きずな
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「……マルコ隊長、書類は……」
「終わったよい」
「では、親父への報告は?」
「親父は点滴中だ。終わった後に報告するよい」
「でしたら、先程サッチ隊長が……」
「ココロ」
「何でしょう?」
「…………仕事が一段落したんだ。隊長呼びは止めろ。それに、サッチの用事は急ぎじゃないだろ。次の島での調達リストの事だろうしな」
「…………はい」
「敬語もいい加減に止めろ」
「……スイマセン」
何でこうなったのだろう……。
恥晒しを承知で、一年ぶりに船に戻って来た。
事情を知るサッチ隊長やイゾウ隊長……そして、親父は笑って迎え入れてくれた。
出て行く前に相談しろと少し怒られてしまったが、それでも「おかえり」と迎え入れてくれたのは本当に嬉しかった。
しかも、親父、サッチ隊長、イゾウ隊長はその後、マルコ隊長に向かって何やら言っていたようだけど、私には教えてもらえなかった。
だけど、サッチ隊長とイゾウ隊長から、もう心配はいらないと言ってきてくれた事から、何となくマルコ隊長が何を言われたのか想像が付いたので、何も聞かなかった。
そんな中、一年も姿を見せなかった私をクルー達が不審がると思ったけど、どうやら親父の配慮で、親父の私用で出ていた事になっていたらしい。
こうして、一年ぶりの平穏が戻ってきた訳なんだけど……。
「…………」
「ふぅ……仕事終わりの癒しだ」
マルコ隊長は、私にべったりになった。
いや、嬉しいけど……こんな人だったっけ?
可愛いから許せる。
前より愛おしいと思う。
私の膝に頭を乗せて、しかも腕を腰に回してしがみ付いている。
やべ!
これで落ちない女はいないでしょ!!
甘えてくれてるんだよね!?
どんだけ、惚れさせれば気が済むんだ!!
マルコ隊長としての顔は、メチャクチャ格好良い!!
今の恋人として見せる顔は、メチャクチャ可愛い。
だけど、これに良く思わない人もいる訳で……。
「私からマルコを奪って満足!?本当に最低!!人の男を横取りとかって……この尻軽女!!!!」
あぁ……このナースは、あの時のナース。
名前は確か……
「リナ!」
そうそう、そんな名前だった。
「泣かないで……きっと、マルコ隊長も直ぐに眼を覚ますわ。だって、リナと婚約したんでしょ?信じて待ってあげなくちゃ」
「……うん」
完全に、私が悪者だ。
この様子では、ナース全員がリナの味方だろう。
「……あなた、船長の私用からずっと戻らなければ良かったのに……。戻って来なきゃ、リナとマルコ隊長が結婚出来た筈なのに……何で戻って来たの?」
戻って来た頃は陰から言われるだけだったけど、最近ではエスカレートして、堂々と眼の前で言われるようになった。
そして偶然なのか、耳に入ったクルー達からもお小言を言われるようなった。
「早く、マルコ隊長と別れた方が身の為なんじゃない?」
ナースは、何やら意味あり気に言い残しては、リナを連れてその場を去って行った。
この時は、いつもの嫌味程度にしか思っていなかった……。
だけど、この言葉の意味を……直ぐに理解する日がきた。
「……まただ」
仕事も終わり、自室に戻ってきたココロは、自分の部屋の有り様を見て溜め息を吐いた。
「…………これ、大事な書類なのに……」
切り裂かれた書類を見ては、眉間に皺を寄せた。
少しずつエスカレートするナース達に、いつかこうされるだろうと思っていたココロは不敵に笑った。
「ダミーを用意しといて良かった」
大事な書類にまで手を出されたら、堪ったもんじゃない。
今回は、ダミーに引っ掛かってくれたから本物の書類は無事だった。
「こりゃあ、大事な物は隠しておいた方が良いな」
今後の事を考えては、溜め息を吐くしかなかった。
この時のココロの勘の良さが的中し、次第に被害も大きくなってきた。
「…………洋服まで切り裂かれるようになったか……」
無惨な姿でベッドに放られた服。
挙げ句、下着までボロボロときた。
「次の島で買わなくちゃ……」
どんどんと私物をやられていくココロだったが、遣り返す気にはなれなかった。
自分が下手に動けば、マルコ隊長に被害が行くだろう。
親父の耳に入れば、余計に心配される。
サッチ隊長もイゾウ隊長も……きっと知れば何とかしようと動くだろう。
でもそれは、船の雰囲気を悪くするだけ。
……既に悪いか。
事情を知らない人達からすれば、私はリナからマルコ隊長を奪った最悪な女なのだろう。
「…………こんなに居心地悪かったっけ?」
ポツリと呟く声は、静まり返った部屋に木霊するように響いた。
「もうこんな時間……」
さっさとお風呂に入って寝てしまおうと思ったココロが、お風呂場へ行こうと廊下に出た……までは良いが、お風呂場のある角を曲がろうとした時だった。
「なぁ、ココロの奴、リナに嫌がらせしてるらしいぜ」
「あぁ、ナース達が言ってたな」
「あいつ、変わったな」
「そうでもしなけりゃあ、マルコ隊長に振り向いてもらえないんだろ」
「だからって、仲間に嫌がらせって……掟に反するのも時間の問題かもしれないぞ」
「そうなる前に、親父に進言した方が良いかもな」
同じ一番隊のクルーなのは声で分かった。
ココロは、そのまま気配を消したまま来た道を引き返した。
誰にも会わずに部屋へと戻れば、持っていた着替えを机の上に置いた。
私が嫌がらせをしてる?
前みたいに、色んな場所で手伝いをしてる私に、いつ嫌がらせする時間があると思ってるのよ……なんて言いたくても、回りからすれば言い訳にしか聞こえないだろう。
私はいつから、言いたい事も言わずに呑み込んでしまうようになったんだろう。
「……私の居場所は……此処……で良いんだよね?」
自分の居場所も立ち位置も分からなくなったココロ。
何かが足下から崩れていく何かを感じるのだった。
戻ってくるべきではなかった?
幸せになりたいと思う事がいけない事なのだろうか?
何でいつも私の恋愛は……上手くいかないのだろうか……。
私は……どうしたら良いのだろうか?
そんな事が続いたある日……。
船に戻って来てから二ヶ月……嫌がらせを受け始めてから一ヶ月半……。
何でこうなるの?
「お前さぁ……そんなにリナを泣かしてまでマルコ隊長が欲しいのかよ?」
「人の男奪うなんて……まぁ、海賊としては当然だけど、仲間の男に手を出したらマズイだろ」
……何でクルー達にまで……しかも、同じ一番隊の仲間にまで言われなくちゃいけないのだろう。
だいたい、私はリナからマルコ隊長を奪ったつもりはない。
マルコ隊長が迎えに来てくれたから……。
「マルコ隊長の近くに寄るなよ!オレ達はリナの味方になるからな!」
「あまりに酷いとどうなるか……お前だって分かるだろ!」
「黙ってないで、何とか言えよ!!」
「オレ達はマルコ隊長だから……リナが幸せそうだったから諦めたんだぞ!!」
成程……こいつらはリナに惚れてた奴らか……。
「本当にマルコ隊長が好きなら、隊長の幸せを考えろ!!」
私とじゃ、マルコ隊長は幸せになれない……そう言いたいんだ。
リナとなら……幸せになれる。
そうだよね。
元々、リナと噂になってた訳だし……。
私がいなくなった後、船で何があったのか知らないし……。
「何でかは知らないけど、元気のなかったマルコ隊長の傍にいて支えてたのはリナなんだぞ!!それが、お前が戻って来た辺りで元気が戻ってきたかと思えば……」
「船にいなかったお前は知らないだろうけど、二人は本当に相思相愛!!誰もが羨むカップルなんだぞ!!それをお前が邪魔して……恥ずかしいと思わないのか!?」
……恥晒しを承知で戻って来ても……事態はもっと酷い。
恥晒しなんてもんじゃない……。
やっぱり、どう頑張っても……私はこの船には不要な存在。
みんなに追い付けるようにって、沢山勉強して……手伝って……。
意味はなかった。
誰も認めてはくれない。
マルコ隊長が言ってたあの言葉も……本当は違った?
私がいなくて嘆いていると……あの花畑で言ってたけど……誰一人として、私がいなくても問題なさそうだった。
いなくなる前よりも、効率良く仕事してる。
態度も変わらない。
私がいてもいなくても変わらない気がする。
「本当に、お前何で戻って来たんだ?親父の私用なら、ずっとそうして船にいなけりゃあ良かったのにな」
「……家族と思ってたのに……そんなヒデェ奴だったとは……見損なったぜ」
一番隊の二人は、言いたい事を言ってその場を去って行った。
残されたココロは、握り拳を作っては奥歯を噛み締めた。
「…………何処にも……」
私の居場所なんてない。
「サッチ、此処にココロいるかよい?」
「いや、今日はまだ此処に手伝いには来てないぞ。他の所にいるんじゃないのか?」
食堂にきたマルコは、サッチの返答を聞いて溜め息を吐いた。
「……何処にもいねぇ」
「……お前、まさか……」
「何もしてねぇよい!」
「前科があるからなぁ」
「んな半端な真似するかよい!」
「はは!まぁ、ココロに逃げられないように頑張れや!」
「ったく……何処にいるんだよい……」
そんな時、マルコは後ろから抱き付かれる衝撃を感じ、首だけを後ろに回した。
「マルコ!」
「リナ……何だよい」
眉間に皺を寄せたマルコだったが、リナは特に気にする事無く、甘い声を出してマルコにすり寄るのだった。
「マルコォ……どうしてあれから相手してくれないの?」
「っち、あの時は合意の上での一回きりだろうが……変な噂流しやがって……」
「私は本気よ!」
「オレはなぁ……」
ココロ以外と付き合うつもりはねぇよい……そう言おうとしたが、他のクルー達に遮られてしまった。
「隊長!見せ付けてくれますね!」
「だから、前から言ってるだろうがよい!!こいつの狂言だって!!」
「照れない照れない!お似合いのカップルじゃないですか!」
「何度も言わせるなよい!!」
あれから何度誤解を解こうとも、リナが後から後からクルー達に吹聴して回ってるのか……一向に誤解が解けない。
「リナ、マルコ隊長と幸せになれよ!応援してるぞ!」
「ありがと!ねぇマルコ、みんなもこう言ってくれてるのよ?」
「離れろよい!!」
「何でぇ?」
「隊長、オレ達を気にしてるんなら大丈夫ですよ!オレ達は二人が幸せならそれで良いんすから」
「隊長として……なんて考えてるなら、それこそリナに失礼ですよ!こんなに愛されてるのに!」
「だから……」
堪忍袋の緒が切れる……その一歩手前だが、イラつきもある訳で、怒鳴り散らそうとしたマルコだったが、食堂の入口でこちらを見るココロが眼に入り、黙ってしまった。
「ココロ……?」
こちらを見るココロの眼が……
海賊団に入った頃の……荒んだ眼に戻っていたからだ。
いや……あの時以上に酷かった。
「ココロ……どうし……」
マルコが話しかけようとした途端に、周りのクルー達がココロを囲んだ。
「テメェ……何だ、その眼は……マルコ隊長はリナのもんだって言ってんだろ!!」
「あれを見ても、まだ諦めねぇつもりか!?あぁ!?」
「どっか行けよ!!」
「裏切り者が!!そんなに仲間を裏切って楽しいか?傷付けて楽しいか?」
「親父を裏切ってるのと同じなんだぞ!!分かってるのかよ!!」
「お前みたいな奴、この海賊団にはいらねぇんだよ!!」
「堂々と船に乗れるとは……何処まで恥知らずなんだよ!!」
次々と浴びせられる罵声に、流石のマルコとサッチも呆然としてしまったが、直ぐにハッとして大声を上げた。
「テメェら!!仲間に対して、何でそんな事が言えるんだよ!!」
「家族をバカにするとは良い度胸じゃねぇかよい……」
「サッチ隊長もマルコ隊長も分かってないんすよ!!」
「そうだ!隊長達は知らないだけっすよ!!」
「何がだよい」
「こいつ、リナに嫌がらせしてるんすよ!!」
「家族を傷付けたのは、こいつが先なんすよ!!」
これを聞いた二人はココロを見た。
「……ココロが嫌がらせ?」
マルコの言葉に、リナはマルコにしがみ付いては涙を浮かべながら訴えた。
「部屋にあった服とか下着とか、切り裂かれてたんですよ」
影からネチネチ嫌味を言われて……どんな仕打ちだったか……酷いもんだったんですよぉ……なんて言うリナに、マルコもサッチも顔を歪ませた。
どう考えても、リナの涙は嘘にしか見えなかった。
マルコはジッとココロを見て、気が付いた事があった。
着てる服が、最近同じ。
もしかしたら、リナの言ってる嫌がらせは、本当はココロが受けてるものなんじゃ……。
おそらく、この状況を咄嗟に利用しようと思ったリナだが、下手に嘘付くとボロが出ると、実際は自分がしてる事を自分がやられてるように言ってるのでは……そう思ったマルコは額に手を当てた。
気が付いてやれなかった。
それだけが頭を支配したマルコ。
サッチもまた、同様の事を考えてるのか、渋い顔をするのだった。
「マルコ~、何とかしてよぉ」
「……あいつがやったって証拠は?」
「だって、私見たもの!私の部屋から出て来るところを……」
「じゃあ、具体的にいつ……何時頃だ?」
「え……覚えてる訳……」
「見た日の事ぐらい、普通覚えてるだろ」
「なっ!!何でこいつを庇うの!?私がそうだって言ってるのに、信じてくれないの!?」
「……こいつが、そんな下らない事に時間が割けるとは思えないしな」
「くだ……下らないですって!?彼女が嫌がらせ受けてんのに……それを下らないって何よ!!」
「彼女?誰がいつ、お前を彼女だと言ったよい」
「みんなが知ってるわ!公認の仲じゃない!!」
これに対し、サッチは溜め息を吐いた。
「公認?オレは知らなかった事実だけど……マルコ、リナと付き合ってるのか?」
「んな訳ねぇだろ!!」
「だとさ」
「サッチ隊長まで、私を信じてくれないんですか!?」
「じゃあ、いつ頃ココロから嫌がらせを受けた?」
「だから……」
「だいたいにして、ココロは有り得ないよ」
「何で言い切れるんですか!?」
「だって、あいつが一人になる事はない。誰かしら必ず近くにいるんだ。それなのに、嫌がらせなんて……無理な話だ」
これに対し、リナは喰って掛かった。
「誰かしら……?この女、この海賊団のクルー達を侍らそうとしてるって事かしら?最低ね」
その瞬間、食堂に渇いた音が木霊した。
「……な……何すんのよ!!仲間に手を出したわね!!大罪よ!!この船のタブーを破ったわね!!船長に言い付けてやる!!」
「……ご勝手に」
リナの頬を叩いた本人、ココロは平然としていた。
この態度に噴気したのは周りにいたクルー達だった。
「テメェ、ふざけんな!!」
「調子に乗りやがって!!」
「こっち来いや!!」
髪の毛や服を引っ張って甲板へと連れ出されたココロに、マルコとサッチは怒鳴り声を上げた。
「いい加減にするのはお前らだ!!」
「何を考えてんだよい!!」
マルコはリナを無理矢理引っぺがし、サッチと共に直ぐに甲板へと向かうが、既に騒ぎは船中に知れ渡ってるのか、クルー達はココロに武器を向けて拘束していた。
「親父!!オレ達は我慢ならねぇ!!こいつ、リナを殴りやがった!!仲間を平気で傷付ける奴なんて、この船にはいらねぇだろ!!」
「せめてもの情けで殺さないにしても、船から降ろすべきだ!!」
「浅ましい女が!!」
クルー達の罵声が雑音になりつつある中、親父は一喝した。
「黙れ!!」
これにより、静まり返った甲板。
そして、親父はココロを見て口を開いた。
「……どういう事なのか説明しろ」
「……説明なら必要ないだろ。こいつらの言った通り、リナを殴った。それで十分だろ」
「親父!!ココロはリナの頬を引っ叩いただけで、殴っちゃいねぇ!!でも、それはココロが悪いんじゃねぇよ!!」
サッチが大声を上げるも、クルー達が反論した。
「サッチ隊長!!何でこんな奴を庇うんですか!?引っ叩くも殴るも、手を出した事には変わりないじゃないですか!!」
「だいたいにして、ココロ一人にお前達が罵声を浴びせてるのは何でだ!?ココロがお前達に何をしたってんだ!!」
「リナを傷付けてたんですよ!!嫌がらせをしてたんですよ!!許せる筈がないじゃないですか!!」
「だから、ココロがやったっていう証拠を持って来い!!」
「リナ本人がこいつにやられたって言ってるんすよ!!どうして信じてあげないんですか!!」
「っうるせぇぞ、アホンダラァ!!!!」
親父に怒鳴り声に、またもシンと静まり返ったのだった。
「……リナ、本当にココロにやられたんだな?」
親父の言葉に、涙ながらに頷いたリナ。
それを見た親父は溜め息を吐いた。
「…………お前……船を降りろ」
「さっさと荷物を纏めろ」
この言葉に、クルー達はココロを拘束してる縄を解き、船内へと促す様に背中を強く押した。
その反動で甲板に強く打ち付けるように転んだココロ。
ココロも特に気にする事なく……そして、船内に荷物を取りに行く様子もなく船縁に足を掛けた。
この様子を見てたリナが、微かにニヤリと笑ったのを誰も見る事はなかった。
だが、この事に異議を申し立てたのはマルコやサッチ……事情を知ったイゾウだった。
「親父!!何を考えてんだよい!!どう考えても、ココロじゃねぇ事ぐらい分かってんだろ!!」
「そうだぜ!何もしてないのに、無実の罪を着せたまま船を降ろすのかよ!!」
「親父、オレ達はまた同じ事を繰り返させるのか?ココロに……また同じ気持ちを背負わせるのか?」
この三人の言葉に、親父は持っていた酒をグビグビと飲んでは、ジッと一同を見た。
「誰がココロに言ったんだ。オレはリナに言ったんだぞ」
それに対し、今度はクルー達が声を上げた。
「ちょっと待ってくれ、親父!!何でリナなんだよ!!」
「そうだぜ!リナは嫌がらせを受けてた方なんだぜ!?」
「テメェら……まんまと騙されやがって」
「……親父?」
ジロッと睨むように一同を見た親父は怒鳴り声を上げた。
「嫌がらせ?テメェら、ココロの何を見てきたんだ!?あいつが色んな所に手伝いで動き回ってる事は、誰でも知ってる事だろうが!!」
「白ひげ!!」
親父……ではなく、白ひげと呼んだココロに、一同は黙ってしまった。
「……もう良い。疲れた……」
私が築き上げてきたものの結果がこれ。
誰にも信じてもらえなかった。
それが答えなんだよ。
昔以上に眼付きを鋭く……荒んだ眼を向けて来るココロに、先程までココロに罵声を浴びせていたクルー達ですら後退りする程だった。
「……戻って来なければ良かった」
そう言って、そのまま海に飛び込んでしまったココロに、サッチとイゾウが急いで海に飛び込むも、既に遠くまで泳いでしまっているココロに追い付けなかった。
そして、飛び込んで追い掛けても行けない自分に嫌悪するマルコは、顔を歪ませて海を見てるしかなかった。
「せ、船長?何で私が……」
「……オレはなぁ……全部知ってたんだぜ?」
「何をですか!?私が嫌がらせ受けてたのに……」
「あいつが船に戻って来た時から……いや、それ以前からな。どうも様子がおかしいと思って、お前とココロ……二人に見張りを付けた」
「あの女なら分かるけど、何で私まで!!」
「ココロを見張らせたのは、お前に何をされても、オレには言わないと思ったからだ」
「な、何で私限定で言うんですか!?」
「あいつが船にいなかった一年……お前の動向が妙だったんでなぁ」
少しの間の後、親父はリナを睨み付けた。
「いなくなったあいつが、またこの船に戻ってこないように、島に着く度に刺客を雇ってたろ?」
「違うわ!あれは白ひげ海賊団に手を出そうとしてるって話しを聞いて、どうにかしなくちゃと思って……」
「なら、何でそれをオレや隊長達に言わねぇ」
「……確信がなかったし……」
「…………そうなのか?ハルタ」
急にハルタに向けられた言葉に、一同はハルタを見た。
それに対し、ニッと笑顔を浮かべて言葉を発したハルタ。
「言ってる事は全部嘘だよ。だって、リナが接触した奴らから全部聞いたもん」
ココロを殺せ……そう言ってたよと言うハルタは、リナに完全に笑ってない笑顔を向けた。
「う、嘘よ!だって、そいつらが嘘言ってる事だって……」
「ほぉ……エース。どうだった?」
今度はエースに向けて言う親父に、リナは眼を見開いた。
「ココロの部屋荒らしてたぜ。服も切り裂いてるところも見た」
「何言ってるんですか!?」
「オレは親父に言われてココロを見てた。それに、ココロの部屋も監視してた」
「っっあの女を疑ってるから監視してたんでしょ!?」
「あぁ……ココロを守る為にな」
「何で……あの女ばかり……それこそ、私がやったって証拠は!?エース隊長が見たって言っても、たまたまそう見えただけかもしれないじゃない!!」
「……映像電伝虫に記録させてあるけど?」
そう言って、エースは一匹の電伝虫を取り出した。
「まだ言い訳するか?」
エースの言葉に、泣き出したリナは大声を上げた。
「何で……何で何で何で!!!!」
あの女は、ただのクルーじゃない!!
戦闘しか出来ない戦闘狂じゃない!!
何も出来ない能無しじゃない!!
私みたいに手当ても出来ない!!
私みたいに男を満足させる事も出来ない、まるで男みたいな奴が!!
美貌もない!!
スタイルも悪い!!
化粧もしない!!
武器を持って暴れ回るしか出来ないのに!!
「私はあの女より優れてる!!なのに、そんな奴がマルコ隊長を手に入れられる事がおかしいじゃない!!」
これには、一部のクルー達が黙ってなかった。
「お前……何も知らないんだな」
「何がよ!!」
「ココロは、オレ達の手伝いをする為に大工勉強してたんだぞ」
「それを言ったら、オレ達航海士チームの手伝いをする為に、天候の勉強もだ」
「ナース達は知らないだろうけど、少しでもみんなの役に立てるようにって医療も必死に勉強してた」
「厨房の手伝いもしてたぞ」
「それに加えて、一番隊の副隊長としての仕事もしっかりこなしてた」
「休む暇がない程に動き回ってた。それこそ、嫌がらせする時間なんてないだろ」
「常に、誰かが近くにいるんだ。そんな事したら直ぐに分かるのに……」
「だいたいにして、ココロがそんな奴じゃないって事ぐらい、殆どのクルーは知ってると思ってたが……」
古株のクルーは、海賊団に入って日が浅いクルー達を見た。
「騒いでたのは、若い衆だけだな」
「ったく、リナに関わって騒いでたのが若い衆だけだったからこんな騒ぎになっちまったようだが……古株が誰一人として気付かないなんてなぁ」
「ココロは大丈夫かなぁ」
「サッチ隊長とイゾウ隊長がいるから大丈夫だろ」
「……此処まで追い込まれるとは……リナ……それに若い衆……いったい何をしたのか……聞かせてもらおうじゃねぇか」
「もちろん、ココロに一度でも罵声を浴びせた奴らは名乗り出ろ。誤魔化すなよ……名乗り出ず、それを後から知ったら……それこそどうなるか分かってるだろうな?」
古株のクルー達の威圧感に、若いクルー達は顔を青褪めさせた。
一方で海に飛び込んだココロは、海に沈んでいく自分に、抗う事なく身を任せていた。
(奇跡なんてない。だけど、これで万が一にも何かが起こって生き残れたら……一人で生きていこう。だけど、このまま海に沈んで死んだら……一人になれるから良いか)
昔からそうだ。
故郷にいた時から、私は鬱陶しがられていた。
其処ら辺の男より強い。
だから男から煙たがられていた。
女もそうだ。
逆に、それが良いと言ってくれる男が良い男ばかりだったから妬まれた。
自分らしく生きていても、全部否定された。
何処にも居場所なんてなかった。
ようやく自分らしく生きられる場所を見付けても……私を好きと言ってくれる人が現れても、結局女の子らしい子を選ばれてしまう。
マルコ隊長を信じてない訳じゃない。
だけど、いつかマルコ隊長もリナを選ぶ。
私に良いところなんて……何一つない。
息が苦しいけど……それが苦にならない……。
何とも不思議だけど……意識が遠のくけど……悪い気分にならない自分は……楽になりたいんだろうな。
逃げてるのと同じだけど……良いよね、もう……。
私なりに頑張ったよね?
親父の為に……親父を海賊王にと動いてきた。
誰かの為に頑張ろうと思えた自分がいたんだ。
生きてる間に、それを知る事が出来たんだ。
上出来でしょ……。
次に眼を開ける時はあの世か……。
それとも……
何だろう……。
眼を閉じてるのに、明るいと感じる。
賭けは……負けたのかな?
だとすれば、此処はあの世なのかもしれない。
「……楽になれたかな?死ねたかな?」
ポツリと声を出せば、周りから怒声が飛び交ってきた。
「死なせる訳ねぇだろうが!!」
「何で誰にも相談しなかったんだよ!!」
瞼が重くて開けられないけど、周りからする気配が怒っているのだけは分かる。
あの世でも怒られるって……私、どんだけ嫌われてるのかな?
「……起きたんじゃねぇのか?寝言?」
「っくそ……船医!」
「息は吹き返したけど……」
船医?
息は吹き返した?
一度は死んだんだ……。
でも、生きてるって事は……まだ生きろって言うの?
もう疲れちゃったのにな……。
疲れちゃうって思うぐらいなら、一人で暴れてた頃の方が…………いや、海賊団に入った事に後悔はないけど……複雑だなぁ。
「眼……覚ませよい」
マルコ隊長の声……怒ってる?
「何で何も言わねぇんだよい……そんなにオレが信用出来なかったのかよい」
信用してたよ?
浮気の心配もしてなかったよ?
でも……そのうちマルコ隊長も後悔する日が来ると思うんだ。
私と一緒にいる事を後悔する日が……。
何度も言われてた。
“甘えてくれる女が良い”
“素直に受け入れてくれる女が良い”
素直って何?
セックスしたいが為だけに、私を好きと言ってたの?
男と女の価値観は違う。
男は恋愛とセックスは別だと言うけど……女には分からない感覚だ。
だから、いつも浮気されてきた。
マルコ隊長が半端な事はしないと分かってる。
だけど、いつ別れを切り出されるか……不安があったのも事実だ。
私に裂く時間があったら、別の女に時間を使った方が良かったと……そう言われるんじゃないかって……ビクビクしてた。
「私……もう……頑張らなくて……良いよね?」
リナに嫌がらせを受けても我慢してたよ。
いずれ、リナに気持ちが行くであろうマルコ隊長の為を思えばこそ……。
リナは顔も良くて、スタイルも良くて、医療の腕も確か。
こんなに完璧な女なんだもん。
落ちない男はいない。
私とは正反対。
嫌がらせも、周りからすれば笑って許せる範囲だろと笑われると思ったから。
マルコ隊長と別れた後は、この船を降りて暴れようと思ってた。
それまでに溜まった鬱憤を晴らそうと思ってた。
前より酷い状態になるだろうと自分でも分かってたけど……それでも暴れられるなら良いやって思う程に……かなり我慢してた。
こうして生きてたって事は……暴れて良いって事だもんね。
……やっぱり、私に恋愛は似合わない。
私にお似合いなのは……血生臭い事。
慣れない勉強も……そんな似合わない事はもうしない。
「……ウミニ……カエリタイ」
私……今まで、どうやって生きてたっけ?
ゆっくりと眼を開けたココロが最初に見たのは、マルコの顔だった。
「……テメェ……誰だよ?」