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先生に恋煩いしちゃいました。

全てのはじまりは、あの高校2年生になった4月のこと。
講堂でいつものようにつまらない新学期の全体集会が行われている最中のこと。
新任の先生達が紹介されている時のことだった。

「本日から定期的にこの学校にカウンセリングに来ることになりました。春野秋仁といいます。よろしくお願いいたします。」

そう言って深々とお辞儀をしたのは、艶やかな銀色の髪が印象的な男性だった。
透明感のある銀の髪や肌、吸い込まれそうな青い瞳。柔らかな声。なんてインパクトのある第一印象。一瞬講堂内が釘付けになった気さえする。これは、これは。


「あの春野先生、イケメンだったねー」

全体集会の後、大体の生徒達はこの話題で持ち切りだった。そりゃそうだ、なんだあの美貌は、ちょっと浮世離れした感じさえするそれは、多くの人を惹きつけるには十分だった。
私は運良く後ろの席になった友人に話かける。

「私、春野先生のこと…好き、かもしんない」

「なんだその歯切れの悪い発言は」

「いや、だって確信したくないというか何というか…」

「認めてしまった方が楽じゃない?」

「え、叶わぬ恋というのが確実なのに?!」

「当たって砕けろ精神で!」

「始めっから砕けてます!!」

それから私は、なにかとカウンセリングルームに通ってみることにした。何か、何かちょっとで脈を掴めないかと思って、淡い期待を抱いて、邪魔にならないようにしながら行動をおこしてみることにした。そして私は、先生に相談をしてみることにした。

「先生、私…叶わぬ恋をしておりまして…なんだか、胸が苦しいんです。」

「叶わないってなんで分かるの?」

先生はもっともらしい質問を口にする。

「本来なら恋しちゃいけない相手と言うか…そういう感じなんです。」

「諦めたくはないんだね?」

「諦め…たくは、ないですね。」

たとえこの一目惚れが一過性のものだとしても、今先生に恋しているのは本物の気持ちだから、諦めたくはない。でも先生と生徒の恋愛って御法度で、本来してはいけなくて、それに先生は仕事熱心な人だから、恋愛ってあんまり興味なさそうだし、告ったところであっさりフラれて終了な気がしている。それが濃厚だ。

「先生って叶わない恋ってしたことあるんですか?」

「うーん恋愛経験があんまりないからなあ…いいアドバスができなくてごめんね。」

「大丈夫です。話を聞いてくださるだけでもありがたいです。」

先生に恋をしている身としては、こうして話しているだけでも幸せだ。恋愛経験なさそうなのはやっぱりそうだろうなと思ったけど、あまり興味がなさそうなのもやっぱりだった。これは、告白しても玉砕かな。

それから、私は何かとカウンセリングルームに通って、切ない、諦めきれない恋心を相談した。一過性なんてものではなかった。これは本物の恋愛感情だった。一目惚れってやつだ。先生に告白して玉砕していく人を何人も見た。やっぱりそうなんだ。そう簡単にはいくまい。

「先生、私が恋してる相手って誰だと思いますか?」

「え…」

そんなのわかりっこないよとちょっと困惑したように笑う。それはそうだ。気がつきようもないし、普段そこまで交流のない中で気がつくわけがないだろう。

「ヒント、今目の前にいる人です。」

「それって…」

「先生。好きです。」

ああ、言った。言ってしまった。一世一代の、渾身のシンプルな告白だ。なんとなく気がついていたのかもしれないけど、先生は驚いて、困惑しているようだった。

「ごめんね。僕より良い人、絶対にいるよ。」


やっぱりそうか。先生の困ったような笑みが痛い。そんなこと言われてしまったも、先生より良い人なんて現れるわけないじゃないか。きっと、今生、現れない気がしている。

「驚かせてしまってすみません!」

私は居た堪れなくなって、急いでカウンセリングルームを後にした。


その後は、家に帰って思い切り泣いた。悲しくて悲しくて、それなりに失恋を引きずった。友人達が気を使って気分転換に色々なところに連れて行ってくれてくれたりとかして、なんとか気分が上がってきた。

そんな、ある日のこと。

先生が、交通事故で亡くなった。


暴走したトラックに轢かれた犠牲者の中に、先生に名前があった。これは、見間違いなんかじゃない。現実だ。信じられなくて、私はしばらく呆然としていた。

なんとか現実を受け入れられえるようになった数日後、私は街中で、なぜか先生とすれ違った。

え、どうして。

見間違えなんかじゃない。先生に恋をしていた身だ、分からないはずがない。見間違えじゃない。先生だ。なんでいるの。私は、都心の雑踏を必死にかき分けて、先生を追った。


「先生!待ってください先生…!春野先生!!」

やっと立ち止まってくれた。
しかし振り返った先生の顔は見たこともない程悲しそうで、見てるこっちが痛いぐらいだった。
なんで、なんでそんな悲しい顔をしているの?

「先生?」
「ごめんね。」

先生の手が私の目に被さって、真っ暗になった。次の瞬間ー


なんで、なんで泣いているんだろう。

雑踏の真ん中で、何故か泣いてる私がいて、訳も分からずその場を足早に後にした。

心にぽっかり穴が空いている気がするのに、それがなんでなのかは分からない。ただ悲しいという感覚がするだけだった。


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