのだろうか。
こちらを向く事はなかった。
「……話しがあるんだけど……」
「悪い!昼過ぎには島に着くし……その時じゃ駄目か?」
「分かった。忙しい時にゴメン」
そう言うしかなかった。
……少しだけ、言うのが先延ばしになっただけ。
これ以上、此処にいても仕方ないので、静かに部屋を後にした。
(……こればかりは仕方ないよね……)
サッチの部屋の前にずっといる訳にもいかないショウは、そのまま自分の部屋へと足を向けた。
……サッチの部屋と自分の部屋を繋ぐ廊下を歩くのも、今日まで……。
そう思うと、少し寂しい気もする。
だけど……同情で一緒にいてくれるのは……辛いだけだ。
部屋に辿り着いたショウは、部屋の中に入ろうとした時……ドアノブに手を置く事も出来なかった。
同室のナースが部屋に誰かを連れ込んでいたからだ。
(……行き場所がない……)
入る事が出来ないショウは、これまた静かにその場を去る事しか出来なかった。
仕方ないので甲板へとやってくるが……外に出た瞬間に天候が変わり……土砂降りの雨に変わってしまった。
外にいる事も出来ず……また船内へと戻るしかなかった。
部屋にも戻れない。
サッチの部屋にも行けない。
他のみんなの部屋も、この天候だ。
集まってしまっているかもしれない。
行く場所がないので、仕方なく書庫へと向かう事にした。
時間潰しに本を読む事にしたショウは、島に着くまでの間、昼食を食べずに書庫に籠るのだった。
あの雨もあの一帯だけだったのか、島に着いた時には青空に変わっていた。
本を読むのに夢中になっていたショウは、辺りが騒がしくなってきた事で、ようやく本に集中していた意識を周りに向けた。
(着いたのかな?)
本を元あった場所に戻し、甲板へと向かった。
すると、殆どのクルー達は直ぐにでも島に向かいたいのか、隊長達からの指示を待っていたようだ。
「今回、五番隊が見張りだよい。四番隊はいつも通り食材の調達。他は自由だよい」
マルコ隊長からの指示を聞いた一同は、それぞれが動き始めた。
そんな中、サッチの姿を探すショウだが、軽く溜め息を吐いた。
(調達があるなら、話しなんて出来る訳ないじゃない)
話しは調達が終わり、一段落してからだなと思うショウは、それまでは島の散策に行こうと思い、サッチの方を見る事なく船を降りるのだった。
(……この島、半分は森なんだ)
辺りを見回し、分かった事。
この森で取れる山菜こそが、この島の名物になっているようだ。
だからこそ、島の半分は森を残しているんだと分かった。
(この森……荒らしたり山菜を取らなければ、誰でも入って良いみたいね)
森の入口にある看板を見たショウは、散歩気分で森に入り込むのだった。
「サッチ隊長!食材を冷蔵庫や貯蔵庫へ運び入れました!」
「あぁ!オレ達のやる事は終わったし、後は自由にしてくれ!」
「分かりました。後は、夜にいつも通り酒場に集合ですね」
「おう!」
クルー達は、はしゃぎながら船を降りていく姿を見送ったサッチも、微かに笑みを浮かべた。
「さて、オレも……」
島へと行こうとして、リストを書いてる時にショウが訪ねてきた事を思い出し、先にショウの部屋へ行こうと思ったサッチだったが、視界の端にショウと同室のナースを見掛けたので、声を掛けた。
「なぁ、ショウは部屋にいるか?」
「いいえ、ずっと見てませんよ」
「そっか」
島にでも行ったのかもしれないと思ったサッチは、そのまま島へと下りていくのだった。
「へぇ……結構手入れが行き届いてる森だなぁ」
先程雨が降ったせいなのだろうか……滴で濡れた葉が、木漏れ日によって綺麗に反射していた。
「……綺麗だなぁ」
見上げながら歩いていたせいだろう……。
足元をまったく見ていなかったショウは、足を踏み外し、崖に転落してしまった。
「サッチ、終わったのか?」
既に酒場に集まり、酒を飲んでいるクルーや隊長達。
「あぁ。また出航が近付いたら、調達しなきゃならんがな」
座りながら酒を頼んだサッチ。
「この島では、山菜が有名みたいだ」
「あぁ、此処に来るまでの間に知ったよい」
「早く料理してみてぇなぁ」
「こんな料理バカなのに、よく付き合ってられるよな」
「料理バカで結構だな」
「ショウにそのうち捨てられるぞ」
エースの言葉に、サッチは鼻で笑った。
「どうだかな」
「余裕な顔をしているが、その余裕が後で命取りにならなければ良いな」
「ジョズ……なんて事を言うんだ!」
オレ様、泣くぞ!なんて、泣き真似しながら言うサッチだが、隊長達は少しだけ眉を寄せた。
「……サッチ……ずっと噂になってるのに知らないのかよい?」
マルコの言葉に、サッチは何の事だとばかりに隊長達を見た。
その反応に、一同は一斉に溜め息を吐いた。
「お前……周りに耳を傾けてなかったのかよい」
「だが、誰もサッチの前では言わないだろ」
「これじゃあ、ショウが可哀相だよね」
それぞれが言う中、サッチはみんなの言葉に表情が固まった。
「……噂って、ショウに関係があるのかよ……?」
これには、誰もが顔を見合わせるのだった。
気を失っていたのだろうか……。
身体中に走る痛みで意識を浮上させたショウは、ボヤける視界で辺りを見回した。
「……崖から落ちたんだ……」
身体中を見れば、其処ら中に怪我があった。
空を見れば既に日が落ち、夜となっていた。
「痛いなぁ……」
呟きは辺りに響いてるようで……でも辺りに消えていった。
身体の痛みで、心の痛みが和らいでいる。
それだけが救いかもしれない。
本当は、言いたくないのかもしれない。
別れて……。
本命に、ちゃんと告白しなよ……。
最初は、サッチを気にしてはいなかった。
だけど、人は単純だ。
告白された……その事実だけで気になりだして……サッチを視線で追うようになった。
そうすれば、次第にサッチの色んな顔を知るようになった。
コックとして厨房に立っている時、本当に楽しそうに料理を作ってるところ。
戦闘になった時の、引き締まった顔。
みんなとの宴会は、お調子者のサッチはとにかく騒ぐ。
周りを楽しませようとしているんだと分かった。
それに、人の気配には敏感だ。
落ち込んだ人がいれば、スイーツを作ってあげる。
紅茶を入れてあげる。
その人に合った慰め方をする。
サッチは、とにかく優しいんだ。
誰にでも……。
仲間達にも、ナース達にも……
恋人にも…………
平等な優しさを与えてた。
それに不満は……ないと言えば嘘になるけど、一番の不満は…………
最近のサッチは私を避けてる気がする事だ。
同情で付き合う事に、面倒になってきたのかもしれない。
早く私から解放してあげなくちゃと思うのに……付き合ってから見てきたサッチを思い浮かべると……
言葉が喉につっかえて……出て来ない。
こんなにも好きになってたんだと……思い知らされた。
「っんだよ、それ!!!!」
突然大声を上げたサッチに、辺りはシン……と静まり返った。
「誰だよ!!そんな事を言い始めたのは!!」
サッチが周りを見ながら言うもんだから、クルー達は困惑したように顔を見合わせれば、サッチは更に声を張り上げた。
「お前ら、オレがあいつに本気だって思ってなかったのかよ!!」
そう言った時、クルー達は酒も入っているせいもあり、急に笑い始めた。
「サッチ隊長!優し過ぎですよ!」
「そうそう!みんな知ってますよ!」
「本当は、あの時一緒にいたナースに告白したんですよね!」
「あの時、ナースも気付いてなかったみたいですが、サッチ隊長は顔に出てましたよ!」
「ナースがショウに言ってんだ!みたいな事を言った時、サッチ隊長は表情を変えたじゃないですか!!」
「その時、みんな気付いちゃいましたよ!」
「オレ達、ちゃんと本命に告白出来るように応援してますから!」
「何だったら、オレ達の方からショウに言いましょうか?」
口々に言うクルー達に、サッチは言葉に出来なかった。
そして、追い打ちかけるかのように、クルー達は言うのだった。
そもそも、あいつは知ってるんだろ?
あいつに認識させる為に、結構その話しもするしな!
あいつには悪いが、オレ達はサッチ隊長を応援したいしな!
笑い声を上げながら言うクルー達の声は、最早サッチの耳には雑音にしか聞こえなかった。
その瞬間、サッチはハッとした。
「話って……まさか……」
サッチは酒場を見回し、ショウの姿がない事に気が付いた。
「……いない……」
サッチはエースを物凄い形相で見た。
「エース!ショウは何処だ!?」
「何でオレに聞くんだよ?」
「ショウはお前んとこの隊だろうが!!」
「今日は二番隊は自由行動だろ!その間の事まで把握してねぇよ」
舌打ちしたサッチは、酒場を飛び出した。
最近、ショウの様子がおかしいとは思ってた。
食堂に来れば、声を掛けてくれてた。
ちょっとした時、息抜きにと飴玉を持って来てくれる。
二人でいる時は、甘えてくれていた。
だけど、最近はそれがなかった。
周りから、そんな事を言われてたから!?
だから、オレから離れようとしてたのか!?
情事の時もそうだ。
オレを一切見なくなった。
オレに触れようとしなくなった。
感情を見せてくれなくなった。
確かに、最近オレも考え事もあって、あいつに構ってやる時間も殆どなかった。
気に掛けてやる程の余裕もなかった。
夜も、ただヤる為だけに……考え事を吹き飛ばすように抱いてたのも……確かにあった。
情事が終われば、寝てるあいつを起こすのも悪いと思って、そのまま部屋を後にする事も増えた。
だから余計に、間違いで告白したんだと……その考えを増長させてしまったのかもしれない。
“……話しがあるんだけど……”
あの時、オレの部屋に来たのは、その事で何か話そうとしてたのかもしれない。
別れ話だとしたら……冗談じゃねぇぞ!!
あの時、オレがどんだけ根性出して告白したと思ってる!!
海を見てる時のあいつの表情が綺麗で……それを初めて見た時が始まりだった。
次第に眼であいつを追ってた。
気持ちが膨らんで……気が付いた時には叫んでた。
驚いた時のあいつも、また初めて見る一面で……可愛いと思った。
船まで走るサッチは、奥歯を噛み締めた。
(全部、オレのせいじゃねぇか!!)
何も分からず、あいつがどんな気持ちでいたのか……。
周りがあんな事を言ってたなんて……。
船に辿り着いたサッチは、ショウの部屋に向かい、勢い良くドアを開けるが……もちろんの事、誰もいなかった。
「っ何処にいるんだよ!!」
また走り出したサッチは、船内を探し回るが……ショウの姿はなかった。
甲板に出たサッチは、空に向かった大声を上げた。
「何処にいんだよーーーー!!」
サッチの叫びに、見張りでいた五番隊の面々は、何事だとばかりに顔を見合わせるのであった。
「まいったなぁ……足の骨が折れてるじゃん……」
これでは、船に戻る事も出来ない。
こんな夜に、森に入る人もいないだろうし……早くても明日には見付けてもらえるかなぁ……なんて思い始めたショウは、空を見上げた。
「みんな、今頃酒場で騒いでるんだろうな……」
それぞれが女を買い始めて……サッチも……。
「……こんなに重い奴だったっけ……」
本当は、特別な優しさが欲しいと思った時もあった。
でも、そこがサッチの良いところでもある。
だからこそ、みんなから愛されるんだ。
「恋人としては……ちょっと辛いかな」
別れ話をする時、少し助言してあげなくちゃ。
本命に嫌われないように……。
少しづつ眠気が襲ってきたショウは、ゆっくりと眼を閉じた。
(怪我してるせいかな……頭がボーっとするな……)
眠いなぁ……なんて思いながら、沈んでいく意識に身を任せたショウは、そのまま気を失うように眠ってしまうのだった。
「誰か、ショウを見た奴はいないか!?」
酒場に戻ってきたサッチは、店に入るなり叫んだ。
「いなかったのか?」
「いないから聞いてるんだろ!!」
「見た奴いるか?」
エースが聞けば、誰もが首を横に振るのだった。
それを見たサッチは、とうとう頭を抱えてしまった。
「何で……こうなっちまうんだよ……」
サッチの苦しそうな声に、その場にいたクルー達はおそるおそる声を掛けた。
「サッチ隊長……まさかとは思いますが……」
「んだよ……」
「ショウの事……本気なんですか?」
これにはサッチも拳に力が入り、口を開こうとして、別の声に遮られた。
「テメェら!散々サッチが間違えただの、ショウが間違いに気付かない鈍い女だとか言ってたが、本気に決まってるだろうがよい!!」
マルコの怒鳴り声に、サッチも眼を見開いてマルコを見た。
「そもそも、その間違いってのは何だ!?」
「え……だって、あの時サッチ隊長……表情が変わったじゃないですか……」
「変わった……?」
サッチ自身、何を言われているのか分かってはおらず眉を顰めれば、クルー達もそのサッチの反応に首を傾げてしまった。
それに対してピンときたのはビスタだった。
ビスタはその時の状況の事を話せば、サッチは唖然とした。
「そのオレの表情で、間違いだと思われたのか……?」
違う……。
そんな事で表情を変えたんじゃない。
驚いたあいつに……頬が緩みそうになっただけだ……。
意外そうにするあいつが可愛くて……緩みそうになる顔を引き締めようとして、顔が引き攣っただけじゃないのか……?
それを、周りが勘違いしただけだろ……。
「オレがあいつに本気になるのが、そんな変なのか?」
「そ、そういう訳では……」
「ッオレがあいつを好きになるのが、そんなに気に喰わないのか!?」
「サッチ」
隊長達は、何とかサッチを諌めようとするが、サッチは止まらなかった。
「あいつを可愛いと思う事がいけないのか!?」
「ち、違います!」
「だったら、何であいつに鈍い女だと言うんだ!!」
あいつが見付からなかったら、オレは全員を許さねぇ……。
鋭い視線を向けられたクルー達は、それまでの酔いが一気に醒めた。
そして、サッチはまた飛び出すように店を出るのだった。
何だろう……。
サッチの匂いがする。
夢の中って、こんなにリアルに感じられるもんだっけ?
『悪い……』
『……間違えた事?』
『間違えてねぇ!!』
『……夢の中だと、違う事になるんだね』
『だからっ……』
『サッチ……良いんだよ』
本当に好きな人のところに行きなよ
……なんて、夢の中だから言える事なんだよね……
現実では、言おうと思っても……中々言葉に出来なくて……
でも、同情で一緒にいてもらうのが辛くて……
全部が怖くて……
同情で抱かれるのも……苦しいだけ
次にサッチに会った時に、ちゃんと言わなくちゃ……
だから、今だけは催促するような夢を見せないで……
幸せな夢を見せてよ……
みんなと平等の優しさでも良いから……
最後ぐらい……
『最後って何だよ……』
『……夢の中で、予行練習しろって事なのかな?』
だとしたら、言わなくちゃ……この夢は終わらないね。
『……サッチ……間違いに気付かないで……苦しませてゴメン……別れよう……』
『誰が別れるか!!ふざけんな!!』
『…………変な夢……』
何故か、夢の中で意識が遠ざかる気がしたショウは、ホッとしたように笑った。
『やっと、夢が終わる……』
ちゃんと……会った時に言うから……。
『ッショウ……!』
意識がなくなる寸前で、名前を呼んでもらえた気がしたショウは、ただ嬉しい気持ちで満たされた気がしたのだった。
闇ばかりだった世界が少しづつ光が差し込み、視界が開けてきたと思ったショウは、ゆっくりと眼を開けた。
(……治療室?)
森で気を失った気が……なんて思いながら、視線を窓の方へと向けた。
(日が……朝?)
そんな時、ドアが開くのが分かったショウは視線だけをドアに向ければ……
其処には……
愛しくて……
残酷な人がいた。
「ッショウ!眼が覚めたんだな!!」
「……サッチ……」
近寄ってくるサッチを見て、先程まで見ていた夢を思い出し、ショウは無理矢理笑顔を作った。
「ちょうど……良かった……」
「え……?」
「サッチ……」
夢との約束だ……。
「別れよう……」
「断る」
「……本命のところにいきなよ……」
「だから、本命のところにいる」
「……同情はいらない」
「…………同情で抱けるか」
「みんなに優しいから……その優しさが残酷だよ」
「………………」
「サッチ……本命には、特別な優しさを見せてあげなよ……」
「……何だよ……それ……」
驚いたように眼を見開くサッチを見て、ショウは苦笑いを零した。
「サッチは……みんなに平等に優しいから……」
って……私は本命じゃなかったから、そう思っただけで、本命の前じゃ特別な優しさも見せるよね……なんて笑うショウを見て、サッチは表情を歪ませた。
「そう……思ってたのか?」
「そうなんでしょ……?」
「平等に……優しい……?」
「…………此処まで運んでくれたのはサッチ?」
「え……あぁ」
「ありがとう、見付けてくれて……」
「森に入るお前を、島の人が見てたから」
「……そっか」
ショウは一呼吸しては、ゆっくりと口を開いた。
「私は大丈夫だから……本当に伝えたかった人に、早く想いを伝えに行きなよ」
サッチ隊長
そう言った瞬間だった。
「好きだ!!!!」
「サッチ……たいちょ……」
「隊長って呼んでんじゃねぇ!」
見た事がないサッチの眼に、背中がゾクリとしたショウ。
「間違い……?そもそも、それが間違いだってんだよ!!」
「だから、私が間違えて……」
「間違えてねぇんだよ!!オレは、お前に告白したんだよ!!」
「……一緒にいたナースは……」
「違う!!何度もお前だって言ってるだろ!!」
「…………ぇ……」
困惑し始めたショウの手を握ったサッチ。
それに驚いたショウが手を引っ込めようとするも、サッチは離さなかった。
「……周りから、あれだけ言われたら思い込むよな」
「…………」
「間違いで告白……マジで笑えねぇって、そんな事……」
「…………」
「本気に決まってるだろ」
「なら、何で……最近冷たかったの?」
「……お前が素っ気なくなって……倦怠期かなと思って……」
だから、サプライズでプレゼントを渡そうと思ってたんだ。
また、前みたいに笑った顔が見たくて……。
「……オレといても、笑える訳がないよな。同情で一緒にいたなんて思われてたら……」
「…………」
「それに……気にした事もなかった」
「何が?」
「平等の優しさ……ってやつ」
「あれは……」
「お前がそう思うって事は、みんなと同じ扱いだと思われてたんだろ」
「…………」
「それなら、恋人なのだろうかと……不安にもさせたよな」
「っ…………」
「恋人らしい特別……与えてなかったよな」
サッチは、先程まで怖いと思う程の視線を向けてきていたが、次第にそれも和らいでいき、ジッとショウを見た。
「全部……やり直そう」
「…………」
「オレの全部が不安にさせてたなら、全部やり直すチャンスをくれ」
「……間違い……じゃ……」
「この状況で、誰と間違えんだよ!」
「……だよね…………」
「……好きだ」
サッチは、ショウの耳元で何度も囁いた。
好きだ
繰り返し、言葉を紡いだ。
「本気なんだよ……」
「…………サッチ隊長……」
「いつもみたいに呼んでくれよ」
「……サッチ……?」
少しだけホッとしたような表情を見せたサッチは、ショウに口付けた。
「ン……」
少しづつ深くなる口付けに、ショウが表情を崩し掛けた時だった。
「このバカが!!!!」
バコンッ!!と、サッチが何かで殴られる音と共に、声が聞こえてきた事で、サッチは恨めしそうに背後に振り返った。
「船医……」
「怪我人を襲ってんじゃねぇ」
「恋人にキスぐらい良いだろ」
「眼を覚ましたばかりだろうが!」
「愛を育む邪魔者め……」
「……元々の誤解は、お前のせいだろうが」
「…………」
「おら!とっとと、ショウのメシでも作ってこい!」
そう言って、船医に追い出されたサッチだったが、またもドアからヒョッコリ顔を出しては、大声で言った。
「ショウ、愛してるぜ~!!」
これには顔を真っ赤にさせ、布団で顔を隠そうとしたショウだったけど、船医に包帯を変えるんだと剥がされてしまった。
「ショウ……良かったな」
包帯を変えながら言う船医の後、船に響く程のサッチの声が響いた。
「オレは、ショウ一筋なんだよ!!」
恥ずかしくも、嬉しいショウは笑みを浮かべる事しか出来なかった。
あとがき
この物語を読んで下さり、ありがとうございます。
初めてサッチ夢を書いたのですが、如何だったでしょうか?
一度はサッチ夢を書きたいな……から書き始めた作品でしたが、書き始めたらスラスラと文字を打つ手が止まらず、一気に書き上げてしまう程でした。
少し纏まり感がないような気も致しますが、管理人としては楽しく書けたと思っております。
皆様にも、楽しんで読んで頂けてたら嬉しいです♪
皆様に、素敵な夢との出会いがありますように☆