ゲーム作品

ポケモンに乗って飛ぶ習慣なんてガラルにはほとんどない。たまに旅慣れた観光客が、パートナーポケモンの背中に乗っているくらいだ。わたしも出身はガラルじゃない。

この地方は、少し高く飛ぶとどこからでもワイルドエリアが目に入る。
天災みたいに強いポケモンたちの巣穴から伸びる光の間を縫って、起き出してきたポケモンたちに見つからないようにスピードを上げていく。
夏の日の出は早い。朝日がウォーグルの白い冠羽を縁取る。今日は暑くなるのだろうか。天気が崩れなければいいが。ワイルドエリアをぐるっと飛んだら帰ろう、と思った瞬間、ウォーグルが後ろを向いて一声鳴いた。無口な彼女にしては珍しい。視線に合わせて振り向いた先には、立派に鍛え上げられたリザードンがいた。どう考えても野生ではない、と思ったら背中には誰かを乗せている。
「おはよう。このあたりをいつも飛んでいるのか?」
彼は自己紹介もなしにそう尋ねてきた。名乗らなくてもどうせ知っているだろうという口ぶりだったが少なくともこの地方では許されるだろう。ガラルいちの有名人であるチャンピオン、ダンデなら。
「おはようございます。この時間に、たまに飛んでるんです。あの、何か?」
「たまに観光客が、知らずにワイルドエリアの上を飛んで、野生のポケモンに撃ち落されたりしているんだ。だから一応声をかけておこうと思ったんだが、近づいて違うと分かった。荷物が少なかったからな。でも君のウォーグルに気付かれたものだから」
よく育てられているんだな、とダンデはウォーグルに言った。ウォーグルは高らかに返事をしてくれる。液晶の向こうに飽きるほど映る顔が、今目の前で朝日に染まっていた。ウォーグルが返事したのに、私がありがとうございますとか言うのも変な気がしたけど言わないのも礼儀知らずな気がして礼を言った。そのあとやや間があったのは、彼がファンの対応に慣れているからかもしれない。(ありがとうございます……あの、いつも応援しています、ファンです、握手してください)
特にリーグ観戦に熱狂してるわけでもなく、自分でバトルをしてるわけでない私の顔をダンデはじっと見つめる。
「君は、彼女と飛びたくて飛んでるんだな」
なぜそう思ったんですかと尋ねる前にそれじゃあ!と彼は飛び去っていってしまった。

私も仕事に行かなければ。たしかに私は私のウォーグルと一緒に飛びたいのであって、彼女じゃないとりポケモン(この地方だと「飛ぶ」仕事についているのは八割以上がアーマーガアだ)といちからパートナー関係を築きたくはないのだ。けれどスピードや技術でお金をもらうには、私の能力は足りなかった。それだけのことだ。

自分の才覚でポケモンと勝ち負けの土俵に立ち続けるのはどんな気持ちなんだろう。私なら彼のようには笑っていられないだろうな、とただ考える。
ダンデがチャレンジャーに負ける前の年の夏のことだった。
2/64ページ
スキ