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その日、大包平はどら焼きが二つ入った包みを持って審神者の執務室の前に立った。この本丸では、日中執務室は開け放されているから、審神者はすぐに大包平に気がつく。大包平は審神者にずい、と包みを差し出す。
「買ってきた。やる」
「えっなに? あっ望月堂のどら焼きだ、ありがとう」
近侍の今剣は席を外していた。審神者は少し考えて、一緒にお茶にしないかと大包平を誘った。
「大包平は非番だけど、それでもよければ」
「気にするな」
実際それは大包平の望んだ展開だった。今日の朝、鶯丸がおもむろに大包平に言ったのだ。
「審神者に菓子でも買ってきたらどうだ」
気に入られるにはまず贈り物からだろう、と鶯丸は食後の茶をすする。
「何の話だ」
「いいですねえ!」
ぴょん、と今剣が話を聞きつけて寄ってきた。
「どうせならふたりぶんかってくればいいんですよ。そしたらあるじはおちゃにさそってくれます」
よくつかうてですよ、と今剣は大包平に囁いた。実際その手をよく使うのはもっぱら短刀や脇差しであったが。
そんなわけで大包平が審神者と二人で茶を飲むことになったのだ。別に朝の二振りの言ったことを鵜呑みにしたわけではない。しかし他にやりたいこともなし、この数日で審神者がどうやら有能な方だと言うことは分かったがもう少し知っておくべきだろう、と大包平は考えたのだ。ところで、この本丸の太刀で、審神者に菓子を買ってくるのは一期一振や江雪左文字、燭台切光忠や大般若長光であった。彼らは弟や身内の刀たちのついでに審神者にも土産を買ってくるのである。大包平は知らないが、審神者だけに菓子を買ってきた太刀は初めてである。
審神者が手際よく用意したほうじ茶を大包平は一口飲んだ。そういえば厨に常備されてるのは緑茶なので、ほうじ茶を飲むのは初めてだと気付く。
「いつものよりこっちの方が好ましいな」
「本当に!? あれっ、鶯丸のいれたお茶は飲んだ?」
「まだだ。あいつは理由をつけてやりたがらん」
「準備してるのかなあ、それなら私が先に大包平とお茶しちゃったな。鶯丸には悪いことをした」
「それのどこが悪いことなんだ」
鶯丸は大包平に茶を飲ませることを楽しみにしてたからね、と審神者は苦笑する。
「順序など気にせん。それに、俺はお前と話したかったのだ」
「へえ!」
大包平のまっすぐな言葉に、審神者は面白そうな顔をする。面白がられたことを大包平は察し、仕切り直すように咳払いをした。
「お前はその、やたらと活発に見えるが、この前俺を寝かせたときは静かだったろう」
「そりゃ寝てる人が近くにいればね」
「そういう意味ではない! 俺が起きたときのお前はその、今のお前とは違って見えた」
そうかあ、と審神者は相槌を打ってどら焼きをかじった。
「特に隠してるわけでもないんだけどね、そういう風にしようって決めたんだよね。戦場で一緒に戦えないんだから、せめていつも元気で構えていたほうが皆が安心するかなって」
陸奥守と今剣と相談して決めたんだ、と話す審神者の声は静かだった。けれどよく通る声だと大包平は思う。
「俺は、どちらも好ましく思うが」
へえ、と先ほどと同じような音が審神者から漏れたが、今回は全く不意打ちを食らった声色だった。
「大包平はまっすぐでいいねえ」
照れたように笑う審神者の顔を見て、大包平は心臓のあたりがぎゅうと掴まれたような心地になったが、それが何であるかはまだ分からなかった。
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