恋と呼吸
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静かに目を開く。
そこは薄暗い場所だったーーー
煉「・・・洞窟の中か?」
不「・・・の様だなァ」
冨「・・・」
周囲に気配を感じない事を確認してから3人同時に身体を起こす。
岩肌の壁が剥き出しになっているが、点々と灯りがついており更に中央には簡易的な線路が敷かれている。
人の手によって作られた洞窟だと分かった。
煉「どうやら上手くいった様だな」
食事を出された時点で何か盛られている事は気付いていた。
懐に忍ばせておいた解毒薬を飲み、相手の策に溺れたフリをしていたのだ。
案の定、村人たちの手によってここまで運び込まれたという訳だ。
冨「運んでいる最中に俺たちの事を供物だと言っていたな」
煉「うむ・・・よそ者を生贄として繰り返し鬼に捧げているのだろう」
不「今まで送り込まれた隊士は全員供物にされたって事か・・・チッ」
煉「色々と思うところはあるが、まずはこの状況をどうにかせねばなるまい!」
俺たちは丸腰の上後ろ手に縛られている状態だった。
その時、洞窟の奥から何かを引きずる様な音が響いてきた。
不「・・・来たな」
冨「ああ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー頭が痛い
身体が重い・・・
このまま、意識を手放してしまえば楽だろうな・・・
そんな考えが脳裏をよぎる。
“駄目だ起きろ!!目を開けろ!!!”
だって、身体中辛くて、もう動けないよ・・・
“あの人死んじゃうぞ!いいのかよ!?”
良くないよ。良くないけど・・・
“守るんだろ!?ちゃんと約束守れよな!!”
“姉ちゃん!!!!!”
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
弾かれたように目を開く。
鬼は、男の人の目前に迫っていた。
『待っ・・・て!駄目・・・』
必死に身体を動かそうとするが痛みが走り起き上がる事ができない。
何とか這うような形で進むが間に合う訳がない。
『・・・・・・ッ』
止まれ
止まれ
『止まれぇーーーーッ!!!!!』
鬼を睨みつけ、力の限り叫ぶ。
鬼「ッ!?」
鬼の動きがピタリと止まった。
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洞窟の奥から現れた者の姿を見て息を呑む。
煉「こ、これは・・・!?」
現れたのは3匹の鼠だった。
驚くことにそれぞれが俺たちの武器を担いでいる。小さい体に似つかわしくない筋骨をしていた。
不「・・・噂は本当だったんだなァ」
冨「俺も見るのは初めてだ」
不死川と冨岡は大して驚く様子もないどころか正体を知っている風だ。
煉「どういう事だ?この鼠は・・・」
不「宇髄から借りた」
煉「宇髄?」
冨「これは宇髄の使いの忍獣だ」
話によると、今回の任務にあたり不死川が宇髄に掛け合い忍獣を派遣してもらったそうだ。
煉「よもや!宇髄がこんな生き物を従えていたとは!!やはり忍とは凄いものだな!!!」
不「・・・一応言っとくがここは敵陣だからなァ」
感心していると声量を落とせと叱られた。
鼠の手によって縄を解かれ武器を手にする。
煉「さて・・・これからどう動く?」
冨「ここに現れるのを待つか・・・それとも」
不「決まってんだろォ」
不死川が立ち上がる。
不「とっととブチ殺して終わりにすんぞォ」
そして洞窟の奥へと歩みを進める。
俺と冨岡は目配せをして、動き始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『・・・・・・』
出来た・・・
硬直させる時の感覚は何となく身に覚えがあったけど、意識してやろうとすると全然出来なかったのに・・・
鬼「・・・ッ!・・・クソ・・・何だァこれは・・・」
『!!』
鬼がギギギ・・・と腕を動かした。
完璧じゃなかった・・・
鬼「・・・小、娘・・お前の、仕業、だな・・・」
首だけがぎごちなく回転し、こちらを向く。
だけど標的は私には向かず足は男の人へと一歩、また一歩と近づく。
もう一度・・・
キッと鬼を睨みつけるが、硬直はしない
鬼「俺の・・・邪魔を、するなァ・・・」
このままじゃいけない!
早く、立ち上がって、攻撃を・・・
刃を食いしばり必死に立ち上がろうと意識を自分に向けた時
鬼の動きが戻った
素早い動きで男の人へ向かい手を振り上げる。
『しまっ・・・』
ーーーやられるーーー
ヒュッと息を呑む。
また目の前が真っ暗になった。
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不「チッ!うざってぇな!!」
冨「どこからこんなに湧いて来るのか・・・」
煉「うむ!これは進むのにも難儀だな!!!」
洞窟の奥地へ入れば入る程、蝙蝠が俺たちの視界を遮るように飛び交ってくる。
それを手で払い除けながら進んでいたがとうとう前が見えない程の数に囲まれてしまった。
まるでこの先へ進ませないよう何者かに操られているかの様だ。
ー操られている?
煉「・・・よもや」
冨「何か気付いたのか?」
俺の声に冨岡が反応する。
煉「・・・」
答える代わりに目の前の蝙蝠の頸を落とす。
すると甲高い声をあげながら塵となって消えた。
不「なっ!?こいつら、鬼か!」
冨「もしくは血鬼術によって作られた幻獣か・・・」
煉「うむ!どちらにせよ全て斬り捨ててしまえば良い事だ!!」
3人で蝙蝠の群れを一蹴するのは一瞬だった。
不「大した事ねぇな・・・それにしても、よく気がついたなァ」
不死川が感心したように顔を向けて来る。
煉「うむ!以前、美桜が千寿郎の為に買って来て読み聞かせていた本に似たような物語があったのを思い出した!」
確か西洋の鬼の話だった
煉「吸血鬼という者が人の生き血を吸うのだとか・・・その中で蝙蝠を操るということも言っていた!」
千寿郎は顔を真っ青にしながら聞いていたな。
冨「海外にも鬼がいるとは驚いたな・・・」
不「物語だっつってんだろォが!」
煉「うむ!だがそれのお陰でこの窮地を抜け出せたのだ!美桜には感謝せねばな!!」
やはり美桜の存在は俺の中で大きいものだと再認識する。
どんな些細な事でも美桜に関わる事ならすぐに思い出す事が出来る。
不「・・・あァ、そうだなァ・・・ッ!!」
不死川が面倒臭そうに相槌を打つ。
と、また奥から蝙蝠の大群が押し寄せてきた。
不「チッ、次から次へとキリがねぇな!」
冨「だが、向かって来る方向が同じということは操っている者はこの奥にいるという事」
煉「そうだな!では先に進むとしよう!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・美桜・・・
・・・美桜
・・・誰か、呼んでる・・・
鱗「美桜!!」
『ッ!!』
目を開くと心配そうに私を覗き込む鱗滝さんの姿を捉えた。
『鱗・・・滝さ・・・!!』
そうだ、鬼は!?
がばっと起き上がり周囲を見回すが姿はない。
ここに鱗滝さんがいるということは・・・
『助けてくれたんですね・・・ありがとうございます。そうだ、あの人・・!』
気を失う前に見た光景を思い出す。
男の人がいた場所には夥しい血の跡だけが残されていた。
『・・・そんな・・・』
身体から血の気が引いていく。
力なく倒れそうになる私の肩を鱗滝さんの手がしっかりと掴み支えてくれた。
鱗「落ち着け。無事・・・とはいかないが生きている」
『えっ・・・』
私が目を覚ます前、鬼殺隊士が到着して応急処置をしてからひとまず村へと運ばれて行ったそうだ。
『そっか・・・良かった・・・』
鱗「・・・・・・儂達も戻るぞ。歩けるか?」
『はい・・・』
立ち上がり、ゆっくり歩いてくれる鱗滝さんの後をついて村への道を辿る。
言いつけを守らなかったこと。
勝手に鬼と接触をして危険な目にあった事を叱られるかと思っていたけれど、鱗滝さんは何も言わなかった。
鱗滝さんの姿が見当たらなかったのは、鬼の情報を鬼殺隊に送っていたから。
そして到着した隊士と共に山に入って、私達を見つけたそうだ。
私はやっぱり1人で空回りをしていたのだ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
洞窟の最奥で、鬼を発見した。
と同時に今までと比にならない程の蝙蝠が俺たちに襲い掛かってきた。
周囲には隊服の切れ端や日輪刀が無数に落ちている。
この鬼が本体と見て先ず間違いないだろう。
1匹が俺の手の甲に噛み付き、血を吸い上げると本体の鬼の身体が少し膨らむのを見逃さなかった。
成る程。
血鬼術で作られた蝙蝠を媒介にし、操る事で人間の血を取り込み、弱った所を食しているのだな。
隊士たちがやられてしまったのにも納得がいく。
なんたる卑劣な鬼だ・・・
眉間に皺がよる。
隣にいた不死川は不敵な笑みを浮かべる。
不「・・・そう言う事かい。なら、お望み通りくれてやるよォ」
そう言って腕を差し出す。
餌に飛びつく様に蝙蝠たちは不死川をあっという間に囲ってしまった。
鬼「・・・オオ、オオオ・・・ッ!?」
不死川の血を取り込みムクムクと大きくなっていった鬼だったが、体がふらつき足元が大きく揺れた。
不「どうだぃ?俺の稀血の味はよォ。立ってらんねぇだろ」
稀血は元々特別な物だが、不死川の稀血は更に特殊だった。
血の匂いで鬼を酩酊させる事が出来る。
洞窟の奥ということもあり、ここは匂いが充満する。
そこからは実に呆気ない最期だった。
冨「水の呼吸、拾壱ノ型、凪」
冨岡の技に鬼はなす術がなく斬られる。
鬼「ギィヤアアアーーーー!!!!」
断末魔が洞窟内を反響し、鬼の体が崩れていく。
消えるほんの僅かな瞬間、髪で隠れていた瞳が露わになる。
そこには、十二鬼月を表す数字が刻まれていた。
冨「下弦の弐・・・」
不「あァ!?上弦じゃねぇのか?」
情報では上弦の可能性があるという事で、柱が3人派遣されたのだが・・・
煉「下弦の弐か・・・」
俺が柱になる為に倒した鬼も下弦の弐だった。
冨「既に補充がされている様だな」
煉「うむ・・・思った以上の速さだな」
何度倒しても新たに生まれてくる。これではイタチごっこだ。
不「鬼舞辻を見つけ出して斬っちまえば話は早えんだがなァ・・・」
そう零し、洞窟の出口へと踵を返し歩き始めた。
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村に戻った私達は宿で休み、朝になってから襲われた人がいる診療所へと足を運ぶ。
扉を開き部屋の中へ入ると、一つしかないベッドの上にその人はいた。
身体のあちこちに包帯が巻かれていて一目で重傷だと分かる。
本当に生きていた。
良かった・・・
鱗滝さんの言葉を信じない訳ではないけれど、自分の目で見るまでは安心出来なかった。
男「・・・!」
ぼんやりと窓の外の景色を見ていた男の人は私たちの存在に気付き驚いた顔をする。
『おはようございます。お身体の具合はいかがですか?』
男「ッ・・・だ、大丈夫、です・・・昨晩は、ありがとうございました・・・」
『?』
声をかけると怯えたような様子で目も合わさず、蚊の鳴くような声でお礼を言われた
『え・・・本当に大丈夫ですか?顔色が・・・』
その様子に心配になり、近寄ろうとした所を鱗滝さんに制される。
鱗「無事は確認した。行くぞ」
『え・・・でも・・・』
鱗「来ないのなら置いていくぞ」
『ッ!分かりました・・・では、お大事に』
男の人に頭を下げ慌てて鱗滝さんを追いかける様に部屋を後にする。
男の人は最後まで下を向き、小刻みに震えていた。
『・・・どうしたんでしょう、あの人・・・』
廊下に出て鱗滝さんに話しかけると
鱗「・・・美桜の顔を見て、昨晩の恐怖が蘇ったのだろう」
『・・・そうですか』
ちゃんと助けられていたら違ってたかな・・・
暗い気持ちになりかけた所で首を振る。
落ち込んでいる暇があるなら自分を鍛えないと!
同じ過ちを繰り返さないように
診療所を出た所で大きく深呼吸をして
『鱗滝さん!あの山を越えて狭霧山に向かいましょう!!』
顔を上げると、一羽の鴉が鱗滝さんの肩に止まった。
足には文がついている。
鱗「・・・・・・美桜」
手紙を読み終えた鱗滝さんが口を開く。
『はい!』
鱗「行き先変更だ」
『えっ!』
まさかの言葉に驚く。
今の手紙が関係しているのかな・・・
『変更って、どこに・・・?』
鱗「蝶屋敷だ。蟲柱からの呼び出しだ」
『え・・・・・・え〝!?』
何故だろう
嫌な予感しかしなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
し「1ヶ月の謹慎処分です」
『え・・・ええっ!?』
笑顔でさらりと言われた一言に青ざめる。
『どうして・・・』
し「どうしてだと思います?」
尚も笑顔のしのぶさんにビクッとなる。
圧が怖い・・・
『・・・ちゃんと、助けられなかったから?』
おどおどしながら出した答えに、はぁとため息をつかれる。
し「違います。美桜さんは鬼殺隊士ではないのですよ?それなのに1人で危険だと分かっている所に足を向けるなど・・・ご自分の立場が分かってらっしゃらない様ですね?」
『う・・・』
し「何度も言いますが美桜さんは鬼殺隊にとって重要な方です。もし今回美桜さんの身に何か起きていたとしたら、一緒にいた鱗滝さんにまで責任が及ぶ所でした」
『!・・・すみませんでした』
しのぶさんの言葉にただただ頭を下げる事しか出来なかった。
『鱗滝さんも、迷惑をおかけしてすみませんでした』
鱗「・・・美桜が時間を稼がなかったら1人の人間の命が奪われていた。それは紛れもない事実だ」
鱗滝さんの言葉に下を向いたままの瞳が潤む。
し「・・・全く、皆さん美桜さんに甘すぎます。とにかく。しばらくの間は不要不急の外出は控えてください。」
『はい』
自主的な訓練は許可して貰い私は煉獄さんのお家に戻る事になった。
し「煉獄さんにも鴉を飛ばしておきました。丁度任務が終わったから迎えに来るとの事でしたよ。」
煉獄さんが・・・
良かった
あの危険そうな任務が終わったんだ。
し「美桜さんにはしばらくここでお待ちいただきますが・・・」
煉「美桜!!迎えに来たぞ!!!」
『・・・杏寿郎さん!』
しのぶさんが言いかけていた所に勢いよく扉が開き煉獄さんが入って来た。
し「あらあら、随分早かったですね」
任務地はかなり遠方だった筈ですよ〜と穏やかな声のしのぶさんに
煉「美桜が怪我をしてここに運ばれたと聞いてな!居ても立っても居られず走って来た!!」
『ッ!』
煉獄さんの視線がしのぶさんから私へと移る。
目が合うと心臓の鼓動が大きく乱れた。
・・・怪我といっても捻挫、打身くらいで極々軽傷だ。
煉「美桜、怪我の具合はどうだ?」
『・・・あ・・・』
顔を覗き込まれる。
・・・近い・・・
鼓動が更に早くなる。
あれ、なんか、変だな・・・
煉「・・・美桜?」
鱗「どうした?」
し「美桜さん?」
私の様子に部屋にいる全員が心配そうに声を掛けてくる。
煉「美桜、大丈夫か?」
煉獄さんの手が私の頬に触れた瞬間ーー
『・・・・・・』
煉「美桜ッ!!」
全身の力が抜けその場で倒れそうになるのを煉獄さんが慌てて支える。
頭がクラクラする・・・
目の前もチカチカする・・・
煉「身体が熱いぞ!!熱があるのか!?」
し「!急いでこちらに運んでください!!」
それから慌ただしくベッドに運ばれたり、しのぶさんの診察を再度受ける事になった。
この時はまだ、ただの風邪だと思っていたのに。
あんな事になるなんて思ってもいなかった・・・