吸死
いつものように飯を食ってホテルに行って解散の流れだった。名残惜しくて終電ギリギリまで一緒にいるのも普段の流れだ。駅まで彼女をおくってきたら、いつもは時刻表が表示されている電光掲示板に、赤く染まった路線図が映し出されていた。かなり大規模な人身事故のようだった。彼女は電車で新横に来てくれているから、電車が動かないと帰れないのだ。いやタクシーでも大丈夫かもしれないが。
「えぇ……」
彼女は電光掲示板を見上げて少し途方に暮れていたようだったが、俺のほうを向いてパン、と両手を合わせて拝むしぐさをした。
「今夜泊めてくれない? 朝には出るからさ」
そういえば明日も休みだと話していたから、無理に帰らなくてもいいのだろう。たしかにどこかネカフェに泊まるとか言い出されるよりも、多少片付けは必要だが、俺の部屋に泊めたほうが色々安心かもしれない。頼ってくれるのは嬉しいし。
「いいぜ」
「ありがとう!」
そういえばこういうの初めてだね、とはにかむ俺の彼女はかわいい。たしかに今まで何度か遊びに来たことはあるが、泊まるのは初めてだ。あぁ、彼女っていいな。
「歯ブラシとか買いたいから、コンビニ行きたいな」
「ついでに朝メシも買うか」
並んで歩きながら片付けの算段をたてた。そういえば、服どうしようか。女の子はそのままの恰好で寝るなんてわけにいかないだろう。実際今日もひらひらした服着てるし。とまで考えたところで俺は絶望した。そもそも自分の寝間着がないのだ。家ではほぼ全裸だ。洗濯物減るし。宅配便なんかはTシャツにジーパンで対応している。彼女にはそのTシャツでもなんでも貸せばいい。けど自分の家なのに自分の部屋着ないし寝間着がないのは不自然ではないか。男だけでどんちゃん騒いで疲れ切って雑魚寝するのとはわけが違う。俺は背中に冷たい汗をかいた。上はどうとでもなるが寝間着と言って差し支えのない下がねえ。でも今更、いや今更じゃなくてもせっかくのこんな機会を逃すわけにはいかない。大体ここまできて断るのも男らしくないだろう。でも彼氏が裸族って女の子的にはどうなんだ。幻滅するんじゃないか。最悪の場合……。破局の二文字が脳内でダンスを始めたので速攻で叩き潰す。
俺が脳内で葛藤している間に最寄りのコンビニに到着してしまった。彼女がカゴをとる前に俺がカゴを持つ。適当なパンを放り込む。彼女はトマトジュースなんかを手に取っている。
俺はダメもとで入り口近くの、下着とか売ってるコーナーを覗く。やっぱり下着しかない。もう服屋はどこも閉まっている。ドンキなら、と思ったが家と完全に逆方向だ。
「何探してるの?」
「いやスウェットとかねぇかなって……」
「なんで?」
ば、と振り向くと彼女が立っていた。なんでかってそりゃ普段寝るときに服着てないからだけども。彼女がじっと俺を見つめる。俺は天をあおぐ。こうなったときのこいつは納得するまで引かないのだ。
「……寝るときの服がないからだよ」
「パジャマとかスウェット持ってないの?」
「………………あっ…………い、いや、ない」
そういえばボロボロのスウェットがあったような気もするがそれは裸よりみっともないんじゃなかろうか。ふう、と彼女が呆れた顔をするので俺は背中にどっと嫌な汗をかく。一瞬で破局までが脳内にシュミレートされて不覚にも泣きそうになった。
「あの、捨てないでクダサイ」
「スウェットを? 持ってんの?」
「いやそっちじゃなくて」
俺のこと、と付け加える声は我ながら蚊の鳴くようなそれだった。視界がにじみかけておもわずうつむいたから彼女がどんな顔をしているのか分からない。
「いやこのくらいで別れたりはしないけど……」
えっ、と顔をあげて目をぬぐうと、彼女は相変わらず呆れた顔をしていた。俺が持ったままのカゴに野菜ジュースと何かのインスタントスープを入れて、早く行こうと俺の背中を押してくる。それが思ったよりも力強くて、俺は初めて付き合った女だけど一生大事にしようと誓った。
「えぇ……」
彼女は電光掲示板を見上げて少し途方に暮れていたようだったが、俺のほうを向いてパン、と両手を合わせて拝むしぐさをした。
「今夜泊めてくれない? 朝には出るからさ」
そういえば明日も休みだと話していたから、無理に帰らなくてもいいのだろう。たしかにどこかネカフェに泊まるとか言い出されるよりも、多少片付けは必要だが、俺の部屋に泊めたほうが色々安心かもしれない。頼ってくれるのは嬉しいし。
「いいぜ」
「ありがとう!」
そういえばこういうの初めてだね、とはにかむ俺の彼女はかわいい。たしかに今まで何度か遊びに来たことはあるが、泊まるのは初めてだ。あぁ、彼女っていいな。
「歯ブラシとか買いたいから、コンビニ行きたいな」
「ついでに朝メシも買うか」
並んで歩きながら片付けの算段をたてた。そういえば、服どうしようか。女の子はそのままの恰好で寝るなんてわけにいかないだろう。実際今日もひらひらした服着てるし。とまで考えたところで俺は絶望した。そもそも自分の寝間着がないのだ。家ではほぼ全裸だ。洗濯物減るし。宅配便なんかはTシャツにジーパンで対応している。彼女にはそのTシャツでもなんでも貸せばいい。けど自分の家なのに自分の部屋着ないし寝間着がないのは不自然ではないか。男だけでどんちゃん騒いで疲れ切って雑魚寝するのとはわけが違う。俺は背中に冷たい汗をかいた。上はどうとでもなるが寝間着と言って差し支えのない下がねえ。でも今更、いや今更じゃなくてもせっかくのこんな機会を逃すわけにはいかない。大体ここまできて断るのも男らしくないだろう。でも彼氏が裸族って女の子的にはどうなんだ。幻滅するんじゃないか。最悪の場合……。破局の二文字が脳内でダンスを始めたので速攻で叩き潰す。
俺が脳内で葛藤している間に最寄りのコンビニに到着してしまった。彼女がカゴをとる前に俺がカゴを持つ。適当なパンを放り込む。彼女はトマトジュースなんかを手に取っている。
俺はダメもとで入り口近くの、下着とか売ってるコーナーを覗く。やっぱり下着しかない。もう服屋はどこも閉まっている。ドンキなら、と思ったが家と完全に逆方向だ。
「何探してるの?」
「いやスウェットとかねぇかなって……」
「なんで?」
ば、と振り向くと彼女が立っていた。なんでかってそりゃ普段寝るときに服着てないからだけども。彼女がじっと俺を見つめる。俺は天をあおぐ。こうなったときのこいつは納得するまで引かないのだ。
「……寝るときの服がないからだよ」
「パジャマとかスウェット持ってないの?」
「………………あっ…………い、いや、ない」
そういえばボロボロのスウェットがあったような気もするがそれは裸よりみっともないんじゃなかろうか。ふう、と彼女が呆れた顔をするので俺は背中にどっと嫌な汗をかく。一瞬で破局までが脳内にシュミレートされて不覚にも泣きそうになった。
「あの、捨てないでクダサイ」
「スウェットを? 持ってんの?」
「いやそっちじゃなくて」
俺のこと、と付け加える声は我ながら蚊の鳴くようなそれだった。視界がにじみかけておもわずうつむいたから彼女がどんな顔をしているのか分からない。
「いやこのくらいで別れたりはしないけど……」
えっ、と顔をあげて目をぬぐうと、彼女は相変わらず呆れた顔をしていた。俺が持ったままのカゴに野菜ジュースと何かのインスタントスープを入れて、早く行こうと俺の背中を押してくる。それが思ったよりも力強くて、俺は初めて付き合った女だけど一生大事にしようと誓った。
