847年、超大型巨人と鎧の巨人によって100年の平和が壊された。それによってたくさんの巨人がウォールマリアへと侵入して来た。
そして、彼女の両親は、無能な駐屯兵に見捨てられ、巨人に喰われてしまった。彼女は両親の骨が折れる音を、肉が裂けて血が飛び散る姿をただ、呆然と見つめるだけだった。巨人は両親を喰い終えると、ゆっくりと大きな体と、顔を彼女へ向けた。巨大な手がすごい勢いで彼女へ迫った。

「やめてー！」

彼女は力いっぱいに叫んだ。そして、彼女が自分の身を守るために顔の前に持ってきた両手は、丁度巨人のその大きな手に触れていた。そこで、巨人の動きは止まっていた。
その瞬間、彼女の中に2つの映像が流れてきた。
1つは家族らしき人達が幸せそうに笑い合うもの。
もう1つは、高いところから落とされる瞬間だった。
彼女はハッとして巨人を見ると、その瞳には池ができそうなほどの大粒の涙が溜まっていた。

「え、なんで、、、。」

「おい、走れ！早く逃げるぞ！」

突然、物陰から出てきた駐屯兵が彼女の腕を掴んで走った。
彼女は両親との思い出の詰まった家が崩れゆく様子を見つ、駐屯兵と共に避難船へと向かった。

避難船はもう既に人々で溢れ返っていた。
彼女は最後の一人として幸い乗ることが出来た。彼女は、光を失った瞳で遠ざかっていく街を見つめるだけだった。
そのとき、隣で悲痛な叫びを上げる1人の少年の姿を見て無能な兵士に対する怒りが沸き立った。
そして、人々を守れる有能な兵士になると心の奥底で誓っていた。

2年後、彼女は自分の心理状態が落ち着いたこともあり、104期訓練兵になっていた。
入団式では、敬礼を間違える人、芋を食べキース教官に目をつけられる人など、特徴的な人が多いようだった。
入団式の後、彼女は食堂の住みに座り本を読んでいた。

「よぉ、隣座っていいか？」

突然声をかけられ顔を上げると、茶髪の刈り上げ君が立っていた。

「うん、いいよ。」

「ありがとうな。俺はジャン！お前は？」

「私はミルフィーナ。よろしくね」

ミルフィーナとジャンは簡単な挨拶を済ませ、なぜ兵士を目指したのかについて話た。
どうやら、彼は安全かつ、良い暮らしがしたいらしい。

「ミルフィーナお前はなんで兵士に？」

「私はね、2年前のあの時に無能な駐屯兵のせいで家族を失ったの。だから、私は有能な兵士になって巨人を倒し、人々を守りたい･･･」

私がそう言うとジャンは瞬間、驚きの表情を示した。･･･が、すぐに表情を引き締め、口を開いた。

「人間があんなバケモノに勝てるわけねぇ。わざわざ自分の命を捧げてまで巨人に挑もうなんて変なやつだなお前は。」

「そうなのかな？でも、やっぱり、経験がその人の考えを左右すると思う。ジャンは平和に生きてきてこれからも平和に生きたいって思いがあるからそういう考えなんだよね。でも、私は2年前のあの時の事を経験して、いかに兵士が使えない存在なのか、感じた。それ故に私は有能で人々を守れる兵士になりたいって考えになった。」

ミルフィーナはそこまで言うとジャンの顔を見た。ジャンはポカンとしていてあまり理解できていないようだった。

「･･･何が言いたいかって言うとね。一人一人経験してきたことが違うように考え方もいろいろあって考え方に変とか良いも悪いもないと思うってことだよ」

ミルフィーナはなるべく簡潔な言葉でそう言うと、ジャンはなるほどー！という顔をした後少し考えた様子で黙り込んでしまった。
ミルフィーナはジャンの顔をのぞき込み大丈夫？と声をかけた。すると、ジャンは今だ難しい顔で口を開いた。

「でも、やっぱり俺にはミルフィーナの考えはわからねぇよ。」

どうやら、ジャンはミルフィーナの考えを受け止めようとしていたらしい。
ミルフィーナはその言葉を聞き、クスクスと笑った。

「なんだよミルフィーナ！何笑ってやがる」

「いや、ジャンって、自分の考えが絶対正しいって考えの持ち主かと思ったら、ちゃんと人の意見や、考えを受け入れようとする人なんだね。」

ミルフィーナは微笑みながらジャンにそう言うと、ジャンは納得いかないという顔でミルフィーナを見ていた。

「人の考えなんて分かるわけないよ〜。自分とは全く違う存在なんだからさ･･･でも、そうやって受け入れようとしてくれてありがとう。」

そして、ミルフィーナは薔薇のような妖艶な笑みを浮かべた。
それを見てジャンの胸が高鳴ったのは秘密である。
それから、ミルフィーナはしばらくジャンと他愛もない会話をしていた。
突然、中央のテーブルに人が集まり、1人の少年を囲んでワイワイとしていた。
その中の一人が、興奮した様子で口を開いた。

「超大型巨人をみたんだろ！？」

「あぁ、壁から顔を出していた。」

中央にいる黒髪の少年がそう言うと、さらに周りの人達はザワザワとし出した。

「私は壁を跨いだって聞いたよ！？」

「俺も俺も！」

「なぁ、鎧の巨人もいたんだろ！？」

皆が騒ぐ中、彼は威張った様子で口を開いた。

「まぁ、鎧の巨人も俺にとっちゃあ、普通の巨人と変わらねーがな。」

そのセリフにより、周囲はさらに盛りあがった。
そんな中、ジャンはくだらねぇと言った様子で彼を見ていた。

「なぁ、ミルフィーナ、あいつをどう思う？」

突然ジャンがミルフィーナに問いかけた。

「うーん、正直まだ、関わってないし、分からないけど･･･今の発言からしたら、弱そう。」

「だよな。あいつ、威張りやがって･･･気に食わねぇやつだな。」

そんなことをジャンと話していると、突然辺りが静まり返っていた。
ジャンとミルフィーナは顔を見合わせ、じっと中央のテーブルへと視線を向けた。

「み、みんな、このくらいにしておこうよ。思い出したくないこともあるんだからさ。」

1人の訓練兵が弱々しい声でそう言うと、黒髪の少年が動揺を隠すようにパンにかじりつき先程よりも大きな態度で口を開いた。

「巨人なんてなぁ、実際大したことねぇ。俺達が立体機動装置を使いこなせるようになれば、あんなの敵じゃない。やっと、兵士として訓練できるんだ。さっきは思わず感極まっただけだ。オレは調査兵団に入って巨人を駆逐する。そしてぶっ殺して･･･」

「おいおい、正気か？」

突然ミルフィーナの隣に座っていたジャンが耐えられないといった様子で立ち上がり彼の元へ向かった。

「ジャン･･･やめなよ。」

ミルフィーナは小声でそう言うが聞こえていないようで、ジャンは言葉を続けた。

「今、お前、調査兵団に入るって言ったか？」

「あぁ、そうだが･･･。お前は、確か、楽したいんだっけ？」

黒髪の少年がジャンを睨んで言った。

「俺は正直ものなんでね。心底怯えながらも勇敢気取ってるやつよりは爽やかだと思うがな。」

ジャンは彼を馬鹿にした様子で言った。すると、彼がガタリ、と立ち上がりジャンと向かい合った。

「それは俺のことか？」

周囲は緊迫した雰囲気に呑まれ誰一人として止めようとはしなかった。ミルフィーナも、またその1人だった。
そのとき、鐘が鳴り響き夕食時間の終了を告げた。ジャンは仕方ないといった様子で口を開いた。

「まぁ、悪かったよ。俺は別に、あんたの考えを否定したいわけじゃないんだ。これで手打ちにしよう。」

ジャンは仲直りの証として手を差し出した。そして黒髪の少年は短く返事をすると、ジャンの手に自分の手を重ねた。
こうして、喧嘩に発展せずにすみ、皆安堵した。
ミルフィーナも、それは変わらなかった。
ジャンや黒髪の少年が食堂から出ていくのを隅から見送ったあと、彼女は自分の荷物をまとめ、自室へと向かった。
ミルフィーナが部屋に入ると既に1人がくつろいでいた。

「あ、部屋一緒だね！私はミーナ！」

ミーナはそう言うとニコッと微笑んだ。

「私はミルフィーナ。よろしくね。」

「ミルフィーナ、明日からいよいよ訓練だね！」

「そうだね。お互い頑張ろうね。」

「うん！」

ミーナとミルフィーナは少し話をした後、明日の訓練に備え早く寝ることにした。･･･がミルフィーナは瞼を閉じるとあの日出来事が不気味なくらい生々しく浮かび眠れなかったらしい。