ゲーム作品

「光忠、何が飲みたい?」
「姉さんに任せるよ」
にこ、と今は茶色にカモフラージュされた隻眼が細められた。そつがないな、と審神者は思う。コンビニの飲料売り場に彼が立つと、スタイルの良さがなおさら強調されるなとも。あんなに姉弟設定は嫌だとごねていたのが嘘みたいだ。ディスプレイの冷気を浴びながら、審神者は適当に緑茶を二本引き抜いた。
「買ってくるから、先出てていいよ」
審神者がそう言うと、燭台切は唇をとがらせ、拗ねた表情を大袈裟につくる。
「えぇ、暑いからやだな」
そういうわけにもいかないでしょ、と小声でたしなめられた。違和感がないものだから、無意識のうちにそう声をかけていた。審神者は反省する。たしかに彼は護衛としてここにいるのだから、片時も離れないつもりなのだろう。やむを得ない場合を除いて。つむじに燭台切の視線を感じながら、さにわは会計を済ませる。袋の有無を聞こうとした店員を燭台切が手で制する。
「僕の鞄に入れちゃうよ」
手際よくバックパックを開けて、ペットボトルを二本収納していくだけの動作に店員が見とれかけたのが分かる。刀剣男士が目立たないようにする術はないのか、と審神者は嘆息した。


目的の日時が昼間のため、メインの護衛は太刀の中から選ばれることになった。この本丸では一定レベル以上で護衛をローテーションしている。そろそろ一周して、今回は燭台切光忠だった。執務室に呼ばれた彼は嬉しそうだったが、詳細を聞くにつれ何となく不満そうな顔に変わった。長谷部がその場にいたら掴み合いになっていただろう。この本丸の刀は皆のびのび育っているしそれで問題ないと審神者は思っている。
「説明は以上だけど、何か質問ある?」
「なんで姉弟なの?」
恋人とかでもいいでしょ、と燭台切が首をかしげる。
「恋人関係を審神者から強いるのはハラスメントでしょう。今時似てない姉弟なんていっぱいいるし」
「ハラスメント?」
「光忠、この前陸奥と一緒に研修出てたでしょう」
「忘れちゃった」
別に僕は嫌じゃないしね、と光忠がとろけるように微笑む。審神者は無言で眉間の皺を揉んだ。
「とにかく、基本的には本当に恋人関係じゃない限りは兄弟か同僚、友人として潜伏すること、という原則なんだから」
友人や同僚を選ばなかったのか、と燭台切は思ったが言わなかった。そんなことを言ったら同僚設定に変更されるに決まっているからである。任務に直接関係ない限りは審神者の気分次第なのだ。それなら一番近しい関係でいたかった。姉さん、と呼ぶと自分から言い出したくせに主は嫌そうな顔をした。


任務終了後、この本丸では、審神者が護衛の刀剣と食事を済ませてから帰る習慣である。褒美と社会勉強を兼ねてのことだ。今回は見た目が大人の男士を連れているため、明るいうちから居酒屋に入って昼食とも夕食ともつかない食事をとることになった。個室席なので関係性を偽る必要もない。それでも抑えた声で燭台切は主と呼ぶ。レモンサワーを飲みながら審神者は適当な返事をした。
「次に僕の番が回ってくるときには、デートしようね」
審神者はジョッキを置いて燭台切に向き直る。燭台切はサラダを主の分から取り分けている。
「しかるべき手順を踏んだらね」
取り分けられたサラダを、礼を言って審神者は受け取った。自分の皿にサニーレタスを乗せながら燭台切は、早く修行に行きたいなと言った。
「これ以上主を待たせたくないし、解禁されたらすぐに行かせてね」
トマトを口に放り込みながら、ちゃんと修行道具は一式とってあるでしょと審神者は言う。そこに照れがないことを燭台切は嬉しく思う。修行に言ってからちゃんと想いを伝えたいという自分のわがままを主が聞いてくれているからだ。燭台切にお構いなく、審神者は肉を頬張っている。
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