キケンな先輩【三郎】
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「痛っ‥」
今は実践授業の真っ最中。そして只今城の牢屋の中である。
「何で捕まっちゃったかなぁ」
牢屋の壁を背もたれにして座り込んだ。
はぁ‥と息を吐くと、牢屋の冷たい空気が身体の芯をぶるりと震えさせる。手と足は縄できつく結ばれて身動きが取れない状態だった。この場合助けを待つしか手段はない。
ここに来るまでに武器は全て使い果たしていた。敵に追いかけられている最中に焦って乱状剣をしまくったのだ。その結果このすっからかんな状態。あっけなく縄で縛られて牢屋に連れて来られた。
四年生にもなって簡単に敵に捕まってしまうなんて‥
自分にため息を吐くも「まだ四年生だし‥」と言い訳をして吹き飛ばした。
「誰か助けに来てくれないかな‥」
ぽつりと呟くとふいに牢屋の奥から足音が近づいて来た。
誰か助けに来たのか‥?
そんな気持ちで鉄格子の先に目を向けると炎の明かりで照らさせた。光に目が眩み瞼を閉じると、急に扉が開いてドサリと何かが倒れる音がした。
「お前もここに入っておけ!」
「待って下さい!私一人は怖いんです‥!誰かと一緒じゃないと‥」
「それは良かったな、ここには仲間も居るだろう」
「仲間‥?一人じゃないんですか!?良かった!」
「煩い奴だな‥大人しく牢屋に入っておけ!! 」
ガチャンッと大きく音が鳴り響き扉が閉められると炎の明かりは遠ざかっていく。同じ牢屋の中に放り投げられた男はこちらを見るとヘラリと笑って見せた。
「いや〜参った参った」
「大丈夫ですか‥?」
「大丈夫だ。君を助けに来ただけだし」
「私を‥?」
月明かりに照らされた姿を見て確認する。
そこには不破雷蔵先輩‥いや変装の達人と異名を持つ鉢屋三郎先輩かもしれない‥が同じく手足を縛られて座っていた。どちらか分からなかったので勘で名前を呼んでみた。
「不破‥先輩?」
「ハズレ」
「じゃあ鉢屋先輩‥?」
「ああ」
「助けに来てくれたんですか?」
パアアと表情を明るくさせるこちらに鉢屋先輩はフフッと面白そうに笑った。
「そういう事だ。ここから逃げよう」
「はい!」
「しかしな少しだけ問題が起こったんだ」
「何ですか?」
すると彼は満面の笑みを向けて言い放った。
「助けに来たのは本当だが捕まったのは予定外でなあ」
「えぇっ‥!!!」
それに声を上げると鉢屋先輩は「まあまあ落ち着け」と言ってこちらを鎮めた。それから手足を縛られた縄を解こうとギュッギュッと音を鳴らす。
「ここまでキツく縛られるとは」
「やっぱり他に助けを待つしかないんですか‥?」
不安になって鉢屋先輩を見上げた。牢屋の冷たい空気が頬を掠める。その冷たさにわたしは更に心細くなった。
「そんな顔をするな。助けが来なくとも私達だけで逃げられるさ」
「‥本当ですか?」
「ああ。君の名前は?」
「なまえです」
「なまえか。なまえは武器を持っているか?」
「いえ‥使い果たしまして‥」
「使い果たすことってあるのか‥?まあ今は置いておこう」
縄を解こうと身体を動かしてみたが皮膚が擦れるだけで解ける気配はない。ギシギシと縄を鳴らしていると鉢屋先輩から「傷付くからそんなに動かすな」と怒られた。
「ではどうれば‥」
「私の懐に苦無が入っている」
「ほ、本当ですか!?良かった‥」
「しかしそれをどうやって取り出すかだが‥」
「ん?」
鉢屋先輩の顔を見上げると彼はうーんと頭を悩ませていた。それからこちらにチラリと視線を向けた。
「なまえが私の懐から取り出してくれ」
「え‥!?あの‥どうやって?」
「手足を縛られているからな‥口しかないな」
「く、くち!?」
鉢屋先輩の言葉に驚き、牢屋の石壁に頭を打った。ガツンッと後頭部に大きな痛みが襲う。
「っ痛い‥」
しかしそのおかげで冷静さは取り戻せた。
「なまえ大丈夫か?」
「だ、大丈夫です‥分かりました‥」
「ああ」
壁から背中を離し、座ってる鉢屋先輩の前に膝立ちをした。それから目の前でしゃがみ込むと先輩の懐に顔を寄せた。
「えっと‥服は‥」
「脱がせて良いぞ」
「はい」
先輩の服に唇をつけると、襟を噛んで緩ませた。それに懐にあった苦無がカチャリと音をたてる。苦無の頭が少しだけ見え、それに唇を寄せると鉢屋先輩が小さく後ろに下がった。
「あの、先輩?」
「すまない‥」
「どうしたんです‥?」
「やっぱり私が無理だ」
「え?」
すると鉢屋先輩はこちらから距離をとって身体を離した。
「それじゃ出れないじゃないですか!」
「しかしな‥」
「ここから出たいんです!お願いします」
「何でなまえはそんなにやる気なんだよ!」
「早く出たいからです!」
後退る鉢屋先輩に近づいて距離を詰める。先輩の背中が冷たい壁についたとき彼は逃げられないと悟り焦燥を募らせた表情を見せた。
頑なに目が合わない。鉢屋先輩はわたしの視線を避けているようだった。
「先輩覚悟を決めて下さい」
「だから何でお前はそうやる気満々なんだよ」
「早くここから出たいからってずっと言ってるじゃないですか!目の前に縄の切れる苦無があるとなれば尚更です」
「ええ‥」
「逆に鉢屋先輩は何故そう嫌がられるのですか?」
彼の前にストンと座るとずっと合わなかった視線が交わった。鉢屋先輩は気まずそうに口を開いた。
「近くで息を吐かれるとむず痒いんだよ‥」
「じゃあ息止めますね」
「っ、そういう事でもないんだが」
鉢屋先輩の言葉は聞かずわたしはまた彼の懐に顔を寄せた。息をしないように呼吸を止めて懐を探ると、苦無の頭が唇に触れた。それを一気に咥えて、彼の身体に当たらないように取り出す。口に咥えたまま鉢屋先輩に「取れまひた」と笑うと、彼は「あぁ‥」と微妙な顔をして笑っていた。
「これどうふれば?」
「私に貸してくれ」
言われた通り鉢屋先輩の手に苦無を置く。すると彼は後ろ手で受け取ったにも関わらず、器用に手先を回し縛られていたこちらの手首の縄を切った。解放された手首をぶるぶると回す。自由になった手首には少しだけ傷がついていた。
「わたしが鉢屋先輩の縄を切って‥と」
自由になった手で鉢屋先輩から苦無を受け取り彼の手首の縄を切った。それから足縄も自分のと先輩のものを同時に切り、やっと身体の制限から解放された。
「早くここから出よう」
「はい!」
でもどうやって‥とこちらが聞くと先輩はフッフッフッと不気味な声をだして鍵を取り出した。
「その鍵は?」
「この牢屋の鍵さ」
「い、いつの間に!?」
「捕まる前に見つけていたんだ」
「さすが鉢屋先輩!」
両手を合わせて拝めると彼は満足そうにドヤ顔で笑った。その顔が不破雷蔵先輩の顔だということを一瞬忘れてしまいそうになる。顔は同じでも表情は別物だ。鉢屋先輩独自の表情に鉢屋三郎という男の性質を少しだけ感じ取れた。
「行くぞ」
「はい!」
鍵を開けると人が居ないことを確認して牢屋から逃げ出した。更には城の庭にも敵の影は見当たらず、やすやすと城の外へ逃げ出すことができた。意外にも簡単過ぎた脱出に本当に逃げ切れたのか?と疑問を抱いてしまう。しかしそれに気付いた鉢屋先輩が「他の奴らが頑張ってくれたんだよ」と教えてくれた。
なるほど、城に潜入してたのは鉢屋先輩以外にも居たのだ。
「ありがとうございました」
ここならもう大丈夫だろう、と走っていた足を止めて鉢屋先輩が振り返った。それに同じく足を止めると先輩にお礼を言った。
「先輩が後輩を助けるのは当たり前のことさ」
「ふふっ、それにしてもあの時の鉢屋先輩の動揺ぶりは面白かったですね」
「動揺‥?あ、あぁ」
鉢屋先輩は思い出したようにポンッと拳を手の平に乗っけると悪戯に笑ってみせた。その表情にどこか嫌な予感を感じる。
「あれは忍術だよ」
「忍術?」
「応用した五車の術だな」
「五車の‥術‥」
「そう。私が怯んだ方がなまえは苦無が取りやすいだろうと思ってな」
「え‥?でも初めは先輩の方がノリノリだったじゃないですか」
「ノリノリではないが‥いやあ途中は焦ってな。あれ以上君に近寄られると気付かれると思って」
「気付かれる‥?」
その言葉と共に急に片腕を鉢屋先輩に引っ張られる。引き寄せられた身体は先輩の腕の中へとすっぽり入ってしまった。
「え!?あの‥!?」
「あの時は気付かれたらなまえが苦無を取るのをやめそうだと思ったから」
「何故です‥て‥っ!?」
背中に回った腕がこちらの腰に移動する。その腕はわたしの腰を先輩の方へと押し付けた。鉢屋先輩の腰に自分の腰が当たる。そのまま楽しそうに話を続ける彼にわたしは文句を言おうと口を開いたが、その時急に違和感を感じた。何かが、くっついていた腰を圧迫しだしたのだ。
先輩とわたしの間にある圧迫感。それはつまり‥完全にアウトだ。
「キャァァ〜!!やだ!やだぁ!!」
「そんなに暴れるなよ食べたりしないさ」
「食べるとかそういう問題では無くて!後輩に欲情しないで下さい!!!」
「ふーん問題じゃないのか‥じゃあ食べても良いんだな」
「人の話を聞いて〜!!」
つまり先輩はコレをわたしに悟られないようにする為わざと忍術を使ってやる気を起こさせたのだ。優秀なのに最低な先輩だ。
「放してください‥!」
「お前から仕掛けて来たじゃないか」
「はあ!?仕掛けてないです!あれは鉢屋先輩が口で取るしかないとか言うから!!」
「新鮮な任務だったな!」
「満面の笑みで言うことじゃないです!!!!」
この後何もされず解放されたものの、忍術学園に帰ってからは絶対に鉢屋先輩に近付かないようにしようと決めたのだった。
「やあなまえ元気か?」
「きゃああぁぁ出たー!!!」
「人を幽霊みたいに言うなよ」
「でも不破先輩と居るとき時々幽体離脱にも見えたり‥」
「ほう‥もう一回言ってみ?」
「いえ嘘です!」
fin.
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