寸進と弟
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先日の取引の時に分かった事がある。
し「桐原?」
『はい。どうやら、私の苗字みたいです』
今日はしのぶさんの定期検診だ。
最近の出来事を全て報告する。
私に弟がいる(と思う)こと。
町で男の人を取り押さえた時のこと。
そして、銃の扱いと脳裏で繰り広げられた後藤さんとの会話。
そこで私は桐原と呼ばれていたこと。
し「・・・そうですか・・・」
『しのぶさん?』
腕を組んで難しい顔をするしのぶさん。
あれ?てっきり凄いですね〜って褒められるかと思ってた・・・
し「美桜さん・・・実は任務同行について新たな提案が持ち上がっています」
『え?』
煉獄さんからは何も聞いてないけど・・・
そんな私の顔を見て、
し「私と宇髄さん、そして煉獄さんは大反対しているのですが・・・悲鳴嶼さんが、美桜さんの記憶を戻すにはより強い鬼へ接触させるのが良いのではと・・・」
『より、強い鬼・・・』
し「ええ・・・今までは血鬼術も使えない様な低級の鬼への接触しかしてきませんでしたが、本来柱が相手にする様な任務ではないのです」
それを私の為に必ず柱を2人体制にして任務にあたってきたが、それでは本来の任務に支障が出てくる。
つまり、“私に合わせた任務”から“柱の任務に私が同行する”形に変えるということ。
し「悲鳴嶼さんたちの言い分も理解は出来ますし、少しずつ美桜さんの記憶も戻ってきています・・・ですが・・・」
しのぶさんは慎重に言葉を選んでいる。
『わかりました。』
し「え?」
『私も・・・少しずつ、記憶が戻ってきている実感はありますが、決定的な所はまだ思い出せません。それにはより強い刺激が必要という事ですよね?』
し「それは、そうなのですが・・・」
『気にかけてくださってありがとうございます。でも、私が記憶を戻した時に立ち向かうべきは“より強い鬼”の方ですよね。荒療治かもしれませんがいつかは向き合わなければいけない問題です。それが今なんだと思います。』
し「・・・そう、ですか・・・。美桜さんが決めたのならば私達に止める権利はありませんね」
・・・・・・?
蝶屋敷から家に戻り、煉獄さんに先程のしのぶさんとのやりとりを伝える。
煉「・・・そうか。美桜が自ら出した答ならばそれに従わざるを得んな・・・」
・・・どうして、しのぶさんも煉獄さんもそんなに苦しそうな顔をするのだろう?
その時の私には理解出来なかった。
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伊「俺は反対だ」
『ええっ!?』
任務同行中。
今日は伊黒さんと冨岡さんが一緒だ。
反対してるのってしのぶさんと宇髄さんと煉獄さんって言ってたけど・・・伊黒さんも!?
伊「今でさえ足手纏いの貴様がより強い鬼の任務だと?身の程を弁えろ」
『・・・あぁ、違う意味の反対ね・・・』
伊「何だと?」
『いえ、何でも』
いけない。
伊黒さんにはつい思った事を口に出してしまう。
ていうか、最近伊黒さんの任務同行率高くない?どうやって決めてるの??
伊「・・・俺は柱になって日が浅いからな。子守を任される事が多いのだろうな。でなければ俺が好き好んで貴様と行動を共にする筈がないだろう」
『!?』
今、口に出してなかったのに・・・
心読める柱多すぎだよ
そして慣れたけど口悪すぎだよ・・・
逆に滅多に会わない悲鳴嶼さんはやはり重要な任務につく事が多いみたい。
伊「冨岡はこの件についてどう思っているのだ?」
冨「・・・俺(の気持ち)は関係ない」
冨岡さんの一言に空気がピリッとする。
伊「・・・貴様。真面目に考えているのか?」
冨「・・・・・・」
答えない冨岡さんに伊黒さんメッチャ怒ってる。
もー仲良くしようよ・・・
冨「そんな事より美桜。」
伊「そんな事よりだと!?」
『うえっ?はい??』
だから私挟んで喧嘩しないでよ・・・
冨「明日からしばらく家に来い。」
・・・・・・
『・・・え、なん 伊「貴様いきなり何を言い出す?」
冨「・・・俺が美桜を見る。美桜の為だ」
・・・・・・
『・・・どういう 伊「おい、ふざけるのも大概にしろ。此奴はこんなでも一応杏寿郎の婚約者だぞ?俺は認めていないがな!」
ちょっと伊黒さん煩いな!!
しかもかなり失礼な発言ぶっ込んでるからね!
冨「・・・・・・」
で黙るんかーい!!!
冨伊「「・・・鬼の気配がする」」
『!!?』
そのまま目の前に鬼が出現。
私は茂みに隠れる間も無いまま伊黒さんが素早く鬼を斬った。
『・・・・・・』
伊「フン、やはり低級の鬼だな。全く張り合いのない任務だ」
冨「・・・では行くぞ美桜」
そのまま私の腕を取り山を下り始める義勇さん。
美桜 伊黒『「待て待て待て!!」』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
煉「うむ!全く意味がわからん!!」
結局あの後義勇さんの謎の提案に対して明確な説明が得られないまま私を連れて行こうとするので、埒が開かないと判断した伊黒さんが義勇さんを強引に引っ張って煉獄さんの屋敷に連れてきた。
そして今は悲鳴嶼さんの到着を待っている。
というのも、途中で義勇さんの口から悲鳴嶼さんの名前が出たからだ。それも説明が下手くそすぎて意味が分からなかったので本人に聞いた方が早いと伊黒さんが鴉を飛ばした。
煉「冨岡!一体どういうつもりだ?美桜は俺の婚約者だぞ!!それを俺の断りなく家に連れて行くだと!納得のいく説明をしろ!!」
伊「杏寿郎の言い分は最もだ」
煉「しかも何故冨岡の元に行く事が美桜の為になるのだ!?」
冨「・・・・・・」
伊「貴様、だんまりを決め込むつもりか?」
2人から滅茶苦茶責められてますけど、当の本人はボーッとしている。
『あの・・・もしかして、より強い鬼の任務に関係してます?』
そういえばあの話の流れからこんな展開になったよなぁと思い出す。
冨「・・・ああ」
煉「それが冨岡とどう関係が?」
冨「・・・美桜に呼吸を教える」
!!!?
・・・・・・
『・・・私に、呼吸を??』
義勇さんの言葉に2人は何かを察したようで急に黙り込む。
私だけが話についていけてない。
悲「美桜には新たな任務までにある程度呼吸が使える様稽古をつけろと俺が冨岡に指示をした・・・」
そこに悲鳴嶼さんが現れる。
煉「・・・何故冨岡なのだ?」
伊「此奴に一番合っているのが水の呼吸という事か?」
悲「うむ。以前冨岡の呼吸が真似しやすいと言っていたのだろう?」
『た、確かに言いましたが・・・でも、』
あくまで私が見てきた呼吸の中ではの話で、自分に合っているとは思えなかったけど・・・
悲「水の呼吸は初心者向けの呼吸でもある。呼吸の基本形とも言える。まずは全集中の呼吸の仕方を覚えるのだ。それが次の任務同行への条件だ」
煉「・・・そういう事か。冨岡の説明じゃ全く分からなかった!」
伊「そんな説明下手くそな冨岡が物覚えの悪そうな此奴に稽古なぞつけられるとは思えんが?」
悲「・・・冨岡が教える訳ではない」
『え?』
冨「・・・教えるのは俺の師である鱗滝左近次だ」
冨岡さんの師匠の鱗滝さんは普段は狭霧山に住んでいるという。
今回、冨岡さんの屋敷に来てわざわざ私に呼吸を教えてくれるのだそう。
悲「鱗滝殿は元水柱だ。引退した後も育手として鬼殺隊を支えてくださっている」
『そんな凄い人が・・・』
煉「しかしそれならば冨岡の元に通えばいいだろう!何故住み込みなのだ!」
悲「事は急いている。悠長に構えている時間はないのだ。煉獄、お前も分かっているはずだ」
煉「!! むぅ・・・」
伊「・・・話は理解した。此奴に呼吸を会得できるとは思えんがせいぜい足掻いてくると良い」
そう言い残して伊黒さんは帰って行った。
悲「美桜。大変だろうが呼吸を覚える事に損はない。鱗滝殿の元で精進してきなさい」
『は、はい・・・』
それから冨岡さんのお屋敷には明日からお世話になる事が決まった。
2人が帰り、煉獄さんと2人になった。
煉「・・・・・・」
煉獄さんは難しい顔をして黙ったままだ。
『・・・杏寿郎さん。私、朝ごはんの準備をしてきますね』
煉「いや、夜通し任務で疲れているだろう。俺のことは気にせず美桜は休みなさい」
『いえ・・・何だか寝付けそうにないので』
それに、
『明日からしばらく帰って来られないので、眠ってしまうのが勿体なくて・・・』
少しでも煉獄さんと一緒に過ごしたいと思うのは私の我が儘かな。
煉「! そうか。では俺も今日はひとときも美桜から離れない様に過ごそう!」
『えぇっ!』
ひとときも・・・嬉しいけど、それはそれで心臓がもたないかも・・・
結局あの後朝ごはんを一緒に食べ、掃除、洗濯を終え今はお昼の準備をしている。
煉獄さんは宣言通り掃除や洗濯を私の側で手伝ってくれた。
そのお陰で午前中に全ての家事を終える事が出来た。
煉「美味い!・・・明日からしばらくは美桜の手料理が食べられないのだな」
しょんもりする煉獄さん!
かわいいかよ!!
煉「む?どうした?」
思わず机に突っ伏してしまった私に不思議そうな顔をする煉獄さん。
『いえ・・・お気になさらず・・・』
昼食後、お腹も満たされやる事もなくなった私たちは縁側に座りお茶を飲んでいた。
まったりした時間に流石に睡魔が襲ってくる。
煉「・・・美桜。無理しないで部屋に行って昼寝でもしたらどうだ?」
『だい、じょうぶ、です・・』
だって寝ちゃったら煉獄さんとの貴重な時間が減っちゃうもん。。。
私は半分意地になっていた。
煉「・・・わかった。ならばここで寝なさい」
煉獄さんがポンと自身の膝をたたく。
れ、れんごくさんのひざまくらだと!?
『えっそんな事・・・』
煉「今日は陽射しもあって暖かいからな!風邪をひく事もないだろう!!それにこれならば眠っていてもずっと側にいる事になる!!」
いい考えだ!
と爽やかに言い放つ。
『や、でも・・・まだお茶飲んでるし・・・』
湯呑みを両手でしっかり持ち直す。
時間をかけてゆっくり飲み干そう・・・
こういう時の煉獄さんは折れないのを私は知ってる。
私に出来ることは少しでも時間を稼いで心の準備を整える事・・・
煉「・・・・・・」
隣に座っていた煉獄さんは更に私に近づくように座り直す。
そして湯呑みを持っている私の手に煉獄さんの手が重ねられる。
え?
と、思った瞬間
互いの唇が重なり合う軽い音がした。
『・・・・・・』
余りの不意打ちに私の手から力が抜ける。
煉獄さんの手が重なっていなかったら湯呑みをそのまま落としていただろう。
そして煉獄さんによって湯呑みは私の手から離れていく。
顔を近づけたまま
煉「どうしても寝たくないのなら、目が覚める事をしようか?」
低い声で囁かれる。
む
無理!!
『ねっ寝ます!寝ます!!』
煉「む、そうか?よし分かった!さぁ来なさい!!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そよそよと吹く風が庭の木の葉を揺らしている。
こんなに穏やかな午後を過ごすのは何時振りだろうか。
膝の上では、今し方まで恥ずかしそうに頭をよじっていた美桜が規則正しい寝息をたてている。
煉「・・・全く。何の意地をはっているのか」
フッと笑いながら、目にかかる前髪をよけてやる。
元々童顔だが、眠っている姿は更に幼く見える。
あれだけ眠らないと意地になっていたのに、ならばじっとしているよりも体を動かした方が目が覚めるだろうと素振りに誘おうとすると今度は慌てて眠ると言い出す。
一体何を考えているのやら。
コロコロ変わる表情がたまらなく可愛くて
・・・・・・
できる事ならば、危険に晒したくはない。
この家に、俺の元に閉じ込めておきたいというのは歪んだ愛情なのかも知れない。
煉「・・・・・・」
あの時・・・取引現場で銃を手にした美桜は、まるで別人の様だった。
姿形は美桜だが、纏う雰囲気や表情が急激に大人びた様な錯覚を起こした。
そしてほんの一瞬ではあったが、俺と悲鳴嶼殿は見逃さなかった。
銃を撃つ瞬間。
美桜は間違いなく呼吸を使っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーあっ!
フフ、一本取った。これで私の連勝記録更新ね。
くっそー!!大人気ないぞ!少しは手加減しろよな!!
・・・あのね、私ごときに勝てないようじゃ、アンタの夢なんて叶いっこないのよ?
・・・ちくしょう・・・
俺、強く、なりたい・・・
・・・大丈夫。アンタは父さんの息子で、私の弟なのよ!強くならない筈がないでしょ!
ほら立って。そんな事で泣かないの!
ばっ!泣いてねーし!!
ちくしょう!もう一回勝負だ!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
深い深い沼の中から少しずつ現実に引き戻されて行く。
何だか、懐かしい夢を見ていた気がする。
『・・・・・・』
煉「む、目が覚めたか?」
『!!』
そうだった!!!
私、煉獄さんの膝枕で寝ちゃったんだ!!!
『ごっごめんなさい!!!』
煉「何故謝る?」
『いえ、重かったですよね・・・足痺れてませんか?』
煉「俺の膝はそんなにやわではないぞ!」
慌てて飛び起きる私に
カラカラと笑う煉獄さん。
『わ、私どれ位寝てました・・・?』
煉「む?1時間も寝ていないぞ」
そう言われて部屋の柱時計をチラリと見る。
確かに、時計はまだ3時前を指していた。
私はうーんと一回大きく伸びをする。
煉「もう少し眠るか?」
『いえ、少し眠ってスッキリしました。・・・そうだ、食糧を買い出しに行かないと』
煉「今日の夕飯か?」
『はい。今日はせっかくだから杏寿郎さんの食べたいもの何でも作ります』
煉「! そうか、楽しみだ!では行こうか!!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
魚「らっしゃい!!新鮮な鯛が入ったよ!どうだい旦那!!」
煉「む、鯛か!どれ、見てみよう!!」
あれから2人で町に出てきた。
煉獄さんはあれにしようかこれにしようかと食材を見ながら今日の夕飯の献立を真剣に悩んでいる。
可愛い姿に頬がついつい緩んでしまう。
思い返してみれば、煉獄さんとこんな生活感のある買い物に来るなんて初めてだ。
煉獄さんは魚屋のおじさんと談笑している。
私は少し離れたところでそのやりとりを見ていた。
『・・・・・・』
幸せだなぁ。
鬼がいない世の中になれば、鬼殺隊の役目が終わればこの幸せが当たり前になるのかな。
?「おい」
『??』
聞き覚えのない声に振り返ると、そこにはやはり見覚えのない男の人。
男「やっと見つけたぜ・・・」
『? えっと・・・?』
男「!?覚えてねぇのか?」
驚いた顔をされる。
どこかで会った事ある人・・・?
何て答えようか困った顔をすると、
男「テメェとあのガキのせいで俺たちはヒデェ目にあったんだよ!忘れたとは言わせねぇぞ!!」
『・・・あ!!』
この前の食い逃げの人だ!!
男「丁度いい。あん時の落とし前つけさせてもらおうか?」
『・・・落とし前も何も貴方達が悪い事するからいけないのでしょう?』
男「あぁ!?いいからこっち来いやァ!!」
『!?』
プイッとそっぽを向き相手にしない素振りをすると男の人は強引に私の腕を掴み路地裏へ連れて行こうとする。
咄嗟に振り解こうとするけれど強い力で掴まれている為敵わない。
男「っ!!?」
煉「俺の連れに何か用か?」
男の腕が後ろに捻られた事で私の腕が解放される。
私と男の間に素早く煉獄さんが入り込む。
一瞬の出来事だった。
煉「女性に対して随分と手荒な真似をする。話があるなら俺が聞こう!」
男「・・くそっ!離せ!!」
男は煉獄さんの手を振り解き、そのまま路地裏へと走って行った。
煉「・・・美桜。怪我はないか?」
『は、はい・・・杏寿郎さん。ありがとうございます。』
煉「ああ!美桜もあまり相手を挑発しない方が良いな!俺がいなければどうなっていたか・・・分かるだろう?」
『・・・はい。ごめんなさい』
真剣な眼差しで嗜められる。
本当に、煉獄さんがいなければ怖い目にあわされていた事だろう。
想像すると恐怖で身震いする。
煉「うむ、気をつけなさい。」
俯いてしまった私の頭を優しく撫でる。
煉獄さんの暖かい手に触れられると震えも止まる。
いつもそうだ。
この手はいつも暖かくて、私を安心させてくれる。
煉「さぁ、食糧も調達できた事だし帰るとしよう!」
私の頭から手が離れると、荷物を持ち直してそのまま歩き出す。
気づけば煉獄さんは両手いっぱいに荷物を抱えていた。
『きょ、杏寿郎さん。その荷物は・・・』
煉「うむ!買い物をしていたら色々おまけをつけてくれてな、大荷物になってしまった!」
さすが煉獄さん。
千ちゃんも私も買い物してておまけしてくれる事はあるけど、その比じゃない。
むしろおまけの方が多いんじゃないか。
想定以上になった食材をどう調理しようか考えながら帰り道を歩く。
と、家の前に誰かが立っているのが見えた。
洋装した長身の男。
煉「!」
『あっ』
男〈やぁ、美桜!〉
私たちに気がついた男がこちらを振り向く。
先日の取引で私に勝負を仕掛けてきた交渉人の1人で確か名前は・・・
《トーマスさん!?どうしてここに?》
ト〈君がここに住んでいると聞いて来たんだ!〉
《私に何か用事が??》
ト〈先日の一件で僕は君の事が気に入った!君の事をもっと知りたいと思ってね〉
そう言って交渉人1、もといトーマスさんは私の手に口付けを落とす。
煉「!?何をする!」
ト〈おや、君はこの前の護衛だよね?どうして一緒にいるんだい?〉
トーマスさんの行動に驚いた煉獄さんが声を上げるとトーマスさんも反応する。
《あの、ここは彼の・・・煉獄さんのお家です。私はここに住まわせてもらってて・・・》
ト〈ホームステイをしているのかい?〉
《いえ・・・実は・・・》
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ト〈フィアンセ!?美桜と彼がかい?〉
《ええ・・・》
なんか改めて言うのって恥ずかしいなぁ。
立ち話も何だからと、客間に招き入れお茶を出す。
ト〈そうか・・・〉
煉「む?何だ??」
トーマスさんはジッと煉獄さんを見る。
言葉の分からない煉獄さんはキョトンとしている。
今のやりとりを改めて煉獄さんに説明しようとすると
ト「君は美桜を幸せに出来るのカイ?」
煉「!」
『えっ!トーマスさん、日本語・・・』
ト「日本でビジネスをしているんだ。少しなら出来るヨ。・・・デ、どうなんだ??」
煉「・・・そのつもりだが。何故その様な事を聞く?」
ト「それは勿論、僕が美桜を欲しいからだよ」
煉「っ!!?」
『へっ?』
トーマスさんの爆弾発言に固まる。
ト「君の交渉力、観察力、そしてピンチにも物怖じしない度胸。全てが気に入った!こんな女の子に出逢ったのは初めてだ!なにより君はとても愛らしい」
『や・・・で、でも・・・』
ト「・・・しかし、フィアンセがいるのは想定外だったよ。・・・そうだ、君」
煉「何だ?」
ト「美桜を賭けて僕と勝負しないか?」
煉「!?何だと・・・」
ト「フィアンセとは言うが立場は恋人だろう?美桜との結婚を僕も申し込むよ。」
煉「・・・・・・」
『・・・・・・』
な、何だこの展開・・・
トーマスさんの話の展開の速さに流石の煉獄さんも付いていけてない様だ。
勿論、私も頭が追いつかない。
ト「・・・まぁ、今日の所は僕の気持ちを伝えに来ただけだから。勝負の話は考えておいてくれ。」
すっかり黙ってしまった私たちにフッと笑い立ち上がる。
ト「外も暗くなってきたし、今日は帰るよ。美桜、また会おうネ」
そしてトーマスさんは帰って行った・・・
煉「・・・・・・」
煉獄さんは黙り込んでしまった。
『あ、あの・・・わ、私はご飯の準備を始めますね』
何となく居た堪れなくなり、逃げる様に厨房へ行き食事の支度をする。
・・・トーマスさんは本気なのだろうか・・・
そうなのだとしたら、私もその想いに対してちゃんと向き合うべきだよね。
勝負とか言ってたけど、そんな事して欲しくないし。
今度会った時にちゃんと伝えないとなぁ、とふぅとため息をついた時
煉「美桜。」
煉獄さんが厨房に顔を出す。
振り返ると隊服を着ていた。
煉「少し出てくる。遅くならない内に戻る。」
そう言い残して出て行った。
『え・・・?』
どこに行ったのだろう?
隊服を着ていたから任務が入ったのかな・・・
遅くならない内に戻るって言ってたけど・・・
食事の準備が終わる頃になっても、煉獄さんは戻って来ない。
明日から暫く冨岡さんの所へ行かなくちゃいけない。
・・・今日は出来る限り一緒にいたかったなぁ。
料理が出来上がって1時間後、煉獄さんは戻ってきた。
煉「美味い!美味い!」
『お口に合って良かった』
煉「美桜が作ってくれるものは何でも美味いぞ!・・・わっしょい!!!」
そう言ってさつまいもご飯を頬張る。
どこに行ってきたのか、何をしに行ったのか気になったけれど、煉獄さんが何も言わないので聞かなかった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
食事の片付けも終わり、お風呂から上がると縁側で煉獄さんが涼んでいた。
『・・・杏寿郎さん、お酒・・・?』
煉「ん?ああ・・・久しぶりに任務のない夜だから、たまにはと思ってな。」
そう言ってポンポンと自分の横の床を叩く。
私は促されるままその隣に静かに腰掛ける。
何か、前にもこんな場面があった様な気がするなぁ。
煉「・・・たまにはこういう一日も良いな」
『?たまには??』
煉「うむ!任務もなく、一日美桜と過ごせるのは中々ないからな!今日はとても楽しかった!!」
『杏寿郎さん・・・私も、今日はずっと一緒にいられて嬉しかった、です・・・』
煉「・・・・・・」
静かに盃を置く。
その手がそのまま私の手に重なる。
『・・・・・・』
いつもこの瞬間は私の心臓の音がうるさい。
私の頬に触れて、目を細め寄せる艶っぽい表情に金縛りにあったかの様に動けなくなる。
目を閉じるのを合図に唇が重なる。
いつもの流れだけれど、一つだけいつもと違う。
『・・・お酒の味がする』
煉「む!すまん!!」
唇が離れ、慌てる煉獄さん。
そんなに慌てなくてもいいのに。
『フフッ!』
煉「よもや・・・酔わせてしまったか?」
『まさか。そこまで弱くはないですよ?』
煉「フッ、一口で泥酔していたのに?」
『うっ、だからもう飲みませんよ・・・』
煉「・・・そうか、それは少し残念だな」
『えっ?だって、』
もう飲まない方が良いって言ったの煉獄さんだよ?
煉「うむ。確かに言った・・・だがそれは父上や宇髄など他の男にはみせたくないという意味だ」
『??』
煉「俺の前だけでなら」
そう言って盃を傾けて、再び口付けを落とされる。
唇が重なると同時に液体が流し込まれる。
『んっ!?』
煉獄さんによって運ばれたお酒をコクンと飲み込む。
入りきらなかった分が口の端から零れるのを、長い指に掬い取られる。
煉「乱れてくれても構わない」
その艶やかな声に、瞳に、仕種に、
身体の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じた。