恋と呼吸
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ヒュウウウウ・・・・・・
ーーー水の呼吸、壱の型、水面斬・・・ーーー
『!!・・・・・・ッハァッハァッ!!』
駄目だ・・・
まだ全集中の呼吸を使いながら型に移ろうとするだけですぐに息が乱れる。
今はド早朝。
私は道場で1人自主訓練をしていた。
『・・・やっぱり肺活量の問題なのかな・・・』
ーーー気合いが足んないのよ!四六時中呼吸の事だけ考えてなさい!!ーーー
『・・・四六時中考えてるのになぁ』
考えているだけじゃ駄目なのか。
ハァッとため息がこぼれる。
一度だけ、鱗滝さんにお願いした事がある。
ーー『お願いします!私も狭霧山で修行させてください!』
鱗「・・・駄目だ。美桜には危険すぎる」
そう言って却下されてしまった。
普段の特訓だって怪我させないように気遣われているのが分かる。
初日の怪我は私の不注意だったのにあの後すごく落ち込んでたし・・・
鬼殺隊の重要人物だから、大事にされているのだろうけど・・・
『今の環境で、できる事を考えないとな・・・・・・あ!』
ある事を思いついた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『鱗滝さーん!冨岡さーん!お茶が入りましたよ〜!!』
義勇さんは昨日の夜約1週間振りに任務から帰ってきていた。
お茶菓子に作ったおはぎを頬張る。
ちょ、いっぺんに入れすぎじゃないかな??
リスみたいになってるよ
・・・ちょっとかわいい
『午後の訓練の後に買い出しに行ってきますね。今日のご飯は何にしようかなぁ・・・』
冨「ふぁへふぁいほん」
『え?』
冨「・・・(ゴクン)鮭大根」
『それは・・・さすがに続き過ぎじゃ』
ていうか義勇さんからそのワード以外聞いたことないよ。。。
それしか食べちゃいけない呪いにでもかかってる??
冨「俺は美桜の作った鮭大根が食べたい」
『!!』
鱗「・・・・・・」
またそんな事言う・・・
真剣な顔で見つめられながら言われるとドキッとしてしまう。
まるで告白されてるみたいだ・・・
冨「・・・駄目か」
シュンと寂しそうに下を向いてしまう。
これは・・・
母性本能がくすぐられるよ!!
『〜〜ッ!分かりましたよ・・・』
義勇さん・・・
恐ろしい子!!!
冨「!!本当か?」
『はい・・・でも、今日作ったらしばらくはお休みです。いいですね?』
コクンと頷く。
素直!かわいい!!
歳上なのにかわいいってどうかと思うけど・・・
鱗「・・・・・・」
煉「おーい!冨岡はいるか!!」
『!!』
煉獄さんの声だ!!
思わず玄関へ小走りで向かう。
『杏寿郎さん!』
煉「美桜!久しぶりだな!!元気にしていたか?」
『はい。杏寿郎さんも、お変わりないですか?』
煉「ああ!俺は変わりない!!」
『そうですか』
煉「いや!!美桜の顔が見られたので余計元気になったぞ!!」
『・・・杏寿郎さん』
胸がトゥンクってなる!!
と、煉獄さんに見惚れていると
不「・・・なァ、俺帰っていいか?」
『!!さっ実弥さん!?』
いたの!?
まさか見られていたとは思わず顔の体温が急上昇する。
『めっ、珍しいですね!ハッ!もしかしておはぎの匂いに釣られて来ましたか?』
不「んな訳ねぇだろ!!・・・チッ、やっぱ帰るわァ」
煉「駄目だろう!大事な話をしに来たのだからな!」
『え・・・大事な話?』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『合同任務・・・杏寿郎さんと実弥さんと冨岡さんで?』
煉「うむ!ある村で人が次から次へと行方不明になっているらしい。今まで向かった隊士も一人として戻ってきていないのだ!」
冨「・・・・・・十二鬼月か」
不「その可能性が高ぇ。上弦って事も考えられるから柱を3人向かわせるんだとよ」
改めて3人の前にお茶とおはぎを置いて邪魔にならないように部屋の隅にいる鱗滝さんの隣に座って話を聞いていた。
『・・・・・・』
何だか聞いているだけで手に力が入る。
冨「・・・それで、いつ向かう?」
煉「明朝出発との事だ!」
不「お館様から村の地図を預かってきたから、これから早速作戦立てんぞォ」
『・・・・・・』
鱗「・・・美桜、道場に行くぞ。稽古再開だ」
『!! はっ、はい!』
部屋を出て道場へ向かう。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ヒュウウウウ・・・・
鱗「・・・・・・」
ーーー水の呼吸、壱の型、水面斬り!!ーーー
『ッ!出来たぁっ!ゴホッ!!』
初めて呼吸から型に移れた事に喜んだのも束の間、激しく咳き込む。
鱗滝さんに差し出された水を飲む。
『・・・ハァッ!鱗滝さん!型出来ました!!』
鱗「うむ・・・だが、腕が伸びきっていない。呼吸のまま型を完璧に出さないと意味がないぞ」
『・・・そっかぁ。ハァ・・・』
まだまだって事かぁ。
でも、少しずつだけど出来る様になってるって事だよね。
息を整えてから
『鱗滝さん、もう一度お願いします!!』
刀をしっかりと構え直す。
それから何度も何度も壱の型を繰り返した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
訓練を終え、着替えて部屋に戻ってもまだ3人は話し合いを続けていた。
・・・念入りに作戦を立てなきゃいけない程危険って事だよね・・・
お茶を淹れ直して、3人の前に置く。
煉「む!ありがとう!!」
不「悪ぃなァ」
『いえ・・・お話もう少しかかりそうですか?折角なのでお2人の夕食もご用意しますから食べて行ってくださいね』
冨「!!」
義勇さんが夕食に反応して顔を上げる。
『わかってますよ。鮭大根でしょ?』
冨「・・・」
コクンと頷く。
全くもう・・・仕方ないなぁ。
思わずフッと笑みが溢れる。
『じゃあ私、お買い物に行ってきますね』
そう言って部屋を後にする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
不「・・・案外ちゃんと訓練してんだなァ」
美桜が部屋を出て暫く、不死川がポツリと呟いた。
煉「うむ!流石は元水柱殿だな!!」
冨「・・・・・・」
俺も同意をすると、冨岡の口角が僅かに上がる。
不死川が何笑ってやがる!と辛辣な言葉を投げかける。
自分の師が褒められて嬉しいのだろう。
丁度、鱗滝殿が部屋に入ってきた。
煉「だが、よもや美桜に“全集中の呼吸、常中”を身に付けさせようとしているとは!」
不「ああ。会得するにはまだまだの様だがなァ」
鱗「・・・いや、儂は教えていない。そもそもそんな段階ですらないからな」
煉「?」
不「じゃあ何でアイツはさっきから全集中の呼吸してたんだァ?」
冨「・・・美桜が自分からやり始めたという事か・・・」
鱗「・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『・・・ふぅ。やっぱ疲れるなぁ』
そう。
今の環境で出来る事を考えた時
四六時中、全集中で呼吸をしてみよう!!
と思いついた。
だけど実際やってみると大変で、ちょっとでも気を抜くと呼吸が戻ってしまう。
今も全集中の呼吸で料理の真っ最中だ。
こんな事、意味あるのか分からないけど・・・
やらないよりはマシだよね。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
煉「美味い!!!」
不「・・・お前、一応人ん家だぞォ。静かに食え」
いつもの様に感想を言う煉獄さんを実弥さんが嗜める。
その横では、黙々と食べ続ける義勇さん。
『杏寿郎さん、おかわりありますから、沢山食べてくださいね。実弥さんも』
煉「うむ!ありがとう!!」
不「・・・あァ」
『ああもう、冨岡さんまたご飯粒つけて。ほらちゃんと拭いてください』
冨「・・・後で拭こうと」
『駄目です!お行儀悪いですよ』
煉「・・・・・・」
不「・・・・・・」
『? 何ですか??』
2人から視線を感じ首を傾げる。
不「いや・・・別に」
煉「それにしても、何故美桜達は違う献立なのだ?」
煉獄さんの指摘通り、私と鱗滝さんの盆には鮭の塩焼きが乗っている。
『ああ、これは・・・』
義勇さんが帰る度に同じ献立が続いているので、せめてもと同じ食材でも味付けを変えて出していた。
不「・・・冨岡ァ、ガキじゃねぇんだから我が儘言うなァ・・・」
煉「うむ!好物は分かるが流石に食べすぎだな!」
冨「・・・俺は美桜の作る鮭大根が食べたいだけだ」
『またそれですか・・・それって』
煉「どういう意味だ!!」
私の言葉に被せて煉獄さんが問いかける。
冨「・・・・・・」
不「チッ、またダンマリかよ」
『ま、まぁまぁ。ご飯は楽しく食べましょう?』
不穏な空気に耐えられず実弥さんの湯呑みにお茶を注ぎながらフォローを入れる。
明日から合同任務なんだから、チームワーク大事にして欲しいんだよなぁ・・・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
煉「ではまた明朝だな!!」
不「冨岡ァ、遅れんなよ」
食事が終わり、明日に備えて家に戻る2人を見送る。
『杏寿郎さん!実弥さんも・・・どうか、お気をつけて・・・』
煉「うむ!・・・!!」
不「!!・・・煉獄、俺は先に帰るぞ。じゃあな」
『??』
挨拶をして振り返った2人は一瞬目を見開く。
そして実弥さんは私の頭をポンポンして帰って行った。
煉獄さんは少し眉を下げてこちらを見ていた。
『?あの・・・ッ!?』
どうかしましたか?と聞こうとしたら煉獄さんの両手が伸びてきて顔を包まれた。
『ーーえ?うぇっ!?』
な、ななな何で急に!?
ここここここは冨岡さんの屋敷の玄関先ですよ何考えてるんですか鱗滝さんとか義勇さんとか寛三郎とかとかとかに見られたら
煉「・・・美桜を不安にさせてしまったな」
『・・・え?』
混乱していると煉獄さんの申し訳なさそうな声が聞こえ顔を上げる。
煉「・・・そんな顔をしないでくれ。俺達なら大丈夫だ!」
そう言って眉を撫でられる。
『あ・・・』
下がった眉を撫でられてようやく気付く。
そっか、心配が顔に出ちゃってたんだ。
いけない、煉獄さんを困らせちゃった・・・。
実弥さんにも気を遣わせてしまったな。
『ごめんなさい・・・皆が強いのは分かってるんですけど・・・』
煉「うむ。必ず任務を遂行して美桜の元へ戻ってくる!・・・待っていてくれるか?」
『・・・はい』
煉「よし!」
心配は消えないけど、煉獄さん達を信じる。
必ず帰って来てくれると。
煉獄さんは私の返事を聞くと笑って頭を撫でてくれる。
その手はそのまま頬まで降りてきて親指で唇をなぞられる。
煉「・・・・・・」
え・・・顔近づいてくるけど、こんな人の家の玄関先で??
嘘・・・
『ッ!・・・・・・』
触れるか触れないかの至近距離で煉獄さんの顔が止まる。
暫く見つめあっていると煉獄さんがフッと笑う。
煉「呼吸が戻ってしまっているぞ!」
『え・・・あっ!』
しまった。
煉獄さんに触れられてから混乱して呼吸の事もすっかり頭から抜けてしまってた。
・・・ていうか、私が全集中の呼吸をしてるのバレてたか。いや、バレるか。
『・・・やっぱり、早く力を身につけたいんです。そうしたら、夢の中の桜介もきっと振り返ってくれると思って』
桜介の事を早く思い出したい。
この前までの焦りはなくなったけど、強くなりたい思いは変わっていなかった。
煉「そうか。だが上達の速度には個人差があるからな!続けることは大切だが無理はいかんぞ!」
『・・・はい』
煉「では俺は俺のやるべき事をやってくる!」
『はい。いってらっしゃい。杏寿郎さん』
最後にもう一度頭を撫でて、煉獄さんは私から離れて行った。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『・・・・・・』
煉獄さんが帰った後も暫く全集中の呼吸が出来ずにいた。
触れられただけでこんなに動揺するなんて・・・少しは耐性ついてた筈なんだけどな。。。
『・・・駄目だ。少し風にあたろう』
縁側に腰掛けていると、お風呂上がりの義勇さんが歩いてきた。
冨「!・・・そんな所にいたら風邪をひくぞ」
『あ・・少し、顔が火照ってしまって。少ししたら部屋に戻ります。冨岡さんこそ、明日早いでしょう?早く休んでくださいね』
冨「・・・・・・」
『??』
義勇さんは私の隣で立ったまま黙っている。
お風呂上がりなんだから早く部屋に戻らないと私よりも先に風邪ひいちゃうよ?
『あの、冨岡さ・・・』
冨「何故急に名前で呼ばなくなった?」
『はぁ?』
問いかけてきた本人は庭の方に視線を向けたまま
冨「煉獄も不死川も下の名前で呼んでいるのに、何故俺だけ呼ばなくなった?」
視線が少し下がる。
口調も何だか拗ねているような感じだ。
『えっと、それは・・・』
等々力さんの手前、呼び方を変えてしまったとは言いにくく言葉に詰まってしまう。
冨「・・・俺が我が儘を言って困らせたから、怒っているのか・・・?」
『! 怒ってなんかないですよ!・・・ごめんなさい、そこまで気にしてるとは思ってなくて・・・義勇さん』
冨「・・・」
下の名前で呼びかけるとやっとこっちを見た。
そうだよね、急に呼び方がよそよそしくなったら良い気はしないよね
『他の人がいる前では冨岡さんって呼ぶ事もあると思いますが、別に怒ってる訳でも嫌いになったとかそういう訳でもないですから・・・』
冨「・・・そうか。良かった」
『?』
冨「美桜に嫌われると、俺は悲しい」
『!!』
ホントに今日はどうしちゃったの??
普段何を考えているのかよく分からないから、こんなにも自分の気持ちを言ってくれるのに吃驚する。
『そういえば・・・この前から言ってた“私の作った鮭大根が食べたい”って・・・あれ、何ですか??』
冨「・・・・・・」
あれ・・・黙っちゃった。
『あ・・・言いたくないなら別に・・・』
冨「同じだったんだ」
『・・・は?』
冨「・・・蔦子姉さんが作った鮭大根と同じ味だったんだ」
『え・・・』
そこから、ポツリポツリと話してくれた。
祝言を挙げる前日に鬼に襲われたこと。
お姉さんが義勇さんを庇い鬼に命を奪われたこと。
そして、私が作った鮭大根がそのお姉さんが作る味ととても似ていたことを。
・・・他の料理はそう似ていないらしいこと。
『そっか、だから・・・』
懐かしいお姉さんの味を求めていたんだ。
ここの所の鮭大根地獄に納得してしまう。
そして、今日義勇さんが何だか放っておけない感じになっていたのは、知らず知らず姉目線になっていたのかもしれない。
いや私の方が歳下の筈なんだけども。
・・・と思っていると義勇さんがくしゃみをする。
『ああ、お風呂上がりにこんな格好でいるから・・・髪もまだ濡れてるじゃないですか!』
冨「髪は自然に乾く」
『駄目に決まってるでしょう?明日からまた任務なんですから、ちゃんと乾かします!こっちに来てください!!』
冨「・・・・・・」
義勇さんを強引に引っ張って部屋に戻り、髪の毛を乾かしてあげてから寝かせた。
私は世話を焼きながら、懐かしい気持ちが込み上げて来ていた。
桜介にも、こんなふうに世話を焼いていたのかな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『いってらっしゃい。忘れ物はないですね?』
冨「ああ・・・」
『はい、これ。おにぎりです。道中3人で食べてください。』
冨「ああ・・・」
『あと、実弥さんと喧嘩して杏寿郎さんを困らさないでくださいね。それから・・・』
鱗「美桜。その辺で勘弁してやれ」
『!ごめんなさい・・・』
ついつい、弟への対応をしてしまった。
義勇さんは固まっている。
『気をつけて、行ってきてください』
鱗「油断するなよ」
冨「はい。では行って参ります」
義勇さんを見送って、部屋に戻るため廊下を歩きながら鱗滝さんへ話しかける。
『鱗滝さん、折角いつもより早く起きられたので今から稽古をつけてくれませんか?』
鱗「・・・いや、今日は稽古は無しだ」
『え・・・』
何故?と問いかけようとすると、鱗滝さんがこちらへ振り返る。
鱗「・・・家を空けて暫く経ってしまった。一度戻って掃除などをしなければならない」
『・・・そうですか・・・分かりました。いってらっしゃいませ』
稽古を見てもらえないのはとても残念だけど、鱗滝さんの都合もあるから仕方ない。
鱗「・・・美桜にも来て手伝って欲しいのだが?」
『えっ!それって・・・』
鱗「狭霧山に行くぞ。準備しろ」
『・・・!はい!!!』
急展開に頭の処理が追いつかず、遅れて返事をして慌てて準備に取り掛かった。
ーーー水の呼吸、壱の型、水面斬・・・ーーー
『!!・・・・・・ッハァッハァッ!!』
駄目だ・・・
まだ全集中の呼吸を使いながら型に移ろうとするだけですぐに息が乱れる。
今はド早朝。
私は道場で1人自主訓練をしていた。
『・・・やっぱり肺活量の問題なのかな・・・』
ーーー気合いが足んないのよ!四六時中呼吸の事だけ考えてなさい!!ーーー
『・・・四六時中考えてるのになぁ』
考えているだけじゃ駄目なのか。
ハァッとため息がこぼれる。
一度だけ、鱗滝さんにお願いした事がある。
ーー『お願いします!私も狭霧山で修行させてください!』
鱗「・・・駄目だ。美桜には危険すぎる」
そう言って却下されてしまった。
普段の特訓だって怪我させないように気遣われているのが分かる。
初日の怪我は私の不注意だったのにあの後すごく落ち込んでたし・・・
鬼殺隊の重要人物だから、大事にされているのだろうけど・・・
『今の環境で、できる事を考えないとな・・・・・・あ!』
ある事を思いついた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『鱗滝さーん!冨岡さーん!お茶が入りましたよ〜!!』
義勇さんは昨日の夜約1週間振りに任務から帰ってきていた。
お茶菓子に作ったおはぎを頬張る。
ちょ、いっぺんに入れすぎじゃないかな??
リスみたいになってるよ
・・・ちょっとかわいい
『午後の訓練の後に買い出しに行ってきますね。今日のご飯は何にしようかなぁ・・・』
冨「ふぁへふぁいほん」
『え?』
冨「・・・(ゴクン)鮭大根」
『それは・・・さすがに続き過ぎじゃ』
ていうか義勇さんからそのワード以外聞いたことないよ。。。
それしか食べちゃいけない呪いにでもかかってる??
冨「俺は美桜の作った鮭大根が食べたい」
『!!』
鱗「・・・・・・」
またそんな事言う・・・
真剣な顔で見つめられながら言われるとドキッとしてしまう。
まるで告白されてるみたいだ・・・
冨「・・・駄目か」
シュンと寂しそうに下を向いてしまう。
これは・・・
母性本能がくすぐられるよ!!
『〜〜ッ!分かりましたよ・・・』
義勇さん・・・
恐ろしい子!!!
冨「!!本当か?」
『はい・・・でも、今日作ったらしばらくはお休みです。いいですね?』
コクンと頷く。
素直!かわいい!!
歳上なのにかわいいってどうかと思うけど・・・
鱗「・・・・・・」
煉「おーい!冨岡はいるか!!」
『!!』
煉獄さんの声だ!!
思わず玄関へ小走りで向かう。
『杏寿郎さん!』
煉「美桜!久しぶりだな!!元気にしていたか?」
『はい。杏寿郎さんも、お変わりないですか?』
煉「ああ!俺は変わりない!!」
『そうですか』
煉「いや!!美桜の顔が見られたので余計元気になったぞ!!」
『・・・杏寿郎さん』
胸がトゥンクってなる!!
と、煉獄さんに見惚れていると
不「・・・なァ、俺帰っていいか?」
『!!さっ実弥さん!?』
いたの!?
まさか見られていたとは思わず顔の体温が急上昇する。
『めっ、珍しいですね!ハッ!もしかしておはぎの匂いに釣られて来ましたか?』
不「んな訳ねぇだろ!!・・・チッ、やっぱ帰るわァ」
煉「駄目だろう!大事な話をしに来たのだからな!」
『え・・・大事な話?』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『合同任務・・・杏寿郎さんと実弥さんと冨岡さんで?』
煉「うむ!ある村で人が次から次へと行方不明になっているらしい。今まで向かった隊士も一人として戻ってきていないのだ!」
冨「・・・・・・十二鬼月か」
不「その可能性が高ぇ。上弦って事も考えられるから柱を3人向かわせるんだとよ」
改めて3人の前にお茶とおはぎを置いて邪魔にならないように部屋の隅にいる鱗滝さんの隣に座って話を聞いていた。
『・・・・・・』
何だか聞いているだけで手に力が入る。
冨「・・・それで、いつ向かう?」
煉「明朝出発との事だ!」
不「お館様から村の地図を預かってきたから、これから早速作戦立てんぞォ」
『・・・・・・』
鱗「・・・美桜、道場に行くぞ。稽古再開だ」
『!! はっ、はい!』
部屋を出て道場へ向かう。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ヒュウウウウ・・・・
鱗「・・・・・・」
ーーー水の呼吸、壱の型、水面斬り!!ーーー
『ッ!出来たぁっ!ゴホッ!!』
初めて呼吸から型に移れた事に喜んだのも束の間、激しく咳き込む。
鱗滝さんに差し出された水を飲む。
『・・・ハァッ!鱗滝さん!型出来ました!!』
鱗「うむ・・・だが、腕が伸びきっていない。呼吸のまま型を完璧に出さないと意味がないぞ」
『・・・そっかぁ。ハァ・・・』
まだまだって事かぁ。
でも、少しずつだけど出来る様になってるって事だよね。
息を整えてから
『鱗滝さん、もう一度お願いします!!』
刀をしっかりと構え直す。
それから何度も何度も壱の型を繰り返した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
訓練を終え、着替えて部屋に戻ってもまだ3人は話し合いを続けていた。
・・・念入りに作戦を立てなきゃいけない程危険って事だよね・・・
お茶を淹れ直して、3人の前に置く。
煉「む!ありがとう!!」
不「悪ぃなァ」
『いえ・・・お話もう少しかかりそうですか?折角なのでお2人の夕食もご用意しますから食べて行ってくださいね』
冨「!!」
義勇さんが夕食に反応して顔を上げる。
『わかってますよ。鮭大根でしょ?』
冨「・・・」
コクンと頷く。
全くもう・・・仕方ないなぁ。
思わずフッと笑みが溢れる。
『じゃあ私、お買い物に行ってきますね』
そう言って部屋を後にする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
不「・・・案外ちゃんと訓練してんだなァ」
美桜が部屋を出て暫く、不死川がポツリと呟いた。
煉「うむ!流石は元水柱殿だな!!」
冨「・・・・・・」
俺も同意をすると、冨岡の口角が僅かに上がる。
不死川が何笑ってやがる!と辛辣な言葉を投げかける。
自分の師が褒められて嬉しいのだろう。
丁度、鱗滝殿が部屋に入ってきた。
煉「だが、よもや美桜に“全集中の呼吸、常中”を身に付けさせようとしているとは!」
不「ああ。会得するにはまだまだの様だがなァ」
鱗「・・・いや、儂は教えていない。そもそもそんな段階ですらないからな」
煉「?」
不「じゃあ何でアイツはさっきから全集中の呼吸してたんだァ?」
冨「・・・美桜が自分からやり始めたという事か・・・」
鱗「・・・・・・」
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『・・・ふぅ。やっぱ疲れるなぁ』
そう。
今の環境で出来る事を考えた時
四六時中、全集中で呼吸をしてみよう!!
と思いついた。
だけど実際やってみると大変で、ちょっとでも気を抜くと呼吸が戻ってしまう。
今も全集中の呼吸で料理の真っ最中だ。
こんな事、意味あるのか分からないけど・・・
やらないよりはマシだよね。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
煉「美味い!!!」
不「・・・お前、一応人ん家だぞォ。静かに食え」
いつもの様に感想を言う煉獄さんを実弥さんが嗜める。
その横では、黙々と食べ続ける義勇さん。
『杏寿郎さん、おかわりありますから、沢山食べてくださいね。実弥さんも』
煉「うむ!ありがとう!!」
不「・・・あァ」
『ああもう、冨岡さんまたご飯粒つけて。ほらちゃんと拭いてください』
冨「・・・後で拭こうと」
『駄目です!お行儀悪いですよ』
煉「・・・・・・」
不「・・・・・・」
『? 何ですか??』
2人から視線を感じ首を傾げる。
不「いや・・・別に」
煉「それにしても、何故美桜達は違う献立なのだ?」
煉獄さんの指摘通り、私と鱗滝さんの盆には鮭の塩焼きが乗っている。
『ああ、これは・・・』
義勇さんが帰る度に同じ献立が続いているので、せめてもと同じ食材でも味付けを変えて出していた。
不「・・・冨岡ァ、ガキじゃねぇんだから我が儘言うなァ・・・」
煉「うむ!好物は分かるが流石に食べすぎだな!」
冨「・・・俺は美桜の作る鮭大根が食べたいだけだ」
『またそれですか・・・それって』
煉「どういう意味だ!!」
私の言葉に被せて煉獄さんが問いかける。
冨「・・・・・・」
不「チッ、またダンマリかよ」
『ま、まぁまぁ。ご飯は楽しく食べましょう?』
不穏な空気に耐えられず実弥さんの湯呑みにお茶を注ぎながらフォローを入れる。
明日から合同任務なんだから、チームワーク大事にして欲しいんだよなぁ・・・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
煉「ではまた明朝だな!!」
不「冨岡ァ、遅れんなよ」
食事が終わり、明日に備えて家に戻る2人を見送る。
『杏寿郎さん!実弥さんも・・・どうか、お気をつけて・・・』
煉「うむ!・・・!!」
不「!!・・・煉獄、俺は先に帰るぞ。じゃあな」
『??』
挨拶をして振り返った2人は一瞬目を見開く。
そして実弥さんは私の頭をポンポンして帰って行った。
煉獄さんは少し眉を下げてこちらを見ていた。
『?あの・・・ッ!?』
どうかしましたか?と聞こうとしたら煉獄さんの両手が伸びてきて顔を包まれた。
『ーーえ?うぇっ!?』
な、ななな何で急に!?
ここここここは冨岡さんの屋敷の玄関先ですよ何考えてるんですか鱗滝さんとか義勇さんとか寛三郎とかとかとかに見られたら
煉「・・・美桜を不安にさせてしまったな」
『・・・え?』
混乱していると煉獄さんの申し訳なさそうな声が聞こえ顔を上げる。
煉「・・・そんな顔をしないでくれ。俺達なら大丈夫だ!」
そう言って眉を撫でられる。
『あ・・・』
下がった眉を撫でられてようやく気付く。
そっか、心配が顔に出ちゃってたんだ。
いけない、煉獄さんを困らせちゃった・・・。
実弥さんにも気を遣わせてしまったな。
『ごめんなさい・・・皆が強いのは分かってるんですけど・・・』
煉「うむ。必ず任務を遂行して美桜の元へ戻ってくる!・・・待っていてくれるか?」
『・・・はい』
煉「よし!」
心配は消えないけど、煉獄さん達を信じる。
必ず帰って来てくれると。
煉獄さんは私の返事を聞くと笑って頭を撫でてくれる。
その手はそのまま頬まで降りてきて親指で唇をなぞられる。
煉「・・・・・・」
え・・・顔近づいてくるけど、こんな人の家の玄関先で??
嘘・・・
『ッ!・・・・・・』
触れるか触れないかの至近距離で煉獄さんの顔が止まる。
暫く見つめあっていると煉獄さんがフッと笑う。
煉「呼吸が戻ってしまっているぞ!」
『え・・・あっ!』
しまった。
煉獄さんに触れられてから混乱して呼吸の事もすっかり頭から抜けてしまってた。
・・・ていうか、私が全集中の呼吸をしてるのバレてたか。いや、バレるか。
『・・・やっぱり、早く力を身につけたいんです。そうしたら、夢の中の桜介もきっと振り返ってくれると思って』
桜介の事を早く思い出したい。
この前までの焦りはなくなったけど、強くなりたい思いは変わっていなかった。
煉「そうか。だが上達の速度には個人差があるからな!続けることは大切だが無理はいかんぞ!」
『・・・はい』
煉「では俺は俺のやるべき事をやってくる!」
『はい。いってらっしゃい。杏寿郎さん』
最後にもう一度頭を撫でて、煉獄さんは私から離れて行った。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『・・・・・・』
煉獄さんが帰った後も暫く全集中の呼吸が出来ずにいた。
触れられただけでこんなに動揺するなんて・・・少しは耐性ついてた筈なんだけどな。。。
『・・・駄目だ。少し風にあたろう』
縁側に腰掛けていると、お風呂上がりの義勇さんが歩いてきた。
冨「!・・・そんな所にいたら風邪をひくぞ」
『あ・・少し、顔が火照ってしまって。少ししたら部屋に戻ります。冨岡さんこそ、明日早いでしょう?早く休んでくださいね』
冨「・・・・・・」
『??』
義勇さんは私の隣で立ったまま黙っている。
お風呂上がりなんだから早く部屋に戻らないと私よりも先に風邪ひいちゃうよ?
『あの、冨岡さ・・・』
冨「何故急に名前で呼ばなくなった?」
『はぁ?』
問いかけてきた本人は庭の方に視線を向けたまま
冨「煉獄も不死川も下の名前で呼んでいるのに、何故俺だけ呼ばなくなった?」
視線が少し下がる。
口調も何だか拗ねているような感じだ。
『えっと、それは・・・』
等々力さんの手前、呼び方を変えてしまったとは言いにくく言葉に詰まってしまう。
冨「・・・俺が我が儘を言って困らせたから、怒っているのか・・・?」
『! 怒ってなんかないですよ!・・・ごめんなさい、そこまで気にしてるとは思ってなくて・・・義勇さん』
冨「・・・」
下の名前で呼びかけるとやっとこっちを見た。
そうだよね、急に呼び方がよそよそしくなったら良い気はしないよね
『他の人がいる前では冨岡さんって呼ぶ事もあると思いますが、別に怒ってる訳でも嫌いになったとかそういう訳でもないですから・・・』
冨「・・・そうか。良かった」
『?』
冨「美桜に嫌われると、俺は悲しい」
『!!』
ホントに今日はどうしちゃったの??
普段何を考えているのかよく分からないから、こんなにも自分の気持ちを言ってくれるのに吃驚する。
『そういえば・・・この前から言ってた“私の作った鮭大根が食べたい”って・・・あれ、何ですか??』
冨「・・・・・・」
あれ・・・黙っちゃった。
『あ・・・言いたくないなら別に・・・』
冨「同じだったんだ」
『・・・は?』
冨「・・・蔦子姉さんが作った鮭大根と同じ味だったんだ」
『え・・・』
そこから、ポツリポツリと話してくれた。
祝言を挙げる前日に鬼に襲われたこと。
お姉さんが義勇さんを庇い鬼に命を奪われたこと。
そして、私が作った鮭大根がそのお姉さんが作る味ととても似ていたことを。
・・・他の料理はそう似ていないらしいこと。
『そっか、だから・・・』
懐かしいお姉さんの味を求めていたんだ。
ここの所の鮭大根地獄に納得してしまう。
そして、今日義勇さんが何だか放っておけない感じになっていたのは、知らず知らず姉目線になっていたのかもしれない。
いや私の方が歳下の筈なんだけども。
・・・と思っていると義勇さんがくしゃみをする。
『ああ、お風呂上がりにこんな格好でいるから・・・髪もまだ濡れてるじゃないですか!』
冨「髪は自然に乾く」
『駄目に決まってるでしょう?明日からまた任務なんですから、ちゃんと乾かします!こっちに来てください!!』
冨「・・・・・・」
義勇さんを強引に引っ張って部屋に戻り、髪の毛を乾かしてあげてから寝かせた。
私は世話を焼きながら、懐かしい気持ちが込み上げて来ていた。
桜介にも、こんなふうに世話を焼いていたのかな。
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『いってらっしゃい。忘れ物はないですね?』
冨「ああ・・・」
『はい、これ。おにぎりです。道中3人で食べてください。』
冨「ああ・・・」
『あと、実弥さんと喧嘩して杏寿郎さんを困らさないでくださいね。それから・・・』
鱗「美桜。その辺で勘弁してやれ」
『!ごめんなさい・・・』
ついつい、弟への対応をしてしまった。
義勇さんは固まっている。
『気をつけて、行ってきてください』
鱗「油断するなよ」
冨「はい。では行って参ります」
義勇さんを見送って、部屋に戻るため廊下を歩きながら鱗滝さんへ話しかける。
『鱗滝さん、折角いつもより早く起きられたので今から稽古をつけてくれませんか?』
鱗「・・・いや、今日は稽古は無しだ」
『え・・・』
何故?と問いかけようとすると、鱗滝さんがこちらへ振り返る。
鱗「・・・家を空けて暫く経ってしまった。一度戻って掃除などをしなければならない」
『・・・そうですか・・・分かりました。いってらっしゃいませ』
稽古を見てもらえないのはとても残念だけど、鱗滝さんの都合もあるから仕方ない。
鱗「・・・美桜にも来て手伝って欲しいのだが?」
『えっ!それって・・・』
鱗「狭霧山に行くぞ。準備しろ」
『・・・!はい!!!』
急展開に頭の処理が追いつかず、遅れて返事をして慌てて準備に取り掛かった。