きずな
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ココロ……?」
「気安く呼ぶんじゃねぇ!!」
マルコの顔面目掛けて拳を向けたが、紙一重で避けられてしまった。
すると、ココロは身構えて辺りを警戒するように見回した。
「っち……」
「どうしたんだよい、ココロ!!」
そんな時、ココロは親父の方へと視線を向けた。
「デカ人間!!やっぱりテメェか!!テメェの家族にはならねぇって言ったろ!!勝手に船に連れてきて……っ!!」
この言葉に、一同は驚愕だった。
「まさか……」
「記憶が……」
そのまさかのようだった。
威嚇するような眼付きのまま、ココロは親父目掛けて蹴りを繰り出していた。
もちろん、親父は軽く受け止めてココロを片手で掴んだ。
「ふざけんな!!離せ!!」
肘を使って親父の手に打ち付けて暴れ回るココロに、誰も何も言えなかった。
「おい……船医……あれって……」
「一時的に記憶が昔に戻っちまったみたいだな……」
「戻るよな?」
「この場合、時間が解決するだろうけど……」
この状態のココロを諌めるのは無理だろうと思う一同は、嫌な汗が流れた。
「っこの!!離せって言ってんだろうが!!」
膝を思いっきり親父の手に叩き込んだココロ。
親父も、膝が当たった箇所がちょうどツボに入ったのか、少しだけ顔を歪ませてココロを離してしまった。
「……?身体が軽い……?」
自分の身体の違いに、ココロ自身違和感があるようだった。
「ココロ!!とにかく落ち付けって!!」
サッチが諌めようと声を張り上げれば、ココロは視線を鋭くさせてはサッチに拳を向けた。
「っく……」
紙一重で避けるも、ココロの実力を目の当たりにしたサッチは、額に浮かぶ汗を拭う事も出来なかった。
(嘘だろ!?避けるので精一杯とかって……!!)
だが、ココロはまだ本気で拳を打ち込んできてるようには思えなかった。
(オレ……かなり本気で避けてんのによ!!)
親父や隊長達は瞬時に分かった。
隊長達と同格の強さを持っているにも関わらず、副隊長としての立場を考えていたんだと。
「どうした!?反撃して来ないのか!?」
(冗談きついぜ!!)
サッチが劣勢だと分かるも、手が出せずにいた一同だが、其処に一人の影がサッチの前に踊り出た。
そして、ココロの両手を掴んだ。
「待て!とにかく、話を聞けよい!!」
「マルコ!!ココロ!!」
「っこの!!」
足を蹴り上げるも、マルコに受け止められてしまった。
「この野郎!!」
「いつもの口調に戻れよい!!」
「いつも……?訳の分からねぇ事を!!」
無理矢理手を解いたココロは、今度はマルコを攻撃し始めた。
「っち、私を乗せて、直ぐに出航しやがって……早く降ろせ!!」
「お前はもうこの船の一員だろうがよい!!」
「勝手に決めんじゃねぇ!!」
言い合いながら激しい攻防を続ける二人に、クルー達は呆然としていた。
「……ココロの奴……こんなに強かったのか?」
「マルコ隊長とも互角……」
「お前らは何を見てる?ありゃあ、命を投げ捨ててる……そんな戦い方だ」
「イゾウ隊長……」
「今のココロは、自分が傷付く事に躊躇いはないんだ。だから突っ込んで攻撃出来るんだ」
「……そんな……」
「あれが、オレ達と会う前のココロの姿だ」
クルー達はイゾウの言葉に息を呑んだ。
想像以上の……ココロの眼付きに旋律すら覚える一同は、身動きすら取れずに立ち尽くした。
「記憶が逆戻りする程……精神的に追い詰められていたのかもな……」
この言葉に、一部のクルー達が声を張り上げた。
「っっお前らのせいで!!」
「リナ!!若い衆!!テメェら、ココロが壊れて満足か!?お前らが仕出かした事がどんな結果になったか……分かってるのか!?」
そんな時、ナース一同が現れてリナ達と同じ所に座っては謝ってきた。
「私達も、あの子に嫌がらせをしてきました。私達も同罪です!」
「ごめんなさい」
「リナだけを責めないで下さい!」
そんなナース達に、古株のクルー達は舌打ちした。
「女が揃いも揃って……誰一人として、ココロの味方はいなかった訳か……」
「……お前らも、マルコ隊長がココロに唆されたと思ったのか?リナから奪ったって思ったのか?」
「……リナとマルコ隊長が上手くいってると思ってたので……」
「……その幸せを壊してるのがあの子だって……」
「リナの言葉を鵜呑みにして……嫌がらせか?」
それ以降黙ったナース達に、肯定と受け取ったクルー達は溜め息を吐いた。
そして、ココロに暴言を吐いた者、嫌がらせをした者……眼の前に正座させている人数の多さに、奥歯を噛み締めた。
「殆どが、あまりココロと関わり合いがない奴らばかりだな」
「しかも、同じ一番隊の奴らも結構いるぞ」
「……どんだけの重圧だったか、この人数見れば一目瞭然だな」
「こんな中で、よくいつも通り働けたな……ココロの奴。休める時なんてなかったろうに……」
未だに攻防を続けているマルコとココロに視線を向けた一同は、どうするべきか考えるが、こればかりは解決策が見つからなかった。
「あんたも避けてばかり……人の事舐めてんの!?」
「とにかく、話を聞け!!」
「余裕な面……ムカつく!」
腰に差していた刀を抜いたココロは、更にマルコに向けて振りかざした。
そんな時、ココロの持っていた刀が銃の発砲音と共に弾かれてしまった。
ココロは咄嗟に、銃の発砲音が聞こえた方へと顔を向ければ、一人の男が眼に入った。
視線を自分の方へと向けて来たココロに、イゾウは舌打ちしたくなった。
「あんたも邪魔すんだ……」
「じゃじゃ馬が……すっかり昔以上の眼付きになりやがって……」
迂闊に手が出せない事にどうするかと考えている中、次々と邪魔される事にココロのイラつきはピークに達しようとした時、この隙を付いてマルコがココロの足を引っ掛けて転ばせては、両手を床に抑え付けて抑え込んだ。
「ココロ!!とにかく、話を……」
「っこの……野郎!!」
膝をマルコの股間に直撃させれば、流石のマルコも思わずココロから離れ、その場で蹲った。
それを見てた男一同はマルコに同情するとともに、ココロに近付きたくないと思うのだった。
「……近付くと、オレ達も男の急所を狙われるぞ……」
「……大人しくさせるにはどうしたら良いんだ?」
「前の時は、どうやって諌めたんだっけ?」
「…………親父との決闘?」
「いや……違うだろ。この船に乗せた時だろ、それは」
「じゃあ……何だっけ?」
一同は当時を思い出そうとするも、ココロを懐柔させた何かを思い出せないでいた。
そんな時、サッチが「あーーーー!!」と大きな声を張り上げては、未だに蹲るマルコに駆け寄った。
「そうだ!あん時もお前が説得したんじゃ……いつまで蹲ってるんだよ!!早く立て!!」
「テ、テメェ……本気で蹴られてみろよい……今のあいつの蹴りには躊躇いがねぇぞ……」
「……ドンマイ!!そんな訳で、あの時の再現と行こうじゃねぇか!!」
顔に青筋を浮かべてサッチを睨むも、まだ立ち上がれないマルコは怒鳴れなかった。
「……なぁ、サッチ。あの時の再現って……あの時のココロをどうやって懐柔させたのか覚えてるのか?」
イゾウの問いかけに、サッチは苦笑いを零した。
「あの事は誰も知らないだろうな。なんせ、マルコとココロが話していた時、たまたま聞いちまったという……」
「……お前、居合わせる確率高くね?」
「……何でだろうな?」
はは……と渇いた笑いを零すサッチに、再び問い掛けた。
「それで?その時、マルコは何を言ったんだ?」
それを聞かれたサッチは、成り行きを見てろと言いながら、マルコとココロの二人を見るのだった。
少しづつ痛みが治まってきたマルコは、ゆっくりと立ち上がってはココロを見た。
「……使いモンにならなくなったらどうしてくれるんだよい……」
「ふん!そんなもん知るか!」
「……責任取れよい?」
「はぁ?」
若干怒りながら言うマルコに、ココロも凶悪な顔して身構えた。
だけど、身構えるココロを前にしてもマルコも身構える素振りは見せなかった。
それなのに、不敵な笑みを浮かべてはココロに言った。
「発散させる為だけに暴れたいなら、いつでもオレが相手してやるよい」
この言葉を聞いたサッチはニヤリと笑った。
「あの時の会話が再現されるぞ」
その言葉に、一同は静かに二人を見守る事にした。
「どうせ、オレには勝てねぇよい」
「……人を何だと思ってんだ……」
「どうせ、何かの腹いせなんだろ?」
「…………煩い」
「そんだけの強さだ。周りから冷たい視線を受けてきたか?」
「……煩い」
「男も女も……みんなから疎まれたか?」
「煩い……」
「オレは何があろうと、お前の近くにいてやるよい」
この言葉に、何故かサッチが驚いて眼を見開いた。
「あれ?違う……」
「……あの時とは違う言葉なのか?」
「確か、あの時は“いつでも喧嘩相手になってやるよい”だったと思うけど……」
「……あの時と今とじゃ、二人の関係は違う」
「マルコだけだろ。ココロは、あの頃まで記憶が戻っちまったんだし……」
サッチが唖然としてる中、マルコから言われた言葉に眼を細めたココロがポツリと言った。
「お前はバカなのか?」
「何でそうなるんだよい」
「そういう言葉は、惚れた女に言ってやれよ」
「あぁ、だから惚れた女に言った」
「…………意味が分からねぇ」
「お前が昔の性格に戻ろうと、初めから始める事になっても構わねぇ」
「……どういう意味だ?」
「今のお前は、記憶が昔に戻っちまったから知らねぇだろうけど……オレは誓った」
一歩一歩近付いてくるマルコに、ココロはキッと警戒するように身構えた。
「二度と、お前に辛い恋愛はさせねぇと誓った。二度と、お前を手放さないと……この海賊団のマークに誓った」
これには、ココロは頭が混乱したように眉間に皺を寄せては奥歯を噛み締めた。
意味が分からない。
記憶が昔に戻った?
だって、私はさっきまでデカ人間と戦ってて……無理矢理船に乗せられて……気を失って……眼が覚めたらこの状況……の筈だ。
眼の前の男とも初めて会う筈だ。
この男の言葉は……まるで、私と付き合ってるような言い方じゃないか……。
有り得ない……。
……私を好きになる男なんていない。
男は……可愛い女に魅かれるもの……。
私を好きになる意味が分からない。
可愛げがない。
男の自分より強い女。
口の悪さ。
喧嘩しか取り柄がない。
見た目も、男好みとかけ離れている。
そう思って、自分の着てる服を見るも、先程まで着ていた服ではなかった。
確かあのデカ人間と戦ってた時は……Tシャツに上着を着て……ハーフパンツだった筈。
なのに、今着てるのは……キャミソールに短パン?
キャミソールと短パンなんて、私は着た事がない。
何で…………誰かが着替えさせた?
それはない。
そうされれば、嫌でも眼が覚める筈。
あの男の言う通り、記憶が?
あの時からどれだけの時間が経過したのかは分からない。
だけど……自分がこれを着ようと思うなんて……
「有り得ない……有り得ない!!!!」
頭を抱えて蹲ったココロに、マルコは急いで駆け寄った。
「違う……悪い夢だ……こんなの……私じゃない……」
「ココロ!!」
「違う!!私……頭がおかしくなったんだ……こんなの……違うに決まってる!!」
自分が知ってる記憶と違うところを見付けて混乱してるのだろうと思ったマルコは、とにかく呼び掛けた。
「ココロ!!」
「…………ちが……ぅ……」
そんな時、マルコはココロの顔を上げさせて、唇を奪った。
繰り返し貪るように口付けるマルコに、されるがままのココロ。
そして、それを周りで見てるクルー達は呆然としていた。
特に、ココロに嫌がらせをしていたナース達や若い衆のクルー達は眼を見開いて、有り得ないものを見ているかのようだった。
「な……何で……」
「リナ?」
「マルコ隊長は、自分からキスするような人じゃなかった!!何でそんな女に!!」
「言ったろ。マルコが好きな女はココロだってな」
イゾウの言葉に、リナは声を張り上げた。
「やっぱり、泥棒猫!!!!」
「……まだ分かってないのかよ」
イゾウは裾から煙管を取り出しては、それに口を付けて煙を吐き出した。
「最初から、マルコはココロしか見てなかった」
だから、いなくなったあの日から……ずっと探してたんだ……。
何処にいるのかも分からないのに……ほんの少しでも情報を得たら、直ぐに其処まで飛んで行っちまう程に……あいつはココロがいなくなってから後悔してた。
何が起きようと、あの笑顔を無くさないように……。
語り掛けてくる声を無くさないように……。
二度と後悔しないように……。
マルコは、ただ一人の女を手に入れたんだ。
何これ?
何で眼の前の男にキスされてんの?
今まで、私にキスしてきた男なんていない。
だって……男は……他の女の子と浮気してばかりだし……。
二度と恋はしないって……。
でも、この男は何?
ココロからゆっくりと顔を離したマルコは、苦笑いしては眼を閉じて言った。
「……初めてのキスは花畑だった。覚えてるかよい?」
「知る訳……ないだろ……」
「……あの時は、オレがバカやらかしたせいで、お前を傷付けちまった」
「……分からない事を言われても……」
「今までのお前の恋愛話しを聞いて、浮気が一番嫌う事も知って…………」
「だから!?それがなんだって言うのよ!!」
「オレが誤解させたせいで、そういう思いを思い出させた」
眼を開けてジッと見てくる男に、ココロは一瞬フラッシュバックするかのように、妙な光景が浮かんだ。
ドアから聞こえてくる男と女の情事の音。
私はそれが嫌だと思ってその場から逃げた。
だけど、“今の”私には分からない光景で……。
男の話しを聞くに、つまり私はまた恋をしては眼の前の男に浮気されたと言う事なのだろうか?
そう思ったら、眼の前にいる男が憎たらしくなった。
「……今浮かんだ記憶……どっかの部屋で男と女がヤッてたみたいだけど……あれはお前か?」
「部屋?」
これに直ぐにピンときたマルコは、慌てて言葉を発した。
「あ、あれはだなぁ……」
「あの時、マルコ隊長と一緒だったのは私よ!!分かるでしょ!!あんたはマルコ隊長には釣り合わないのよ!!」
諦めの悪いリナに、古株のクルー達は額に手を当てては溜め息を零すのだった。
「黙れよい!!」
「どうしてよ!!私はずっとマルコ隊長が好きだったのに……途中から割り込むようにマルコ隊長を奪われて……私の気持ちは何処に行ったら良いのよ!?」
「あの時は……」
「煩い!!!!」
二人の会話を遮ったのはココロだった。
どうしてか聞きたくなかった。
前にも、こんな事があった気がした。
でも、海の匂いはしなかった気がする。
そう……さっき男が言ったような……花の匂いがした気がする。
“…………やっぱり、夢なのかしら”
“夢になんかしたくねぇ”
……この言葉を聞いた時、空と花弁と……この男の顔だけが、視界いっぱいに映っていなかった?
温もりも……
風の感触も……
唇の感触も……
あぁ……結局、私は逃げられないんだ。
リナからの嫌がらせも……リナがマルコ隊長にひっ付くのを見るのも……仲間からの罵声も……全部を見聞きしたくなくて……挙句、全部を否定したくなって……。
都合良く消えた記憶も…………最悪な形で思い出してしまった。
「……マルコ隊長……」
「ココロ……?」
「私は……」
…………どうしたら良いですか?
「……誰の言葉も聞かないで良い。オレの言葉だけを聞いてろ。オレの近くにいりゃあ良いんだよい」
「たいちょ……」
「本当に都合の良い女ね!!記憶がなくなった!?タイミング良く記憶が戻った!?最初から記憶なんてなくなってなかったんでしょ!?この性悪女!!!!」
リナの言葉に、戻った眼付きもだんだんと冷たいものに変わりつつあるココロに、マルコはフッと笑った。
「聞かなくて良い」
マルコはココロの耳を塞いで、ココロの眼には自分しか入れなくて良いとばかりに顔を近付けた。
「…………今日からオレの部屋に来い。リナ達にやられた私物は、オレが買い直してやる」
耳を塞がれてるココロには、マルコが何を言ったのか分からなかったけど、穏やかに笑うマルコの顔が見えて……何故かそれだけで安心してしまって……。
「愛してる」
マルコが言ったこの言葉も聞こえなかったが、周りにいた者達にはしっかりと聞こえていた。
そして、マルコは周りに人がいようとも気にする事無く、再度ココロに口付けるのだった。
これにより、古株のクルー達は盛り上がった。
マルコは、周りに見せ付けるかのように何度もキスを繰り返した。
“ココロはオレのもんだ”
そう言ってるかのような顔付きに、サッチとイゾウはヤレヤレと笑うのだった。
「リナ、まだ諦められないか?」
「マルコが愛してると口にするのは、ココロの前だけだぞ」
「何で……私じゃ駄目なの?」
「そんな事を言ってるうちは、一生分からねぇよ」
イゾウは、未だにココロに迫るマルコを見て、クク……と口の端を上げた。
あれだけ一途で、苦手な事も頑張って、細かな事も気が付いて……自分を変えようとしてたココロ。
そんなココロの本当の魅力が分からないリナに、マルコが振り向く事はない。
いつだって、ココロはマルコを想ってた。
マルコが幸せなら……そう思っているような奴だ。
気持ちを押し付けるだけのリナには分かる筈がない。
「だけど、今回はオレも気が付かないとは……まいったねぇ」
こんな事態になってから、初めてココロが追い詰められていた事に気が付くなんて……。
二度と妹は傷付けさせない。
そう思ったイゾウは、親父の方を見ては言葉を発した。
「親父、どうするよ?まさか、ナース全員が絡んでるとは……」
「……リナは次の島で降ろす。他のナース達には二度とこんな事にならないように、船医に再教育させろ」
「若い衆は?」
「……お前らが再教育しろ」
「了解。二度とこんなバカな事をしないように……みっちり根性叩き直してやるぜ」
不敵な笑みを浮かべたイゾウに、若い衆のクルー達は顔を青褪めさせる事しか出来なかった。
「イゾウ……オレも忘れるなよ?」
「サッチか」
「お前ら!弱音を一言でも吐いたら……分かってるよな?」
ココロは一切誰に悟られる事もなく、お前達全員からの嫌がらせを受けてたんだ。
お前らも当然耐えられるよな?
そう言ってるかのようなサッチの笑みに、若い衆のクルー達は力なく項垂れるしかなかった。
「ナース達もだ。余計な事に時間を割けるとは……今日から、その割ける時間を有効活用させてやる!みっちり医療の復習をさせてやるからな!」
地獄の勉強漬けが待っていると分かったナース達も、顔を青褪めさせるのだった。
そして、リナは次の島に着くまで部屋から出る事は許されず、部屋の前に見張りが付けられる事となるのだった。
こうして、ココロに平穏が戻った……訳ではなかった。
ジッとココロを見て来る複数の視線に、ココロは俯くのだった。
「何で、一言でもオレ達に言わなかった?」
っと、言うのはイゾウ。
「少し前から、お前が忙しそうだからってナースがお前のメシを運んでたけど……食ってたのか?」
「……その話しは知りませんでした」
「食ってないのか?」
「たまたま、部屋に隠しておいたお菓子があったので、それで食い繋いでおりました」
その返答に、怖い程に満面の笑みを浮かべたサッチ。
「ナース達だけじゃなくて、クルー達までも手を出してきた時点で、何でオレに言わねぇ?」
「……そうだと知ったら、親父が悲しむと思って……」
ジロリと睨んでくる親父に、ココロは顔を引き攣らせた。
そして、手伝いで関わっている船大工の皆様。
航海士の皆様。
船医の皆様。
コックの皆様。
色んな方々からの視線を受けているココロは、目線を彷徨わせていると、一番合ってはいけない人物と眼が合った。
「マ、マルコ……隊長……」
「……確かに、周りにココロはオレの女だと言わなかったオレのせいでもある」
「……マルコ隊長のせいでは……」
「そのせいで、お前は隊長呼びしかしねぇ」
「……いや……その……」
「オレがケジメを……なんて言ったからな。一度もオレに甘えて来ねぇ」
「………………」
「自分から、オレに触れて来る事もねぇ。あれからキスすらもしてなかった」
「……此処でバラさなくても……」
どんだけ羞恥プレイを……なんて思っていれば、マルコは溜め息を吐いた。
「もう全部やめだ」
「…………」
こんだけの問題を起こしたんだ。
別れ話をされても……仕方ない。
覚悟を決めてマルコの言葉を待ったココロ。
「遠慮はしねぇ」
「……覚悟はしております」
フラれるのには慣れてる。
眼をギュッと瞑った。
「親父、オレはココロと結婚するよい」
「サッチ、宴の準備をしてやれ!グラララ……」
「お前さぁ……まずはココロへのプロポーズが先じゃねぇのか?」
それぞれが話してる中、ココロだけがポカンとしていた。
「…………別れ話じゃ……なかったの?」
この言葉に、一同はココロを見た。
「マルコォ!!盛大な勘違い娘がいるぞ!!」
「ちゃんと話し合ってこい!!」
「んじゃ、オレ達はその間に宴の準備してくらぁ!!」
一同が散って行く中、残されたココロは何故かマルコに横抱きにされて船内へと連れて行かれ、マルコの部屋へと到着した。
「ったく……何を勘違いしてんのか……」
マルコは苦笑いを零しながら、ココロをベッドの上に座らせた。
「……あれだけの問題を起こしたから……」
「お前のせいじゃないだろ。しっかりクルー達を見てなかったオレ達隊長の責任だ」
「……フラれるかと思ってた……」
「それはねぇな」
「……どうして……?」
ようやく手に入れられた、オレのたった一人の女だ。
簡単に手放してやるかよい。
「最初から、周りにもココロがオレのもんだって言っておきゃあ、こんな事にはならなかったしな」
「……でも、それは私も納得した事で……」
「オレ達の関係は、親父が知ってくれてればそれで良いと思ってた。オマケでサッチやイゾウは知ってたがな……」
「オマケって……」
「だから、二度とこんな事にならないように……」
オレだけのものにしたい。
オレと、一生この白ひげの旗の元で過ごしてほしい。
結婚してくれ。
「っ何……そのプロポーズ……」
眼に涙を浮かべたココロ。
「そんな幸せ過ぎるプロポーズ……嬉し過ぎる」
ずっと、この船にいて良いんだと……。
マルコ隊長の隣にいて良いんだと……。
堂々と、マルコ隊長が自分の男なんだって言っても良いと……。
そういう事なんだよね?
「それで、返事はくれねぇのかよい?」
「お、お願いします……」
泣きながら言うココロに、マルコは笑みを浮かべて口付けた。
その後、宴だと言ってた筈なのに、何故かウェディングケーキまで用意されてた事には驚いた。
みんなが祝福してくれてる事に驚いた。
若い衆のクルー達は複雑そうにしてたけど……。
挙句、マルコ隊長は堂々と宣言してしまった。
「ココロはオレの嫁になった!!誰も手を出すんじゃねぇぞ!!出したら……分かってるだろうな?」
「んな怖いもん知らず、いるかよ!!」
「ココロ!!マルコに泣かされたら、いつでも頼ってきな!!」
「その前に、親父から制裁が下るだろ」
「グラララ……早く、孫の顔を見せろよ!」
こんな幸せで良いのかな?
「…………夢じゃないよね?」
「夢であって堪るかよい」
「……あの時みたいな会話だね」
「あの時も今日も……夢じゃねぇよい」
全部、現実だよい!
みんなが見守る中、口付けを交わす二人。
今度の見届け人は花でなく……強い絆で結ばれた家族達だ!!
あとがき
書いちゃったー……。
とうとう書いてしまった……。
はっ……!!
『こころ』の続編、『きずな』を読んで下さり、ありがとうございます。
本当は続編は考えてなかったのですが、フッとした時に思い浮かんでしまいまして……。
如何だったでしょうか?
……今回、この短編を書いてて思ったのですが、私の書くヒロインは不幸体質が多い気がしました。
それにしても、ココロがとことんギャフンな状況を書いてしまって……(汗)
幸せになってくれれば良いのですが……。
また、次の短編でお会い出来たらと思います!
皆様に、素敵な夢が訪れますように☆