独占欲と蛇
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最近美桜の様子がおかしい。
時折ぼんやりと空を見つめてはため息をついたり、
『杏寿郎さん、次の任務同行はいつですか?』
と、しきりに聞いてくる。
原因は、恐らく隠の1人だ。
あの男の事が気になっているらしい。
美桜の3回目の任務同行は今日だ。
胡蝶と冨岡が担当する。
因みに2回目は先々週、悲鳴嶼殿と宇髄に同行していた。
そこでも記憶が蘇る事はなかったが、例の隠を気にする素振りを見せていたと宇髄から聞いた。
宇「お前からあの隠に乗り換えるんじゃねぇの?」
宇髄の揶揄う声が耳に残っている。
『杏寿郎さん。そろそろ出掛けてきます』
部屋の外から美桜の声が聞こえる。
煉「・・・そうか!では集合する場所まで送って行こう!!」
部屋から出て、送迎を申し出るが
『いえ!杏寿郎さんも別の任務がありますよね?』
慌てて1人で行けます。と断られてしまう。
(気持ちは嬉しいけど、他の隊士さんも担当じゃない柱の人が来たら吃驚しちゃうしね・・・)
『では、行って参ります』
煉「・・・うむ!気をつけて行くのだぞ!!」
複雑な気持ちで美桜を見送った。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
最近、俺の周りの様子がおかしい。
特に、炎柱様の婚約者、美桜さんからの視線をすごく感じる。。。
それに伴って、炎柱様から受ける視線がめちゃくちゃ痛い・・・。
視線で殺されるかもしれないと思ったのは生まれて初めてだ。
俺、何かした・・・?
『こんばんは』
後「ひぇっ!?」
すぐ隣から美桜さんの声がして飛び上がる。
『・・・後藤さん、どうかしましたか?』
後「いえ・・・なんでもありません・・・」
『?? 皆さん、本日もお世話になります!』
美桜さんはいつものように丁寧に頭を下げる。
東「美桜さん、こんばんは」
中「今日もよろしくお願いします」
他の2人はすっかり打ち解けて仲良くなっている。
俺は、なんとなく気まずい感じで距離をとる。
し「あらあら、すっかり隠の方と仲良くなったようですね」
蟲柱様が集合場所に現れる。
少しだけ緊張した空気が流れるが、蟲柱様は物腰も柔らかく俺たちにも優しく接してくれるから他の柱との任務より気が楽だった。
『あっ、しのぶさん。こんばんは』
し「こんばんは。後は冨岡さんが来るのを待つだけですね」
というと、
『えっ、義勇さんならもう来てますよ。ねえ?』
奥の茂みを見る美桜さんの視線を辿ると・・・
冨「・・・・・・」
水柱様が静かに佇んでいた。
中「みっ水柱様!!」
東「いついらっしゃったのですか!?」
隠と隊士が全員驚く。
『あれ、私がここに着いた時に既に立っていたので皆さん気がついているのかと・・・』
冨「・・・半刻程前に着いた」
半刻!!?
俺たちよりも先に着いていたの!?
え、全然気がつかなかった・・・怖!!
し「冨岡さん。いるならいるで声をかけないと。美桜さんが気づいてくれなかったら誰も気づいてくれませんでしたよ?」
蟲柱様に咎められるが、
冨「・・・美桜が気づいてくれたから問題ない」
行くぞ。
とスタスタ歩いて行く。
それに大きなため息をついた蟲柱様が続く。
呆気にとられた俺たちも慌てて後を追う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今回も山道を進んでいく。
『鬼って山に住んでいるんですか?』
し「ええ。鬼は日中太陽から身を隠す必要がありますからね。陽の光があたらない山奥にいることが多いのですよ」
冨「・・・美桜、そろそろ後ろに下がっていろ」
『はっはい!わかりました!!』
後ろに下がっていろという事は鬼が近くにいるということ。
やっぱりこの瞬間だけは緊張する。
隠の人たちの所まで下がっていく。
『中西さん。私たちはここで待機だそうです。』
中「わかりました!」
東「ではこちらへ!」
そう言って山道から外れた茂みの方へ誘導される。
身を低くして、鴉からの情報をじっと待つ。
そして、私の視線は一人の隠に向けられる。
『・・・・・・』
後藤さん。
私は、この人のことを知っているような気がする。
けど、気がするだけでどこで知り合ったのか、どんな関係だったのかはさっぱり思い出せない。
後藤さんも私とあの夜が初対面だと言っていたから私の気のせいなのかもしれない・・・
顔は頭巾でほとんど隠れてしまっているけど、声は懐かしい感じがするんだよなぁ・・・
東「・・・ねぇ、美桜さんまたアンタの事見てるけど、本当に知り合いじゃないの?」
後「いや、知らねぇよ・・・」
中「お前、記憶なくす前の美桜さんと何かあったんじゃね?恋人同士だったとか、そんで酷い振り方とかして気まずくてとぼけているんじゃないだろうな?」
後「馬鹿野郎!そんな訳あるか!!美桜さんが恋人だったら振るなんて勿体無い事するかよ!!」
東「それ・・・炎柱様に聞かれたら血を見るやつよ・・・」
『何のお話ですか?』
3人「「「!!!???いえ!!!何でもないです!!!」」」
『??』
3人の様子に首を傾げる。
煉獄さんの話題が出たような気がしたけど、気のせいだったかな・・・
中「おい後藤!何か話題変えろよ!!!」
後「えっ!?俺が!!?」
東「何でもいいから!!!」
後「なんでもって・・・・お、今日は新月かぁ」
『!!!』
空を見上げた後藤さんがつぶやく。
後「知ってるか?新月に願い事をすると叶うんだってよ」
(・・・後藤さんってロマンチストなんですね)
東「・・・後藤さんって意外と夢見がちなんですね」
後藤さんは少し恥ずかしそうに何だよと口を尖らせている。
『・・・・・』
(まぁ、願うとしたら今日の任務が何事もなく無事に終わる事でしょうか)
中「フーン。じゃあ、俺の願いは今日の任務が何事もなく無事に終わりますようにっと」
中西さんが空に向かって2回拍手を打つ。
後「・・・新月の願い事は口にしないでこっそり願わないと叶わねぇよ?」
『・・・』
東「・・・・・・」
中「・・・お前、そういう事は先に言えよ・・・って、どうしたんですか!?美桜さん!」
東「美桜さん・・・?」
後「えっ・・・俺、何かまずい事言った??」
3人が大慌てで私に近寄る。
私はボロボロと涙を流していた。
『私・・・知ってる・・・。やっぱり、後藤さん、私の・・・』
鴉「カァア!鬼ヲ発見シタ!!!動キガ早イタメ注意セヨ!!」
私が言いかけた時、鴉が鬼の情報を伝えにきた。
と、同時に
鬼「ここにもいたのか!鬼殺隊ぃ!!」
私達の背後から鬼が現れる。
慌てて距離をとろうとするが、茂みに足を取られて転んでしまう。
『っ!!痛っ』
思い切り地面に手をついてしまい手首に激痛が走る。
それでも何とか立ち上がり逃げようとすると、足を掴まれまた地面に倒れてしまう。
『っ!!!』
中「美桜さん!?」
鬼「頸を突かれたが、あの女には頸が斬れないようだな・・・傷を治すためにお前には俺の餌になってもらうぜぇ」
『いっ嫌!!』
私は無我夢中でもがくが、鬼はびくともしない。
腰元の刀に手をかけるが右手首に痛みが走り上手く握れない・・・
鬼「ハハハッ!雑魚ばかりの集まりだな!!」
『アンタみたいな奴、すばしっこいだけでしょ!しのぶさんや義勇さんが来たらすぐに斬られるんだからっ!!』
鬼「あぁ!?オマエ死にたいらしいな!!」
しのぶさん達を雑魚扱いされムカッとして鬼につい言い返してしまう。
その言葉が鬼の逆鱗に触れたらしく、足を掴む手に力が込められる。
『いっ!!』
その時、私の身体を逆に引っ張る感覚がーー
慌てて顔を上げると、真っ青な顔をした後藤さんが私を鬼から引き剥がそうと引っ張っていた。
それに続いて東城さんも後藤さんの体を掴んで引っ張る。
中西さんは私に覆いかぶさるようにして守ってくれる。
だっ、駄目だよ・・・
私なんか・・・
『・・・駄目っ!お願い皆逃げて!!!私なんかの為に命かけないでっ!!!』
じゃないと、、私のせいで“また”誰かが死んじゃうよ・・・
後「何言ってんすか!?」
東「そうです!馬鹿なこと言わないでください!!」
中「俺たち鬼殺隊は絶対に仲間を見捨てない!!!」
『・・・!!!』
鬼「安心しろ!一人残らず食ってや・・・ぐあっ」
急に鬼が苦しみだす。
そして、しのぶさんが静かに現れる。
し「あらあら、最後まで人の話は聞くものですよ?確かに私は頸を斬れませんが、鬼を殺す毒を作れる凄い人なんですよ?」
鬼「どっ毒だと・・・!?ぐああっ、体が、再生できなっ・・・」
どしゃっという音がして鬼が苦しみながら消えていった。
し「皆さん、大丈夫ですか?」
3人「「「は、はい・・・」」」
し「すみません、一撃は与えましたが素早い鬼で傷が浅く毒の効きが遅かった様です。・・・美桜さんを危険な目に合わせてしまいましたね・・・」
『・・・いえ。しのぶさん、皆さん、ありがとうございました』
冨「・・・怪我をしたのか?」
冨岡さんがやってきて私の右手に目をむける。
『あ・・・これは転んだ拍子に・・たいしたことはないんです。』
と、立ち上がろうとすると
『っ!!!』
鬼に掴まれていた左足にも激痛が走る。
し「・・・強く掴まれたことで青くなってしまいましたね」
しのぶさんが素早く処置をしてくれる。
し「さて、これでひとまず安静にしてください。次の任務同行は怪我が治ってからにしましょうね」
『・・・はい』
し「誰か、美桜さんを煉獄さんのお屋敷まで運んでもらえますか?」
冨「・・・俺が」
し「冨岡さん以外で」
冨「!!?」
し「冨岡さんは説明が下手くそですから、煉獄さんに怪我をした経緯が正確に伝えられないでしょう?そうですね・・・貴方、お願いできますか?」
しのぶさんは後藤さんを指名する。
後「え・・・俺ですか?」
し「はい。くれぐれも、よろしくお願いしますね?」
後「は・・・はい・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『・・・すみません。お手数をおかけして・・・』
私は後藤さんに背負われて家路を歩く。
後「いえ・・・怪我が大した事なくてよかったですね」
『はい・・・でも、私が足手まといになってしまって、隠の皆さんまで巻き込んでしまって。すみません・・・』
後「それは美桜さんのせいではないと思いますよ」
『・・・・・・』
後「・・・・・・あの」
『はい・・・?』
後「俺の勘違いだったら悪いんですが・・・美桜さんは・・・どうして俺の事を気にしているのですか?」
『・・・ちゃんと思い出せないんですけど・・・私、後藤さんのことを知っていると思うんです。』
今日の新月の話。
私の中に微かに残る記憶と同じやりとりだった。
脳裏に浮かぶ光景・・・
ーどこかの町の冬の夜空ー
ー任務ー
私は、記憶をなくす前、どこかの組織にいてそこで後藤さんと一緒だったのかもしれない。
後「・・・うーん。と言っても、俺は鬼殺隊にしか所属したことないしなあ・・・」
『・・・じゃあ、やっぱり私の思い違いかもしれませんね・・・』
後藤さんによく似た別の人かも。
後「・・・もしかして」
『?』
後「前世の記憶とかじゃないですかね?そこで同じ組織にいたとか」
『・・・前世・・・・・フフッ』
後「?」
『後藤さん・・・やっぱりロマンチストですね』
後「・・・笑わないでくださいよ・・・」
これは後藤さんなりの気遣いだよね。
優しい人だなぁ。
前世の記憶かぁ・・・
なんとなく、しっくりきた様でここ最近のモヤモヤが晴れていく。
『・・・ありがとうございます。後藤さん』
後「いえ・・・お屋敷までもう少しですよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
任務を終えて帰るが美桜の姿はまだなかった。
胡蝶と冨岡が付いているから命に関わる危険はないだろうが・・・。
今頃は任務を終えた帰り道かもしれんな。
まだ外は暗い。それならば途中まで迎えに行こうと再び外に出る。するとーーーー
通りの向こうから、例の隠に背負われた美桜の姿が見えた。
何やら2人、楽しそうに会話をしている雰囲気だ。眉間に皺が寄る。
隠は俺の姿に気が付いた様子で慌てている。
何か、やましいことでもあるのか?
後「えっ炎柱様っ!!?(顔メッチャ怖!!)」
『えっ?煉獄さん!』
先に帰ってたのですね。と隠の背中から笑顔の美桜が顔を覗かせる。
煉「うむ!先程帰ってきた所だ!!・・・美桜は怪我をしたのか?」
『あ・・・私の不注意で転んでしまって・・・』
煉「そうなのか?」
後藤という隠に尋ねる。
後「あっ・・・はい!いや、不注意ではなく、急に手負いの鬼が現れて・・・」
『でも、後藤さんたちが守ってくれましたし、しのぶさんの毒で鬼も退治できたので!!大丈夫ですよ?』
そう言ってお互いを庇い合う。
煉「そうか!わかった!!」
これ以上2人のやり取りを聞いているのは嫌だった。
煉「ここからは俺が運ぶ!!俺の婚約者が!世話になったな!!」
後「あ・・・はい・・・(そんな婚約者を強調しなくても・・やっぱ柱怖ぇ・・・)」
隠の背から美桜を受け取り、横抱きにする。
後「では、私はこれで!美桜さん、お大事に」
『はい・・・後藤さん。ここまでありがとうございまし・・!?』
美桜が言い終える前に踵を返し屋敷への道を急ぐ。
『れっ煉獄さん!?』
美桜が慌てた様子で俺の名を呼ぶ。
煉「・・・・・・今は2人きりだ」
『・・・杏寿郎さん』
煉「・・・何だ?」
『あの・・・怒ってますか?怪我をした事・・・』
煉「・・・・・・」
俺は黙ったまま屋敷に戻ると美桜の部屋に向かい、そのまま布団に寝かせる。美桜はすぐに起きあがろうとする。
『杏寿郎さん!! っ!?』
俺は美桜を布団に押し付け、隊服の襟元を外す。
『やっ!!?』
煉「・・・俺は、今でも美桜の婚約者だろうか?」
はだけた隊服から覗くネックレスに繋がった指輪に触れ尋ねる。
『・・・はい』
煉「・・・あの隠の者は、美桜とどういう関係だ?」
『え?・・・っ!?・・・杏寿郎さん・・・っ!!』
首元に顔を埋めると美桜の身体がピクッと反応する。
その細くて白い首に唇を這わす。
『んっ!・・ごと・・・さんはっ・・・そんなんじゃっ・・・』
息も切れ切れに答える。
自分で聞いておきながら、こんな時に別の男の名を呼ばれるのは面白くないな・・・
首筋に強めに吸い付くと身体が大きく跳ねる。
『ふぁっ!?・・ん・・ごめ・・なさ・・・』
美桜が謝罪の言葉を口にする。
そこでハッとする。
煉「・・・」
美桜の顔を覗き込むと不安気な瞳に涙を溜め、頬は蒸気し、肩で息をしている。
これ以上はーーー止まらなくなりそうだーーー
俺は一度大きく息を吐き、昂る気持ちを無理矢理落ち着かせる。
煉「・・・すまない。美桜が他の男に意識が向いていると思うとどうにも我慢がならんのだ・・・」
美桜から身体を離し、立ちあがり部屋を出ようとする。ーーーと羽織を引っ張られる。
美桜の方へ振り向くと左手で羽織を掴み、唇を噛み締め、俺を見上げていた。
『待って・・・話を、ちゃんと聞いてください・・・』
煉「・・・わかった」
美桜の隣に座り直す。
美桜は肌けた隊服を手で押さえながら、ゆっくり起き上がる。
『・・・私の、微かな記憶の中に、後藤さんの声や、会話の内容が残っていたんです』
煉「?」
そして、これまでの経緯を静かに語られた。
『・・・でも、後藤さんは私の事知らないみたいだし、人違いかもしれないです・・・。私も確信がなかったので言えませんでした』
煉「・・・そうか。そうだったのか・・・先程は乱暴な事をしてしまいすまなかった。・・・怖かったろう?」
美桜の首筋にそっと触れる。
先程感情に任せて付けてしまった痕が痛々しく残っている。
『・・・いえ・・杏寿郎さんに嫌な思いをさせてしまってごめんなさい。今度からは自信がなくても杏寿郎さんだけには、ちゃんと言います。』
煉「!!・・・ああ。ありがとう。」
そのまま美桜を抱き締める。
『きょっ!杏寿郎さん・・・!!』
煉「・・・今は抱き締めるだけだ。駄目か?」
『やっ、駄目というか、その・・・』
恥ずかしい・・・
と小さな声が漏れる。
煉「美桜・・・君は俺の婚約者だろう!抱き締めただけで恥ずかしがっていてはここから先に進めないな!」
『さっ!先っ!!?』
美桜が狼狽する。
煉「うむ・・・これ以上は美桜が嫌な事はしない!・・・が、もう少し、俺に慣れて欲しいな」
髪に触れながら耳元で囁くと小さな声をあげる。
『なっ慣れるって・・・どうしたら・・・』
顔を真っ赤に染めて、困り顔をする。
一体美桜はどこまで俺を煽ってくるのだ・・・
煉「そうだな・・・まずは・・・」
美桜の反応をもう少しだけ楽しみたくて
もう一度、耳元に顔を近づけたーーー
時折ぼんやりと空を見つめてはため息をついたり、
『杏寿郎さん、次の任務同行はいつですか?』
と、しきりに聞いてくる。
原因は、恐らく隠の1人だ。
あの男の事が気になっているらしい。
美桜の3回目の任務同行は今日だ。
胡蝶と冨岡が担当する。
因みに2回目は先々週、悲鳴嶼殿と宇髄に同行していた。
そこでも記憶が蘇る事はなかったが、例の隠を気にする素振りを見せていたと宇髄から聞いた。
宇「お前からあの隠に乗り換えるんじゃねぇの?」
宇髄の揶揄う声が耳に残っている。
『杏寿郎さん。そろそろ出掛けてきます』
部屋の外から美桜の声が聞こえる。
煉「・・・そうか!では集合する場所まで送って行こう!!」
部屋から出て、送迎を申し出るが
『いえ!杏寿郎さんも別の任務がありますよね?』
慌てて1人で行けます。と断られてしまう。
(気持ちは嬉しいけど、他の隊士さんも担当じゃない柱の人が来たら吃驚しちゃうしね・・・)
『では、行って参ります』
煉「・・・うむ!気をつけて行くのだぞ!!」
複雑な気持ちで美桜を見送った。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
最近、俺の周りの様子がおかしい。
特に、炎柱様の婚約者、美桜さんからの視線をすごく感じる。。。
それに伴って、炎柱様から受ける視線がめちゃくちゃ痛い・・・。
視線で殺されるかもしれないと思ったのは生まれて初めてだ。
俺、何かした・・・?
『こんばんは』
後「ひぇっ!?」
すぐ隣から美桜さんの声がして飛び上がる。
『・・・後藤さん、どうかしましたか?』
後「いえ・・・なんでもありません・・・」
『?? 皆さん、本日もお世話になります!』
美桜さんはいつものように丁寧に頭を下げる。
東「美桜さん、こんばんは」
中「今日もよろしくお願いします」
他の2人はすっかり打ち解けて仲良くなっている。
俺は、なんとなく気まずい感じで距離をとる。
し「あらあら、すっかり隠の方と仲良くなったようですね」
蟲柱様が集合場所に現れる。
少しだけ緊張した空気が流れるが、蟲柱様は物腰も柔らかく俺たちにも優しく接してくれるから他の柱との任務より気が楽だった。
『あっ、しのぶさん。こんばんは』
し「こんばんは。後は冨岡さんが来るのを待つだけですね」
というと、
『えっ、義勇さんならもう来てますよ。ねえ?』
奥の茂みを見る美桜さんの視線を辿ると・・・
冨「・・・・・・」
水柱様が静かに佇んでいた。
中「みっ水柱様!!」
東「いついらっしゃったのですか!?」
隠と隊士が全員驚く。
『あれ、私がここに着いた時に既に立っていたので皆さん気がついているのかと・・・』
冨「・・・半刻程前に着いた」
半刻!!?
俺たちよりも先に着いていたの!?
え、全然気がつかなかった・・・怖!!
し「冨岡さん。いるならいるで声をかけないと。美桜さんが気づいてくれなかったら誰も気づいてくれませんでしたよ?」
蟲柱様に咎められるが、
冨「・・・美桜が気づいてくれたから問題ない」
行くぞ。
とスタスタ歩いて行く。
それに大きなため息をついた蟲柱様が続く。
呆気にとられた俺たちも慌てて後を追う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今回も山道を進んでいく。
『鬼って山に住んでいるんですか?』
し「ええ。鬼は日中太陽から身を隠す必要がありますからね。陽の光があたらない山奥にいることが多いのですよ」
冨「・・・美桜、そろそろ後ろに下がっていろ」
『はっはい!わかりました!!』
後ろに下がっていろという事は鬼が近くにいるということ。
やっぱりこの瞬間だけは緊張する。
隠の人たちの所まで下がっていく。
『中西さん。私たちはここで待機だそうです。』
中「わかりました!」
東「ではこちらへ!」
そう言って山道から外れた茂みの方へ誘導される。
身を低くして、鴉からの情報をじっと待つ。
そして、私の視線は一人の隠に向けられる。
『・・・・・・』
後藤さん。
私は、この人のことを知っているような気がする。
けど、気がするだけでどこで知り合ったのか、どんな関係だったのかはさっぱり思い出せない。
後藤さんも私とあの夜が初対面だと言っていたから私の気のせいなのかもしれない・・・
顔は頭巾でほとんど隠れてしまっているけど、声は懐かしい感じがするんだよなぁ・・・
東「・・・ねぇ、美桜さんまたアンタの事見てるけど、本当に知り合いじゃないの?」
後「いや、知らねぇよ・・・」
中「お前、記憶なくす前の美桜さんと何かあったんじゃね?恋人同士だったとか、そんで酷い振り方とかして気まずくてとぼけているんじゃないだろうな?」
後「馬鹿野郎!そんな訳あるか!!美桜さんが恋人だったら振るなんて勿体無い事するかよ!!」
東「それ・・・炎柱様に聞かれたら血を見るやつよ・・・」
『何のお話ですか?』
3人「「「!!!???いえ!!!何でもないです!!!」」」
『??』
3人の様子に首を傾げる。
煉獄さんの話題が出たような気がしたけど、気のせいだったかな・・・
中「おい後藤!何か話題変えろよ!!!」
後「えっ!?俺が!!?」
東「何でもいいから!!!」
後「なんでもって・・・・お、今日は新月かぁ」
『!!!』
空を見上げた後藤さんがつぶやく。
後「知ってるか?新月に願い事をすると叶うんだってよ」
(・・・後藤さんってロマンチストなんですね)
東「・・・後藤さんって意外と夢見がちなんですね」
後藤さんは少し恥ずかしそうに何だよと口を尖らせている。
『・・・・・』
(まぁ、願うとしたら今日の任務が何事もなく無事に終わる事でしょうか)
中「フーン。じゃあ、俺の願いは今日の任務が何事もなく無事に終わりますようにっと」
中西さんが空に向かって2回拍手を打つ。
後「・・・新月の願い事は口にしないでこっそり願わないと叶わねぇよ?」
『・・・』
東「・・・・・・」
中「・・・お前、そういう事は先に言えよ・・・って、どうしたんですか!?美桜さん!」
東「美桜さん・・・?」
後「えっ・・・俺、何かまずい事言った??」
3人が大慌てで私に近寄る。
私はボロボロと涙を流していた。
『私・・・知ってる・・・。やっぱり、後藤さん、私の・・・』
鴉「カァア!鬼ヲ発見シタ!!!動キガ早イタメ注意セヨ!!」
私が言いかけた時、鴉が鬼の情報を伝えにきた。
と、同時に
鬼「ここにもいたのか!鬼殺隊ぃ!!」
私達の背後から鬼が現れる。
慌てて距離をとろうとするが、茂みに足を取られて転んでしまう。
『っ!!痛っ』
思い切り地面に手をついてしまい手首に激痛が走る。
それでも何とか立ち上がり逃げようとすると、足を掴まれまた地面に倒れてしまう。
『っ!!!』
中「美桜さん!?」
鬼「頸を突かれたが、あの女には頸が斬れないようだな・・・傷を治すためにお前には俺の餌になってもらうぜぇ」
『いっ嫌!!』
私は無我夢中でもがくが、鬼はびくともしない。
腰元の刀に手をかけるが右手首に痛みが走り上手く握れない・・・
鬼「ハハハッ!雑魚ばかりの集まりだな!!」
『アンタみたいな奴、すばしっこいだけでしょ!しのぶさんや義勇さんが来たらすぐに斬られるんだからっ!!』
鬼「あぁ!?オマエ死にたいらしいな!!」
しのぶさん達を雑魚扱いされムカッとして鬼につい言い返してしまう。
その言葉が鬼の逆鱗に触れたらしく、足を掴む手に力が込められる。
『いっ!!』
その時、私の身体を逆に引っ張る感覚がーー
慌てて顔を上げると、真っ青な顔をした後藤さんが私を鬼から引き剥がそうと引っ張っていた。
それに続いて東城さんも後藤さんの体を掴んで引っ張る。
中西さんは私に覆いかぶさるようにして守ってくれる。
だっ、駄目だよ・・・
私なんか・・・
『・・・駄目っ!お願い皆逃げて!!!私なんかの為に命かけないでっ!!!』
じゃないと、、私のせいで“また”誰かが死んじゃうよ・・・
後「何言ってんすか!?」
東「そうです!馬鹿なこと言わないでください!!」
中「俺たち鬼殺隊は絶対に仲間を見捨てない!!!」
『・・・!!!』
鬼「安心しろ!一人残らず食ってや・・・ぐあっ」
急に鬼が苦しみだす。
そして、しのぶさんが静かに現れる。
し「あらあら、最後まで人の話は聞くものですよ?確かに私は頸を斬れませんが、鬼を殺す毒を作れる凄い人なんですよ?」
鬼「どっ毒だと・・・!?ぐああっ、体が、再生できなっ・・・」
どしゃっという音がして鬼が苦しみながら消えていった。
し「皆さん、大丈夫ですか?」
3人「「「は、はい・・・」」」
し「すみません、一撃は与えましたが素早い鬼で傷が浅く毒の効きが遅かった様です。・・・美桜さんを危険な目に合わせてしまいましたね・・・」
『・・・いえ。しのぶさん、皆さん、ありがとうございました』
冨「・・・怪我をしたのか?」
冨岡さんがやってきて私の右手に目をむける。
『あ・・・これは転んだ拍子に・・たいしたことはないんです。』
と、立ち上がろうとすると
『っ!!!』
鬼に掴まれていた左足にも激痛が走る。
し「・・・強く掴まれたことで青くなってしまいましたね」
しのぶさんが素早く処置をしてくれる。
し「さて、これでひとまず安静にしてください。次の任務同行は怪我が治ってからにしましょうね」
『・・・はい』
し「誰か、美桜さんを煉獄さんのお屋敷まで運んでもらえますか?」
冨「・・・俺が」
し「冨岡さん以外で」
冨「!!?」
し「冨岡さんは説明が下手くそですから、煉獄さんに怪我をした経緯が正確に伝えられないでしょう?そうですね・・・貴方、お願いできますか?」
しのぶさんは後藤さんを指名する。
後「え・・・俺ですか?」
し「はい。くれぐれも、よろしくお願いしますね?」
後「は・・・はい・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『・・・すみません。お手数をおかけして・・・』
私は後藤さんに背負われて家路を歩く。
後「いえ・・・怪我が大した事なくてよかったですね」
『はい・・・でも、私が足手まといになってしまって、隠の皆さんまで巻き込んでしまって。すみません・・・』
後「それは美桜さんのせいではないと思いますよ」
『・・・・・・』
後「・・・・・・あの」
『はい・・・?』
後「俺の勘違いだったら悪いんですが・・・美桜さんは・・・どうして俺の事を気にしているのですか?」
『・・・ちゃんと思い出せないんですけど・・・私、後藤さんのことを知っていると思うんです。』
今日の新月の話。
私の中に微かに残る記憶と同じやりとりだった。
脳裏に浮かぶ光景・・・
ーどこかの町の冬の夜空ー
ー任務ー
私は、記憶をなくす前、どこかの組織にいてそこで後藤さんと一緒だったのかもしれない。
後「・・・うーん。と言っても、俺は鬼殺隊にしか所属したことないしなあ・・・」
『・・・じゃあ、やっぱり私の思い違いかもしれませんね・・・』
後藤さんによく似た別の人かも。
後「・・・もしかして」
『?』
後「前世の記憶とかじゃないですかね?そこで同じ組織にいたとか」
『・・・前世・・・・・フフッ』
後「?」
『後藤さん・・・やっぱりロマンチストですね』
後「・・・笑わないでくださいよ・・・」
これは後藤さんなりの気遣いだよね。
優しい人だなぁ。
前世の記憶かぁ・・・
なんとなく、しっくりきた様でここ最近のモヤモヤが晴れていく。
『・・・ありがとうございます。後藤さん』
後「いえ・・・お屋敷までもう少しですよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
任務を終えて帰るが美桜の姿はまだなかった。
胡蝶と冨岡が付いているから命に関わる危険はないだろうが・・・。
今頃は任務を終えた帰り道かもしれんな。
まだ外は暗い。それならば途中まで迎えに行こうと再び外に出る。するとーーーー
通りの向こうから、例の隠に背負われた美桜の姿が見えた。
何やら2人、楽しそうに会話をしている雰囲気だ。眉間に皺が寄る。
隠は俺の姿に気が付いた様子で慌てている。
何か、やましいことでもあるのか?
後「えっ炎柱様っ!!?(顔メッチャ怖!!)」
『えっ?煉獄さん!』
先に帰ってたのですね。と隠の背中から笑顔の美桜が顔を覗かせる。
煉「うむ!先程帰ってきた所だ!!・・・美桜は怪我をしたのか?」
『あ・・・私の不注意で転んでしまって・・・』
煉「そうなのか?」
後藤という隠に尋ねる。
後「あっ・・・はい!いや、不注意ではなく、急に手負いの鬼が現れて・・・」
『でも、後藤さんたちが守ってくれましたし、しのぶさんの毒で鬼も退治できたので!!大丈夫ですよ?』
そう言ってお互いを庇い合う。
煉「そうか!わかった!!」
これ以上2人のやり取りを聞いているのは嫌だった。
煉「ここからは俺が運ぶ!!俺の婚約者が!世話になったな!!」
後「あ・・・はい・・・(そんな婚約者を強調しなくても・・やっぱ柱怖ぇ・・・)」
隠の背から美桜を受け取り、横抱きにする。
後「では、私はこれで!美桜さん、お大事に」
『はい・・・後藤さん。ここまでありがとうございまし・・!?』
美桜が言い終える前に踵を返し屋敷への道を急ぐ。
『れっ煉獄さん!?』
美桜が慌てた様子で俺の名を呼ぶ。
煉「・・・・・・今は2人きりだ」
『・・・杏寿郎さん』
煉「・・・何だ?」
『あの・・・怒ってますか?怪我をした事・・・』
煉「・・・・・・」
俺は黙ったまま屋敷に戻ると美桜の部屋に向かい、そのまま布団に寝かせる。美桜はすぐに起きあがろうとする。
『杏寿郎さん!! っ!?』
俺は美桜を布団に押し付け、隊服の襟元を外す。
『やっ!!?』
煉「・・・俺は、今でも美桜の婚約者だろうか?」
はだけた隊服から覗くネックレスに繋がった指輪に触れ尋ねる。
『・・・はい』
煉「・・・あの隠の者は、美桜とどういう関係だ?」
『え?・・・っ!?・・・杏寿郎さん・・・っ!!』
首元に顔を埋めると美桜の身体がピクッと反応する。
その細くて白い首に唇を這わす。
『んっ!・・ごと・・・さんはっ・・・そんなんじゃっ・・・』
息も切れ切れに答える。
自分で聞いておきながら、こんな時に別の男の名を呼ばれるのは面白くないな・・・
首筋に強めに吸い付くと身体が大きく跳ねる。
『ふぁっ!?・・ん・・ごめ・・なさ・・・』
美桜が謝罪の言葉を口にする。
そこでハッとする。
煉「・・・」
美桜の顔を覗き込むと不安気な瞳に涙を溜め、頬は蒸気し、肩で息をしている。
これ以上はーーー止まらなくなりそうだーーー
俺は一度大きく息を吐き、昂る気持ちを無理矢理落ち着かせる。
煉「・・・すまない。美桜が他の男に意識が向いていると思うとどうにも我慢がならんのだ・・・」
美桜から身体を離し、立ちあがり部屋を出ようとする。ーーーと羽織を引っ張られる。
美桜の方へ振り向くと左手で羽織を掴み、唇を噛み締め、俺を見上げていた。
『待って・・・話を、ちゃんと聞いてください・・・』
煉「・・・わかった」
美桜の隣に座り直す。
美桜は肌けた隊服を手で押さえながら、ゆっくり起き上がる。
『・・・私の、微かな記憶の中に、後藤さんの声や、会話の内容が残っていたんです』
煉「?」
そして、これまでの経緯を静かに語られた。
『・・・でも、後藤さんは私の事知らないみたいだし、人違いかもしれないです・・・。私も確信がなかったので言えませんでした』
煉「・・・そうか。そうだったのか・・・先程は乱暴な事をしてしまいすまなかった。・・・怖かったろう?」
美桜の首筋にそっと触れる。
先程感情に任せて付けてしまった痕が痛々しく残っている。
『・・・いえ・・杏寿郎さんに嫌な思いをさせてしまってごめんなさい。今度からは自信がなくても杏寿郎さんだけには、ちゃんと言います。』
煉「!!・・・ああ。ありがとう。」
そのまま美桜を抱き締める。
『きょっ!杏寿郎さん・・・!!』
煉「・・・今は抱き締めるだけだ。駄目か?」
『やっ、駄目というか、その・・・』
恥ずかしい・・・
と小さな声が漏れる。
煉「美桜・・・君は俺の婚約者だろう!抱き締めただけで恥ずかしがっていてはここから先に進めないな!」
『さっ!先っ!!?』
美桜が狼狽する。
煉「うむ・・・これ以上は美桜が嫌な事はしない!・・・が、もう少し、俺に慣れて欲しいな」
髪に触れながら耳元で囁くと小さな声をあげる。
『なっ慣れるって・・・どうしたら・・・』
顔を真っ赤に染めて、困り顔をする。
一体美桜はどこまで俺を煽ってくるのだ・・・
煉「そうだな・・・まずは・・・」
美桜の反応をもう少しだけ楽しみたくて
もう一度、耳元に顔を近づけたーーー