ゲーム作品
最近、ギアステーションの中にあるベーカリーの子がひそかに気になっている。
(たとえば、)
清潔に切りそろえられた爪だとか、濃くない化粧とか、大きくないけどよく通る声とか。でも彼女について僕は全然知らない。バイトなのか、名前はなんていうのかすらも。
焼きたてのパンのにおいにつつまれて彼女は微笑みを絶やさないことは知っている。
僕は毎日彼女の元へパンを買いにいく。サンドイッチだったりベーグルだったりデニッシュだったり。好き嫌いはないのだ。
そして、通い詰めて一か月ほど経った今日、ついに彼女が僕を見てはっきりと微笑んだのだ!
「いつもありがとうございます」だって。僕以外にも言っているかもしれない。そりゃそうだろう。店員さんなんだから。でもそれでもいいのだ。彼女のきらきらと輝く瞳に僕が一瞬でも映ったのだから。
それからまた更にしばらくしたある日、僕が買ったのはベーコンエピだった。
それをすっかり胃袋に収めて数時間後の夕方、僕はすきっ腹をなだめながら、珍しくカナワタウン行きのホームを歩いていた。
するとそこで、仕事が早く終わったのであろうサラリーマンに混じって、彼女が電車を待っていた。
白いぱりっとした制服ではない。素敵な薄桃色のワンピースが空調にゆれる。店ではいつも束ねている髪も下ろされている。
僕はごくり、と無意識につばを飲みこむ。足は彼女の数メートル手前で止まってしまっている。歩き出す踏ん切りもつかない。だって平常心で彼女の前を通り過ぎることなんてできそうにないからだ。
彼女がふいに文庫本から顔を上げた。そして、僕のいるほうを、見た。なんと彼女は僕のほうへ歩いてきて、そして僕の前で止まった。
「こんばんは、いつもお昼に来てくださっていますよね?」
にっこり笑ったその顔は、なんだかお店で見るよりもかわいく思えた。
突然なんだけれど「大人の対応」とか「年上の余裕」なんて言葉を聴いたことがあると思う。
僕はそれらを、「うれしいことや悲しいことがあっても表に出さないこと」と、そう認識している。ノボリなんかパッと見たところ、もう完璧だ。もちろん僕には表情に出ないあれこれだって分かっているけど。
で、僕はそのとき思った。まさしく今が、年上の余裕、を見せるときだと。僕はいたって大したことじゃない、という風に、「そうだよ」と肯定した。
「よかった、記憶違いだったらどうしようかと思いました」
「毎日おいしいパンをありがとう」
そんなくさい台詞をどうにかひねり出すと、彼女は誇らしげに胸を張った。
「ありがとうございます」
まぁ私レジ打ちなんですけどね、と彼女は付け加える。
「あぁそうだ」
おもむろに彼女は、大事に抱えた紙袋から薄い髪に包まれたクロワッサンだった。
「本当はお客さんに差し上げるのは駄目なんですが、でも、食べてほしくて」
私が焼いたんですけど。と彼女は僕にささやいた。
「感想、教えてくださいね!」
彼女は僕に手を振ると、やってきた電車に乗って颯爽と去っていった。
クロワッサンはまだ、あたたかい。
(たとえば、)
清潔に切りそろえられた爪だとか、濃くない化粧とか、大きくないけどよく通る声とか。でも彼女について僕は全然知らない。バイトなのか、名前はなんていうのかすらも。
焼きたてのパンのにおいにつつまれて彼女は微笑みを絶やさないことは知っている。
僕は毎日彼女の元へパンを買いにいく。サンドイッチだったりベーグルだったりデニッシュだったり。好き嫌いはないのだ。
そして、通い詰めて一か月ほど経った今日、ついに彼女が僕を見てはっきりと微笑んだのだ!
「いつもありがとうございます」だって。僕以外にも言っているかもしれない。そりゃそうだろう。店員さんなんだから。でもそれでもいいのだ。彼女のきらきらと輝く瞳に僕が一瞬でも映ったのだから。
それからまた更にしばらくしたある日、僕が買ったのはベーコンエピだった。
それをすっかり胃袋に収めて数時間後の夕方、僕はすきっ腹をなだめながら、珍しくカナワタウン行きのホームを歩いていた。
するとそこで、仕事が早く終わったのであろうサラリーマンに混じって、彼女が電車を待っていた。
白いぱりっとした制服ではない。素敵な薄桃色のワンピースが空調にゆれる。店ではいつも束ねている髪も下ろされている。
僕はごくり、と無意識につばを飲みこむ。足は彼女の数メートル手前で止まってしまっている。歩き出す踏ん切りもつかない。だって平常心で彼女の前を通り過ぎることなんてできそうにないからだ。
彼女がふいに文庫本から顔を上げた。そして、僕のいるほうを、見た。なんと彼女は僕のほうへ歩いてきて、そして僕の前で止まった。
「こんばんは、いつもお昼に来てくださっていますよね?」
にっこり笑ったその顔は、なんだかお店で見るよりもかわいく思えた。
突然なんだけれど「大人の対応」とか「年上の余裕」なんて言葉を聴いたことがあると思う。
僕はそれらを、「うれしいことや悲しいことがあっても表に出さないこと」と、そう認識している。ノボリなんかパッと見たところ、もう完璧だ。もちろん僕には表情に出ないあれこれだって分かっているけど。
で、僕はそのとき思った。まさしく今が、年上の余裕、を見せるときだと。僕はいたって大したことじゃない、という風に、「そうだよ」と肯定した。
「よかった、記憶違いだったらどうしようかと思いました」
「毎日おいしいパンをありがとう」
そんなくさい台詞をどうにかひねり出すと、彼女は誇らしげに胸を張った。
「ありがとうございます」
まぁ私レジ打ちなんですけどね、と彼女は付け加える。
「あぁそうだ」
おもむろに彼女は、大事に抱えた紙袋から薄い髪に包まれたクロワッサンだった。
「本当はお客さんに差し上げるのは駄目なんですが、でも、食べてほしくて」
私が焼いたんですけど。と彼女は僕にささやいた。
「感想、教えてくださいね!」
彼女は僕に手を振ると、やってきた電車に乗って颯爽と去っていった。
クロワッサンはまだ、あたたかい。
