ご都合血鬼術
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ある晴れた日の昼下がりーーー
庭の掃除をしている私の元へ煉獄さんの鴉、要が飛んできた。
要「美桜!」
『要、おかえり。杏寿郎さんは?』
要「緊急事態ダ!スグニ蝶屋敷ヘ急ゲ!!」
『!?』
要が珍しく慌てた様子でそれだけを告げてまた飛び立って行ってしまった。
蝶屋敷・・・緊急事態・・・それって
煉獄さん・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『しのぶさんっ!杏寿郎さんはっ!?』
し「あら〜美桜さん、お早い到着で」
『え・・・あれ?』
ゼェゼェと息を切らしながら部屋に飛び込むと、紅茶の入ったカップを片手に優雅に寛ぐしのぶさんの姿。
キョロキョロと辺りを見回すが、肝心の煉獄さんの姿が見当たらない。
緊急事態という位だから、任務中に大怪我をして運ばれたのかと思っていたけどそんな雰囲気もない。
『しのぶさん・・・杏寿郎さんは・・・?』
戸惑いつつも先程と同じ質問を投げかける。
しのぶさんはゆっくりした動作で紅茶を一口啜ると、いつもの穏やかな口調でこう続けた。
し「煉獄さんなら、ここにいらっしゃいますよ」
『?、???』
もう一度部屋を見渡すが、やはり姿はない。
どういう事だろうと頭を捻っていると、着物の裾を引っ張られる感触が。
気になって視線を下に向けるとーーー
『きょっ!?』
ーーいた。
いたのだ・・・私の足元に。
“俺ならここにいるぞ!わざわざ来てもらって悪いな!”
『杏寿郎さん・・・身体が・・・』
“うむ。鬼の術にかかってしまってな!この通りだ!柱として不甲斐なし!穴があったら入りたい!!”
血鬼術にかかってしまった煉獄さんは手のひらサイズに縮んでしまっていた。
にも関わらず腕を組んでワハハと笑っている。
こんな大事になっているというのに煉獄さんもしのぶさんも何でそんなに落ち着いているの??
・・・何故こんな姿になったのか。
それは、いつもの様に鬼の退治に向かった時のこと。
悲鳴を聞きつけた煉獄さんが現場に駆けつけると道端で母親と少年が鬼に襲われる所だった。
2人を抱き上げ離れた所に避難をさせ、改めて鬼に向かおうとした時ーーー
煉「!」
路地から、その母子の末娘が母を追いかけ鬼の目の前に飛び出してきた。
咄嗟にその子と鬼の間に身体を入れ庇いながら鬼の頸を斬ったが死に際に術をかけられた様で身体が縮んでしまったそうだ。
『そんな事が・・・その姿でよくここまで戻って来られましたね・・・っていうか鬼を斬ったのに術が解けないんですか!?』
“うむ!要の背に乗ってひとっ飛びだった!中々出来ない体験で面白かったぞ!”
し「死に際に放つ術は鬼の執念の塊の様な物なので、効果が長引く事もあるのですよ。まぁ、大抵は半日から一日で戻りますよ」
私の疑問にも何て事ないように答える2人に拍子抜けする。
『えっと・・・それで私は何の為に呼ばれたのでしょう??』
怪我もなく、時間がたてば元に戻るのなら緊急事態でもないと思うけど・・・
し「柱の面子の為ですよ」
『はぁ?』
し「不可抗力とはいえ、十二鬼月でもない鬼の術に柱がかかったなんて知れ渡ったら鬼殺隊の士気にも関わってきます」
『はぁ・・・』
し「なので他の方たちに知られない様、煉獄さんが元の姿に戻るまで保護して欲しいのです。」
『保護・・・』
し「お願いですから、煉獄さんをこのまま連れて帰ってください」
『わ、わかりました・・・しのぶさん、怒ってます?』
し「怒りたくもなりますよ。このまま蝶屋敷の一室で元に戻るまでじっとしていてくれればわざわざ美桜さんを呼ぶ必要もなかったのですから」
笑顔だけど、目が笑ってない・・・
どうやら要に乗って空を飛んできたのが楽しかったようで、小さくなった姿を楽しもうと、しのぶさんの忠告も聞かずチョロチョロと動き回っていたらしい。
いつ元の姿に戻るかも分からないので1人で帰すわけにも行かず、かと言って煉獄さんを監視していると自分の仕事が出来ない、という事で要を使って私を呼んだのだという。
『そ、それはご迷惑をおかけしてすみません・・・』
し「美桜さんが謝る事ではありませんよ。それでは、煉獄さんをお願いしますね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『・・・さて、それでは帰りますよ』
“うむ!”
蝶屋敷を後に私の巾着袋の中に煉獄さんを入れて歩き始める。
あまり揺らさないように、気をつけないと・・・
このまま誰にも会わず家に帰ってお部屋の中で過ごしていれば何も問題はないはずーーー
冨「美桜」
『うはっ!?ハイ!!!』
急に後ろから話しかけられて奇声を発してしまう。
振り返ると、義勇さんが立っていた。
『ぎっ義勇さん!こんなところで会うなんて奇遇ですねっ!!』
冨「こんな所・・・蝶屋敷の門前で鬼殺隊の関係者が会うのは奇遇なのか?」
『やっ、えっと・・・ああ!義勇さんも蝶屋敷に御用があるんですね!私はもう済んだのでこれで失礼しますっ!』
そう言ってバビュンとその場を走り去る。
冨「・・・美桜に避けられてる・・・?」
義勇さんを微妙に傷つけた事にも気づかずに。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『・・・ふぅ。危なかった・・・』
蝶屋敷から大分離れた所で一息つく。
そして巾着袋の中の煉獄さんの様子を見ると、袋の中でひっくり返っていた。
そうだ、義勇さんから離れる事に必死で巾着袋を振り回しながら走っていたのだ。
『ごっごめんなさい・・・大丈夫ですか?』
“うむ・・・三半規管が多少やられたがこれも鍛錬と思えば大したことはない!”
何でもかんでも鍛錬に結びつけるとこ凄いな・・・。
とりあえず、町の人混みに入っちゃえば知り合いに出会うこともないだろう。
そう思って人通りが多い道を選んで歩いていると
蜜「美桜ちゃん!」
『!?蜜璃ちゃん・・・と伊黒さん・・・』
真正面に2人が立っていた。
何故・・・
今日に限って会っちゃうんだろう
蜜「任務帰りに偶然伊黒さんに会って、これからご飯食べに行くんだけど美桜ちゃんもどう?」
伊「・・・・・・」
笑顔の蜜璃ちゃんに思わず返事をしそうになるが、今はそれどころではない。
隣の伊黒さんの視線も怖い。
『いや、私は・・・お腹空いてないから』
グウゥゥ〜
・・・・・・
断りの台詞の途中で盛大に腹の虫が鳴る。
もちろん私じゃない。
私のお腹の前に持っている巾着袋が鳴ったのだ。
『・・・や、これは・・・』
蜜「・・・美桜ちゃんもお腹空いてるのね!すぐそこに美味しい定食屋があるから行きましょう!ね!伊黒さん?」
伊「・・・甘露寺がどうしてもと言うならば仕方ない。」
いや、めっちゃ舌打ちしたよね!
ホントそれどころじゃないのに〜!!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
蜜「ここよ!前に煉獄さんに教えて貰ったお店なの〜!揚げたての豚カツが美味しいのよ♡」
蜜璃ちゃんの隣に伊黒さんが座り、私は蜜璃ちゃんの向かいに腰掛ける。
蜜「私はとりあえず豚カツを5人前で・・・伊黒さん、美桜ちゃんは決まった?」
伊「俺は茶でいい」
『!じゃあ私もお茶で・・・』
蜜「え・・・私だけたくさん食べるの・・・じゃあ私もお茶にしようかな・・・」
伊「貴様、甘露寺を困らせる気か?腹を鳴らしていたのだから何か食べるべきだろう」
自分の事を棚にあげて・・・理不尽!!
だけど、確かに蜜璃ちゃんに悪いよね。。。
とりあえず、軽いものをサッと食べて直ぐに帰ろう。
お品書きを見る。
軽いもの、軽いもの・・・
冷たいおそばなら、早く食べられそう。
『じゃ、じゃあ、私はざるそば・・・』
「豚カツを8人前もらおう!!!」
!!
伊「・・・・・・」
蜜「え・・・豚カツ、8・・・?」
『いや!いち!はちじゃなくて、1ね!』
巾着袋からの注文により、私も豚カツを注文することになった。
さっきのお腹の音といい、きっと煉獄さんお腹空いているんだろうな・・・
ていうか、さっきより煉獄さんの声大きくなってない?気のせいかな。
店「おまたせしました〜」
料理が届き、蜜璃ちゃんの興味は豚カツに向く。
伊黒さんの視線も美味しそうに食べる蜜璃ちゃんに向いている。
私の事はもちろん眼中にない。
『・・・・・・』
巾着袋の口を開け、そこに豚カツを一切れ入れてあげると、煉獄さんの顔がパァッと明るくなる。
かわ!!
可愛い!!!
自分よりも大きい豚カツに齧り付く姿、写真に収めたい!!!
「美味い!!!」
蜜「?」
伊「!」
『!!・・・う、美味い!!!』
煉獄さん・・・今の身体のサイズと声の大きさが見合っていないんだけど。。。
バレない様に煉獄さんの声に自分の声を被せる。
目の前の2人だけじゃなく、店中の視線が私に痛い程刺さる。
伊「・・・杏寿郎の真似事か?」
蜜「美桜ちゃん、泣くほど美味しいの?」
「美味・・・」
『美味い!!美味い!!!』
涙目になりながら、煉獄さんに合わせて美味いコールを続けた私を誰か褒めて欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『やっ・・・と、着いた・・・』
ヘトヘトになりながら何とか屋敷に帰ってきた。
縁側に出て煉獄さんを巾着袋から出して座布団の上にそっと下ろす。
『ここでしばらく日向ぼっこしててくださいね』
血鬼術にかかったら、陽の光にあてるのが良いらしい。
何か浄化?されるのかな・・・
「うむ、ありがとう!・・・美桜は何処へ行くのだ?」
『私は、外の掃除の続きをしちゃいます。すぐに終わりますからお昼寝でもして待っててください』
言いながら、庭に放り投げたままの箒を手に取る。
掃除をしながら煉獄さんの姿を確認すると、座布団の上でおとなしく座っている。
良かった。
いつ元の姿に戻るのかは分からないけど、家の中にさえいれば誰かに見られる事もないし!
掃除を終えて煉獄さんの所に戻ると気持ちよさそうに眠っている。
可愛いなぁ!もう!
ここぞとばかりにじっくり観察する。
身体だけじゃなくて隊服や羽織まで小さくなっているの不思議だなぁ。
でも夜までに戻らなかったらずっと隊服でいる事になるのは可哀想だ。
裁縫道具と手触りの良い手拭いを持ってきて即席の浴衣を作り始める。
隣では相変わらず寝息を立てている煉獄さん。
こんなに熟睡してるのも珍しいな。
身体が縮むといつもの一歩が何十歩にもなるし何かと疲れるんだろうなぁ。
本人はなんて事ないような顔をしているが、不便な思いをしてるよね・・・
・ ・ ・ ・ ・
「ごめんくださーい!」
『ッ!?』
考えに耽っている所に来訪者の声がして驚く。
来ない時は全くなのに・・・何で、こういう日に限って・・・
煉獄さんを見るとまだ眠っている。
動かすのはかわいそうだな。
少し離れるくらいならいいか。
そう思い玄関へ向かう。
『お待たせしました・・・千ちゃん!』
千「こんにちは、美桜さん。先日読みたいと言っていた本を持ってきましたよ」
『えっ、ありがとう!わざわざ持ってきてくれたの?今度会う時で良かったのに』
千「出掛けのついでだったので・・・もしかして、ご迷惑でしたか?」
『そっ、そんなことないよ!』
流石、人の機微に聡いな煉獄家・・・
私の様子に心配そうな顔をする千ちゃん。
『折角来たんだからお茶でも飲んでいって!』
私の馬鹿野郎!!
千ちゃんにそんな顔をさせてしまった罪悪感から、つい家に上げてしまった。
煉獄さんが寝ている縁側からは離れた客間に千ちゃんを通す。
お茶を淹れに行く途中で縁側を覗くと煉獄さんは変わらずそこにいた。
『杏寿郎さん・・・ごめんなさい。少しだけ離れます』
小さな声でそう告げて、お茶の準備の為その場を離れた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「・・・ん・・・」
薄ら目を開く。
そうか、俺は眠ってしまったのか。
むくりと起き上がり周囲を見渡す。
見慣れた我が家の庭だが・・・
「そうか、まだ術は解けていないようだな!」
庭に巨大な木がそびえ立ち、俺が座っている座布団も8畳程に感じられた。
しかし、掃除をしていた筈の美桜の姿が見当たらない。
どこへ行ったのかともう一度周囲を見渡すと、すぐ隣に綺麗に折り畳まれた布を見つける。
「む、これは・・・」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
千「では僕はそろそろお暇します。兄上はまだ任務でしょうか?」
『えっ!ああ、うん。そうみたい』
千「みたい・・・?」
『そっ!そうなの!!ちょっと長引いてるのかな?』
千「はぁ・・・それでは、また」
『うん、気をつけてね!』
なんか色々危なかった!!
千ちゃんを見送ると、気を張っていた為かどっと疲れが出て玄関の小上がりに座り込む。
宇「よぉ、お前こんな所で何してんの?」
『・・へぇっ!?うっ宇髄さん!!どうして??』
宇「たまたま近くに寄ったついでだよ。ほら、お前の好きな饅頭買ってきたぞ。で、お前は何でこんな所に座り込んでんだ?」
『あ、ありがとうございます・・・さっきまで千ちゃんが来てて』
どうしよう。
そろそろ煉獄さんも起きるよね・・・
様子を見に行きたい所だけど手土産まで持ってきてくれた宇髄さんを無碍にできない。
そんな事を考えていた時ーーー
宇「!・・・奥に誰かいるのか?」
『えっ!?誰もいませんけど!?』
宇「気配と、微かな物音がした」
『・・・』
宇「鬼の気配とは違うな・・・強盗かもしれねぇな。ちょっと見てくる」
『!!』
いや煉獄さんだよ!!!
きっと今起きたんだ。
よりによって気配と音に敏感な宇髄さんがいる時に・・・
『わ!私が見てきます!客人の宇髄さんにそんな危ない事させられませんから!!』
そう言って廊下を走り出す。
早く煉獄さんを隠さねば!!
宇「は・・・?いや、お前のが危ないだろ!ちょっと待て!!」
ヒィ!
追いかけてきた!!
何故私は家の中を猛ダッシュしなければいけないの!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
横に置かれた布を広げると、小さな浴衣だった。ご丁寧に帯まで用意されている。
美桜が作ってくれたのだろう。
「うむ。丈も丁度良い!」
早速袖を通してみると、即席で作ったとは思えない程着心地が良かった。
さて、そろそろ美桜を探しに行こうかと思った時廊下の向こうが騒がしくなった。
「む、何だ?・・・!!」
顔を向けようとした時、大きな影が目の前に現れて視界を塞がれた。
そして、身体が浮き上がる感覚のあと、狭い場所へと放り込まれた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ま
間に合ったぁ!
何とか宇髄さんより先に縁側に辿り着き煉獄さんの保護に成功した。
ちょっと乱暴になっちゃったけど、ひとまずこれで安心だ。
隠したと同時に宇髄さんが縁側にやってくる。
宇「美桜!お前なぁ・・・」
『だ・・誰もいませんよ?』
宇「あん?さっきは確かに・・・」
『気のせいですよ、きっと。さぁ、お茶を淹れてくるのでお饅頭食べましょう』
訝しむ宇髄さんの背中を押して部屋の中に促す。
煉獄さんを狭い場所に放り込むように隠してしまったので早く別の場所に移してあげないと・・・
・ ・ ・ ・ ・
(ふむ、宇髄が来ているのか。それで美桜は慌てていたのだな。)
気配は消したので簡単に気付かれる事はないだろう。
しかしここはどこだ?
視界を遮られ一瞬の内に暗い場所に入れられた為自分の所在が分からない。
布の感触があるから何かに包まれているのだろう。
体勢を整えようと少し身体を横にずらした途端
「!?」
そこに地面?がなく落下してしまった
・ ・ ・ ・ ・
『ッ!?』
宇「美桜?」
『〜ッ!なっ!んでも、ないです・・・』
俺の背中に当てていた美桜の手に力が入り、隊服を握りしめた。
宇「お前、具合でも悪いのか?」
『いえっ、だいじょう・・・んんっ!!』
宇「!!」
・ ・ ・ ・ ・
煉獄さんを捕まえた時、すぐ後ろに宇髄さんが迫っていたため慌てて自分の懐に突っ込んでしまった。着物と中襦袢の間に入れていたのが何かの拍子に襦袢の中に落っこちた。
煉(暗くて暖かいが・・・家の中にこんな場所があっただろうか?とりあえず、さっきいた場所まで戻るとするか)
『んぁっ!!・・・ひゃっ!!』
帯の所で止まり、そこから服を伝って這いあがろうとしている。
ふわふわの髪が肌に触れる度に反応してしまう。
宇「美桜?」
『だっ駄目ッ!!』
宇「!!」
振り返ろうとする宇髄さんの背中にしがみつき阻止する。
今見られたら確実にバレる!!
かと言って宇髄さんの前で煉獄さんを外に出すわけにもいかない。
このまま煉獄さんが止まるまでこしょばゆいのを耐えるしかないのか・・・
・ ・ ・ ・ ・
宇「・・・・・・」
美桜に後ろから抱きつかれ、その場から動けなくなった。
いや、動こうと思えば動けるんだが身体を震わせながら
『んっ!』
『あぁっ』
と、声を抑えながら身悶えている様子にどう突っ込んでいいものか悩んでいる。
何なんだよ一体・・・
俺を誘ってんのか??
宇「・・・煉獄はいいのか?」
『杏寿郎さんは・・・し、知りませんんっ!!』
煉獄のことなんか知らないって、喧嘩でもしたのか?
こいつ、妻帯者だと思って油断してるっぽいが俺だって一応男だぞ。
少なからず好意を持っている異性から抱きつかれる事がどういうことか分かってんのか・・・
・ ・ ・ ・ ・
宇髄さんから煉獄さんの名前が出て咄嗟に知らないと答えてしまったけど・・・
まさかもうバレてるとかじゃないよね・・・
ここまで頑張ったんだから、最後まで隠し通さないと!
鬼殺隊と、煉獄さんの名誉を私が守るんだ!!
『ンッ・・・!?』
服の中の煉獄さんがちょうど胸の辺りまで上がってきていた。
煉(何だ・・・急に狭い所に来てしまった)
『ひゃん!!・・・ッ』
宇「!!」
煉(むぐっ!)
服と胸を掻き分けて登ってきた煉獄さん。
手が・・・当たってる!!
宇髄さんの服にしがみつき顔を埋めることで声を殺すのが精一杯だった。
すると、それまで静かだった宇髄さんが急に振り返った。
『っ、こっち、見ちゃ駄目・・・!』
止めようとするも敵わずそのまま床に倒される。
『?、??』
宇髄さんの顔や首からは血管がめっちゃ浮き出ている。
え・・・それ、呼吸使う時のやつ・・・
宇「お前なぁ、どういうつもりか知らんけどいい加減にしろよ・・・」
『え、何が・・・』
宇「・・・・・・」
急に黙るの怖い!
そのまま、顔が近づいてくる。
『う、宇髄さ・・・・・・ッ!?』
・ ・ ・ ・ ・ ・
それまで抑えていたが、高い声と共に身体を押し付けてきた事でもうどうでも良くなった。
これはどう考えても俺は悪くねぇだろ。
男を挑発したらどうなるのか、教えてやるよ。
フゥーッと大きく息を吐く。
美桜は目を大きく見開きアワアワと口を
震わせ驚いている。
そんな事はお構いなしに顔を近づけていくーーー
・ ・ ・ ・ ・
急に壁のような物に身体が押し潰された。
片側は硬いが、反対側は弾力性があったお陰で苦しくはなかったが。
(何だ?外の様子が変わった・・・?)
宇髄と美桜のやりとりが微かに聞こえてきた。
宇髄・・・美桜に何をしようとしている?
ーーー怒りのせいか身体がドクンと波打った
・ ・ ・ ・ ・
ええええ?
何で、必死に煉獄さんを隠していたら宇髄さんに押し倒されてキスされそうになってるの!??
抵抗しようにも両手首は押さえつけられ、身体が乗せられていて足も動かせない。
抗議の声をあげようとするも、宇髄さんの色っぽい瞳と目がバチコン合ってしまい言葉が出て来ない・・・
唇はもうそこまで近づいている。
そ、そんな・・・
煉獄さん以外の男の人と・・・
固く瞳を閉じたその直後、唇が重なり合った。
『・・・・・・ッ』
宇「・・・・なッ!?」
な?
唇を合わせている筈の宇髄さんが声を発した。
唇を合わせたままで??
なんか変だなと思って薄目を開けるとーーー
『!きょっ・・・』
私と唇を重ねていたのは、いつのまにか元に戻っていた煉獄さんだった。
私と、宇髄さんで煉獄さんを挟むような形になっている。
煉「美桜、大丈夫か?」
『は、はい・・・』
良いタイミングで術が解けたんだ。
良かった・・・ほんと。色んな意味で・・・
宇「煉獄・・・いたのか」
煉「うむ!美桜に手を出すとはどういう了見か聞かせてもらおうか!」
宇「いや待て落ち着け!男なら誰だってああなるからな!」
『ちょっ、喧嘩は辞めてください!』
急に言い争いが始まったので慌てて止めようとする。
ていうか私宇髄さんと煉獄さんの下敷きになってて身動き取れない!!
宇「とりあえずお前らはちゃんと服着ろ!」
『は?・・・!!!!!』
宇髄さんの言葉に改めて視線を戻すと
『@&/_##€*!!?』
私は着物の前が大きくはだけ、煉獄さんに至っては褌一丁というあられもない姿だった。
私の声にならない悲鳴が屋敷中に響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《ーー後日ーー》
し「ーーそうですか、それは大変でしたね」
『本当ですよ・・・結局、宇髄さんにはバレてしまいましたし。ちゃんとお約束が守れなくてすみませんでした』
蝶屋敷で、あの日の出来事をしのぶさんに伝えた。
ああ、これで鬼殺隊の士気が下がってしまったら私のせいだ。
し「あら、宇髄さんなら煉獄さんが血鬼術にかかっていた事は分かってた筈ですよ?」
『・・・え?』
し「宇髄さんだけではなく、柱は皆ですね。報告を受けてますから」
『え、だって・・・面子がどうのって・・・』
し「それは柱ではない一般隊士に知られたらの話です。同じ立場の柱がわざわざ言いふらす訳ありませんし、血鬼術の情報は共有した方が鬼殺に役立ちますから。術にかかった時点で鎹鴉が伝えていましたよ?」
『え、それじゃあ、あの日会った人たちには・・・』
し「特に隠す必要はなかったですね!」
気持ちいい位に清々しく断言された。
あの日の私の気苦労と努力は一体・・・
私はその場で力なく項垂れるしかなかった。
ーーー完(終わっとけ★)ーーー
庭の掃除をしている私の元へ煉獄さんの鴉、要が飛んできた。
要「美桜!」
『要、おかえり。杏寿郎さんは?』
要「緊急事態ダ!スグニ蝶屋敷ヘ急ゲ!!」
『!?』
要が珍しく慌てた様子でそれだけを告げてまた飛び立って行ってしまった。
蝶屋敷・・・緊急事態・・・それって
煉獄さん・・・
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『しのぶさんっ!杏寿郎さんはっ!?』
し「あら〜美桜さん、お早い到着で」
『え・・・あれ?』
ゼェゼェと息を切らしながら部屋に飛び込むと、紅茶の入ったカップを片手に優雅に寛ぐしのぶさんの姿。
キョロキョロと辺りを見回すが、肝心の煉獄さんの姿が見当たらない。
緊急事態という位だから、任務中に大怪我をして運ばれたのかと思っていたけどそんな雰囲気もない。
『しのぶさん・・・杏寿郎さんは・・・?』
戸惑いつつも先程と同じ質問を投げかける。
しのぶさんはゆっくりした動作で紅茶を一口啜ると、いつもの穏やかな口調でこう続けた。
し「煉獄さんなら、ここにいらっしゃいますよ」
『?、???』
もう一度部屋を見渡すが、やはり姿はない。
どういう事だろうと頭を捻っていると、着物の裾を引っ張られる感触が。
気になって視線を下に向けるとーーー
『きょっ!?』
ーーいた。
いたのだ・・・私の足元に。
“俺ならここにいるぞ!わざわざ来てもらって悪いな!”
『杏寿郎さん・・・身体が・・・』
“うむ。鬼の術にかかってしまってな!この通りだ!柱として不甲斐なし!穴があったら入りたい!!”
血鬼術にかかってしまった煉獄さんは手のひらサイズに縮んでしまっていた。
にも関わらず腕を組んでワハハと笑っている。
こんな大事になっているというのに煉獄さんもしのぶさんも何でそんなに落ち着いているの??
・・・何故こんな姿になったのか。
それは、いつもの様に鬼の退治に向かった時のこと。
悲鳴を聞きつけた煉獄さんが現場に駆けつけると道端で母親と少年が鬼に襲われる所だった。
2人を抱き上げ離れた所に避難をさせ、改めて鬼に向かおうとした時ーーー
煉「!」
路地から、その母子の末娘が母を追いかけ鬼の目の前に飛び出してきた。
咄嗟にその子と鬼の間に身体を入れ庇いながら鬼の頸を斬ったが死に際に術をかけられた様で身体が縮んでしまったそうだ。
『そんな事が・・・その姿でよくここまで戻って来られましたね・・・っていうか鬼を斬ったのに術が解けないんですか!?』
“うむ!要の背に乗ってひとっ飛びだった!中々出来ない体験で面白かったぞ!”
し「死に際に放つ術は鬼の執念の塊の様な物なので、効果が長引く事もあるのですよ。まぁ、大抵は半日から一日で戻りますよ」
私の疑問にも何て事ないように答える2人に拍子抜けする。
『えっと・・・それで私は何の為に呼ばれたのでしょう??』
怪我もなく、時間がたてば元に戻るのなら緊急事態でもないと思うけど・・・
し「柱の面子の為ですよ」
『はぁ?』
し「不可抗力とはいえ、十二鬼月でもない鬼の術に柱がかかったなんて知れ渡ったら鬼殺隊の士気にも関わってきます」
『はぁ・・・』
し「なので他の方たちに知られない様、煉獄さんが元の姿に戻るまで保護して欲しいのです。」
『保護・・・』
し「お願いですから、煉獄さんをこのまま連れて帰ってください」
『わ、わかりました・・・しのぶさん、怒ってます?』
し「怒りたくもなりますよ。このまま蝶屋敷の一室で元に戻るまでじっとしていてくれればわざわざ美桜さんを呼ぶ必要もなかったのですから」
笑顔だけど、目が笑ってない・・・
どうやら要に乗って空を飛んできたのが楽しかったようで、小さくなった姿を楽しもうと、しのぶさんの忠告も聞かずチョロチョロと動き回っていたらしい。
いつ元の姿に戻るかも分からないので1人で帰すわけにも行かず、かと言って煉獄さんを監視していると自分の仕事が出来ない、という事で要を使って私を呼んだのだという。
『そ、それはご迷惑をおかけしてすみません・・・』
し「美桜さんが謝る事ではありませんよ。それでは、煉獄さんをお願いしますね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『・・・さて、それでは帰りますよ』
“うむ!”
蝶屋敷を後に私の巾着袋の中に煉獄さんを入れて歩き始める。
あまり揺らさないように、気をつけないと・・・
このまま誰にも会わず家に帰ってお部屋の中で過ごしていれば何も問題はないはずーーー
冨「美桜」
『うはっ!?ハイ!!!』
急に後ろから話しかけられて奇声を発してしまう。
振り返ると、義勇さんが立っていた。
『ぎっ義勇さん!こんなところで会うなんて奇遇ですねっ!!』
冨「こんな所・・・蝶屋敷の門前で鬼殺隊の関係者が会うのは奇遇なのか?」
『やっ、えっと・・・ああ!義勇さんも蝶屋敷に御用があるんですね!私はもう済んだのでこれで失礼しますっ!』
そう言ってバビュンとその場を走り去る。
冨「・・・美桜に避けられてる・・・?」
義勇さんを微妙に傷つけた事にも気づかずに。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『・・・ふぅ。危なかった・・・』
蝶屋敷から大分離れた所で一息つく。
そして巾着袋の中の煉獄さんの様子を見ると、袋の中でひっくり返っていた。
そうだ、義勇さんから離れる事に必死で巾着袋を振り回しながら走っていたのだ。
『ごっごめんなさい・・・大丈夫ですか?』
“うむ・・・三半規管が多少やられたがこれも鍛錬と思えば大したことはない!”
何でもかんでも鍛錬に結びつけるとこ凄いな・・・。
とりあえず、町の人混みに入っちゃえば知り合いに出会うこともないだろう。
そう思って人通りが多い道を選んで歩いていると
蜜「美桜ちゃん!」
『!?蜜璃ちゃん・・・と伊黒さん・・・』
真正面に2人が立っていた。
何故・・・
今日に限って会っちゃうんだろう
蜜「任務帰りに偶然伊黒さんに会って、これからご飯食べに行くんだけど美桜ちゃんもどう?」
伊「・・・・・・」
笑顔の蜜璃ちゃんに思わず返事をしそうになるが、今はそれどころではない。
隣の伊黒さんの視線も怖い。
『いや、私は・・・お腹空いてないから』
グウゥゥ〜
・・・・・・
断りの台詞の途中で盛大に腹の虫が鳴る。
もちろん私じゃない。
私のお腹の前に持っている巾着袋が鳴ったのだ。
『・・・や、これは・・・』
蜜「・・・美桜ちゃんもお腹空いてるのね!すぐそこに美味しい定食屋があるから行きましょう!ね!伊黒さん?」
伊「・・・甘露寺がどうしてもと言うならば仕方ない。」
いや、めっちゃ舌打ちしたよね!
ホントそれどころじゃないのに〜!!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
蜜「ここよ!前に煉獄さんに教えて貰ったお店なの〜!揚げたての豚カツが美味しいのよ♡」
蜜璃ちゃんの隣に伊黒さんが座り、私は蜜璃ちゃんの向かいに腰掛ける。
蜜「私はとりあえず豚カツを5人前で・・・伊黒さん、美桜ちゃんは決まった?」
伊「俺は茶でいい」
『!じゃあ私もお茶で・・・』
蜜「え・・・私だけたくさん食べるの・・・じゃあ私もお茶にしようかな・・・」
伊「貴様、甘露寺を困らせる気か?腹を鳴らしていたのだから何か食べるべきだろう」
自分の事を棚にあげて・・・理不尽!!
だけど、確かに蜜璃ちゃんに悪いよね。。。
とりあえず、軽いものをサッと食べて直ぐに帰ろう。
お品書きを見る。
軽いもの、軽いもの・・・
冷たいおそばなら、早く食べられそう。
『じゃ、じゃあ、私はざるそば・・・』
「豚カツを8人前もらおう!!!」
!!
伊「・・・・・・」
蜜「え・・・豚カツ、8・・・?」
『いや!いち!はちじゃなくて、1ね!』
巾着袋からの注文により、私も豚カツを注文することになった。
さっきのお腹の音といい、きっと煉獄さんお腹空いているんだろうな・・・
ていうか、さっきより煉獄さんの声大きくなってない?気のせいかな。
店「おまたせしました〜」
料理が届き、蜜璃ちゃんの興味は豚カツに向く。
伊黒さんの視線も美味しそうに食べる蜜璃ちゃんに向いている。
私の事はもちろん眼中にない。
『・・・・・・』
巾着袋の口を開け、そこに豚カツを一切れ入れてあげると、煉獄さんの顔がパァッと明るくなる。
かわ!!
可愛い!!!
自分よりも大きい豚カツに齧り付く姿、写真に収めたい!!!
「美味い!!!」
蜜「?」
伊「!」
『!!・・・う、美味い!!!』
煉獄さん・・・今の身体のサイズと声の大きさが見合っていないんだけど。。。
バレない様に煉獄さんの声に自分の声を被せる。
目の前の2人だけじゃなく、店中の視線が私に痛い程刺さる。
伊「・・・杏寿郎の真似事か?」
蜜「美桜ちゃん、泣くほど美味しいの?」
「美味・・・」
『美味い!!美味い!!!』
涙目になりながら、煉獄さんに合わせて美味いコールを続けた私を誰か褒めて欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『やっ・・・と、着いた・・・』
ヘトヘトになりながら何とか屋敷に帰ってきた。
縁側に出て煉獄さんを巾着袋から出して座布団の上にそっと下ろす。
『ここでしばらく日向ぼっこしててくださいね』
血鬼術にかかったら、陽の光にあてるのが良いらしい。
何か浄化?されるのかな・・・
「うむ、ありがとう!・・・美桜は何処へ行くのだ?」
『私は、外の掃除の続きをしちゃいます。すぐに終わりますからお昼寝でもして待っててください』
言いながら、庭に放り投げたままの箒を手に取る。
掃除をしながら煉獄さんの姿を確認すると、座布団の上でおとなしく座っている。
良かった。
いつ元の姿に戻るのかは分からないけど、家の中にさえいれば誰かに見られる事もないし!
掃除を終えて煉獄さんの所に戻ると気持ちよさそうに眠っている。
可愛いなぁ!もう!
ここぞとばかりにじっくり観察する。
身体だけじゃなくて隊服や羽織まで小さくなっているの不思議だなぁ。
でも夜までに戻らなかったらずっと隊服でいる事になるのは可哀想だ。
裁縫道具と手触りの良い手拭いを持ってきて即席の浴衣を作り始める。
隣では相変わらず寝息を立てている煉獄さん。
こんなに熟睡してるのも珍しいな。
身体が縮むといつもの一歩が何十歩にもなるし何かと疲れるんだろうなぁ。
本人はなんて事ないような顔をしているが、不便な思いをしてるよね・・・
・ ・ ・ ・ ・
「ごめんくださーい!」
『ッ!?』
考えに耽っている所に来訪者の声がして驚く。
来ない時は全くなのに・・・何で、こういう日に限って・・・
煉獄さんを見るとまだ眠っている。
動かすのはかわいそうだな。
少し離れるくらいならいいか。
そう思い玄関へ向かう。
『お待たせしました・・・千ちゃん!』
千「こんにちは、美桜さん。先日読みたいと言っていた本を持ってきましたよ」
『えっ、ありがとう!わざわざ持ってきてくれたの?今度会う時で良かったのに』
千「出掛けのついでだったので・・・もしかして、ご迷惑でしたか?」
『そっ、そんなことないよ!』
流石、人の機微に聡いな煉獄家・・・
私の様子に心配そうな顔をする千ちゃん。
『折角来たんだからお茶でも飲んでいって!』
私の馬鹿野郎!!
千ちゃんにそんな顔をさせてしまった罪悪感から、つい家に上げてしまった。
煉獄さんが寝ている縁側からは離れた客間に千ちゃんを通す。
お茶を淹れに行く途中で縁側を覗くと煉獄さんは変わらずそこにいた。
『杏寿郎さん・・・ごめんなさい。少しだけ離れます』
小さな声でそう告げて、お茶の準備の為その場を離れた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「・・・ん・・・」
薄ら目を開く。
そうか、俺は眠ってしまったのか。
むくりと起き上がり周囲を見渡す。
見慣れた我が家の庭だが・・・
「そうか、まだ術は解けていないようだな!」
庭に巨大な木がそびえ立ち、俺が座っている座布団も8畳程に感じられた。
しかし、掃除をしていた筈の美桜の姿が見当たらない。
どこへ行ったのかともう一度周囲を見渡すと、すぐ隣に綺麗に折り畳まれた布を見つける。
「む、これは・・・」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
千「では僕はそろそろお暇します。兄上はまだ任務でしょうか?」
『えっ!ああ、うん。そうみたい』
千「みたい・・・?」
『そっ!そうなの!!ちょっと長引いてるのかな?』
千「はぁ・・・それでは、また」
『うん、気をつけてね!』
なんか色々危なかった!!
千ちゃんを見送ると、気を張っていた為かどっと疲れが出て玄関の小上がりに座り込む。
宇「よぉ、お前こんな所で何してんの?」
『・・へぇっ!?うっ宇髄さん!!どうして??』
宇「たまたま近くに寄ったついでだよ。ほら、お前の好きな饅頭買ってきたぞ。で、お前は何でこんな所に座り込んでんだ?」
『あ、ありがとうございます・・・さっきまで千ちゃんが来てて』
どうしよう。
そろそろ煉獄さんも起きるよね・・・
様子を見に行きたい所だけど手土産まで持ってきてくれた宇髄さんを無碍にできない。
そんな事を考えていた時ーーー
宇「!・・・奥に誰かいるのか?」
『えっ!?誰もいませんけど!?』
宇「気配と、微かな物音がした」
『・・・』
宇「鬼の気配とは違うな・・・強盗かもしれねぇな。ちょっと見てくる」
『!!』
いや煉獄さんだよ!!!
きっと今起きたんだ。
よりによって気配と音に敏感な宇髄さんがいる時に・・・
『わ!私が見てきます!客人の宇髄さんにそんな危ない事させられませんから!!』
そう言って廊下を走り出す。
早く煉獄さんを隠さねば!!
宇「は・・・?いや、お前のが危ないだろ!ちょっと待て!!」
ヒィ!
追いかけてきた!!
何故私は家の中を猛ダッシュしなければいけないの!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
横に置かれた布を広げると、小さな浴衣だった。ご丁寧に帯まで用意されている。
美桜が作ってくれたのだろう。
「うむ。丈も丁度良い!」
早速袖を通してみると、即席で作ったとは思えない程着心地が良かった。
さて、そろそろ美桜を探しに行こうかと思った時廊下の向こうが騒がしくなった。
「む、何だ?・・・!!」
顔を向けようとした時、大きな影が目の前に現れて視界を塞がれた。
そして、身体が浮き上がる感覚のあと、狭い場所へと放り込まれた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ま
間に合ったぁ!
何とか宇髄さんより先に縁側に辿り着き煉獄さんの保護に成功した。
ちょっと乱暴になっちゃったけど、ひとまずこれで安心だ。
隠したと同時に宇髄さんが縁側にやってくる。
宇「美桜!お前なぁ・・・」
『だ・・誰もいませんよ?』
宇「あん?さっきは確かに・・・」
『気のせいですよ、きっと。さぁ、お茶を淹れてくるのでお饅頭食べましょう』
訝しむ宇髄さんの背中を押して部屋の中に促す。
煉獄さんを狭い場所に放り込むように隠してしまったので早く別の場所に移してあげないと・・・
・ ・ ・ ・ ・
(ふむ、宇髄が来ているのか。それで美桜は慌てていたのだな。)
気配は消したので簡単に気付かれる事はないだろう。
しかしここはどこだ?
視界を遮られ一瞬の内に暗い場所に入れられた為自分の所在が分からない。
布の感触があるから何かに包まれているのだろう。
体勢を整えようと少し身体を横にずらした途端
「!?」
そこに地面?がなく落下してしまった
・ ・ ・ ・ ・
『ッ!?』
宇「美桜?」
『〜ッ!なっ!んでも、ないです・・・』
俺の背中に当てていた美桜の手に力が入り、隊服を握りしめた。
宇「お前、具合でも悪いのか?」
『いえっ、だいじょう・・・んんっ!!』
宇「!!」
・ ・ ・ ・ ・
煉獄さんを捕まえた時、すぐ後ろに宇髄さんが迫っていたため慌てて自分の懐に突っ込んでしまった。着物と中襦袢の間に入れていたのが何かの拍子に襦袢の中に落っこちた。
煉(暗くて暖かいが・・・家の中にこんな場所があっただろうか?とりあえず、さっきいた場所まで戻るとするか)
『んぁっ!!・・・ひゃっ!!』
帯の所で止まり、そこから服を伝って這いあがろうとしている。
ふわふわの髪が肌に触れる度に反応してしまう。
宇「美桜?」
『だっ駄目ッ!!』
宇「!!」
振り返ろうとする宇髄さんの背中にしがみつき阻止する。
今見られたら確実にバレる!!
かと言って宇髄さんの前で煉獄さんを外に出すわけにもいかない。
このまま煉獄さんが止まるまでこしょばゆいのを耐えるしかないのか・・・
・ ・ ・ ・ ・
宇「・・・・・・」
美桜に後ろから抱きつかれ、その場から動けなくなった。
いや、動こうと思えば動けるんだが身体を震わせながら
『んっ!』
『あぁっ』
と、声を抑えながら身悶えている様子にどう突っ込んでいいものか悩んでいる。
何なんだよ一体・・・
俺を誘ってんのか??
宇「・・・煉獄はいいのか?」
『杏寿郎さんは・・・し、知りませんんっ!!』
煉獄のことなんか知らないって、喧嘩でもしたのか?
こいつ、妻帯者だと思って油断してるっぽいが俺だって一応男だぞ。
少なからず好意を持っている異性から抱きつかれる事がどういうことか分かってんのか・・・
・ ・ ・ ・ ・
宇髄さんから煉獄さんの名前が出て咄嗟に知らないと答えてしまったけど・・・
まさかもうバレてるとかじゃないよね・・・
ここまで頑張ったんだから、最後まで隠し通さないと!
鬼殺隊と、煉獄さんの名誉を私が守るんだ!!
『ンッ・・・!?』
服の中の煉獄さんがちょうど胸の辺りまで上がってきていた。
煉(何だ・・・急に狭い所に来てしまった)
『ひゃん!!・・・ッ』
宇「!!」
煉(むぐっ!)
服と胸を掻き分けて登ってきた煉獄さん。
手が・・・当たってる!!
宇髄さんの服にしがみつき顔を埋めることで声を殺すのが精一杯だった。
すると、それまで静かだった宇髄さんが急に振り返った。
『っ、こっち、見ちゃ駄目・・・!』
止めようとするも敵わずそのまま床に倒される。
『?、??』
宇髄さんの顔や首からは血管がめっちゃ浮き出ている。
え・・・それ、呼吸使う時のやつ・・・
宇「お前なぁ、どういうつもりか知らんけどいい加減にしろよ・・・」
『え、何が・・・』
宇「・・・・・・」
急に黙るの怖い!
そのまま、顔が近づいてくる。
『う、宇髄さ・・・・・・ッ!?』
・ ・ ・ ・ ・ ・
それまで抑えていたが、高い声と共に身体を押し付けてきた事でもうどうでも良くなった。
これはどう考えても俺は悪くねぇだろ。
男を挑発したらどうなるのか、教えてやるよ。
フゥーッと大きく息を吐く。
美桜は目を大きく見開きアワアワと口を
震わせ驚いている。
そんな事はお構いなしに顔を近づけていくーーー
・ ・ ・ ・ ・
急に壁のような物に身体が押し潰された。
片側は硬いが、反対側は弾力性があったお陰で苦しくはなかったが。
(何だ?外の様子が変わった・・・?)
宇髄と美桜のやりとりが微かに聞こえてきた。
宇髄・・・美桜に何をしようとしている?
ーーー怒りのせいか身体がドクンと波打った
・ ・ ・ ・ ・
ええええ?
何で、必死に煉獄さんを隠していたら宇髄さんに押し倒されてキスされそうになってるの!??
抵抗しようにも両手首は押さえつけられ、身体が乗せられていて足も動かせない。
抗議の声をあげようとするも、宇髄さんの色っぽい瞳と目がバチコン合ってしまい言葉が出て来ない・・・
唇はもうそこまで近づいている。
そ、そんな・・・
煉獄さん以外の男の人と・・・
固く瞳を閉じたその直後、唇が重なり合った。
『・・・・・・ッ』
宇「・・・・なッ!?」
な?
唇を合わせている筈の宇髄さんが声を発した。
唇を合わせたままで??
なんか変だなと思って薄目を開けるとーーー
『!きょっ・・・』
私と唇を重ねていたのは、いつのまにか元に戻っていた煉獄さんだった。
私と、宇髄さんで煉獄さんを挟むような形になっている。
煉「美桜、大丈夫か?」
『は、はい・・・』
良いタイミングで術が解けたんだ。
良かった・・・ほんと。色んな意味で・・・
宇「煉獄・・・いたのか」
煉「うむ!美桜に手を出すとはどういう了見か聞かせてもらおうか!」
宇「いや待て落ち着け!男なら誰だってああなるからな!」
『ちょっ、喧嘩は辞めてください!』
急に言い争いが始まったので慌てて止めようとする。
ていうか私宇髄さんと煉獄さんの下敷きになってて身動き取れない!!
宇「とりあえずお前らはちゃんと服着ろ!」
『は?・・・!!!!!』
宇髄さんの言葉に改めて視線を戻すと
『@&/_##€*!!?』
私は着物の前が大きくはだけ、煉獄さんに至っては褌一丁というあられもない姿だった。
私の声にならない悲鳴が屋敷中に響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《ーー後日ーー》
し「ーーそうですか、それは大変でしたね」
『本当ですよ・・・結局、宇髄さんにはバレてしまいましたし。ちゃんとお約束が守れなくてすみませんでした』
蝶屋敷で、あの日の出来事をしのぶさんに伝えた。
ああ、これで鬼殺隊の士気が下がってしまったら私のせいだ。
し「あら、宇髄さんなら煉獄さんが血鬼術にかかっていた事は分かってた筈ですよ?」
『・・・え?』
し「宇髄さんだけではなく、柱は皆ですね。報告を受けてますから」
『え、だって・・・面子がどうのって・・・』
し「それは柱ではない一般隊士に知られたらの話です。同じ立場の柱がわざわざ言いふらす訳ありませんし、血鬼術の情報は共有した方が鬼殺に役立ちますから。術にかかった時点で鎹鴉が伝えていましたよ?」
『え、それじゃあ、あの日会った人たちには・・・』
し「特に隠す必要はなかったですね!」
気持ちいい位に清々しく断言された。
あの日の私の気苦労と努力は一体・・・
私はその場で力なく項垂れるしかなかった。
ーーー完(終わっとけ★)ーーー
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