独占欲と蛇
空欄の場合は「美桜」になります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『えっ?今度の柱合会議に出席??私もですか?』
煉「うむ!」
ある日、任務帰りの煉獄さんから今度の柱合会議に一緒に行くぞ!と声を掛けられた。
・・・きっと記憶のことを聞かれる・・・
怪我して任務同行を中断してたからなぁ・・・。最近やっと復帰できたけど、これと言った成果はないし・・・
『・・・・・・』
黙り込んでしまう。
記憶が戻らない事、力を引き出せていない事に焦りを感じる・・・
煉「・・・美桜、安心しろ。誰も君の事を咎めたりなどはしない。」
煉獄さんに優しく抱き寄せられる。
煉「それに、今回美桜を呼ぶのは記憶の事以外の用件だからな!」
『・・・え?記憶以外?』
煉「うむ!新しく柱に就任する者がいる為、美桜の事も紹介するのだそうだ!」
『新しい柱・・・!』
7人目の柱かぁ。
柱になる為の条件は煉獄さんの時に知っている。
きっとその人も凄く強いんだろうな。
任務同行でこれからお世話になる事があるかもしれない。
どんな人だろう・・・
新しい人との出会いに楽しみと不安が入り混じる不思議な感覚だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして柱合会議当日ーーー
支度を終えて煉獄さんとお屋敷を出る。
『あれ?』
お屋敷の外で私はキョロキョロと辺りを見渡す。
煉「どうした?」
『・・・隠の人、まだ来てないみたいですね。』
本部など鬼殺隊の重要な場所は簡単に特定されないように、目隠しをして隠の人が運ぶ事になっている。
もちろん今回もそうだと思ったのだけど・・・
煉「隠の者は来ないぞ!」
『えっ。じゃあ・・・』
煉「俺が連れて行く!」
『えっ?』
煉獄さんが連れて行く。って、煉獄さんが私を背負って行くの?
すると急に視界が暗くなる。
『!!』
煉「決まりだから、目隠しはさせてもらうぞ」
『は・・はい・・・でも、どうして杏寿郎さんが・・っ!?』
急な浮遊感に驚く。
煉「俺の目の前で他の男に触れられるのは見たくないからな」
耳元で甘く囁かれる。
『っ!!』
耳が熱くなる。
じゃあ女性の隠がいるじゃないか、というツッコミも引っ込んでしまう。
っていうか、今おんぶじゃなくて横抱きにされた状態だけど・・・
煉「では行くぞ!!」
『えっ!?このまま行くんですか!?』
煉「ああ!これなら美桜の様子が良く見えるからな!!」
そう言って走り出す。
以前の宇髄さん程ではないけど、やっぱり速いよ!!
物凄い風を感じる。
『・・・・・っ!』
しっかり抱いてくれてはいるけど、ずり落ちないように必死に煉獄さんの首にしがみつく様に腕をまわす。
煉「む!今日の美桜は積極的だな!!」
嬉しそうな声がするけど、こっちはそれどころではない。
『ちょ・・・速っ・・・からっ・・・』
人を抱えて出せるスピードじゃないよね?
視覚が奪われている為恐怖心が増して腕に力が入る。
煉「・・・美桜、嬉しいが少し腕の力を緩めてくれないか?」
『・・・・!!』
いや、無理だよ!!
心なしかスピード上がってない!?
少しでも風の抵抗から逃げる為に顔を煉獄さんの胸に押し付ける。
煉「・・・むぅ!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
抗議の声も出せないまま、どれだけの時間が経ったのだろう。
『・・・・・・?』
いつの間にか風と身体の揺れを感じなくなっていた。
ん?止まってる・・・??
『・・・杏寿郎さん?』
煉「・・・なんだ?」
『あの・・・本部は・・・?』
煉「到着しているぞ!」
『!!?』
もう着いたの??
隠の人が送ってくれた時は半日とはいかないが結構時間かかってたよね・・・
っていうか!
『つっ着いているなら降ろしてください!』
やっと出せた抗議の声で久しぶりに地面に足が着く。
ほう、と一息ついた所で優しい手つきで目隠しを外される。
明るさに目が慣れた頃、ゆっくり顔を上げる。
『!!』
目の前にニヤニヤした宇髄さんが立っていた。
宇「昼間っから見せつけるねぇ」
『はっ!?ちが、違います!!杏寿郎さんも、着いたならすぐに教えてくださいよっ!』
煉「うむ・・・美桜から抱きついてくれる事は珍しいので離すのが惜しくなってしまった!」
『っ!!!抱きついた訳では・・・』
しがみついた。が正解だけど・・・。
顔が赤くなった私を宇髄さんがマジマジと覗き込んでくる。
『??』
宇「!!」
何?という素振りをすると驚いた様な顔をして目頭を押さえる。そしてまたこちらをチラリと見てくる。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
久しぶりに美桜の顔を見たが・・・
何でこんなキラキラして見えるんだ??
俺はまた知らない内に血鬼術にでもかかってんのか??
目頭を押さえ、もう一度見る。
宇「・・・・・・」
やべぇな。
可愛いじゃねぇか・・・
この間は煉獄の視点だからそう見えたのだと思っていたが、俺自身が美桜の事を女として認識しちまったって事か・・・
宇「ハァ・・・マジかよ・・・」
『??何ですか?人の顔見てため息なんて・・・』
変な宇髄さん。と言われる。
宇「・・・何でもねぇよ」
美桜の頭をクシャッと撫でる。
別に美桜とどうなりたいとか思ってる訳じゃない。
こいつは端から煉獄の事しか見えてないしな。
煉「宇髄・・・まさかとは思うが・・・」
宇「!! ・・・安心しろ。そんなんじゃねぇ」
コイツ・・・美桜絡みになると妙に勘がいいな。
『??』
鈍感な女が1人、首を傾げていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お館様の御成です」
柱合会議が始まった。
今回はお屋敷のある一室に通されていた。
私は柱の皆から少し離れた所に座っている。
お館様への恒例の挨拶も終えて、本題に入る。
館「新しく柱になった者を紹介しよう 入っておいで」
お館様の合図で障子が開き、1人の男の人が姿を現した。
肩まで伸ばした黒髪、口元には包帯を巻き、白と黒の縞模様の羽織を着ている。
そして、彼の肩口からは真っ白な蛇が顔を覗かせていた。
館「皆に自己紹介を」
お館様に促され、口を開く
伊「此度、蛇柱として就任された伊黒小芭内だ」
お見知りおきを、と挨拶をするーーーと、
煉「伊黒・・・小芭内!!」
伊「! 杏寿郎・・・」
煉獄さんが驚いた様に声を上げる。
不「何だぁ、知り合いか?」
煉「うむ!子供の頃数年間だが小芭内は煉獄家に住んでいた事がある!久しいな!!」
伊「ああ・・・」
へぇ!そうなんだ!!
あの煉獄さんのお家に・・・
館「小芭内 君に紹介しておきたい子がいるんだ 美桜 おいで」
『はっ、はい!』
お館様に名前を呼ばれて慌てて立ち上がる。
館「先程話していた子だよ 鬼殺隊にきっと新しい風をもたらせてくれる 小芭内も他の柱の皆と協力して守ってあげて欲しい」
伊「・・・御意」
『あっ・・・よろしくお願いします』
ペコリと頭を下げる。
伊「・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
紹介が済んだ所で私は会議の邪魔にならない様お部屋を出た。
いつものお庭で煉獄さんの事を待ってようと廊下を歩いていた。
・・・どうやったらお庭に出られる??
煉獄さんのお家も広いけど、ここはそれ以上だった。何部屋あるんだろう??
さっきのお部屋も分からなくなってしまった・・・
「どうかしましたか?」
廊下でオロオロしていると背中から聞こえた声に驚き振り返る。
『あ・・・あなたは』
お館様の奥方のあまね様が御子息の輝利哉様と一緒に立っていた。
『あ・・・ごめんなさい。迷ってしまって・・・』
人様のお家の中をウロウロしていた事に気まずさを感じるが、あまね様は
あ「そうでしたか。まだ会議が終わるまでお時間がかかります。こちらへどうぞ」
と、ある部屋へ案内してくれた。
そこではお館様とあまね様のお子様(にちか様とひなき様)がそれぞれ書物を読んでお勉強をしていた。
壁際の本棚にはギッシリと本が詰まっている。
凄い・・・
小さい子には難しそうな本ばかり並んでるけど、これをこの子達は読めるんだ。
あ「何か気になる物がありましたか?」
お茶の準備をするあまね様に声を掛けられる。
『いえ・・・凄い数の本ですね・・・海外の物まで・・・』
中には英文や中文などの本もある。
あ「海外の物は私たちには残念ながら読む事はできないのですよ。そこにある童話も子供達は挿絵で物語の内容を想像する位で・・・」
あまね様の言った童話を手に取り開く。
人魚姫やシンデレラ、白雪姫の話が載っていた。
あれ、外国語なのに、私・・・読める。
私は徐にページを捲り、声に出して読んでみた。
不思議な感覚だった。
ここに書かれているのは初めて見るはずのアルファベットの綴りなのに、自然と口から溢れていく。
そして英文の意味も、頭の中で勝手に日本語として変換されて理解できている。
私はいつ、どこで覚えたのだろう?
あまね様も驚いた様子でこちらを見ていた。
に「このお話が読めるのですか?」
輝利哉様、にちか様、ひなき様がワッと私の周りに集まってくる。
ひ「是非、読んで聞かせてください」
目を輝かせてお願いされたら断る理由もない。
私は、書かれた英文を分かりやすい日本語に訳して読み聞かせをする。
挿絵を見て想像するしかなかった物語の全容を知りお子様達は目を爛々と輝かせていた。
そんな事をしていると時間はあっという間に過ぎ、お館様と共に会議に出ていた かなた様が私を呼びに来てくれた。
か「美桜さん、お待たせしました。会議が終わりました。」
『あっ、ありがとうございます!あまね様、お茶までご馳走になってしまいすみませんでした』
あ「いいえ。・・・美桜さん、貴女さえ良ければまたいらして下さい。この子達も喜びます。」
『! はい。私なんかで良ければ喜んで。』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
庭に出ると会議を終えた皆が談笑していた。
杏寿郎さんは伊黒さんと楽しそうに話している姿が見えた。
子どもの頃に一緒に住んでたって言ってたなぁ。じゃあ幼馴染って事か。
煉「! 美桜」
煉獄さんが私の姿に気づいて手招きをする。
私も笑顔で駆け寄る。
『お待たせしました。杏寿郎さん』
煉「てっきり庭で待っていると思っていたぞ!どこにいた?」
『あまね様とお子様達と一緒にいました。』
煉「そうか!これから帰ると遅くなってしまうな!夕飯はどこかで食べて帰ろう!」
『はい』
伊「・・・一緒に帰るのか?」
私と煉獄さんのやりとりを見て伊黒さんは不思議そうな顔をする。
煉「ああ!小芭内は知らなかったな!!俺と美桜は婚約している!今は同じ屋敷で暮らしている!」
伊「!?」
伊黒さんは驚いた顔をする。
あ、さっきはお部屋の中で気づかなかったけど、伊黒さんの瞳って左右色が違うんだ・・・綺麗・・・
不「おい煉獄ゥ!次の合同任務だけどよ・・・」
煉「む!何だ?・・・すまん美桜、少し待っていてくれ!」
『あ、はい・・・』
煉獄さんは私と伊黒さんを残して不死川さんの元へ向かって行った。
そうだ、伊黒さんに小さい頃の杏寿郎さんの話聞いてみよう!
伊「・・・・・・」
『・・・あの、伊黒さん・・・』
伊「俺は認めない」
『えっ?』
伊「お前の様な得体の知れない珍ちくりんは杏寿郎の婚約者として認めないと言っている」
『えっ・・・』
珍ちくりん・・・
初対面で言われたのは2回目だ。
確かにスタイル良くないと自分でも分かってるけど、普通面と向かって言わないよね??
余りの衝撃に固まってしまう。
『・・・・・・』
伊「フン、顔も間抜けだな。」
杏寿郎も趣味が悪いとため息まで吐かれる。
暴言のオンパレード!
『ちょっと・・・そんな言い方・・』
伊「本当の事しか言ってない」
『!!』
伊「お館様の命令だから“仕方なく”お前の護衛はする。だが俺はお前を認めた訳ではない。鬼殺隊としても杏寿郎の婚約者としてもだ。良いか、それを良く覚えておけ。」
ネチネチと言いたい事だけ言って伊黒さんはその場を後にした。
『・・・・・・』
ポカンと口を開けたまま立ち尽くす。
煉「美桜、待たせたな!む、小芭内は帰ったのか?」
打ち合わせを終えた煉獄さんが戻ってくる。
煉「小芭内はいい奴だろう!美桜も仲良くしてやってくれ!」
『!!? ・・・はい・・・』
どこが!?とツッコミを入れたくなったが呑み込む。
だけど仲良くするのは難しいと思う。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
帰り道も同じように目隠しをして、煉獄さんに横抱きにされている。
一つだけ違う事は、少しスピードを落としてくれている。行きに私が怖がっていたからだろう。
やっぱり煉獄さんは優しいな・・・
ー杏寿郎の婚約者として認めないー
時間が経つにつれて怒りが湧いてきた。
確かに、婚約者として上手く振る舞えていないかもしれないけど、そんな事伊黒さんから言われる筋合いないし!!
次に伊黒さんに会った時に撤回させてやる!
煉獄さんの肩に置いた手に力を込める。
煉「? 美桜・・・まだ怖いか?」
速度を落とそうか?と聞かれる。
『あっ!いえ、大丈夫です。・・・杏寿郎さん』
煉「ん?」
『私・・・もっともっと頑張りますから!』
煉「? うむ!俺もできる限り力になろう!」
婚約者として、のつもりで言ったのだけど、煉獄さんは記憶を取り戻す為に頑張るととったみたい。
勿論そっちも頑張る。
得体の知れない奴なんて言わせないぞ!
『あ・・・そういえば、私英語がわかるみたいです。』
煉「英語?外国の言葉か?」
今日の出来事を煉獄さんに報告する。
煉「そうか!それは凄い発見だったな!よもや美桜は海外で生活していたのではないか?」
『そう、なのかな・・・』
確かに英語が話せたり、洋食に詳しかったりとその可能性はあるのかもしれない。
煉「美桜、町まで戻ってきた。目隠しを外そう」
私を降ろして目隠しを外してくれる。
煉「この辺で何か食べて帰るぞ。何か食べたい物はあるか?・・・!?」
そう言いながら、少し前を歩き始める煉獄さんの左手をそっと掴む。
煉「・・・どうした?」
『・・・杏寿郎さんと手を繋ぎたいな、と・・・駄目ですか?』
煉「!! いや・・・そうか!」
煉獄さんは一瞬驚いた顔をするが直ぐに笑顔になってしっかりと私の右手を握りながら歩き始める。
『・・・・・・』
私はこの手を離したくない。
自分でも信じられない位に、煉獄さんに対しての想いが日に日に膨れ上がっていく。
この気持ちに上限なんてあるのかな。
「あっ!煉獄様!!」
煉「ん?」
ふと、後ろから声を掛けられ煉獄さんと私は同時に振り返る。
そこには見慣れない女の人が立っていた。
誰?と煉獄さんを見上げるものの、呼ばれた本人もピンときていない様子。
女「この前はありがとうございました!」
煉「ええと、君は・・・?」
女「鬼殺隊、階級は己。 等々力神奈です!先日の任務でご一緒させていただきました!」
煉「! ああ、君か!隊服を着ていないので分からなかった!」
そうか、鬼殺隊の人かあ。
こんな可愛らしい女の子が戦いに出てるなんて、改めて凄いなぁと尊敬する。
ーと、私の右手から煉獄さんの手が離れる。
煉「あの時の傷はまだ痛むか?」
そう言って、等々力さんの首元に手をやる煉獄さん。
『・・・・・・』
心臓がドクンと波打つ。
等「あ・・・煉獄様が咄嗟に庇って下さったので傷は浅くて済みました」
煉獄さんに触れられた等々力さんの頬は紅潮している。
煉「そうか!それは良かった!」
等「今度の任務も煉獄様とご一緒させていただく事になりました!今度は足を引っ張らぬ様精進致します!」
煉「そうか!精進するのは感心だ!だが、無理はするなよ」
首元にあった手はそのまま頭の上に乗り、ポンポンと優しく撫でる。
等「は・・はい!ありがとうございます!」
煉「うむ!」
等々力さんは去り際に、私の顔をチラッと見た。
『!!』
煉「美桜、では行こうか?」
『・・・はい』
その後お店に行くまでと、お家に帰るまでの間手を繋いでくれたけど私の心臓はいつもと違う音が鳴っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日は私の任務同行と、煉獄さんの例の任務が重なった。
今頃、あの子と一緒なんだろうな・・・
黒い、モヤモヤした感情が渦巻いている。
宇「おい、美桜。何て顔してんだよ」
『あっ・・・ごめんなさい』
そうだ。
私は私のやるべき事に集中しないと・・・
宇「そろそろ隠れとけ。安心しろよ、俺様がド派手に鬼の頸を取ってやるからよ!」
『はい。宇髄さん、伊黒さんも・・・お気をつけて』
伊「・・・フン」
『・・・・・・』
そう。
今日の同行で早速伊黒さんに会ってしまった。
会った時から相変わらず、
伊「歩くのが遅い。山を歩く体力もないのか。」
とか、
いきなり出てきた狸に驚いて宇髄さんにしがみついた時も
伊「こんな小動物に一々驚くのかお前は。鬼が気配を察知して出てこないだろうが。静かにしろ」
などと、事あるごとにネチネチネチネチ、ネチネチネチネチと嫌味を言われ続けていた。
『むぅ〜〜〜!』
目の前の草をブチブチ抜く。
後「美桜さん・・・荒れてますね」
『だって!あんな言い方するんだもん!』
東「確かに、ちょっと言い過ぎかなとは思いました・・・」
『でしょ!?でも、その通り過ぎて言い返せないのが悔しい!』
中「いや、普通は柱に対して言い返そうなんて思いませんよ・・・」
鴉「カアッ!鬼ヲ発見!!複数体イル模様!!気ヲツケテェエ!!」
『っ!!!?』
鬼の情報に身構える。
複数体!?
鬼は群れないんじゃないの??
身を潜めながら刀の柄に手をかける。
私だって、せめて自分の身くらい守れないと・・・
暫くすると隊士の1人が走ってくる。
援護に来てくれたのかな?
ーーーと、
隊「うわあああっ!助けてっ!」
『っ!!?』
その隊士は私たちが潜んでいた茂みに向かってくる。
その後ろから、1体の鬼が追いかけてきている。
鬼「何だ、逃げるのか!ハハハッとんだ腰抜けだなぁ」
隊「・・・俺じゃ駄目だ・・勝てない・・・」
逃げてきた隊士はガタガタと震えている。
腕からはジワジワ血が滲んできている。
宇髄さんと伊黒さんは・・・?
他の鬼と戦っているの??
心拍数が上がっていく。
刀にかけた手に力を込める。
東「美桜さん、下がってください!」
『・・・・・・』
怪我をした隊士、武器を持たない隠・・・。
今、この距離で背を向けて逃げるのは自殺行為だ・・・。
かと言って、私に斬れるの・・・?
いや、斬れた所でこの刀では鬼は殺せない・・
せめて、時間が稼げれば・・・
『・・・・・・』
鬼「・・・何だ。来ないのか?見掛け倒しか」
鬼が嘲笑う。
それが挑発のつもり?
伊黒さんの嫌味の方が上手だよ。
『・・・・・・』
鬼「まぁいい。お前から喰ってやるよぉ!」
鬼が私目掛けて飛びかかってくる。
瞬間、刀を抜いて斬り上げる。
鬼の拳と私の刀がかち合う。
キィン!
ー硬いー
刀が弾かれた。
斬れない・・・!
『・・・・・・皆さん、今のうちに逃げて下さい』
後「!?」
東「何を・・・!?」
『・・・このまま固まっていたら全員やられてしまいます。ここは散った方が得策です』
私が記憶を戻して、例の力が使えたなら皆を守ることが出来ただろうか・・・
こんなピンチになっても何も思い出せない。
ただ一つ、思う事は
死なせたくない。
後藤さんも、東城さんも、中西さんも、
怪我を負った隊士もーーーー
守りたいーーー
鬼「馬鹿か!逃がす訳が無えだろうがぁ!」
再び鬼が向かってくる。
今度は私からも鬼に向かっていく。
そうする事で、他の皆と鬼の距離が開く。
『早く!走って!!』
無我夢中だった。
思い切り振った剣は空を斬る。
ーーー避けられたーーー
そして、鬼の拳が私へと向かってくるのが見える。
駄目だった・・・
・・・杏寿郎さん・・・!
死を覚悟した時
私の目の前に現れた影が素早い動きで鬼の頸を斬り落とした。
『・・・・・・』
私は力なくその場に座り込んでいた。
東「美桜さん!大丈夫ですか!?」
『あ・・・はい・・・。あ、ありがとうございます・・・』
私を助けてくれたー影の正体ー伊黒さんにお礼を伝える。
伊黒さんは酷く冷たい瞳をこちらに向けていた。
伊「貴様は、何がしたいんだ」
『・・・え?』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
鬼を2体倒した俺は急いで美桜の元に向かう。
こんなに鬼が一所に集まるなんて珍しい。
鴉からの報告だと隊士の1人が鬼から逃げ出した先が美桜の潜んでいる場所だった。
宇「美桜!無事か!?」
現場に到着すると、座り込んだ美桜の姿が目に入る。手には抜いた刀を握っている。
伊「鬼は倒した。任務終了だ」
『・・・・・・』
宇「そうか・・・。じゃあ山を降りるか。立てるか?美桜?」
『・・・・・・』
美桜は頷くが、小刻みに震えていた。
怪我はしてない様だが怖い目にあったのは間違い無いな。
美桜を抱き上げる。
宇「俺は美桜を送ってくわ。伊黒、報告は任せたぞ」
伊「・・・ああ。」
隠には怪我をした隊士を蝶屋敷へ連れて行く様に指示を出し、山を降り始めた。
美桜は恥ずかしがる事も嫌がる事もなく、大人しく腕の中に収まっていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
宇髄さんに運ばれて里まで降りてきた。
宇「今日は怖い目に遭わせちまったな」
『・・・・・・』
私は首を横に振る。
確かに、鬼は怖かった。
でも、それ以上に伊黒さんから言われた言葉が頭の中でグルグル回っていた。
ーーー貴様は、何がしたいんだ?ーーー
『ーーーえ?』
伊「鬼殺隊の力になりたいと、お館様に言ったそうだな」
『・・・はい』
伊「だが実際の貴様は力になるどころかとんだお荷物ではないか」
『っ!!』
伊「記憶さえ戻れば、不思議な力さえ出せればなんて思っているのだろうが、今の貴様がそれを思い出した所で何の役にも立たないだろうな」
『! それは・・・』
伊「俺は貴様の中途半端な所が気に入らない。だから俺は貴様を認めない」
ー杏寿郎に貴様は相応しくないー
『・・・・・・』
宇「・・・元気出せ。もうすぐ町に着く。鴉の報告では煉獄も任務を終えたらしいから、直ぐ帰ってくるだろうよ。ーーーと、煉獄?」
『・・・え?』
宇髄さんの言葉に思考を止めて顔を上げる。
先の方に煉獄さんの姿が見える。
段々近づいてくる事で、誰かを背負っている事に気づく。あれは・・・
・・・等々力さん・・・
また、心臓が痛む。
宇「おう、煉獄!」
煉「む?宇髄か!ー美桜!?怪我をしたのか?」
煉獄さんが心配そうに駆け寄り声を掛けてくる。
宇「・・・いや、怪我はしてねぇが鬼に遭遇したショックが強かったみたいでな。お前の方はどうした?」
煉「そうか・・・。ああ、こちらは鬼を追い詰めた所で怪我をしていた隊士だ。深追いしすぎたのだろう」
宇「・・・ふぅん?隠がいただろう?蝶屋敷まで運ばせたら良かったんじゃねぇの?」
煉「俺もそう考えたのだが・・・彼女が傷は浅いので応急処置で問題ないと言い張るのでな!家も近いので俺が送る事にした!」
『・・・・・・宇髄さん、ここまでありがとうございました。もう自分で歩けます。』
宇「あ?ああ・・・」
『・・・杏・・・煉獄さん。その子をちゃんとお家まで送ってあげて下さいね。』
私、先に帰ってます。
と言って返事も聞かずにまだ暗い道を走り出す。
煉「!?美桜っ!!」
宇「・・・美桜は俺が家まで送り届ける。お前はさっさとその隊士を送ってこい。」
等「・・・煉獄様?」
煉「・・・・・・」
ああ、何で逃げちゃったのだろう。
煉獄さんは優しいだけ。
怪我をした隊士を放っておけないだけなのに。
私、どうしちゃったんだろう。
こんなに心が狭いの?冷たい人間だったの?
全部伊黒さんの言う通りだ・・・
私は何がしたいんだろう・・・
宇「美桜!おい止まれ!」
追いかけてきた宇髄さんに肩を掴まれる。
涙が次から次へと溢れてくる。
『どうして・・・』
宇「?」
『どうして宇髄さんが追いかけてくるのぉ〜』
何で煉獄さんじゃないの。
自分であの子を送って行けと言っておきながら、本当は私を追いかけてきて欲しかったなんて
なんて矛盾しているんだろう。
宇「・・・泣くな、美桜・・・」
『・・・ごめんなさい。宇髄さん・・・送ってくれたのに』
宇「何謝ってんだ?・・・俺は美桜には笑っていて欲しいんだよ。もう泣くな。分かってるから、お前の気持ちは」
ヤキモチ妬いたんだろ?
と頭を優しく撫でられる。
『うっうぅ・・・』
宇髄さんの言葉に頷く。
こんな事でヤキモチ妬いてたらいつか愛想尽かされちゃうよね。
宇「まぁ、煉獄の事は心配するな・・・それでも、どうしても辛くなったらその時は俺を頼れ」
派手に甘やかしてやるからな
と優しく抱きしめられる。
そこで、私の涙腺は一気に崩壊した。
鬼に怖い目に遭わされて
伊黒さんからは辛辣な言葉を浴びせられて
煉獄さんが他の女の人に優しくする姿を見て
そんな時に、優しい言葉を掛けられたものだから
宇髄さんの腕の中で子どものようにわんわん泣いてしまった。
これは何の涙なのか、自分でも良く分からなかった。
煉「うむ!」
ある日、任務帰りの煉獄さんから今度の柱合会議に一緒に行くぞ!と声を掛けられた。
・・・きっと記憶のことを聞かれる・・・
怪我して任務同行を中断してたからなぁ・・・。最近やっと復帰できたけど、これと言った成果はないし・・・
『・・・・・・』
黙り込んでしまう。
記憶が戻らない事、力を引き出せていない事に焦りを感じる・・・
煉「・・・美桜、安心しろ。誰も君の事を咎めたりなどはしない。」
煉獄さんに優しく抱き寄せられる。
煉「それに、今回美桜を呼ぶのは記憶の事以外の用件だからな!」
『・・・え?記憶以外?』
煉「うむ!新しく柱に就任する者がいる為、美桜の事も紹介するのだそうだ!」
『新しい柱・・・!』
7人目の柱かぁ。
柱になる為の条件は煉獄さんの時に知っている。
きっとその人も凄く強いんだろうな。
任務同行でこれからお世話になる事があるかもしれない。
どんな人だろう・・・
新しい人との出会いに楽しみと不安が入り混じる不思議な感覚だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして柱合会議当日ーーー
支度を終えて煉獄さんとお屋敷を出る。
『あれ?』
お屋敷の外で私はキョロキョロと辺りを見渡す。
煉「どうした?」
『・・・隠の人、まだ来てないみたいですね。』
本部など鬼殺隊の重要な場所は簡単に特定されないように、目隠しをして隠の人が運ぶ事になっている。
もちろん今回もそうだと思ったのだけど・・・
煉「隠の者は来ないぞ!」
『えっ。じゃあ・・・』
煉「俺が連れて行く!」
『えっ?』
煉獄さんが連れて行く。って、煉獄さんが私を背負って行くの?
すると急に視界が暗くなる。
『!!』
煉「決まりだから、目隠しはさせてもらうぞ」
『は・・はい・・・でも、どうして杏寿郎さんが・・っ!?』
急な浮遊感に驚く。
煉「俺の目の前で他の男に触れられるのは見たくないからな」
耳元で甘く囁かれる。
『っ!!』
耳が熱くなる。
じゃあ女性の隠がいるじゃないか、というツッコミも引っ込んでしまう。
っていうか、今おんぶじゃなくて横抱きにされた状態だけど・・・
煉「では行くぞ!!」
『えっ!?このまま行くんですか!?』
煉「ああ!これなら美桜の様子が良く見えるからな!!」
そう言って走り出す。
以前の宇髄さん程ではないけど、やっぱり速いよ!!
物凄い風を感じる。
『・・・・・っ!』
しっかり抱いてくれてはいるけど、ずり落ちないように必死に煉獄さんの首にしがみつく様に腕をまわす。
煉「む!今日の美桜は積極的だな!!」
嬉しそうな声がするけど、こっちはそれどころではない。
『ちょ・・・速っ・・・からっ・・・』
人を抱えて出せるスピードじゃないよね?
視覚が奪われている為恐怖心が増して腕に力が入る。
煉「・・・美桜、嬉しいが少し腕の力を緩めてくれないか?」
『・・・・!!』
いや、無理だよ!!
心なしかスピード上がってない!?
少しでも風の抵抗から逃げる為に顔を煉獄さんの胸に押し付ける。
煉「・・・むぅ!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
抗議の声も出せないまま、どれだけの時間が経ったのだろう。
『・・・・・・?』
いつの間にか風と身体の揺れを感じなくなっていた。
ん?止まってる・・・??
『・・・杏寿郎さん?』
煉「・・・なんだ?」
『あの・・・本部は・・・?』
煉「到着しているぞ!」
『!!?』
もう着いたの??
隠の人が送ってくれた時は半日とはいかないが結構時間かかってたよね・・・
っていうか!
『つっ着いているなら降ろしてください!』
やっと出せた抗議の声で久しぶりに地面に足が着く。
ほう、と一息ついた所で優しい手つきで目隠しを外される。
明るさに目が慣れた頃、ゆっくり顔を上げる。
『!!』
目の前にニヤニヤした宇髄さんが立っていた。
宇「昼間っから見せつけるねぇ」
『はっ!?ちが、違います!!杏寿郎さんも、着いたならすぐに教えてくださいよっ!』
煉「うむ・・・美桜から抱きついてくれる事は珍しいので離すのが惜しくなってしまった!」
『っ!!!抱きついた訳では・・・』
しがみついた。が正解だけど・・・。
顔が赤くなった私を宇髄さんがマジマジと覗き込んでくる。
『??』
宇「!!」
何?という素振りをすると驚いた様な顔をして目頭を押さえる。そしてまたこちらをチラリと見てくる。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
久しぶりに美桜の顔を見たが・・・
何でこんなキラキラして見えるんだ??
俺はまた知らない内に血鬼術にでもかかってんのか??
目頭を押さえ、もう一度見る。
宇「・・・・・・」
やべぇな。
可愛いじゃねぇか・・・
この間は煉獄の視点だからそう見えたのだと思っていたが、俺自身が美桜の事を女として認識しちまったって事か・・・
宇「ハァ・・・マジかよ・・・」
『??何ですか?人の顔見てため息なんて・・・』
変な宇髄さん。と言われる。
宇「・・・何でもねぇよ」
美桜の頭をクシャッと撫でる。
別に美桜とどうなりたいとか思ってる訳じゃない。
こいつは端から煉獄の事しか見えてないしな。
煉「宇髄・・・まさかとは思うが・・・」
宇「!! ・・・安心しろ。そんなんじゃねぇ」
コイツ・・・美桜絡みになると妙に勘がいいな。
『??』
鈍感な女が1人、首を傾げていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お館様の御成です」
柱合会議が始まった。
今回はお屋敷のある一室に通されていた。
私は柱の皆から少し離れた所に座っている。
お館様への恒例の挨拶も終えて、本題に入る。
館「新しく柱になった者を紹介しよう 入っておいで」
お館様の合図で障子が開き、1人の男の人が姿を現した。
肩まで伸ばした黒髪、口元には包帯を巻き、白と黒の縞模様の羽織を着ている。
そして、彼の肩口からは真っ白な蛇が顔を覗かせていた。
館「皆に自己紹介を」
お館様に促され、口を開く
伊「此度、蛇柱として就任された伊黒小芭内だ」
お見知りおきを、と挨拶をするーーーと、
煉「伊黒・・・小芭内!!」
伊「! 杏寿郎・・・」
煉獄さんが驚いた様に声を上げる。
不「何だぁ、知り合いか?」
煉「うむ!子供の頃数年間だが小芭内は煉獄家に住んでいた事がある!久しいな!!」
伊「ああ・・・」
へぇ!そうなんだ!!
あの煉獄さんのお家に・・・
館「小芭内 君に紹介しておきたい子がいるんだ 美桜 おいで」
『はっ、はい!』
お館様に名前を呼ばれて慌てて立ち上がる。
館「先程話していた子だよ 鬼殺隊にきっと新しい風をもたらせてくれる 小芭内も他の柱の皆と協力して守ってあげて欲しい」
伊「・・・御意」
『あっ・・・よろしくお願いします』
ペコリと頭を下げる。
伊「・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
紹介が済んだ所で私は会議の邪魔にならない様お部屋を出た。
いつものお庭で煉獄さんの事を待ってようと廊下を歩いていた。
・・・どうやったらお庭に出られる??
煉獄さんのお家も広いけど、ここはそれ以上だった。何部屋あるんだろう??
さっきのお部屋も分からなくなってしまった・・・
「どうかしましたか?」
廊下でオロオロしていると背中から聞こえた声に驚き振り返る。
『あ・・・あなたは』
お館様の奥方のあまね様が御子息の輝利哉様と一緒に立っていた。
『あ・・・ごめんなさい。迷ってしまって・・・』
人様のお家の中をウロウロしていた事に気まずさを感じるが、あまね様は
あ「そうでしたか。まだ会議が終わるまでお時間がかかります。こちらへどうぞ」
と、ある部屋へ案内してくれた。
そこではお館様とあまね様のお子様(にちか様とひなき様)がそれぞれ書物を読んでお勉強をしていた。
壁際の本棚にはギッシリと本が詰まっている。
凄い・・・
小さい子には難しそうな本ばかり並んでるけど、これをこの子達は読めるんだ。
あ「何か気になる物がありましたか?」
お茶の準備をするあまね様に声を掛けられる。
『いえ・・・凄い数の本ですね・・・海外の物まで・・・』
中には英文や中文などの本もある。
あ「海外の物は私たちには残念ながら読む事はできないのですよ。そこにある童話も子供達は挿絵で物語の内容を想像する位で・・・」
あまね様の言った童話を手に取り開く。
人魚姫やシンデレラ、白雪姫の話が載っていた。
あれ、外国語なのに、私・・・読める。
私は徐にページを捲り、声に出して読んでみた。
不思議な感覚だった。
ここに書かれているのは初めて見るはずのアルファベットの綴りなのに、自然と口から溢れていく。
そして英文の意味も、頭の中で勝手に日本語として変換されて理解できている。
私はいつ、どこで覚えたのだろう?
あまね様も驚いた様子でこちらを見ていた。
に「このお話が読めるのですか?」
輝利哉様、にちか様、ひなき様がワッと私の周りに集まってくる。
ひ「是非、読んで聞かせてください」
目を輝かせてお願いされたら断る理由もない。
私は、書かれた英文を分かりやすい日本語に訳して読み聞かせをする。
挿絵を見て想像するしかなかった物語の全容を知りお子様達は目を爛々と輝かせていた。
そんな事をしていると時間はあっという間に過ぎ、お館様と共に会議に出ていた かなた様が私を呼びに来てくれた。
か「美桜さん、お待たせしました。会議が終わりました。」
『あっ、ありがとうございます!あまね様、お茶までご馳走になってしまいすみませんでした』
あ「いいえ。・・・美桜さん、貴女さえ良ければまたいらして下さい。この子達も喜びます。」
『! はい。私なんかで良ければ喜んで。』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
庭に出ると会議を終えた皆が談笑していた。
杏寿郎さんは伊黒さんと楽しそうに話している姿が見えた。
子どもの頃に一緒に住んでたって言ってたなぁ。じゃあ幼馴染って事か。
煉「! 美桜」
煉獄さんが私の姿に気づいて手招きをする。
私も笑顔で駆け寄る。
『お待たせしました。杏寿郎さん』
煉「てっきり庭で待っていると思っていたぞ!どこにいた?」
『あまね様とお子様達と一緒にいました。』
煉「そうか!これから帰ると遅くなってしまうな!夕飯はどこかで食べて帰ろう!」
『はい』
伊「・・・一緒に帰るのか?」
私と煉獄さんのやりとりを見て伊黒さんは不思議そうな顔をする。
煉「ああ!小芭内は知らなかったな!!俺と美桜は婚約している!今は同じ屋敷で暮らしている!」
伊「!?」
伊黒さんは驚いた顔をする。
あ、さっきはお部屋の中で気づかなかったけど、伊黒さんの瞳って左右色が違うんだ・・・綺麗・・・
不「おい煉獄ゥ!次の合同任務だけどよ・・・」
煉「む!何だ?・・・すまん美桜、少し待っていてくれ!」
『あ、はい・・・』
煉獄さんは私と伊黒さんを残して不死川さんの元へ向かって行った。
そうだ、伊黒さんに小さい頃の杏寿郎さんの話聞いてみよう!
伊「・・・・・・」
『・・・あの、伊黒さん・・・』
伊「俺は認めない」
『えっ?』
伊「お前の様な得体の知れない珍ちくりんは杏寿郎の婚約者として認めないと言っている」
『えっ・・・』
珍ちくりん・・・
初対面で言われたのは2回目だ。
確かにスタイル良くないと自分でも分かってるけど、普通面と向かって言わないよね??
余りの衝撃に固まってしまう。
『・・・・・・』
伊「フン、顔も間抜けだな。」
杏寿郎も趣味が悪いとため息まで吐かれる。
暴言のオンパレード!
『ちょっと・・・そんな言い方・・』
伊「本当の事しか言ってない」
『!!』
伊「お館様の命令だから“仕方なく”お前の護衛はする。だが俺はお前を認めた訳ではない。鬼殺隊としても杏寿郎の婚約者としてもだ。良いか、それを良く覚えておけ。」
ネチネチと言いたい事だけ言って伊黒さんはその場を後にした。
『・・・・・・』
ポカンと口を開けたまま立ち尽くす。
煉「美桜、待たせたな!む、小芭内は帰ったのか?」
打ち合わせを終えた煉獄さんが戻ってくる。
煉「小芭内はいい奴だろう!美桜も仲良くしてやってくれ!」
『!!? ・・・はい・・・』
どこが!?とツッコミを入れたくなったが呑み込む。
だけど仲良くするのは難しいと思う。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
帰り道も同じように目隠しをして、煉獄さんに横抱きにされている。
一つだけ違う事は、少しスピードを落としてくれている。行きに私が怖がっていたからだろう。
やっぱり煉獄さんは優しいな・・・
ー杏寿郎の婚約者として認めないー
時間が経つにつれて怒りが湧いてきた。
確かに、婚約者として上手く振る舞えていないかもしれないけど、そんな事伊黒さんから言われる筋合いないし!!
次に伊黒さんに会った時に撤回させてやる!
煉獄さんの肩に置いた手に力を込める。
煉「? 美桜・・・まだ怖いか?」
速度を落とそうか?と聞かれる。
『あっ!いえ、大丈夫です。・・・杏寿郎さん』
煉「ん?」
『私・・・もっともっと頑張りますから!』
煉「? うむ!俺もできる限り力になろう!」
婚約者として、のつもりで言ったのだけど、煉獄さんは記憶を取り戻す為に頑張るととったみたい。
勿論そっちも頑張る。
得体の知れない奴なんて言わせないぞ!
『あ・・・そういえば、私英語がわかるみたいです。』
煉「英語?外国の言葉か?」
今日の出来事を煉獄さんに報告する。
煉「そうか!それは凄い発見だったな!よもや美桜は海外で生活していたのではないか?」
『そう、なのかな・・・』
確かに英語が話せたり、洋食に詳しかったりとその可能性はあるのかもしれない。
煉「美桜、町まで戻ってきた。目隠しを外そう」
私を降ろして目隠しを外してくれる。
煉「この辺で何か食べて帰るぞ。何か食べたい物はあるか?・・・!?」
そう言いながら、少し前を歩き始める煉獄さんの左手をそっと掴む。
煉「・・・どうした?」
『・・・杏寿郎さんと手を繋ぎたいな、と・・・駄目ですか?』
煉「!! いや・・・そうか!」
煉獄さんは一瞬驚いた顔をするが直ぐに笑顔になってしっかりと私の右手を握りながら歩き始める。
『・・・・・・』
私はこの手を離したくない。
自分でも信じられない位に、煉獄さんに対しての想いが日に日に膨れ上がっていく。
この気持ちに上限なんてあるのかな。
「あっ!煉獄様!!」
煉「ん?」
ふと、後ろから声を掛けられ煉獄さんと私は同時に振り返る。
そこには見慣れない女の人が立っていた。
誰?と煉獄さんを見上げるものの、呼ばれた本人もピンときていない様子。
女「この前はありがとうございました!」
煉「ええと、君は・・・?」
女「鬼殺隊、階級は己。 等々力神奈です!先日の任務でご一緒させていただきました!」
煉「! ああ、君か!隊服を着ていないので分からなかった!」
そうか、鬼殺隊の人かあ。
こんな可愛らしい女の子が戦いに出てるなんて、改めて凄いなぁと尊敬する。
ーと、私の右手から煉獄さんの手が離れる。
煉「あの時の傷はまだ痛むか?」
そう言って、等々力さんの首元に手をやる煉獄さん。
『・・・・・・』
心臓がドクンと波打つ。
等「あ・・・煉獄様が咄嗟に庇って下さったので傷は浅くて済みました」
煉獄さんに触れられた等々力さんの頬は紅潮している。
煉「そうか!それは良かった!」
等「今度の任務も煉獄様とご一緒させていただく事になりました!今度は足を引っ張らぬ様精進致します!」
煉「そうか!精進するのは感心だ!だが、無理はするなよ」
首元にあった手はそのまま頭の上に乗り、ポンポンと優しく撫でる。
等「は・・はい!ありがとうございます!」
煉「うむ!」
等々力さんは去り際に、私の顔をチラッと見た。
『!!』
煉「美桜、では行こうか?」
『・・・はい』
その後お店に行くまでと、お家に帰るまでの間手を繋いでくれたけど私の心臓はいつもと違う音が鳴っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日は私の任務同行と、煉獄さんの例の任務が重なった。
今頃、あの子と一緒なんだろうな・・・
黒い、モヤモヤした感情が渦巻いている。
宇「おい、美桜。何て顔してんだよ」
『あっ・・・ごめんなさい』
そうだ。
私は私のやるべき事に集中しないと・・・
宇「そろそろ隠れとけ。安心しろよ、俺様がド派手に鬼の頸を取ってやるからよ!」
『はい。宇髄さん、伊黒さんも・・・お気をつけて』
伊「・・・フン」
『・・・・・・』
そう。
今日の同行で早速伊黒さんに会ってしまった。
会った時から相変わらず、
伊「歩くのが遅い。山を歩く体力もないのか。」
とか、
いきなり出てきた狸に驚いて宇髄さんにしがみついた時も
伊「こんな小動物に一々驚くのかお前は。鬼が気配を察知して出てこないだろうが。静かにしろ」
などと、事あるごとにネチネチネチネチ、ネチネチネチネチと嫌味を言われ続けていた。
『むぅ〜〜〜!』
目の前の草をブチブチ抜く。
後「美桜さん・・・荒れてますね」
『だって!あんな言い方するんだもん!』
東「確かに、ちょっと言い過ぎかなとは思いました・・・」
『でしょ!?でも、その通り過ぎて言い返せないのが悔しい!』
中「いや、普通は柱に対して言い返そうなんて思いませんよ・・・」
鴉「カアッ!鬼ヲ発見!!複数体イル模様!!気ヲツケテェエ!!」
『っ!!!?』
鬼の情報に身構える。
複数体!?
鬼は群れないんじゃないの??
身を潜めながら刀の柄に手をかける。
私だって、せめて自分の身くらい守れないと・・・
暫くすると隊士の1人が走ってくる。
援護に来てくれたのかな?
ーーーと、
隊「うわあああっ!助けてっ!」
『っ!!?』
その隊士は私たちが潜んでいた茂みに向かってくる。
その後ろから、1体の鬼が追いかけてきている。
鬼「何だ、逃げるのか!ハハハッとんだ腰抜けだなぁ」
隊「・・・俺じゃ駄目だ・・勝てない・・・」
逃げてきた隊士はガタガタと震えている。
腕からはジワジワ血が滲んできている。
宇髄さんと伊黒さんは・・・?
他の鬼と戦っているの??
心拍数が上がっていく。
刀にかけた手に力を込める。
東「美桜さん、下がってください!」
『・・・・・・』
怪我をした隊士、武器を持たない隠・・・。
今、この距離で背を向けて逃げるのは自殺行為だ・・・。
かと言って、私に斬れるの・・・?
いや、斬れた所でこの刀では鬼は殺せない・・
せめて、時間が稼げれば・・・
『・・・・・・』
鬼「・・・何だ。来ないのか?見掛け倒しか」
鬼が嘲笑う。
それが挑発のつもり?
伊黒さんの嫌味の方が上手だよ。
『・・・・・・』
鬼「まぁいい。お前から喰ってやるよぉ!」
鬼が私目掛けて飛びかかってくる。
瞬間、刀を抜いて斬り上げる。
鬼の拳と私の刀がかち合う。
キィン!
ー硬いー
刀が弾かれた。
斬れない・・・!
『・・・・・・皆さん、今のうちに逃げて下さい』
後「!?」
東「何を・・・!?」
『・・・このまま固まっていたら全員やられてしまいます。ここは散った方が得策です』
私が記憶を戻して、例の力が使えたなら皆を守ることが出来ただろうか・・・
こんなピンチになっても何も思い出せない。
ただ一つ、思う事は
死なせたくない。
後藤さんも、東城さんも、中西さんも、
怪我を負った隊士もーーーー
守りたいーーー
鬼「馬鹿か!逃がす訳が無えだろうがぁ!」
再び鬼が向かってくる。
今度は私からも鬼に向かっていく。
そうする事で、他の皆と鬼の距離が開く。
『早く!走って!!』
無我夢中だった。
思い切り振った剣は空を斬る。
ーーー避けられたーーー
そして、鬼の拳が私へと向かってくるのが見える。
駄目だった・・・
・・・杏寿郎さん・・・!
死を覚悟した時
私の目の前に現れた影が素早い動きで鬼の頸を斬り落とした。
『・・・・・・』
私は力なくその場に座り込んでいた。
東「美桜さん!大丈夫ですか!?」
『あ・・・はい・・・。あ、ありがとうございます・・・』
私を助けてくれたー影の正体ー伊黒さんにお礼を伝える。
伊黒さんは酷く冷たい瞳をこちらに向けていた。
伊「貴様は、何がしたいんだ」
『・・・え?』
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
鬼を2体倒した俺は急いで美桜の元に向かう。
こんなに鬼が一所に集まるなんて珍しい。
鴉からの報告だと隊士の1人が鬼から逃げ出した先が美桜の潜んでいる場所だった。
宇「美桜!無事か!?」
現場に到着すると、座り込んだ美桜の姿が目に入る。手には抜いた刀を握っている。
伊「鬼は倒した。任務終了だ」
『・・・・・・』
宇「そうか・・・。じゃあ山を降りるか。立てるか?美桜?」
『・・・・・・』
美桜は頷くが、小刻みに震えていた。
怪我はしてない様だが怖い目にあったのは間違い無いな。
美桜を抱き上げる。
宇「俺は美桜を送ってくわ。伊黒、報告は任せたぞ」
伊「・・・ああ。」
隠には怪我をした隊士を蝶屋敷へ連れて行く様に指示を出し、山を降り始めた。
美桜は恥ずかしがる事も嫌がる事もなく、大人しく腕の中に収まっていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
宇髄さんに運ばれて里まで降りてきた。
宇「今日は怖い目に遭わせちまったな」
『・・・・・・』
私は首を横に振る。
確かに、鬼は怖かった。
でも、それ以上に伊黒さんから言われた言葉が頭の中でグルグル回っていた。
ーーー貴様は、何がしたいんだ?ーーー
『ーーーえ?』
伊「鬼殺隊の力になりたいと、お館様に言ったそうだな」
『・・・はい』
伊「だが実際の貴様は力になるどころかとんだお荷物ではないか」
『っ!!』
伊「記憶さえ戻れば、不思議な力さえ出せればなんて思っているのだろうが、今の貴様がそれを思い出した所で何の役にも立たないだろうな」
『! それは・・・』
伊「俺は貴様の中途半端な所が気に入らない。だから俺は貴様を認めない」
ー杏寿郎に貴様は相応しくないー
『・・・・・・』
宇「・・・元気出せ。もうすぐ町に着く。鴉の報告では煉獄も任務を終えたらしいから、直ぐ帰ってくるだろうよ。ーーーと、煉獄?」
『・・・え?』
宇髄さんの言葉に思考を止めて顔を上げる。
先の方に煉獄さんの姿が見える。
段々近づいてくる事で、誰かを背負っている事に気づく。あれは・・・
・・・等々力さん・・・
また、心臓が痛む。
宇「おう、煉獄!」
煉「む?宇髄か!ー美桜!?怪我をしたのか?」
煉獄さんが心配そうに駆け寄り声を掛けてくる。
宇「・・・いや、怪我はしてねぇが鬼に遭遇したショックが強かったみたいでな。お前の方はどうした?」
煉「そうか・・・。ああ、こちらは鬼を追い詰めた所で怪我をしていた隊士だ。深追いしすぎたのだろう」
宇「・・・ふぅん?隠がいただろう?蝶屋敷まで運ばせたら良かったんじゃねぇの?」
煉「俺もそう考えたのだが・・・彼女が傷は浅いので応急処置で問題ないと言い張るのでな!家も近いので俺が送る事にした!」
『・・・・・・宇髄さん、ここまでありがとうございました。もう自分で歩けます。』
宇「あ?ああ・・・」
『・・・杏・・・煉獄さん。その子をちゃんとお家まで送ってあげて下さいね。』
私、先に帰ってます。
と言って返事も聞かずにまだ暗い道を走り出す。
煉「!?美桜っ!!」
宇「・・・美桜は俺が家まで送り届ける。お前はさっさとその隊士を送ってこい。」
等「・・・煉獄様?」
煉「・・・・・・」
ああ、何で逃げちゃったのだろう。
煉獄さんは優しいだけ。
怪我をした隊士を放っておけないだけなのに。
私、どうしちゃったんだろう。
こんなに心が狭いの?冷たい人間だったの?
全部伊黒さんの言う通りだ・・・
私は何がしたいんだろう・・・
宇「美桜!おい止まれ!」
追いかけてきた宇髄さんに肩を掴まれる。
涙が次から次へと溢れてくる。
『どうして・・・』
宇「?」
『どうして宇髄さんが追いかけてくるのぉ〜』
何で煉獄さんじゃないの。
自分であの子を送って行けと言っておきながら、本当は私を追いかけてきて欲しかったなんて
なんて矛盾しているんだろう。
宇「・・・泣くな、美桜・・・」
『・・・ごめんなさい。宇髄さん・・・送ってくれたのに』
宇「何謝ってんだ?・・・俺は美桜には笑っていて欲しいんだよ。もう泣くな。分かってるから、お前の気持ちは」
ヤキモチ妬いたんだろ?
と頭を優しく撫でられる。
『うっうぅ・・・』
宇髄さんの言葉に頷く。
こんな事でヤキモチ妬いてたらいつか愛想尽かされちゃうよね。
宇「まぁ、煉獄の事は心配するな・・・それでも、どうしても辛くなったらその時は俺を頼れ」
派手に甘やかしてやるからな
と優しく抱きしめられる。
そこで、私の涙腺は一気に崩壊した。
鬼に怖い目に遭わされて
伊黒さんからは辛辣な言葉を浴びせられて
煉獄さんが他の女の人に優しくする姿を見て
そんな時に、優しい言葉を掛けられたものだから
宇髄さんの腕の中で子どものようにわんわん泣いてしまった。
これは何の涙なのか、自分でも良く分からなかった。