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額に傷の残るコックは、山のように積まれた芋の皮を剥きながら何か言いたげな顔をしている。隣で同じく芋の皮むきをしているナマエは、そのことに気がついているが手を切ったり作業が遅くならない限りはそいつの勝手だと思って好きにさせていた。芋の山が半分になったところで、彼は深刻そうに口を開いた。
「チビのサンジがさあ、明日誕生日らしいんだよ」
(そんなことかよ!)
あっはっはとナマエは声を上げて笑った。てっきりどこぞの島に好きな女が出来たとか借金をこしらえて首が回らなくなったとか、そういう類の話だと思ったのだ。
「そんなことならさあ、もっと早く言えよ!」
「おれだって聞いたの、一昨日のことだったんだ」
ナマエの大声に負けず、彼も釈明する。一昨日といえば、最近入ったホールの下働きの誕生日だ。歓迎会はとっくに済んだのに、祝い事だからと皆で酒を飲んで、まかないもいつもより豪華だった。毎回豪勢にはいかないが、船乗りはいつでも酒を飲む口実を探しているものだ。海上レストランであるバラティエも例外ではない。大口の客や嵐を乗り切った後、または働き手の誰かしらの祝いごとは都合のいい理由だった。彼の額の傷も、一昨日の宴会でにはしゃぎすぎてできたものである。聞けば、今ナマエの前で気まずそうにしているコックが、その一昨日の席でチビのサンジ――ゼフに連れられて最初から船に乗っていた少年だ――に誕生日を訊いたらしい。そうしたら思いの外すぐそこだったのだ。
なるほどな、とナマエは芋を剥きながら心中で腕を組んだ。なにせ今は航海の真っただ中である。今日明日でどこかに停泊する予定もない。子どもの誕生日といえばケーキくらいは欲しいところだが、どうにか調達できるだろうか。
(スポンジはともかく、問題はデコレーションだよな)
自分もスイーツはそこまで造詣が深いわけではないのだ。それにケーキに立てるロウソクだって用意できるだろうか……。
急に黙り込んだナマエに、隣のコックは怯える。もっと詳しくいうならば、むっつりと黙り込んだのに芋の皮むきのスピードがまったく落ちていないことに怯えているのだが。
今日もゼフや大人げない他のコックたちに散々こき使われたサンジは、営業終了の知らせを聞いて肩の力を抜いた。成長期もまだ来ていないような子どもである。まだまだ一人前の大人に敵うような体力はなかった。そんないつもと同じ忙しい日に、サンジの頭から自分の誕生日なんてものはいの一番に抜け落ちている。今夜のまかないは、ナマエだったはずだ。腕といえば腕っぷしばかりの他のコックに比べ、過去に街の食堂の主戦力だったというナマエの料理は一段とうまい。早く彼に追いつくためにも、サンジはナマエのまかないを食べるのが楽しみだった。店じまいの作業後、手が空いている奴はまかないの手伝いをするのが決まりであったが、今日はそうではなかった。
「チビは座ってな!」
「そうだそうだ」
いつもは尻を蹴飛ばしてくる勢いのコックたちが、突然サンジを優しく囲んで座らせてきた。
「何企んでんだよ!」
いいからいいから、と宥められている間に続々と準備は整っていく。皿の上に乗っている料理が、自分の好きなものばかりなことにサンジは気が付いた。はっきりと口に出した覚えはないはずだ。最後に、ぽっかりと開けられたテーブルの真ん中に運ばれてきたのは、大きなケーキだった。一人一切れは確実に食べられるだろう。薄黄色のクリームが塗られた上には、小さな花火がぱちぱちと燃えていた。
「お誕生日おめでとう、サンジ」
「ケーキなんて作れたのか?」
「大体のものは作れるよ。材料さえあればな」
材料さえあれば、とナマエは言うがサンジにはまだケーキの材料の知識はなかった。でも、船に今ある材料だけで作れるものだとは思えない。魔法のようだ、とサンジは思う。
「おれにも教えてくれよ!」
「まずは食おうぜ。他の奴らが腹ぺこだって顔してるだろ」
ナマエは定位置であるサンジの隣に座った。他のコックたちはもうジョッキに酒を注いでいる。
「じゃ、オーナーから一言」
「あ?」
腕を組んだゼフがナマエを睨む。それが照れ隠しだということを彼は察した。爺さんってのはどうしてこうも素直じゃないのか。そう思うが面倒なことになるのは目に見えている。大人しく口には出さず、ナマエは自分のジョッキを掲げた。
「じゃ、サンジの誕生日を祝って!」
「乾杯!」
そこかしこでジョッキのぶつかる音が響く。まずお前が食えよ、とあっちこっちからサンジの皿に勝手に料理が盛られていくことに、彼は戸惑った。
誕生日に、ひっそりと母親に祝われたことならある。そうでもなければサンジは自分の誕生日のことなんて記憶の奥底に押し込めていただろう。誕生日を祝うべき日付だと認識できたかも怪しいくらいだ。自分が他人の誕生日を祝うなんて経験はこの船がほとんど初めてだったし、母親以外に祝われることだって初めてだった。ケーキを頬張りながら、サンジは少しずつ自分の誕生日が祝われているという事実を飲み込んでいく。隣のナマエを見ると、すでに一通り食べ終わって、酒を飲みながらこちらを見ていた。
「喉に詰まらせるなよ」
よくも悪くも大人げない他のコックたちに比べ、ナマエはこうして度々サンジを子ども扱いしてくる。腹が立つこともあったが、今この時間に限っては悪い気分はしなかった。
「来年はもっと豪華なの作ってやるよ」
「これよりも?」
もちろん、とナマエは胸を叩いた。実際、今回のケーキはありあわせで作ったものだ。本当は生クリームにしたかったし、ナッツだけでなくフルーツも盛りたかった。なによりロウソクもなかったから以前客に出したカクテルに使った残りの花火の流用だ。できるだけのことはしたが、本当はもっと盛大に作ってやりたかった。一方のサンジは、ナマエが当たり前のように来年の約束をしてきたことがやたらに嬉しかった。しかし素直に喜んで見せるのは悔しい気がして、わざと唇を尖らせた。
「その前に作り方教えてくれよ」
サンジの生意気な態度に、ナマエは顔をゆるめた。弟もよくこんな顔をしていたからだ。その弟は、ナマエが家を出る最後まで料理には興味がなさそうだったが。
サニー号の厨房で、仲間の誕生日を祝うケーキを作りながらサンジが思い出すのはバラティエでナマエに作ってもらったケーキのことだった。あの懐かしい古巣を出るまで、毎年作ってもらっていた。その時々でデコレーションやクリームやらの内容は違ったが、ナマエがいつもそのとき出来るだけのことをしてくれたのをサンジは分かっている。今焼いているスポンジだって、彼のレシピが元だ。もしまたバラティエにタイミングよく顔を出すことがあれば、とサンジは考える。ゼフやナマエに、ケーキを作ってやりたいと思った。
「チビのサンジがさあ、明日誕生日らしいんだよ」
(そんなことかよ!)
あっはっはとナマエは声を上げて笑った。てっきりどこぞの島に好きな女が出来たとか借金をこしらえて首が回らなくなったとか、そういう類の話だと思ったのだ。
「そんなことならさあ、もっと早く言えよ!」
「おれだって聞いたの、一昨日のことだったんだ」
ナマエの大声に負けず、彼も釈明する。一昨日といえば、最近入ったホールの下働きの誕生日だ。歓迎会はとっくに済んだのに、祝い事だからと皆で酒を飲んで、まかないもいつもより豪華だった。毎回豪勢にはいかないが、船乗りはいつでも酒を飲む口実を探しているものだ。海上レストランであるバラティエも例外ではない。大口の客や嵐を乗り切った後、または働き手の誰かしらの祝いごとは都合のいい理由だった。彼の額の傷も、一昨日の宴会でにはしゃぎすぎてできたものである。聞けば、今ナマエの前で気まずそうにしているコックが、その一昨日の席でチビのサンジ――ゼフに連れられて最初から船に乗っていた少年だ――に誕生日を訊いたらしい。そうしたら思いの外すぐそこだったのだ。
なるほどな、とナマエは芋を剥きながら心中で腕を組んだ。なにせ今は航海の真っただ中である。今日明日でどこかに停泊する予定もない。子どもの誕生日といえばケーキくらいは欲しいところだが、どうにか調達できるだろうか。
(スポンジはともかく、問題はデコレーションだよな)
自分もスイーツはそこまで造詣が深いわけではないのだ。それにケーキに立てるロウソクだって用意できるだろうか……。
急に黙り込んだナマエに、隣のコックは怯える。もっと詳しくいうならば、むっつりと黙り込んだのに芋の皮むきのスピードがまったく落ちていないことに怯えているのだが。
今日もゼフや大人げない他のコックたちに散々こき使われたサンジは、営業終了の知らせを聞いて肩の力を抜いた。成長期もまだ来ていないような子どもである。まだまだ一人前の大人に敵うような体力はなかった。そんないつもと同じ忙しい日に、サンジの頭から自分の誕生日なんてものはいの一番に抜け落ちている。今夜のまかないは、ナマエだったはずだ。腕といえば腕っぷしばかりの他のコックに比べ、過去に街の食堂の主戦力だったというナマエの料理は一段とうまい。早く彼に追いつくためにも、サンジはナマエのまかないを食べるのが楽しみだった。店じまいの作業後、手が空いている奴はまかないの手伝いをするのが決まりであったが、今日はそうではなかった。
「チビは座ってな!」
「そうだそうだ」
いつもは尻を蹴飛ばしてくる勢いのコックたちが、突然サンジを優しく囲んで座らせてきた。
「何企んでんだよ!」
いいからいいから、と宥められている間に続々と準備は整っていく。皿の上に乗っている料理が、自分の好きなものばかりなことにサンジは気が付いた。はっきりと口に出した覚えはないはずだ。最後に、ぽっかりと開けられたテーブルの真ん中に運ばれてきたのは、大きなケーキだった。一人一切れは確実に食べられるだろう。薄黄色のクリームが塗られた上には、小さな花火がぱちぱちと燃えていた。
「お誕生日おめでとう、サンジ」
「ケーキなんて作れたのか?」
「大体のものは作れるよ。材料さえあればな」
材料さえあれば、とナマエは言うがサンジにはまだケーキの材料の知識はなかった。でも、船に今ある材料だけで作れるものだとは思えない。魔法のようだ、とサンジは思う。
「おれにも教えてくれよ!」
「まずは食おうぜ。他の奴らが腹ぺこだって顔してるだろ」
ナマエは定位置であるサンジの隣に座った。他のコックたちはもうジョッキに酒を注いでいる。
「じゃ、オーナーから一言」
「あ?」
腕を組んだゼフがナマエを睨む。それが照れ隠しだということを彼は察した。爺さんってのはどうしてこうも素直じゃないのか。そう思うが面倒なことになるのは目に見えている。大人しく口には出さず、ナマエは自分のジョッキを掲げた。
「じゃ、サンジの誕生日を祝って!」
「乾杯!」
そこかしこでジョッキのぶつかる音が響く。まずお前が食えよ、とあっちこっちからサンジの皿に勝手に料理が盛られていくことに、彼は戸惑った。
誕生日に、ひっそりと母親に祝われたことならある。そうでもなければサンジは自分の誕生日のことなんて記憶の奥底に押し込めていただろう。誕生日を祝うべき日付だと認識できたかも怪しいくらいだ。自分が他人の誕生日を祝うなんて経験はこの船がほとんど初めてだったし、母親以外に祝われることだって初めてだった。ケーキを頬張りながら、サンジは少しずつ自分の誕生日が祝われているという事実を飲み込んでいく。隣のナマエを見ると、すでに一通り食べ終わって、酒を飲みながらこちらを見ていた。
「喉に詰まらせるなよ」
よくも悪くも大人げない他のコックたちに比べ、ナマエはこうして度々サンジを子ども扱いしてくる。腹が立つこともあったが、今この時間に限っては悪い気分はしなかった。
「来年はもっと豪華なの作ってやるよ」
「これよりも?」
もちろん、とナマエは胸を叩いた。実際、今回のケーキはありあわせで作ったものだ。本当は生クリームにしたかったし、ナッツだけでなくフルーツも盛りたかった。なによりロウソクもなかったから以前客に出したカクテルに使った残りの花火の流用だ。できるだけのことはしたが、本当はもっと盛大に作ってやりたかった。一方のサンジは、ナマエが当たり前のように来年の約束をしてきたことがやたらに嬉しかった。しかし素直に喜んで見せるのは悔しい気がして、わざと唇を尖らせた。
「その前に作り方教えてくれよ」
サンジの生意気な態度に、ナマエは顔をゆるめた。弟もよくこんな顔をしていたからだ。その弟は、ナマエが家を出る最後まで料理には興味がなさそうだったが。
サニー号の厨房で、仲間の誕生日を祝うケーキを作りながらサンジが思い出すのはバラティエでナマエに作ってもらったケーキのことだった。あの懐かしい古巣を出るまで、毎年作ってもらっていた。その時々でデコレーションやクリームやらの内容は違ったが、ナマエがいつもそのとき出来るだけのことをしてくれたのをサンジは分かっている。今焼いているスポンジだって、彼のレシピが元だ。もしまたバラティエにタイミングよく顔を出すことがあれば、とサンジは考える。ゼフやナマエに、ケーキを作ってやりたいと思った。
