同人サークルで売り子をさせられる三郎くん


『8屋さんの描かれる漫画大好きです!これからも応援しています‥!!』
「あ、いえ‥ありがとうございます」
『キャ〜!格好良い‥!』
『あの人がBL漫画描いてるの?普通に考えて神じゃんっ!?』
『あのジャンル聞いたことあるし試しに読んでみようかなぁ』

そんな会話を三郎の後ろに座って盗み聞く。
三郎の売り子によってわたしの描いた同人誌は評判の的となって売れていた。なんて女性受けの良い彼氏なんだろうか。

「疲れた‥交代してくれ‥」
「ダメダメ!三郎が売らないと宣伝にならないから!」
「何の宣伝だよ」
「ほら見てツ○ッターのフォロワーが一気に100人も増えた」
「お前のフォロワー稼ぎに私を使うな!」

怒る三郎を宥めてわたしはぽっけにスマホを仕舞った。

「違うよ!フォロワーが増えることで崇拝するジャンルを多くの人に知って貰う良い機会なのよ!」
「お前のBL本でジャンルを知らすな」
「うるせ〜!ファンは三郎が描いたと思ってるんだよ!」
「お前がそう刷り込んでるんだろ‥!!」

そう言った三郎はこちらの頭をぺしと叩いた。弱い力だったから全然痛くない。
わたしはあと数冊分積まれた中から一つ手に取った。マイナージャンルのためそれを創作する人も読んでくれる人も元々数少ないのだ。
このジャンルを広めるためだ‥三郎の顔を使うのは。

「一応全年齢だし健全だよ」
「健全じゃない物も描いてるだろ」
「それは鍵垢にしか上げてないし!」
「それを私が描いてると思われているんだぞ!そんな彼氏でも良いのか!」
「良いよ!むしろ嬉しい!三郎も一緒に描こう?」
「絶対嫌だ」
「わたしより絵上手いじゃん‥正真正銘の神絵師だよ」
「男の裸を描くとかもう一生したくない」
「あ、体位の描き方教えてもらった時ね!」
「やめろ‥言うな‥」
「えへへ〜」
「あと何でペンネームに私の名前を使っているんだ!」
「表記変えてるから良いじゃない」
「読み方は一緒なんだから意味無いだろ!」
「それは‥」
「お前‥さては描く前から私で釣ろうとしてたな‥?」
「‥」
「な?」
「ハイ」

三郎に両頬を抓られた。痛い痛い。

『すみません〜まだ新刊ありますか?』
「あ、はいありますよ」

そんな文句を言いながらも彼が先に動くのだから、案外そこまで嫌な訳ではないのだろう。そう思うことにしよう。

「ありがとね鉢屋せんせ!」
「‥貸しイチな」
「貸し?」
「夜払えよ?」
「うっ‥‥‥‥‥」

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