寸進と弟
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宇「なぁ、嫁達が美桜の訓練が一時中断になったって騒いでたんだけど?」
任務先で合流した宇髄の第一声がそれだった。
経緯を話すと
宇「はぁーん、成程ねぇ・・・じゃあ今は冨岡ん所にいるのか。」
煉「うむ!必ず呼吸を物にして見せると張り切って行ったぞ!」
宇「しかし、よく他の男の所に行かせたなぁ」
独占欲の塊の様なお前が
と余計な一言を付け加える。
煉「うむ!冨岡は信頼出来る男だ!君とは違ってな!!」
こちらも負けじと応酬する。
蜜「・・・でも、それだと呼吸が使える様になるまで美桜ちゃんは帰ってこないんですか?」
淋しいですね
と、甘露寺が素直な感想を漏らす。
煉「うむ・・・そうだな」
甘露寺の言葉に同意はしたものの、そこまで時間はかからないだろうと確信に近いものを感じていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『義勇さんが帰ってくるんですか?』
鱗「その様だな」
訓練が始まって3日目。
その間義勇さんはずっと任務に出て不在だった。
さっき、鴉が任務を終えて戻る事を伝えに来たらしい。
そっか。
じゃあ今夜は3人分の食事を用意しないとね。
『・・・あ!』
鱗「?」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
冨「ただいま戻りました」
義勇さんがお屋敷に戻ってきて鱗滝さんに挨拶をする。
鱗「ああ。無事で何よりだ」
『義勇さん、おかえりなさい』
冨「・・・訓練はどうだ?」
『ええ・・・まだまだですが、毎日鱗滝さんに鍛えてもらってます!』
冨「そうか・・・」
『それより、お疲れでしょう?お食事出来てますから食べましょう』
居間に入り、出来上がった食事を見た義勇さんが固まる。
冨「・・・何故」
『あれ、好物でしたよね?』
食卓に並んでいたのは鮭大根。
以前、義勇さんにご馳走になった事があるし、今度機会があれば作ると約束していたのだ。
冨「覚えていたのか・・・」
『?当たり前じゃないですか。』
約束してから随分時間経っちゃったからなぁ。
あれから義勇さんが煉獄さんのお家に来る事もなかったし、作る機会がなかったのだ。
冨「・・・!!」
一口食べた義勇さんはまた固まる。
『あ、あの・・・お口に合わなかったですか・・・??』
いつも煉獄さんは食べてすぐ感想を言ってくれるし、ここまで黙られると心配になる。
冨「・・・いや・・・美味い」
『!!本当ですか??良かったぁ〜』
やっぱり人に手料理を食べさせるのって緊張するなぁ・・・
鱗「・・・義勇。例の子供達だが無事に選抜を突破し兄は鬼殺隊士になったぞ」
冨「! そうですか。・・・妹の方は?」
鱗「ああ・・・変わらずだ。今の所はな」
冨「そう、ですか・・・」
鱗「お館様へは既に文を飛ばしてある。」
冨「わかりました」
『・・・・・・??』
何の話をしているのか気になったけど、気安く聞ける様な雰囲気ではなかったので私は黙ってお味噌汁を啜っていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『・・・ふぅ。』
一日を終え、お風呂で汗を流す。
この3日間で呼吸の仕方はだいぶ分かってきた。
・・・けど、すぐに息切れしてしまう。
ーうむ!驚くほどに持久力がないな!!ー
『・・・・・・』
いつかの煉獄さんの幻聴が聞こえてきた。
でも、飲み込みは早い方だって鱗滝さん褒めてくれたし・・・
ーああ!だがそれを持続する力がない!ー
『・・・ですよね・・・』
がっくりと項垂れる。
『持続する力、かぁ・・・』
お風呂場の格子窓から空を見上げる。
煉獄さんは今、どこにいるのかな・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
煉「今だ!行け甘露寺!!」
蜜「はっはい!!」
ー恋の呼吸、壱の型、初恋のわななきー
・ ・ ・ ・ ・
煉獄の合図で甘露寺が飛び込み鬼を斬った。
流石、師弟だった事もあり息が合っているな。
宇「よっしゃ!任務完了だな!!」
煉「うむ!甘露寺、良くやったな!もうすっかり一人前だ!!」
蜜「そっそんな!私なんてまだまだ・・・(キャーッ煉獄さんに褒められちゃったわ!)」
宇「追加の任務も無さそうだな。そうだ、帰りついでに美桜の様子でも見に行くか?」
蜜「あっ!私も久しぶりに美桜ちゃんの顔を見たいです!!煉獄さんも、行きますよね?」
煉「いや・・・俺は遠慮しておこう」
宇蜜「「!?」」
あの煉獄が遠慮!?
美桜の事は全力で応援している!
俺も行こう!!
という言葉を想像していたが見事に裏切られた。
普段じゃ考えられない反応だ。
宇「おい、ちょっとこっち来い」
ガシッと煉獄の肩に腕を回して人気のない場所まで連れて行く。
煉「何だ?」
宇「お前・・・美桜と何かあった?」
煉「!・・・何のことだ?」
馬鹿正直な奴だ。
普段どこを見ているか判りづらい瞳が揺れてよりそれが強調されている。
宇「そうか・・・お前もついに手を出したか」
煉「!!」
煉獄がバッとこちらを見る。
揶揄い半分のつもりだったが・・・
宇「え、マジで??」
煉「いや!違う!!手など出してはいない!!」
宇「馬鹿!声でかいわ!!」
わざわざ人気のない場所まで連れてきてやった俺の好意を無駄にする声量で否定する。
宇「・・・じゃあ何だ。喧嘩でもしたのか?」
煉「喧嘩もしていない!・・・だが、俺は少し頭を冷やさないといけない!だから今回は遠慮する!」
宇「・・・・・・」
詳しい事情はよく分からねえが要するに顔を合わせづらいと。
なんつーか、こいつは・・・
宇「お前ってホント頑固でくそ真面目だよな」
煉「む、そうか?ありがとう!!」
いや褒めてねえよ!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『よし!洗濯終わりっ!!』
パンっと最後の手ぬぐいのシワを伸ばして干す。
『さて、次は・・・』
鴉「カアッ!」
『あれ・・・寛三郎??』
義勇さんの鴉が縁側に降りてきた。
足に文がくくりつけてあった。
『どうしたんだろ・・・鱗滝さんにかな?』
寛三郎に問いかけたけれど答えはなく、そのまま飛んでいってしまった。
『えぇ、ちょっと・・・宛名もないや』
仕方ないので、鱗滝さんの元へ持っていく事にする。
『鱗滝さん。義勇さんからお手紙みたいなんですけど・・・宛名が無くて』
鱗「そうか。どれ・・・・・・」
手紙を開いた鱗滝さんは無言になる。
何か、大変な事が書いてあったのかな・・・
固唾を飲んで見守っていると、目の前に手紙が差し出された。
『えっ・・・見てもいいんですか?』
鱗「これは美桜宛だ」
『わ、私に?』
何だろ・・・
戸惑いながらも手紙を開く。
『・・・・・・』
ー予定より早く任務を終えたのでこれから戻る。明日には屋敷に着くだろうー
ー鮭大根が食べたいー
『え・・・鮭大根??』
鱗「随分気に入った様だな」
鱗滝さんもため息混じりだ。
まさか夕飯のリクエストを手紙でもらうなんて思っても見なかったよ。。。
しかもつい最近食べたばかりのものを。
義勇さんってやっぱり不思議な人・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、午後の訓練を終えてから町に買い出しに来た。
鮭も大根も切らしていたからね・・・
荷物持ちにと鱗滝さんも一緒に来てくれた。
『そういえば、鱗滝さんはどうして山に住んでいるんですか??』
鱗「・・・静かで落ち着くというのもあるが、呼吸を教えるのには適した環境だからだ」
『山が・・・ですか?』
鱗「狭霧山は標高が高く空気が薄いから心臓に負担がかかる。その中で鍛える事でより強い呼吸を身につける事ができる。」
『そうなんですか・・・じゃあ、私も狭霧山で修行したかったなぁ』
鱗「何故だ?」
『えっ?』
鱗「美桜は鬼殺隊士になりたい訳ではないのだろう?呼吸を覚えるのも自分の身を守るためと聞いているが?」
・・・過酷な訓練は必要ないと。
『そうですね・・・。 っ!?』
鱗「・・・先日から気になっていたのだが、何故そこまで強さを求める?」
・・・・・・
鱗「美桜?」
・・・・・・
鱗「・・・どこへ行った!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『む〜っ!む〜っ!!』
鱗滝さんの少し後ろを歩いていた私は後ろから急に口を塞がれ引き摺られるように歩いていた。
『・・・・・・ぷはっ。ッ!?』
路地裏まで来ると塞がれていた口が解放される。
そして両肩を掴まれ壁にドンされた。
私を連れ去った人物を初めて正面から捉え、その正体に驚いた。
『え・・・等々力さん??』
等「・・・・・・」
等々力さんは黙ったまま私を睨みつけている。
・・・美少女の怒った顔って迫力あるなぁ
『あ、あの・・・?』
等「どういうつもりなの?」
『はい??』
等「あなたは煉獄様の婚約者なんでしょ!?今度は冨岡様にまで手を出すってどう言うつもりなのかって聞いてるのよ!!」
『手を出すって・・・』
言い方!!
『私はただ、呼吸を教わっているだけで・・』
等「なによ!何で冨岡様なのよ!!水の呼吸の使い手なんていくらでもいるでしょ?」
『そ、それは・・・義勇さんが・・』
等「義勇さん!?」
『あっ、とと冨岡さんが、悲鳴嶼さんに指示されたと言うか・・・それで・・』
等々力さんは今は義勇さんに夢中だって前にしのぶさん達が言ってたのを思い出す。
そうだよね、自分の好きな人が他の女の人と一緒にいるなんて嫌だよね・・・
それにしても・・・
『・・・等々力さん、なんか雰囲気変わりましたよね?』
等「・・・私は元々こういう性格なの」
アナタ相手に猫被る必要ないでしょ?
とフイとソッポを向いてしまう。
『そ、そうですか・・・』
鱗「美桜!」
『あっ、鱗滝さん』
そこに鱗滝さんが走ってきた。
鱗「急に姿を消すから心配したぞ」
『ご、ごめんなさい・・・』
等「誰よ、この天狗おじさん」
『義・・・と、冨岡さんのお師匠様の鱗滝さんです』
等「!」
天狗おじさんって・・・
鱗「・・・美桜の知り合いか?」
『あ、その・・』
等「はい!美桜ちゃんの“お友達”の等々力神奈ですぅ」
『!?』
お友達!?
鱗「・・そうか。美桜、そろそろ義勇が戻ってくる頃だろう。買い物を済ませて帰るぞ」
『は、はい。そうですね・・食事の支度もありますし・・』
等「美桜ちゃん!!」
『は、はい?』
等「美桜ちゃん、訓練で疲れてるでしょう?私も手伝ってあげる!」
『えっ、ええっ!?』
等「“お友達”だもの。ね!」
ズズイッと顔を近づけてくる等々力さん。
笑顔の圧!!
どうしたら良いのか困って鱗滝さんの顔(面)を伺うと、鱗滝さんも戸惑った様子だったが頷いてくれた。
『じゃ、じゃあお願いしようかな・・・』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
等「何で鮭大根なのよ。折角なんだからもっとお洒落な料理にしない?」
『・・冨岡さんの好物なので・・・。楽しみに帰ってくるみたいだし・・』
正直私も鱗滝さんも鮭大根は飽きていたから違う料理にしたかったけど、リクエストされてしまったら作る他ない。
等「! そういう事は先に言っといてよね!!」
等々力さんは以前と口調が変わったものの、やっぱり可愛いなぁ。
義勇さんの好物を知れてどこか嬉しそうだった。
『等々力さんは本当に冨岡さんの事が好きなんですね』
等「!・・・移り気だって言いたいんでしょ?」
『いや、別にそんなつもりじゃ』
等「ついこの間まで煉獄様だったのにって思ってるんでしょ?」
『そ、それは・・・』
等「別にいいのよ。他の隊士や隠が私の事どう思ってるか分かってるから」
男目当てで鬼殺隊士になった変わり者だってね
『・・・』
等々力さんは全く気にもしてない素振りをする。
でも・・・
『・・・でも、鬼に対して本気で立ち向かってますよね』
等「!」
『浮ついた気持ちだけでそこまで出来ないと思います。戦っている時の等々力さんは強くて格好良かったです。』
羨ましいくらいに。
等「・・・・・・」
それから暫くはお互い黙ったまま、料理を作る音だけが厨房に響いていた。
沈黙を破ったのは等々力さんだった。
等「・・・私が鬼殺隊に入ったのは・・・」
『・・・』
等「当時、お付き合いしていた人と一緒にいる所を鬼に襲われて・・」
『え・・・』
等「女好きの鬼で、私の方に襲いかかってきたの。そうしたら、あの人は・・・」
ー私を置き去りに走って逃げたの
『!』
等「運良く、鬼殺隊士が現れて助けて貰えたけどね。怪我をしてたからしばらくの間入院して、やっと退院できて彼に会いに行ったの」
でも、その彼には既に新しい女性がいたの。
等「私は死んだものと思ってたみたいね。白状だと思わない?」
その時に決めた。
自分も強くなる。
そして強い人と一緒になって、逃げ出したあの人を見返してやるんだって。
等「・・・馬鹿馬鹿しい理由でしょ?」
そう言って自嘲気味に笑う。
『・・・命を賭ける理由に馬鹿馬鹿しいなんてないです』
等「・・・今の話、誰にも言わないでよね」
『・・・はい』
そしてまた2人とも黙ったまま料理を再開した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
冨「ただいま戻りまし」
等「おかえりなさい!冨岡様!!」
冨「!?・・・何故、ここに・・?」
帰ってきた義勇さんは等々力さんの登場に酷く驚いた様子だ。
まぁそうだよね。
等「“お友達”の美桜ちゃんのお手伝いに来ました」
冨「・・・・・・」
義勇さんはこちらを向いて、そうなのか?という目をしている。
『あ、はい・・・お夕飯の支度を手伝ってくれて助かりました!』
これは本当。
実際等々力さんは料理の手際が良くて助かった。1人だったら義勇さんが帰ってくるまでに支度が終わらなかっただろう。
冨「・・・そうか」
そして、義勇さん、鱗滝さん、等々力さん、私と不思議な面子で食卓についた。
よっぽど楽しみにしていたのか、義勇さんはホクホクした顔をしている。
普段表情が変わらないからとても新鮮だなぁ。
そして一口食べる。
冨「! ・・・・・・」
そして固まる。
等「あ、あの・・・美味しくないですか??」
等々力さんが心配そうに覗き込む。
冨「・・・いや、美味い・・・」
等「良かった!私が味付けしたので、お口に合わなかったらどうしようかと思いました」
美味しいと言われ安堵の表情を浮かべる。
冨「・・・・・・」
食事が終わり、後片付けまで手伝ってくれて等々力さんは帰っていった。
帰る直前には
『今日はお料理のお手伝いありがとうございました』
等「・・・別に、あなたの為じゃないし。いいから、さっさと呼吸を身に付けて冨岡様から離れてよね!!」
『う・・・はい。でも中々難しくて・・・』
等「気合いが足んないのよ!四六時中呼吸の事だけ考えてなさい!間違っても冨岡様に色目を使わない事!!」
と、釘を刺された。
『・・・四六時中、呼吸の事だけ・・・』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
等々力さんを見送って家の中に入ると義勇さんが立っていた。
『あれ、どうしたんですか?冨岡さん』
冨「!!?」
名前を呼ぶと驚いた表情をする。
『? お茶でも淹れますか?』
冨「・・・ああ」
縁側に座って2人でお茶を飲んでいる。
『冨岡さん、明日は任務ですか?』
冨「いや・・・」
『そうですか!では明日はゆっくりして下さいね。明日のご飯は何がいいですか?』
冨「・・・鮭大根」
『っ!?ごほっ!!』
思わずむせてしまう。
『な・・・またですか??流石にそれは・・・』
今日食べたばっかりだし・・・
冨「違う」
『え、違うって・・・?』
何が?
と義勇さんの方を向くと、真っ直ぐにこちらを向いていた。
冨「俺は、美桜の作った鮭大根が食べたい」
え?
『それってどういう・・・』
宇「はぁーーーーーー!?冨岡テメェ何言ってんだ!!」
冨「!?」
『!?』
え、何で??
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
宇髄さんがあらわれた!
しかも庭の植え込みから。
冨「・・・何故俺の家の庭に宇髄がいるんだ?」
ごもっとも!!
宇「そんな事はどーだっていいんだよ」
いや良くないよ。
下手したら通報レベルですよ?
そして、よく見たら蜜璃ちゃんまでいる。
蜜璃ちゃんはエヘヘ・・・と舌をペロッと出して出てきた。
可愛い!!蜜璃ちゃんはきっと許される!!
宇「任務帰りに美桜の様子を見にきたんだよ。てゆーかお前何ちゃっかり美桜を口説いてんだよ」
冨「口説いてなどいない。俺は美桜が作った鮭大根が食べたいと言っただけだ」
宇「だからそれが口説き文句なんだっつーの!煉獄来なくて良かったわ!」
『え、杏寿郎さんも一緒だったんですか?』
蜜「うん。さっきまで一緒だったんだけど・・・今回は遠慮するって・・・」
『・・・そっかぁ』
蜜「ねぇ美桜ちゃん、煉獄さんと何があったの??」
任務地でもいつもと様子が違ったと宇髄さんと蜜璃ちゃんは心配していたらしい。
『う・・・それは・・・』
多分ていうか確実に私が原因だ・・・
きっと、私にドン引きしてるんだ。
酒に酔って男の人を襲うなんて、本当どうかしている。
しかも、ほとんど記憶がないなんて。。。
こんな私なんて・・・
『いっそ消えてなくなりたい・・・』
蜜「ええっ!?美桜ちゃん!?」
ズーンと落ち込んだ私を蜜璃ちゃんが慌てて支える。
宇「・・・アイツは否定してたが、やっぱり手を出されたのか?」
宇髄さんの言葉に思わず反応してしまう。
『ちがっ!!杏寿郎さんはそんな事しません!!私が無理矢理・・・』
宇「美桜が・・・マジで!?」
蜜「え・・美桜ちゃん・・・凄い」
冨「・・・・・・」
『はっ!!』
思わず口をついてしまった。
私の馬鹿!!
義勇さんは目を見開き、宇髄さんは口を大きく開け、蜜璃ちゃんは口元に手をやってこちらを見ている。
『私・・・最低ですよね』
ハハハと渇いた笑いしか出てこない。
半分涙が出そうになったとき
煉「それは違うぞ!!!」
ガサッと勢いよく音がしたと思ったら
茂みから今度は煉獄さんがあらわれた!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
宇髄と甘露寺と別れ家路へと歩いていた。
宇「おい煉獄、本当にいいんだな?」
蜜「美桜ちゃんも煉獄さんのお顔見たいと思いますよ?」
2人に最後まで引き止められたが、断った。
俺とて、本音は美桜に会いたい。
しかし今はどの様な顔をして接すれば良いのか分からなかった。
煉「・・・・・・」
美桜。
無理して怪我などしていないだろうか。
煉「・・・・・・」
そうだ
顔を合わせなくとも、一目美桜の顔さえ見れたなら・・・
そう思い直し、家路へ向けていた足を止め踵を返し富岡の屋敷へと向かい始めた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
冨岡の屋敷に着くと、宇髄の騒ぐ声が聞こえてきた。
庭のほうか。
『え、杏寿郎さんも一緒だったんですか?』
美桜の声に足が止まり、思わず茂みに隠れてしまう。
・・・盗み聞きなど、俺らしくもない行動だな。
蜜「ねぇ美桜ちゃん、煉獄さんと何があったの??」
『・・・いっそ消えてなくなりたい・・・』
煉「!!?」
宇「・・・アイツは否定してたが、やっぱり手を出されたのか?」
『ちがっ!!杏寿郎さんはそんな事しません!!私が無理矢理・・・』
ーーー美桜?
よもや・・・あの時のやり取りを覚えていないのか?
・・・そういえば断片的と言ってたな・・・
『私・・・最低ですよね』
煉「それは違うぞ!!!」
・・・・・・
『・・・・・・きょ、きょきょきょ杏寿郎さんっ!?』
煉「むぅ!しまった!!思わず飛び出してしまった!!!」
宇「何だ。やっぱり来たのか」
冨「・・・何故次から次と俺の屋敷の庭に現れるんだ?」
任務先で合流した宇髄の第一声がそれだった。
経緯を話すと
宇「はぁーん、成程ねぇ・・・じゃあ今は冨岡ん所にいるのか。」
煉「うむ!必ず呼吸を物にして見せると張り切って行ったぞ!」
宇「しかし、よく他の男の所に行かせたなぁ」
独占欲の塊の様なお前が
と余計な一言を付け加える。
煉「うむ!冨岡は信頼出来る男だ!君とは違ってな!!」
こちらも負けじと応酬する。
蜜「・・・でも、それだと呼吸が使える様になるまで美桜ちゃんは帰ってこないんですか?」
淋しいですね
と、甘露寺が素直な感想を漏らす。
煉「うむ・・・そうだな」
甘露寺の言葉に同意はしたものの、そこまで時間はかからないだろうと確信に近いものを感じていた。
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『義勇さんが帰ってくるんですか?』
鱗「その様だな」
訓練が始まって3日目。
その間義勇さんはずっと任務に出て不在だった。
さっき、鴉が任務を終えて戻る事を伝えに来たらしい。
そっか。
じゃあ今夜は3人分の食事を用意しないとね。
『・・・あ!』
鱗「?」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
冨「ただいま戻りました」
義勇さんがお屋敷に戻ってきて鱗滝さんに挨拶をする。
鱗「ああ。無事で何よりだ」
『義勇さん、おかえりなさい』
冨「・・・訓練はどうだ?」
『ええ・・・まだまだですが、毎日鱗滝さんに鍛えてもらってます!』
冨「そうか・・・」
『それより、お疲れでしょう?お食事出来てますから食べましょう』
居間に入り、出来上がった食事を見た義勇さんが固まる。
冨「・・・何故」
『あれ、好物でしたよね?』
食卓に並んでいたのは鮭大根。
以前、義勇さんにご馳走になった事があるし、今度機会があれば作ると約束していたのだ。
冨「覚えていたのか・・・」
『?当たり前じゃないですか。』
約束してから随分時間経っちゃったからなぁ。
あれから義勇さんが煉獄さんのお家に来る事もなかったし、作る機会がなかったのだ。
冨「・・・!!」
一口食べた義勇さんはまた固まる。
『あ、あの・・・お口に合わなかったですか・・・??』
いつも煉獄さんは食べてすぐ感想を言ってくれるし、ここまで黙られると心配になる。
冨「・・・いや・・・美味い」
『!!本当ですか??良かったぁ〜』
やっぱり人に手料理を食べさせるのって緊張するなぁ・・・
鱗「・・・義勇。例の子供達だが無事に選抜を突破し兄は鬼殺隊士になったぞ」
冨「! そうですか。・・・妹の方は?」
鱗「ああ・・・変わらずだ。今の所はな」
冨「そう、ですか・・・」
鱗「お館様へは既に文を飛ばしてある。」
冨「わかりました」
『・・・・・・??』
何の話をしているのか気になったけど、気安く聞ける様な雰囲気ではなかったので私は黙ってお味噌汁を啜っていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『・・・ふぅ。』
一日を終え、お風呂で汗を流す。
この3日間で呼吸の仕方はだいぶ分かってきた。
・・・けど、すぐに息切れしてしまう。
ーうむ!驚くほどに持久力がないな!!ー
『・・・・・・』
いつかの煉獄さんの幻聴が聞こえてきた。
でも、飲み込みは早い方だって鱗滝さん褒めてくれたし・・・
ーああ!だがそれを持続する力がない!ー
『・・・ですよね・・・』
がっくりと項垂れる。
『持続する力、かぁ・・・』
お風呂場の格子窓から空を見上げる。
煉獄さんは今、どこにいるのかな・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
煉「今だ!行け甘露寺!!」
蜜「はっはい!!」
ー恋の呼吸、壱の型、初恋のわななきー
・ ・ ・ ・ ・
煉獄の合図で甘露寺が飛び込み鬼を斬った。
流石、師弟だった事もあり息が合っているな。
宇「よっしゃ!任務完了だな!!」
煉「うむ!甘露寺、良くやったな!もうすっかり一人前だ!!」
蜜「そっそんな!私なんてまだまだ・・・(キャーッ煉獄さんに褒められちゃったわ!)」
宇「追加の任務も無さそうだな。そうだ、帰りついでに美桜の様子でも見に行くか?」
蜜「あっ!私も久しぶりに美桜ちゃんの顔を見たいです!!煉獄さんも、行きますよね?」
煉「いや・・・俺は遠慮しておこう」
宇蜜「「!?」」
あの煉獄が遠慮!?
美桜の事は全力で応援している!
俺も行こう!!
という言葉を想像していたが見事に裏切られた。
普段じゃ考えられない反応だ。
宇「おい、ちょっとこっち来い」
ガシッと煉獄の肩に腕を回して人気のない場所まで連れて行く。
煉「何だ?」
宇「お前・・・美桜と何かあった?」
煉「!・・・何のことだ?」
馬鹿正直な奴だ。
普段どこを見ているか判りづらい瞳が揺れてよりそれが強調されている。
宇「そうか・・・お前もついに手を出したか」
煉「!!」
煉獄がバッとこちらを見る。
揶揄い半分のつもりだったが・・・
宇「え、マジで??」
煉「いや!違う!!手など出してはいない!!」
宇「馬鹿!声でかいわ!!」
わざわざ人気のない場所まで連れてきてやった俺の好意を無駄にする声量で否定する。
宇「・・・じゃあ何だ。喧嘩でもしたのか?」
煉「喧嘩もしていない!・・・だが、俺は少し頭を冷やさないといけない!だから今回は遠慮する!」
宇「・・・・・・」
詳しい事情はよく分からねえが要するに顔を合わせづらいと。
なんつーか、こいつは・・・
宇「お前ってホント頑固でくそ真面目だよな」
煉「む、そうか?ありがとう!!」
いや褒めてねえよ!!
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『よし!洗濯終わりっ!!』
パンっと最後の手ぬぐいのシワを伸ばして干す。
『さて、次は・・・』
鴉「カアッ!」
『あれ・・・寛三郎??』
義勇さんの鴉が縁側に降りてきた。
足に文がくくりつけてあった。
『どうしたんだろ・・・鱗滝さんにかな?』
寛三郎に問いかけたけれど答えはなく、そのまま飛んでいってしまった。
『えぇ、ちょっと・・・宛名もないや』
仕方ないので、鱗滝さんの元へ持っていく事にする。
『鱗滝さん。義勇さんからお手紙みたいなんですけど・・・宛名が無くて』
鱗「そうか。どれ・・・・・・」
手紙を開いた鱗滝さんは無言になる。
何か、大変な事が書いてあったのかな・・・
固唾を飲んで見守っていると、目の前に手紙が差し出された。
『えっ・・・見てもいいんですか?』
鱗「これは美桜宛だ」
『わ、私に?』
何だろ・・・
戸惑いながらも手紙を開く。
『・・・・・・』
ー予定より早く任務を終えたのでこれから戻る。明日には屋敷に着くだろうー
ー鮭大根が食べたいー
『え・・・鮭大根??』
鱗「随分気に入った様だな」
鱗滝さんもため息混じりだ。
まさか夕飯のリクエストを手紙でもらうなんて思っても見なかったよ。。。
しかもつい最近食べたばかりのものを。
義勇さんってやっぱり不思議な人・・・
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翌日、午後の訓練を終えてから町に買い出しに来た。
鮭も大根も切らしていたからね・・・
荷物持ちにと鱗滝さんも一緒に来てくれた。
『そういえば、鱗滝さんはどうして山に住んでいるんですか??』
鱗「・・・静かで落ち着くというのもあるが、呼吸を教えるのには適した環境だからだ」
『山が・・・ですか?』
鱗「狭霧山は標高が高く空気が薄いから心臓に負担がかかる。その中で鍛える事でより強い呼吸を身につける事ができる。」
『そうなんですか・・・じゃあ、私も狭霧山で修行したかったなぁ』
鱗「何故だ?」
『えっ?』
鱗「美桜は鬼殺隊士になりたい訳ではないのだろう?呼吸を覚えるのも自分の身を守るためと聞いているが?」
・・・過酷な訓練は必要ないと。
『そうですね・・・。 っ!?』
鱗「・・・先日から気になっていたのだが、何故そこまで強さを求める?」
・・・・・・
鱗「美桜?」
・・・・・・
鱗「・・・どこへ行った!?」
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『む〜っ!む〜っ!!』
鱗滝さんの少し後ろを歩いていた私は後ろから急に口を塞がれ引き摺られるように歩いていた。
『・・・・・・ぷはっ。ッ!?』
路地裏まで来ると塞がれていた口が解放される。
そして両肩を掴まれ壁にドンされた。
私を連れ去った人物を初めて正面から捉え、その正体に驚いた。
『え・・・等々力さん??』
等「・・・・・・」
等々力さんは黙ったまま私を睨みつけている。
・・・美少女の怒った顔って迫力あるなぁ
『あ、あの・・・?』
等「どういうつもりなの?」
『はい??』
等「あなたは煉獄様の婚約者なんでしょ!?今度は冨岡様にまで手を出すってどう言うつもりなのかって聞いてるのよ!!」
『手を出すって・・・』
言い方!!
『私はただ、呼吸を教わっているだけで・・』
等「なによ!何で冨岡様なのよ!!水の呼吸の使い手なんていくらでもいるでしょ?」
『そ、それは・・・義勇さんが・・』
等「義勇さん!?」
『あっ、とと冨岡さんが、悲鳴嶼さんに指示されたと言うか・・・それで・・』
等々力さんは今は義勇さんに夢中だって前にしのぶさん達が言ってたのを思い出す。
そうだよね、自分の好きな人が他の女の人と一緒にいるなんて嫌だよね・・・
それにしても・・・
『・・・等々力さん、なんか雰囲気変わりましたよね?』
等「・・・私は元々こういう性格なの」
アナタ相手に猫被る必要ないでしょ?
とフイとソッポを向いてしまう。
『そ、そうですか・・・』
鱗「美桜!」
『あっ、鱗滝さん』
そこに鱗滝さんが走ってきた。
鱗「急に姿を消すから心配したぞ」
『ご、ごめんなさい・・・』
等「誰よ、この天狗おじさん」
『義・・・と、冨岡さんのお師匠様の鱗滝さんです』
等「!」
天狗おじさんって・・・
鱗「・・・美桜の知り合いか?」
『あ、その・・』
等「はい!美桜ちゃんの“お友達”の等々力神奈ですぅ」
『!?』
お友達!?
鱗「・・そうか。美桜、そろそろ義勇が戻ってくる頃だろう。買い物を済ませて帰るぞ」
『は、はい。そうですね・・食事の支度もありますし・・』
等「美桜ちゃん!!」
『は、はい?』
等「美桜ちゃん、訓練で疲れてるでしょう?私も手伝ってあげる!」
『えっ、ええっ!?』
等「“お友達”だもの。ね!」
ズズイッと顔を近づけてくる等々力さん。
笑顔の圧!!
どうしたら良いのか困って鱗滝さんの顔(面)を伺うと、鱗滝さんも戸惑った様子だったが頷いてくれた。
『じゃ、じゃあお願いしようかな・・・』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
等「何で鮭大根なのよ。折角なんだからもっとお洒落な料理にしない?」
『・・冨岡さんの好物なので・・・。楽しみに帰ってくるみたいだし・・』
正直私も鱗滝さんも鮭大根は飽きていたから違う料理にしたかったけど、リクエストされてしまったら作る他ない。
等「! そういう事は先に言っといてよね!!」
等々力さんは以前と口調が変わったものの、やっぱり可愛いなぁ。
義勇さんの好物を知れてどこか嬉しそうだった。
『等々力さんは本当に冨岡さんの事が好きなんですね』
等「!・・・移り気だって言いたいんでしょ?」
『いや、別にそんなつもりじゃ』
等「ついこの間まで煉獄様だったのにって思ってるんでしょ?」
『そ、それは・・・』
等「別にいいのよ。他の隊士や隠が私の事どう思ってるか分かってるから」
男目当てで鬼殺隊士になった変わり者だってね
『・・・』
等々力さんは全く気にもしてない素振りをする。
でも・・・
『・・・でも、鬼に対して本気で立ち向かってますよね』
等「!」
『浮ついた気持ちだけでそこまで出来ないと思います。戦っている時の等々力さんは強くて格好良かったです。』
羨ましいくらいに。
等「・・・・・・」
それから暫くはお互い黙ったまま、料理を作る音だけが厨房に響いていた。
沈黙を破ったのは等々力さんだった。
等「・・・私が鬼殺隊に入ったのは・・・」
『・・・』
等「当時、お付き合いしていた人と一緒にいる所を鬼に襲われて・・」
『え・・・』
等「女好きの鬼で、私の方に襲いかかってきたの。そうしたら、あの人は・・・」
ー私を置き去りに走って逃げたの
『!』
等「運良く、鬼殺隊士が現れて助けて貰えたけどね。怪我をしてたからしばらくの間入院して、やっと退院できて彼に会いに行ったの」
でも、その彼には既に新しい女性がいたの。
等「私は死んだものと思ってたみたいね。白状だと思わない?」
その時に決めた。
自分も強くなる。
そして強い人と一緒になって、逃げ出したあの人を見返してやるんだって。
等「・・・馬鹿馬鹿しい理由でしょ?」
そう言って自嘲気味に笑う。
『・・・命を賭ける理由に馬鹿馬鹿しいなんてないです』
等「・・・今の話、誰にも言わないでよね」
『・・・はい』
そしてまた2人とも黙ったまま料理を再開した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
冨「ただいま戻りまし」
等「おかえりなさい!冨岡様!!」
冨「!?・・・何故、ここに・・?」
帰ってきた義勇さんは等々力さんの登場に酷く驚いた様子だ。
まぁそうだよね。
等「“お友達”の美桜ちゃんのお手伝いに来ました」
冨「・・・・・・」
義勇さんはこちらを向いて、そうなのか?という目をしている。
『あ、はい・・・お夕飯の支度を手伝ってくれて助かりました!』
これは本当。
実際等々力さんは料理の手際が良くて助かった。1人だったら義勇さんが帰ってくるまでに支度が終わらなかっただろう。
冨「・・・そうか」
そして、義勇さん、鱗滝さん、等々力さん、私と不思議な面子で食卓についた。
よっぽど楽しみにしていたのか、義勇さんはホクホクした顔をしている。
普段表情が変わらないからとても新鮮だなぁ。
そして一口食べる。
冨「! ・・・・・・」
そして固まる。
等「あ、あの・・・美味しくないですか??」
等々力さんが心配そうに覗き込む。
冨「・・・いや、美味い・・・」
等「良かった!私が味付けしたので、お口に合わなかったらどうしようかと思いました」
美味しいと言われ安堵の表情を浮かべる。
冨「・・・・・・」
食事が終わり、後片付けまで手伝ってくれて等々力さんは帰っていった。
帰る直前には
『今日はお料理のお手伝いありがとうございました』
等「・・・別に、あなたの為じゃないし。いいから、さっさと呼吸を身に付けて冨岡様から離れてよね!!」
『う・・・はい。でも中々難しくて・・・』
等「気合いが足んないのよ!四六時中呼吸の事だけ考えてなさい!間違っても冨岡様に色目を使わない事!!」
と、釘を刺された。
『・・・四六時中、呼吸の事だけ・・・』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
等々力さんを見送って家の中に入ると義勇さんが立っていた。
『あれ、どうしたんですか?冨岡さん』
冨「!!?」
名前を呼ぶと驚いた表情をする。
『? お茶でも淹れますか?』
冨「・・・ああ」
縁側に座って2人でお茶を飲んでいる。
『冨岡さん、明日は任務ですか?』
冨「いや・・・」
『そうですか!では明日はゆっくりして下さいね。明日のご飯は何がいいですか?』
冨「・・・鮭大根」
『っ!?ごほっ!!』
思わずむせてしまう。
『な・・・またですか??流石にそれは・・・』
今日食べたばっかりだし・・・
冨「違う」
『え、違うって・・・?』
何が?
と義勇さんの方を向くと、真っ直ぐにこちらを向いていた。
冨「俺は、美桜の作った鮭大根が食べたい」
え?
『それってどういう・・・』
宇「はぁーーーーーー!?冨岡テメェ何言ってんだ!!」
冨「!?」
『!?』
え、何で??
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
宇髄さんがあらわれた!
しかも庭の植え込みから。
冨「・・・何故俺の家の庭に宇髄がいるんだ?」
ごもっとも!!
宇「そんな事はどーだっていいんだよ」
いや良くないよ。
下手したら通報レベルですよ?
そして、よく見たら蜜璃ちゃんまでいる。
蜜璃ちゃんはエヘヘ・・・と舌をペロッと出して出てきた。
可愛い!!蜜璃ちゃんはきっと許される!!
宇「任務帰りに美桜の様子を見にきたんだよ。てゆーかお前何ちゃっかり美桜を口説いてんだよ」
冨「口説いてなどいない。俺は美桜が作った鮭大根が食べたいと言っただけだ」
宇「だからそれが口説き文句なんだっつーの!煉獄来なくて良かったわ!」
『え、杏寿郎さんも一緒だったんですか?』
蜜「うん。さっきまで一緒だったんだけど・・・今回は遠慮するって・・・」
『・・・そっかぁ』
蜜「ねぇ美桜ちゃん、煉獄さんと何があったの??」
任務地でもいつもと様子が違ったと宇髄さんと蜜璃ちゃんは心配していたらしい。
『う・・・それは・・・』
多分ていうか確実に私が原因だ・・・
きっと、私にドン引きしてるんだ。
酒に酔って男の人を襲うなんて、本当どうかしている。
しかも、ほとんど記憶がないなんて。。。
こんな私なんて・・・
『いっそ消えてなくなりたい・・・』
蜜「ええっ!?美桜ちゃん!?」
ズーンと落ち込んだ私を蜜璃ちゃんが慌てて支える。
宇「・・・アイツは否定してたが、やっぱり手を出されたのか?」
宇髄さんの言葉に思わず反応してしまう。
『ちがっ!!杏寿郎さんはそんな事しません!!私が無理矢理・・・』
宇「美桜が・・・マジで!?」
蜜「え・・美桜ちゃん・・・凄い」
冨「・・・・・・」
『はっ!!』
思わず口をついてしまった。
私の馬鹿!!
義勇さんは目を見開き、宇髄さんは口を大きく開け、蜜璃ちゃんは口元に手をやってこちらを見ている。
『私・・・最低ですよね』
ハハハと渇いた笑いしか出てこない。
半分涙が出そうになったとき
煉「それは違うぞ!!!」
ガサッと勢いよく音がしたと思ったら
茂みから今度は煉獄さんがあらわれた!!
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宇髄と甘露寺と別れ家路へと歩いていた。
宇「おい煉獄、本当にいいんだな?」
蜜「美桜ちゃんも煉獄さんのお顔見たいと思いますよ?」
2人に最後まで引き止められたが、断った。
俺とて、本音は美桜に会いたい。
しかし今はどの様な顔をして接すれば良いのか分からなかった。
煉「・・・・・・」
美桜。
無理して怪我などしていないだろうか。
煉「・・・・・・」
そうだ
顔を合わせなくとも、一目美桜の顔さえ見れたなら・・・
そう思い直し、家路へ向けていた足を止め踵を返し富岡の屋敷へと向かい始めた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
冨岡の屋敷に着くと、宇髄の騒ぐ声が聞こえてきた。
庭のほうか。
『え、杏寿郎さんも一緒だったんですか?』
美桜の声に足が止まり、思わず茂みに隠れてしまう。
・・・盗み聞きなど、俺らしくもない行動だな。
蜜「ねぇ美桜ちゃん、煉獄さんと何があったの??」
『・・・いっそ消えてなくなりたい・・・』
煉「!!?」
宇「・・・アイツは否定してたが、やっぱり手を出されたのか?」
『ちがっ!!杏寿郎さんはそんな事しません!!私が無理矢理・・・』
ーーー美桜?
よもや・・・あの時のやり取りを覚えていないのか?
・・・そういえば断片的と言ってたな・・・
『私・・・最低ですよね』
煉「それは違うぞ!!!」
・・・・・・
『・・・・・・きょ、きょきょきょ杏寿郎さんっ!?』
煉「むぅ!しまった!!思わず飛び出してしまった!!!」
宇「何だ。やっぱり来たのか」
冨「・・・何故次から次と俺の屋敷の庭に現れるんだ?」