寸進と弟
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ある晴れた昼下がり
現炎柱の道場では派手な音が響いていたー
ビターン!!
ドターン!!
ま「ほらほら、すぐ立ち上がる!!」
『うっ・・・はいっ!!』
今日はまきをさんから訓練を受けていた。
何をしているのかと言うと、まきをさんにひたすら投げ飛ばされ私はひたすら受け身をとり続けている。
くノ一の3人の訓練は三者三様で、まきをさんの訓練が一番厳しかった。
正にスパルタ。
『うっ!!ケホッ!』
上手く受け身を取れず咳込んでしまう。
煉「美桜!」
煉獄さんは訓練の様子を心配そうに見守っている。
ま「まだ休憩じゃないよ美桜!!」
『はっ、はい!!』
まきをさんの叱責に何とか立ち上がり、再び向かって行く。
グルンと視界が反転する。
ビターン!!
『あぅっ!!』
3回に1回は受け身を取り損ねてしまう。
激しい痛みが全身を襲う。
ま「集中しろ!確実に受け身を取れるようになれ!!」
『・・・っはい!』
煉「・・・まきを殿。もう少し手柔らかにできないか?」
煉獄さんがオロオロしてまきをさんに訴える。
まきをさんはキッと煉獄さんを睨み付け
ま「美桜の為です!見ていられないのでしたら席を外してください!!」
メッチャ怒られた。。。
煉「・・・よもや・・・」
凄い、煉獄さんを黙らせた。
ま「ほら、さっさと立ち上がる!!」
『ひっ!ひゃい!!』
反射的に立ち上がり、ヨロヨロしながらもまた突撃しては投げられるを繰り返した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『っ!いたぁ〜・・・』
受け身地獄の訓練を終えた私は打ち身に効く塗り薬を塗っている。
ま「美桜、大丈夫か?」
そこにまきをさんが入ってくる。
『は・・・はい。何とか・・・』
ま「派手にぶっ飛んでたからね。ほら、背中塗ってあげるよ。貸しな。」
訓練じゃない時のまきをさんは優しい。
私の手が届かない背中に薬を塗ってくれる。
ま「こりゃ、アザになるね・・・もう少し手加減した方が良かったか?」
声のトーンが落ちる。
やり過ぎてしまった、と反省している様だ。
『いいえ、私の身体能力の問題です。厳しい位で丁度いいんです』
そうしないと、強くなれない。
ま「・・・美桜、アンタは偉いね。」
『え?偉いですか??』
ま「ああ。訓練中は泣き言を一度も言わないし、私達が言った自主訓練の内容も休まず続けてるだろ?」
なかなか出来る事じゃないんだよ。
自信持ちな!!
そう言って頭を優しく撫でられる。
『・・・えへへ』
褒められて、へにゃりと笑う。
ま「!美桜、アンタは本当可愛いね。妹が出来たみたいだ」
『!!』
まきをさんの言葉にバッと顔を上げる。
ま「!?」
『私も・・・まきをさん達と仲良く出来て、その、お姉ちゃんがいたらこんな感じかなぁって思ってたから・・・』
嬉しい。
と、視線を外してポツリと零す。
ま「〜っ!!ホント可愛いな!!よし!私も雛鶴も須磨も今日から美桜と姉妹だっ!!」
『わわっ!痛っ!!!』
ギュッと抱きしめられると打ち身の所が痛んで思わず声をあげてしまう。
ま「あっ!悪い・・・」
『いえ・・・』
パッと手を離す。
そして、お互い顔を見合わせて笑い合う。
身体はしんどいけれど、心強い味方がいる事でもっともっと頑張れる気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
し「呼吸の仕方ですか?」
『はい・・・皆どうやってるのかなって』
今日の任務同行はしのぶさんと伊黒さん。
任務の場所に行く道中、しのぶさんに思い切って聞いてみた。
し「美桜さんは呼吸が使える様になりたいのですか?」
『使いたいっていうか・・・もしかしたら、私も何かの呼吸を使ってたのかもって思って・・・』
し「成程。そういう事ですか」
『ここ最近、皆さんの呼吸を観察して真似てみたりしたのですが・・・悲鳴嶼さん、煉獄さんの呼吸は苦しくなって真似出来ませんでした・・・』
特に悲鳴嶼さんのは死ぬかと思うくらい咳込んだ。
伊「・・・・・・」
『実弥さんと義勇さんの呼吸は真似しやすいけど、ちょっと違う気がして・・・しのぶさんと伊黒さんのは複雑すぎてよく分からなかったです』
し「・・・・・・」
伊「・・・おい、その真似しやすいという冨岡の呼吸を今やってみろ」
『えっ!?今ですか??・・・分かりました』
私はフゥゥと一度肺の中の空気を全て出してから新しい空気を肺一杯に取りこみ、義勇さんの呼吸を思い出して真似してみる。
ヒュウウウウ・・・・・
『・・・けほっ。やっぱりちょっと違うなぁ』
し「・・・・・・」
伊「・・・・・・」
『? どうしました?2人共・・・』
し「冨岡さんの呼吸を見ただけで覚えたのですか?」
『? はい・・・だって、技は見て盗むものだって』
伊「それは杏寿郎の教えか?」
『いえ・・・あれっ?』
ー美桜!教えを乞うてばかりでは成長しないぞ!技とは見て盗むものだ!!ー
『誰だろ・・・槇寿郎さん?でもないな・・・』
あれは誰に言われた言葉だっけ??
伊「・・・まぁいい。」
し「それにしても、見ただけで覚えるというのは凄いことですよ?」
『そうなんですか?』
し「ええ。誰にでも出来ることではありませんよ。最近は山道でも息切れしなくなりましたし、頑張って身体を鍛えているのですね」
『は、はい・・・!』
しのぶさんに褒められた!
嬉しい!!
伊「・・・フン。真似たところで使い物にならなければ意味はない。多少体力がついたからといって調子に乗るなよ」
『・・・・・・』
くっそ!
ネチ柱は今日もご健在ですか!!
し「そういえば・・・あの等々力さんという隊士の方」
ドキッとする。
『あ・・・最近は杏寿郎さんの訓練にも顔を出さなくなってしまって・・・』
煉獄さんの訓練が急に厳しくなったので、今は道場に訪れる隊士は誰もいない。
・・・私の所為、かな・・・
ー杏寿郎さんは私の婚約者なのでっ!個人的にとか、そういうのは、い、嫌ですっー
ーあんまり杏寿郎さんにくっつかないで下さい・・・ー
今思えば、嫉妬心と独占欲丸出しだったわ・・・もっと他に言い方があっただろうに・・・
し「今は冨岡さんに夢中のようですよ?」
『え?・・・はぁっ!?』
心の中で反省していると驚きの情報が入ってきた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
東「等々力さんの事は隊士達の間でも割と有名でしたよ」
後「ああ、なんせ鬼殺隊に入った理由が強くてカッコいい男性に出会いたいからだったしな」
『そ、そうなんだ・・・』
中「俺たちも笑って聞いてたけどまさか柱に、それも婚約者のいる炎柱様に行った時は驚きましたよ」
『・・・。でも、それがまたどうして義勇さんに?』
東「この前の任務で、目の前で鬼を斬って助けて、蝶屋敷まで運んだでしょう?あれがきっかけの様ですね・・・」
・・・成程。
つまり、惚れっぽい性格なのね。
蜜璃ちゃんと似てるけど、行動スタイルが全然違うな・・・
し “全く冨岡さんも、迷惑なら迷惑とはっきり伝えないから・・・”
そういえば、しのぶさんが珍しく怒ってたなぁ・・・。
その後鬼が現れ伊黒さんが斬ったけど、やっぱり独特の呼吸と太刀筋は私には真似出来ないな・・・と確信した。
そもそも、私に合う呼吸なんてものがあるのかな・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『千ちゃーん!』
千「美桜さん!」
『ごめんね、待った?』
千「いえ、俺もさっき着いた所です」
今日は千ちゃんと待ち合わせして、最近出来た甘味屋さんに行く約束をしていた。
本当なら煉獄さんも一緒に来る予定だったけど、任務が入ってしまった。
『杏寿郎さんにはお土産買って帰ろう』
千「そうですね!」
甘味屋さんに入り私はあんみつ、千ちゃんはみたらし団子を注文する。
『美味しい!』
あんみつを一口食べた私が感想を漏らすと、目の前の千ちゃんがフフッと笑う。
『え、何??』
千「美桜さん・・・兄上みたいです」
『えっ!?・・・声、大きかった?』
千「はい。割と」
そう言われて辺りを見廻すと、お店の中のお客さんや店員さんが皆笑顔でこっちを見ていた。
『・・・ッ!ごめんなさい』
千「いえ・・・兄上は迫力もあるので驚かれますが、美桜さんは微笑ましく思われてますよ」
『そ、そうかなぁ・・・』
店「いやぁお姉さんみたいな人がそんな大きい声で美味しいなんて言ってくれたら良い宣伝になるよ!」
と言って、羊羹を置かれる。
千「えっ、これは注文してませんが・・・」
店「おまけだよ。姉弟仲良く食べな!」
にかっと笑って店主は厨房へと消えて行った。
私と千ちゃんは顔を見合わせる。
『あ、ありがとうございます!・・・千ちゃん、私達姉弟だって。嬉しいね』
千「はい!俺は早く美桜さんが本当に義姉上になってくれるともっと嬉しいです」
『っ!』
ブワッと顔が一気に熱くなる。
そんなかわいさ全開の満面の笑みで言わないで!!
甘味を食べて、杏寿郎さんと槇寿郎さんへの手土産をそれぞれ買った私達は町中をブラブラ散歩していた。
すると、先の方で悲鳴が上がる。
「食い逃げだー!!」
「誰か捕まえてぇ!!」
『!?』
千「!?」
そういえば、最近町は治安が悪いってしのぶさんが言ってた・・・。
まさか目の前で事件が起こるなんて・・・
そう考えていると、2人組の男が私と千ちゃんがいる方に向かって走ってくる。
あっ!この人達が食い逃げ犯だ!
犯1「てめぇら邪魔だ!」
犯2「どけぇ!!」
『!!』
男達は私達にそのまま突っ込んでくる。
『・・・・・!』
1人の男は私に拳を振りかざしてくる。
それを紙一重で交わし、男の足元に自分の足をかけ転ばせる。
そのまま派手に転んだ男の腕を捻りあげる。
千ちゃんも同様に、男の腕を取りそのまま背負い投げをする。
犯1「痛ぇッ!!」
犯2「ぐぁっ!?」
騒動を見守っていた町の人たちがワッと歓声をあげる。
そして、何人かの男の人たちが加勢にきてくれ食い逃げ犯達は警察へと連れて行かれた。
『・・・あぁ、ビックリしたぁ〜』
千「えぇ。こんな事あるんですね。」
店「ありがとう!お嬢ちゃん達!!2人共見かけによらず強いんだねぇ!!お礼をさせておくれよ!」
食い逃げされたお店の店主がやってきて、お礼を言われる。
『いえ、そんな・・・』
千「大した事はしていませんから・・・」
丁重にお断りをしたけれど、半ば強引にお礼の品と言ってお土産を渡されてしまった・・・。
荷物が増えてしまったし、これ以上争い事に巻き込まれる前にと散歩を中断して帰る事になった。
千「・・・それにしても、美桜さんがあんなに大きな男の人を取り押さえるなんて驚きました」
『あ・・・これもくノ一の3人に鍛えてもらってるお陰かなぁ』
あはは、と笑う。
・・・あの時、考える前に身体が自然に動いた。
同時に脳裏に浮かんだのは、同じように私に向かってくる男の姿。
顔も、服装も全然違っていたけれど、脳裏の男と目の前の男の姿が重なった時ー私の身体はそうするのが当然かの様に動いていたー
・・・あれは、何だったんだろう・・・
心臓が大きくひとつ、ドクンと波打った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
食い逃げ騒動の翌日、煉獄さんが任務から帰ってきた。
煉「何?食い逃げ犯を千寿郎と?」
『ええ・・・突然目の前に出てきたので吃驚しちゃいました』
町で遭遇した出来事を報告すると、難しい顔をする煉獄さん。
煉「むぅ、そうか・・・。」
『あ、あの・・・?』
煉「とにかく2人に怪我がなくて良かった!だが、あまりいざこざに巻き込まれないように気をつけてくれ。」
俺がいない時に美桜に何かあったらと思うと心配で外にやれんからな!
そう言って頭を優しく撫でられる。
『は・・・はい。気をつけます』
・・・煉獄さんに心配かけちゃったな。
シュンと眉を下げる。
煉「・・・それはそうと、先程任務終了の報告に行った折、あまね様にお会いしてな。美桜に頼み事があるとおっしゃっていた。」
『・・・え?あまね様が・・・私に?』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーそれから3日後ー
私とあまね様は銀座のとある洋館に来ていた。
何でも、海外から鬼殺のための新しい武器を仕入れる為の取引がここで行われるらしい。
私が呼ばれた理由は・・・
あ「美桜様は、英語が堪能でしょう?どうかそのお力をお借りできないものかと」
海外からの武器を仕入れるという事は、取引相手は外国人。
つまり私は通訳としてここに呼ばれたわけだ。
あまね様の護衛として煉獄さんと悲鳴嶼さんが同行している。
私は取引が始まる前に洋館のある一室に呼ばれた。
『・・・これに?私が?』
あ「ええ。美桜さんが通訳者だというのが相手にも分かりやすいように・・・お願いできますか?」
『あ・・・はい』
手渡されたのは薄紫色のワンピース。
袖を通し、髪型もそれに合わせて結ってもらう。
あ「よくお似合いですよ」
『あ、ありがとうございます・・・ワンピースなんて久しぶりで・・・』
足がスースーする・・・。
あ「あら、そうなのですか?」
『・・・はい。多分・・・』
洋服を着た時の感覚は身に覚えがある。
最近は戸惑いながらも自分のそういった感覚や感情を受け入れるようにしている。
あまね様と共に煉獄さん達の待つ部屋へ入る。
煉「!!」
あ「フフ、素敵でしょう?」
私の姿を捉えた煉獄さんの目が大きく見開く。
煉「・・・ええ!どこの御令嬢かと思ったぞ!美桜、よく似合っている!」
『あっ、ありがとうございます・・・』
恥ずかしげもなく大声で褒めてくれるので、逆に私が恥ずかしくなる。
今回の取引がうまく行けば、呼吸を使えない隊士も鬼に対抗出来るようになるかもしれないと告げられる。
『それは、凄いですね!』
ということは、それが普及すれば隠の人達でも自分の身を守ることができるようになるんだ!
握った手に自然と力が入る。
私にうまく、できるかな・・・
しばらくすると、大柄な男の人が4人入ってきた。英国風の出立ちだ。
男の人達はにこやかに私達と握手を交わし、2人は席に着く。
あとの2人はその後ろに並んで立つ。
座った人達が交渉人、立っている人達は補佐役と言った所かな。
それに合わせてあまね様と私が席に着き、悲鳴嶼さんと煉獄さんは後ろに並ぶ。
その様子を見た交渉人の2人は目を見開く。
つい先程まで和やかだった空気が変わる。
ーこれは・・・ー
交1〈まさか女子供が俺たちと交渉する気か?〉
交2〈ウブヤシキは何を考えているんだ?〉
・・・やっぱりね・・・
いつの時代も、国が変わっても、大事な決め事は男の役目。
女は役に立たないというのが権力を持つ男の言い分だ。
私は小さくため息を一つ零す。
悲「・・・あまり歓迎されていない様だな」
煉「む?悲鳴嶼殿はあの者達の言葉が分かるのか??」
悲「言葉は分からなくとも、空気で分かる事はある物だ」
煉「ふむ・・・」
交1〈そもそも、こんな子供に俺たちの言葉が分かるのか?〉
交2〈フッ、今まで交渉してきた男達も、俺たちの言葉をきちんと理解出来なかっただろう。そのお陰で俺たちは儲かるんだけどな!〉
そう言って2人で笑い合い、私の顔を見る。
私もニッコリ笑い返す。
『・・・・・・』
成程ね・・・
この人たちは言葉が通じない事を良いことに必要以上の要求をしてお金を得ていたのね。
彼等は私の態度から言葉が通じていないと思い込んだ様で、今までの交渉の手口をベラベラと話している。
あ「それでは、早速本題に入りましょう」
あまね様の意向を伝えると、交渉人はケースを一つテーブルの上に置いた。
そして、ケースを開くと中から南蛮銃が出てくる。
交1〈これは、ショットガンと言って主に狩猟を目的として使用する銃です。動く標的に対して高い効果が得られます〉
あ「・・・そうですか。それでは、こちらを」
銃を確認したあまね様は悲鳴嶼さんへ合図を送る。
悲鳴嶼さんは持っていた風呂敷を銃の隣に置き、包みを開く。中から石が出てくる。
あ「これは陽光山で採れた猩々緋鉱石と猩々緋砂鉄です。あなた方には、こちらから弾丸を作っていただきたいのです。」
鬼を滅殺させるには、日輪刀が不可欠だ。
その日輪刀の原料となるのが、この鉱石と砂鉄だ。
これを弾丸として加工する事で刀以外の、中距離から遠距離で鬼を滅する為の武器にしようというのだ。
あまね様の言葉を訳して彼等に伝える。
交渉人たちは顎に手を当てて、話を聞いていた。
そして、交渉人同士目配せをすると
交1〈成程、あなた方の言う“鬼”という物はよく分かりませんが、我々の武器を必要としている事はわかりました〉
交2〈我々の持つ技術があれば弾丸の加工は可能でしょう。問題なのはー〉
ー費用面でしょうねー
交1〈輸入費用、加工費用、その他諸々の手数料合わせてーーーードル程はかかるかと〉
費用面の件になると急に早口で捲し立てるように話す。
そして、最後の金額提示で口調を戻し、OK?と尋ねられる。
・・・これが彼等の手口か。
まずはこちらが聞き取れない位の早口で話し、戸惑わせる。
そして、YESかNOの2択で迫る。
恐らく金額もかなり吹っかけているだろう。
きっと英語力に自信がない通訳者は大抵YESと答えてしまう。
こういう場に駆り出される立場の人間は大抵プライドが高い。聞き返したり、分からないとは言えない。そんな心理を上手く利用するのだろうなぁ。
交2〈どうですか?お嬢さん?〉
『・・・・・・』
あまね様に向こうの提示する金額を伝える。
あ「そうですか・・・その金額だと量産するのは難しいですね」
表情が曇ってしまう。
『・・・あまね様。私から少しお話してもよろしいですか?』
あ「! ええ。よろしくお願いします」
今まで通訳に専念していた私はあまね様に了承をいただき、口を開く。
《・・・答える前に、質問してもよろしいですか?》
交1〈!?〉
《その金額の根拠を示してください》
交2〈根拠だと!?〉
《ええ。私達は銃を1から作って欲しい訳ではありません。“既存の銃”に込める“弾丸”の加工を依頼しているのです。しかも、原材料はこちらで既に用意しています。》
交1〈・・・・・・〉
《あなた方は先程“我々の技術なら加工は可能”とおっしゃいました。つまり、新しい設備投資にかかる費用はないと認識しています。》
交2〈なっ!?〉
《この銃1丁でーーードルでしょう?ならば、その弾丸は高く見積もってもーードル。加工費用、輸入費用、その他諸々入れたとしてもーーードルが良い所かと。》
交1〈この銃が何故ーーードルだと思うのです?〉
私の意見を聞いてやっと出た質問に驚く。
まさか気づいていないのか・・・
《・・・そのケースに値札が入ったままですよ》
交2〈なっなに!?〉
交渉人達は慌ててケースの中身を確認する。
まさか原価を取引相手に知られてしまうような失態をするなんて・・・。
日本人が相手だからと完全に舐めていた証拠ね。
《さて、それを踏まえてもう一度尋ねます。その金額の根拠を示して下さい。》
部屋にしばし沈黙が訪れる。
交渉人の1人が苛立った様子でテーブルを叩いて立ち上がる。
交2〈・・・クソッ!このガキ、女の分際で生意気だぞ!!〉
私に向かって吠え、懐に手を入れる。
すると後ろの煉獄さんが刀に手をかける。
それを悲鳴嶼さんに制される。
《・・・・・・》
懐に手を入れた男も、もう1人の交渉人に制され固まっていた。
交1〈・・・いやぁ、驚きましたよ。お嬢さんのような方にこちらの手口が読まれてしまうとは〉
《・・・では、改めて金額の提示をお願いします。》
交1〈そうですね。その前に1つゲームをしませんか?〉
《ゲーム?》
交〈ええ。そのゲームにあなたが勝てば金額を改めましょう。しかし負けた場合は、最初に提示した金額で取引をするというのはどうでしょう?〉
『えっ・・・』
予想外の提案に戸惑いの声をあげてしまう。
それに、あまね様、悲鳴嶼さん、煉獄さんが反応する。
あ「美桜様?先方は何と?」
『・・・それが・・・』
今までのやりとりを伝える。
あ「そうですか・・・」
『ど、どうしましょう・・・すみません、私が相手を挑発して怒らせたから・・・』
悲「だが、そのげぇむとやらに美桜が勝てば良いのだろう?」
煉「うむ、そう言う事だな!一体何の勝負をするというのだ?」
『そ、それはまだ・・・』
チラリと交渉人達を見やると、何やら準備を始めている。
厚手のマット?に、台のような物。
一体何を始めようというのか・・・
交1〈さぁ、お嬢さん。こちらの準備は整いましたよ〉
《な・・何をするのですか?》
交渉人はリンゴを1つ取り、台の上に乗せる。
そして、ケースから銃を取り出しグリップ部分をこちらへ向ける。
交1〈何、簡単なゲームですよ。あなたにはこの銃であそこにあるリンゴを撃ち落としてもらいます。チャンスは1回です。〉
《なっ!そんな・・・》
交2〈おやおや、さっきまでの威勢はどうしたのかな?〉
成り行きを見守っていた煉獄さん達も、ゲームの内容が理解出来たようだ。
どう考えてもこちらにとって不利な状況だ・・・。私が、というよりも日本人の殆どの人が銃の扱いなんて知らない事をこの人達は分かっている。
あくまでも、自分たちの利益を得ようという商人魂が透けて見えた。
悲「・・・美桜、勝負を受けなさい」
『えっ!・・・でも』
一度でも失敗をしたらこの取引は失敗に終わってしまう。
あ「美桜さんがいなければ、何の疑いもなく向こうの言い値で取引をしていたのです。好機を得られたのは美桜さんのお陰です。」
先の事はお気になさらずに。
と声をかけてくれる。
私は反射的に煉獄さんの方を見る。
煉獄さんは何も言わず、真っ直ぐにこちらを向いて微笑んでいた。
ー俺は、美桜を信じているー
幾度となく私に勇気をくれていた言葉が、瞳から伝わってくる。
『・・・わかりました』
私は交渉人達の方へ体を向ける。
そして、差し出された銃を手に取る。
ーー瞬間、体に電気が走ったような感覚に陥る
その感覚を逃すまいと瞳を閉じ、呼吸を整える。
すると、脳裏にある映像が写し出される。
・・
・・・・
・・・・・・
ーおい、桐原何だその構えは!全然なってねぇな!ー
ー私は剣の腕でここにいるんです。射撃なんて出来なくてもー
ー馬鹿だな、お前は。剣にばっか頼ってるといつか命落とすぞ!・・・仕方ねぇな!この後藤様が特別に教えてやるよ!ー
ー・・・その見返りは?ー
ーあ、バレた?今なら社食一週間分で稽古つけてやるよ!どうよ、安いもんだろ?ー
ー・・・3日分ですねー
ーそれはお前が決める事じゃねえだろ!ったく。いいか、まず構えだ。こうして足を開いて、体の重心を・・・ー
・・・・・・
・・・・
・・
交1〈随分と緊張している様だな。それはそうか。〉
交2〈あぁ。なんせ銃なんか触った事ないだろ?トリガーの引き方も知らないんじゃねぇか?〉
男達の会話で現実に意識が戻ってくる。
すうっと瞳を開き、目の前の標的を捉える。
『・・・ありがとう、後藤さん』
口の中でお礼を告げる。
足を肩幅に前後に開き、やや前傾姿勢をとる。同時に体の重心も前へ移動する。
目標に対して体は正面に、そして両手に握ったグリップを持ち上げ照準を合わせる。
『・・・見えた』
私は何の躊躇いもなくトリガーを引く。
一発の銃声。
そして、暫しの沈黙が流れる。
《・・・では、改めて金額の提示をお願いします》
現炎柱の道場では派手な音が響いていたー
ビターン!!
ドターン!!
ま「ほらほら、すぐ立ち上がる!!」
『うっ・・・はいっ!!』
今日はまきをさんから訓練を受けていた。
何をしているのかと言うと、まきをさんにひたすら投げ飛ばされ私はひたすら受け身をとり続けている。
くノ一の3人の訓練は三者三様で、まきをさんの訓練が一番厳しかった。
正にスパルタ。
『うっ!!ケホッ!』
上手く受け身を取れず咳込んでしまう。
煉「美桜!」
煉獄さんは訓練の様子を心配そうに見守っている。
ま「まだ休憩じゃないよ美桜!!」
『はっ、はい!!』
まきをさんの叱責に何とか立ち上がり、再び向かって行く。
グルンと視界が反転する。
ビターン!!
『あぅっ!!』
3回に1回は受け身を取り損ねてしまう。
激しい痛みが全身を襲う。
ま「集中しろ!確実に受け身を取れるようになれ!!」
『・・・っはい!』
煉「・・・まきを殿。もう少し手柔らかにできないか?」
煉獄さんがオロオロしてまきをさんに訴える。
まきをさんはキッと煉獄さんを睨み付け
ま「美桜の為です!見ていられないのでしたら席を外してください!!」
メッチャ怒られた。。。
煉「・・・よもや・・・」
凄い、煉獄さんを黙らせた。
ま「ほら、さっさと立ち上がる!!」
『ひっ!ひゃい!!』
反射的に立ち上がり、ヨロヨロしながらもまた突撃しては投げられるを繰り返した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『っ!いたぁ〜・・・』
受け身地獄の訓練を終えた私は打ち身に効く塗り薬を塗っている。
ま「美桜、大丈夫か?」
そこにまきをさんが入ってくる。
『は・・・はい。何とか・・・』
ま「派手にぶっ飛んでたからね。ほら、背中塗ってあげるよ。貸しな。」
訓練じゃない時のまきをさんは優しい。
私の手が届かない背中に薬を塗ってくれる。
ま「こりゃ、アザになるね・・・もう少し手加減した方が良かったか?」
声のトーンが落ちる。
やり過ぎてしまった、と反省している様だ。
『いいえ、私の身体能力の問題です。厳しい位で丁度いいんです』
そうしないと、強くなれない。
ま「・・・美桜、アンタは偉いね。」
『え?偉いですか??』
ま「ああ。訓練中は泣き言を一度も言わないし、私達が言った自主訓練の内容も休まず続けてるだろ?」
なかなか出来る事じゃないんだよ。
自信持ちな!!
そう言って頭を優しく撫でられる。
『・・・えへへ』
褒められて、へにゃりと笑う。
ま「!美桜、アンタは本当可愛いね。妹が出来たみたいだ」
『!!』
まきをさんの言葉にバッと顔を上げる。
ま「!?」
『私も・・・まきをさん達と仲良く出来て、その、お姉ちゃんがいたらこんな感じかなぁって思ってたから・・・』
嬉しい。
と、視線を外してポツリと零す。
ま「〜っ!!ホント可愛いな!!よし!私も雛鶴も須磨も今日から美桜と姉妹だっ!!」
『わわっ!痛っ!!!』
ギュッと抱きしめられると打ち身の所が痛んで思わず声をあげてしまう。
ま「あっ!悪い・・・」
『いえ・・・』
パッと手を離す。
そして、お互い顔を見合わせて笑い合う。
身体はしんどいけれど、心強い味方がいる事でもっともっと頑張れる気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
し「呼吸の仕方ですか?」
『はい・・・皆どうやってるのかなって』
今日の任務同行はしのぶさんと伊黒さん。
任務の場所に行く道中、しのぶさんに思い切って聞いてみた。
し「美桜さんは呼吸が使える様になりたいのですか?」
『使いたいっていうか・・・もしかしたら、私も何かの呼吸を使ってたのかもって思って・・・』
し「成程。そういう事ですか」
『ここ最近、皆さんの呼吸を観察して真似てみたりしたのですが・・・悲鳴嶼さん、煉獄さんの呼吸は苦しくなって真似出来ませんでした・・・』
特に悲鳴嶼さんのは死ぬかと思うくらい咳込んだ。
伊「・・・・・・」
『実弥さんと義勇さんの呼吸は真似しやすいけど、ちょっと違う気がして・・・しのぶさんと伊黒さんのは複雑すぎてよく分からなかったです』
し「・・・・・・」
伊「・・・おい、その真似しやすいという冨岡の呼吸を今やってみろ」
『えっ!?今ですか??・・・分かりました』
私はフゥゥと一度肺の中の空気を全て出してから新しい空気を肺一杯に取りこみ、義勇さんの呼吸を思い出して真似してみる。
ヒュウウウウ・・・・・
『・・・けほっ。やっぱりちょっと違うなぁ』
し「・・・・・・」
伊「・・・・・・」
『? どうしました?2人共・・・』
し「冨岡さんの呼吸を見ただけで覚えたのですか?」
『? はい・・・だって、技は見て盗むものだって』
伊「それは杏寿郎の教えか?」
『いえ・・・あれっ?』
ー美桜!教えを乞うてばかりでは成長しないぞ!技とは見て盗むものだ!!ー
『誰だろ・・・槇寿郎さん?でもないな・・・』
あれは誰に言われた言葉だっけ??
伊「・・・まぁいい。」
し「それにしても、見ただけで覚えるというのは凄いことですよ?」
『そうなんですか?』
し「ええ。誰にでも出来ることではありませんよ。最近は山道でも息切れしなくなりましたし、頑張って身体を鍛えているのですね」
『は、はい・・・!』
しのぶさんに褒められた!
嬉しい!!
伊「・・・フン。真似たところで使い物にならなければ意味はない。多少体力がついたからといって調子に乗るなよ」
『・・・・・・』
くっそ!
ネチ柱は今日もご健在ですか!!
し「そういえば・・・あの等々力さんという隊士の方」
ドキッとする。
『あ・・・最近は杏寿郎さんの訓練にも顔を出さなくなってしまって・・・』
煉獄さんの訓練が急に厳しくなったので、今は道場に訪れる隊士は誰もいない。
・・・私の所為、かな・・・
ー杏寿郎さんは私の婚約者なのでっ!個人的にとか、そういうのは、い、嫌ですっー
ーあんまり杏寿郎さんにくっつかないで下さい・・・ー
今思えば、嫉妬心と独占欲丸出しだったわ・・・もっと他に言い方があっただろうに・・・
し「今は冨岡さんに夢中のようですよ?」
『え?・・・はぁっ!?』
心の中で反省していると驚きの情報が入ってきた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
東「等々力さんの事は隊士達の間でも割と有名でしたよ」
後「ああ、なんせ鬼殺隊に入った理由が強くてカッコいい男性に出会いたいからだったしな」
『そ、そうなんだ・・・』
中「俺たちも笑って聞いてたけどまさか柱に、それも婚約者のいる炎柱様に行った時は驚きましたよ」
『・・・。でも、それがまたどうして義勇さんに?』
東「この前の任務で、目の前で鬼を斬って助けて、蝶屋敷まで運んだでしょう?あれがきっかけの様ですね・・・」
・・・成程。
つまり、惚れっぽい性格なのね。
蜜璃ちゃんと似てるけど、行動スタイルが全然違うな・・・
し “全く冨岡さんも、迷惑なら迷惑とはっきり伝えないから・・・”
そういえば、しのぶさんが珍しく怒ってたなぁ・・・。
その後鬼が現れ伊黒さんが斬ったけど、やっぱり独特の呼吸と太刀筋は私には真似出来ないな・・・と確信した。
そもそも、私に合う呼吸なんてものがあるのかな・・・
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『千ちゃーん!』
千「美桜さん!」
『ごめんね、待った?』
千「いえ、俺もさっき着いた所です」
今日は千ちゃんと待ち合わせして、最近出来た甘味屋さんに行く約束をしていた。
本当なら煉獄さんも一緒に来る予定だったけど、任務が入ってしまった。
『杏寿郎さんにはお土産買って帰ろう』
千「そうですね!」
甘味屋さんに入り私はあんみつ、千ちゃんはみたらし団子を注文する。
『美味しい!』
あんみつを一口食べた私が感想を漏らすと、目の前の千ちゃんがフフッと笑う。
『え、何??』
千「美桜さん・・・兄上みたいです」
『えっ!?・・・声、大きかった?』
千「はい。割と」
そう言われて辺りを見廻すと、お店の中のお客さんや店員さんが皆笑顔でこっちを見ていた。
『・・・ッ!ごめんなさい』
千「いえ・・・兄上は迫力もあるので驚かれますが、美桜さんは微笑ましく思われてますよ」
『そ、そうかなぁ・・・』
店「いやぁお姉さんみたいな人がそんな大きい声で美味しいなんて言ってくれたら良い宣伝になるよ!」
と言って、羊羹を置かれる。
千「えっ、これは注文してませんが・・・」
店「おまけだよ。姉弟仲良く食べな!」
にかっと笑って店主は厨房へと消えて行った。
私と千ちゃんは顔を見合わせる。
『あ、ありがとうございます!・・・千ちゃん、私達姉弟だって。嬉しいね』
千「はい!俺は早く美桜さんが本当に義姉上になってくれるともっと嬉しいです」
『っ!』
ブワッと顔が一気に熱くなる。
そんなかわいさ全開の満面の笑みで言わないで!!
甘味を食べて、杏寿郎さんと槇寿郎さんへの手土産をそれぞれ買った私達は町中をブラブラ散歩していた。
すると、先の方で悲鳴が上がる。
「食い逃げだー!!」
「誰か捕まえてぇ!!」
『!?』
千「!?」
そういえば、最近町は治安が悪いってしのぶさんが言ってた・・・。
まさか目の前で事件が起こるなんて・・・
そう考えていると、2人組の男が私と千ちゃんがいる方に向かって走ってくる。
あっ!この人達が食い逃げ犯だ!
犯1「てめぇら邪魔だ!」
犯2「どけぇ!!」
『!!』
男達は私達にそのまま突っ込んでくる。
『・・・・・!』
1人の男は私に拳を振りかざしてくる。
それを紙一重で交わし、男の足元に自分の足をかけ転ばせる。
そのまま派手に転んだ男の腕を捻りあげる。
千ちゃんも同様に、男の腕を取りそのまま背負い投げをする。
犯1「痛ぇッ!!」
犯2「ぐぁっ!?」
騒動を見守っていた町の人たちがワッと歓声をあげる。
そして、何人かの男の人たちが加勢にきてくれ食い逃げ犯達は警察へと連れて行かれた。
『・・・あぁ、ビックリしたぁ〜』
千「えぇ。こんな事あるんですね。」
店「ありがとう!お嬢ちゃん達!!2人共見かけによらず強いんだねぇ!!お礼をさせておくれよ!」
食い逃げされたお店の店主がやってきて、お礼を言われる。
『いえ、そんな・・・』
千「大した事はしていませんから・・・」
丁重にお断りをしたけれど、半ば強引にお礼の品と言ってお土産を渡されてしまった・・・。
荷物が増えてしまったし、これ以上争い事に巻き込まれる前にと散歩を中断して帰る事になった。
千「・・・それにしても、美桜さんがあんなに大きな男の人を取り押さえるなんて驚きました」
『あ・・・これもくノ一の3人に鍛えてもらってるお陰かなぁ』
あはは、と笑う。
・・・あの時、考える前に身体が自然に動いた。
同時に脳裏に浮かんだのは、同じように私に向かってくる男の姿。
顔も、服装も全然違っていたけれど、脳裏の男と目の前の男の姿が重なった時ー私の身体はそうするのが当然かの様に動いていたー
・・・あれは、何だったんだろう・・・
心臓が大きくひとつ、ドクンと波打った。
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食い逃げ騒動の翌日、煉獄さんが任務から帰ってきた。
煉「何?食い逃げ犯を千寿郎と?」
『ええ・・・突然目の前に出てきたので吃驚しちゃいました』
町で遭遇した出来事を報告すると、難しい顔をする煉獄さん。
煉「むぅ、そうか・・・。」
『あ、あの・・・?』
煉「とにかく2人に怪我がなくて良かった!だが、あまりいざこざに巻き込まれないように気をつけてくれ。」
俺がいない時に美桜に何かあったらと思うと心配で外にやれんからな!
そう言って頭を優しく撫でられる。
『は・・・はい。気をつけます』
・・・煉獄さんに心配かけちゃったな。
シュンと眉を下げる。
煉「・・・それはそうと、先程任務終了の報告に行った折、あまね様にお会いしてな。美桜に頼み事があるとおっしゃっていた。」
『・・・え?あまね様が・・・私に?』
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ーそれから3日後ー
私とあまね様は銀座のとある洋館に来ていた。
何でも、海外から鬼殺のための新しい武器を仕入れる為の取引がここで行われるらしい。
私が呼ばれた理由は・・・
あ「美桜様は、英語が堪能でしょう?どうかそのお力をお借りできないものかと」
海外からの武器を仕入れるという事は、取引相手は外国人。
つまり私は通訳としてここに呼ばれたわけだ。
あまね様の護衛として煉獄さんと悲鳴嶼さんが同行している。
私は取引が始まる前に洋館のある一室に呼ばれた。
『・・・これに?私が?』
あ「ええ。美桜さんが通訳者だというのが相手にも分かりやすいように・・・お願いできますか?」
『あ・・・はい』
手渡されたのは薄紫色のワンピース。
袖を通し、髪型もそれに合わせて結ってもらう。
あ「よくお似合いですよ」
『あ、ありがとうございます・・・ワンピースなんて久しぶりで・・・』
足がスースーする・・・。
あ「あら、そうなのですか?」
『・・・はい。多分・・・』
洋服を着た時の感覚は身に覚えがある。
最近は戸惑いながらも自分のそういった感覚や感情を受け入れるようにしている。
あまね様と共に煉獄さん達の待つ部屋へ入る。
煉「!!」
あ「フフ、素敵でしょう?」
私の姿を捉えた煉獄さんの目が大きく見開く。
煉「・・・ええ!どこの御令嬢かと思ったぞ!美桜、よく似合っている!」
『あっ、ありがとうございます・・・』
恥ずかしげもなく大声で褒めてくれるので、逆に私が恥ずかしくなる。
今回の取引がうまく行けば、呼吸を使えない隊士も鬼に対抗出来るようになるかもしれないと告げられる。
『それは、凄いですね!』
ということは、それが普及すれば隠の人達でも自分の身を守ることができるようになるんだ!
握った手に自然と力が入る。
私にうまく、できるかな・・・
しばらくすると、大柄な男の人が4人入ってきた。英国風の出立ちだ。
男の人達はにこやかに私達と握手を交わし、2人は席に着く。
あとの2人はその後ろに並んで立つ。
座った人達が交渉人、立っている人達は補佐役と言った所かな。
それに合わせてあまね様と私が席に着き、悲鳴嶼さんと煉獄さんは後ろに並ぶ。
その様子を見た交渉人の2人は目を見開く。
つい先程まで和やかだった空気が変わる。
ーこれは・・・ー
交1〈まさか女子供が俺たちと交渉する気か?〉
交2〈ウブヤシキは何を考えているんだ?〉
・・・やっぱりね・・・
いつの時代も、国が変わっても、大事な決め事は男の役目。
女は役に立たないというのが権力を持つ男の言い分だ。
私は小さくため息を一つ零す。
悲「・・・あまり歓迎されていない様だな」
煉「む?悲鳴嶼殿はあの者達の言葉が分かるのか??」
悲「言葉は分からなくとも、空気で分かる事はある物だ」
煉「ふむ・・・」
交1〈そもそも、こんな子供に俺たちの言葉が分かるのか?〉
交2〈フッ、今まで交渉してきた男達も、俺たちの言葉をきちんと理解出来なかっただろう。そのお陰で俺たちは儲かるんだけどな!〉
そう言って2人で笑い合い、私の顔を見る。
私もニッコリ笑い返す。
『・・・・・・』
成程ね・・・
この人たちは言葉が通じない事を良いことに必要以上の要求をしてお金を得ていたのね。
彼等は私の態度から言葉が通じていないと思い込んだ様で、今までの交渉の手口をベラベラと話している。
あ「それでは、早速本題に入りましょう」
あまね様の意向を伝えると、交渉人はケースを一つテーブルの上に置いた。
そして、ケースを開くと中から南蛮銃が出てくる。
交1〈これは、ショットガンと言って主に狩猟を目的として使用する銃です。動く標的に対して高い効果が得られます〉
あ「・・・そうですか。それでは、こちらを」
銃を確認したあまね様は悲鳴嶼さんへ合図を送る。
悲鳴嶼さんは持っていた風呂敷を銃の隣に置き、包みを開く。中から石が出てくる。
あ「これは陽光山で採れた猩々緋鉱石と猩々緋砂鉄です。あなた方には、こちらから弾丸を作っていただきたいのです。」
鬼を滅殺させるには、日輪刀が不可欠だ。
その日輪刀の原料となるのが、この鉱石と砂鉄だ。
これを弾丸として加工する事で刀以外の、中距離から遠距離で鬼を滅する為の武器にしようというのだ。
あまね様の言葉を訳して彼等に伝える。
交渉人たちは顎に手を当てて、話を聞いていた。
そして、交渉人同士目配せをすると
交1〈成程、あなた方の言う“鬼”という物はよく分かりませんが、我々の武器を必要としている事はわかりました〉
交2〈我々の持つ技術があれば弾丸の加工は可能でしょう。問題なのはー〉
ー費用面でしょうねー
交1〈輸入費用、加工費用、その他諸々の手数料合わせてーーーードル程はかかるかと〉
費用面の件になると急に早口で捲し立てるように話す。
そして、最後の金額提示で口調を戻し、OK?と尋ねられる。
・・・これが彼等の手口か。
まずはこちらが聞き取れない位の早口で話し、戸惑わせる。
そして、YESかNOの2択で迫る。
恐らく金額もかなり吹っかけているだろう。
きっと英語力に自信がない通訳者は大抵YESと答えてしまう。
こういう場に駆り出される立場の人間は大抵プライドが高い。聞き返したり、分からないとは言えない。そんな心理を上手く利用するのだろうなぁ。
交2〈どうですか?お嬢さん?〉
『・・・・・・』
あまね様に向こうの提示する金額を伝える。
あ「そうですか・・・その金額だと量産するのは難しいですね」
表情が曇ってしまう。
『・・・あまね様。私から少しお話してもよろしいですか?』
あ「! ええ。よろしくお願いします」
今まで通訳に専念していた私はあまね様に了承をいただき、口を開く。
《・・・答える前に、質問してもよろしいですか?》
交1〈!?〉
《その金額の根拠を示してください》
交2〈根拠だと!?〉
《ええ。私達は銃を1から作って欲しい訳ではありません。“既存の銃”に込める“弾丸”の加工を依頼しているのです。しかも、原材料はこちらで既に用意しています。》
交1〈・・・・・・〉
《あなた方は先程“我々の技術なら加工は可能”とおっしゃいました。つまり、新しい設備投資にかかる費用はないと認識しています。》
交2〈なっ!?〉
《この銃1丁でーーードルでしょう?ならば、その弾丸は高く見積もってもーードル。加工費用、輸入費用、その他諸々入れたとしてもーーードルが良い所かと。》
交1〈この銃が何故ーーードルだと思うのです?〉
私の意見を聞いてやっと出た質問に驚く。
まさか気づいていないのか・・・
《・・・そのケースに値札が入ったままですよ》
交2〈なっなに!?〉
交渉人達は慌ててケースの中身を確認する。
まさか原価を取引相手に知られてしまうような失態をするなんて・・・。
日本人が相手だからと完全に舐めていた証拠ね。
《さて、それを踏まえてもう一度尋ねます。その金額の根拠を示して下さい。》
部屋にしばし沈黙が訪れる。
交渉人の1人が苛立った様子でテーブルを叩いて立ち上がる。
交2〈・・・クソッ!このガキ、女の分際で生意気だぞ!!〉
私に向かって吠え、懐に手を入れる。
すると後ろの煉獄さんが刀に手をかける。
それを悲鳴嶼さんに制される。
《・・・・・・》
懐に手を入れた男も、もう1人の交渉人に制され固まっていた。
交1〈・・・いやぁ、驚きましたよ。お嬢さんのような方にこちらの手口が読まれてしまうとは〉
《・・・では、改めて金額の提示をお願いします。》
交1〈そうですね。その前に1つゲームをしませんか?〉
《ゲーム?》
交〈ええ。そのゲームにあなたが勝てば金額を改めましょう。しかし負けた場合は、最初に提示した金額で取引をするというのはどうでしょう?〉
『えっ・・・』
予想外の提案に戸惑いの声をあげてしまう。
それに、あまね様、悲鳴嶼さん、煉獄さんが反応する。
あ「美桜様?先方は何と?」
『・・・それが・・・』
今までのやりとりを伝える。
あ「そうですか・・・」
『ど、どうしましょう・・・すみません、私が相手を挑発して怒らせたから・・・』
悲「だが、そのげぇむとやらに美桜が勝てば良いのだろう?」
煉「うむ、そう言う事だな!一体何の勝負をするというのだ?」
『そ、それはまだ・・・』
チラリと交渉人達を見やると、何やら準備を始めている。
厚手のマット?に、台のような物。
一体何を始めようというのか・・・
交1〈さぁ、お嬢さん。こちらの準備は整いましたよ〉
《な・・何をするのですか?》
交渉人はリンゴを1つ取り、台の上に乗せる。
そして、ケースから銃を取り出しグリップ部分をこちらへ向ける。
交1〈何、簡単なゲームですよ。あなたにはこの銃であそこにあるリンゴを撃ち落としてもらいます。チャンスは1回です。〉
《なっ!そんな・・・》
交2〈おやおや、さっきまでの威勢はどうしたのかな?〉
成り行きを見守っていた煉獄さん達も、ゲームの内容が理解出来たようだ。
どう考えてもこちらにとって不利な状況だ・・・。私が、というよりも日本人の殆どの人が銃の扱いなんて知らない事をこの人達は分かっている。
あくまでも、自分たちの利益を得ようという商人魂が透けて見えた。
悲「・・・美桜、勝負を受けなさい」
『えっ!・・・でも』
一度でも失敗をしたらこの取引は失敗に終わってしまう。
あ「美桜さんがいなければ、何の疑いもなく向こうの言い値で取引をしていたのです。好機を得られたのは美桜さんのお陰です。」
先の事はお気になさらずに。
と声をかけてくれる。
私は反射的に煉獄さんの方を見る。
煉獄さんは何も言わず、真っ直ぐにこちらを向いて微笑んでいた。
ー俺は、美桜を信じているー
幾度となく私に勇気をくれていた言葉が、瞳から伝わってくる。
『・・・わかりました』
私は交渉人達の方へ体を向ける。
そして、差し出された銃を手に取る。
ーー瞬間、体に電気が走ったような感覚に陥る
その感覚を逃すまいと瞳を閉じ、呼吸を整える。
すると、脳裏にある映像が写し出される。
・・
・・・・
・・・・・・
ーおい、桐原何だその構えは!全然なってねぇな!ー
ー私は剣の腕でここにいるんです。射撃なんて出来なくてもー
ー馬鹿だな、お前は。剣にばっか頼ってるといつか命落とすぞ!・・・仕方ねぇな!この後藤様が特別に教えてやるよ!ー
ー・・・その見返りは?ー
ーあ、バレた?今なら社食一週間分で稽古つけてやるよ!どうよ、安いもんだろ?ー
ー・・・3日分ですねー
ーそれはお前が決める事じゃねえだろ!ったく。いいか、まず構えだ。こうして足を開いて、体の重心を・・・ー
・・・・・・
・・・・
・・
交1〈随分と緊張している様だな。それはそうか。〉
交2〈あぁ。なんせ銃なんか触った事ないだろ?トリガーの引き方も知らないんじゃねぇか?〉
男達の会話で現実に意識が戻ってくる。
すうっと瞳を開き、目の前の標的を捉える。
『・・・ありがとう、後藤さん』
口の中でお礼を告げる。
足を肩幅に前後に開き、やや前傾姿勢をとる。同時に体の重心も前へ移動する。
目標に対して体は正面に、そして両手に握ったグリップを持ち上げ照準を合わせる。
『・・・見えた』
私は何の躊躇いもなくトリガーを引く。
一発の銃声。
そして、暫しの沈黙が流れる。
《・・・では、改めて金額の提示をお願いします》