記憶と霞
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ーーおい、桐原!お前また勝手な行動しやがって・・・上がカンカンだったぜ
ーー指示を待っていたら救えない命があるんです
ーーハァ・・・お前組織の中でめっちゃ浮いてるの気付いてる??
ーー別に、仲良しクラブに所属している訳ではないので・・・後藤さんも私なんかと関わってると浮いちゃいますよ
ーーおい、拗ねても別に可愛くないからな?
お前さ、もう少し周りを頼れよ。
何でも自分で解決しようとするなーーーー
時折頭の中に降ってくるように思い出す記憶の断片。
そうか。
私って元々そういう人間だったのか。
前を歩く男の背中を追いながらそんな事を思う。
嫌だな。
煉獄さん・・・
また心配かけちゃうな
しのぶさんや柱の皆・・・
約束を破って、今度こそ信用を失っただろうな
今私は大事な人達の思いを踏みにじっている。
すごく心が苦しい・・・
記憶を失う前の私にはそういう人がいなかったのかな・・・
そんな事を思いながらどんどんと人気のない場所へ足を踏み入れて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊「全く、家でじっとしていればいいものをこんな時間から買い物だと?こちら側の都合も考えてほしいものだ」
柘「・・・・・・」
先日の話し合いの末、奴の動向を見張る機会を増やした。
なるべく柱が見守り、記憶を取り戻すそぶりがあればすぐさま保護し胡蝶を主とした鬼殺隊の管理下で様子を見るという。
伊「鬼狩りでただでさえ忙しいというのに・・・小娘の買い物をただ見張る仕事とはな」
柘「・・・・・・」
奴の鎹鴉からの報告を受け、現場へと向かう。
鴉に言っても仕方がないが小言の一つ二つ出るのは当然の事だ。
伊「・・・で、奴はどこだ?」
柘「美桜?・・・!?アレハ・・・美桜!」
伊「・・・・・・手分けして探すぞ」
町へ来たものの姿が見当たらない。
鴉が路地に入る手前の道端で見つけたもの・・・
奴がいつも身につけている赤い髪留めだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
町外れまでやってきた所で男が立ち止まる。
私も少し距離を置いた所で止まる。
周囲を見渡すが柄の悪い男が3人いるだけだった。
『・・・・・・』
男2「おい、本当にそのお姉ちゃんにやられたのかよ」
男「うるせぇ、こいつこんなナリだが油断すんなよ!」
男の1人が私の姿を捉えるとギャハハと笑い出す。
私を連れてきた男をキッと睨みつける。
『・・・騙したのね』
男「お〜怖。まぁ慌てるなよ。」
『・・・・・・!』
暫くすると遠くから足音が近づいてくる。
増援か・・・これ以上人数が増えるとやっかいだ。
頭の中でどう動くか考えを巡らせていると、あっと小さい声が聞こえて反射的に振り返る。
千「美桜さん・・・大丈夫ですか!?」
『・・・千ちゃん・・・!』
男「ほらな、嘘はついてねぇだろ」
男は自分の行動が正しかったかのような口ぶりだ。
桜介ではなく千ちゃんを私の弟と勘違いしていたのか・・・
『千ちゃん!』
男3「おおっと」
『!』
千ちゃんに駆け寄ろうとした所で後ろから男に羽交締めにされる。
千ちゃんも同様に別の男に押さえられている。
『やめて!千ちゃんに触らないで!』
千「美桜さんを離せ!!」
お互いに声を荒げるもそんな要求は受け入れられる訳もなく・・・
男「ハハハ!お互い思いやりがあって何よりだ!美しい姉弟愛だな。お互いの存在をそれとなーく言っただけでここまでノコノコ着いてきちまうんだからなぁ」
男2「頼まれても離す訳にはいかねぇなぁ」
男3「そりゃまた投げ飛ばされるかもしれねぇしなぁ!ギャハハ!!」
男「うるせぇ。あん時ゃ女子供だと油断してたんだよ」
『・・・ふぅ〜・・・』
男たちの勝手な言い合いの中、深く呼吸をする。
もういい。
とにかく千ちゃんを無事に助け出す。
それさえ出来ればどんな罰だって受ける。
誰に失望されたって構わない。
男は5人。
それぞれの立ち位置から自分の動きを頭の中でイメージする。
行ける!
思った瞬間、行動に移す
男3「って!!」
男2「なっ・・・お前っ・・ガッ!?」
男3「テメッ!・・・グァっ!!」
私を羽交締めにしている男の足の甲を思い切り踏んづけると同時に右側前方にいた男の顎先を掌で突く。
振り向きざまに最初の男の側頭部に手刀を入れる。
ここまで一息。
ドサッと音を立てて2人の男が倒れる。
あと3人・・・
次の男に向かおうとしたその時ーーー
男4「それ以上動くなよ!」
『ッ!!!』
千「・・・・・・ッ」
男は隠し持っていた短刀を千ちゃんの頬に当てながら叫んだ。
『・・・・・・』
男「ったく、油断も隙もねぇな・・・おい、こいつら完全に伸びてやがる」
男5「本当に強えんだな、姉ちゃん。でも駄目だぜぇ、大人しくしてくれねぇと」
『ッ!』
男4「そうそう。びびっちまって手元が狂うかもしれねぇからなぁ」
『・・・くっ』
これ以上の抵抗はしないと確認した男が私に近づいてきて、右手を捻り上げられる。
私の咄嗟の行動に他の2人は驚いて自分の腕を盾にしていた。
今ので武器をもっているのは1人だけだと確認できた。
・・・あれを、千ちゃんから私に向けさせられれば
抵抗を諦めた振りをして隙を伺う事にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊「チッ・・・本当に厄介な娘だ」
あれから商店のある通りを隈なく調べるも、奴の姿も気配もない。
あの路地から先には店などはない。
鴉が上空から探しているが、建物の中に入っていたとしたらそれも難しいな・・・
近くの井戸端会議の会話が聞こえてくる。
ーあの子大丈夫かねぇ?
ー親御さんに伝えに行くか??
ーいや、行った所でどうかねぇ。あそこはご主人が・・・
ーだからって放っておくわけにはいかないだろ・・・
聞き耳をたてるが、此方の件とは関係がなさそうだ。
柘「カァッ!蛇柱!!」
奴の鴉が戻ってきた。
あの様子だと見つかったようだ。
やれやれ、と安堵しかけるも報告を聞いた俺は駆け出していた。
ー美桜と炎柱の弟が男に捕まっているー
奴だけではなく、千寿郎まで・・・
一体何が起きている?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遡る事数十分前ーーーー
常備薬を買いにお医者様の所へ寄った帰り道、急に声をかけられた。
すぐに、あの時の男だと気付き下手に関わるとまずいと思い人通りの多い通りまで走った。
男は追いかけてきて俺の肩を掴むと姉がどうなっても良いのかと脅しをかけてきた。
すぐに美桜さんの事だと理解した。
この男が嘘を言っている可能性もある。
だけど、数人の町人が見ている前でそんなハッタリを言うだろうか?
・・・確か、兄上は任務で長期間家を空けている。
もし、本当だとしたら美桜さんを助けられるのは・・・
そう思い、行動に移したーーー
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
実際、そこに美桜さんはいた。
美桜さんは見事な立ち回りで2人の男を気絶させたが、俺に刃が向けられた事で再び捕まってしまった。
これでは、助けにきた意味がないじゃないか。
頬に当たる冷たい感触に思う様に体が動かない。何とも情けない・・・
そんな自分に出来る事を必死に考える。
千「・・・こんな事をして、何が目的ですか?」
男「あん?」
美桜さんに顔を向けていた男がこちらを振り向く。
きっと町の人が警察に知らせてくれる。
少しでも、ここで時間稼ぎをしなくては・・・
千「俺たちを捕らえて、家に身代金を要求するつもりですか?それだったら・・・」
男「違ぇよ。まぁ、金が目的なのは変わらねぇがな」
男4「坊ちゃんよぉ、こいつら大勢の前で坊ちゃんや姉ちゃんに恥かかされたろぉ?それがどうしても許せねぇんだとよ」
千「・・・あの時は、あなた方がこちらに向かってきたから・・・」
男5「そうそう、単なる逆恨みだよなぁ」
男「うるせぇ!お前らも乗り気で来たじゃねぇか」
男4「まぁな。話の通り、可愛らしい嬢ちゃんだしな」
『・・・・・?』
男5「そうそう。普通ならこんな上玉中々相手してくれねぇもんな」
千「な、何の話を・・・?」
話が読めず、戸惑ってしまう。
身代金以外でどうやって俺たちからお金を得るつもりなのだろうか。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
何だろう。
男たちの雰囲気が急に変わった気がする。
男の1人が近づいてくる。
刃物は相変わらず千ちゃんに向いている。
男「いいねぇ、その反抗的な顔。それがいつまで持つかなぁ」
『・・・・・・!』
乱暴な手つきで顎を掴まれ、無理矢理顔を上げさせられる。
そして顔を近づけ低い声で
男「弟を助けたいか?だったら、お前のすべき事は一つだけだ」
下品な笑みを浮かべながら着物の合わせの中に手を滑らせた。
『いやっ!!』
千「!?」
身体を捻って抵抗するも、両腕が拘束されたままなので逃げられない。
男「大人しくしとけば痛い目には合わせねぇよ」
男5「そうそう。俺らを十分楽しませてくれよ」
男4「おい、あんまり傷物にすんなよぉ。高く売れなくなるからなぁ」
男「あぁそうそう。遊郭に売るんだったなぁ。その前に品定めしないといけねぇだろ?」
千「!!」
『・・・や、めて・・・』
後ろで両腕を掴んでいる男が首筋に舌を這わせてくる。
身体を弄る男の手の感触に全身が総毛立つ。
恐怖心が湧き起こり身体が小刻みに震える。
この感覚・・・
昔、どこかでーーー
脳内に映し出される光景・・・
どこかの建物の中
数人の男達
毟り取られた服に響く怒声
振りかざされた刃物
ーーーやめろ!姉ちゃんに触るな!!
ーーーいやぁあッ!
ーーーやめろぉおおっ!!
ーーーうるせぇ餓鬼だ。黙らせろ
ーーーうわぁっ!!姉・・ちゃ・・逃げ・・
ーーー!!・・・嫌、嘘・・・桜介!!
ーーー桜介!!!!
・ ・ ・ ・ ・ ・
ーーー分かっただろう?
君には弟なんて必要ないよ。
僕さえいればーーーーー
・ ・ ・ ・ ・
男「ヘヘッ!急にしおらしくなったな!」
男5「震えちまって。まだ男を知らねぇんじゃねぇの?」
男「そうか。そりゃあ可哀想に・・・初めてが俺らとはな」
『・・・・・ッ』
そう言って裾の中にまで手を差し込もうとする。
それを必死に足を閉じて抵抗する。
もう恐怖で声が出せなくなっていた。
千「・・・やめろ」
男4「あん?」
千「やめろ!美桜さんに触るなぁっ!」
『・・・!』
千「やめろぉおお!!」
男「この餓鬼ッ!大声出すんじゃねぇ!」
『!!千ちゃん!!!』
刃物を当てられたまま抵抗をして暴れた為、千ちゃんの頬から血が流れる。
そんな事お構いなしに男の手を振り解き、こちらへ走ってこようとする千ちゃんに弟の面影を見た。
男4「チッ!この餓鬼ィ!!」
『ッ!!』
振り解かれた男は後ろから千ちゃんを追いかけ、持っていた刃物を振りかざす。
『いやぁっ!!千ちゃん!!!』
誰か
誰か、助けてーーー
ーーーー問題ない。私に任せろーーーー
『ッ!!』
脳内に響き渡る声。
ドクンと跳ねる心臓の音。
夢に出てくる人の声・・・
あなたは・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊「!!」
鴉の案内によって現場に急行した俺は、すぐに動く事が叶わなかった。
そして、数日前の会話を思い出していたーーー
伊「胡蝶。なぜ奴の監視を柱がする必要がある?隠にでもさせればいいだろう」
不「確かになァ。俺らは任務に出て鬼を狩る方が重要だろぉ」
し「・・・これは、もう少し確信が持ててからお話するつもりでいたのですが・・・」
そう言って浮かない顔で話始めた。
し「少し前に、元水柱の鱗滝さんと美桜さんが鬼と遭遇したことがあったでしょう?」
蜜「それって・・・下弦の伍よね?」
し「ええ。あの時美桜さんは途中で気を失い、鱗滝さんに助けられたとおっしゃっていたのですが・・・
実際は鱗滝さんが到着した時には既に鬼の姿はなく、気を失った美桜さんと怪我を負って震えている男性がその場にいたそうです」
伊「それは、元水柱の気配を察知して鬼が逃げたのでは?」
し「私も最初そう思ったのですが・・・鬼に襲われたという男性を後日蝶屋敷に運び療養してもらったのです。外傷もひどかったのですが、心の傷も深かったようで暫くは上手く口が聞けませんでした。療養が進むにつれて少しずつ会話も出来る様になった時、その人が言ったんです」
ーーあの子も、人間じゃないみたいだったーー
悲「・・・それは、美桜の事か?」
し「ええ」
不「そりゃあ、どういう意味だ?」
し「最初に美桜さんが気を失い、鬼が自分に向かって来た時は死を覚悟して目を閉じたそうです。しかし、痛みは訪れる事はなく代わりに温かい何かが自分にかかり驚いて目を開けたら・・・
大量の血を流した鬼が目の前で膝をついていました。
そのすぐ後ろには、気を失った筈の美桜さんが立っていて、自分にかけられたのは鬼の返り血だった事に気付いたそうです。
それから、救援が来るまでの間執拗に鬼に刀を突き刺し続けていたそうです。
不「ーーーッ」
伊「・・・何故、奴は首を斬り落とさなかったのだ?」
し「それは分かりませんが・・・それまでとは人が変わった様な美桜さんの姿に鬼以上の恐怖を覚えてしまったようでした」
悲「・・・先程の隠も同じ様な事を言っていたな」
ーーー急に、無数の枝が伸びて来て1人の隠の腕を貫かれたんです。
俺たちにも同じ様に伸びて来た枝にもう駄目だ、終わったと思ったのですが・・・
気づいた時には美桜さんが全て斬り落としていたんです。
ですが・・・顔つきが
いつもの美桜さんとは違っていて・・・
まるで全くの別人の様でしたーーー
「・・・・・・」
室内がしんと静まり返る。
伊「それが、奴の本来の姿なのか」
蜜「・・・美桜ちゃん・・・」
し「・・・私もまだ頭の整理が出来ていません。ですが立て続けに起きているのでまた同じ様な状態になるかもしれません」
不「その状態の美桜なら、力の使い方を知ってるかもしれねぇな」
悲「うむ。今の美桜は呼吸も使える。並の隊士や隠では暴走した美桜を止められぬという事か」
し「ええ・・・そうなった時に美桜さんを保護できる人材は限られていると思います」
ーーー
それまでとは人が変わった様なーー
いつもの美桜さんとは全くの別人の様でしたーー
目の前で広がる光景を目の当たりにした俺はその言葉を思い出していた。
千「お願いです!もうっ、やめて下さいっ!」
千寿郎の悲痛な叫びにハッとして我にかえる。
そう、奴はーー
美桜は、今まで見たこともないような冷徹な顔で男達を殴り続けていた。
千「美桜さんっ!それ以上やったら死んでしまいますよっ」
千寿郎の声など届いていない様子ですでに気を失っている男の胸ぐらを掴む。
『・・・お前みたいな奴は消えればいい』
そう言って近くに落ちていた短刀を拾い、振り上げた所でーー
『ッ!?』
背後に回り込み、短刀を持つ腕を掴む。
伊「これ以上はやり過ぎだ。貴様も犯罪者になりたいか?」
千「・・・・伊黒、さん・・・」
『・・・・・・』
こちらに振り返った奴は温度を感じさせない冷たい眼をしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目の前が真っ暗だった。
私は暗闇の中で子供の様に小さく蹲っていた。
ーー覚悟は出来たのか?ーー
ーー問題ない。私に任せろーー
幾度となくかけられて来たあの声の正体は・・・
ーーまた“私が”代わってやるーー
“私”だった
ーー指示を待っていたら救えない命があるんです
ーーハァ・・・お前組織の中でめっちゃ浮いてるの気付いてる??
ーー別に、仲良しクラブに所属している訳ではないので・・・後藤さんも私なんかと関わってると浮いちゃいますよ
ーーおい、拗ねても別に可愛くないからな?
お前さ、もう少し周りを頼れよ。
何でも自分で解決しようとするなーーーー
時折頭の中に降ってくるように思い出す記憶の断片。
そうか。
私って元々そういう人間だったのか。
前を歩く男の背中を追いながらそんな事を思う。
嫌だな。
煉獄さん・・・
また心配かけちゃうな
しのぶさんや柱の皆・・・
約束を破って、今度こそ信用を失っただろうな
今私は大事な人達の思いを踏みにじっている。
すごく心が苦しい・・・
記憶を失う前の私にはそういう人がいなかったのかな・・・
そんな事を思いながらどんどんと人気のない場所へ足を踏み入れて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊「全く、家でじっとしていればいいものをこんな時間から買い物だと?こちら側の都合も考えてほしいものだ」
柘「・・・・・・」
先日の話し合いの末、奴の動向を見張る機会を増やした。
なるべく柱が見守り、記憶を取り戻すそぶりがあればすぐさま保護し胡蝶を主とした鬼殺隊の管理下で様子を見るという。
伊「鬼狩りでただでさえ忙しいというのに・・・小娘の買い物をただ見張る仕事とはな」
柘「・・・・・・」
奴の鎹鴉からの報告を受け、現場へと向かう。
鴉に言っても仕方がないが小言の一つ二つ出るのは当然の事だ。
伊「・・・で、奴はどこだ?」
柘「美桜?・・・!?アレハ・・・美桜!」
伊「・・・・・・手分けして探すぞ」
町へ来たものの姿が見当たらない。
鴉が路地に入る手前の道端で見つけたもの・・・
奴がいつも身につけている赤い髪留めだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
町外れまでやってきた所で男が立ち止まる。
私も少し距離を置いた所で止まる。
周囲を見渡すが柄の悪い男が3人いるだけだった。
『・・・・・・』
男2「おい、本当にそのお姉ちゃんにやられたのかよ」
男「うるせぇ、こいつこんなナリだが油断すんなよ!」
男の1人が私の姿を捉えるとギャハハと笑い出す。
私を連れてきた男をキッと睨みつける。
『・・・騙したのね』
男「お〜怖。まぁ慌てるなよ。」
『・・・・・・!』
暫くすると遠くから足音が近づいてくる。
増援か・・・これ以上人数が増えるとやっかいだ。
頭の中でどう動くか考えを巡らせていると、あっと小さい声が聞こえて反射的に振り返る。
千「美桜さん・・・大丈夫ですか!?」
『・・・千ちゃん・・・!』
男「ほらな、嘘はついてねぇだろ」
男は自分の行動が正しかったかのような口ぶりだ。
桜介ではなく千ちゃんを私の弟と勘違いしていたのか・・・
『千ちゃん!』
男3「おおっと」
『!』
千ちゃんに駆け寄ろうとした所で後ろから男に羽交締めにされる。
千ちゃんも同様に別の男に押さえられている。
『やめて!千ちゃんに触らないで!』
千「美桜さんを離せ!!」
お互いに声を荒げるもそんな要求は受け入れられる訳もなく・・・
男「ハハハ!お互い思いやりがあって何よりだ!美しい姉弟愛だな。お互いの存在をそれとなーく言っただけでここまでノコノコ着いてきちまうんだからなぁ」
男2「頼まれても離す訳にはいかねぇなぁ」
男3「そりゃまた投げ飛ばされるかもしれねぇしなぁ!ギャハハ!!」
男「うるせぇ。あん時ゃ女子供だと油断してたんだよ」
『・・・ふぅ〜・・・』
男たちの勝手な言い合いの中、深く呼吸をする。
もういい。
とにかく千ちゃんを無事に助け出す。
それさえ出来ればどんな罰だって受ける。
誰に失望されたって構わない。
男は5人。
それぞれの立ち位置から自分の動きを頭の中でイメージする。
行ける!
思った瞬間、行動に移す
男3「って!!」
男2「なっ・・・お前っ・・ガッ!?」
男3「テメッ!・・・グァっ!!」
私を羽交締めにしている男の足の甲を思い切り踏んづけると同時に右側前方にいた男の顎先を掌で突く。
振り向きざまに最初の男の側頭部に手刀を入れる。
ここまで一息。
ドサッと音を立てて2人の男が倒れる。
あと3人・・・
次の男に向かおうとしたその時ーーー
男4「それ以上動くなよ!」
『ッ!!!』
千「・・・・・・ッ」
男は隠し持っていた短刀を千ちゃんの頬に当てながら叫んだ。
『・・・・・・』
男「ったく、油断も隙もねぇな・・・おい、こいつら完全に伸びてやがる」
男5「本当に強えんだな、姉ちゃん。でも駄目だぜぇ、大人しくしてくれねぇと」
『ッ!』
男4「そうそう。びびっちまって手元が狂うかもしれねぇからなぁ」
『・・・くっ』
これ以上の抵抗はしないと確認した男が私に近づいてきて、右手を捻り上げられる。
私の咄嗟の行動に他の2人は驚いて自分の腕を盾にしていた。
今ので武器をもっているのは1人だけだと確認できた。
・・・あれを、千ちゃんから私に向けさせられれば
抵抗を諦めた振りをして隙を伺う事にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊「チッ・・・本当に厄介な娘だ」
あれから商店のある通りを隈なく調べるも、奴の姿も気配もない。
あの路地から先には店などはない。
鴉が上空から探しているが、建物の中に入っていたとしたらそれも難しいな・・・
近くの井戸端会議の会話が聞こえてくる。
ーあの子大丈夫かねぇ?
ー親御さんに伝えに行くか??
ーいや、行った所でどうかねぇ。あそこはご主人が・・・
ーだからって放っておくわけにはいかないだろ・・・
聞き耳をたてるが、此方の件とは関係がなさそうだ。
柘「カァッ!蛇柱!!」
奴の鴉が戻ってきた。
あの様子だと見つかったようだ。
やれやれ、と安堵しかけるも報告を聞いた俺は駆け出していた。
ー美桜と炎柱の弟が男に捕まっているー
奴だけではなく、千寿郎まで・・・
一体何が起きている?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遡る事数十分前ーーーー
常備薬を買いにお医者様の所へ寄った帰り道、急に声をかけられた。
すぐに、あの時の男だと気付き下手に関わるとまずいと思い人通りの多い通りまで走った。
男は追いかけてきて俺の肩を掴むと姉がどうなっても良いのかと脅しをかけてきた。
すぐに美桜さんの事だと理解した。
この男が嘘を言っている可能性もある。
だけど、数人の町人が見ている前でそんなハッタリを言うだろうか?
・・・確か、兄上は任務で長期間家を空けている。
もし、本当だとしたら美桜さんを助けられるのは・・・
そう思い、行動に移したーーー
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
実際、そこに美桜さんはいた。
美桜さんは見事な立ち回りで2人の男を気絶させたが、俺に刃が向けられた事で再び捕まってしまった。
これでは、助けにきた意味がないじゃないか。
頬に当たる冷たい感触に思う様に体が動かない。何とも情けない・・・
そんな自分に出来る事を必死に考える。
千「・・・こんな事をして、何が目的ですか?」
男「あん?」
美桜さんに顔を向けていた男がこちらを振り向く。
きっと町の人が警察に知らせてくれる。
少しでも、ここで時間稼ぎをしなくては・・・
千「俺たちを捕らえて、家に身代金を要求するつもりですか?それだったら・・・」
男「違ぇよ。まぁ、金が目的なのは変わらねぇがな」
男4「坊ちゃんよぉ、こいつら大勢の前で坊ちゃんや姉ちゃんに恥かかされたろぉ?それがどうしても許せねぇんだとよ」
千「・・・あの時は、あなた方がこちらに向かってきたから・・・」
男5「そうそう、単なる逆恨みだよなぁ」
男「うるせぇ!お前らも乗り気で来たじゃねぇか」
男4「まぁな。話の通り、可愛らしい嬢ちゃんだしな」
『・・・・・?』
男5「そうそう。普通ならこんな上玉中々相手してくれねぇもんな」
千「な、何の話を・・・?」
話が読めず、戸惑ってしまう。
身代金以外でどうやって俺たちからお金を得るつもりなのだろうか。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
何だろう。
男たちの雰囲気が急に変わった気がする。
男の1人が近づいてくる。
刃物は相変わらず千ちゃんに向いている。
男「いいねぇ、その反抗的な顔。それがいつまで持つかなぁ」
『・・・・・・!』
乱暴な手つきで顎を掴まれ、無理矢理顔を上げさせられる。
そして顔を近づけ低い声で
男「弟を助けたいか?だったら、お前のすべき事は一つだけだ」
下品な笑みを浮かべながら着物の合わせの中に手を滑らせた。
『いやっ!!』
千「!?」
身体を捻って抵抗するも、両腕が拘束されたままなので逃げられない。
男「大人しくしとけば痛い目には合わせねぇよ」
男5「そうそう。俺らを十分楽しませてくれよ」
男4「おい、あんまり傷物にすんなよぉ。高く売れなくなるからなぁ」
男「あぁそうそう。遊郭に売るんだったなぁ。その前に品定めしないといけねぇだろ?」
千「!!」
『・・・や、めて・・・』
後ろで両腕を掴んでいる男が首筋に舌を這わせてくる。
身体を弄る男の手の感触に全身が総毛立つ。
恐怖心が湧き起こり身体が小刻みに震える。
この感覚・・・
昔、どこかでーーー
脳内に映し出される光景・・・
どこかの建物の中
数人の男達
毟り取られた服に響く怒声
振りかざされた刃物
ーーーやめろ!姉ちゃんに触るな!!
ーーーいやぁあッ!
ーーーやめろぉおおっ!!
ーーーうるせぇ餓鬼だ。黙らせろ
ーーーうわぁっ!!姉・・ちゃ・・逃げ・・
ーーー!!・・・嫌、嘘・・・桜介!!
ーーー桜介!!!!
・ ・ ・ ・ ・ ・
ーーー分かっただろう?
君には弟なんて必要ないよ。
僕さえいればーーーーー
・ ・ ・ ・ ・
男「ヘヘッ!急にしおらしくなったな!」
男5「震えちまって。まだ男を知らねぇんじゃねぇの?」
男「そうか。そりゃあ可哀想に・・・初めてが俺らとはな」
『・・・・・ッ』
そう言って裾の中にまで手を差し込もうとする。
それを必死に足を閉じて抵抗する。
もう恐怖で声が出せなくなっていた。
千「・・・やめろ」
男4「あん?」
千「やめろ!美桜さんに触るなぁっ!」
『・・・!』
千「やめろぉおお!!」
男「この餓鬼ッ!大声出すんじゃねぇ!」
『!!千ちゃん!!!』
刃物を当てられたまま抵抗をして暴れた為、千ちゃんの頬から血が流れる。
そんな事お構いなしに男の手を振り解き、こちらへ走ってこようとする千ちゃんに弟の面影を見た。
男4「チッ!この餓鬼ィ!!」
『ッ!!』
振り解かれた男は後ろから千ちゃんを追いかけ、持っていた刃物を振りかざす。
『いやぁっ!!千ちゃん!!!』
誰か
誰か、助けてーーー
ーーーー問題ない。私に任せろーーーー
『ッ!!』
脳内に響き渡る声。
ドクンと跳ねる心臓の音。
夢に出てくる人の声・・・
あなたは・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊「!!」
鴉の案内によって現場に急行した俺は、すぐに動く事が叶わなかった。
そして、数日前の会話を思い出していたーーー
伊「胡蝶。なぜ奴の監視を柱がする必要がある?隠にでもさせればいいだろう」
不「確かになァ。俺らは任務に出て鬼を狩る方が重要だろぉ」
し「・・・これは、もう少し確信が持ててからお話するつもりでいたのですが・・・」
そう言って浮かない顔で話始めた。
し「少し前に、元水柱の鱗滝さんと美桜さんが鬼と遭遇したことがあったでしょう?」
蜜「それって・・・下弦の伍よね?」
し「ええ。あの時美桜さんは途中で気を失い、鱗滝さんに助けられたとおっしゃっていたのですが・・・
実際は鱗滝さんが到着した時には既に鬼の姿はなく、気を失った美桜さんと怪我を負って震えている男性がその場にいたそうです」
伊「それは、元水柱の気配を察知して鬼が逃げたのでは?」
し「私も最初そう思ったのですが・・・鬼に襲われたという男性を後日蝶屋敷に運び療養してもらったのです。外傷もひどかったのですが、心の傷も深かったようで暫くは上手く口が聞けませんでした。療養が進むにつれて少しずつ会話も出来る様になった時、その人が言ったんです」
ーーあの子も、人間じゃないみたいだったーー
悲「・・・それは、美桜の事か?」
し「ええ」
不「そりゃあ、どういう意味だ?」
し「最初に美桜さんが気を失い、鬼が自分に向かって来た時は死を覚悟して目を閉じたそうです。しかし、痛みは訪れる事はなく代わりに温かい何かが自分にかかり驚いて目を開けたら・・・
大量の血を流した鬼が目の前で膝をついていました。
そのすぐ後ろには、気を失った筈の美桜さんが立っていて、自分にかけられたのは鬼の返り血だった事に気付いたそうです。
それから、救援が来るまでの間執拗に鬼に刀を突き刺し続けていたそうです。
不「ーーーッ」
伊「・・・何故、奴は首を斬り落とさなかったのだ?」
し「それは分かりませんが・・・それまでとは人が変わった様な美桜さんの姿に鬼以上の恐怖を覚えてしまったようでした」
悲「・・・先程の隠も同じ様な事を言っていたな」
ーーー急に、無数の枝が伸びて来て1人の隠の腕を貫かれたんです。
俺たちにも同じ様に伸びて来た枝にもう駄目だ、終わったと思ったのですが・・・
気づいた時には美桜さんが全て斬り落としていたんです。
ですが・・・顔つきが
いつもの美桜さんとは違っていて・・・
まるで全くの別人の様でしたーーー
「・・・・・・」
室内がしんと静まり返る。
伊「それが、奴の本来の姿なのか」
蜜「・・・美桜ちゃん・・・」
し「・・・私もまだ頭の整理が出来ていません。ですが立て続けに起きているのでまた同じ様な状態になるかもしれません」
不「その状態の美桜なら、力の使い方を知ってるかもしれねぇな」
悲「うむ。今の美桜は呼吸も使える。並の隊士や隠では暴走した美桜を止められぬという事か」
し「ええ・・・そうなった時に美桜さんを保護できる人材は限られていると思います」
ーーー
それまでとは人が変わった様なーー
いつもの美桜さんとは全くの別人の様でしたーー
目の前で広がる光景を目の当たりにした俺はその言葉を思い出していた。
千「お願いです!もうっ、やめて下さいっ!」
千寿郎の悲痛な叫びにハッとして我にかえる。
そう、奴はーー
美桜は、今まで見たこともないような冷徹な顔で男達を殴り続けていた。
千「美桜さんっ!それ以上やったら死んでしまいますよっ」
千寿郎の声など届いていない様子ですでに気を失っている男の胸ぐらを掴む。
『・・・お前みたいな奴は消えればいい』
そう言って近くに落ちていた短刀を拾い、振り上げた所でーー
『ッ!?』
背後に回り込み、短刀を持つ腕を掴む。
伊「これ以上はやり過ぎだ。貴様も犯罪者になりたいか?」
千「・・・・伊黒、さん・・・」
『・・・・・・』
こちらに振り返った奴は温度を感じさせない冷たい眼をしていた。
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目の前が真っ暗だった。
私は暗闇の中で子供の様に小さく蹲っていた。
ーー覚悟は出来たのか?ーー
ーー問題ない。私に任せろーー
幾度となくかけられて来たあの声の正体は・・・
ーーまた“私が”代わってやるーー
“私”だった