記憶と霞
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『水の呼吸、弐ノ型、水車!!』
ザンッと音を立てて東城さんを捕らえていた枝を斬る。
東「美桜さん!!」
地面に落ちてくる東城さんを中西さんが受け止める。
私は動きを止めずに後藤さんの方へと走り出す。
再び四方から枝が伸びてくる。
怯んでいる暇はない
『水の呼吸、参ノ型、流流舞い!!』
後「うわ・・・凄ぇ・・・」
伸びてくる枝を斬りながら進み、後藤さんに巻きついている枝も斬り落とす。
『ごめんなさい!助けるのが遅くなって!!』
後「いえ・・・ありがとうございます」
無事に救い出せた。
新しい刀の切れ味も問題ない。
しかし、攻撃は続く。
斬っても斬っても、新しい枝が伸びてくる。
『皆、走れますか?とにかくここを離れましょう!!』
このままだと体力ばかりが削られていくだけだ。
何か、打開策を考えないと・・・
山道を駆け抜けながら考えを巡らせる。
中「えっ!?」
東「何で!?」
後「どうなってんだ!?」
『どうしましたか?・・・!!』
先を走っていた隠の3人が驚きの声を上げる。
一番後ろを走っていた私が前方に目をやると、さっきまで歩いてきていたはずの山道が木で塞がれなくなっていた。
『・・・・・・ッ』
枝を伸ばすだけじゃない・・・木を動かせるなんて
これが強い血鬼術の力・・・
・・・これが、柱が相手にしている鬼の強さ・・・
中「美桜さん!危ない!!」
『ッ!』
中西さんの声に反応して後ろから迫ってきた枝を振り向きざまに斬る。
そうだ、集中しなくちゃ。
ーー動揺を見せるな
敵にも、味方にもーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
玄「・・・凄ぇ」
美桜さんの剣捌きに溜息が漏れる。
美桜さんを守るため後を追ってきたが、俺の助けなど必要ないんじゃないかと思う程の身のこなしで鬼の攻撃を全て防いでいた。
ついこの間まで、全集中の呼吸も知らない普通の女の人だったのに・・・
短期間で呼吸を身につけ、刀の色まで変えて・・・
彼女の戦う姿を見ていると、自分がとても無力に感じた。
『・・・あっ!』
玄「!!」
劣等感に苛まれていた所に美桜さんの小さな悲鳴が聞こえ反射的に顔を上げる。
隠の1人の腕に木の枝が伸びていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
後「うわわわわ!また来たぁ!!」
『後藤さんっ!!』
しまった。
斬り損ねた枝が後藤さんに襲い掛かる。
この体勢から間に合うか・・・
ザンッ!
『!!・・・玄弥くん・・・』
玄「足手まといは引っ込んでろよ!!」
後「そ、そんな事言われても・・どこに・・・」
玄「何でか知らねぇがそっちの木の影には伸びてこねぇ!とっとと隠れろ!!」
中「はっ、はい!!」
玄弥くんが断ち切ってくれたおかげで、後藤さんは捕まるのを回避できた。
そして、彼の言う木の影に隠の3人が逃げ込んで行った。
『玄弥くん・・・ありがとう』
玄「・・・俺は悲鳴嶼さんからアンタの事守れって言われてんだ。それに、近くに強い鬼がいるんなら俺がぶった斬る!・・・俺の為だ」
『うん・・・』
お礼を言うと、ぶっきらぼうに返される。
それから、2人で襲い掛かる枝を捌いて行く。
余裕が出来たからか1人で戦っていた時よりも冷静に周囲の様子に目がいく様になった。
成程、玄弥くんが言った様に隠が潜んでいる場所は攻撃がいかない。
つまり、死角があるっていうこと。
死角があるという事は、どこかから私たちを見ている筈。
あとは、どうやってこの枝を操っているのか・・・
それを突き止めないと・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鬼と対峙してどれ程経っただろうか。
悲鳴が聞こえてからは膠着状態が続いていた。
美桜達の身に何が起こっているのか・・・
目の前の鬼が何かをした事は明らかだ。
離れた場所への攻撃が可能という事は厄介だ。
万が一、俺の攻撃をかわされた場合向こうが危ない。
次の一撃で肩をつけるしかない。
鬼の攻撃も初手に比べると威力も勢いもない。
大方同時に2ヶ所では力を発揮出来ないのだろう。
悲「・・・捉えるのに随分と時間がかかっている様だな」
鬼「!!・・・あちら側にも意外としぶといのが居る様じゃな。」
揺さぶりをかけると、あっさりと鬼が口を開いた。
・・・玄弥が戦っているか・・・
鬼「覆面の女・・・こいつは厄介じゃ」
悲「!?」
覆面の女・・・
美桜!
鬼「攻撃に対する勘が鋭い・・・ただの隊士という訳でもなさそうじゃな。」
美桜の存在を鬼側に認識されたからには、どうしてもここで滅して貰わなければならない。
悲「南無阿弥陀仏・・・」
集中を高める。
次の攻撃のために・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ッ!!』
変化が起こったのは突然だった。
玄「美桜さん!くそ、何で!!」
攻撃が私に集中し出した。
先程までよりも速く、鋭くーーー。
これでは本体が探せない・・・
はやく操っている鬼を探して、この伸びる枝を封じないと・・・
『ッ!』
・・・・・・
『・・・ッ!!』
・・・・・・
『ああ!もう!分かんないよッ!!!』
玄「ッ?美桜さん??」
『こんなに枝が伸びてきたら探せないし!!そもそも何で枝が伸びるのよっ!どういう理屈!?木は長い年月をかけて養分を吸い取って成長するものでしょうが!!!』
玄「ちょ・・・落ち着けって・・・」
しつこい鬼の攻撃に自暴自棄気味に叫びながら滅茶苦茶に刀を振る。
でも、発した自分の言葉にハッとする。
養分を、吸い取る・・・
もしかして・・・
思いついたらやるしかない!!
枝を伸ばしてくる木に向かって勢いよく走り出す。
玄「美桜さん!そっちは危ねぇよ!!」
『玄弥くん!私を守ってね!!』
玄「ッ!!」
私に向かって伸びてくる木に突進して行く。
もう少しで捕まる、という所で姿勢を低くし玄弥くんが枝を斬ってくれる。
そのまま速度を落とさず、深く呼吸する。
『水の呼吸、捌ノ型、滝壺!!!』
木の根元に向かって技を放つ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鬼「ッ!!!」
悲「!!」
鬼の呼吸が乱れた。
しかし、すぐに体勢を整える。中々隙を与えてはくれない。
美桜達の安全が確認出来ればすぐ様攻撃に転じられるのだが・・・
焦りは禁物か。
好機は必ず訪れる。
鬼(・・・小娘、中々やるわい。儂の術の絡繰を短時間で見抜くとはな・・・生きたまま喰らいたかったがそうもいかぬか)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『やっぱり、そうか・・・』
玄「・・・どういう事だ?」
さっきまで攻撃してきた木は何事も無かったかのように静かにそこに立っている。
『木の根っこを伝って術を流しているんだと思う。だから、根を斬れば』
玄「その木の術は解ける・・・?」
『だと思う。けど・・・』
玄「?」
『ここは山の中。木はたくさんあるから・・・』
玄「また別の木を操る・・・ッ!!」
言ったそばから再び攻撃が再開する。
やっぱり本体を探さないと駄目だ・・・
『玄弥くんッ!どこかに私たちを見ていて操ってる鬼がいるはず!それを見つけないと・・・』
玄「俺もさっきから探してるけど、どこにも鬼の姿なんて無えよっ!!」
確かに・・・
こんなに探しているのに見つからない。
姿を隠すのに長けているのかもしれない・・・
ちゃんと頭を使って考えなきゃ
闇雲に探しても駄目だ。
手がかりはある筈・・・
東「美桜さん、大丈夫ですか?」
『ッ!駄目だよ』
茂みにいた東城さんが心配して声をかけてきた。
そんな事をしたら隠達の居場所がバレてしまう。
東「!!」
慌てた様に口を抑えるが、一向に枝は東城さんの方に向かない。
何故・・・そこにいる事に気がついてないの?
声が届かない位離れた場所にいる?
じゃあ何故私と玄弥くんに正確に攻撃が出来るの?
声が届かなくて、でも私達を見ている。
見ている・・・
今、隠の人たちがいる場所が死角になっている所・・・
それは、彼らが隠れている側の木だ。
『!』
意識を向けると鋭い視線を感じる。勢いよく顔を上げるとーー
『・・・見つけた』
玄「・・・・・・」
さっきまで木のウロに見えていた“それ”は1個の目玉だった。
ギョロリとこちらを凝視している。
その瞳にはーーー
『下弦の、壱・・・』
玄「十ニ鬼月・・・!」
あまりに想定外の事態に思わず息を呑む。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
煉「炎の呼吸、弐ノ型、昇り炎天!」
鬼の頸が飛び、塵になって消えていく。
隊「す、すげぇ・・・一瞬で・・・」
煉「皆、無事か?怪我をしている者は?」
隊「あ、あちらに腕をやられた隊士が・・・」
煉「そうか。急いで手当てをしよう」
隊「えっ、柱にそんな事・・・」
煉「気にするな。君も肩を怪我しているな。すぐに救援がくる。安心するといい!」
隊「・・・ありがとうございます」
腕を怪我した隊士の手当てにかかる。
深く抉られている・・・神経は繋がっているだろうか。
止血し、固定をする。あとは胡蝶に任せるしかないが元のように動かせるかは分からなかった。
・・・俺がもう少し早く到着していれば
鬼狩りを始めてから何度そう思ったか。
そんな事を考えても仕方のない事は分かっている。
煉「・・・要!!」
要「杏寿郎様!何デショウ??」
煉「悲鳴嶼殿の任務、何か連絡は入っているか?」
要「イエ・・・マダ何モ・・・」
煉「そうか」
普段の任務ならば既に終えている筈
まだ鬼と遭遇していないか、若しくは・・・
要「・・・杏寿郎サマ!南南西ニ新タナ鬼ノ情報アリ!至急向カワレタシ!!」
煉「・・・うむ!承知した!!・・・」
要「杏寿郎サマ?」
煉「うむ、何でもない!行こう!!」
何故か、先程腕を怪我をしていた隊士の姿と美桜が重なり、思わず後ろを振り返ってしまった。
ただの思い過ごしだと自分に言い聞かせるようにして新たな任務地へと足を向けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ッ・・・・・』
玄「・・・ッ!どうなってんだよ・・・」
やっと見つけた鬼の手がかりだったが事態は変わらない。
攻撃を受け流しながら玄弥くんがやっとで口を開く。
玄「頸は・・・どこだよッ」
そう。
見つけたのは目玉だけ。
頸が・・・急所がなければ倒せない。
『本体は・・・別の場所にいるのかも』
玄「別ってどこに・・・ッ!!まさか・・悲鳴嶼さん・・・」
『うん・・・そうだと思う』
私達がこんなに戦っているのに一向に助太刀に来ない事がそれを証明している。
玄「下弦の鬼くらい悲鳴嶼さんにかかれば・・・」
『私達が狙われている事を知ってるのかも。だから、下手に手を出せないでいるんじゃないかな・・・』
目玉を睨みつけると、ニィィ・・という音が聴こえてきそうな程目を細める。
まるでご名答、とでも言いたげだ。
玄「俺たちは人質って事かよ」
チッと舌打ちをする。
『でもこの状況さえ変えられれば、きっと悲鳴嶼さんが倒してくれると思う』
玄「・・・なら狙うのは」
『うん』
鬼の視界を奪う。
狙うは、あの目玉ーーーー
ーーーー覚悟は出来たのか?ーーーー
『!!』
脳裏にあの声が蘇る。
覚悟なんて、ずっとしているつもりだよ。
こうして刀だって振るえているじゃない。
尚も襲い掛かる枝を斬り落とし、目玉に向かって駆け出す
息を大きく吸い込み、力強く踏み出す
『水の呼吸、壱ノ型、水面斬り!!』
よし!
狙い通りの場所へ刀が入った。
筈だったーーー
『!!』
そこにあった筈の目玉が忽然と消えた。
そして、一瞬の動揺・油断。
『あぁっ!!』
玄「美桜さん!!」
枝が身体に巻きつき、宙吊りになる。
二の腕から手首まで固定され、刀も振れない。
玄「くそっ!」
玄弥くんが刀を振るが、先程とは違い強度を増して切り込みが入るだけで斬り落とす事ができない。
『うっ・・・』
枝はミシ、と音を立てて巻きつき身体を圧迫する。
これ以上息を吸い込めない・・・
全集中の呼吸が出来ず、浅い呼吸を繰り返すしかなかった。
・・・私の馬鹿!
何で安易に飛び出したのだろう。
枝や木を操れるんだから、目玉の位置だって変えられるのは少し考えれば分かること。
少しずつ締め付けが強くなってきた。
また呼吸が浅くなる。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
どうする。
どうしたらいい??
何度刀を振っても斬れねぇ。
美桜さんを捕らえてから、俺への攻撃は一切なくなった。
まるで俺のことは眼中にないかのように。
玄「くそったれがぁっ!!!」
鬼まで、俺を馬鹿にしやがって・・・
美桜さんがいた事で抑えられていた黒い感情がまた自分の中でむくむくと膨らんでいく。
ーー玄弥、能力は使うなーー
ーーその“行為”を繰り返すと取り返しのつかない事になりますよーー
悲鳴嶼さんや胡蝶さんの警告が頭をよぎる。
だが、そんな事言ってる場合じゃねえ。
刀を納め、目の前の枝にかぶりつこうとした時ーーー
突然、羽音が響いた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『ッ!!』
呼吸もままならなくなり、意識を手放しそうになった時ーーー
羽音が響き、木に飛びかかって行く影が見えた。
『柘榴・・・』
柘榴が飛びかかった木には、あの目玉が・・・
柘「カァアッ!!」
後「うっ、うわぁあああっ!!」
中「うおおおおおっ!!」
東「・・・・・・ッ!!」
『みんな・・・』
柘榴の鳴き声を合図にしたかのように、隠の3人が飛び出してきた。
後藤さんは目玉に向かって石を投げ、中西さんは私が捕らえられている木を登り、東城さんは下から心配そうに見上げている。
『・・・・・・』
駄目だよ
危ないのに、
何で出てきたの
ままならない呼吸で言葉にする事は叶わなかった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
玄「・・・・・」
何だ?
こいつら、何してんだ??
鴉も、隠も鬼に敵う訳ねえじゃねぇか。
しかも十二鬼月だぞ。
普通の任務では鴉も隠も危険な場面に姿を現す事なんかない。
命が惜しくねぇのか?
馬鹿じゃねぇの?
いや、違ぇ
玄「馬鹿は・・・俺だ」
ここにいる鬼殺隊士は俺だけだ。
最初から、俺がなんとかしないといけなかった。
鴉のお陰で目玉の位置は特定出来た。
だが、呼吸を使いこなしている美桜さんでも避けられた。
美桜さんよりも更に、速い攻撃をしなければ・・・
そんな事、俺に出来るのか?
全集中の呼吸も出来ず、刀の色も変えられない俺が・・・
いつもより身体が重く感じる。
大量にかいた汗で服が背中に張り付いている。
不快感に背中へと手が伸びた時、辺りの事態が急変する。
柘「ギャァ!!」
後「うわっ!!」
中「うっ!」
東「ヒッ」
案の定、伸びてきた枝に俺以外の全員が捕らえられていた。
玄「・・・・ーーーッ!」
その後は無意識、いや無我夢中だった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『柘榴・・・皆・・・』
私と同じように捕らえられ皆の身体が宙に浮く。
皆も強く締め付けられている様で声にならない悲鳴をあげている。
『ーーーッ』
刀も振れない
呼吸も出来ない
それでも、
何とかしないと・・・
ーーーーパァンーーー
乾いた音が鳴り響いたと同時に枝の締め付けが緩くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
悲「!!」
鬼「ギャアアア!!!」
急に鬼が苦しみだした。
この機を逃す訳にはいかない。
鬼「小僧が・・・なんだ、あの武器は・・」
悲「!!」
武器・・・そうか・・・
悲「お前が知る必要はない。」
言うと同時に技を出す。
悲「岩の呼吸、弐ノ型、天面砕き!!」
鬼「ガッ!!」
鬼の脳天に鉄球が直撃し、頸が潰れる音がする。
これで勝負はついた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ーーーッハァ!!ハァ!!』
新しい空気を肺に取り込みながら、鬼の目玉を確認すると白い煙が薄く上っていた。
あれは・・・
『玄弥くん・・・凄い』
私が預けていた銃を木に向けたまま固まってしまっている玄弥くん。
初めて扱う銃で正確に鬼の目玉を撃ち抜いていた。
周りの木々も静まり返り元の落ち着きを取り戻したように見える。
きっと悲鳴嶼さんが鬼を倒したのだろう。
あとは、この枝から抜け出せば・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鬼「ガッ!ガアアアア!!!」
悲「!?」
事切れる直前、鬼が血鬼術を放つ。
ーー道連れのつもりか
死に際の術はその鬼の実力以上の効果を表す。
周囲の木々が軋み出し、鋭い棘の様になった枝が四方から此方へと向かってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『!?』
玄「なっ!?」
落ち着いたのも束の間、再び枝が襲いかかってくる。
それも今までの比ではない鋭さと数だ。
『ッ!!!』
数と速さに圧倒され、なす術もなく一本の枝が腕を貫いた。
『ああああああああッ!!』
「美桜さん!!」
誰かが私の名を繰り返し呼んでいたが、その時の事はあまり覚えていない。声にならない叫び声を上げそれ以外は何も感じなかった。
まるで自分が自分ではない。
そんな感覚だった。
ザンッと音を立てて東城さんを捕らえていた枝を斬る。
東「美桜さん!!」
地面に落ちてくる東城さんを中西さんが受け止める。
私は動きを止めずに後藤さんの方へと走り出す。
再び四方から枝が伸びてくる。
怯んでいる暇はない
『水の呼吸、参ノ型、流流舞い!!』
後「うわ・・・凄ぇ・・・」
伸びてくる枝を斬りながら進み、後藤さんに巻きついている枝も斬り落とす。
『ごめんなさい!助けるのが遅くなって!!』
後「いえ・・・ありがとうございます」
無事に救い出せた。
新しい刀の切れ味も問題ない。
しかし、攻撃は続く。
斬っても斬っても、新しい枝が伸びてくる。
『皆、走れますか?とにかくここを離れましょう!!』
このままだと体力ばかりが削られていくだけだ。
何か、打開策を考えないと・・・
山道を駆け抜けながら考えを巡らせる。
中「えっ!?」
東「何で!?」
後「どうなってんだ!?」
『どうしましたか?・・・!!』
先を走っていた隠の3人が驚きの声を上げる。
一番後ろを走っていた私が前方に目をやると、さっきまで歩いてきていたはずの山道が木で塞がれなくなっていた。
『・・・・・・ッ』
枝を伸ばすだけじゃない・・・木を動かせるなんて
これが強い血鬼術の力・・・
・・・これが、柱が相手にしている鬼の強さ・・・
中「美桜さん!危ない!!」
『ッ!』
中西さんの声に反応して後ろから迫ってきた枝を振り向きざまに斬る。
そうだ、集中しなくちゃ。
ーー動揺を見せるな
敵にも、味方にもーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
玄「・・・凄ぇ」
美桜さんの剣捌きに溜息が漏れる。
美桜さんを守るため後を追ってきたが、俺の助けなど必要ないんじゃないかと思う程の身のこなしで鬼の攻撃を全て防いでいた。
ついこの間まで、全集中の呼吸も知らない普通の女の人だったのに・・・
短期間で呼吸を身につけ、刀の色まで変えて・・・
彼女の戦う姿を見ていると、自分がとても無力に感じた。
『・・・あっ!』
玄「!!」
劣等感に苛まれていた所に美桜さんの小さな悲鳴が聞こえ反射的に顔を上げる。
隠の1人の腕に木の枝が伸びていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
後「うわわわわ!また来たぁ!!」
『後藤さんっ!!』
しまった。
斬り損ねた枝が後藤さんに襲い掛かる。
この体勢から間に合うか・・・
ザンッ!
『!!・・・玄弥くん・・・』
玄「足手まといは引っ込んでろよ!!」
後「そ、そんな事言われても・・どこに・・・」
玄「何でか知らねぇがそっちの木の影には伸びてこねぇ!とっとと隠れろ!!」
中「はっ、はい!!」
玄弥くんが断ち切ってくれたおかげで、後藤さんは捕まるのを回避できた。
そして、彼の言う木の影に隠の3人が逃げ込んで行った。
『玄弥くん・・・ありがとう』
玄「・・・俺は悲鳴嶼さんからアンタの事守れって言われてんだ。それに、近くに強い鬼がいるんなら俺がぶった斬る!・・・俺の為だ」
『うん・・・』
お礼を言うと、ぶっきらぼうに返される。
それから、2人で襲い掛かる枝を捌いて行く。
余裕が出来たからか1人で戦っていた時よりも冷静に周囲の様子に目がいく様になった。
成程、玄弥くんが言った様に隠が潜んでいる場所は攻撃がいかない。
つまり、死角があるっていうこと。
死角があるという事は、どこかから私たちを見ている筈。
あとは、どうやってこの枝を操っているのか・・・
それを突き止めないと・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鬼と対峙してどれ程経っただろうか。
悲鳴が聞こえてからは膠着状態が続いていた。
美桜達の身に何が起こっているのか・・・
目の前の鬼が何かをした事は明らかだ。
離れた場所への攻撃が可能という事は厄介だ。
万が一、俺の攻撃をかわされた場合向こうが危ない。
次の一撃で肩をつけるしかない。
鬼の攻撃も初手に比べると威力も勢いもない。
大方同時に2ヶ所では力を発揮出来ないのだろう。
悲「・・・捉えるのに随分と時間がかかっている様だな」
鬼「!!・・・あちら側にも意外としぶといのが居る様じゃな。」
揺さぶりをかけると、あっさりと鬼が口を開いた。
・・・玄弥が戦っているか・・・
鬼「覆面の女・・・こいつは厄介じゃ」
悲「!?」
覆面の女・・・
美桜!
鬼「攻撃に対する勘が鋭い・・・ただの隊士という訳でもなさそうじゃな。」
美桜の存在を鬼側に認識されたからには、どうしてもここで滅して貰わなければならない。
悲「南無阿弥陀仏・・・」
集中を高める。
次の攻撃のために・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ッ!!』
変化が起こったのは突然だった。
玄「美桜さん!くそ、何で!!」
攻撃が私に集中し出した。
先程までよりも速く、鋭くーーー。
これでは本体が探せない・・・
はやく操っている鬼を探して、この伸びる枝を封じないと・・・
『ッ!』
・・・・・・
『・・・ッ!!』
・・・・・・
『ああ!もう!分かんないよッ!!!』
玄「ッ?美桜さん??」
『こんなに枝が伸びてきたら探せないし!!そもそも何で枝が伸びるのよっ!どういう理屈!?木は長い年月をかけて養分を吸い取って成長するものでしょうが!!!』
玄「ちょ・・・落ち着けって・・・」
しつこい鬼の攻撃に自暴自棄気味に叫びながら滅茶苦茶に刀を振る。
でも、発した自分の言葉にハッとする。
養分を、吸い取る・・・
もしかして・・・
思いついたらやるしかない!!
枝を伸ばしてくる木に向かって勢いよく走り出す。
玄「美桜さん!そっちは危ねぇよ!!」
『玄弥くん!私を守ってね!!』
玄「ッ!!」
私に向かって伸びてくる木に突進して行く。
もう少しで捕まる、という所で姿勢を低くし玄弥くんが枝を斬ってくれる。
そのまま速度を落とさず、深く呼吸する。
『水の呼吸、捌ノ型、滝壺!!!』
木の根元に向かって技を放つ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鬼「ッ!!!」
悲「!!」
鬼の呼吸が乱れた。
しかし、すぐに体勢を整える。中々隙を与えてはくれない。
美桜達の安全が確認出来ればすぐ様攻撃に転じられるのだが・・・
焦りは禁物か。
好機は必ず訪れる。
鬼(・・・小娘、中々やるわい。儂の術の絡繰を短時間で見抜くとはな・・・生きたまま喰らいたかったがそうもいかぬか)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『やっぱり、そうか・・・』
玄「・・・どういう事だ?」
さっきまで攻撃してきた木は何事も無かったかのように静かにそこに立っている。
『木の根っこを伝って術を流しているんだと思う。だから、根を斬れば』
玄「その木の術は解ける・・・?」
『だと思う。けど・・・』
玄「?」
『ここは山の中。木はたくさんあるから・・・』
玄「また別の木を操る・・・ッ!!」
言ったそばから再び攻撃が再開する。
やっぱり本体を探さないと駄目だ・・・
『玄弥くんッ!どこかに私たちを見ていて操ってる鬼がいるはず!それを見つけないと・・・』
玄「俺もさっきから探してるけど、どこにも鬼の姿なんて無えよっ!!」
確かに・・・
こんなに探しているのに見つからない。
姿を隠すのに長けているのかもしれない・・・
ちゃんと頭を使って考えなきゃ
闇雲に探しても駄目だ。
手がかりはある筈・・・
東「美桜さん、大丈夫ですか?」
『ッ!駄目だよ』
茂みにいた東城さんが心配して声をかけてきた。
そんな事をしたら隠達の居場所がバレてしまう。
東「!!」
慌てた様に口を抑えるが、一向に枝は東城さんの方に向かない。
何故・・・そこにいる事に気がついてないの?
声が届かない位離れた場所にいる?
じゃあ何故私と玄弥くんに正確に攻撃が出来るの?
声が届かなくて、でも私達を見ている。
見ている・・・
今、隠の人たちがいる場所が死角になっている所・・・
それは、彼らが隠れている側の木だ。
『!』
意識を向けると鋭い視線を感じる。勢いよく顔を上げるとーー
『・・・見つけた』
玄「・・・・・・」
さっきまで木のウロに見えていた“それ”は1個の目玉だった。
ギョロリとこちらを凝視している。
その瞳にはーーー
『下弦の、壱・・・』
玄「十ニ鬼月・・・!」
あまりに想定外の事態に思わず息を呑む。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
煉「炎の呼吸、弐ノ型、昇り炎天!」
鬼の頸が飛び、塵になって消えていく。
隊「す、すげぇ・・・一瞬で・・・」
煉「皆、無事か?怪我をしている者は?」
隊「あ、あちらに腕をやられた隊士が・・・」
煉「そうか。急いで手当てをしよう」
隊「えっ、柱にそんな事・・・」
煉「気にするな。君も肩を怪我しているな。すぐに救援がくる。安心するといい!」
隊「・・・ありがとうございます」
腕を怪我した隊士の手当てにかかる。
深く抉られている・・・神経は繋がっているだろうか。
止血し、固定をする。あとは胡蝶に任せるしかないが元のように動かせるかは分からなかった。
・・・俺がもう少し早く到着していれば
鬼狩りを始めてから何度そう思ったか。
そんな事を考えても仕方のない事は分かっている。
煉「・・・要!!」
要「杏寿郎様!何デショウ??」
煉「悲鳴嶼殿の任務、何か連絡は入っているか?」
要「イエ・・・マダ何モ・・・」
煉「そうか」
普段の任務ならば既に終えている筈
まだ鬼と遭遇していないか、若しくは・・・
要「・・・杏寿郎サマ!南南西ニ新タナ鬼ノ情報アリ!至急向カワレタシ!!」
煉「・・・うむ!承知した!!・・・」
要「杏寿郎サマ?」
煉「うむ、何でもない!行こう!!」
何故か、先程腕を怪我をしていた隊士の姿と美桜が重なり、思わず後ろを振り返ってしまった。
ただの思い過ごしだと自分に言い聞かせるようにして新たな任務地へと足を向けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ッ・・・・・』
玄「・・・ッ!どうなってんだよ・・・」
やっと見つけた鬼の手がかりだったが事態は変わらない。
攻撃を受け流しながら玄弥くんがやっとで口を開く。
玄「頸は・・・どこだよッ」
そう。
見つけたのは目玉だけ。
頸が・・・急所がなければ倒せない。
『本体は・・・別の場所にいるのかも』
玄「別ってどこに・・・ッ!!まさか・・悲鳴嶼さん・・・」
『うん・・・そうだと思う』
私達がこんなに戦っているのに一向に助太刀に来ない事がそれを証明している。
玄「下弦の鬼くらい悲鳴嶼さんにかかれば・・・」
『私達が狙われている事を知ってるのかも。だから、下手に手を出せないでいるんじゃないかな・・・』
目玉を睨みつけると、ニィィ・・という音が聴こえてきそうな程目を細める。
まるでご名答、とでも言いたげだ。
玄「俺たちは人質って事かよ」
チッと舌打ちをする。
『でもこの状況さえ変えられれば、きっと悲鳴嶼さんが倒してくれると思う』
玄「・・・なら狙うのは」
『うん』
鬼の視界を奪う。
狙うは、あの目玉ーーーー
ーーーー覚悟は出来たのか?ーーーー
『!!』
脳裏にあの声が蘇る。
覚悟なんて、ずっとしているつもりだよ。
こうして刀だって振るえているじゃない。
尚も襲い掛かる枝を斬り落とし、目玉に向かって駆け出す
息を大きく吸い込み、力強く踏み出す
『水の呼吸、壱ノ型、水面斬り!!』
よし!
狙い通りの場所へ刀が入った。
筈だったーーー
『!!』
そこにあった筈の目玉が忽然と消えた。
そして、一瞬の動揺・油断。
『あぁっ!!』
玄「美桜さん!!」
枝が身体に巻きつき、宙吊りになる。
二の腕から手首まで固定され、刀も振れない。
玄「くそっ!」
玄弥くんが刀を振るが、先程とは違い強度を増して切り込みが入るだけで斬り落とす事ができない。
『うっ・・・』
枝はミシ、と音を立てて巻きつき身体を圧迫する。
これ以上息を吸い込めない・・・
全集中の呼吸が出来ず、浅い呼吸を繰り返すしかなかった。
・・・私の馬鹿!
何で安易に飛び出したのだろう。
枝や木を操れるんだから、目玉の位置だって変えられるのは少し考えれば分かること。
少しずつ締め付けが強くなってきた。
また呼吸が浅くなる。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
どうする。
どうしたらいい??
何度刀を振っても斬れねぇ。
美桜さんを捕らえてから、俺への攻撃は一切なくなった。
まるで俺のことは眼中にないかのように。
玄「くそったれがぁっ!!!」
鬼まで、俺を馬鹿にしやがって・・・
美桜さんがいた事で抑えられていた黒い感情がまた自分の中でむくむくと膨らんでいく。
ーー玄弥、能力は使うなーー
ーーその“行為”を繰り返すと取り返しのつかない事になりますよーー
悲鳴嶼さんや胡蝶さんの警告が頭をよぎる。
だが、そんな事言ってる場合じゃねえ。
刀を納め、目の前の枝にかぶりつこうとした時ーーー
突然、羽音が響いた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『ッ!!』
呼吸もままならなくなり、意識を手放しそうになった時ーーー
羽音が響き、木に飛びかかって行く影が見えた。
『柘榴・・・』
柘榴が飛びかかった木には、あの目玉が・・・
柘「カァアッ!!」
後「うっ、うわぁあああっ!!」
中「うおおおおおっ!!」
東「・・・・・・ッ!!」
『みんな・・・』
柘榴の鳴き声を合図にしたかのように、隠の3人が飛び出してきた。
後藤さんは目玉に向かって石を投げ、中西さんは私が捕らえられている木を登り、東城さんは下から心配そうに見上げている。
『・・・・・・』
駄目だよ
危ないのに、
何で出てきたの
ままならない呼吸で言葉にする事は叶わなかった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
玄「・・・・・」
何だ?
こいつら、何してんだ??
鴉も、隠も鬼に敵う訳ねえじゃねぇか。
しかも十二鬼月だぞ。
普通の任務では鴉も隠も危険な場面に姿を現す事なんかない。
命が惜しくねぇのか?
馬鹿じゃねぇの?
いや、違ぇ
玄「馬鹿は・・・俺だ」
ここにいる鬼殺隊士は俺だけだ。
最初から、俺がなんとかしないといけなかった。
鴉のお陰で目玉の位置は特定出来た。
だが、呼吸を使いこなしている美桜さんでも避けられた。
美桜さんよりも更に、速い攻撃をしなければ・・・
そんな事、俺に出来るのか?
全集中の呼吸も出来ず、刀の色も変えられない俺が・・・
いつもより身体が重く感じる。
大量にかいた汗で服が背中に張り付いている。
不快感に背中へと手が伸びた時、辺りの事態が急変する。
柘「ギャァ!!」
後「うわっ!!」
中「うっ!」
東「ヒッ」
案の定、伸びてきた枝に俺以外の全員が捕らえられていた。
玄「・・・・ーーーッ!」
その後は無意識、いや無我夢中だった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『柘榴・・・皆・・・』
私と同じように捕らえられ皆の身体が宙に浮く。
皆も強く締め付けられている様で声にならない悲鳴をあげている。
『ーーーッ』
刀も振れない
呼吸も出来ない
それでも、
何とかしないと・・・
ーーーーパァンーーー
乾いた音が鳴り響いたと同時に枝の締め付けが緩くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
悲「!!」
鬼「ギャアアア!!!」
急に鬼が苦しみだした。
この機を逃す訳にはいかない。
鬼「小僧が・・・なんだ、あの武器は・・」
悲「!!」
武器・・・そうか・・・
悲「お前が知る必要はない。」
言うと同時に技を出す。
悲「岩の呼吸、弐ノ型、天面砕き!!」
鬼「ガッ!!」
鬼の脳天に鉄球が直撃し、頸が潰れる音がする。
これで勝負はついた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ーーーッハァ!!ハァ!!』
新しい空気を肺に取り込みながら、鬼の目玉を確認すると白い煙が薄く上っていた。
あれは・・・
『玄弥くん・・・凄い』
私が預けていた銃を木に向けたまま固まってしまっている玄弥くん。
初めて扱う銃で正確に鬼の目玉を撃ち抜いていた。
周りの木々も静まり返り元の落ち着きを取り戻したように見える。
きっと悲鳴嶼さんが鬼を倒したのだろう。
あとは、この枝から抜け出せば・・・
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鬼「ガッ!ガアアアア!!!」
悲「!?」
事切れる直前、鬼が血鬼術を放つ。
ーー道連れのつもりか
死に際の術はその鬼の実力以上の効果を表す。
周囲の木々が軋み出し、鋭い棘の様になった枝が四方から此方へと向かってきた。
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『!?』
玄「なっ!?」
落ち着いたのも束の間、再び枝が襲いかかってくる。
それも今までの比ではない鋭さと数だ。
『ッ!!!』
数と速さに圧倒され、なす術もなく一本の枝が腕を貫いた。
『ああああああああッ!!』
「美桜さん!!」
誰かが私の名を繰り返し呼んでいたが、その時の事はあまり覚えていない。声にならない叫び声を上げそれ以外は何も感じなかった。
まるで自分が自分ではない。
そんな感覚だった。