寸進と弟
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『とあああああああ!!』
走り込み、思い切り木剣を下ろす。
瞬間、視界が反転し気づけば床に身体が沈んでいる。
鱗「もう一回!」
『・・・はい!』
そう。
私は今日から冨岡さんの屋敷に身を置き鱗滝さんの元で呼吸を会得するための修行をしている。
まず呼吸のやり方を教えてもらった私は体感でかれこれ2時間は鱗滝さんに投げられまくっていた。
私は拙い呼吸を使いながらひたすら受け身を取り続ける。
くノ一の3人に鍛えてもらっているお陰で受け身は取れる様になっていたが、剣を持った状態で、更に呼吸を使っての受け身は気を抜くと大怪我に繋がる為いつも以上に集中力が必要だった。
そう、集中。
すう、と大きく息を吸い込む。
集中!
構え直し、鱗滝さんへ向かっていく。
ーー美桜ーー
集中しろ!
ーーよもや、あそこまで乱されるとはーー
集・・・
『なーーーーーーーーーん!!!!?』
打ち込む瞬間、今朝のやりとりを思い出してしまう。
身体が回転し、思い切り床に叩きつけられる。
受け身も取れず頭を打ちつけてしまった。
鱗「! 大丈夫か!?」
『う・・・』
鱗「・・・脳震とうを起こしたか・・・それにしても独特な掛け声を出す娘だな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー遡る事数時間前ーー
『・・・ん、んん・・・』
庭で雀が囀る声で目が覚める。
頭がぼんやりしている中、目を閉じたまま布団の中で寝返りを打とうとするが身体が動かない。
・・・何で?
疑問に思うと同時に段々覚醒してくる。
『??・・・ッ!?』
薄ら目を開けると目の前に広がる光景に絶句する。
肌っ!!!!
肌けた着物からご立派な胸板が目の前にっ!!
誰の!?
・・・なんて聞かなくてもわかる。
分かるからこそ、顔が上げられない・・・。
ていうか、物理的に上がらない。
逞しい腕が私の後頭部と腰をがっちりホールドしていてピクリとも動く事が出来ずにいた。
『・・・・・・』
待って
どうしてこんな状況になったんだっけ・・・
確かお酒を飲んで・・・
思い出せ!
がんばれ私!思い出せ!!!
ーー美桜、何を・・・ーー
ーーっ!!・・・駄目だ、美桜・・・やめなさ・・ああっ!ーー
『・・・・・・!!』
サァッと血の気が引く。
なんてこった!
煉「美桜?起きていたのか??」
『!!』
頭上から煉獄さんの声がする。同時に頭と腰に回された腕の力が弱まる。
すかさず布団から出て土下座をする。
『すみませんでしたああぁあ!!!』
煉「!?」
『わわわわ、私、とんでもない事を・・・!!』
煉「!!・・・昨夜の事、覚えているのか・・・?」
『・・・あの、断片的に・・・』
煉「むぅ、そうか・・・」
『わ、私・・・酔ってました!・・・よね?』
煉「・・・よもや、あそこまで乱されるとは・・・」
そう言って、片手で口元を隠して視線を外す。
『!!』
あの、煉獄さんが・・・
いつでも爽やか明朗快活な、煉獄さんが・・・
気まずそうに顔を背けるなんて・・・
ああ
やっぱり
私が、嫌がる煉獄さんを無理矢理・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ああああああああ!!!』
ガバっと起き上がる。
息が上がった胸を押さえながら下を向く。
あれ、布団・・・かけてる。
鱗「気がついたか?」
『あ・・・鱗滝さん。私・・』
鱗「頭を強く打って気を失っていたのだ。大分うなされていたし、気分が悪い様なら医者を呼ぶが?」
『い、いえ・・・大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません・・・』
鱗滝さんに心配をかけてしまった。
初日から私は何をやっているんだ・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
煉「・・・・・・」
蜜「・・・煉獄さん?」
煉「! 何だ?甘露寺?」
蜜「・・・お料理来てますよ?食べないんですか??」
煉「む!そうだったか!!いただきます!!」
蜜「・・・・・・」
そうだった!
新たな任務が入り甘露寺と共に向かう道中で定食屋に入った所だった。
煉「うまい!うまい!」
蜜「・・・美桜ちゃんと何かあったんですか?」
煉「うま!?・・・ごほっ!」
蜜「えっ!?あっ!ごめんなさい!!私ったら食事中に・・・」
煉「・・・いや、気にしないでくれ」
お茶を啜り落ち着かせようとするが、一度美桜の名前を聞いてしまうと昨晩の出来事を思い出さずにはいられなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ん・・・』
二口目の酒を口移しで飲ませ、顔を離す。
美桜の頬は紅潮し、目も虚ろになっている。
煉「美桜・・・先程の件だが、俺は」
『杏寿郎さん』
煉「?」
紅潮した頬に触れると、そこに美桜の手が重ねられる。
『・・・もう、おしまいですか?』
煉「っ!」
潤んだ瞳にゾクっとする。
煉「美桜・・・」
両手で、頬を包み込むように触れると、美桜も俺の両頬を包み込んでくる。
『杏寿郎さん・・・』
そして、美桜から顔を近づけてくる。
こんな事は初めてで、柄にもなく緊張してしまう。
目を閉じ、美桜を受け入れようとした時ーー
『お酒はもうないんれすか??』
!?
顔のすぐそばで聞こえた言葉に耳を疑った。
思わず目を開くと美桜の瞳は虚ろ・・・というか据わっていた。
ただならぬ様子に咄嗟に酒瓶を背後に隠す。
目敏く美桜が反応する。
『んっ?何か隠したれしょ??』
煉「いや、何も・・・」
『んん〜??』
しまった、と思った。
煉「・・・そうだ美桜!明日から鍛錬が始まるだろう!もう休んだ方がいい!!」
『や!もっと杏寿郎さんといるぅ〜!』
そう言ってしがみついてくる。
美桜は酔うと距離感が近くなるな・・・
煉「っ!!そうか!では酒はもうないのでお茶にしよう!俺が淹れてくる!!」
酒を背中に隠したまま立ち上がる。
これ以上飲ませると明日に響いてしまうな・・・
元の場所に戻すと美桜が見つけて勝手に飲んでしまうかもしれない。
正気に戻るまでひとまずは部屋に隠してしまおう。
一度自分の部屋に戻り掛けていた炎柱の羽織の裏に隠す。
煉「・・・俺は一体何がしたいのだ・・・」
大きなため息を吐く。
美桜が酒に弱いことは知っていた。
それなのに、飲ませた。
何故か
自分も酒に酔っていたから、正常な判断ができなかった?
違う
・・・今の美桜の本心が知りたいと思ってしまったからだ。
美桜は普段思っている事があっても俺に遠慮してか中々話そうとしない。
だが過去2回、酒に酔った時本音を零した。
煉「・・・狡いな。俺は」
何と浅はかな行動をしてしまったのだろう。
聞きたいことがあるならば、正面から直接聞くべきだった。
そして美桜が自分から話してくれるのを待っていればよかったのだ。
『・・・杏寿郎さん?』
部屋の外から美桜の声がしてハッとする。
そうだ、お茶を淹れると言って待たせたままだった。
煉「すまん、これからお茶を淹れに行く・・・ムッ!?」
そう言って戸を開けると、美桜が勢いよく俺に向かって飛び込んできた。
『・・・・・・』
煉「美桜?どうした??」
『お茶はいいです。その代わり・・・』
煉「?」
胸元にしがみついたまま、顔だけをこちらへと向ける。
『杏寿郎さんがしたい事をしましょう?』
煉「!?」
心臓がドクンと跳ねた。
煉「・・・何の事だ?」
『とぼけないでください。私ちゃんと知ってるんです。宇髄さんに聞きましたから』
煉「・・・・・・」
・・・宇髄からだと?
また美桜に何を吹き込んだのか・・・
眉間に力が入る。
『・・・私がお相手では、嫌・・・ですか?』
そんな俺の表情を見た美桜が切なげな瞳を向けてくる。
煉「!! そうではない!美桜以外で考えた事もない!・・・だが、」
美桜の両肩に手を置き、しっかりと向かい合う。
煉「・・・良いのか?酒に酔った勢いでする事ではないぞ?」
『杏寿郎さんさえ良ければ、私はいつでも大丈夫ですよ?』
煉「ッ!!・・・」
普段の美桜からは考えられない積極的な言葉が次から次へと発せられ、戸惑いを隠せない。
これも・・・本心、なのか・・・?
煉「・・・分かった。俺も手慣れという訳ではないが出来る限り優しく・・・」
『遠慮なんていりません!思い切り来てください!!さぁ!早速やりましょう!!』
煉「!?」
そう言うや否や俺の着物の帯を思い切り掴む。
煉「っ!? 美桜、何を・・・」
『お相撲れす!!杏寿郎さん、好きなのでしょう?よく隊士の方とやっていると聞きました!!』
煉「!!」
よもや!!
『いきますよ!!はっけよーい、のこった!』
煉「・・・・・・」
合図と同時に俺の体を押し始める。
確かに、藤の花の家紋の家などで隊士を相手に相撲を取った事はあるが・・・
先程までの甘い空気はどこへ行ったのだ・・・
美桜に乱暴な真似をするつもりは毛頭ないし、かと言って美桜が俺に押し勝つ事もないだろう。
どの様にこの場を収めようか思案していると
『どっせい!!』
美桜が素早い動きで俺の足を払う。
煉「!?」
瞬間、体が宙に浮く感覚がする。
そして気がつくと俺の身体は床に倒れていた。
煉「な・・・」
あまりの事に言葉が発せない。
今、俺は美桜に二丁投げをされたのだ。
・・・呼吸を使って・・・
だが俺の体重に耐えられる訳はなく、体制を崩した美桜が俺の上に倒れ込む。
『ッ!!・・・いたた・・・』
煉「! 美桜、どこか怪我でも・・・!?」
ゆっくり起き上がる美桜に顔を向けると、今の動きで着物が着崩れ胸元の合わせが緩くなっていた。
更に俺の腹に跨るよう座っている為、裾から白い足が露わになっている・・・
いかん。
・・・どうにも目のやり場に困る。
煉「・・・美桜、一回落ち着こう。まずは俺の上から・・・」
『あ、見〜つけた♡杏寿郎さんの嘘つき。お酒あるじゃないれすか』
煉「!!」
倒れた拍子に掛けていた羽織が落ち、酒瓶が見つかってしまった。
煉「美桜、これ以上飲むと明日立てなくなってしまうぞ?今日はこの辺にして・・・」
ガバッと起き上がり、美桜を膝の上に座らせて説得を試みるが
『大丈夫れす!!私、こう見えてお酒強いんれすから!』
どこがだ!?
煉「とっとにかく!酒はまた今度にしよう!」
『・・・むぅ〜』
美桜は両頬を膨らませて不服そうだ。
可愛いがここで折れる訳にはいかない。
煉「さぁ、今日の所は部屋へ戻って休みな・・ッ!?」
最後まで伝える事が叶わなかった。
なぜなら、俺の唇は美桜によって塞がれたからだ。
煉「・・・」
暫くして顔が離れていく。
『・・・そんな淋しい事言わないでください。今日はずっと一緒にいたいんです』
駄目だ
クラクラする。
これではどちらが酔わされているのか
先程から美桜の行動や言動で簡単に心が乱される。
『だから・・・』
美桜がスッと立ち上がる。
『今日は朝まで飲みましょう!!』
煉「なっ!?」
言うが早いか、いつの間にか酒瓶を手にしていた。
煉「っ!!・・・駄目だ、美桜・・・やめなさ・・ああっ!」
俺の制止も聞かず、酒瓶を傾けてしまった。
『・・・・・・・・・・』
煉「・・・美桜?大丈夫か??」
酒を口にしてから俯いて黙り込んでしまった。
気分でも悪くなったか?
これでは明日からの訓練は無理だな。
・・・元はと言えば俺の責任だ。
元水柱殿には申し訳ないが訓練の日程を変更してもらおう。
煉「美桜、明日は家でゆっくり休むと良い。冨岡には俺から伝えるので訓練はまた・・・」
『駄目です!』
煉「!?」
『訓練は休まないっ!早く・・・早く強くならないと・・・』
煉「・・・何故、早く強くなろうと思うのだ?」
美桜は鬼殺隊士ではない。
今は自分の身さえ守れれば良いのだ。
『私が強くないと・・・また守れなくなる・・・』
煉「・・・守る?誰をだ??」
背を向けていた美桜がこちらへゆっくり振り返る。
煉「・・・・・・」
美桜・・・なのか?
あの時の、銃を手にした時の表情をしていた。
『・・・』
そして、静かに口を開いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鱗「もう動いて良いのか?」
鱗滝さんが心配そうに声を掛けてくる。
『はい!ご心配をおかけしてすみませんでした』
鱗「そうか・・・」
今日の訓練は(私のせいで)中断になってしまったので、夕飯の支度に取り掛かっていた。
居候の身としては出来ることはやらないと!
『・・・・・・はぁ』
・・・駄目だなぁ、私は
『早く、強くならないといけないのに・・・』
最初は、ただ皆の足を引っ張らない様にとか、伊黒さんを見返してやりたいとか、そんな気持ちで体を鍛え始めた。
なのに、いつの間にか強さを追い求める様になった。
自分の身を守るだけじゃ駄目なんだ。
ちゃんと、守れるようにならないと・・・
どうしてかは分からないけれど、使命感のような物が私の中に宿っていた。
『呼吸は教えて貰ったけど・・・ただ訓練しているだけじゃ駄目なんだろうな・・・』
料理をしながら、深くため息を吐いた。
走り込み、思い切り木剣を下ろす。
瞬間、視界が反転し気づけば床に身体が沈んでいる。
鱗「もう一回!」
『・・・はい!』
そう。
私は今日から冨岡さんの屋敷に身を置き鱗滝さんの元で呼吸を会得するための修行をしている。
まず呼吸のやり方を教えてもらった私は体感でかれこれ2時間は鱗滝さんに投げられまくっていた。
私は拙い呼吸を使いながらひたすら受け身を取り続ける。
くノ一の3人に鍛えてもらっているお陰で受け身は取れる様になっていたが、剣を持った状態で、更に呼吸を使っての受け身は気を抜くと大怪我に繋がる為いつも以上に集中力が必要だった。
そう、集中。
すう、と大きく息を吸い込む。
集中!
構え直し、鱗滝さんへ向かっていく。
ーー美桜ーー
集中しろ!
ーーよもや、あそこまで乱されるとはーー
集・・・
『なーーーーーーーーーん!!!!?』
打ち込む瞬間、今朝のやりとりを思い出してしまう。
身体が回転し、思い切り床に叩きつけられる。
受け身も取れず頭を打ちつけてしまった。
鱗「! 大丈夫か!?」
『う・・・』
鱗「・・・脳震とうを起こしたか・・・それにしても独特な掛け声を出す娘だな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー遡る事数時間前ーー
『・・・ん、んん・・・』
庭で雀が囀る声で目が覚める。
頭がぼんやりしている中、目を閉じたまま布団の中で寝返りを打とうとするが身体が動かない。
・・・何で?
疑問に思うと同時に段々覚醒してくる。
『??・・・ッ!?』
薄ら目を開けると目の前に広がる光景に絶句する。
肌っ!!!!
肌けた着物からご立派な胸板が目の前にっ!!
誰の!?
・・・なんて聞かなくてもわかる。
分かるからこそ、顔が上げられない・・・。
ていうか、物理的に上がらない。
逞しい腕が私の後頭部と腰をがっちりホールドしていてピクリとも動く事が出来ずにいた。
『・・・・・・』
待って
どうしてこんな状況になったんだっけ・・・
確かお酒を飲んで・・・
思い出せ!
がんばれ私!思い出せ!!!
ーー美桜、何を・・・ーー
ーーっ!!・・・駄目だ、美桜・・・やめなさ・・ああっ!ーー
『・・・・・・!!』
サァッと血の気が引く。
なんてこった!
煉「美桜?起きていたのか??」
『!!』
頭上から煉獄さんの声がする。同時に頭と腰に回された腕の力が弱まる。
すかさず布団から出て土下座をする。
『すみませんでしたああぁあ!!!』
煉「!?」
『わわわわ、私、とんでもない事を・・・!!』
煉「!!・・・昨夜の事、覚えているのか・・・?」
『・・・あの、断片的に・・・』
煉「むぅ、そうか・・・」
『わ、私・・・酔ってました!・・・よね?』
煉「・・・よもや、あそこまで乱されるとは・・・」
そう言って、片手で口元を隠して視線を外す。
『!!』
あの、煉獄さんが・・・
いつでも爽やか明朗快活な、煉獄さんが・・・
気まずそうに顔を背けるなんて・・・
ああ
やっぱり
私が、嫌がる煉獄さんを無理矢理・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ああああああああ!!!』
ガバっと起き上がる。
息が上がった胸を押さえながら下を向く。
あれ、布団・・・かけてる。
鱗「気がついたか?」
『あ・・・鱗滝さん。私・・』
鱗「頭を強く打って気を失っていたのだ。大分うなされていたし、気分が悪い様なら医者を呼ぶが?」
『い、いえ・・・大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません・・・』
鱗滝さんに心配をかけてしまった。
初日から私は何をやっているんだ・・・
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煉「・・・・・・」
蜜「・・・煉獄さん?」
煉「! 何だ?甘露寺?」
蜜「・・・お料理来てますよ?食べないんですか??」
煉「む!そうだったか!!いただきます!!」
蜜「・・・・・・」
そうだった!
新たな任務が入り甘露寺と共に向かう道中で定食屋に入った所だった。
煉「うまい!うまい!」
蜜「・・・美桜ちゃんと何かあったんですか?」
煉「うま!?・・・ごほっ!」
蜜「えっ!?あっ!ごめんなさい!!私ったら食事中に・・・」
煉「・・・いや、気にしないでくれ」
お茶を啜り落ち着かせようとするが、一度美桜の名前を聞いてしまうと昨晩の出来事を思い出さずにはいられなかった。
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『ん・・・』
二口目の酒を口移しで飲ませ、顔を離す。
美桜の頬は紅潮し、目も虚ろになっている。
煉「美桜・・・先程の件だが、俺は」
『杏寿郎さん』
煉「?」
紅潮した頬に触れると、そこに美桜の手が重ねられる。
『・・・もう、おしまいですか?』
煉「っ!」
潤んだ瞳にゾクっとする。
煉「美桜・・・」
両手で、頬を包み込むように触れると、美桜も俺の両頬を包み込んでくる。
『杏寿郎さん・・・』
そして、美桜から顔を近づけてくる。
こんな事は初めてで、柄にもなく緊張してしまう。
目を閉じ、美桜を受け入れようとした時ーー
『お酒はもうないんれすか??』
!?
顔のすぐそばで聞こえた言葉に耳を疑った。
思わず目を開くと美桜の瞳は虚ろ・・・というか据わっていた。
ただならぬ様子に咄嗟に酒瓶を背後に隠す。
目敏く美桜が反応する。
『んっ?何か隠したれしょ??』
煉「いや、何も・・・」
『んん〜??』
しまった、と思った。
煉「・・・そうだ美桜!明日から鍛錬が始まるだろう!もう休んだ方がいい!!」
『や!もっと杏寿郎さんといるぅ〜!』
そう言ってしがみついてくる。
美桜は酔うと距離感が近くなるな・・・
煉「っ!!そうか!では酒はもうないのでお茶にしよう!俺が淹れてくる!!」
酒を背中に隠したまま立ち上がる。
これ以上飲ませると明日に響いてしまうな・・・
元の場所に戻すと美桜が見つけて勝手に飲んでしまうかもしれない。
正気に戻るまでひとまずは部屋に隠してしまおう。
一度自分の部屋に戻り掛けていた炎柱の羽織の裏に隠す。
煉「・・・俺は一体何がしたいのだ・・・」
大きなため息を吐く。
美桜が酒に弱いことは知っていた。
それなのに、飲ませた。
何故か
自分も酒に酔っていたから、正常な判断ができなかった?
違う
・・・今の美桜の本心が知りたいと思ってしまったからだ。
美桜は普段思っている事があっても俺に遠慮してか中々話そうとしない。
だが過去2回、酒に酔った時本音を零した。
煉「・・・狡いな。俺は」
何と浅はかな行動をしてしまったのだろう。
聞きたいことがあるならば、正面から直接聞くべきだった。
そして美桜が自分から話してくれるのを待っていればよかったのだ。
『・・・杏寿郎さん?』
部屋の外から美桜の声がしてハッとする。
そうだ、お茶を淹れると言って待たせたままだった。
煉「すまん、これからお茶を淹れに行く・・・ムッ!?」
そう言って戸を開けると、美桜が勢いよく俺に向かって飛び込んできた。
『・・・・・・』
煉「美桜?どうした??」
『お茶はいいです。その代わり・・・』
煉「?」
胸元にしがみついたまま、顔だけをこちらへと向ける。
『杏寿郎さんがしたい事をしましょう?』
煉「!?」
心臓がドクンと跳ねた。
煉「・・・何の事だ?」
『とぼけないでください。私ちゃんと知ってるんです。宇髄さんに聞きましたから』
煉「・・・・・・」
・・・宇髄からだと?
また美桜に何を吹き込んだのか・・・
眉間に力が入る。
『・・・私がお相手では、嫌・・・ですか?』
そんな俺の表情を見た美桜が切なげな瞳を向けてくる。
煉「!! そうではない!美桜以外で考えた事もない!・・・だが、」
美桜の両肩に手を置き、しっかりと向かい合う。
煉「・・・良いのか?酒に酔った勢いでする事ではないぞ?」
『杏寿郎さんさえ良ければ、私はいつでも大丈夫ですよ?』
煉「ッ!!・・・」
普段の美桜からは考えられない積極的な言葉が次から次へと発せられ、戸惑いを隠せない。
これも・・・本心、なのか・・・?
煉「・・・分かった。俺も手慣れという訳ではないが出来る限り優しく・・・」
『遠慮なんていりません!思い切り来てください!!さぁ!早速やりましょう!!』
煉「!?」
そう言うや否や俺の着物の帯を思い切り掴む。
煉「っ!? 美桜、何を・・・」
『お相撲れす!!杏寿郎さん、好きなのでしょう?よく隊士の方とやっていると聞きました!!』
煉「!!」
よもや!!
『いきますよ!!はっけよーい、のこった!』
煉「・・・・・・」
合図と同時に俺の体を押し始める。
確かに、藤の花の家紋の家などで隊士を相手に相撲を取った事はあるが・・・
先程までの甘い空気はどこへ行ったのだ・・・
美桜に乱暴な真似をするつもりは毛頭ないし、かと言って美桜が俺に押し勝つ事もないだろう。
どの様にこの場を収めようか思案していると
『どっせい!!』
美桜が素早い動きで俺の足を払う。
煉「!?」
瞬間、体が宙に浮く感覚がする。
そして気がつくと俺の身体は床に倒れていた。
煉「な・・・」
あまりの事に言葉が発せない。
今、俺は美桜に二丁投げをされたのだ。
・・・呼吸を使って・・・
だが俺の体重に耐えられる訳はなく、体制を崩した美桜が俺の上に倒れ込む。
『ッ!!・・・いたた・・・』
煉「! 美桜、どこか怪我でも・・・!?」
ゆっくり起き上がる美桜に顔を向けると、今の動きで着物が着崩れ胸元の合わせが緩くなっていた。
更に俺の腹に跨るよう座っている為、裾から白い足が露わになっている・・・
いかん。
・・・どうにも目のやり場に困る。
煉「・・・美桜、一回落ち着こう。まずは俺の上から・・・」
『あ、見〜つけた♡杏寿郎さんの嘘つき。お酒あるじゃないれすか』
煉「!!」
倒れた拍子に掛けていた羽織が落ち、酒瓶が見つかってしまった。
煉「美桜、これ以上飲むと明日立てなくなってしまうぞ?今日はこの辺にして・・・」
ガバッと起き上がり、美桜を膝の上に座らせて説得を試みるが
『大丈夫れす!!私、こう見えてお酒強いんれすから!』
どこがだ!?
煉「とっとにかく!酒はまた今度にしよう!」
『・・・むぅ〜』
美桜は両頬を膨らませて不服そうだ。
可愛いがここで折れる訳にはいかない。
煉「さぁ、今日の所は部屋へ戻って休みな・・ッ!?」
最後まで伝える事が叶わなかった。
なぜなら、俺の唇は美桜によって塞がれたからだ。
煉「・・・」
暫くして顔が離れていく。
『・・・そんな淋しい事言わないでください。今日はずっと一緒にいたいんです』
駄目だ
クラクラする。
これではどちらが酔わされているのか
先程から美桜の行動や言動で簡単に心が乱される。
『だから・・・』
美桜がスッと立ち上がる。
『今日は朝まで飲みましょう!!』
煉「なっ!?」
言うが早いか、いつの間にか酒瓶を手にしていた。
煉「っ!!・・・駄目だ、美桜・・・やめなさ・・ああっ!」
俺の制止も聞かず、酒瓶を傾けてしまった。
『・・・・・・・・・・』
煉「・・・美桜?大丈夫か??」
酒を口にしてから俯いて黙り込んでしまった。
気分でも悪くなったか?
これでは明日からの訓練は無理だな。
・・・元はと言えば俺の責任だ。
元水柱殿には申し訳ないが訓練の日程を変更してもらおう。
煉「美桜、明日は家でゆっくり休むと良い。冨岡には俺から伝えるので訓練はまた・・・」
『駄目です!』
煉「!?」
『訓練は休まないっ!早く・・・早く強くならないと・・・』
煉「・・・何故、早く強くなろうと思うのだ?」
美桜は鬼殺隊士ではない。
今は自分の身さえ守れれば良いのだ。
『私が強くないと・・・また守れなくなる・・・』
煉「・・・守る?誰をだ??」
背を向けていた美桜がこちらへゆっくり振り返る。
煉「・・・・・・」
美桜・・・なのか?
あの時の、銃を手にした時の表情をしていた。
『・・・』
そして、静かに口を開いた。
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鱗「もう動いて良いのか?」
鱗滝さんが心配そうに声を掛けてくる。
『はい!ご心配をおかけしてすみませんでした』
鱗「そうか・・・」
今日の訓練は(私のせいで)中断になってしまったので、夕飯の支度に取り掛かっていた。
居候の身としては出来ることはやらないと!
『・・・・・・はぁ』
・・・駄目だなぁ、私は
『早く、強くならないといけないのに・・・』
最初は、ただ皆の足を引っ張らない様にとか、伊黒さんを見返してやりたいとか、そんな気持ちで体を鍛え始めた。
なのに、いつの間にか強さを追い求める様になった。
自分の身を守るだけじゃ駄目なんだ。
ちゃんと、守れるようにならないと・・・
どうしてかは分からないけれど、使命感のような物が私の中に宿っていた。
『呼吸は教えて貰ったけど・・・ただ訓練しているだけじゃ駄目なんだろうな・・・』
料理をしながら、深くため息を吐いた。