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序章

これは、“赤”だ。
窓の外に写る夕焼けよりも不気味にどろどろと溶けて、それでいて、ワインよりも濁った“赤”。
獣に裂かれた肉体が悲鳴を上げている。痛い。痛い。痛い。心臓が背中から零れ落ちそうだ。

「ひゅっーひゅっー――」

辛うじて生きている事を実感する虫の息が聴こえる。これは、祖母のものか。それとも、わたしのものか。

「お……お母、さ……」

母親の言いつけを守らなかったことを、今更になって後悔している。そうすれば、こんな事にはならなかったはずだ。
ああ、わたしは悪い子だ。祖母の命を見捨てて、自分は助かっていたかもしれないなどと自分勝手な事を考えている。
獣はわたしを見据えている。静かに、ゆっくりと、じりじりと焼けそうなほどわたしを見ている。

――――死ぬ

直感が脳内で騒ぐ。その割に合わず、心臓はこれ以上暴れたら本当に零れるんじゃないかと不安になるほど激しく踊る。
遂に獣はわたしの目前で止まる。そしてその大きな口を開けて、わたしの頭に牙を立て、みしみしと音を痛い立てながら痛い痛い痛い力を入れていき痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――っ

(……あ)

その後記憶は、ぶつりと途切れた。
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