認めたい認めたくない【三郎】
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目があった。それは偶然。
「何見てんの?」
「別に〜」
教室の窓から忍術学園の校庭を見る。五年生の忍たまは今日マラソンの授業なのか。
「お、頑張ってますなぁ五年生諸君」
「凄くバテてるね」
笑ってしまうほど走らされている忍たま達を高みから見物する。しかしさっき目の合った彼は余裕の表情で走っていた。
「竹谷あのペース配分で大丈夫なの?すぐバテそうじゃない?」
「そーだね」
「不破くんもキツそうに走ってるな〜‥でもそんな顔も可愛いね」
「そーだねぇ」
「鉢屋は余裕そうじゃん」
「そうだね」
「好きなんでしょ?」
「そうね‥‥は!?」
「やっぱり!!」
「やめてよ!!!」
友達の言葉に適当に相槌を打っていたらつい口を滑らせてしまった。
「ずっと鉢屋を目で追っちゃって‥」
「そんな訳ないそんな事ない」
「またまた〜!!」
「重い‥!」
彼女はニヤニヤとした表情で自分の肩をこちらの肩に合わせた。言い返して彼女を押し返す。わたしは他の五年生も見ている。別に鉢屋のことだけを見てるわけない‥多分。
そんな話に夢中になっていたためか後ろから発される黒い空気に気付かなかった。急に背中から声を掛けられ、その人物にゾクゾクッと背筋が寒くなった。
「貴方達‥授業中にお喋りとは良い度胸ね」
「「ヒッ‥山本シナ先生‥」」
いつの間にか後ろには若い方の山本シナ先生が立っていた。不気味にニコリと微笑む。
「五年生の授業が気になるのかしら?」
「いやいや!そんなこと」
「ありません!!」
「でも熱心に彼等のことを見て話していたわよね‥?そうね、授業中に話していた罰として彼等の中に混ざって走ってきなさい」
「「え、ええええ!!!!」」
無理無理と首を振るがそれで許してくれるシナ先生ではなかった。我々はポイッとくの一教室から追い出されると五年生のマラソンに参加することになった。
###
「ということで木下先生宜しくお願いします」
「お前達、ちゃんと授業を受けなさい」
「「はーい」」
「分かれば宜しい‥では走って来い!」
野放しとばかりに木下先生がホイホイと手を振る。早く走れと言う事か。
わたしはノロノロと準備をして隣にいた友達と一緒に走ろうと思っていたが、彼女はヤル気満々だったらしくいつの間にか走り去っていた。いつの間にスタートしたんだろう‥
「一人で走らないといけないのかぁ」
はぁ‥と深いため息を吐いた。一人だとつまらないしすぐに疲れてしまうのに‥
取り敢えず五年生の走る方向に沿って走ってみるとやはり教室から見るよりずっと彼らの走る速度は速かった。しかもこの方向だと裏山まで走っているようだ。
「これはバテる‥」
マラソン中の五年生が変な目でこちらを見ながら走り去って行く。
その視線に耐えながらゆっくり走っていると聞き慣れた声に名前を呼ばれた。
「何でなまえも走ってるんだ?」
「竹谷!お疲れ」
「おう、ありがとな」
「まあ色々あってね‥このマラソンいつまでやるの?」
「木下先生の気分」
「うげええ」
「その気持ちわかるぞ」
友達の竹谷がこちらを見つけて話し掛けてきた。彼とは日頃から会話を交わす仲だ。
竹谷の言葉に苦い声を出すと彼も同じく苦笑いを見せた。走る速度を落としてこちらのペースに合わせてくれる。
「さっき結構飛ばしてなかった?」
「あれは木下先生の前だけな。内緒にしろよ」
「そっか確かにあのペースを続けていたらすぐバテるもんね、うん内緒にする」
日差しより暑い竹谷の笑顔は見るだけで元気が出る。ずっと走っているにも関わらず笑顔が作れるなんてどれだけ体力があるのだろう。
関心して彼の顔に見とれていると、「何だよ」と照れたように目を逸らされた。
「八左ヱ門!追いついた!」
「お、雷蔵!」
「雷蔵くーん!お疲れ様!」
少し後ろから走って来た雷蔵の声にわたし達は振り返った。どうやら一人で走っていたらしい。彼の横に人は見当たらない。
手を振ると雷蔵も小さく振り返してくれた。
「ん?何でなまえが走ってるの?」
「雷蔵に会いたくなって」
「雷蔵にだけデレデレするのやめろよ」
竹谷から睨まれる。別に雷蔵にだけデレデレしているつもりはない。
「デレデレしたい人にはデレデレしてるもん。別に雷蔵だけじゃないもん」
「それは答えになってない」
竹谷のツッコミにムッと顔を顰めると雷蔵が「まあまあ」と仲裁に入った。
「というか竹谷、わたしにペースを合わせてくれているから他の五年生に抜かされてるけど良いの?」
「うん‥良くはないな」
「雷蔵にも追いつかれたもんね」
「僕が悪いの‥!?」
「違うよ!でも‥」
チラリと彼の方を見ると笑い返された。太陽のような瞳が細まる。
「そんな心配すんな!でももう行くな」
「うんそれが良いよ頑張って!」
「雷蔵はどうする?」
「僕は‥どうしよう‥??」
「迷い癖が‥!」
こうなったら雷蔵は長いのだ。
「竹谷!どうにかして!」
「ええ!じゃあ雷蔵一緒に行くか?」
「うんうん!一緒に行った方が良いと思う」
「そっか、二人が言うなら八左ヱ門と一緒に行こうかな」
雷蔵の言葉に竹谷は頷いて、それから二人はペースを上げた。
彼等と手を振って別れるとわたしはまた一人で走ることになった。
話しながらだとやはり時間が経つのが早くて、ここはもう裏山の始めくらいだ。
「ふぅ‥一休みしようかな」
少し時間をロスしてもくのたまなら先生も何も言わないだろう。
走っている脚に力を入れて木の上に飛び乗る助走をつける。するとその突如片腕を誰かに引っ張られ阻止されてしまった。
「休憩しようとしてた?」
「ひゃぁ!!」
「何をそんなに驚くんだよ」
聞き慣れた声だった。後ろを振り向けばそこには鉢屋が呆れ顔で立っていた。
「だっていきなりだったし!驚くよ!」
「それでも忍者のたまごか」
「これでもくの一のたまごです」
彼の言葉に嫌味を乗せて返すとフンと鼻で笑われる。
言いたいことは口で言え。
「止まってたら怒られるんじゃない?」
「裏山だし誰も見てないだろ」
「さすが鉢屋悪いね」
「うるせ」
ニヤリと彼を見るとそっぽを向かれた。雷蔵に変装している髪がふわりと揺れる。鉢屋の反応が可笑しくて視線を逸すとまだ彼に掴まれている片腕が目に入った。
「なまえ‥顔赤くないか?」
鉢屋が心配するように覗き込む。
「疲れたのか?」
「いや‥」
「やっぱり熱いな」
「!?」
ピタリと鉢屋の手がわたしの頬に伸びた。彼の手はヒンヤリとしていてさっきまで走っていた人とは到底思えない。
少し躊躇しながらも頬に置かれた鉢屋の手に自分の手を重ねた。触れたい、と思ってしまうのはもうわたしは鉢屋のことが好きなんだろう。手を重ねると鉢屋の肩がビクリと動いた。
「お前‥今はくの一教室の授業じゃないぞ」
「ん?そんなの分かってるよ」
「素でするのか‥天然かよ‥」
鉢屋は空いている片手で顔を覆ってぶつぶつと何かを言っている。
触れている彼の片手がぎこちなく動いた。
「もういいか‥?」
覆っていた片手を外しこちらを見つめる。わたしの頬の色が伝染してしまったかのように彼の頬も少し赤く染まっていた。
「うん」
そう言うしかなくて重ねていた手を離した。それに合わせて彼の手もスルリと離れた。
「私はもう行くよ」
「うん」
「なまえは少し休憩したほうが良いかもな」
「鉢屋が走るならわたしも走るよ」
面倒くさい女だと自分でも思う。しかしそんな言葉でも鉢屋の頬はまた赤くなった。彼は面倒くさい女も好きなのだろうか。
「でもな」
「鉢屋と一緒が良い」
「ぐっ‥デレデレを発揮するな!!」
「ううむ」
誰にでもしてるわけじゃないとさっき竹谷と雷蔵と話したことを思い出す。
「言いたい人にしか言わないもん」
「余計にダメだ」
「なんでよ」
呆れ顔の彼を下から見上げると変な顔をされた。
「その顔いつもしてるのか‥?」
「え?どんな顔?」
「いやいい、他のやつにはするなよ」
「だからどんな顔よ!」
唇を尖らせると鉢屋は笑ってわたしの頭にポンと手を置いた。
「じゃあな」
「あっ‥わたしが教室から外を見ていた時って目合った‥?」
「合ったか?」
「え‥合ってなかったんだ‥やっぱり」
「やっぱりって何だよ。シナ先生に怒られてたな」
「あぁ!!やっぱり見てたんじゃん!!」
「はは、まあ気にするな」
「気にするんだけど」
ぼそっと呟いた声は聞こえていたのかわからない。鉢屋は目を細めた後走って先に行ってしまった。
「やっぱり合ってたんだ」
自分の頬に触れた彼の手を思い出す。
それだけで熱に浮かされてしまうからもう走れる気がしない。
「でも木下先生が怖いなぁ」
思い出す度に頭を振って煩悩を消しながら、わたしはまた走り始めた。
###
「ああああ!!!!何なんだアイツ‥!!!」
さっきのなまえの顔を思い出す度走ることに集中出来なくなる頭を振った。
『鉢屋速っ』
『何だアイツのスピード‥体力大丈夫か』
考えないように考えないように、と全力疾走で走ってもやはりどこかあの表情が脳裏から浮かんでくる。
確かに無差別に女子の頬を触ったのは私が悪いと思う。しかし何で手を重ねてくるのか?気持ちよさそうに手に頬を擦り付けて来るし‥!
いやでもその後も問題だった。下から見上げられたなまえの顔がどうしても頭から離れない。赤く染まった頬と熱を持った瞳‥あんな表情をされたら襲いたくなるのが男だ。よく耐えれたな私‥身が持たない。
「げっ!三郎が来た!」
「三郎前見てないよね?大丈夫かな」
八左ヱ門と雷蔵が居たにも関わらず私はスピードを落とすことなく抜き去った。今こんな顔見られたらネタにされるだけだ。
「はぁ‥」
色恋に振り回されるなんて忍者として失格だ。でもどこかで会いたい触れたい‥と思っている自分がいるのは分かっている。
「考えるなああぁぁ!!!!」
言い聞かせるように声を出して更に速度を上げた。
「お!鉢屋頑張ってるな!」
「もっと頑張ります!!!!」
木下先生の前を全力疾走で通り過ぎると珍しそうに話し掛けられた。少し嬉しそうなので返答してもう一段速度を上げる。こんなに考え無しに走るのは久しぶりだ。
会いたくないと思ってもこれだとまたアイツに追いついてしまうだろう。
嬉しいようなその逆のような。しかしスピードを落とす訳にもいかず、見えてきた時に考えようと邪魔な思考はやめることにした。
fin.
「何見てんの?」
「別に〜」
教室の窓から忍術学園の校庭を見る。五年生の忍たまは今日マラソンの授業なのか。
「お、頑張ってますなぁ五年生諸君」
「凄くバテてるね」
笑ってしまうほど走らされている忍たま達を高みから見物する。しかしさっき目の合った彼は余裕の表情で走っていた。
「竹谷あのペース配分で大丈夫なの?すぐバテそうじゃない?」
「そーだね」
「不破くんもキツそうに走ってるな〜‥でもそんな顔も可愛いね」
「そーだねぇ」
「鉢屋は余裕そうじゃん」
「そうだね」
「好きなんでしょ?」
「そうね‥‥は!?」
「やっぱり!!」
「やめてよ!!!」
友達の言葉に適当に相槌を打っていたらつい口を滑らせてしまった。
「ずっと鉢屋を目で追っちゃって‥」
「そんな訳ないそんな事ない」
「またまた〜!!」
「重い‥!」
彼女はニヤニヤとした表情で自分の肩をこちらの肩に合わせた。言い返して彼女を押し返す。わたしは他の五年生も見ている。別に鉢屋のことだけを見てるわけない‥多分。
そんな話に夢中になっていたためか後ろから発される黒い空気に気付かなかった。急に背中から声を掛けられ、その人物にゾクゾクッと背筋が寒くなった。
「貴方達‥授業中にお喋りとは良い度胸ね」
「「ヒッ‥山本シナ先生‥」」
いつの間にか後ろには若い方の山本シナ先生が立っていた。不気味にニコリと微笑む。
「五年生の授業が気になるのかしら?」
「いやいや!そんなこと」
「ありません!!」
「でも熱心に彼等のことを見て話していたわよね‥?そうね、授業中に話していた罰として彼等の中に混ざって走ってきなさい」
「「え、ええええ!!!!」」
無理無理と首を振るがそれで許してくれるシナ先生ではなかった。我々はポイッとくの一教室から追い出されると五年生のマラソンに参加することになった。
###
「ということで木下先生宜しくお願いします」
「お前達、ちゃんと授業を受けなさい」
「「はーい」」
「分かれば宜しい‥では走って来い!」
野放しとばかりに木下先生がホイホイと手を振る。早く走れと言う事か。
わたしはノロノロと準備をして隣にいた友達と一緒に走ろうと思っていたが、彼女はヤル気満々だったらしくいつの間にか走り去っていた。いつの間にスタートしたんだろう‥
「一人で走らないといけないのかぁ」
はぁ‥と深いため息を吐いた。一人だとつまらないしすぐに疲れてしまうのに‥
取り敢えず五年生の走る方向に沿って走ってみるとやはり教室から見るよりずっと彼らの走る速度は速かった。しかもこの方向だと裏山まで走っているようだ。
「これはバテる‥」
マラソン中の五年生が変な目でこちらを見ながら走り去って行く。
その視線に耐えながらゆっくり走っていると聞き慣れた声に名前を呼ばれた。
「何でなまえも走ってるんだ?」
「竹谷!お疲れ」
「おう、ありがとな」
「まあ色々あってね‥このマラソンいつまでやるの?」
「木下先生の気分」
「うげええ」
「その気持ちわかるぞ」
友達の竹谷がこちらを見つけて話し掛けてきた。彼とは日頃から会話を交わす仲だ。
竹谷の言葉に苦い声を出すと彼も同じく苦笑いを見せた。走る速度を落としてこちらのペースに合わせてくれる。
「さっき結構飛ばしてなかった?」
「あれは木下先生の前だけな。内緒にしろよ」
「そっか確かにあのペースを続けていたらすぐバテるもんね、うん内緒にする」
日差しより暑い竹谷の笑顔は見るだけで元気が出る。ずっと走っているにも関わらず笑顔が作れるなんてどれだけ体力があるのだろう。
関心して彼の顔に見とれていると、「何だよ」と照れたように目を逸らされた。
「八左ヱ門!追いついた!」
「お、雷蔵!」
「雷蔵くーん!お疲れ様!」
少し後ろから走って来た雷蔵の声にわたし達は振り返った。どうやら一人で走っていたらしい。彼の横に人は見当たらない。
手を振ると雷蔵も小さく振り返してくれた。
「ん?何でなまえが走ってるの?」
「雷蔵に会いたくなって」
「雷蔵にだけデレデレするのやめろよ」
竹谷から睨まれる。別に雷蔵にだけデレデレしているつもりはない。
「デレデレしたい人にはデレデレしてるもん。別に雷蔵だけじゃないもん」
「それは答えになってない」
竹谷のツッコミにムッと顔を顰めると雷蔵が「まあまあ」と仲裁に入った。
「というか竹谷、わたしにペースを合わせてくれているから他の五年生に抜かされてるけど良いの?」
「うん‥良くはないな」
「雷蔵にも追いつかれたもんね」
「僕が悪いの‥!?」
「違うよ!でも‥」
チラリと彼の方を見ると笑い返された。太陽のような瞳が細まる。
「そんな心配すんな!でももう行くな」
「うんそれが良いよ頑張って!」
「雷蔵はどうする?」
「僕は‥どうしよう‥??」
「迷い癖が‥!」
こうなったら雷蔵は長いのだ。
「竹谷!どうにかして!」
「ええ!じゃあ雷蔵一緒に行くか?」
「うんうん!一緒に行った方が良いと思う」
「そっか、二人が言うなら八左ヱ門と一緒に行こうかな」
雷蔵の言葉に竹谷は頷いて、それから二人はペースを上げた。
彼等と手を振って別れるとわたしはまた一人で走ることになった。
話しながらだとやはり時間が経つのが早くて、ここはもう裏山の始めくらいだ。
「ふぅ‥一休みしようかな」
少し時間をロスしてもくのたまなら先生も何も言わないだろう。
走っている脚に力を入れて木の上に飛び乗る助走をつける。するとその突如片腕を誰かに引っ張られ阻止されてしまった。
「休憩しようとしてた?」
「ひゃぁ!!」
「何をそんなに驚くんだよ」
聞き慣れた声だった。後ろを振り向けばそこには鉢屋が呆れ顔で立っていた。
「だっていきなりだったし!驚くよ!」
「それでも忍者のたまごか」
「これでもくの一のたまごです」
彼の言葉に嫌味を乗せて返すとフンと鼻で笑われる。
言いたいことは口で言え。
「止まってたら怒られるんじゃない?」
「裏山だし誰も見てないだろ」
「さすが鉢屋悪いね」
「うるせ」
ニヤリと彼を見るとそっぽを向かれた。雷蔵に変装している髪がふわりと揺れる。鉢屋の反応が可笑しくて視線を逸すとまだ彼に掴まれている片腕が目に入った。
「なまえ‥顔赤くないか?」
鉢屋が心配するように覗き込む。
「疲れたのか?」
「いや‥」
「やっぱり熱いな」
「!?」
ピタリと鉢屋の手がわたしの頬に伸びた。彼の手はヒンヤリとしていてさっきまで走っていた人とは到底思えない。
少し躊躇しながらも頬に置かれた鉢屋の手に自分の手を重ねた。触れたい、と思ってしまうのはもうわたしは鉢屋のことが好きなんだろう。手を重ねると鉢屋の肩がビクリと動いた。
「お前‥今はくの一教室の授業じゃないぞ」
「ん?そんなの分かってるよ」
「素でするのか‥天然かよ‥」
鉢屋は空いている片手で顔を覆ってぶつぶつと何かを言っている。
触れている彼の片手がぎこちなく動いた。
「もういいか‥?」
覆っていた片手を外しこちらを見つめる。わたしの頬の色が伝染してしまったかのように彼の頬も少し赤く染まっていた。
「うん」
そう言うしかなくて重ねていた手を離した。それに合わせて彼の手もスルリと離れた。
「私はもう行くよ」
「うん」
「なまえは少し休憩したほうが良いかもな」
「鉢屋が走るならわたしも走るよ」
面倒くさい女だと自分でも思う。しかしそんな言葉でも鉢屋の頬はまた赤くなった。彼は面倒くさい女も好きなのだろうか。
「でもな」
「鉢屋と一緒が良い」
「ぐっ‥デレデレを発揮するな!!」
「ううむ」
誰にでもしてるわけじゃないとさっき竹谷と雷蔵と話したことを思い出す。
「言いたい人にしか言わないもん」
「余計にダメだ」
「なんでよ」
呆れ顔の彼を下から見上げると変な顔をされた。
「その顔いつもしてるのか‥?」
「え?どんな顔?」
「いやいい、他のやつにはするなよ」
「だからどんな顔よ!」
唇を尖らせると鉢屋は笑ってわたしの頭にポンと手を置いた。
「じゃあな」
「あっ‥わたしが教室から外を見ていた時って目合った‥?」
「合ったか?」
「え‥合ってなかったんだ‥やっぱり」
「やっぱりって何だよ。シナ先生に怒られてたな」
「あぁ!!やっぱり見てたんじゃん!!」
「はは、まあ気にするな」
「気にするんだけど」
ぼそっと呟いた声は聞こえていたのかわからない。鉢屋は目を細めた後走って先に行ってしまった。
「やっぱり合ってたんだ」
自分の頬に触れた彼の手を思い出す。
それだけで熱に浮かされてしまうからもう走れる気がしない。
「でも木下先生が怖いなぁ」
思い出す度に頭を振って煩悩を消しながら、わたしはまた走り始めた。
###
「ああああ!!!!何なんだアイツ‥!!!」
さっきのなまえの顔を思い出す度走ることに集中出来なくなる頭を振った。
『鉢屋速っ』
『何だアイツのスピード‥体力大丈夫か』
考えないように考えないように、と全力疾走で走ってもやはりどこかあの表情が脳裏から浮かんでくる。
確かに無差別に女子の頬を触ったのは私が悪いと思う。しかし何で手を重ねてくるのか?気持ちよさそうに手に頬を擦り付けて来るし‥!
いやでもその後も問題だった。下から見上げられたなまえの顔がどうしても頭から離れない。赤く染まった頬と熱を持った瞳‥あんな表情をされたら襲いたくなるのが男だ。よく耐えれたな私‥身が持たない。
「げっ!三郎が来た!」
「三郎前見てないよね?大丈夫かな」
八左ヱ門と雷蔵が居たにも関わらず私はスピードを落とすことなく抜き去った。今こんな顔見られたらネタにされるだけだ。
「はぁ‥」
色恋に振り回されるなんて忍者として失格だ。でもどこかで会いたい触れたい‥と思っている自分がいるのは分かっている。
「考えるなああぁぁ!!!!」
言い聞かせるように声を出して更に速度を上げた。
「お!鉢屋頑張ってるな!」
「もっと頑張ります!!!!」
木下先生の前を全力疾走で通り過ぎると珍しそうに話し掛けられた。少し嬉しそうなので返答してもう一段速度を上げる。こんなに考え無しに走るのは久しぶりだ。
会いたくないと思ってもこれだとまたアイツに追いついてしまうだろう。
嬉しいようなその逆のような。しかしスピードを落とす訳にもいかず、見えてきた時に考えようと邪魔な思考はやめることにした。
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