独占欲と蛇
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任務同行帰りで仮眠をとった私は音を立てないようにゆっくり布団から抜け出す。
『・・・・・・』
そして、廊下に出て痛む左足を引きずりながら厨房に向かう。
ここでも忍び足で
とにかく見つからないようにーーー
煉「美桜!起きていたのか!!」
『ピッ!ひゃいっ!!!』
突然背後から呼び止められて飛び上がる。
驚いた拍子に左足に思い切り体重がかかり激痛が走る
『ッ痛ぁっ!!』
煉「おっと、大丈夫か?」
よろけた所で身体を支えられ、そのまま向かい合わせにされる。
ーーー見つかってしまったーーー
ーーーーーーーー〈数刻前〉ーーーーーーーー
煉「そうだな・・・まずは・・・」
煉獄さんは顎に手をかけて暫し考える素振りをする。
そして、良い事を思いついたと言わんばかりの笑顔で私の顔に近づいてきて、耳元で囁く。
煉「これから毎日、挨拶代わりの抱擁をするというのはどうだ??」
『・・・ふぉっ?』
抱擁・・・?抱擁っていいました?挨拶代わりに!?ハグですか!?
煉「欧米では挨拶代わりに抱擁する文化があると聞く!日常生活に取り入れていれば美桜も恥ずかしがる事はなくなるだろう!!」
『あっ挨拶代わり、とは・・・?』
煉「うむ!朝晩の挨拶や、外出時、帰宅時の挨拶などだ!!他にも色々あるだろうな!」
・・・つまり、1日最低でも4回は煉獄さんとハグするって事・・・!?
『そっそそそそんな事急に言われましても・・・』
煉「美桜は・・・嫌なのか・・・?」
『いいえ!嫌じゃないです!!!』
至近距離で捨てられた子犬の様な顔しないでぇっ!!!
私に拒否権が無くなるから!!!
煉獄さんはニッコリ笑って
煉「では決まりだな!!」
と、部屋を出て行こうとするが
煉「ああ、そうだ。もう1つ」
くるりと振り返り、
煉「そろそろ、2人きりの時以外でも下の名前で呼んでくれないか?」
『えっ!?』
煉「美桜が俺の婚約者であるという事をきちんと周りの者に知らしめなければ、美桜に悪い虫がつくやもしれんからな!!」
『そんな・・・虫なんてつきませんよ・・・』
煉「・・・いや、美桜が嫌ならば良いのだ・・・」
『うっ!!・・・だから、嫌じゃないです・・・』
だから子犬の顔!!!
何か、今日の煉獄さんはちょっと意地悪だ・・・
煉「そうか!良かった!!では美桜、夜通し任務の同行で疲れただろう。怪我もしているし、ゆっくり休むといい!!」
今、この状況で寝られるかな・・・
『・・・・・・はい、おやすみなさい』
煉「そうではないだろう!!」
『えっ??・・・ハッ!!?まさか・・・』
煉獄さんは嬉しそうに両手を広げている。
今からそのルール適用ですか!?
そこに自分から飛び込めと・・・?
煉獄さんは期待に満ちた顔をしている。
明日からにしません?と言おうと思ったが、こういう時の煉獄さんが折れる訳がない・・・
『うぅっ・・・・・・では、失礼します・・・』
私は意を決してゆっくりと煉獄さんのそばまで近づいて行く。
広げた両手が背中に回されると、私の顔は煉獄さんの胸元に。
『っ!!・・・・・・』
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバーイ!!!!
心臓が!!!!!!
口からまろび出る!!!!!!!!
『・・・・・・』
煉「・・・おやすみ、美桜」
『・・・おっ、おやすみなさい・・杏寿郎さん・・・』
やっとの所で挨拶を交わすと、ゆっくりと煉獄さんの身体が離れていく。
最後にふわりと額に柔らかい感触がーー
えっ?と思って見上げると
すぐ近くに煉獄さんの顔。
『へっ?エッ!?』
今のって・・・まさか・・・
私が目を見開くと、煉獄さんの口角が上がる。
ぎゃー!!色っぽ!!
今、私デコチューされたの!?
認識した途端に顔から火が出るほど恥ずかしくなる
『なっなっなん・・・!?』
何で!?
ハグって言ったじゃん!!!
オプション付きとか聞いてませんけど!!!!!?
煉「・・・少しずつ、段階を踏んでいこう?」
そう言って満足そうな顔で部屋を出て行ったーーーー
『・・・少しずつって・・・段階って・・・』
かなり数段飛ばししてるよね??
ハグに慣れる前に私の寿命が尽きるかもしれない・・・
私はそのまま布団に倒れ込んだー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・という事があって、なるべく煉獄さんに見つからない様に食事の支度を始めようと思った矢先の出来事だった。
煉「美桜!おはよう!!」
そう言って両手を大きく広げる。
『・・・・・あぅ』
私に拒否権はない・・・
だって本当に嫌じゃないから。
ただただ、恥ずかしいのだ・・・
待てよ。
この家には私と煉獄さんの2人しかいない。
他の人に見られている訳でもないし、そこまで恥ずかしがる事もないのかもしれない・・・
そう考えると、少しだけ肩の荷が降りた気がする。
『杏寿郎さん・・・おはようございます』
そっと、煉獄さんの胸元に両手を当てると優しく包み込まれる。
『・・・・・・』
・・・やっぱり、心臓が痛いほど早く打つ・・・
けど、煉獄さんの心臓の音と体温の暖かさが
『・・・・・・』
心地良いかも・・・
『・・・・・・』
?「あのう・・・」
『はいっ!!!???』
煉「っむぅっ!!」
『っ!痛ぁあっ!!』
いきなりの第三者の声に驚いた私は煉獄さんを両手で思いっきり突き飛ばしてしまう。
そして私の捻挫した右手に激痛が!!!
千「あっ!驚かせてしまってすみません!!」
『えっ!?・・・せっ、千ちゃん!?』
何でいるのぉ!?
早速他の人に見られちゃったよ!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『え?・・・お手伝い??』
私の動揺と右手の痛みが落ち着くのを待って、千ちゃんが来訪の旨を伝えてくれた。
千「はい。昨晩の任務で美桜さんに怪我を負わせてしまったという連絡を胡蝶さまから頂きまして」
しのぶさん・・・私が怪我した事を自分の所為だと責任を感じてた・・・
ただ、私が鈍臭いだけなのに・・・
千「それで、しばらくは持ち回りで美桜さんの身の回りのお世話をしていく事になりました」
『えっ、持ち回りって?』
千「はい。俺と、甘露寺さん、あとは隠の東城さん、そして蝶屋敷のアオイさんが交代で」
皆、私と面識のある人ばかりだ。
『でも・・・元は私が勝手に転んだんだから、そこまで皆に甘える訳には・・・』
千「俺を含めて皆さん自分から志願したのですよ。美桜さんの力になりたいんです!だから気に病むことなんてないですよ!」
煉「うむ!!美桜、胡蝶の気遣いに甘えても良いと思うぞ?」
『・・・煉獄さん・・・』
煉「・・・こら。美桜、煉獄さんではないだろう?」
『えっ!・・・だって、相手は千ちゃん、ですよ?』
悪い虫じゃないでしょ・・・
煉「一々人を選んでいては何事も成し遂げられないぞ!」
成すって何を!?
スケールでかくない!!?
千「?、?」
ほら、千ちゃんも困ってる!!
ああもう!!
『わっ、わかりましたよ!・・・杏寿郎、さん』
煉「うむ!」
千「・・・・・・」
うん。巻き込んでホントごめん、千ちゃん・・・
この件が毎回あるなら次からは恥ずかしいとか言ってる場合じゃないな。
スッと言える様に頑張ろ。。。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『やっぱり千ちゃんの作るご飯は美味しいね!』
久しぶりの千ちゃんの手料理に感動する。
千ちゃんはそんな、言い過ぎですよと照れている。
可愛さ健在の様子に安心する。
煉「うむ!美味い!!・・・千寿郎、父上はどうしている?」
千「は、はい。・・・相変わらず自室に籠る事が多いですが・・・あれから、たまにですけど一緒に食事をしてくれます!」
煉「!! そうか!」
千ちゃんも煉獄さんも嬉しそう。
やっぱりこの兄弟見ているだけで癒される〜。
千「そういえば美桜さん。今日は髪をおろしているのですね?手が痛んで結えないのでしたら俺が結いますよ?」
『えっ!?ああ、大丈夫だよ!!今日はそんな気分なだけ!!!』
髪を結ったら煉獄さんにつけられた痕が見えちゃう!!
煉「美桜、千寿郎に遠慮することはないぞ!」
『!!?』
え、煉獄さんキスマークの事忘れてるの!?
それとも全く気にしてないの!?
どっちにしてもひどくない!!?
私は髪の毛の下に隠された痕の場所を手で押さえ、煉獄さんをジト目で睨む。
煉「!!そうか!今日はそういう気分だったな!!」
あ、思い出したっぽい・・・
けど、煉獄さんの様子が余りに不自然すぎて勘がいい千ちゃんにはバレてそうだ。。。
千「・・・そういう気分ですか。わかりました!」
追求しない所がとっても良い子!
その後千ちゃんは一通りの家事を終えて夕方に帰っていった。
それから毎日、交代でお手伝いに来てくれた蜜璃ちゃんも、東城さんも、アオイちゃんも、私の杏寿郎さん呼びに最初は目を丸くしていたけどすぐに慣れてくれた。
あれ、もっと恥ずかしいものだと思ってたけど、皆の反応を見ると意外とそうじゃないのかも・・・
煉獄さんも嬉しそうだし、私ももっと婚約者として、立ち居振る舞いを考えた方が良いのかな・・・。
いつまでも煉獄さんから与えられてるばかりじゃ駄目だよね。
でも、具体的にどうしたら良いんだろ・・・
蜜璃ちゃんやしのぶさんに相談・・?
いや!鬼殺隊の人にはし辛いな・・任務の時煉獄さんとセットで顔合わせたりするしなぁ・・
私すぐ顔に出るらしいから、宇髄さんとかに一瞬でバレそうだ。。。
東城さんも最近ずっと一緒にいるけど、そんな事を相談してもいい仲なのかな・・・
いやいや柱に怯える隠の人達に出来る話じゃないな・・・
ア「美桜さん、畳んだ洗濯物はどこにしまいますか?」
アオイちゃんが顔を出す。
『あ、ありがとう、アオイちゃん。私しまうね。』
ア「動いて大丈夫ですか?」
『うん!もう痛みはほとんどないよ。皆がお手伝いに来てくれて安静にしてたから治りも早いと思う』
ア「それは良かったです。・・・ところで、何か悩み事ですか?」
『えっ??』
ア「ここ。皺が寄ってますよ」
と、自分の眉間を差す。
『あっ、悩み事・・というか・・・』
ア「??」
『・・・アオイちゃん。しのぶさんや蜜璃ちゃんには内緒にしてて欲しいんだけど・・・』
もし良かったら聞いてくれないかな?
とお願いしてみる。
ア「!!・・・私でよければ・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アオイちゃんが用意してくれたお茶を飲みながら、私の部屋の縁側に腰掛けて今までの経緯を掻い摘んで話す。
ア「挨拶代わりの抱擁ですか・・・。突拍子もない発想は炎柱様らしいですね」
『だよね・・・』
ア「でも何だか納得しました。ここにお手伝いに来てから美桜さんは炎柱様がいる時だけ妙に落ち着かない感じだったので」
『えっ!?そんなに分かりやすかった??』
結構ポーカーフェイス作れている気になってたんだけど・・・
ア「はい・・・多分、私だけじゃなく他の方も気づいていると思いますよ・・・」
『!!!?』
ア「・・・それで、美桜さんは炎柱様の気持ちに応えたいと思ったのですね?」
『う、うん・・・応えたいっていうか、煉獄さんはちゃんと私を婚約者として扱ってくれているのに私は煉獄さんの婚約者として上手く出来てないというか・・・』
婚約者として、恋人としてどう振る舞えば良いのか分からない。
煉獄さんに喜んでもらえる様な事ってなんだろう・・・
ア「・・・・・・」
『・・・ごめん。元々恋愛経験ないのか忘れちゃったのか分からないけど、初めての感情でどうしたら良いのか分からないの・・・』
ア「・・・私も、そういう経験があるわけではないので参考にならないとは思いますが・・・」
『・・うん』
ア「美桜さんがその時思った事をそのままやってみては?」
『えっ?』
ア「美桜さん、炎柱様を困らせるのではとか色々考えすぎていませんか?」
『!!』
ア「炎柱様なら美桜さんの多少の我が儘位聞いてくれると思いますよ。」
『でも、困らせちゃうかも・・・あっ』
ア「・・・フフッ、そういう所ですよ。」
『・・・・・・』
ア「美桜さんも炎柱様からの要求に困る事あるでしょう?お互い様じゃないですか?」
『う・・・でもそれはあんまり嫌じゃないっていうか・・・』
ア「それは多分炎柱様も同じだと思いますよ」
『・・・うん、そうだね。頑張ってみる・・・ありがとうアオイちゃん。』
ア「いえ・・・それにしても、まさか美桜さんからこんな相談を私が受けるとは意外でした」
『あっ!ごめん・・・迷惑だったかな・・・』
ア「いえ!・・・逆です。・・・嬉しかったというか・・・」
ちょっと視線を外して恥ずかしそうに言うアオイちゃん。
アオイちゃんがデレた!
『!!アオイちゃん・・・かわいい!』
ア「はっ!?かわ・・!!そんな事ありません」
コホンと咳払いをする。
アオイちゃんのツンデレ対応にキュンキュンする!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ア「では私はこれで失礼します!」
『ごめんね、長いこと引き止めちゃって』
あれから時間を忘れて話し込んでしまい慌てて蝶屋敷へ戻るアオイちゃんを見送る。
煉「遅くなってしまったな!蝶屋敷まで送るぞ!」
ア「いえ、大丈夫です!お気遣いありがとうございます。・・・美桜さん。お話の続き、進展があったら教えて下さいね」
煉「進展?何の話だ?」
『アッ!アオイちゃん!!』
アオイちゃんは慌てる私に悪戯っぽく笑って帰って行った。
小悪魔風のアオイちゃんも悪くないな・・・
って、私はどこの変態おじさんだ。
煉「さて、美桜、俺は任務が入ったのでこれから出掛ける!少し遠い地なので1週間程留守になると思う!」
『え・・・・』
自然と眉が下がってしまう。
ハッ!
駄目駄目!!
ニッコリ笑顔を作って
『・・・わかりました!気をつけて行って来てくだ・・・』
ー美桜さんがその時思った事をそのままやってみては?ー
ー炎柱様を困らせるのではとか色々考えすぎていませんか?ー
さっきのアオイちゃんの言葉を思い出す。
煉「美桜?」
中途半端な所で固まった私を煉獄さんが心配そうな顔で覗き込む。
『・・・・・・』
俯いて少し迷ってから、
煉獄さんの羽織の端を掴む。
煉「?」
『・・・やっぱり、一週間会えないのは、ちょっとだけ淋しいです・・・』
煉「!!」
言ってしまった・・・
煉獄さんだって仕事で行くんだからそんな事言われても困るよね・・・
煉「むぅ・・・」
困ってる!!
駄目だ!
やっぱ今のなし!!
『あっあの!今のは・・・』
煉「6日!!」
『・・えっ?』
煉「いや!5日だ!!5日で戻る!!・・・それでは駄目か?」
『!!駄目じゃないです!・・・ごめんなさい。変な我が儘言って・・・』
煉「我が儘なものか。美桜の正直な気持ちが聞けて俺は嬉しい!」
『・・・本当?』
煉「ああ!」
煉獄さんを見上げると本当に嬉しそうな顔。
それだけで私の心が急に満たされていく。
煉「では、行ってくる!」
『はい!』
煉獄さんに抱き締められる。
何度目かの行ってきますの挨拶だ。
いつもは胸元に添えるだけの私の手を恐る恐る煉獄さんの背中に回す。
煉「!!」
『行ってらっしゃい、杏寿郎さん・・・淋しいのは本当だけど、怪我なく帰ってきてくれた方がいいので・・・』
無理はしないでください。
と煉獄さんの胸の中で伝える。
煉「・・・美桜・・・君は本当に・・・」
可愛いな。
そう言って煉獄さんの右手が私の左の頬に触れる。
そして、煉獄さんの顔がゆっくり近づいてくる。
え!!こ、これはもしや・・・
咄嗟に唇を締め、目をギュッと閉じる。
『・・・・・・』
煉「・・・・・・」
『・・・・・・?』
あれ?
何も起きない・・・
チラ、と片目を開けて確認してみると、すごい近い距離で煉獄さんがジッと私の顔を見ていた。
『っ!!?えっ!?』
煉「そんなに緊張するな」
フッと煉獄さんが笑う。
『・・・え・・・?』
ボッと顔が熱くなる。
煉「少しずつ、段階を踏むと言っただろう?」
『は・・・はい・・・』
もしかして、いま私、期待した・・・?
やだ!
すっごい恥ずかしい・・・
目線を下に落とした時、私の右頬で暖かい感触と共にチュッという音がした。
『ーーーっ!』
煉「・・・今日の所は、ここまでだな」
耳元でそう囁いてから、
では行ってくる!
そう言って任務へと旅立って行った。
『・・・・・・』
・・・私にしては結構大胆な事をしたと思うんだけど・・・
やっぱり煉獄さんは更にその上を行くよね・・・
結局、私ばっかりドキドキしている気がする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
煉「皆の者!!早い所鬼を斬りに行くぞ!!」
隊1「はっはい!!」
バビュンと音を立てて任務地へと向かう。
隊2(ちょ・・・ペース早すぎて追いつけないっ)
隊3(炎柱様・・・いつになく張り切っているけど、何があったんだ・・・)
その後、一週間の予定の任務を4日で終えて帰還し美桜を驚かせる事になる。
『・・・・・・』
そして、廊下に出て痛む左足を引きずりながら厨房に向かう。
ここでも忍び足で
とにかく見つからないようにーーー
煉「美桜!起きていたのか!!」
『ピッ!ひゃいっ!!!』
突然背後から呼び止められて飛び上がる。
驚いた拍子に左足に思い切り体重がかかり激痛が走る
『ッ痛ぁっ!!』
煉「おっと、大丈夫か?」
よろけた所で身体を支えられ、そのまま向かい合わせにされる。
ーーー見つかってしまったーーー
ーーーーーーーー〈数刻前〉ーーーーーーーー
煉「そうだな・・・まずは・・・」
煉獄さんは顎に手をかけて暫し考える素振りをする。
そして、良い事を思いついたと言わんばかりの笑顔で私の顔に近づいてきて、耳元で囁く。
煉「これから毎日、挨拶代わりの抱擁をするというのはどうだ??」
『・・・ふぉっ?』
抱擁・・・?抱擁っていいました?挨拶代わりに!?ハグですか!?
煉「欧米では挨拶代わりに抱擁する文化があると聞く!日常生活に取り入れていれば美桜も恥ずかしがる事はなくなるだろう!!」
『あっ挨拶代わり、とは・・・?』
煉「うむ!朝晩の挨拶や、外出時、帰宅時の挨拶などだ!!他にも色々あるだろうな!」
・・・つまり、1日最低でも4回は煉獄さんとハグするって事・・・!?
『そっそそそそんな事急に言われましても・・・』
煉「美桜は・・・嫌なのか・・・?」
『いいえ!嫌じゃないです!!!』
至近距離で捨てられた子犬の様な顔しないでぇっ!!!
私に拒否権が無くなるから!!!
煉獄さんはニッコリ笑って
煉「では決まりだな!!」
と、部屋を出て行こうとするが
煉「ああ、そうだ。もう1つ」
くるりと振り返り、
煉「そろそろ、2人きりの時以外でも下の名前で呼んでくれないか?」
『えっ!?』
煉「美桜が俺の婚約者であるという事をきちんと周りの者に知らしめなければ、美桜に悪い虫がつくやもしれんからな!!」
『そんな・・・虫なんてつきませんよ・・・』
煉「・・・いや、美桜が嫌ならば良いのだ・・・」
『うっ!!・・・だから、嫌じゃないです・・・』
だから子犬の顔!!!
何か、今日の煉獄さんはちょっと意地悪だ・・・
煉「そうか!良かった!!では美桜、夜通し任務の同行で疲れただろう。怪我もしているし、ゆっくり休むといい!!」
今、この状況で寝られるかな・・・
『・・・・・・はい、おやすみなさい』
煉「そうではないだろう!!」
『えっ??・・・ハッ!!?まさか・・・』
煉獄さんは嬉しそうに両手を広げている。
今からそのルール適用ですか!?
そこに自分から飛び込めと・・・?
煉獄さんは期待に満ちた顔をしている。
明日からにしません?と言おうと思ったが、こういう時の煉獄さんが折れる訳がない・・・
『うぅっ・・・・・・では、失礼します・・・』
私は意を決してゆっくりと煉獄さんのそばまで近づいて行く。
広げた両手が背中に回されると、私の顔は煉獄さんの胸元に。
『っ!!・・・・・・』
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバーイ!!!!
心臓が!!!!!!
口からまろび出る!!!!!!!!
『・・・・・・』
煉「・・・おやすみ、美桜」
『・・・おっ、おやすみなさい・・杏寿郎さん・・・』
やっとの所で挨拶を交わすと、ゆっくりと煉獄さんの身体が離れていく。
最後にふわりと額に柔らかい感触がーー
えっ?と思って見上げると
すぐ近くに煉獄さんの顔。
『へっ?エッ!?』
今のって・・・まさか・・・
私が目を見開くと、煉獄さんの口角が上がる。
ぎゃー!!色っぽ!!
今、私デコチューされたの!?
認識した途端に顔から火が出るほど恥ずかしくなる
『なっなっなん・・・!?』
何で!?
ハグって言ったじゃん!!!
オプション付きとか聞いてませんけど!!!!!?
煉「・・・少しずつ、段階を踏んでいこう?」
そう言って満足そうな顔で部屋を出て行ったーーーー
『・・・少しずつって・・・段階って・・・』
かなり数段飛ばししてるよね??
ハグに慣れる前に私の寿命が尽きるかもしれない・・・
私はそのまま布団に倒れ込んだー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・・・という事があって、なるべく煉獄さんに見つからない様に食事の支度を始めようと思った矢先の出来事だった。
煉「美桜!おはよう!!」
そう言って両手を大きく広げる。
『・・・・・あぅ』
私に拒否権はない・・・
だって本当に嫌じゃないから。
ただただ、恥ずかしいのだ・・・
待てよ。
この家には私と煉獄さんの2人しかいない。
他の人に見られている訳でもないし、そこまで恥ずかしがる事もないのかもしれない・・・
そう考えると、少しだけ肩の荷が降りた気がする。
『杏寿郎さん・・・おはようございます』
そっと、煉獄さんの胸元に両手を当てると優しく包み込まれる。
『・・・・・・』
・・・やっぱり、心臓が痛いほど早く打つ・・・
けど、煉獄さんの心臓の音と体温の暖かさが
『・・・・・・』
心地良いかも・・・
『・・・・・・』
?「あのう・・・」
『はいっ!!!???』
煉「っむぅっ!!」
『っ!痛ぁあっ!!』
いきなりの第三者の声に驚いた私は煉獄さんを両手で思いっきり突き飛ばしてしまう。
そして私の捻挫した右手に激痛が!!!
千「あっ!驚かせてしまってすみません!!」
『えっ!?・・・せっ、千ちゃん!?』
何でいるのぉ!?
早速他の人に見られちゃったよ!!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『え?・・・お手伝い??』
私の動揺と右手の痛みが落ち着くのを待って、千ちゃんが来訪の旨を伝えてくれた。
千「はい。昨晩の任務で美桜さんに怪我を負わせてしまったという連絡を胡蝶さまから頂きまして」
しのぶさん・・・私が怪我した事を自分の所為だと責任を感じてた・・・
ただ、私が鈍臭いだけなのに・・・
千「それで、しばらくは持ち回りで美桜さんの身の回りのお世話をしていく事になりました」
『えっ、持ち回りって?』
千「はい。俺と、甘露寺さん、あとは隠の東城さん、そして蝶屋敷のアオイさんが交代で」
皆、私と面識のある人ばかりだ。
『でも・・・元は私が勝手に転んだんだから、そこまで皆に甘える訳には・・・』
千「俺を含めて皆さん自分から志願したのですよ。美桜さんの力になりたいんです!だから気に病むことなんてないですよ!」
煉「うむ!!美桜、胡蝶の気遣いに甘えても良いと思うぞ?」
『・・・煉獄さん・・・』
煉「・・・こら。美桜、煉獄さんではないだろう?」
『えっ!・・・だって、相手は千ちゃん、ですよ?』
悪い虫じゃないでしょ・・・
煉「一々人を選んでいては何事も成し遂げられないぞ!」
成すって何を!?
スケールでかくない!!?
千「?、?」
ほら、千ちゃんも困ってる!!
ああもう!!
『わっ、わかりましたよ!・・・杏寿郎、さん』
煉「うむ!」
千「・・・・・・」
うん。巻き込んでホントごめん、千ちゃん・・・
この件が毎回あるなら次からは恥ずかしいとか言ってる場合じゃないな。
スッと言える様に頑張ろ。。。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『やっぱり千ちゃんの作るご飯は美味しいね!』
久しぶりの千ちゃんの手料理に感動する。
千ちゃんはそんな、言い過ぎですよと照れている。
可愛さ健在の様子に安心する。
煉「うむ!美味い!!・・・千寿郎、父上はどうしている?」
千「は、はい。・・・相変わらず自室に籠る事が多いですが・・・あれから、たまにですけど一緒に食事をしてくれます!」
煉「!! そうか!」
千ちゃんも煉獄さんも嬉しそう。
やっぱりこの兄弟見ているだけで癒される〜。
千「そういえば美桜さん。今日は髪をおろしているのですね?手が痛んで結えないのでしたら俺が結いますよ?」
『えっ!?ああ、大丈夫だよ!!今日はそんな気分なだけ!!!』
髪を結ったら煉獄さんにつけられた痕が見えちゃう!!
煉「美桜、千寿郎に遠慮することはないぞ!」
『!!?』
え、煉獄さんキスマークの事忘れてるの!?
それとも全く気にしてないの!?
どっちにしてもひどくない!!?
私は髪の毛の下に隠された痕の場所を手で押さえ、煉獄さんをジト目で睨む。
煉「!!そうか!今日はそういう気分だったな!!」
あ、思い出したっぽい・・・
けど、煉獄さんの様子が余りに不自然すぎて勘がいい千ちゃんにはバレてそうだ。。。
千「・・・そういう気分ですか。わかりました!」
追求しない所がとっても良い子!
その後千ちゃんは一通りの家事を終えて夕方に帰っていった。
それから毎日、交代でお手伝いに来てくれた蜜璃ちゃんも、東城さんも、アオイちゃんも、私の杏寿郎さん呼びに最初は目を丸くしていたけどすぐに慣れてくれた。
あれ、もっと恥ずかしいものだと思ってたけど、皆の反応を見ると意外とそうじゃないのかも・・・
煉獄さんも嬉しそうだし、私ももっと婚約者として、立ち居振る舞いを考えた方が良いのかな・・・。
いつまでも煉獄さんから与えられてるばかりじゃ駄目だよね。
でも、具体的にどうしたら良いんだろ・・・
蜜璃ちゃんやしのぶさんに相談・・?
いや!鬼殺隊の人にはし辛いな・・任務の時煉獄さんとセットで顔合わせたりするしなぁ・・
私すぐ顔に出るらしいから、宇髄さんとかに一瞬でバレそうだ。。。
東城さんも最近ずっと一緒にいるけど、そんな事を相談してもいい仲なのかな・・・
いやいや柱に怯える隠の人達に出来る話じゃないな・・・
ア「美桜さん、畳んだ洗濯物はどこにしまいますか?」
アオイちゃんが顔を出す。
『あ、ありがとう、アオイちゃん。私しまうね。』
ア「動いて大丈夫ですか?」
『うん!もう痛みはほとんどないよ。皆がお手伝いに来てくれて安静にしてたから治りも早いと思う』
ア「それは良かったです。・・・ところで、何か悩み事ですか?」
『えっ??』
ア「ここ。皺が寄ってますよ」
と、自分の眉間を差す。
『あっ、悩み事・・というか・・・』
ア「??」
『・・・アオイちゃん。しのぶさんや蜜璃ちゃんには内緒にしてて欲しいんだけど・・・』
もし良かったら聞いてくれないかな?
とお願いしてみる。
ア「!!・・・私でよければ・・・」
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アオイちゃんが用意してくれたお茶を飲みながら、私の部屋の縁側に腰掛けて今までの経緯を掻い摘んで話す。
ア「挨拶代わりの抱擁ですか・・・。突拍子もない発想は炎柱様らしいですね」
『だよね・・・』
ア「でも何だか納得しました。ここにお手伝いに来てから美桜さんは炎柱様がいる時だけ妙に落ち着かない感じだったので」
『えっ!?そんなに分かりやすかった??』
結構ポーカーフェイス作れている気になってたんだけど・・・
ア「はい・・・多分、私だけじゃなく他の方も気づいていると思いますよ・・・」
『!!!?』
ア「・・・それで、美桜さんは炎柱様の気持ちに応えたいと思ったのですね?」
『う、うん・・・応えたいっていうか、煉獄さんはちゃんと私を婚約者として扱ってくれているのに私は煉獄さんの婚約者として上手く出来てないというか・・・』
婚約者として、恋人としてどう振る舞えば良いのか分からない。
煉獄さんに喜んでもらえる様な事ってなんだろう・・・
ア「・・・・・・」
『・・・ごめん。元々恋愛経験ないのか忘れちゃったのか分からないけど、初めての感情でどうしたら良いのか分からないの・・・』
ア「・・・私も、そういう経験があるわけではないので参考にならないとは思いますが・・・」
『・・うん』
ア「美桜さんがその時思った事をそのままやってみては?」
『えっ?』
ア「美桜さん、炎柱様を困らせるのではとか色々考えすぎていませんか?」
『!!』
ア「炎柱様なら美桜さんの多少の我が儘位聞いてくれると思いますよ。」
『でも、困らせちゃうかも・・・あっ』
ア「・・・フフッ、そういう所ですよ。」
『・・・・・・』
ア「美桜さんも炎柱様からの要求に困る事あるでしょう?お互い様じゃないですか?」
『う・・・でもそれはあんまり嫌じゃないっていうか・・・』
ア「それは多分炎柱様も同じだと思いますよ」
『・・・うん、そうだね。頑張ってみる・・・ありがとうアオイちゃん。』
ア「いえ・・・それにしても、まさか美桜さんからこんな相談を私が受けるとは意外でした」
『あっ!ごめん・・・迷惑だったかな・・・』
ア「いえ!・・・逆です。・・・嬉しかったというか・・・」
ちょっと視線を外して恥ずかしそうに言うアオイちゃん。
アオイちゃんがデレた!
『!!アオイちゃん・・・かわいい!』
ア「はっ!?かわ・・!!そんな事ありません」
コホンと咳払いをする。
アオイちゃんのツンデレ対応にキュンキュンする!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ア「では私はこれで失礼します!」
『ごめんね、長いこと引き止めちゃって』
あれから時間を忘れて話し込んでしまい慌てて蝶屋敷へ戻るアオイちゃんを見送る。
煉「遅くなってしまったな!蝶屋敷まで送るぞ!」
ア「いえ、大丈夫です!お気遣いありがとうございます。・・・美桜さん。お話の続き、進展があったら教えて下さいね」
煉「進展?何の話だ?」
『アッ!アオイちゃん!!』
アオイちゃんは慌てる私に悪戯っぽく笑って帰って行った。
小悪魔風のアオイちゃんも悪くないな・・・
って、私はどこの変態おじさんだ。
煉「さて、美桜、俺は任務が入ったのでこれから出掛ける!少し遠い地なので1週間程留守になると思う!」
『え・・・・』
自然と眉が下がってしまう。
ハッ!
駄目駄目!!
ニッコリ笑顔を作って
『・・・わかりました!気をつけて行って来てくだ・・・』
ー美桜さんがその時思った事をそのままやってみては?ー
ー炎柱様を困らせるのではとか色々考えすぎていませんか?ー
さっきのアオイちゃんの言葉を思い出す。
煉「美桜?」
中途半端な所で固まった私を煉獄さんが心配そうな顔で覗き込む。
『・・・・・・』
俯いて少し迷ってから、
煉獄さんの羽織の端を掴む。
煉「?」
『・・・やっぱり、一週間会えないのは、ちょっとだけ淋しいです・・・』
煉「!!」
言ってしまった・・・
煉獄さんだって仕事で行くんだからそんな事言われても困るよね・・・
煉「むぅ・・・」
困ってる!!
駄目だ!
やっぱ今のなし!!
『あっあの!今のは・・・』
煉「6日!!」
『・・えっ?』
煉「いや!5日だ!!5日で戻る!!・・・それでは駄目か?」
『!!駄目じゃないです!・・・ごめんなさい。変な我が儘言って・・・』
煉「我が儘なものか。美桜の正直な気持ちが聞けて俺は嬉しい!」
『・・・本当?』
煉「ああ!」
煉獄さんを見上げると本当に嬉しそうな顔。
それだけで私の心が急に満たされていく。
煉「では、行ってくる!」
『はい!』
煉獄さんに抱き締められる。
何度目かの行ってきますの挨拶だ。
いつもは胸元に添えるだけの私の手を恐る恐る煉獄さんの背中に回す。
煉「!!」
『行ってらっしゃい、杏寿郎さん・・・淋しいのは本当だけど、怪我なく帰ってきてくれた方がいいので・・・』
無理はしないでください。
と煉獄さんの胸の中で伝える。
煉「・・・美桜・・・君は本当に・・・」
可愛いな。
そう言って煉獄さんの右手が私の左の頬に触れる。
そして、煉獄さんの顔がゆっくり近づいてくる。
え!!こ、これはもしや・・・
咄嗟に唇を締め、目をギュッと閉じる。
『・・・・・・』
煉「・・・・・・」
『・・・・・・?』
あれ?
何も起きない・・・
チラ、と片目を開けて確認してみると、すごい近い距離で煉獄さんがジッと私の顔を見ていた。
『っ!!?えっ!?』
煉「そんなに緊張するな」
フッと煉獄さんが笑う。
『・・・え・・・?』
ボッと顔が熱くなる。
煉「少しずつ、段階を踏むと言っただろう?」
『は・・・はい・・・』
もしかして、いま私、期待した・・・?
やだ!
すっごい恥ずかしい・・・
目線を下に落とした時、私の右頬で暖かい感触と共にチュッという音がした。
『ーーーっ!』
煉「・・・今日の所は、ここまでだな」
耳元でそう囁いてから、
では行ってくる!
そう言って任務へと旅立って行った。
『・・・・・・』
・・・私にしては結構大胆な事をしたと思うんだけど・・・
やっぱり煉獄さんは更にその上を行くよね・・・
結局、私ばっかりドキドキしている気がする。
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煉「皆の者!!早い所鬼を斬りに行くぞ!!」
隊1「はっはい!!」
バビュンと音を立てて任務地へと向かう。
隊2(ちょ・・・ペース早すぎて追いつけないっ)
隊3(炎柱様・・・いつになく張り切っているけど、何があったんだ・・・)
その後、一週間の予定の任務を4日で終えて帰還し美桜を驚かせる事になる。