独占欲と蛇
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伊黒さんが柱に加わった日から、私の周りでは目まぐるしい変化が起こっている。
煉「まだまだ!あと素振り100本だ!!」
道場から響いてくる煉獄さんの指導の声。
任務先で会った隊士が煉獄さんを慕って稽古をつけて欲しいと願い出たのだそうだ。
元より面倒見の良い煉獄さんは来るもの拒まず希望者を受け入れていて、任務のない日はこうして訓練を見ている。
その中には、あの等々力さんの姿もある。
比率で言うと女性隊士が多い。
男性隊士もいるにはいるが、稽古が厳しすぎて3日ともたなかった。
軽食におにぎりとお茶を用意して、道場の扉を開く。
入口から素振りの様子をぼんやり眺める。
賑やかな声。
木剣が空を切る音。
いいなぁ。
懐かしいなぁ。
『・・・あの頃は、楽しかったなぁ・・・』
煉「あの頃とは、いつの事だ?」
『!!?』
いつの間にか煉獄さんが目の前に立っていた。
『えっ?あの頃??』
煉「む?今美桜の口から出た言葉だぞ?」
私そんな事言ってた?
『あ・・・多分無意識に出た言葉です。』
煉「ふむ・・・そうか!ところで、何か用事か?」
『あっ軽食にと、おにぎりとお茶をお持ちしました』
煉「そうか!ありがとう美桜!よし、素振りを終えた者から小休止だ!!」
『どうぞ』
隊(男)「ありがとうございます!」
隊(女)「いつもすみません」
『いいえ。訓練頑張ってください』
おにぎりを食べる隊士さんたちにお茶を配り終え、チラと煉獄さんの方を見やる。
・・・おにぎりを美味しそうに頬張る煉獄さんも素敵・・・
あ、ご飯粒がほっぺに・・・珍しい。義勇さんみたい。
クスッと笑って、煉獄さんの方に歩み寄るとーーー
等「煉獄様、ご飯粒ついてますよ」
私と煉獄さんの間に入るように等々力さんがやってきて、頬を差す。
煉「む。そうか?」
煉獄さんは自分のほっぺを触るが、ご飯粒がついている方とは逆を触っている。
等「フフ、こっちですよ」
等々力さんが手を伸ばして煉獄さんのほっぺについたご飯粒を摘んで取る。
等「意外と子供っぽいところがあるんですね」
煉「むぅ!こんな所を後輩に見られてしまうとはよもやよもやだ!」
『・・・・・・・』
一度深呼吸をして、無理やり笑顔を作る。
『・・・煉獄さんも、お茶どうぞ』
煉「ありがとう!」
『この後夕飯の買い出しに行きますが、何か食べたいものはありますか?』
煉「ああ、今日の夕飯は外に食べに行く!」
『え?』
誰かと約束でもしてたっけ?
いつも宇随さんや実弥さんとご飯行く時は前もって教えてくれるけど・・・
煉「稽古の前に彼女たちに誘われてな!たまには後輩に付き合うのも必要だろう!」
『っ!!・・そう、ですか・・・わかりました!』
煉「そうだ、美桜も一緒に行こう!」
『!!・・・いえ、私は遠慮しておきます。皆さんと楽しんで来てください』
煉獄さん、鬼の気配に敏感な癖に何故気付かないの!?
今、おねーさん方からの視線凄かったよ!!
私がいたら邪魔に決まってるでしょ・・・
稽古に来ている女性隊士のほとんどが煉獄さん目当てなのは鈍感な私だって分かる。
煉「む・・・そうか!」
宇「じゃあ、美桜は俺とメシ食おうぜ」
『っ!?宇髄さん!』
煉「!?・・・何故宇髄が美桜と?」
宇髄さんが私の肩に手を回す。
いつもの事だけど、神出鬼没の宇髄さんの登場にビクッとなる。
そして、煉獄さんの声のトーンが急に低くなった・・・。
怒ってる・・・?
ん?なんで?
煉獄さんだっておねーさん達とご飯行くじゃん。
宇「俺の嫁達が美桜に会いたがってんだよ。雛鶴には一度会ってるよな?」
『! はい』
宇「どうせ煉獄は後輩達とメシに行っちまうんだろ?美桜1人で可哀想じゃねぇか。」
煉「しかし・・・」
『・・・私、宇髄さんのお嫁さん達にお会いしたいです・・・駄目ですか?』
煉「! むぅ・・・」
宇「心配すんな!明日の朝にはちゃんと送ってやるからよ」
煉「!! 泊まりは駄目だ!!・・・分かった、食事が終わったら迎えに行く!・・・美桜、楽しんできなさい」
『! はい!』
煉獄さんのお許しが出たので、宇髄さんのお家へご飯を食べに行く事が決定した。
そういえば、煉獄さんの実家と蝶屋敷と本部以外のお家にお邪魔するの初めてだ!
楽しみだなぁ
『宇髄さん、行く前に少しお家の事終わらせて来てもいいですか?』
宇「おう。待っててやるよ」
ありがとうございます、と急いで残りの掃除を済ませ洗濯物を取り込もうと庭に出る。
と、道場の裏手で休憩中の隊士の声が聞こえてきた。
隊1「ねぇ、さっきのアレ見た?信じられないんだけど」
隊2「本当。普通婚約者がいるのに他の殿方のお家に行くとかありえないわよね」
等「煉獄様・・・可哀想・・・」
『・・・・・・』
変な時に出てきちゃったな・・・
あれ・・・息が上手く出来ないや・・・
胸が苦しい。
下を向いて呼吸を整えようとした時、彼女達の方へ向かって行く足が見えた。
『!!』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
道場裏から聞こえた下世話な会話に眉根を寄せる。
全く、そう言う話は本人達の耳に届かない所でやれよ。
俯いた美桜の姿を見て我慢が出来なくなった俺は声の主の方へと足を進める。
と、背中を引っ張る小さな手の感触を感じ、ゆっくり振り返る。
宇「・・・・・・」
小さな手の主ー美桜は俺の服を掴んで小さく首を横に振る。
宇「・・・ハァ、分かったよ」
俺は大袈裟にため息を吐く。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『では、行ってきます。杏寿郎さん』
煉「うむ!遅くならない内に迎えに行く!それまで楽しむといい!奥方達にも宜しく伝えてくれ!」
『はい。杏寿郎さんも、お食事会楽しんできてくださいね。』
煉「・・・うむ!」
玄関先でやりとりをして門を出る。
『!!』
門の外で稽古終わりの等々力さんや女性隊士さん達が立っていた。
あ・・・煉獄さんとご飯行く人達か・・・
『・・・本日も稽古お疲れ様でした。』
ペコリと頭を下げる。
隊士さん達もニッコリと笑顔を向けて
隊「はい!お疲れ様でした!!」
と声をかけてくれる。
私はそのまま少し離れた場所に立っていた宇髄さんの元へ駆け寄る。
また、後ろからヒソヒソ声が聞こえてくるけど聞こえないフリをする。
『宇髄さん!お待たせしました!』
宇「・・・おう。行くか。」
宇髄さんは何か言いたそうな顔をしていたけど、何も言わなかった。
実は、ああいう会話を聞いたのは今日が初めてじゃない。
“あの人が煉獄様の婚約者?”
“何か思ってた感じと違うわね”
“本当、普通っていうか平凡っていうか?”
“蟲柱様の様な方だったら私達も諦めついたのにね”
『・・・・・・』
分かってる。
分かってますとも。
私だってそう思うよ。
ー貴様は杏寿郎に相応しくないー
『・・・ねぇ、宇髄さん』
宇「なんだ?」
『どうしたら認めてもらえますかね?』
宇「は?何を??」
『・・・色々です』
宇「・・・色々ねぇ・・・まぁ、俺の嫁達にでも聞いてみろ。女同士の方が分かる事もあるだろ」
そう言って私の頭をくしゃっと撫でる。
やっぱり宇髄さんは優しいなぁ。
宇髄さんだけじゃない。しのぶさんや蝶屋敷の皆、千ちゃんや槇寿朗さん、悲鳴嶼さんも義勇さんも、実弥さんもー
ー煉獄さんもー
私が記憶を失くしてから出会った人は皆優しかった。
その優しさが当たり前になってたんだろうな・・・
私の存在をよく思わない人達だっているよね・・・
この世はそんな甘いものじゃない。
そんな事、分かってた筈なのに・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雛「美桜さん、いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
『雛鶴さん、お久しぶりです!お邪魔します』
宇髄さんのお家に着くと雛鶴さんが迎えてくれた。
お部屋に入ると、更に2人の女の人がお料理を準備して待っていた。
宇「まきをと須磨。俺の嫁達だ」
『はじめまして。美桜と申します』
ま「いらっしゃい!今日はたくさん食べていきなよ!」
須「美桜ちゃん!かわいい子ね〜!ほら、こっち座って!!」
宇髄さんのお嫁さんは3人とも美人で色っぽいな!!
思わず宇髄さんを見てしまう
宇「3人ともいい女だろ?」
自信たっぷりに言えるんだ!!
『はい!宇髄さんには勿体無いくらいですね』
宇「はぁ!?お前らも笑うな!」
3人のお嫁さん達が楽しそうに笑ってる。
お嫁さん同士も仲良いんだな。
何か改めて考えるとすごい関係性だなぁ。
雛「美桜さん、ちゃんと食べてる?」
『はい!どれも美味しいです』
須「美桜ちゃん!これも食べて!私が作ったの」
ま「馬鹿!そんな焦げた物美桜に食べさせるな!!」
須「痛あぁあい!まきをさんがぶったぁ!!」
宇髄家の食卓はとても賑やかで楽しかった。
こんなに声に出して笑ったのは久し振りかも。
雛「美桜さん、煉獄様とは上手くやってますか?」
『!! えっ、と・・・はい。ぼちぼちと・・・』
歯切れの悪い返事をしてしまう。
宇「・・・・・・」
須「え?上手くいってないの?何で??」
ま「またアンタはそうやってズケズケと!!美桜、言いたくない事は言わなくていいんだからね!!」
皆、心配そうな顔を向けている。
ああ、本当に皆優しいな。
ー俺の嫁達にでも聞いてみろ。女同士の方が分かる事もあるだろー
本当に、相談してもいいのかな?
宇髄さんの方を見ると、顎をくいっと上げて合図してくれる。
『あ、あの・・・私・・・分からないんです・・・』
着物の上から、胸元にある指輪をギュッと掴む。
『・・・どうしたら、婚約者として認めてもらえますか?』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
隊1「煉獄様、私今度昇格するんですぅ」
煉「そうか!それはめでたいな!!おめでとう!」
隊1「もっと強くなれば煉獄様に近づけますか?」
煉「ん?そうだな!柱までの道は近づいているのではないだろうか!」
隊1「あ、そういう事ではなく・・・」
煉「?」
隊2「煉獄様、私今の呼吸が合っていない様な気がして・・・炎の呼吸をご教示いただきたいのですが・・・」
煉「ふむ、そうか。では次の稽古で呼吸も取り入れてみよう!」
隊2「ありがとうございますぅ!」
隊3「ずるい!私も!!」
等「煉獄様、新しいお料理が来ましたよ。はい、どうぞ」
煉「うむ!ありがとう! うまい!!」
隊「「「きゃー!!」」」
煉「?」
後輩の隊士達と食事を共にするのは久しぶりだ。
何故だかよく分からない所で盛り上がるのは不思議だが、彼女達は鬼殺隊士としてもっと強くなろうとしているのだな!
感心な事だ!!
俺も柱として、後輩の指導に力を入れねばならんな!
・・・・・・
等「・・・煉獄様?」
煉「・・・・・・」
・・・今頃、美桜はどうしているだろうか・・・
等「・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうしたら、婚約者として認めてもらえますか?
雛ま須「「「誰に?」」」
『えっ?・・・と、周りの人?』
ま「何で疑問系なんだ?」
須「認めないって、誰かに言われたの??」
『う!・・・はい・・・』
私はここ最近の出来事をポツリポツリと話し始めた。
ま「何それ!ひどい事言う奴もいるんだな!」
須「ホント!美桜ちゃん、そんなひどい事言う人なんかお姉さんが懲らしめてやります!」
まきをさんと須磨さんが立ち上がる。
今にもその人達の事を殴りに行きそうな勢いだ。
『え!?』
雛「ちょっと2人とも落ち着きなさい!・・・美桜さん、私はそんな人達の言うことなんて気にしなくても良いと思うけど・・・」
ま「そうだよ、美桜。言いたい奴には言わせておけばいい。アンタは自信持って堂々としてたらいいんだよ」
『・・・自信・・・ないんです・・・』
須「?」
『私、自分に自信が持てないんです。与えられた事もろくに出来ないし、誰かを守りたいって思うのに私にはその力がないし・・・そんな私が煉獄さんの隣にいていいのか・・・』
須「美桜ちゃん・・・」
ま「・・・美桜はさ、まずどうしたいんだ?」
『え?』
ま「記憶の事、不思議な力の事、煉獄様のこと。全部いっぺんに解決しようと考えて難しくしてないか?」
『・・・・・・』
雛「そうね。一度に全部は難しくても、一つ一つ解決していくことは出来ると思うわ」
『一つ一つ・・・・・・』
須「じゃあ、美桜ちゃんが一番に解決したいのは何??」
『一番・・・』
目を閉じて、うーんと考えてみる。
一つ一つの問題を頭の中で整理していくと、少しずつ黒いモヤモヤが晴れていく。
モヤモヤが晴れると一本道が現れる。
不思議な事に目指す場所も、そこにたどり着くまでの道筋が見えた。
目を開くと、皆が暖かい眼差しを向けていた。
『私・・・』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
煉「では、俺はそろそろ・・・」
隊1「え〜もう帰っちゃうんですかぁ?」
隊2「もう少し一緒に飲みませんかぁ?」
煉「うむ、気持ちは有り難いが婚約者を迎えに行くので俺は失礼する!会計は済ませておくので君たちはゆっくりして行くといい!!」
隊「え〜!!」
等「・・・分かりました!煉獄様、ご馳走様でした!」
煉「うむ!」
思っていたよりも遅くなってしまった。
食事だけのつもりがいつの間にか酒まで運ばれて来てしまったからな。
まぁ嫁達の前で宇髄も変な気は起こさないだろうが・・・
とにかく、早く迎えにーーー
等「煉獄様!」
煉「む。等々力、どうした?他の者はまだ店だろう?」
等「あ・・・私も少し飲み過ぎてしまったので帰ろうと思って・・・きゃっ!」
煉「!!」
等々力が足をもつれさせ転びそうになるのを咄嗟に受け止める。
等「あ・・・ありがとうございます」
煉「そんなに飲んだのか?顔まで赤いぞ」
このまま1人で帰らせて良いものだろうか。
・・・美桜を早く迎えに行きたい所だが、酔った娘を1人夜道に置き去りにする事も出来まい。
一つため息を吐き、
煉「・・・分かった、家まで送ろう。歩けるか?」
等々力を立たせようとするが、俺の服を掴みもたれ掛かったままだ。
等「・・・煉獄様・・・私・・・」
煉「・・・」
蜜「あら〜煉獄さん!こんな所で奇遇ですね!」
煉「甘露寺!何故ここに?」
等「!!」
蜜「丁度任務帰りで通りかかって・・・あら、その子・・・具合でも悪いのかしら?」
煉「うむ・・・少し飲み過ぎたようでな。見ての通り自分で歩けない様なので家まで送り届ける所だ」
等「煉獄様・・・すみません、婚約者様が待っているのに私を優先してくださって・・・」
煉「!」
決して美桜を後回しにしているつもりはないのだが・・・
俺の行動はそう取られても仕方がないのか・・・
蜜「そうなんですね〜。じゃあ、私が彼女を送って行きますよ!煉獄さんは美桜ちゃんが待ってますから、早く行ってあげてください♡」
等「えっ・・・!?」
煉「甘露寺・・・いいのか?」
蜜「はい!勿論です!」
煉「・・・では頼んだ。お礼に今度美味い物をご馳走しよう!」
蜜「わぁい!楽しみにしてますね♡」
煉「では等々力、俺はこれで行く。酒は程々にするのだぞ!」
偶然居合わせた甘露寺に感謝をしつつ、俺は宇髄の家に向けて走り出した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
等「・・・・・・」
蜜「じゃあ、行きましょう?」
等々力さんに肩を貸そうと腕に触れると振り解かれる。
蜜「・・・・・・」
等「・・・いい所だったのに。邪魔しないでよね!」
そう言って、彼女は煉獄さんの方とは反対の道を走って帰って行った。
蜜「・・・・・・麗、お願いね」
私の愛鴉に文を託して飛ばす。
音柱様の鴉から私宛に文が届いた時は吃驚しちゃったわ。
煉獄さんのお家で初めて会ってから数回任務で一緒になったけど、その時の話題は勿論煉獄さんと美桜ちゃんのお話。
私が2人が幸せになる為だったら何でもすると言っていたから今回の事も頼ってくれたんだと思う。
音柱様も2人の事が大好きなのね!
はぁ〜キュンキュンするわ!!
蜜「今度美桜ちゃんにお話聞かなくっちゃ♡」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『私・・・私が今1番やりたいことは』
宇「・・・・・・」
『体を鍛えようと思います。』
宇雛ま須「・・・・・は?」
先程まで向けられていた暖かい眼差しから一転して皆が目を見開いている。
須「え?どういう事??煉獄様の事は??」
『・・・私なりに考えてみた結果です。・・・って言うか、』
『やっぱり悔しいんです!あの時伊黒さんに何も言い返せなかった私が嫌です!!まずはあのネチネチ蛇柱をギャフンと言わせたい!!』
ー実際の貴様は力になるどころかとんだお荷物ではないかー
ー今の貴様がそれを思い出した所で何の役にも立たないだろうなー
思い出すとまた怒りが込み上げる。
そうだよ!
記憶が戻った時、力の出し方が分かった時に私は最大限の力を引き出せないと意味がない。
今の私には体力も、力もない。
その時に備えて私は体を鍛えておく必要がある。
そして、それが自分への自信に繋がる気がする。
そうすれば、私も杏寿郎さんの隣にいてもいいんじゃないかって思えるんじゃないかな!
全てが1本に繋がっているんだ。
宇「クッ!」
『?』
宇「ハハハハハッ!!さすが美桜だ!予想の斜め上を行きやがる!」
私の力説にポカンとしていた宇髄さんが豪快に笑い出す。
宇「伊黒をギャフンとねぇ・・・ククッ!お前も大概負けず嫌いなんだな。普通は柱に楯突こうなんて考える奴はいねぇよ」
そういえば中西さんにも似たような事言われたな・・・
ま「気に入ったよ美桜!私も力になるよ!」
雛「そうね。体を鍛えたいなら協力するわ」
『えっ!本当ですか!?』
凄い!本物のくノ一に鍛えてもらえるの??
須「もっちろん!蛇柱様も、美桜ちゃんの事悪く言った子達も見返してやりましょう!!」
鴉「カァッ!!」
わぁ!嬉しいな!!
鴉まで応援してくれてる!
ん?鴉??
この鴉は宇髄さんのじゃない。
鴉(麗)「カァッ!任務完了ヨォッ!!」
鴉の報告を聞き、文を開いた宇髄さんはニヤッと笑う。
宇「そうか、ご苦労だったな。丁度いい頃合いだ。美桜、もうじき迎えがくるぞ」
『え?』
どういう事?
と疑問に思った時
煉「美桜!迎えに来たぞ!!」
玄関から私の大好きな声が聞こえた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『杏寿郎さん!』
煉「美桜!」
玄関まで行くと珍しく汗を流した煉獄さんが立っていた。
宇「何お前、走ってきたのか?」
煉「うむ!予定よりも遅くなってしまったのでな!」
須磨さんに愛されてるじゃないと耳打ちされる。
雛「あら、では少し休まれて行かれますか?」
煉「いや、大丈夫だ!お気遣い感謝する!雛鶴殿、まきを殿、須磨殿、美桜が世話になった!!」
ま「へぇ、名前ちゃんと覚えてくれたんですね!」
『フフッ!』
まきをさんの台詞に思わず吹き出してしまう。
血鬼術で宇髄さんと入れ替わった時、煉獄さんは見事に3人の名前を間違えて呼んでたってさっきの食事中に教えてもらった。
煉「うむ、名前は覚えた!先日は失礼致した!・・・・・・」
煉獄さんは笑っていた私の顔をじっと見る。
もしかして気を悪くしたかな?
『あ、ごめんなさい。人の失敗で笑ってしまうなんて』
煉「いや、美桜が笑った顔を久しぶりに見れて嬉しくなった!俺は美桜の笑顔が一番好きだ!!」
『・・・っ!』
何という殺し文句!!
私だけじゃなくて雛鶴さん達まで赤くなってるよ!!
『あっありがとうございます・・・。宇髄さん、皆さんお邪魔しました。』
宇「おう、またいつでも来いよ」
ま「美桜、またな!」
須「近い内にまた会いましょう!勿論、例の件でね♡」
煉「む?」
『はい!お願いします!』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
宇髄さんのお家を後にして、2人で夜道を歩いている。
そういえばこんな風に夜出歩くのは初めてだなぁ。
新鮮で少しワクワクする。
煉「美桜、道が暗いが怖くはないか?」
『いいえ、今日は月明かりもあるし、杏寿郎さんと一緒だから怖くないですよ』
煉「! そうか!今日は楽しめたか?」
『はい!宇髄さんも奥さん達も優しいし、賑やかで楽しかったです』
煉「それは良かったな!」
『杏寿郎さんもお食事会楽しめましたか?』
煉「そうだな・・・」
煉獄さんが珍しく言葉を詰まらせる。
煉「後輩の話も聞けたし有意義な時間だった!・・・だが、食事もしたが何故だかあまり食べた気がしないな」
そう言って首を傾げている。
そっかぁ・・・量が足りなかったのかなぁ?
訓練の後でお腹も空いてただろうし、私を迎えに行くのに走ってきてくれたしね。
『じゃあ帰ったら軽くお夜食でも作りますね』
煉「ありがとう!・・・さっきから上を見ながら歩いているがどうした?」
『あ、夜こうやって歩くのが新鮮で・・・星が綺麗だなぁと・・・あっ!』
星空に気を取られて、足元の段差に躓いて転びそうになる私の体を煉獄さんの腕がしっかりと受け止めてくれる。
煉「だからと言って上ばかり向いていては危ないぞ」
『あっ、ごめんなさい』
本当、子供みたいな転び方をして恥ずかしい。
慌てて煉獄さんから体を離す。
煉「・・・・・・」
『な、なんですか・・・?』
煉「月明かりでも顔が赤いのが分かるな」
じっと私の顔を見ていた煉獄さんがフッと笑って私の頬をさする。
『っ!!』
恥ずかしい!!(2回目)
話を逸らそう!
『ほ、本当に昼間と夜は町の雰囲気が変わりますよね!あんなに人で賑わってる通りがこんなに静かで・・・』
煉「・・・そうだな」
『・・・まるで私達しかいないみたいで・・・くしゅん!』
くしゃみをしてしまう。
夜風に当たって体が冷えたみたい。
昼間が暖かかったから羽織を着てこなかった私は肌寒さを感じていた。
『朝晩は冷えるようになりましたね・・・帰ったら羽織を出さないと・・・』
煉「美桜」
『はい?』
煉「おいで」
煉獄さんに呼ばれて振り返るのと、煉獄さんが私の腕を取り自身の懐に招き入れるのが同時だった。
『えっ』
今、私は煉獄さんの羽織の中で肩を抱かれて立っている。
煉「身体がすっかり冷えている。こうすれば暖かいだろう?」
『・・・いや、あの・・・』
煉「・・・嫌か?」
『や、嫌とかじゃなくて・・・恥ずかしいです・・・外だし』
肩を抱かれるのは久し振りだし、羽織の中に私入っちゃってるし!
煉「美桜が言った様に今は俺たちしかいないぞ?」
またそんな甘い言葉を囁く!
羽織に包まれているからかいつもより煉獄さんの匂いを感じる。
それだけで胸が痛いくらい脈打つ。
・・・と、私はある事に気がつく。
『あ・・・』
煉「どうした?」
『この羽織・・・すっかり杏寿郎さんの匂いになりましたね。』
煉「!」
柱になってすぐの頃は慎寿郎さんの匂いがしていたこの羽織。
『杏寿郎さんはもう立派な炎柱なのですね』
煉「そうか・・・自分では気が付かなかったな」
『・・・私、明日からしっかり体鍛えますね』
煉「?話が見えないな。どうした、急に?」
『足元の段差に躓いている様じゃ、炎柱様の婚約者として笑われてしまいます』
煉「・・・そんな事で笑わせやしない。それに俺がこうしていつでも支えてやるぞ!」
『ありがとうございます。』
煉獄さんならそう言うと思った。
『でも・・・』
煉「だが、美桜がそう決めたのなら俺は力になる!」
『!!』
煉「美桜の考えがあっての事だろう?ならば俺は全力で応援する!美桜を信じているからな」
『杏寿郎さん・・・』
本当に。
どうしてこんなにも私の欲しい言葉をくれるんだろう。
ああ
単純だな、私
さっきまで伊黒さん達を見返してやりたい気持ちで一杯だった私の心は煉獄さんで一杯になる。
強くなりたい。
あなたの為に
月明かりに照らされながら2人寄り添って帰路についた。
煉「まだまだ!あと素振り100本だ!!」
道場から響いてくる煉獄さんの指導の声。
任務先で会った隊士が煉獄さんを慕って稽古をつけて欲しいと願い出たのだそうだ。
元より面倒見の良い煉獄さんは来るもの拒まず希望者を受け入れていて、任務のない日はこうして訓練を見ている。
その中には、あの等々力さんの姿もある。
比率で言うと女性隊士が多い。
男性隊士もいるにはいるが、稽古が厳しすぎて3日ともたなかった。
軽食におにぎりとお茶を用意して、道場の扉を開く。
入口から素振りの様子をぼんやり眺める。
賑やかな声。
木剣が空を切る音。
いいなぁ。
懐かしいなぁ。
『・・・あの頃は、楽しかったなぁ・・・』
煉「あの頃とは、いつの事だ?」
『!!?』
いつの間にか煉獄さんが目の前に立っていた。
『えっ?あの頃??』
煉「む?今美桜の口から出た言葉だぞ?」
私そんな事言ってた?
『あ・・・多分無意識に出た言葉です。』
煉「ふむ・・・そうか!ところで、何か用事か?」
『あっ軽食にと、おにぎりとお茶をお持ちしました』
煉「そうか!ありがとう美桜!よし、素振りを終えた者から小休止だ!!」
『どうぞ』
隊(男)「ありがとうございます!」
隊(女)「いつもすみません」
『いいえ。訓練頑張ってください』
おにぎりを食べる隊士さんたちにお茶を配り終え、チラと煉獄さんの方を見やる。
・・・おにぎりを美味しそうに頬張る煉獄さんも素敵・・・
あ、ご飯粒がほっぺに・・・珍しい。義勇さんみたい。
クスッと笑って、煉獄さんの方に歩み寄るとーーー
等「煉獄様、ご飯粒ついてますよ」
私と煉獄さんの間に入るように等々力さんがやってきて、頬を差す。
煉「む。そうか?」
煉獄さんは自分のほっぺを触るが、ご飯粒がついている方とは逆を触っている。
等「フフ、こっちですよ」
等々力さんが手を伸ばして煉獄さんのほっぺについたご飯粒を摘んで取る。
等「意外と子供っぽいところがあるんですね」
煉「むぅ!こんな所を後輩に見られてしまうとはよもやよもやだ!」
『・・・・・・・』
一度深呼吸をして、無理やり笑顔を作る。
『・・・煉獄さんも、お茶どうぞ』
煉「ありがとう!」
『この後夕飯の買い出しに行きますが、何か食べたいものはありますか?』
煉「ああ、今日の夕飯は外に食べに行く!」
『え?』
誰かと約束でもしてたっけ?
いつも宇随さんや実弥さんとご飯行く時は前もって教えてくれるけど・・・
煉「稽古の前に彼女たちに誘われてな!たまには後輩に付き合うのも必要だろう!」
『っ!!・・そう、ですか・・・わかりました!』
煉「そうだ、美桜も一緒に行こう!」
『!!・・・いえ、私は遠慮しておきます。皆さんと楽しんで来てください』
煉獄さん、鬼の気配に敏感な癖に何故気付かないの!?
今、おねーさん方からの視線凄かったよ!!
私がいたら邪魔に決まってるでしょ・・・
稽古に来ている女性隊士のほとんどが煉獄さん目当てなのは鈍感な私だって分かる。
煉「む・・・そうか!」
宇「じゃあ、美桜は俺とメシ食おうぜ」
『っ!?宇髄さん!』
煉「!?・・・何故宇髄が美桜と?」
宇髄さんが私の肩に手を回す。
いつもの事だけど、神出鬼没の宇髄さんの登場にビクッとなる。
そして、煉獄さんの声のトーンが急に低くなった・・・。
怒ってる・・・?
ん?なんで?
煉獄さんだっておねーさん達とご飯行くじゃん。
宇「俺の嫁達が美桜に会いたがってんだよ。雛鶴には一度会ってるよな?」
『! はい』
宇「どうせ煉獄は後輩達とメシに行っちまうんだろ?美桜1人で可哀想じゃねぇか。」
煉「しかし・・・」
『・・・私、宇髄さんのお嫁さん達にお会いしたいです・・・駄目ですか?』
煉「! むぅ・・・」
宇「心配すんな!明日の朝にはちゃんと送ってやるからよ」
煉「!! 泊まりは駄目だ!!・・・分かった、食事が終わったら迎えに行く!・・・美桜、楽しんできなさい」
『! はい!』
煉獄さんのお許しが出たので、宇髄さんのお家へご飯を食べに行く事が決定した。
そういえば、煉獄さんの実家と蝶屋敷と本部以外のお家にお邪魔するの初めてだ!
楽しみだなぁ
『宇髄さん、行く前に少しお家の事終わらせて来てもいいですか?』
宇「おう。待っててやるよ」
ありがとうございます、と急いで残りの掃除を済ませ洗濯物を取り込もうと庭に出る。
と、道場の裏手で休憩中の隊士の声が聞こえてきた。
隊1「ねぇ、さっきのアレ見た?信じられないんだけど」
隊2「本当。普通婚約者がいるのに他の殿方のお家に行くとかありえないわよね」
等「煉獄様・・・可哀想・・・」
『・・・・・・』
変な時に出てきちゃったな・・・
あれ・・・息が上手く出来ないや・・・
胸が苦しい。
下を向いて呼吸を整えようとした時、彼女達の方へ向かって行く足が見えた。
『!!』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
道場裏から聞こえた下世話な会話に眉根を寄せる。
全く、そう言う話は本人達の耳に届かない所でやれよ。
俯いた美桜の姿を見て我慢が出来なくなった俺は声の主の方へと足を進める。
と、背中を引っ張る小さな手の感触を感じ、ゆっくり振り返る。
宇「・・・・・・」
小さな手の主ー美桜は俺の服を掴んで小さく首を横に振る。
宇「・・・ハァ、分かったよ」
俺は大袈裟にため息を吐く。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『では、行ってきます。杏寿郎さん』
煉「うむ!遅くならない内に迎えに行く!それまで楽しむといい!奥方達にも宜しく伝えてくれ!」
『はい。杏寿郎さんも、お食事会楽しんできてくださいね。』
煉「・・・うむ!」
玄関先でやりとりをして門を出る。
『!!』
門の外で稽古終わりの等々力さんや女性隊士さん達が立っていた。
あ・・・煉獄さんとご飯行く人達か・・・
『・・・本日も稽古お疲れ様でした。』
ペコリと頭を下げる。
隊士さん達もニッコリと笑顔を向けて
隊「はい!お疲れ様でした!!」
と声をかけてくれる。
私はそのまま少し離れた場所に立っていた宇髄さんの元へ駆け寄る。
また、後ろからヒソヒソ声が聞こえてくるけど聞こえないフリをする。
『宇髄さん!お待たせしました!』
宇「・・・おう。行くか。」
宇髄さんは何か言いたそうな顔をしていたけど、何も言わなかった。
実は、ああいう会話を聞いたのは今日が初めてじゃない。
“あの人が煉獄様の婚約者?”
“何か思ってた感じと違うわね”
“本当、普通っていうか平凡っていうか?”
“蟲柱様の様な方だったら私達も諦めついたのにね”
『・・・・・・』
分かってる。
分かってますとも。
私だってそう思うよ。
ー貴様は杏寿郎に相応しくないー
『・・・ねぇ、宇髄さん』
宇「なんだ?」
『どうしたら認めてもらえますかね?』
宇「は?何を??」
『・・・色々です』
宇「・・・色々ねぇ・・・まぁ、俺の嫁達にでも聞いてみろ。女同士の方が分かる事もあるだろ」
そう言って私の頭をくしゃっと撫でる。
やっぱり宇髄さんは優しいなぁ。
宇髄さんだけじゃない。しのぶさんや蝶屋敷の皆、千ちゃんや槇寿朗さん、悲鳴嶼さんも義勇さんも、実弥さんもー
ー煉獄さんもー
私が記憶を失くしてから出会った人は皆優しかった。
その優しさが当たり前になってたんだろうな・・・
私の存在をよく思わない人達だっているよね・・・
この世はそんな甘いものじゃない。
そんな事、分かってた筈なのに・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雛「美桜さん、いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
『雛鶴さん、お久しぶりです!お邪魔します』
宇髄さんのお家に着くと雛鶴さんが迎えてくれた。
お部屋に入ると、更に2人の女の人がお料理を準備して待っていた。
宇「まきをと須磨。俺の嫁達だ」
『はじめまして。美桜と申します』
ま「いらっしゃい!今日はたくさん食べていきなよ!」
須「美桜ちゃん!かわいい子ね〜!ほら、こっち座って!!」
宇髄さんのお嫁さんは3人とも美人で色っぽいな!!
思わず宇髄さんを見てしまう
宇「3人ともいい女だろ?」
自信たっぷりに言えるんだ!!
『はい!宇髄さんには勿体無いくらいですね』
宇「はぁ!?お前らも笑うな!」
3人のお嫁さん達が楽しそうに笑ってる。
お嫁さん同士も仲良いんだな。
何か改めて考えるとすごい関係性だなぁ。
雛「美桜さん、ちゃんと食べてる?」
『はい!どれも美味しいです』
須「美桜ちゃん!これも食べて!私が作ったの」
ま「馬鹿!そんな焦げた物美桜に食べさせるな!!」
須「痛あぁあい!まきをさんがぶったぁ!!」
宇髄家の食卓はとても賑やかで楽しかった。
こんなに声に出して笑ったのは久し振りかも。
雛「美桜さん、煉獄様とは上手くやってますか?」
『!! えっ、と・・・はい。ぼちぼちと・・・』
歯切れの悪い返事をしてしまう。
宇「・・・・・・」
須「え?上手くいってないの?何で??」
ま「またアンタはそうやってズケズケと!!美桜、言いたくない事は言わなくていいんだからね!!」
皆、心配そうな顔を向けている。
ああ、本当に皆優しいな。
ー俺の嫁達にでも聞いてみろ。女同士の方が分かる事もあるだろー
本当に、相談してもいいのかな?
宇髄さんの方を見ると、顎をくいっと上げて合図してくれる。
『あ、あの・・・私・・・分からないんです・・・』
着物の上から、胸元にある指輪をギュッと掴む。
『・・・どうしたら、婚約者として認めてもらえますか?』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
隊1「煉獄様、私今度昇格するんですぅ」
煉「そうか!それはめでたいな!!おめでとう!」
隊1「もっと強くなれば煉獄様に近づけますか?」
煉「ん?そうだな!柱までの道は近づいているのではないだろうか!」
隊1「あ、そういう事ではなく・・・」
煉「?」
隊2「煉獄様、私今の呼吸が合っていない様な気がして・・・炎の呼吸をご教示いただきたいのですが・・・」
煉「ふむ、そうか。では次の稽古で呼吸も取り入れてみよう!」
隊2「ありがとうございますぅ!」
隊3「ずるい!私も!!」
等「煉獄様、新しいお料理が来ましたよ。はい、どうぞ」
煉「うむ!ありがとう! うまい!!」
隊「「「きゃー!!」」」
煉「?」
後輩の隊士達と食事を共にするのは久しぶりだ。
何故だかよく分からない所で盛り上がるのは不思議だが、彼女達は鬼殺隊士としてもっと強くなろうとしているのだな!
感心な事だ!!
俺も柱として、後輩の指導に力を入れねばならんな!
・・・・・・
等「・・・煉獄様?」
煉「・・・・・・」
・・・今頃、美桜はどうしているだろうか・・・
等「・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうしたら、婚約者として認めてもらえますか?
雛ま須「「「誰に?」」」
『えっ?・・・と、周りの人?』
ま「何で疑問系なんだ?」
須「認めないって、誰かに言われたの??」
『う!・・・はい・・・』
私はここ最近の出来事をポツリポツリと話し始めた。
ま「何それ!ひどい事言う奴もいるんだな!」
須「ホント!美桜ちゃん、そんなひどい事言う人なんかお姉さんが懲らしめてやります!」
まきをさんと須磨さんが立ち上がる。
今にもその人達の事を殴りに行きそうな勢いだ。
『え!?』
雛「ちょっと2人とも落ち着きなさい!・・・美桜さん、私はそんな人達の言うことなんて気にしなくても良いと思うけど・・・」
ま「そうだよ、美桜。言いたい奴には言わせておけばいい。アンタは自信持って堂々としてたらいいんだよ」
『・・・自信・・・ないんです・・・』
須「?」
『私、自分に自信が持てないんです。与えられた事もろくに出来ないし、誰かを守りたいって思うのに私にはその力がないし・・・そんな私が煉獄さんの隣にいていいのか・・・』
須「美桜ちゃん・・・」
ま「・・・美桜はさ、まずどうしたいんだ?」
『え?』
ま「記憶の事、不思議な力の事、煉獄様のこと。全部いっぺんに解決しようと考えて難しくしてないか?」
『・・・・・・』
雛「そうね。一度に全部は難しくても、一つ一つ解決していくことは出来ると思うわ」
『一つ一つ・・・・・・』
須「じゃあ、美桜ちゃんが一番に解決したいのは何??」
『一番・・・』
目を閉じて、うーんと考えてみる。
一つ一つの問題を頭の中で整理していくと、少しずつ黒いモヤモヤが晴れていく。
モヤモヤが晴れると一本道が現れる。
不思議な事に目指す場所も、そこにたどり着くまでの道筋が見えた。
目を開くと、皆が暖かい眼差しを向けていた。
『私・・・』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
煉「では、俺はそろそろ・・・」
隊1「え〜もう帰っちゃうんですかぁ?」
隊2「もう少し一緒に飲みませんかぁ?」
煉「うむ、気持ちは有り難いが婚約者を迎えに行くので俺は失礼する!会計は済ませておくので君たちはゆっくりして行くといい!!」
隊「え〜!!」
等「・・・分かりました!煉獄様、ご馳走様でした!」
煉「うむ!」
思っていたよりも遅くなってしまった。
食事だけのつもりがいつの間にか酒まで運ばれて来てしまったからな。
まぁ嫁達の前で宇髄も変な気は起こさないだろうが・・・
とにかく、早く迎えにーーー
等「煉獄様!」
煉「む。等々力、どうした?他の者はまだ店だろう?」
等「あ・・・私も少し飲み過ぎてしまったので帰ろうと思って・・・きゃっ!」
煉「!!」
等々力が足をもつれさせ転びそうになるのを咄嗟に受け止める。
等「あ・・・ありがとうございます」
煉「そんなに飲んだのか?顔まで赤いぞ」
このまま1人で帰らせて良いものだろうか。
・・・美桜を早く迎えに行きたい所だが、酔った娘を1人夜道に置き去りにする事も出来まい。
一つため息を吐き、
煉「・・・分かった、家まで送ろう。歩けるか?」
等々力を立たせようとするが、俺の服を掴みもたれ掛かったままだ。
等「・・・煉獄様・・・私・・・」
煉「・・・」
蜜「あら〜煉獄さん!こんな所で奇遇ですね!」
煉「甘露寺!何故ここに?」
等「!!」
蜜「丁度任務帰りで通りかかって・・・あら、その子・・・具合でも悪いのかしら?」
煉「うむ・・・少し飲み過ぎたようでな。見ての通り自分で歩けない様なので家まで送り届ける所だ」
等「煉獄様・・・すみません、婚約者様が待っているのに私を優先してくださって・・・」
煉「!」
決して美桜を後回しにしているつもりはないのだが・・・
俺の行動はそう取られても仕方がないのか・・・
蜜「そうなんですね〜。じゃあ、私が彼女を送って行きますよ!煉獄さんは美桜ちゃんが待ってますから、早く行ってあげてください♡」
等「えっ・・・!?」
煉「甘露寺・・・いいのか?」
蜜「はい!勿論です!」
煉「・・・では頼んだ。お礼に今度美味い物をご馳走しよう!」
蜜「わぁい!楽しみにしてますね♡」
煉「では等々力、俺はこれで行く。酒は程々にするのだぞ!」
偶然居合わせた甘露寺に感謝をしつつ、俺は宇髄の家に向けて走り出した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
等「・・・・・・」
蜜「じゃあ、行きましょう?」
等々力さんに肩を貸そうと腕に触れると振り解かれる。
蜜「・・・・・・」
等「・・・いい所だったのに。邪魔しないでよね!」
そう言って、彼女は煉獄さんの方とは反対の道を走って帰って行った。
蜜「・・・・・・麗、お願いね」
私の愛鴉に文を託して飛ばす。
音柱様の鴉から私宛に文が届いた時は吃驚しちゃったわ。
煉獄さんのお家で初めて会ってから数回任務で一緒になったけど、その時の話題は勿論煉獄さんと美桜ちゃんのお話。
私が2人が幸せになる為だったら何でもすると言っていたから今回の事も頼ってくれたんだと思う。
音柱様も2人の事が大好きなのね!
はぁ〜キュンキュンするわ!!
蜜「今度美桜ちゃんにお話聞かなくっちゃ♡」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『私・・・私が今1番やりたいことは』
宇「・・・・・・」
『体を鍛えようと思います。』
宇雛ま須「・・・・・は?」
先程まで向けられていた暖かい眼差しから一転して皆が目を見開いている。
須「え?どういう事??煉獄様の事は??」
『・・・私なりに考えてみた結果です。・・・って言うか、』
『やっぱり悔しいんです!あの時伊黒さんに何も言い返せなかった私が嫌です!!まずはあのネチネチ蛇柱をギャフンと言わせたい!!』
ー実際の貴様は力になるどころかとんだお荷物ではないかー
ー今の貴様がそれを思い出した所で何の役にも立たないだろうなー
思い出すとまた怒りが込み上げる。
そうだよ!
記憶が戻った時、力の出し方が分かった時に私は最大限の力を引き出せないと意味がない。
今の私には体力も、力もない。
その時に備えて私は体を鍛えておく必要がある。
そして、それが自分への自信に繋がる気がする。
そうすれば、私も杏寿郎さんの隣にいてもいいんじゃないかって思えるんじゃないかな!
全てが1本に繋がっているんだ。
宇「クッ!」
『?』
宇「ハハハハハッ!!さすが美桜だ!予想の斜め上を行きやがる!」
私の力説にポカンとしていた宇髄さんが豪快に笑い出す。
宇「伊黒をギャフンとねぇ・・・ククッ!お前も大概負けず嫌いなんだな。普通は柱に楯突こうなんて考える奴はいねぇよ」
そういえば中西さんにも似たような事言われたな・・・
ま「気に入ったよ美桜!私も力になるよ!」
雛「そうね。体を鍛えたいなら協力するわ」
『えっ!本当ですか!?』
凄い!本物のくノ一に鍛えてもらえるの??
須「もっちろん!蛇柱様も、美桜ちゃんの事悪く言った子達も見返してやりましょう!!」
鴉「カァッ!!」
わぁ!嬉しいな!!
鴉まで応援してくれてる!
ん?鴉??
この鴉は宇髄さんのじゃない。
鴉(麗)「カァッ!任務完了ヨォッ!!」
鴉の報告を聞き、文を開いた宇髄さんはニヤッと笑う。
宇「そうか、ご苦労だったな。丁度いい頃合いだ。美桜、もうじき迎えがくるぞ」
『え?』
どういう事?
と疑問に思った時
煉「美桜!迎えに来たぞ!!」
玄関から私の大好きな声が聞こえた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『杏寿郎さん!』
煉「美桜!」
玄関まで行くと珍しく汗を流した煉獄さんが立っていた。
宇「何お前、走ってきたのか?」
煉「うむ!予定よりも遅くなってしまったのでな!」
須磨さんに愛されてるじゃないと耳打ちされる。
雛「あら、では少し休まれて行かれますか?」
煉「いや、大丈夫だ!お気遣い感謝する!雛鶴殿、まきを殿、須磨殿、美桜が世話になった!!」
ま「へぇ、名前ちゃんと覚えてくれたんですね!」
『フフッ!』
まきをさんの台詞に思わず吹き出してしまう。
血鬼術で宇髄さんと入れ替わった時、煉獄さんは見事に3人の名前を間違えて呼んでたってさっきの食事中に教えてもらった。
煉「うむ、名前は覚えた!先日は失礼致した!・・・・・・」
煉獄さんは笑っていた私の顔をじっと見る。
もしかして気を悪くしたかな?
『あ、ごめんなさい。人の失敗で笑ってしまうなんて』
煉「いや、美桜が笑った顔を久しぶりに見れて嬉しくなった!俺は美桜の笑顔が一番好きだ!!」
『・・・っ!』
何という殺し文句!!
私だけじゃなくて雛鶴さん達まで赤くなってるよ!!
『あっありがとうございます・・・。宇髄さん、皆さんお邪魔しました。』
宇「おう、またいつでも来いよ」
ま「美桜、またな!」
須「近い内にまた会いましょう!勿論、例の件でね♡」
煉「む?」
『はい!お願いします!』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
宇髄さんのお家を後にして、2人で夜道を歩いている。
そういえばこんな風に夜出歩くのは初めてだなぁ。
新鮮で少しワクワクする。
煉「美桜、道が暗いが怖くはないか?」
『いいえ、今日は月明かりもあるし、杏寿郎さんと一緒だから怖くないですよ』
煉「! そうか!今日は楽しめたか?」
『はい!宇髄さんも奥さん達も優しいし、賑やかで楽しかったです』
煉「それは良かったな!」
『杏寿郎さんもお食事会楽しめましたか?』
煉「そうだな・・・」
煉獄さんが珍しく言葉を詰まらせる。
煉「後輩の話も聞けたし有意義な時間だった!・・・だが、食事もしたが何故だかあまり食べた気がしないな」
そう言って首を傾げている。
そっかぁ・・・量が足りなかったのかなぁ?
訓練の後でお腹も空いてただろうし、私を迎えに行くのに走ってきてくれたしね。
『じゃあ帰ったら軽くお夜食でも作りますね』
煉「ありがとう!・・・さっきから上を見ながら歩いているがどうした?」
『あ、夜こうやって歩くのが新鮮で・・・星が綺麗だなぁと・・・あっ!』
星空に気を取られて、足元の段差に躓いて転びそうになる私の体を煉獄さんの腕がしっかりと受け止めてくれる。
煉「だからと言って上ばかり向いていては危ないぞ」
『あっ、ごめんなさい』
本当、子供みたいな転び方をして恥ずかしい。
慌てて煉獄さんから体を離す。
煉「・・・・・・」
『な、なんですか・・・?』
煉「月明かりでも顔が赤いのが分かるな」
じっと私の顔を見ていた煉獄さんがフッと笑って私の頬をさする。
『っ!!』
恥ずかしい!!(2回目)
話を逸らそう!
『ほ、本当に昼間と夜は町の雰囲気が変わりますよね!あんなに人で賑わってる通りがこんなに静かで・・・』
煉「・・・そうだな」
『・・・まるで私達しかいないみたいで・・・くしゅん!』
くしゃみをしてしまう。
夜風に当たって体が冷えたみたい。
昼間が暖かかったから羽織を着てこなかった私は肌寒さを感じていた。
『朝晩は冷えるようになりましたね・・・帰ったら羽織を出さないと・・・』
煉「美桜」
『はい?』
煉「おいで」
煉獄さんに呼ばれて振り返るのと、煉獄さんが私の腕を取り自身の懐に招き入れるのが同時だった。
『えっ』
今、私は煉獄さんの羽織の中で肩を抱かれて立っている。
煉「身体がすっかり冷えている。こうすれば暖かいだろう?」
『・・・いや、あの・・・』
煉「・・・嫌か?」
『や、嫌とかじゃなくて・・・恥ずかしいです・・・外だし』
肩を抱かれるのは久し振りだし、羽織の中に私入っちゃってるし!
煉「美桜が言った様に今は俺たちしかいないぞ?」
またそんな甘い言葉を囁く!
羽織に包まれているからかいつもより煉獄さんの匂いを感じる。
それだけで胸が痛いくらい脈打つ。
・・・と、私はある事に気がつく。
『あ・・・』
煉「どうした?」
『この羽織・・・すっかり杏寿郎さんの匂いになりましたね。』
煉「!」
柱になってすぐの頃は慎寿郎さんの匂いがしていたこの羽織。
『杏寿郎さんはもう立派な炎柱なのですね』
煉「そうか・・・自分では気が付かなかったな」
『・・・私、明日からしっかり体鍛えますね』
煉「?話が見えないな。どうした、急に?」
『足元の段差に躓いている様じゃ、炎柱様の婚約者として笑われてしまいます』
煉「・・・そんな事で笑わせやしない。それに俺がこうしていつでも支えてやるぞ!」
『ありがとうございます。』
煉獄さんならそう言うと思った。
『でも・・・』
煉「だが、美桜がそう決めたのなら俺は力になる!」
『!!』
煉「美桜の考えがあっての事だろう?ならば俺は全力で応援する!美桜を信じているからな」
『杏寿郎さん・・・』
本当に。
どうしてこんなにも私の欲しい言葉をくれるんだろう。
ああ
単純だな、私
さっきまで伊黒さん達を見返してやりたい気持ちで一杯だった私の心は煉獄さんで一杯になる。
強くなりたい。
あなたの為に
月明かりに照らされながら2人寄り添って帰路についた。