ゲーム作品


「声のでかい女だな」
大包平から主の第一印象を聞いた鶯丸は思わず笑ってしまった。たしかに主の声はよく通る。本気で声を張ったら本丸の端から端まで届くのではないかとよく刀達の間で噂されている。顕現した刀ひとりひとりに元気よく挨拶をするからこの本丸に来た瞬間、どんな刀でもそれを実感しているのだ。
「ようこそ!」
顕現した男士相手に、ばっと両手を広げて満面の笑みを浮かべる。短刀にはしゃがんでそれをやるものだから、人懐っこい彼らのなかには、主に抱きつきに行くものもいる。脇差では鯰尾が同じことをしたが、鶯丸は当時まだいなかったのでそのことは知らない。短刀以外は大体握手をさせられている。実際、触れたところから霊力は伝わるので理にかなっているのだ。大包平もぶんぶんと握った手を振り回されていた。存在が(もっぱら鶯丸によって)以前から知らされていたため、やっと会えたという感慨も多分に混じっている。
「鶯丸から話は聞いてるよ。これからよろしくね」
何を話したんだ、と大包平がじろりと鶯丸を睨む。にらまれた本人からすると、そう変なことを話した覚えはない。俺だってお前が来るのが待ち遠しかったのだ、と鶯丸がとぼけるので、大包平は何も言えなくなる。じゃあ鶯丸、いろいろ案内してあげて、とそれを見ていた主が鶯丸に命じたので、彼は喜んで承った。実際表情にはあまり出ていなかったが、ひらりと桜の花びらが舞ったので、その場にいる誰にも鶯丸が上機嫌なことはわかった。近侍でもないのに顕現の場に同席していた鶯丸の気持ちを、審神者は正しく斟酌している。
鍛刀部屋を出て、二人きりになったところで出た台詞が冒頭のそれである。思わず鶯丸は吹き出してしまうが、とくに申し訳ないとは思っていない。何がおかしい!と叫ぶ声が大きいのだから。何かを確かめるように握手した方の手を開閉したあと、あぁ言ったことはよくしているのかと鶯丸に問うた。触れた時に伝わった主の霊力を、大包平が気に入ったようだと鶯丸は判断し、親切心から正直に答えてやった。
「新人が来る度に毎回やっているし、短刀なんかはよく引っ付きに行っているな」
そうか、と大包平の眉間に皺が刻まれたのをみて、鶯丸は自分の考えを修正しながら、ますます面白そうな顔をした。彼は大包平のことを特別に思っているし、審神者のことも気に入っているからだ。思った以上に愉快なことになりそうだと鶯丸はこれからの日々に思いを馳せた。


顕現されたばかりの刀がどれだけ人の器に馴染んでいるかは本丸によってそれぞれである。この本丸の場合、最初は人の身をもて余す刀が稀に出る。大包平もそうだった。横になったはいいが眠るという感覚が分からずずっと目を開けていた。三日目の朝、それに気がついた鶯丸が通例通り、有無を言わさず主の元に彼を引っ張っていったのだ。
朝食後、鶯丸から事情を聞いていた審神者は執務室で彼らを迎え入れた。
「鶯丸、出陣前にありがとう」
「当たり前のことをしただけだ。こいつがお大人しいのはつまらんからな」
大包平がその言葉に噛みつく前に、鶯丸は飄々と部隊に合流しに行った。残された大包平に審神者が声をかける。
「静かすぎると逆に寝れないことってあるからね。そこで寝てていいよ。夜寝れなくても昼寝れないってあんまりないし」
くい、と審神者は今日の近侍である今剣に運んでもらった大包平の布団を親指でさす。
「この大包平に、何もせず朝から寝こけろというのか」
「休息も仕事のうちだよ。君たちも疲れるんだから」
ぽんぽんと審神者が布団を叩く。それでもなお躊躇する大包平に、控えていた今剣が声をかけた。
「このほんまるではなぜだかおおきいかたなのほうが、ひとのみになじむのにじかんがかかるのですよ。みかづきやいちごひとふりもそうでしたね」
懐かしいねえ、と審神者は笑う。三日月宗近の名前を出されたので、大包平は観念した。天下五剣よりも手がかかると思われるのが癪だからだ。審神者の言葉に従い、ジャージの上着を脱いで布団にもぐりこむ。律儀に畳んで横に置いた大包平を微笑ましく思う審神者は、布団越しにぽんぽんと大包平の背中を叩いた。
「おやすみ」
あぁ、と大包平は目を閉じる。やっと布団のにおいに慣れてきたところだ。光量が少し絞られたのをまぶたごしに感じる。キーボードを叩く音や、紙にペンを走らせる音を聞いているうちに、いつのまにか大包平は寝てしまった。
ぱたぱたと廊下を走り回る音で大包平は目を覚ました。気づけば夕日が眩しい。一日中寝てしまった、と大包平は飛び起きる。その物音で審神者が気付いたのだろう。
「おはよう」
審神者の穏やかな声を大包平は初めて聞いた。他の刀たちに囲まれて大声で指示を出したり笑ったりしている姿しか見なかったからだ。今剣は席を外しているようだった。真っ赤な夕日に照らされた審神者に、大包平は見とれた。輝いて見えるのが夕焼けのせいなのか魂の輝きのせいなのか、他に原因があるのかまだ彼には判別できなかった。大包平の顔が赤いのは、長い時間寝てしまった恥ずかしさから来るものだろうと審神者は思っている。大包平は審神者から目をそらして、いくら寝ていたとはいえ男と二人きりになるのは良くないだろうと呟いた。
「すぐに今剣が戻ってくるよ。厠に行ってるだけだから」
言葉通りすぐに戻ってきた今剣を、おかえり!と出迎えた審神者はいつも通りはつらつとしていた。自分が寝ている間もあの静かな声で審神者が話していたのかと思うと、惜しいことをした気がした。
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